(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172539
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】アーク溶接方法及びアーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20231129BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/073 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084430
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新留 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】古和 将
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 晶
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082BA02
4E082EA11
4E082EC03
4E082EC13
4E082EF16
4E082FA01
4E082FA04
(57)【要約】
【課題】逆極性期間におけるアーク安定性を確保するとともに不規則な短絡が発生するのを抑える。
【解決手段】第1ステップでは、逆極性期間Tepにおいて、溶接ワイヤW1を第1送給速度WF1で送給する。第2ステップでは、逆極性期間Tepから正極性期間Tenに転流する際に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第1送給速度WF1よりも大きな第2送給速度WF2に変化させる。第3ステップでは、正極性期間Tenにおいて、溶接ワイヤW1を第2送給速度WF2で送給する。第4ステップでは、正極性期間Tenから逆極性期間Tepに転流する時点よりも前に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを第1送給速度WF1に変化させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極である溶接ワイヤを母材へ向けて送給し、前記溶接ワイヤが正極で前記母材が負極となる逆極性期間と、前記溶接ワイヤが負極で前記母材が正極となる正極性期間と、が交互に繰り返されるように、溶接電流を前記溶接ワイヤと前記母材とに流すことで、前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークを発生させて溶接するアーク溶接方法であって、
前記逆極性期間において、前記溶接ワイヤを第1送給速度で送給する第1ステップと、
前記逆極性期間から前記正極性期間に転流する際に、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第1送給速度よりも大きな第2送給速度に変化させる第2ステップと、
前記正極性期間において、前記溶接ワイヤを前記第2送給速度で送給する第3ステップと、
前記正極性期間から前記逆極性期間に転流する時点よりも前に、前記溶接ワイヤの送給速度を前記第1送給速度に変化させる第4ステップと、を備える
アーク溶接方法。
【請求項2】
請求項1のアーク溶接方法において、
前記第4ステップでは、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から前記第1送給速度に急峻に変化させる
アーク溶接方法。
【請求項3】
請求項1のアーク溶接方法において、
前記第4ステップは、
前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から、前記第2送給速度よりも小さく且つ前記第1送給速度よりも大きな第3送給速度に変化させ、前記溶接ワイヤを前記第3送給速度で送給する第5ステップと、
前記第5ステップの後で、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第3送給速度から前記第1送給速度に変化させる第6ステップと、を含む
アーク溶接方法。
【請求項4】
請求項1のアーク溶接方法において、
前記第4ステップでは、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から前記第1送給速度にかけて徐々に小さくなるように変化させる
アーク溶接方法。
【請求項5】
請求項1のアーク溶接方法において、
前記第4ステップは、
前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から、前記第1送給速度よりも小さな第4送給速度に変化させ、前記溶接ワイヤを前記第4送給速度で送給する第7ステップと、
前記第7ステップの後で、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第4送給速度から前記第1送給速度に変化させる第8ステップと、を含む
アーク溶接方法。
【請求項6】
消耗電極である溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接するアーク溶接装置であって、
前記溶接ワイヤが正極で前記母材が負極となる逆極性期間と、前記溶接ワイヤが負極で前記母材が正極となる正極性期間と、が交互に繰り返されるように、前記溶接ワイヤと前記母材との間に溶接電流を流す電力変換部と、
前記溶接ワイヤを前記母材へ向けて送給するワイヤ送給部と、
前記ワイヤ送給部の動作を制御して、前記溶接ワイヤの送給速度を変化させる制御部を備え、
前記制御部は、
前記逆極性期間において、前記溶接ワイヤを第1送給速度で送給させる第1動作と、
前記逆極性期間から前記正極性期間に転流する際に、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第1送給速度よりも大きな第2送給速度に変化させる第2動作と、
前記正極性期間において、前記溶接ワイヤを前記第2送給速度で送給させる第3動作と、
前記正極性期間から前記逆極性期間に転流する時点よりも前に、前記溶接ワイヤの送給速度を前記第1送給速度に変化させる第4動作と、を行う
アーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接方法及びアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アークに印加する電圧を逆極性(電極プラス極性)と正極性(電極マイナス極性)とに交互に切り換えて溶接を行う消耗電極交流アーク溶接の送給制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、正極性期間では、溶接ワイヤの溶融効率が高い一方、逆極性期間では、正極性期間よりも溶接ワイヤの溶融特性が劣る傾向にある。そのため、正極性期間では、溶接ワイヤの送給速度を大きくして溶接ワイヤの溶着量を増やし、逆極性期間では、溶接ワイヤの送給速度を小さくするのが好ましい。
【0005】
特許文献1の発明では、逆極性期間から正極性期間への転流と同時、及び正極性期間から逆極性期間への転流と同時に、溶接ワイヤの送給速度を変更するようにしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明では、正極性期間から逆極性期間への転流直後は、溶接ワイヤの送給速度が大きい状態が維持され、過大に成長した溶滴が高速で送給されるために不規則な短絡が発生し、アークが不安定となってスパッタが増加するおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、逆極性期間におけるアーク安定性を確保するとともに不規則な短絡が発生するのを抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、消耗電極である溶接ワイヤを母材へ向けて送給し、前記溶接ワイヤが正極で前記母材が負極となる逆極性期間と、前記溶接ワイヤが負極で前記母材が正極となる正極性期間と、が交互に繰り返されるように、溶接電流を前記溶接ワイヤと前記母材とに流すことで、前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークを発生させて溶接するアーク溶接方法であって、前記逆極性期間において、前記溶接ワイヤを第1送給速度で送給する第1ステップと、前記逆極性期間から前記正極性期間に転流する際に、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第1送給速度よりも大きな第2送給速度に変化させる第2ステップと、前記正極性期間において、前記溶接ワイヤを前記第2送給速度で送給する第3ステップと、前記正極性期間から前記逆極性期間に転流する時点よりも前に、前記溶接ワイヤの送給速度を前記第1送給速度に変化させる第4ステップと、を備える。
【0009】
第1の発明では、溶接ワイヤの溶融効率が高い正極性期間において、溶接ワイヤの送給速度を大きくすることで、溶接ワイヤの溶着量を増やし、高溶着交流溶接を実現することができる。
【0010】
また、正極性期間よりも溶接ワイヤの溶融特性の劣る逆極性期間に転流する前に、溶接ワイヤの送給速度を小さくすることで、逆極性期間におけるアーク安定性を確保するとともに不規則な短絡が発生するのを抑えることができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明のアーク溶接方法において、前記第4ステップでは、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から前記第1送給速度に急峻に変化させる。
【0012】
第2の発明では、溶接ワイヤの送給速度を急峻に下げることで、逆極性期間において短絡が発生するリスクを減少させ、スパッタの発生を抑えることができる。
【0013】
第3の発明は、第1の発明のアーク溶接方法において、前記第4ステップは、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から、前記第2送給速度よりも小さく且つ前記第1送給速度よりも大きな第3送給速度に変化させ、前記溶接ワイヤを前記第3送給速度で送給する第5ステップと、前記第5ステップの後で、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第3送給速度から前記第1送給速度に変化させる第6ステップと、を含む。
【0014】
第3の発明では、溶接ワイヤの送給速度を、第2送給速度、第3送給速度、第1送給速度の順に段階的に下げることで、第2送給速度から第1送給速度に急峻に下げる場合に比べて、溶接ワイヤの送給量を多くすることができ、溶接ワイヤの溶着量をより増やすことができる。
【0015】
第4の発明は、第1の発明のアーク溶接方法において、前記第4ステップでは、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から前記第1送給速度にかけて徐々に小さくなるように変化させる。
【0016】
第4の発明では、溶接ワイヤの送給速度を徐々に小さくすることで、溶接ワイヤの送給速度を急峻に下げる場合に比べて、アークの安定性が向上する。
【0017】
第5の発明は、第1の発明のアーク溶接方法において、前記第4ステップは、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第2送給速度から、前記第1送給速度よりも小さな第4送給速度に変化させ、前記溶接ワイヤを前記第4送給速度で送給する第7ステップと、前記第7ステップの後で、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第4送給速度から前記第1送給速度に変化させる第8ステップと、を含む。
【0018】
第5の発明では、溶接ワイヤの送給速度を、一度、第1送給速度よりも下げることで、短絡のリスクをより減少させ、スパッタの発生を抑えることができる。
【0019】
第6の発明は、消耗電極である溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接するアーク溶接装置であって、前記溶接ワイヤが正極で前記母材が負極となる逆極性期間と、前記溶接ワイヤが負極で前記母材が正極となる正極性期間と、が交互に繰り返されるように、前記溶接ワイヤと前記母材との間に溶接電流を流す電力変換部と、前記溶接ワイヤを前記母材へ向けて送給するワイヤ送給部と、前記ワイヤ送給部の動作を制御して、前記溶接ワイヤの送給速度を変化させる制御部を備え、前記制御部は、前記逆極性期間において、前記溶接ワイヤを第1送給速度で送給させる第1動作と、前記逆極性期間から前記正極性期間に転流する際に、前記溶接ワイヤの送給速度を、前記第1送給速度よりも大きな第2送給速度に変化させる第2動作と、前記正極性期間において、前記溶接ワイヤを前記第2送給速度で送給させる第3動作と、前記正極性期間から前記逆極性期間に転流する時点よりも前に、前記溶接ワイヤの送給速度を前記第1送給速度に変化させる第4動作と、を行う。
【0020】
第6の発明では、溶接ワイヤの溶融効率が高い正極性期間において、溶接ワイヤの送給速度を大きくすることで、溶接ワイヤの溶着量を増やし、高溶着交流溶接を実現することができる。
【0021】
また、正極性期間よりも溶接ワイヤの溶融特性の劣る逆極性期間に転流する前に、溶接ワイヤの送給速度を小さくすることで、逆極性期間におけるアーク安定性を確保して不規則な短絡が発生するのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、逆極性期間におけるアーク安定性を確保するとともに不規則な短絡が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態1に係るアーク溶接装置の概略構成図である。
【
図2】溶接電流の波形及び溶接ワイヤの送給速度の波形を示す図である。
【
図3】本実施形態2における溶接電流の波形及び溶接ワイヤの送給速度の波形を示す図である。
【
図4】本実施形態3における溶接電流の波形及び溶接ワイヤの送給速度の波形を示す図である。
【
図5】本実施形態4における溶接電流の波形及び溶接ワイヤの送給速度の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
《実施形態1》
図1に示すように、アーク溶接装置1は、消耗電極である溶接ワイヤW1と母材B1との間でアークA1を発生させることで、母材B1を溶接する。
【0026】
アーク溶接装置1は、溶接ユニット10と、ワイヤ送給部21と、溶接トーチ22と、設定部25と、を備える。
【0027】
ワイヤ送給部21は、溶接ワイヤW1を母材B1へ向けて送給する。具体的に、ワイヤ送給部21は、溶接トーチ22に対して溶接ワイヤW1を送給する。溶接トーチ22は、ワイヤ送給部21から送給された溶接ワイヤW1と、母材B1と、が互いに対向するように、溶接ワイヤW1を保持する。
【0028】
溶接トーチ22は、溶接チップ22aを有する。溶接チップ22aは、溶接ユニット10からの電力を溶接ワイヤW1に供給する。ワイヤ送給部21には、溶接ワイヤW1の送給速度WFを検出する送給速度検出部(図示省略)が設けられる。溶接トーチ22は、ロボット(図示省略)により保持される。送給速度検出部により検出された溶接ワイヤW1の送給速度WFを示す検出信号は、制御部14に送信される。ロボットは、母材B1において予め定められた溶接対象領域に沿うように、溶接トーチ22を予め定められた溶接速度で移動させる。
【0029】
設定部25は、溶接電流と溶接電圧とを含む溶接条件を設定するために用いられる。具体的に、設定部25は、溶接を行うための設定溶接電流、溶接を行うための設定溶接電圧、溶接ワイヤW1の送給速度、シールドガスの種類、溶接ワイヤW1の材質、溶接ワイヤW1の径、パルス溶接の期間やパルス出力回数等を設定する。
【0030】
溶接ユニット10は、電力変換部11と、溶接電流検出部12と、溶接電圧検出部13と、制御部14と、を備える。
【0031】
電力変換部11は、電源S1と電気的に接続される。電力変換部11は、電源S1から供給された電力を用いて、溶接に適した溶接電圧Vを生成する。電力変換部11は、溶接トーチ22の溶接チップ22aを経由して、溶接ワイヤW1と電気的に接続される。電力変換部11は、母材B1と電気的に接続される。電力変換部11は、溶接電圧Vを、溶接ワイヤW1と母材B1との間に印加することで、溶接電流Iを溶接ワイヤW1と母材B1とに流す。
【0032】
電力変換部11は、第1整流部101と、第1スイッチング部102と、変圧器103と、第2整流部104と、リアクトル105と、第2スイッチング部106と、を有する。
【0033】
第1整流部101は、電源S1の出力を整流する。第1スイッチング部102は、スイッチング動作により第1整流部101の出力を調節する。変圧器103は、第1スイッチング部102の出力を溶接に適した出力に変換する。
【0034】
第2整流部104は、変圧器103の出力を整流する。リアクトル105は、第2整流部104と直列に接続され、第2整流部104の出力を平滑化する。第2スイッチング部106は、スイッチング動作によりリアクトル105の出力を調節する。第2スイッチング部106の出力は、溶接トーチ22の溶接チップ22aを介して溶接ワイヤW1と母材B1とに供給される。
【0035】
これにより、溶接ワイヤW1と母材B1との間に溶接電圧Vが印加され、溶接ワイヤW1と母材B1とに溶接電流Iが流れる。詳しくは後述するが、電力変換部11は、溶接ワイヤW1が正極で母材B1が負極となる逆極性期間Tepと、溶接ワイヤW1が負極で母材B1が正極となる正極性期間Tenと、が交互に繰り返されるように、溶接ワイヤW1と母材B1との間に溶接電流Iを流す。
【0036】
溶接電流検出部12は、溶接電流Iを検出する。溶接電圧検出部13は、溶接電圧Vを検出する。溶接電流検出部12により検出された溶接電流Iを示す検出信号及び溶接電圧検出部13により検出された溶接電圧Vを示す検出信号は、制御部14に送信される。
【0037】
制御部14は、溶接ユニット10の各部と、溶接ユニット10の外部にある装置との間において、信号の伝送を行う。
図1に示す例では、制御部14と信号の伝送を行う溶接ユニット10の各部は、第1スイッチング部102、第2スイッチング部106、溶接電流検出部12、及び溶接電圧検出部13である。制御部14と信号の伝送を行う、溶接ユニット10の外部にある装置は、ワイヤ送給部21、及び設定部25である。
【0038】
制御部14は、溶接ユニット10の各部、及び溶接ユニット10の外部にある装置から送信された信号に基づいて、溶接ユニット10の各部、及び溶接ユニット10の外部にある装置を制御する。
【0039】
制御部14は、ワイヤ送給部21の動作を制御して、溶接ワイヤW1の送給速度WFを変化させる。具体的に、制御部14は、設定部25で設定される溶接電流Iの設定電流に応じて、ワイヤ送給部21における溶接ワイヤW1の送給速度を制御する。ここで、送給速度WFと溶接電流Iは、互いに相関関係にある。より具体的には、移動平均としての平均溶接速度(送給量とも言う)と移動平均としての平均電流である平均溶接電流(設定電流とも言う)とは、互いに相関関係にある。
【0040】
制御部14は、電力変換部11の第1スイッチング部102及び第2スイッチング部106と、ワイヤ送給部21と、溶接トーチ22を保持するロボット(図示省略)を制御する。
【0041】
制御部14は、例えば、プロセッサと、プロセッサと電気的に接続されたメモリと、により構成される。メモリは、プロセッサを動作させるためのプログラムや情報を記憶する。
【0042】
〈アーク溶接装置の制御方法〉
次に、アーク溶接装置1の動作について説明する。アーク溶接装置1は、図示しないガス供給口からシールドガスを供給して、母材B1の溶接箇所を外気からシールドしつつ、溶接ワイヤW1と母材B1との間に電流を供給する。
【0043】
これにより、溶接ワイヤW1と母材B1との間にアークA1を発生させ、アークA1の熱で溶接ワイヤW1の先端部と母材B1の一部を溶かす。溶けた溶接ワイヤW1は、溶滴となり母材B1上に滴下して、アークA1の熱により溶けた母材B1の一部と共に溶融池を形成する。
【0044】
溶接トーチ22は、母材B1に対して、例えば螺旋ウィービング動作しながら溶接方向に移動する。母材B1には、溶接トーチ22の移動に伴ってビードが形成され、母材B1が溶着される。
【0045】
図2は、溶接電流の波形及び溶接ワイヤの送給速度の波形を示す図である。
図2において、縦軸は溶接電流Iと送給速度WFとを示し、横軸は時間を示す。パルス溶接では、溶接電流Iを、例えば、200Aに設定する。
【0046】
アーク溶接装置1は、消耗電極式の交流のパルスアーク溶接機を構成する。溶接電流Iは、逆極性期間Tepと、正極性期間Tenと、が交互に繰り返されるように制御される。
【0047】
アーク溶接装置1は、設定された溶接電流Iの大きさに基づいて溶接ワイヤW1の送給速度WFを設定する。この送給速度WFに基づき、交流パルス波形を構成する各種のパルスパラメータが設定される。
【0048】
ここで、パルスパラメータは、
図2に示すように、逆極性期間Tepにおけるピーク電流値Ip、ベース電流値Ib、ピーク電流期間Tp、ベース電流期間Tb、正極性期間Ten、及び正極性期間Tenにおける正極性電流値Ien等である。
【0049】
時点t1から時点t3までの期間は、逆極性領域EP(+)の逆極性期間Tepである。逆極性期間Tepでは、溶接ワイヤW1が正極となり、母材B1が負極となるように、溶接電流Iが制御される。
【0050】
逆極性期間Tepにおいて、溶接ワイヤW1を第1送給速度WF1で送給させる第1ステップを行う。具体的に、制御部14は、ワイヤ送給部21の送給速度WFを変更することで、逆極性期間Tepにおいて、溶接ワイヤW1を第1送給速度WF1で送給させる第1動作を行う。
【0051】
時点t1において、溶接電流Iは、ピーク電流値Ipに変化する。時点t1から時点t2までの期間は、ピーク電流期間Tpである。ピーク電流期間Tpでは、溶接電流Iがピーク電流値Ipに維持される。
【0052】
時点t2において、溶接電流Iは、ピーク電流値Ipからベース電流値Ibへ向けて絶対値が急峻に変化する。時点t2から時点t3までの期間は、ベース電流期間Tbである。ベース電流期間Tbでは、溶接電流Iがベース電流値Ibに維持される。
【0053】
時点t3において、逆極性領域EP(+)の逆極性期間Tepから正極性領域EN(-)の正極性期間Tenに転流される。
【0054】
逆極性期間Tepから正極性期間Tenに転流する際に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第1送給速度WF1よりも大きな第2送給速度WF2に変化させる第2ステップを行う。具体的に、制御部14は、ワイヤ送給部21の送給速度WFを変更することで、逆極性期間Tepから正極性期間Tenに転流する際に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第1送給速度WF1よりも大きな第2送給速度WF2に変化させる第2動作を行う。
【0055】
時点t3から時点t5までの期間は、正極性領域EN(-)の正極性期間Tenである。正極性期間Tenでは、溶接ワイヤW1が負極となり、母材B1が正極となるように、溶接電流Iが制御される。正極性期間Tenでは、溶接電流Iが正極性電流値Ienに維持される。
【0056】
正極性期間Tenにおいて、溶接ワイヤW1を第2送給速度WF2で送給させる第3ステップを行う。具体的に、制御部14は、溶接ワイヤW1の送給速度WFを制御して、正極性期間Tenにおいて、溶接ワイヤW1を第2送給速度WF2で送給させる第3動作を行う。
【0057】
ところで、
図2に示す例では、時点t5において、正極性領域EN(-)の正極性期間Tenから逆極性領域EP(+)の逆極性期間Tepに転流される。正極性期間Tenでは、溶接ワイヤW1の送給速度を第2送給速度WF2とし、溶接ワイヤW1の送給量を増やすことで、溶着量を多くするようにしている。
【0058】
しかしながら、例えば、正極性期間Tenから逆極性期間Tepへの転流と同時に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを第2送給速度WF2から第1送給速度WF1に変更すると、正極性期間Tenから逆極性期間Tepへの転流直後は、溶接ワイヤW1の送給速度WFが大きい状態が維持され、過大に成長した溶滴が高速で送給されるために不規則な短絡が発生し、アークが不安定となってスパッタが増加するおそれがある。
【0059】
そこで、本実施形態では、正極性期間Tenから逆極性期間Tepに転流する時点t5よりも所定時間前の時点t4において、溶接ワイヤW1の送給速度WFを変更するようにしている。例えば、正極性期間Tenが1000μsec~2000μsecの場合、時点t4と時点t5との間の所定時間は、100μsec~200μsec程度とすればよい。
【0060】
正極性期間Tenから逆極性期間Tepに転流する時点t5よりも前の時点t4において、溶接ワイヤW1の送給速度を第1送給速度WF1に変化させる第4ステップを行う。具体的に、制御部14は、ワイヤ送給部21の送給速度WFを変更して、時点t4において、溶接ワイヤW1の送給速度を第1送給速度WF1に変化させる第4動作を行う。
【0061】
第4ステップでは、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第2送給速度WF2から第1送給速度WF1に急峻に変化させる。これにより、逆極性期間Tepにおいて短絡が発生するリスクを減少させ、スパッタの発生を抑えることができる。第4ステップの後、時点t4から時点t5までの期間では、溶接ワイヤW1を第1送給速度WF1で送給する。
【0062】
アーク溶接装置1は、第1ステップから第4ステップまでを繰り返すことで、溶接ワイヤW1と母材B1との間にアークA1を発生させ、アークA1の熱で溶接ワイヤW1の先端部に溶滴を形成するとともに母材B1の一部を溶かす。
【0063】
溶接ワイヤW1の先端部に形成された溶滴は、溶滴移行により溶接ワイヤW1の先端から母材B1に移って付着し、母材B1に溶融池を形成する。このように、溶滴の移行は、溶接ワイヤW1と母材B1と短絡せず、ピーク電流とベース電流で連続してアークA1が発生し、溶接ワイヤW1の先端に形成された溶滴は、1つのピーク電流の1回のパルス毎に1つの溶滴が母材B1に溶滴移行する1パルス1ドロップとなるように、溶接ワイヤW1の先端から空中で離脱して、母材B1へ移行する。
【0064】
-本実施形態1の効果-
本実施形態1に係るアーク溶接装置1によれば、溶接ワイヤW1の溶融効率が高い正極性期間Tenにおいて、溶接ワイヤW1の送給速度を大きくすることで、溶接ワイヤW1の溶着量を増やし、高溶着交流溶接を実現することができる。
【0065】
また、正極性期間Tenよりも溶接ワイヤW1の溶融特性の劣る逆極性期間Tepに転流する前に、溶接ワイヤW1の送給速度を小さくすることで、逆極性期間Tepにおけるアーク安定性を確保するとともに不規則な短絡が発生するのを抑えることができる。
【0066】
また、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第2送給速度WF2から第1送給速度WF1に急峻に下げることで、逆極性期間Tepにおいて短絡が発生するリスクを減少させ、スパッタの発生を抑えることができる。
【0067】
《実施形態2》
以下、前記実施形態1と同じ部分については同じ符号を付し、相違点についてのみ説明する。
【0068】
図3に示すように、正極性期間Tenから逆極性期間Tepに転流する時点t5よりも前に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを第1送給速度WF1に変化させる第4ステップを行う。第4ステップは、時点t4よりも前の時点t4’から時点t4までの期間で行われる第5ステップと、時点t4から時点t5までの期間で行われる第6ステップと、を含む。
【0069】
第5ステップでは、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第2送給速度WF2から、第2送給速度WF2よりも小さく且つ第1送給速度WF1よりも大きな第3送給速度WF3に変化させ、溶接ワイヤW1を第3送給速度WF3で送給する。
【0070】
第6ステップでは、第5ステップの後で、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第3送給速度WF3から第1送給速度WF1に変化させ、溶接ワイヤW1を第1送給速度WF1で送給する。
【0071】
このように、正極性期間Tenから逆極性期間Tepに転流する時点t5よりも前に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第2送給速度WF2、第3送給速度WF3、第1送給速度WF1の順に段階的に下げることで、第2送給速度WF2から第1送給速度WF1に急峻に下げる場合に比べて、溶接ワイヤW1の送給量を多くすることができ、溶接ワイヤW1の溶着量をより増やすことができる。
【0072】
《実施形態3》
図4に示すように、正極性期間Tenから逆極性期間Tepに転流する時点t5よりも前に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを第1送給速度WF1に変化させる第4ステップを行う。
【0073】
第4ステップでは、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第2送給速度WF2から第1送給速度WF1にかけて徐々に小さくなるように変化させる。
図4に示す例では、時点t4から時点t5にかけて、溶接ワイヤW1の送給速度WFの波形が、斜め下方に傾斜している。
【0074】
このように、溶接ワイヤW1の送給速度WFを徐々に小さくすることで、溶接ワイヤW1の送給速度WFを急峻に下げる場合に比べて、アークの安定性が向上する。
【0075】
《実施形態4》
図5に示すように、正極性期間Tenから逆極性期間Tepに転流する時点t5よりも前に、溶接ワイヤW1の送給速度WFを第1送給速度WF1に変化させる第4ステップを行う。
【0076】
第4ステップは、時点t4よりも前の時点t4’から時点t4までの期間で行われる第7ステップと、時点t4から時点t5までの期間で行われる第8ステップと、を含む。
【0077】
第7ステップでは、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第2送給速度WF2から、第1送給速度WF1よりも小さな第4送給速度WF4に変化させ、溶接ワイヤW1を第4送給速度WF4で送給する。
【0078】
第8ステップでは、第7ステップの後で、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、第4送給速度WF4から第1送給速度WF1に変化させる。
【0079】
このように、溶接ワイヤW1の送給速度WFを、一度、第1送給速度WF1よりも下げることで、短絡のリスクをより減少させ、スパッタの発生を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明は、逆極性期間におけるアーク安定性を確保するとともに不規則な短絡が発生するのを抑えることができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0081】
1 アーク溶接装置
11 電力変換部
14 制御部
21 ワイヤ送給部
A1 アーク
B1 母材
Tep 逆極性期間
Ten 正極性期間
W1 溶接ワイヤ
WF1 第1送給速度
WF2 第2送給速度
WF3 第3送給速度
WF4 第4送給速度