(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172633
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】台車搬入出用補助装置および防水板装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084582
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 夏来
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 雅伸
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 聡
(72)【発明者】
【氏名】松原 正芳
(72)【発明者】
【氏名】山形 裕之
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA08
2E139AB00
2E139AC08
(57)【要約】
【課題】防水板を設置した状態で台車の搬入出を可能にする台車搬入出用補助装置および防水板装置を提供する。
【解決手段】構造物の出入口に堰状に立設して構造物内部への浸水を防止する防水板14の頂部の上において、前記防水板14を跨いで板厚方向Xに架設され、台車Sを載置する載置台16を備えるようにする。前記載置台16を支持するために、防水板14の板厚方向Xの両外側に設けられた脚部22をさらに備えてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の出入口に堰状に立設して構造物内部への浸水を防止する防水板の頂部の上において、前記防水板を跨いで板厚方向に架設され、台車を載置する載置台を備えることを特徴とする台車搬入出用補助装置。
【請求項2】
前記載置台を支持するために、防水板の板厚方向の両外側に設けられた脚部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の台車搬入出用補助装置。
【請求項3】
前記脚部は、長さを変更可能に構成されることを特徴とする請求項2に記載の台車搬入出用補助装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載の台車搬入出用補助装置と、前記防水板を備えることを特徴とする防水板装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車の搬入出を補助するための台車搬入出用補助装置および防水板装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大雨や高潮等によって増水や氾濫が発生すると、建物の出入口の床面を水位が超えてしまう場合があり、その際には建物内部が浸水するなどして甚大な被害を及ぼすおそれがある。そこで、このような事態に備えて建物の出入口に浸水防止用の防水板を設置することがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この防水板は、基本的には浸水が想定される際に使用し、一度設置すると浸水の危険性が収まるまでは外さない。また、防水板の使用中、建物へ人が出入りすることは想定されていない。ただし、水害の渦中に、避難者の受入れや病院の救急外来等、建物への人の出入りを必要とする場面は過去に例がある。例えば、令和2年7月豪雨時には、熊本県の病院で避難者の受入れや救急患者の受入れのために防水板を外し、それにより建物内への浸水が発生したことが報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
一方、自立歩行や車椅子での移動が困難な者を運ぶための器具として、台車上に担架を配置したストレッチャーが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-084696号公報
【特許文献2】特開2016-202390号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「令和2年7月豪雨における人吉市医療機関の状況」、木村正美、病院設備 VoL.62 NO.4 352号、日本医療福祉設備協会、2020年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、浸水に備えて建物の出入口に防水板を設置すると、建物への出入りが難しくなる。防水板の高さが1m程度であれば、成人は防水板を跨いで建物へ出入りすることができる。しかし、足腰に不安のある高齢者や子供は、自力で防水板を跨ぐことが困難である。このため、これらの者を建物へ出入りさせる際は、他の者が担いだり、上述したように防水板を一時的に取り外したりする必要がある。
【0008】
ストレッチャー等の台車についても、そのままの形では防水板が設置された出入口を通ることができないため、スムーズな搬送のためには担架での手渡しの搬送が必要となる。特に、病院などの建物においては、出入口からのストレッチャーの搬入が困難になると、救急診療の遅れに繋がる一方、ストレッチャーの搬入を優先して防水板の設置が遅れると院内浸水のリスクが上昇するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、防水板を設置した状態で台車の搬入出を可能にする台車搬入出用補助装置および防水板装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る台車搬入出用補助装置は、構造物の出入口に堰状に立設して構造物内部への浸水を防止する防水板の頂部の上において、前記防水板を跨いで板厚方向に架設され、台車を載置する載置台を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の台車搬入出用補助装置は、上述した発明において、前記載置台を支持するために、防水板の板厚方向の両外側に設けられた脚部をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の台車搬入出用補助装置は、上述した発明において、前記脚部は、長さを変更可能に構成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る防水板装置は、上述した台車搬入出用補助装置と、前記防水板を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る台車搬入出用補助装置によれば、構造物の出入口に堰状に立設して構造物内部への浸水を防止する防水板の頂部の上において、前記防水板を跨いで板厚方向に架設され、台車を載置する載置台を備えるので、防水板の上の載置台を介して台車を搬入出することができる。したがって、防水板を設置した状態で台車の搬入出を可能にすることができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の台車搬入出用補助装置によれば、前記載置台を支持するために、防水板の板厚方向の両外側に設けられた脚部をさらに備えるので、防水板の両外側の床面などで載置台を支持することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の台車搬入出用補助装置によれば、前記脚部は、長さを変更可能に構成されるので、、防水板の前後の床面に段差がある場合などの使用場面に応じて脚部の長さを変更することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る防水板装置によれば、上述した台車搬入出用補助装置と、前記防水板を備えるので、防水板を設置した状態で台車の搬入出を可能にする防水板装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係る台車搬入出用補助装置および防水板装置の実施の形態を示す概略側断面図である。
【
図2】
図2は、段差を有する場合の使用状態の説明図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態の使用方法の説明図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態の実施例1を示す図であり、(1)は側断面図、(2)は上面図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態の実施例2を示す図であり、(1)は側断面図、(2)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る台車搬入出用補助装置および防水板装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る台車搬入出用補助装置10は、医療福祉施設などの建物(構造物)の床面12に設けた防水板14の頂部の上を跨いでX方向に架設された載置台16を備える。防水板14は、建物内部への浸水を防止するものであり、建物の出入口の床面14の上に堰状に立設している。X方向は、防水板14の板厚方向(前後方向)であり、ストレッチャーS(台車)の搬入出方向である。防水板14の高さは1m程度以下、板厚は数cm程度を想定しているが、本発明はこれに限るものではない。
【0021】
載置台16は、搬入出するストレッチャーSを一時的に載置するためのものであり、X方向に長い長方形状の面材からなる。面材は、X方向の中央側に位置する水平面からなる水平部18と、水平部18のX方向の両端から緩やかに下方へ折れ曲がってX方向外側に行くに従い下方に傾斜した傾斜面からなる傾斜部20とを有する。載置台16は、X方向および幅方向(図の奥行方向)に離れて配置された4本の脚部22によって、防水板14の前後外側の床面12に支持される。
【0022】
脚部22の長さは一定でもよいし、
図2に示すように、使用場面に応じて長さを変更可能に構成してもよい。例えば伸縮シリンダ等を用いて脚部22の長さを変更可能な構成としてもよい。このようにすれば、坂道などの傾斜や階段などの段差のある床面12においても、載置台16の水平部18を水平に保持することができる。これにより、傾斜や段差のある場所でのストレッチャーSの搬入出が可能となる。また、脚部22の本数は、4本に限るものではなく、載置台16を安定して支持可能であれば何本でもよい。載置台16を安定して支持可能であれば、脚部22を省略して、載置台16を防水板14のみで支持するようにしてもよい。
【0023】
なお、
図1の例では、左側の脚部22が水平部18の左端部に、右側の脚部22が傾斜部20の下面に接続した場合を図示しているが、本発明はこれに限るものではなく、載置台16を安定して支持可能であればいかなる位置に設けてもよい。また、図の例では、防水板14が水平部18のX方向の右端部側に位置する場合を図示しているが、本発明はこれに限るものではない。防水板14は、水平部18のX方向の左端部側や中央側に位置してもよい。また、載置台16の形状はこれに限るものではなく、例えばX方向中央が高い山型とすることもできる。ただし、載置台16は、ストレッチャーSの進入出を容易にするべく、少なくともX方向の両端側においては下方へ傾斜していることが好ましい。
【0024】
ストレッチャーSは、人が横臥可能な担架部24と、担架部24を着脱自在に支持する矩形状の枠状部26と、枠状部26の前後に回動自在に設けられた脚部28と、脚部28の先端に設けられた車輪30とを備えており、脚部28を枠状部26に対して折り畳み可能に構成される。ストレッチャーSの枠状部26の高さは、載置台16の高さよりも高いものが好ましい。ストレッチャーSは、例えば、救急車両に搭載可能な周知のもので構成することできる。
【0025】
上記の構成の動作および作用について説明する。
図3(1)に示すように、例えば建物外から運び入れたストレッチャーSを搬入者M1が人力で押して防水板14の前方の床面12まで走行する。なお、ストレッチャーSの上には、搬送対象の患者(不図示)が横臥しているものとする。続いて、ストレッチャーSを載置台16の傾斜部20に人力で押し込むと、傾斜部20の傾斜面に案内される態様でストレッチャーSの前方の脚部28が後方に回動して折り畳まれ、ストレッチャーSの前側が水平部18上に載置される。
【0026】
図3(2)に示すように、さらに押し込むと、傾斜部20の傾斜面に案内される態様で後方の脚部28が後方に回動して折り畳まれる。これにより、ストレッチャーSは前後の脚部28が折り畳まれた状態で載置台16の水平部18上に載置される。
【0027】
図3(3)に示すように、担架部24をストレッチャーSの枠状部26から取り外す。その後、防水板14の後方にいる搬入者M2が担架部24を把持して人力で建物内に運び入れる。
【0028】
このようにすることで、防水板14を設置した状態で載置台16を介してストレッチャーSを建物内にスムーズに搬入することができる。ストレッチャーSをスムーズに搬送することで、救急隊員および患者への負荷が低減され、スムーズな治療に繋げることができる。また、建物内から建物外に搬出する場合も、上記と同様の手順で搬出することができる。さらに、ストレッチャーSの出入りを優先して防水板14の設置を直前まで躊躇うことによる浸水リスクを低減することができる。防水板14上で担架24の受け渡しを行えるようにすることで、受け渡し時の転落等の事故リスクを低減することができる。
【0029】
特に、水害リスクがある病院の場合には、防水板14を活用しつつ救急搬送をスムーズに行うことが可能となり、患者の救護をより迅速に行うことができ、救命に繋がる可能性がある。防水板14を設置した後も救急受入れを普段の体制で行えることになれば、タイミングを厳しく管理せずに防水板14の設置を行うことができ、結果的に病院を水害から守ることに繋がる。院内への搬送だけではなく、病院周辺が湛水している中で患者を院外に避難させる必要が発生した際にも、防水板14を設置したままストレッチャーSを用いて患者を搬出することが可能となる。防水板14の設置時の利用の他、既に災害が発生した医療施設から患者を搬送する際、建物被害を理由に正規の出入口が使用できない際の窓からの担架搬送等にも活用できる可能性がある。
【0030】
次に、上記の実施の形態の実施例について説明する。
(実施例1)
図4に示すように、本実施の形態の実施例1は、載置台16を可搬式作業台形式としたものである。載置台16のX方向の長さLおよび幅Wは、周知の電動ストレッチャーを載せることのできる大きさであり、耐荷重は400kg程度とする。長さLは、2300~2500mm程度、幅Wは、50~800mm程度に設定することができる。床面12から載置台16の上までの高さHは、500mm~190mm程度に設定することができる。
【0031】
(実施例2)
図5に示すように、本実施の形態の実施例2は、上記の実施例1において、載置台16をストレッチャーSの枠状部26(不図示)の長辺を構成する部材のみ支持する形式としたものである。したがって、載置台16は、X方向に平行に配置された2枚の細長い帯状部16Aを有する。このようにすれば、収納性に優れた形状とすることができる。耐荷重は400kg程度とする。長さLは、2300~2500mm程度、帯状部16Aの幅W1は、150~200mm程度に設定することができる。床面12から載置台16の上までの高さHは、500mm~190mm程度に設定することができる。
【0032】
なお、上記の実施の形態において、台車搬入出用補助装置10は、既設の防水板14の上に後付けで設けてもよいし、防水板14自体が上部に台車搬入出用補助装置10を備えていてもよい。いずれにしても、防水板14と台車搬入出用補助装置10を含む構成が、本発明の実施の形態に係る防水板装置に相当する。
【0033】
また、上記の実施の形態においては、搬出入する台車がストレッチャーである場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、ストレッチャー以外の台車を搬入出するようにしてもよい。このようにしても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
以上説明したように、本発明に係る台車搬入出用補助装置によれば、構造物の出入口に堰状に立設して構造物内部への浸水を防止する防水板の頂部の上において、前記防水板を跨いで板厚方向に架設され、台車を載置する載置台を備えるので、防水板の上の載置台を介して台車を搬入出することができる。したがって、防水板を設置した状態で台車の搬入出を可能にすることができる。
【0035】
また、本発明に係る他の台車搬入出用補助装置によれば、前記載置台を支持するために、防水板の板厚方向の両外側に設けられた脚部をさらに備えるので、防水板の両外側の床面などで載置台を支持することができる。
【0036】
また、本発明に係る他の台車搬入出用補助装置によれば、前記脚部は、長さを変更可能に構成されるので、防水板の前後の床面に段差がある場合などの使用場面に応じて脚部の長さを変更することができる。
【0037】
また、本発明に係る防水板装置によれば、上述した台車搬入出用補助装置と、前記防水板を備えるので、防水板を設置した状態で台車の搬入出を可能にする防水板装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明に係る台車搬入出用補助装置および防水板装置は、浸水害を防ぐための防水板が出入口に設置される医療福祉施設などの建物に有用であり、特に、防水板を設置した状態でストレッチャーなどの台車を建物内外に搬入出するのに適している。
【符号の説明】
【0039】
10 台車搬入出用補助装置
12 床面
14 防水板
16 載置台
18 水平部
20 傾斜部
22 脚部
24 担架部
26 枠状部
28 脚部
30 車輪
S ストレッチャー(台車)