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▶ グンゼ株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172593
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】医療用ねじ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/86 20060101AFI20231129BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61B17/86
A61F2/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084513
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】塚原 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】有村 英俊
【テーマコード(参考)】
4C097
4C160
【Fターム(参考)】
4C097AA01
4C097BB01
4C097EE01
4C097EE20
4C160LL42
4C160LL70
(57)【要約】
【課題】組織、体液等によって識別が困難な状況であっても容易にねじの駆動部を認識することができ、確実に固定することができる医療用ねじを提供する。
【解決手段】体内で組織を固定するための固定具を留めるために用いられる医療用ねじであって、L-ラクチド-グリコリド共重合体からなり、駆動部のみが着色されている医療用ねじ。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内で組織を固定するための固定具を留めるために用いられる医療用ねじであって、L-ラクチド-グリコリド共重合体からなり、駆動部のみが着色されていることを特徴とする医療用ねじ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織、体液等によって識別が困難な状況であっても容易にねじの駆動部を認識することができ、確実に固定することができる医療用ねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、骨折が治癒するまで骨を固定する骨接合材料としてステンレス、セラミック等より成るワイヤー、プレート、ねじ、ピン、ビス、ステープル、クリップ、ロッド等が用いられている。しかし、金属やセラミックからなる骨接合材料は、人体に吸収されないことから治癒後には摘出の為の再手術をする必要があった。また、これらの骨接合材料は、SUS-316のステンレス製のもので323N/mm程度、セラミック製のもので245~490N/mm程度と、実用上充分な曲げ強度を有する一方で、人骨に比べて剛性が高すぎることから、適用部の骨が削られたり、持続刺激によって局部の骨の融解、新生骨の強度低下、再生骨の成長遅延等を生じたりする恐れがあるという問題点があった。
【0003】
これに対して、ポリ-L-乳酸等の生体吸収性材料からなる骨接合材料が開発されている。例えば、特許文献1には、特定の粘度平均分子量、圧縮曲げ強度、結晶化度を有するポリ乳酸成形物からなる生体内分解吸収性外科用成形物(骨接合材料)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2860663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、このような骨折治療等の医療の分野で用いられるねじは、一般的な分野で用いられるねじと異なり体内で固定作業が行われるため、周辺組織や血液、体液等によって、ねじが認識しづらくなり、駆動部(ねじ穴)にドライバーを差し込んで回す操作が行いづらくなることがあった。特に、上記のような生体吸収性材料からなるねじは、透明又は半透明であることが多く、体液や組織と同化しやすいことから、通常のねじ以上にねじ本体及び駆動部を認識しづらかった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、組織、体液等によって識別が困難な状況であっても容易にねじの駆動部を認識することができ、確実に固定することができる医療用ねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、体内で組織を固定するための固定具を留めるために用いられる医療用ねじであって、L-ラクチド-グリコリド共重合体からなり、駆動部のみが着色されている医療用ねじである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の医療用ねじは、体内で組織を固定するための固定具を留めるために用いられる医療用ねじである。
本発明は、患部を固定するためのプレート等をねじ留めすることで、患部の治癒を促進させるものである。固定対象の組織としては例えば、自家骨、他家骨、人工骨等が挙げられる。
【0009】
本発明の医療用ねじは、L-ラクチド-グリコリド共重合体からなる。
本発明の医療用ねじが生体吸収性材料であるL-ラクチド-グリコリド共重合体からなることで、移植直後は充分にプレート等を患部に固定することができるとともに、治癒後は体内へ吸収されて消滅することから安全性が高く、取り出しのための再手術の必要もない。また、生体吸収性材料の中でも特にL-ラクチド-グリコリド共重合体を用いることで、強度と体内への吸収速度とのバランスを高めることができる。
【0010】
上記L-ラクチド-グリコリド共重合体の重量平均分子量は14万以上32万以下であることが好ましい。
重量平均分子量を上記下限以上とすることで、強度をより高めることができる。また、重量平均分子量を上記上限以下とすることで、骨の再生後は早期に体内へ吸収されるため、体内での異物反応をより抑えることができる。上記L-ラクチド-グリコリド共重合体の重量平均分子量は18万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、30万以下であることが好ましく、28万以下であることが更に好ましい。なお、ここで重量平均分子量とは、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。具体的には、カラム温度40℃において溶出液としてクロロホルム、細孔多分散型有機溶媒系カラムを用いて、ポリスチレン標準により決定することができる。
【0011】
上記L-ラクチド-グリコリド共重合体は、L-ラクチドに由来する構成単位とグリコリドに由来する構成単位とのモル比(ラクチド-グリコリド比(ラクチド:グリコリド))が70:30以上95:5以下であることが好ましい。上記L-ラクチド-グリコリド共重合体のラクチド-グリコリド比が上記範囲であることで、患部が治癒するまでの間上記固定具を確実に固定することができるとともに、治癒後は速やかに体内に吸収される分解速度とすることができる。上記ラクチド-グリコリド比は、75:25以上であることがより好ましく90:10以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明の医療用ねじは、駆動部のみが着色されている。
ここで駆動部とは、ドライバーを差し込む部位であり、ねじ穴と同一の部位のことを指す。ねじの駆動部のみを着色することで、手術中に体液や組織によってねじが認識しづらい状況となった場合であってもドライバーを差し込む駆動部を容易に認識することができる。その結果、短時間で確実にプレート等を患部に固定することができる。特に本発明は、ねじが半透明であるL-ラクチド-グリコリド共重合体からなるため、体液や組織によって同化しやすいことから本発明の効果が大きく発揮される。また、ねじの駆動部のみを着色することで、ねじ全体を着色したり、駆動部以外のねじの頭部を着色したりする方法と比べて駆動部を強調できるため、より短時間で容易かつ確実にねじを固定することができる。なお、ここで、着色とは、ねじの表面に染料又は顔料を塗布することだけでなく、ねじの材料である上記L-ラクチド-グリコリド共重合体の製造時に染料又は顔料を混ぜ込むことも含まれる。
【0013】
上記駆動部を着色する染料又は顔料は、生体適合性の染料又は顔料の色であり、識別が容易であれば特に限定されず、例えば、グリーン、バイオレット、ベージュ等が挙げられる。具体的な生体適合性の染料又は顔料としては例えばキニザリン系(緑色)等が挙げられる。
【0014】
本発明の医療用ねじの形状、具体的には駆動部、頭部、ねじ部、先端部等の形状は、特に現地されず、必要に応じて従来の医療用ねじの形状を用いることができる。
【0015】
本発明の医療用ねじの製造方法は特に限定されず、例えば、従来の方法でL-ラクチド-グリコリド共重合体からなるねじを製造し、得られたねじの駆動部(ねじ穴)に溶剤に溶かした染料又は顔料を流し込んで乾燥させることによって製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、組織、体液等によって識別が困難な状況であっても容易にねじの駆動部を認識することができ、確実に固定することができる医療用ねじを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)
溶融したL-ラクチド-グリコリド共重合体(重量平均分子量:28万、ラクチド-グリコリド比82:18)を射出成形することでL-ラクチド-グリコリド共重合体からなるプラスねじを作製した。ついで、得られたプラスねじの駆動部にジクロロメタンに溶かしたキニザリン系染料(緑色202号)を流し込み、乾燥させることで駆動部のみが着色された医療用ねじを得た。
得られた医療用ねじをスクリューホルダーに入れドライバー先端で把持する際、駆動部を容易に認識することができ、ドライバーを挿入することができた。また、把持したスクリューでブタ皮質骨上に置いたプレートを固定したが、固定後も駆動部を容易に認識することができ、スクリューが確実に挿入できたことを確認できた。
【0019】
(比較例1)
駆動部を着色しない以外は実施例1と同様にして医療用ねじを得た。
実施例1と同様にスクリューホルダーに入れたが、駆動部が識別しづらく把持に時間がかかった。また、把持したスクリューで実施例1と同様にプレートを固定したが、固定後に駆動部を容易に識別することができず、スクリューが確実に挿入できたか確認することが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、組織、体液等によって識別が困難な状況であっても容易にねじの駆動部を認識することができ、確実に固定することができる医療用ねじを提供することができる。