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  • 特開-回転電機 図1
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  • 特開-回転電機 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172572
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/16 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
H02K5/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084478
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】秋山 貴伸
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605AA12
5H605BB10
5H605CC01
5H605CC02
5H605CC04
5H605CC05
5H605CC10
5H605EA14
5H605EB10
5H605EB16
5H605FF06
(57)【要約】
【課題】軸電圧に起因する軸受けの電食を改善する。
【解決手段】回転電機は、固定子と、前記固定子の内側に回転可能に設けられた回転子と、前記回転子と一体に回転可能な回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する軸受けと、金属部材で構成され、前記固定子及び前記回転子を内部に収容するケースと、電気絶縁性を有する樹脂材で構成され、前記軸受けが取り付けられるとともに前記ケースに設けられるブラケットと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
前記固定子の内側に回転可能に設けられた回転子と、
前記回転子と一体に回転可能な回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する軸受けと、
金属部材で構成され、前記固定子及び前記回転子を内部に収容するケースと、
電気絶縁性を有する樹脂材で構成され、前記軸受けが取り付けられるとともに前記ケースに設けられるブラケットと、
を備える回転電機。
【請求項2】
前記ブラケットは、カーボン繊維強化樹脂を含んで構成されている、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
金属部材で構成され、前記ブラケットと前記軸受けとの間に設けられ前記ブラケットに埋設された補助部材を更に備えている、
請求項1又は2に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の運転により、回転軸上又は回転軸と他の部位との間にいわゆる軸電圧と称する電位差が発生することがある。軸電圧の発生原理としてはいくつか考えられるが、その一例として、インバータ(PWM : Pulse Width Modulation)駆動の回転電機で発生する軸電圧の発生原理について図5を参照して説明する。
【0003】
図5に示す回転電機90は、一般的な回転電機であり、例えばケース91、ブラケット92、軸受け93、固定子94、固定子巻線95、回転子96、及び回転軸97を備えている。商用電源の場合には、各相の電圧の和は常に0であり、固定子巻線95の中性点の電位は大地電位となる。しかし、インバータ駆動の場合、固定子巻線95の中性点の電位は0にはならず、有限の値をとる。この電圧をコモンモード電圧Vcという。軸電圧は、このコモンモード電圧Vcに起因する。
【0004】
すなわち、固定子94と固定子巻線95との間には、静電容量Cが存在する。そのため、固定子巻線95にコモンモード電圧Vcが印加されると、漏れ電流が発生する。この漏れ電流によって、回転子96を取り巻く高周波磁束Φが発生し、これにより、図5の実線矢印で示すように、回転軸97の一方の端部から、一方の軸受け93、一方のブラケット92、ケース91、他方のブラケット92、他方の軸受け93、回転軸97の他方の端部に至る閉ループの経路に軸電圧が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-28931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような軸電圧は、ノイズ源として電波干渉を引き起こしたり、軸受け内部で放電を発生させたりするなど、回転電機に対して様々な影響を及ぼす。そして、軸受け内部での放電が発生すると、稀にではあるが軸受けの電食を引き起こすおそれがある。しかしながら、軸電圧に起因する電食を抑制するための対策に関して未だ改善の余地があった。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸電圧に起因する軸受けの電食に関して改善を図ることができる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の回転電機は、固定子と、前記固定子の内側に回転可能に設けられた回転子と、前記回転子と一体に回転可能な回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する軸受けと、金属部材で構成され、前記固定子及び前記回転子を内部に収容するケースと、電気絶縁性を有する樹脂材で構成され、前記軸受けが取り付けられるとともに前記ケースに設けられるブラケットと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態による回転電機の構成の一例を概略的に示す断面図
図2】一実施形態による回転電機について図1のX2部分を拡大して示す図
図3】一実施形態による回転電機について図2のX3側から見た補助部材を示す図
図4】一実施形態による回転電機に用いる部材の物性を示す表
図5】従来構成の回転電機において軸電圧の発生原理を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態の回転電機について図面を参照しながら説明する。本実施形態の回転電機は、例えばインバータ駆動の誘導電動機に適用することができるが、適用対象はこれに限られない。図1に示す回転電機10は、固定子11、回転子12、回転軸13、軸受け14、ケース15、及びブラケット16を備えている。なお、以下の説明において、回転軸13の中心Oに対して平行な方向を軸方向と称する。また、中心Oに対して直交する方向を径方向と称する。
【0011】
本実施形態の場合、固定子11、回転子12、及び回転軸13の一部は、ケース15内に収容されている。固定子11は、ケース15の内側に固定されている。固定子11は、例えば固定子鉄心111と、固定子巻線112と、を有する構成とすることができる。固定子鉄心111は、例えば円筒状に構成され、円板形状の電磁鋼板を複数枚積層して形成されている。固定子巻線112は、固定子鉄心111に巻かれている。
【0012】
回転子12は、固定子11の内側において固定子11に対して隙間を介して設けられており、回転可能に構成されている。すなわち、本実施形態において、回転電機10は、例えばインナーロータ型の回転電機として構成することができる。回転子12は、かご型導体を有する構成や、回転子鉄心と巻線とを有する構成、若しくは、回転子鉄心と永久磁石とを有する構成とすることができる。
【0013】
回転軸13は、回転子12の中心を貫いて設けられており、回転子12と一体的に回転可能に構成されている。回転軸13の両端部側部分は、それぞれ軸受け14を介してブラケット16に回転可能に支持されている。軸受け14は、回転軸13の両端側部分に設けられており、回転軸13を回転可能に支持する。軸受け14は、例えば導電性を有する金属製のボールベアリング等で構成することができる。
【0014】
ケース15は、回転電機10の外殻を構成しており、全体として筒状に構成されている。ケース15は、少なくとも回転軸13の軸方向の一方の端部側に開口部151を有している。開口部151は、ケース15の内部と外部とを連通しており、固定子11及び回転子12を出し入れ可能な程度の大きさである。本実施形態の場合、ケース15は、回転軸13の軸方向の両方の端部側に開口部151を有している。ケース15は、導電性を有する金属材料、例えば鉄等の鋳物で構成されている。ケース15は、例えば鍛造性に優れたねずみ鋳鉄の一種であるFC200で構成することができる。
【0015】
ブラケット16は、軸受け14が取り付けられるとともに、ケース15に設けられて開口部151を閉塞している。この場合、ブラケット16が開口部151を閉塞するとは、ブラケット16が開口部151の大部分を覆う程度であれば良く、開口部151を水密又は気密に塞ぐことまでは要しない。
【0016】
本実施形態のブラケット16は、電気絶縁性を有する樹脂材で構成されている。ブラケット16は、例えば炭素繊維とエポキシ樹脂との複合材である炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)を含んで構成することができる。本実施形態の場合、ブラケット16の全部又は大部分つまり少なくとも半分以上が、炭素繊維強化プラスチックで構成されている。CFRPは、図4に示すように、FC200に比べて、比重が1/4以下と軽量であり、また、引張強度は3倍以上となっている。
【0017】
ブラケット16は、軸受け14とケース15とを物理的に接続している。つまり、軸受け部14は、ブラケット16を介してケース15に固定されている。一方で、ブラケット16は、電気絶縁性を有しているため、軸受け14とケース15とを電気的には接続していない。すなわち、軸受け14とケース15との間は、ブラケット16によって電気的に絶縁されている。このため、本実施形態の回転電機10においては、回転軸13から、一方の軸受け14、一方のブラケット16、ケース15、他方のブラケット16、及び他方の軸受け14を通って回転軸13に至る電気的な閉ループの経路が形成されない。
【0018】
また、回転電機10は、補助部材17を更に備えている。補助部材17は、ブラケット16と軸受け14との間に設けられている。この場合、軸受け14の外周面の大部分は、補助部材17に直接的に接触している。補助部材17は、例えばアルミやステンレス、鉄、又は鋼材等の金属部材で構成されている。補助部材17は、ブラケット16の構造強度を保つとともに、ブラケット16と軸受け14との間に位置することで軸受け14の回転及びブラケット16から抜け落ちることを抑制する機能を有する。
【0019】
補助部材17は、例えば図2及び図3に示すように、例えば浅い円筒形状に形成されており、ブラケット16に埋設されている。この場合、補助部材17は、例えば円筒形状の外側に突出した複数の突出部171を有して構成することができる。この突出部171は、補助部材17をブラケット16に埋設する際にブラケット16に食い込むことで、軸受け14の回転を規制するととともに、軸受け14がブラケット16から抜け落ちることを規制することができる。
【0020】
以上説明した実施形態によれば、回転電機10は、固定子11と、回転子12と、軸受け14と、ケース15と、ブラケット16と、を備える。回転子12は、固定子11の内側に回転可能に設けられている。軸受け14は、回転子12と一体に回転可能な回転軸13と、回転軸13を回転可能に支持する。ケース15は、金属部材で構成され、固定子11及び回転子12を内部に収容する。そして、ブラケット16は、電気絶縁性を有する樹脂材で構成され、軸受け14が取り付けられるとともにケース15に設けられる。
【0021】
これによれば、電気絶縁性を有する樹脂材料によってブラケット16を構成することにより、軸受け14とケース15との間を電気的に絶縁することができる。そして、軸受け14とケース15との間を電気的に絶縁することにより、回転軸13から、軸受け14、ブラケット16、及びケース15を介した閉ループの電気的な経路が形成されることを防ぐことができる。そして、これにより、軸電圧の発生を抑制することができ、ひいては軸電圧に起因する軸受け14の電食を抑制することができる。
【0022】
ここで、PWMインバータを用いて誘導電動機を駆動した際、高調波電圧や巻線の中性点電位変動の影響で商用電源時と比較して軸電圧が増加する傾向にあるが、従来では、例えば数kw~数十kw程度、具体的には55kw以下の小型の電動機では特に問題となることはないと考えられていた。しかしながら、近年ではインバータのスイッチング素子の改良によりスイッチングの立ち上がり速度が急峻になったことから、スイッチングにより電動機巻線の中性点電位が上下に変動するコモンモード電圧の影響が大きくなり、上述した小型のものでも稀に軸受電食に至ることがある事例が生じている。本実施形態は、従来は軸電圧の影響が小さかった例えば55kw以下の小型の回転電機により好適である。
【0023】
ブラケット16は、カーボン繊維強化樹脂を含んで構成されている。CFRPは、図4に示すように、FC200に比べて、比重が1/4以下と軽量であり、また、引張強度は3倍以上となっている。このため、ブラケット16をCFRPで構成することにより、ブラケット16の強度を維持しつつ、ケース15と同様の材料であるFC200で構成した場合と比べてブラケット16を大幅に軽量化することができる。その結果、回転電機10全体を軽量化することができる。
【0024】
また、回転電機10は、金属部材で構成された補助部材17を更に備えている。補助部材17は、ブラケット16と軸受け14との間に設けられており、ブラケット16に埋設されている。これよれば、金属製の補助部材17によって、樹脂製のブラケット16の構造強度を保つことができる。また、補助部材17が、ブラケット16と軸受け14との間に位置することで、補助部材17とブラケット16、及び補助部材17と軸受け14との接触抵抗を増大させ、これにより軸受け14の回転及びブラケット16から抜け落ちることを抑制することができる。
【0025】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0026】
10…回転電機、11…固定子、12…回転子、13…回転軸、14…軸受け、15…ケース、16…ブラケット、17…補助部材、21…固定子
図1
図2
図3
図4
図5