(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172528
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】音環境評価装置
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G01H3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084411
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 成
(72)【発明者】
【氏名】中市 健志
(72)【発明者】
【氏名】内田 匠
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB02
2G064AB15
2G064CC04
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】作業環境における騒音の状況を容易に把握可能とする技術の提供。
【解決手段】騒音ばく露計1においては、入力信号に基づいて算出される所定の評価値のレベルに応じてランプの発光態様が変化する。評価値のレベルが「80dB未満」であれば緑色のランプが1個点灯し、「80dB以上85dB未満」であればオレンジ色のランプが2個点灯し、「85dB以上90dB未満」であれば赤色のランプが3個点灯し、「90dB以上」であれば赤色のランプが3個点滅する。したがって、現場管理者または作業者は、騒音に関する知識がなくてもランプを確認することで作業場が該当する管理区分、ひいてはその作業場に適した聴覚保護具の種類を容易に判断できる。また、装着する聴覚保護具が騒音ばく露計1に設定されていれば、その遮音性能を加味して評価値が算出されてランプが発光するため、作業者の聴覚保護が適切になされているかを容易に判断できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音ばく露測定又は騒音測定を行うことが可能な音環境評価装置であって、
音が入力するマイクロホンと、
前記音に対応する信号に基づいて所定の評価値を算出する演算部と、
複数のランプで構成され、前記所定の評価値のレベルに応じた態様で発光するインジケータと
を備えた音環境評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音環境評価装置において、
前記インジケータは、
その発光態様により測定環境が該当する環境管理上の分類を示唆する
ことを特徴とする音環境評価装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の音環境評価装置において、
複数種類の聴覚保護具についての遮音性能に関する情報を予め記憶する記憶部
をさらに備え、
前記演算部は、
測定時に聴覚保護具の種類が設定されると、当該聴覚保護具の遮音性能を踏まえて前記所定の評価値を算出し、
前記インジケータは、
その発光態様により設定された聴覚保護具の装着者に対する聴覚保護の度合いを示唆する
ことを特徴とする音環境評価装置。
【請求項4】
請求項1に記載の音環境評価装置において、
前記インジケータは、
発光する前記ランプの個数に応じた発光色で発光する
ことを特徴とする音環境評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音ばく露測定又は騒音測定を行うことが可能な音環境評価装置、具体的には、騒音ばく露計又は騒音計に関する。
【背景技術】
【0002】
作業現場で大きい音にさらされ続けると、作業者は耳の機能が損なわれて騒音性難聴になる虞がある。そこで、大きい音が発生する作業環境では、管理区分の判定及び作業者個々人の騒音ばく露量の測定がなされる。また、作業者は、その測定値に応じて耳栓やヘッドホン型のイヤーマフ等の聴覚保護具を装着して作業を行う。
【0003】
これに関連して、特許文献1には、騒音レベルに関する通知を行うメガネ型の装置が開示されている。このメガネ型装置は、レンズの一部に騒音レベルに関する情報、例えば「警告 騒音レベル100dB 防音保護具を着用せよ」とのメッセージを表示することで、ユーザへの通知を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の先行技術によれば、ユーザは現在の騒音レベルを容易に知ることができるものの、それが作業環境のレベルとしてどの程度のものであるのか、また、そのレベルに応じてどのような聴覚保護具を選択したらよいのかは、表示された情報に基づきユーザ自身が考えて判断しなければならず、騒音に関する知識が求められる。
【0006】
聴覚保護具には遮音性能の異なる様々な種類があるが、一般的に遮音性能の高いものほど大きく重くなり、また装着時には人の声も聞き取りにくくなるため、作業環境に応じて適切な聴覚保護具が選択される必要がある。
【0007】
しかしながら、現場の作業者の大半は騒音に関する知識に乏しいため、作業環境や作業者のばく露量の測定がなされても、測定値と作業環境の状態との対応関係を認識することは難しい。したがって、作業者が測定結果を踏まえて適切な聴覚保護具を選択したりその他の対策を講じたりすることは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、作業環境における騒音の状況を容易に把握可能とする技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の音環境評価装置を採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
すなわち、本発明の音環境評価装置は、騒音ばく露測定又は騒音測定を行うための音環境評価装置であって、音が入力するマイクロホンと、音に対応する信号に基づいて所定の評価値を算出する演算部と、複数のランプで構成され、所定の評価値のレベルに応じた態様で発光するインジケータとを備えている。
【0011】
作業場の管理者や作業者は、上述したように騒音に関する知識に乏しいため、仮に算出された評価値がそのまま数値として示されると、その値が作業場の状態とどのように対応しているのかを把握することが困難であり、作業者の聴覚保護に向けて適切な対応を行うことができない。
【0012】
これに対し、上述した態様の音環境評価装置によれば、複数のランプで構成されたインジケータが算出された評価値のレベルに応じた態様(発光するランプの個数、色、状態の組み合わせを異ならせた態様)で発光するため、現場管理者又は作業者は、騒音に関する知識がなくても、インジケータの発光態様から作業場における騒音の状況を直感的に把握することができる。
【0013】
より好ましくは、上述した態様の音環境評価装置において、インジケータは、その発光態様により測定環境が該当する環境管理上の分類を示唆する。
【0014】
この態様の音環境評価装置によれば、インジケータの発光態様により測定環境が該当する環境管理上の分類(管理区分)が示唆されるため、現場管理者又は作業者は、示唆された分類に該当する作業場に適した聴覚保護具(その作業場で装着すべき聴覚保護具)を選択することで、作業者の聴覚保護を適切に行うことができる。
【0015】
さらに好ましくは、上述したいずれかの態様の音環境評価装置において、複数種類の聴覚保護具についての遮音性能に関する情報を予め記憶する記憶部をさらに備え、演算部は、測定時に聴覚保護具の種類が設定されると、当該聴覚保護具の遮音性能を踏まえて所定の評価値を算出し、インジケータは、その発光態様により設定された聴覚保護具の装着者に対する聴覚保護の度合いを示唆する。
【0016】
この態様の音環境評価装置によれば、測定に際して作業者が装着する聴覚保護具を設定すると、その遮音性能を踏まえて評価値が算出され、遮音性能が加味された評価値、すなわち聴覚保護具を通して作業者が受けている騒音のレベルに応じた態様でインジケータが発光することで、インジケータの発光態様により設定された聴覚保護具の装着者に対する聴覚保護の度合いが示唆されるため、現場管理者又は作業者は、作業者の聴覚保護が適切になされているかを容易に把握することができる。そして、聴覚保護の度合いが低いことを示す態様でインジケータが発光(例えば、赤色のランプが3個点滅又は点灯)した場合には、現場管理者又は作業者は、これを契機として改善に必要な対応を行うことができ、結果として聴覚保護を確実に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、作業環境における騒音の状況を容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態の騒音ばく露計1の主要な構成を示すブロック図である。
【
図2】騒音ばく露計1の外観及びその装着の一例を示す図である。
【
図3】評価値のレベルとインジケータの表示態様との対応関係の一例を示す図である。
【
図4】記憶部に予め記憶されている聴覚保護具の種類の一例を示す図である。
【
図5】騒音ばく露計1の第1使用形態における手順の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】騒音ばく露計1の第2使用形態における手順の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】騒音ばく露計1の第3使用形態における手順の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0020】
〔騒音ばく露計の構成〕
図1は、一実施形態の騒音ばく露計1の主要な構成を示すブロック図である。
騒音ばく露計1は、例えば、マイクロホン10、プリアンプ20、制御部30、表示部40、記憶部50、操作入力部60等を備えている。
【0021】
マイクロホン10は、入力する音を電気信号に変換して出力する。プリアンプ20は、マイクロホン10の出力信号を必要に応じてインピーダンス変換して出力する。プリアンプ20の出力信号は、制御部30に入力する。なお、MEMSマイクロホン(半導体マイクロホン)には、MEMSチップ内にプリアンプ相当の回路が内蔵されているものや、MEMSチップからデジタル信号が出力されるものもある。このようなMEMSマイクロホンをマイクロホン10に採用する場合には、プリアンプ20を別途設ける必要はない。そこで、以下の説明においては、プリアンプ20から制御部30に入力する信号や、プリアンプ20を経由せずにマイクロホン10から直接制御部30に入力する信号を総括して、「入力信号」と称する。言い換えると、入力信号は、マイクロホン10に入力する音に対応して制御部30に入力する信号である。
【0022】
制御部30は、例えばCPUやDSP(Digital Signal Processor)等の演算素子で構成され、サンプリングされた入力信号に基づいて騒音ばく露に関する所定の評価値を算出し、その結果に応じて表示部40の一部をなすインジケータの表示態様を制御する。表示部40は、例えば複数のランプ(例えば、LED等)で構成され、騒音ばく露計1の作動状況に関する表示を行う。特に、複数のランプのうち一体的に配置された3つのランプは、算出された評価値のレベルのインジケータとして機能する。なお、所定の評価値については、別の図面を参照しながらさらに後述する。また、表示部40を複数のランプの他に文字情報を表示可能な画面等を加えて構成してもよい。
【0023】
記憶部50は、例えばRAMやROM等で構成され、複数種類の聴覚保護具についての遮音性能等に関する情報を予め記憶している。聴覚保護具に関しては、JIS T8161等の規格で遮音性能の測定方法が規定されており、聴覚保護具のメーカーが発行するカタログや取扱説明書等には、規定に則して測定された遮音性能が記載されている。記憶部50は、例えば、聴覚保護具のメーカーにより示された遮音性能、或いは、周波数毎に遮音性能が異なる聴覚保護具の場合には、その遮音性能を模擬するフィルタを予め記憶している。また、記憶部50は、測定に際してユーザにより設定される情報等を記憶する。記憶部50が記憶する情報は、制御部30により必要に応じて用いられる。操作入力部60は、例えば操作ボタンであり、騒音ばく露計1に対する操作(例えば、測定の開始又は終了、電源ON又はOFF等)を受け付けて制御部30に入力する。これを受けて、制御部30は、受け付けた操作に応じた制御を行う。
【0024】
また、図示を省略しているが、騒音ばく露計1は無線又は有線によりPC等の外部機器に接続可能とされている。そのような外部機器にインストールされた専用のソフトウェアを用いることにより、騒音ばく露計1に関する設定や時刻合わせ、聴覚保護具に関する情報の表示、測定データの管理やレポートの作成等を行うことができる。このように、騒音ばく露計1を必要に応じて外部機器から操作可能な構成とすることにより、騒音ばく露計1の本体に搭載する機能を必要最小限に抑えて、騒音ばく露計1を装着する作業者の負担にならないよう本体を小型かつ軽量に設計することができる。
【0025】
図2は、騒音ばく露計1の外観及びその装着の一例を示す図である。
図2中(A)に示されるように、騒音ばく露計1は、本体正面側の上部にマイクロホン10を有しており、本体正面側の中央部から下部にわたる領域に表示部40及び操作入力部60を有しており、本体背面側の両端部にベルトループ70を有している。表示部40は、その右下部に整列して配置された下ランプ41、中ランプ42、上ランプ43の3つのランプを有しており、これらが全体として縦長な逆三角形のインジケータをなしている。なお、インジケータの形状及びこれを構成する3つのランプの形状は、図示の例に限定されない。例えば、インジケータが横長の三角形、或いは、縦長又は横長の矩形をなしていてもよく、3つのランプはそのようなインジケータの形状を3つに分割した形状とすることができる。
【0026】
また、
図2中(B)に示されるように、騒音ばく露計1は、例えば、作業者の肩口に取り付けられる。具体的には、クリップ等の固定具を有するベルトが各ベルトループ70に通された上で、騒音ばく露計1が固定具を用いて作業者の肩口に取り付けられる。なお、肩口に取り付けることで作業に支障が生じうる場合等には、耳に近い別の位置(例えば、頭部付近等)に騒音ばく露計1を取り付けてもよい。
【0027】
〔評価値のレベルと表示態様との対応〕
図3は、評価値のレベルとインジケータの表示態様(インジケータを構成するランプの発光態様)との対応関係の一例を示す図である。
【0028】
騒音ばく露計1においては、騒音ばく露の指標として、騒音ばく露レベル、等価騒音レベル、最大騒音レベル、許容限度に対する割合DOSE(percentage criterion sound exposure;以下、「DOSE」と称する。)の4種類の評価値のうち一部又は全部を用いることが想定されており、制御部30は、所定の演算周期毎に統計演算を行って評価値を算出する。ここで、「騒音ばく露レベル」は、作業開始時点からばく露されてきた騒音の累積値を8時間の平均値としてみた大きさであり、「等価騒音レベル」は、直近の演算周期内にサンプリングされた騒音レベルの平均値であり、「最大騒音レベル」は、直近の演算周期内にサンプリングされた騒音レベルの最大値である。また、「DOSE」は、個人の騒音ばく露量の管理に一般的に用いられる指標であり、以下の数式により算出される。
【0029】
【0030】
上記の数式(1)において、「TC」は基準時間であり、「LA」は周波数重み付け特性Aの等価騒音レベルであり、「LC」は周波数重み付け特性Cの等価騒音レベルであり、「t1」は測定開始時刻であり、「t2」は測定終了時刻である。
なお、測定時間を分割した結果からDOSEを求める場合には、以下の数式により算出可能である。
【0031】
【0032】
上記の数式(2)において、分母の「T1」~「Tn」は、数式(1)における時刻t1~t2の時間をn分割した時間を示しており、分割された各時間の長さは数式(1)における基準時間Tcと同一である(T1=T2=・・・=Tn=TC)。また、数式(3)において、tn-1は分割した測定開始時間、tnは測定終了時間である。
【0033】
そして、算出された評価値のレベルに応じて、インジケータの表示態様が変化する。
評価値のレベルが「80dB未満」である場合には、その作業場は管理区分の対象外であり、インジケータは「下ランプ41のみが緑色で点灯(緑色のランプが1個点灯)する」態様で表示される。ここで、「管理区分」とは、厚生労働省が策定した「騒音障害防止のためのガイドライン」において規定されている、作業環境に関する管理上の分類のことである。
【0034】
評価値のレベルが「80dB以上85dB未満」である場合には、その作業場は第I管理区分に該当し、インジケータは「中ランプ42、下ランプ41がオレンジ色で点灯する(オレンジ色のランプが2個点灯する)」態様で表示される。評価値のレベルが「85dB以上90dB未満」である場合には、その作業場は第II管理区分に該当し、インジケータは「上ランプ43、中ランプ42、下ランプ41が赤色で点灯(赤色のランプが3個点灯)する」態様で表示される。評価値のレベルが「90dB以上」である場合には、その作業場はIII管理区分に該当し、インジケータは「上ランプ43、中ランプ42、下ランプ41が赤色で点滅(赤色のランプが3個点滅)する」態様で表示される。
【0035】
なお、
図3に示された作業場の管理区分とインジケータの表示態様(ランプの発光態様)との対応関係は、ランプの発光が騒音ばく露計1において算出された評価値そのもののレベルに応じてなされる場合に成立する。本実施形態の騒音ばく露計1は、算出された評価値のそのもののレベルに応じてランプを発光させる他に(後述する「第1使用形態」に該当)、作業者が測定時に装着している聴覚保護具の遮音性能を踏まえて算出された評価値、すなわちその聴覚保護具を通して作業者が受けている騒音のレベルに応じてランプを発光させることができる(後述する「第2使用形態」、「第3使用形態」に該当)。
【0036】
〔聴覚保護具の種類〕
図4は、記憶部50に予め記憶されている聴覚保護具の種類の一例を示す図である。
本実施形態においては、3種類の聴覚保護具A~Cに関する聴覚保護具のメーカーにより示された遮音性能等の情報が記憶部50に予め記憶されている。聴覚保護具Aは、遮音性能が10dBであり、第I管理区分の作業環境での装着が推奨される。聴覚保護具Bは、遮音性能が15dBであり、第II管理区分の作業環境での装着が推奨される。聴覚保護具Cは、遮音性能が25dBであり、第III管理区分の作業環境での装着が推奨される。
【0037】
ところで、聴覚保護具には、上記の例のように一律の遮音性能が示されているものと、周波数毎に異なる遮音性能が示されているものとが存在する。そこで、前者の聴覚保護具を装着して測定する場合(第2使用形態)、及び、後者の聴覚保護具を装着して測定する場合(第3使用形態)のそれぞれについて、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
【0038】
〔第1使用形態〕
図5は、騒音ばく露計1の第1使用形態における手順の流れの一例を示すフローチャートである。第1使用形態は、聴覚保護具を装着せずに騒音ばく露測定を行う場面、例えば、作業場が管理区分の対象外であると認識している場合や、作業環境測定(管理区分の判定)が未だなされておらず作業場の騒音レベルがどの程度であるかが不明な状況下で、ひとまず騒音ばく露測定を実施してみる場合等を想定したものである。なお、
図5においては、騒音ばく露計1が実行する手順を破線枠で囲んで表している(
図6、
図7についても同様)。
【0039】
第1使用形態においては、作業者が騒音ばく露計1を装着して(ステップS11)、騒音ばく露計1の測定開始ボタンを押下すると、騒音ばく露測定が開始される。測定においては、制御部30が所定の演算周期毎に、評価値算出処理を実行して評価値を算出し(ステップS14)、ランプ発光処理を実行して評価値のレベルに応じてインジケータのランプを発光させる(ステップS16)。なお、図示を簡略化しているが、騒音ばく露測定は、測定終了ボタンが押下されるまで継続して実行される(
図6、
図7についても同様)。
【0040】
その後、現場管理者又は作業者が定期的に(例えば、1時間毎、又は、午前と午後に1回ずつ等)ランプを確認し(ステップS17)、
図3に示された対応関係を参考にして、ランプの発光態様から作業環境の管理区分を判断する(ステップS18)。
【0041】
具体的には、現場管理者又は作業者は、緑色のランプが1個点灯していれば、その作業場は管理区分の対象外であり、オレンジ色のランプが2個点灯していれば、その作業場は第I管理区分に該当し、赤色のランプが3個点灯していれば、その作業場は第II管理区分に該当し、赤色のランプが3個点滅していれば、その作業場は第III管理区分に該当すると判断することができる。
【0042】
また、
図4に示されるように、各管理区分には推奨される聴覚保護具の種類が対応付けられているため、3つのランプの発光態様は、測定を行っている作業場の管理区分に加え、その作業場での装着が推奨される聴覚保護具の種類も示唆している。したがって、現場管理者又は作業者は、ランプの発光態様から、その作業場でいずれの聴覚保護具を装着すべきかについても判断することができる。具体的には、現場管理者又は作業者は、緑色のランプが1個点灯していれば(=管理区分の対象外)、聴覚保護具は不要であり、オレンジ色のランプが2個点灯していれば(=第I管理区分)、聴覚保護具Aが適しており、赤色のランプが3個点灯していれば(=第II管理区分)、聴覚保護具Bが適しており、赤色のランプが3個点滅していれば(=第III管理区分)、聴覚保護具Cが適している、と判断することができる。
【0043】
このように、騒音ばく露計1を第1使用形態により使用することで、騒音に関する知識がなくても、シンプルな操作で簡便に騒音ばく露測定を実施することができ、作業場における騒音の状況を直感的に把握することができる。具体的には、インジケータを構成する3つのランプの発光態様から、測定を行った作業場がいずれの管理区分に該当するか、ひいてはその作業場でいずれの聴覚保護具を装着すべきかを、直感的に判断することができる。その結果として、作業者の聴覚保護を適切に行うことが可能となる。
【0044】
〔第2使用形態〕
図6は、騒音ばく露計1の第2使用形態における手順の流れの一例を示すフローチャートである。第2使用形態は、例えば、以前に作業環境測定を実施しており作業場がいずれの管理区分に該当するかを認識している状況において、その管理区分に適した聴覚保護具を装着して騒音ばく露測定を行う、というような場面を想定したものであるが、作業場の管理区分に関わらず、ひとまず手持ちの聴覚保護具で適切な聴覚保護を行うことが可能かどうかを確認したい、というような場面にも適用可能である。
【0045】
第2使用形態においては、先ず、これから装着する聴覚保護具を騒音ばく露計1に設定する(ステップS20)。この設定は、騒音ばく露計1の操作ボタンを用いて、或いは、騒音ばく露計1に接続された外部機器で専用のソフトウェアを用いて、行うことができる。そして、例えば、表示されるリストから装着する聴覚保護具を選択する、或いは、装着する聴覚保護具の遮音性能を示す数値を入力する等の操作により、遮音性能が騒音ばく露計1に設定される。
【0046】
具体的には、作業者は、これから作業を行う作業場が第I管理区分に該当すると認識している場合には、聴覚保護具Aを装着し、第II管理区分に該当すると認識している場合には、聴覚保護具Bを装着し、第III管理区分に該当すると認識している場合には、聴覚保護具Cを装着し、管理区分に関わらず手持ちの聴覚保護具を試す場合には、手持ちの聴覚保護具を装着する。なお、管理区分に関して、「該当する場合」ではなく「該当すると認識している場合」としたのは、以前に行った作業環境測定の結果からその管理区分に該当することが確認されていても、その後の作業環境の変化等により、現時点では異なる管理区分に該当している可能性があるからである。
【0047】
その上で、作業者が騒音ばく露計1を装着し(ステップS21)、ステップS20で遮音性能を設定した聴覚保護具を装着して(ステップS22)、騒音ばく露計1の測定開始ボタンを押下すると、騒音ばく露測定が開始される。測定においては、制御部30が所定の演算周期毎に、評価値算出処理を実行して評価値を算出し(ステップS24)、遮音性能減算処理を実行してステップS24で算出された評価値からステップS20で設定された遮音性能を差し引き(ステップS25)、ランプ発光処理を実行してステップS25での減算後のレベル、すなわち遮音性能が加味された評価値のレベルに応じてインジケータのランプを発光させる(ステップS26)。
【0048】
その後、現場管理者又は作業者が定期的にランプを確認し(ステップS27)、ランプの発光態様から作業者の聴覚保護が適切になされているか否かを判断する(ステップS28)。
【0049】
3つのランプの発光態様は、聴覚保護具の遮音性能が加味された評価値のレベル(聴覚保護具を通して作業者が受けている騒音のレベル)、ひいては聴覚保護具を装着している作業者に対する聴覚保護の度合いを示唆している。
【0050】
具体的には、緑色のランプが1個点灯する態様は、聴覚保護具の遮音性能が加味された評価値のレベルが「80dB未満」であることを示している。したがって、現場管理者又は作業者は、緑色のランプが1個点灯していれば、聴覚保護の度合いが高く、作業者の聴覚保護が適切になされていると判断することができる。
【0051】
これに対し、オレンジ色のランプが2個点灯する態様は、聴覚保護具の遮音性能が加味された評価値のレベルが「80dB以上85dB未満」であることを示している。したがって、現場管理者又は作業者は、オレンジ色のランプが2個点灯していれば、聴覚保護の度合いが高くなく、作業者の聴覚保護が適切になされていない可能性があると判断することができ、その後の経過を十分に注視しながら必要に応じて適切な対応につなげていくことができる。
【0052】
また、赤色のランプが3個点灯する態様は、聴覚保護具の遮音性能が加味された評価値のレベルが「85dB以上90dB未満」であることを示しており、赤色のランプが3個点滅する態様は、聴覚保護具の遮音性能が加味された評価値のレベルが「90dB以上」であることを示している。したがって、現場管理者又は作業者は、赤色のランプが3個点灯又は点滅していれば、聴覚保護の度合いが低く、作業者の聴覚保護が適切になされていないと判断することができ、これを契機として聴覚保護を適切に行うための対応を執ることができる。
【0053】
聴覚保護を適切に行うための対応としては、具体的には、遮音性能がより高い聴覚保護具に変更すること、作業環境測定を再度実施して現状に合った管理区分に変更すること、騒音源から発生する音の低減するための対策を講じること、大きな騒音の伝搬の防止するための対策を講じること、のうち少なくとも1つが必要となる。
【0054】
〔第3使用形態〕
図7は、騒音ばく露計1の第3使用形態における手順の流れの一例を示すフローチャートである。第3使用形態での使用が想定される場面は、上述した第2使用形態と同様であるが、第2使用形態においては一律の遮音性能が示された聴覚保護具を装着して測定がなされるのに対し、第3使用形態においては周波数毎に異なる遮音性能が示された聴覚保護具を装着して測定がなされる。第3使用形態は、作業者が行う手順は第2使用形態と同様であるが、騒音ばく露計1が実行する手順(破線枠で囲まれた部分等)は第2使用形態と異なっている。なお、第2使用形態と同様の点については、説明を適宜省略する。
【0055】
第3使用形態での使用の前提として、騒音ばく露計1には、聴覚保護具の種類に応じた遮音性能を模擬する周波数補正フィルタが予め組み込まれている。作業者がこれから装着する聴覚保護具を騒音ばく露計1に設定すると(ステップS30)、設定された聴覚保護具の種類に対応する周波数補正フィルタが内部的に選択される。
【0056】
具体的には、装着する聴覚保護具として聴覚保護具Aが設定されると、聴覚保護具Aの遮音性能を模擬した周波数補正フィルタAが選択され、聴覚保護具Bが設定されると、聴覚保護具Bの遮音性能を模擬した周波数補正フィルタBが選択され、聴覚保護具Cが設定されると、聴覚保護具Cの遮音性能を模擬した周波数補正フィルタCが選択される。
【0057】
そして、作業者が騒音ばく露計1及び聴覚保護具を装着して(ステップS31,32)、騒音ばく露計1の測定開始ボタンを押下すると、騒音ばく露測定が開始される。第3使用形態での測定においては、制御部30が所定の演算周期毎に、周波数補正フィルタ適用処理を実行してステップS30で内部的に選択された周波数補正フィルタに入力信号を通して周波数毎の補正を行い(ステップS33)、評価値算出処理を実行して補正後の入力信号に基づいて評価値を算出し(ステップS34)、ランプ発光処理を実行してステップS34で算出された補正後の入力信号に基づく評価値のレベルに応じてインジケータのランプを発光させる(ステップS36)。
【0058】
なお、現場管理者又は作業者が定期的に行うランプの確認(ステップS37)、及び、作業者の聴覚保護が適切になされているか否かの判断(ステップS38)については、第2使用形態と同様である。
【0059】
以上のように、騒音ばく露計1を第2使用形態又は第3使用形態により使用することで、インジケータを構成する3つのランプの発光態様から、作業者の聴覚保護が適切になされているか否かを直感的に判断することができる。そして、聴覚保護が適切になされていないことが分かれば、現場管理者または作業者はその改善に向けて必要な対応を行うことができるため、結果として聴覚保護を確実に行うことが可能となる。
【0060】
また、周波数毎に異なる遮音性能が示された聴覚保護具を装着して測定を行う際に、仮に、周波数毎の遮音性能の平均を用いる等により一律の遮音性能を評価値に加味すると、評価値が実際の状況と乖離したものとなり、これに応じてなされる3つのランプの発光態様も実際の状況にそぐわないものとなる虞がある。これに対し、騒音ばく露計1を第3使用形態により使用すれば、周波数毎に遮音性能分を補正して評価値を算出することができ、結果として聴覚保護具の遮音性能がより正確に加味された評価値のレベルに応じて実際の状況に即した態様でランプを発光させることができる。
【0061】
以上に説明したように、騒音ばく露計1によれば、以下の効果が得られる。
【0062】
(1)騒音ばく露計1によれば、騒音に関する知識がなくても、シンプルな操作で簡便に騒音ばく露測定を実施することができ、3つのランプの発光態様(発光個数(1~3個)、発光色(緑色、オレンジ色、赤色)、発光状態(点灯、点滅))を確認するだけで、作業場における騒音の状況を直感的に把握することができる。
【0063】
(2)騒音ばく露計1を第1使用形態で使用すれば、騒音に関する知識に乏しい現場管理者や作業者であっても、インジケータを構成するランプの発光態様を確認することにより、作業場の騒音の状況を容易に把握することができ、作業場がいずれの管理区分に該当するか、ひいてはその作業場にいずれの聴覚保護具が適しているかを判断することができる。これにより、作業場に適した聴覚保護具を選択することが可能となる。
【0064】
(3)騒音ばく露計1を第2又は第3使用形態で使用すれば、装着する聴覚保護具の遮音性能を加味して算出された評価値のレベルに応じてインジケータを構成するランプの発光態様が変化するため、ランプを確認することにより、作業者の聴覚保護が適切になされているか(適切な聴覚保護具が装着されているか)を容易に把握することができる。これにより、聴覚保護が適切になされていない場合には、その改善に向けて必要な対応を行うことができることから、結果として聴覚保護を確実に行うことが可能となる。
【0065】
本発明は、上述した実施形態及びその変形例に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0066】
上述した実施形態においては、表示部40の一部をなすインジケータを構成する3つのランプが評価値のレベルに応じた態様で発光するが、評価値のレベルに応じた態様で発光する構成を、騒音ばく露計(IEC61252の規格に適合した音環境評価装置)に代えて騒音計(IEC61672の規格に適合した音環境評価装置)に適用してもよい。
【0067】
上述した実施形態においては、3つのランプを用いて評価値のレベルを表示しているが、表示部が複数のランプの他に画面を有している場合には、ランプを用いた表示とともに画面を用いた文字情報の表示を行ってもよいし、或いは、ランプを用いた表示に代えて画面上で視認し易い図形等を用いた表示を行ってもよい。また、評価値のレベルを表示するランプの個数は、3つに限定されず、状況に応じて適宜変更が可能である。
【0068】
上述した実施形態においては、評価値のレベルに応じて3つのランプの発光態様を異ならせる上で、発光個数(1~3個)、発光色(緑色、オレンジ色、赤色)、発光状態(点灯、点滅)を異ならせているが、発光個数と発光色は1対1で対応しているため、いずれか一方のみを採用した発光態様に変形することも可能である。例えば、インジケータのランプを1個のみで構成し、発光色と発光状態との組み合わせにより発光態様を異ならせてもよいし、或いは、発光色を1色のみとし、発光個数と発光状態の組み合わせにより発光態様を異ならせてもよい。
【0069】
上述した実施形態においては、騒音ばく露の指標として、騒音ばく露レベル、等価騒音レベル、最大騒音レベル、DOSEの4種類の評価値を用いているが、これらの評価値とともに、又は、これらの評価値に代えて、別の評価値を用いることも可能である。
【0070】
その他、騒音ばく露計1に関する説明の過程で挙げた構成や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
1 騒音ばく露計
10 マイクロホン
20 プリアンプ
30 制御部 (演算部)
40 表示部
41 下ランプ (インジケータ)
42 中ランプ (インジケータ)
43 上ランプ (インジケータ)
50 記憶部
60 操作入力部