(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172646
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】微粒子製造装置及び微粒子製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/08 20060101AFI20231129BHJP
C23C 16/507 20060101ALI20231129BHJP
H05H 1/42 20060101ALI20231129BHJP
H05H 1/30 20060101ALI20231129BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B01J19/08 K
C23C16/507
H05H1/42
H05H1/30
H05H1/46 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084599
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】丸山 大貴
(72)【発明者】
【氏名】小岩崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】永井 久雄
【テーマコード(参考)】
2G084
4G075
4K030
【Fターム(参考)】
2G084CC02
2G084CC03
2G084CC13
2G084CC23
2G084CC33
2G084DD03
2G084DD13
2G084FF07
2G084GG02
4G075AA27
4G075BB02
4G075BB03
4G075CA03
4G075CA48
4G075DA02
4G075EA05
4G075EB01
4G075EB41
4G075EC21
4G075ED04
4G075FB02
4K030EA04
4K030FA04
4K030KA30
(57)【要約】
【課題】微粒子の冷却効率を向上させ、微粒子回収率を増加させることができる微粒子製造装置を提供する。
【解決手段】微粒子製造装置は、真空チャンバーと、材料を真空チャンバー内に供給する、材料供給装置と、熱プラズマを発生させ、熱プラズマによって材料を溶融・蒸発させることが可能である熱プラズマ源と、熱プラズマの下流域に配置され、回転可能な冷却ロールと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバーと、
材料を前記真空チャンバー内に供給する、材料供給装置と、
熱プラズマを発生させ、前記熱プラズマによって前記材料を溶融・蒸発させることが可能である熱プラズマ源と、
前記熱プラズマの下流域に配置され、回転可能な冷却ロールと、
を備えた、微粒子製造装置。
【請求項2】
前記冷却ロールは、前記熱プラズマの中心軸を挟んでそれぞれ一つずつ第1及び第2の冷却ロールが配置され、
前記第1及び第2の冷却ロールの前記熱プラズマの中心軸を挟んで対向する表面が前記熱プラズマのガス流と同じ方向に回転している、請求項1に記載の微粒子製造装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の冷却ロールの下流域に、前記熱プラズマの中心軸上にさらに第3の冷却ロールが配置され、
前記第3の冷却ロールは、前記第1及び第2の冷却ロールの回転軸と平行な回転軸を有する、請求項2に記載の微粒子製造装置。
【請求項4】
前記熱プラズマ源は、前記第1及び第2の冷却ロールの中央に向かってガスを吹き付ける、請求項2に記載の微粒子製造装置。
【請求項5】
前記熱プラズマ源は、高周波コイル6と、高周波電力を供給する機構と、を持つ、誘導結合型熱プラズマを発生させる装置を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の微粒子製造装置。
【請求項6】
前記熱プラズマ源は、前記真空チャンバーの中間部に配置して、位相が互いに異なる交流電力を複数の電極にそれぞれ印加して前記真空チャンバー内にプラズマを発生させる装置を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の微粒子製造装置。
【請求項7】
前記冷却ロールは、回転軸が前記熱プラズマの中心軸と交差している、請求項1から4のいずれか一項に記載の微粒子製造装置。
【請求項8】
熱プラズマを生成するステップと、
材料を前記熱プラズマに供給するステップと、
前記材料を前記熱プラズマにより溶融・蒸発させ、前記材料の高温のガスを回転する冷却ロールの表面で冷却して、凝縮・凝固させて微粒子化し、得られた微粒子を回収するステップと、
を含む、微粒子製造方法。
【請求項9】
前記冷却ロールは、前記熱プラズマの下流域に配置されている、請求項8に記載の微粒子製造方法。
【請求項10】
前記冷却ロールは、回転軸が前記熱プラズマの中心軸と交差している、請求項8に記載の微粒子製造方法。
【請求項11】
前記冷却ロールは、前記熱プラズマの中心軸を挟んでそれぞれ一つずつ第1及び第2の冷却ロールが配置されている、請求項8に記載の微粒子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、リチウムイオン電池の活物質材料、食品包装のフィルム材などへのコーティング材、又は電子機器配線や抗菌・抗ウイルス材などに利用される、微粒子製造装置及び微粒子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルオーダーの微粒子は、様々なデバイスに応用が検討されている。例えばニッケルの金属微粒子は、現在、セラミックコンデンサに使用されており、次世代のセラミックコンデンサには、粒径100ナノメートル以下で分散性の良い微粒子の使用が検討されている。
【0003】
さらに、二酸化シリコンよりも酸素含有率の低い一酸化シリコン(SiOX:x=1~1.6)は、亜酸化ケイ素とも呼ばれ、この微粒子は、光学レンズの反射防止膜又は食品包装用のガスバリアフィルムの蒸着材料として活用されている。最近では、リチウムイオン二次電池の負極活物質材料などへの応用が期待されている。また、酸化銅(CuO)よりも酸素含有率の低い亜酸化銅(Cu2O)は、短波長の光を吸収する透過型太陽電池の材料や抗菌・抗ウイルス材料、還元触媒などの機能性材料として活用が期待される。
【0004】
これらナノメートルオーダーの微粒子の一般的な製造方法としては、原料となるバルク材をセラミック又はジルコニア等のビーズと一緒に導入し、機械的粉砕によって材料を微粒子化する方法、又は、材料を溶融及び蒸発させて空気又は水に噴射して微粒子を得る方法、又は、電解若しくは還元など化学的に微粒子を得る方法などがある。中でも、高周波放電、直流、又は交流アーク放電などの熱プラズマ(約10,000℃)を利用し、気相中で原料を蒸発させ、急冷することで微粒子を作製する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の従来例1は、不純物(コンタミネーション)が少なく、生産された微粒子の分散性が優れる、及び、複数の種類の材料からなる複合微粒子の合成が容易である、などの観点から非常に有用である。
【0005】
図4に、従来例1の熱プラズマを利用した、微粒子製造装置の断面構造を示す概略断面図を示す。微粒子製造装置30内のプラズマトーチ32は、石英管32aと、真空チャンバー36と、その周りを取り巻くプラズマ発生用の高周波コイル32bと、材料供給装置34と、合成した微粒子35を回収する微粒子回収部40と、チャンバー36内にガスを供給するガス供給管32cと、ガス供給装置48とを備えた構成を有する。
【0006】
ガス供給装置48からアルゴンガスをプラズマトーチ32内に導入し圧力を調整した後、高周波コイル32bに高周波をかけることで熱プラズマ放電44を生成する。生成した熱プラズマ放電44に材料供給装置34内の材料粒子を材料供給管34fからキャリアガスと一緒に導入する。導入した材料粒子は、熱プラズマ放電44によって蒸発及び気化し、その後、チャンバー36内の流れに乗り下流部へと流れ、急冷及び凝固して微粒子35を合成する。合成された微粒子35は、さらにチャンバー36内のガス流れに乗って、微粒子回収部40に導入され、微粒子回収部40内のフィルタによって回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱プラズマによって材料を蒸発させるプロセスでは、蒸発された材料が高温部から下流へと流れていき、温度が低い領域に到達した時点で材料が冷やされ凝縮・凝固することで微粒子を合成する。この際、材料が冷やされて凝縮・凝固する速度により、合成した微粒子の粒径が決定する。従来例1では、
図4中のQに示すように、材料を高速に冷却するために天板17から冷却ガスを導入している。しかし、ガス冷却を用いた方法では、冷却制御がガスの流れ場に支配され、制御性が悪いことが課題として挙げられる。これは、プラズマガスとして用いているガス種、流量によって冷却条件が変わってしまい、微粒子の冷却ムラを引き起こす要因となる。これにより、合成した微粒子の粒径制御が難しくなり、例えばウイルス剤であれば抗ウイルス特性、着色性など、目的の商品特性を達成できなくなってしまう。
【0009】
本開示は、上述された従来の課題を考慮し、粒径を高精度に制御することで製造される材料の粒径バラツキを安定させることができる、微粒子製造装置及び微粒子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本開示の1の態様に係る微粒子製造装置は、真空チャンバーと、材料を真空チャンバー内に供給する、材料供給装置と、熱プラズマを発生させ、熱プラズマによって材料を溶融・蒸発させることが可能である熱プラズマ源と、熱プラズマの下流域に配置され、回転可能な冷却ロールと、を備える。
【0011】
前記目的を達成するために、本開示の別の態様にかかる微粒子製造方法は、熱プラズマを生成するステップと、材料を熱プラズマに供給するステップと、材料を熱プラズマにより溶融・蒸発させ、材料の高温のガスを回転する冷却ロールの表面で冷却して、凝縮・凝固させて微粒子化し、得られた微粒子を回収するステップと、を含む粒子製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の前記態様によって、冷却ロールをプラズマ炉内に配置することで、生成した微粒子の高精度な粒径制御を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る微粒子製造装置の断面構造を示す概略断面図である。
【
図2】実施の形態2に係る微粒子製造装置の断面構造を示す概略断面図である。
【
図3】実施の形態3に係る微粒子製造装置の断面構造を示す概略断面図である。
【
図4】従来例1の微粒子製造装置の断面構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の態様に係る微粒子製造装置は、真空チャンバーと、材料を真空チャンバー内に供給する、材料供給装置と、熱プラズマを発生させ、熱プラズマによって材料を溶融・蒸発させることが可能である熱プラズマ源と、熱プラズマの下流域に配置され、回転可能な冷却ロールと、を備える。
【0015】
第2の態様に係る微粒子製造装置は、上記第1の態様において、冷却ロールは、熱プラズマの中心軸を挟んでそれぞれ一つずつ第1及び第2の冷却ロールが配置され、第1及び第2の冷却ロールの熱プラズマの中心軸を挟んで対向する表面が熱プラズマのガス流と同じ方向に回転していてもよい。
【0016】
第3の態様に係る微粒子製造装置は、上記第2の態様において、第1及び第2の冷却ロールの下流域に、熱プラズマの中心軸上にさらに第3の冷却ロールが配置され、第3の冷却ロールは、第1及び第2の冷却ロールの回転軸と平行な回転軸を有してもよい。
【0017】
第4の態様に係る微粒子製造装置は、上記第2の態様において、熱プラズマ源は、第1及び第2の冷却ロールの中央に向かってガスを吹き付けてもよい。
【0018】
第5の態様に係る微粒子製造装置は、上記第1から第4のいずれかの態様において、熱プラズマ源は、高周波コイル6と、高周波電力を供給する機構と、を持つ、誘導結合型熱プラズマを発生させる装置を有してもよい。
【0019】
第6の態様に係る微粒子製造装置は、上記第1から第4のいずれかの態様において、熱プラズマ源は、真空チャンバーの中間部に配置して、位相が互いに異なる交流電力を複数の電極にそれぞれ印加して真空チャンバー内にプラズマを発生させる装置を有してもよい。
【0020】
第7の態様に係る微粒子製造装置は、上記第1から第4のいずれかの態様において、冷却ロールは、回転軸が熱プラズマの中心軸と交差していてもよい。
【0021】
第8の態様に係る微粒子製造方法は、熱プラズマを生成するステップと、材料を熱プラズマに供給するステップと、材料を熱プラズマにより溶融・蒸発させ、材料の高温のガスを回転する冷却ロールの表面で冷却して、凝縮・凝固させて微粒子化し、得られた微粒子を回収するステップと、を含む。
【0022】
第9の態様に係る微粒子製造方法は、上記第8の態様において、冷却ロールは、熱プラズマの下流域に配置されていてもよい。
【0023】
第10の態様に係る微粒子製造方法は、上記第8の態様において、冷却ロールは、回転軸が熱プラズマの中心軸と交差していてもよい。
【0024】
第11の態様に係る微粒子製造方法は、上記第8の態様において、冷却ロールは、熱プラズマの中心軸を挟んでそれぞれ一つずつ第1及び第2の冷却ロールが配置されていてもよい。
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、実施の形態に係る微粒子製造装置について詳細に説明する。なお、図面において実質的に同一の部材は、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0026】
(実施の形態1)
<微粒子製造装置>
図1は、実施の形態1に係る微粒子製造装置の断面構造を示す概略断面図である。
図1では、便宜上、鉛直上方をZ方向とし、水平面内の紙面右方向をX方向、紙面手前から奥をY方向としている。
この微粒子製造装置1は、少なくとも、熱プラズマを発生させる熱プラズマ源であるプラズマトーチ2と、真空チャンバー5と、材料を真空チャンバー5内に供給する材料供給装置8と、熱プラズマの下流域に配置され、回転可能な冷却ロール16と、を備える。この微粒子製造装置では、熱プラズマ10を発生させ、材料を熱プラズマに供給し、熱プラズマにより溶融・蒸発させ、材料の高温のガスを回転する冷却ロールの表面で冷却して、凝縮・凝固させて微粒子化している。
【0027】
以下、微粒子製造装置1の構成について詳細に説明する。
【0028】
<真空チャンバー>
真空チャンバー5は、圧力調整バルブ13と、排気ポンプ14と、を備えてもよい。排気ポンプ14によって、真空チャンバー5内を真空状態にすることができる。また、圧力調整バルブ13によって、圧力を調整できる。排気ポンプ14と真空チャンバー5との間には、排気ガス中に含まれる粉末物質などを取り除くために微粒子回収装置12が設けられている。微粒子回収装置12内には、フィルタが設けられていてもよい。
真空チャンバー5は、石英管3と接続されている。また、真空チャンバー5内の熱プラズマの下流域に冷却ロール16を配置している。
【0029】
<材料供給装置・材料供給管>
材料供給のために材料供給装置8・材料供給管9を設置している。
図1では、熱プラズマ10の上流側から材料を供給しているが、これに限られない。例えば、材料を熱プラズマの下流側に供給してもよい。
【0030】
<ガス供給源>
ガス供給源15は、プラズマガスやキャリアガス源、真空チャンバー5内の各所へのガス導入源として設置している。ガス供給源15は、基本的にアルゴンガスを用いているが、これに限られず、例えば、酸素ガスや水素ガスなどの他種のガスを用いる場合もある。このため、
図1に示すように、ガス供給源15を複数設置している。
【0031】
<プラズマトーチ(熱プラズマ源)>
プラズマトーチ2は、石英管3、天板4、高周波コイル6で構成されている。石英管3、天板4は、それぞれ壁面が二重構造になっており、冷却水を流すことができるようになっている。高周波コイル6は、熱プラズマ10を生成するためのエネルギー源として、例えば、1MHz~13.56MHzの高周波電源(図示無し)と接続されている。真空チャンバー5内には、冷却ロール16、微粒子回収ブラシ17、微粒子回収バット18が配置されている。石英管3、天板4と同様に、真空チャンバー5もそれぞれ壁面が二重構造になっており、冷却水を流すことができるようになっている。
【0032】
<冷却ロール>
冷却ロール16は、真空チャンバー5内の熱プラズマ10の下流側に、例えば、
図1に示すように配置する。冷却水や冷却溶媒を冷却ロール16の内部に流すことにより、冷却ロール16の表面温度を低くすることができる。これにより、温度の低い冷却ロールの表面に高温の材料の蒸気・ガスが衝突し、急速に材料の蒸気・ガスが冷却される現象が起きる(以後、これを「衝突冷却」と呼ぶ。)。これにより、制御可能な冷却速度の幅が広がるとともに、冷却ロール16の表面の温度制御を行うことができ、ムラの少ない冷却が可能となる。これによって、粒径バラツキの小さい微粒子を生成することができる。
冷却ロール16の材質には、例えば、ステンレスを用いることで、約1万℃の熱プラズマが発生している密閉された真空チャンバー5内の雰囲気でも、耐熱性を担保して微粒子回収を行うことができる。今回は耐熱性を重視してロール材質にステンレスを採用したが、条件設定によっては熱伝導性を重視して、例えば、銅などの冷却ロールを用いてもよい。
【0033】
冷却ロール16は、例えば、内部に冷却水又は冷却溶媒を冷却ロール16の内部に流して表面を冷却してもよい。冷却水の温度は、例えば、20℃であってもよい。さらに、冷却水の温度をより低く、例えば、-20℃としてもよい。冷却ロール16の表面は、約1万℃の熱プラズマに曝されるので、冷却することによって、冷却ロール16の表面が溶融しないようにできる。これによって、融点の比較的低い金属も冷却ロール16として用いることができる。
【0034】
冷却ロール16の回転速度は、例えば、1~50m/sである。回転速度は、速く設定しすぎると微粒子が分散してしまい、冷却効率が悪くなるので、回転速度の最大値を50m/sとした。一方、遅く設定しすぎてしまうと回収率が悪くなってしまうのでロール周速の最小値を1m/sとした。
【0035】
冷却ロール16は、熱プラズマとの位置と、熱プラズマとロールとの間のギャップとを自由に設定できるような構造となっている。天板4を原点として下流側の座標を設定することができ、同時に熱プラズマと冷却ロールとの間のギャップの値を設定することができる。これにより、熱プラズマ10から冷却ロール16までの距離を変化させることで高温蒸気・ガスの冷却速度を自由に設定することができ、最終的な微粒子の目標粒径値によって条件設定を変更することができる。さらに、ロール間ギャップを調整することができるので、ロール間ギャップを小さくすることで高効率な冷却を行うことができ、微粒子の粒径制御も行うことができる。
【0036】
また、冷却ロール16は、回転軸が熱プラズマ10の中心軸と交差している。具体的には、冷却ロール16の回転軸は、熱プラズマ10の中心軸と直交しており、Y軸方向と平行である。なお、回転軸は、Y軸方向と平行な場合に限られず、X軸方向と平行であってもよい。また、回転軸は、熱プラズマ10の中心軸と交差していればよく、Y軸方向、X軸方向、又は、Z軸方向に対して角度を有する、傾斜した回転軸であってもよい。
【0037】
<微粒子回収ブラシ>
微粒子回収ブラシ17は、冷却ロール16により生成した微粒子を回収するために、冷却ロール16の真空チャンバー5内の下流側に配置している。微粒子回収ブラシ17は、下流側の冷却ロール16に接触するように配置されており、冷却ロール16の表面に生成した微粒子を微粒子回収ブラシ17により接触させて回収する。回収された微粒子は、即座に微粒子回収バット18に回収され、冷却ロール16の表面は、ロール面がきれいに露出した状態で再び熱プラズマ10側に回転して、再度同様に上流からの高温蒸気・ガスを急冷し、微粒子の生成を行う。生成した微粒子が下流部で回収されていない場合、再度熱プラズマ10側に微粒子が付着した状態で戻ることになり、熱プラズマ10の再加熱により生成した微粒子が再凝集してしまう。微粒子回収ブラシ17は、冷却ロール16と同様に高温状態の真空チャンバー5内で使用するため耐熱性を重視して今回は金属ブラシを採用したが、これに限るものではない。
【0038】
<ガス導入C>
真空チャンバー5は、ガス導入Cを行えるように、真空チャンバー5内の上方に、真空チャンバー5の壁から鉛直下方向(-Z方向)に対して30°~45°の傾きを付けた配管が彫り込まれている(図示無し)。ガス導入Cを実施することにより、回収しきれなかった微粒子を冷却ロール16の表面から効率よく剥ぎ落とすことができる。これにより、前記したように冷却ロール16に微粒子が付着した状態で熱プラズマ側に搬送されることを防ぐことができる。その結果、微粒子回収率を高くすることが可能となっている。
【0039】
<ガス導入B>
天板4は、ガス導入Bを行えるように、例えば、真空チャンバー5内の中心方向に向かって鉛直下方向(-Z方向)に対して30°~45°の傾きを付けた配管が彫り込まれている(図示無し)。ガス導入Bは、冷却ロール16の表面で急速冷却が行われる材料の割合を高くするために、2つの冷却ロールの中央に向かって熱源側からガスを吹き付けるものである。これにより、冷却ロール16の外(真空チャンバー5側面)側にガス分散していく材料が少なくなり、微粒子回収率を高くすることができる。
【0040】
今回は、熱プラズマ源発生装置としてICP(Inductive Coupled Plasma)と呼ばれる誘導型結合型プラズマを採用したが、熱プラズマ源発生装置は、ICPに限られない。例えば、多相交流アークと呼ばれる複数の電極に位相の異なる電圧を印加して熱プラズマを発生させる装置や、溶接などに用いられている直流アーク発生装置などを用いてもよい。また、今回はガス流れが鉛直下向き(-Z方向)の装置を採用したが、ガス流れが鉛直上向き(Z方向)の装置を用いてもよい。
【0041】
なお、前記様々な実施の形態又は変形例のうちの任意の実施の形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施の形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施の形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施の形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【0042】
<微粒子製造方法>
実施の形態1に係る微粒子製造方法は、上記態様に係る微粒子製造装置を使用してもよい。この微粒子製造方法は、例えば、以下の3つのステップで構成されている。
(1)熱プラズマ10を生成するステップ。
(2)材料を熱プラズマ10に供給するステップ。
(3)微粒子を生成するステップ。
【0043】
以下、この微粒子製造方法について、実際に行う手順に沿って詳しく説明する。
【0044】
(1)まず、熱プラズマ10を生成する過程について記載する。
(1-1)初めに、真空チャンバー5内を排気ポンプ14によって排気し、圧力調整バルブ13によって真空チャンバー5内を真空度100Pa以下の真空度とする。
(1-2)次に、プラズマガス供給口7を介し、プラズマガスとしてアルゴンガスを導入する。プラズマガスにはアルゴンガスを用いるが、雰囲気制御の用途によっては酸素や水素などの他種のガスを混合させた混合ガスを用いることもある。
(1-3)真空状態となったのちに、圧力調整バルブ13を用いて真空チャンバー5内の圧力値を任意に設定する。
(1-4)次に、微粒子製造装置1に冷却水を流す。今回はチラーを用いて約20℃の冷却水を微粒子製造装置に流したが、場合によっては冷却溶媒を用いて冷却水温度を-20°などに設定してもよい。
(1-5)最後に、水冷機構を有した石英管3に設置した高周波コイル6に13.56MHzの高周波を印加することで、石英管3内に熱プラズマ10を生成する。
【0045】
(1-6)また、原料供給を開始する前に、冷却ロール16の配置を行う。まず、駆動可能な冷却ロール16を所定の位置に動かす。目標の微粒子に適する冷却速度や供給速度を算出し、条件に合う冷却ロール16の天板4からの距離とロール間ギャップ・ロール回転数を設定する。これにより、目的の商品の粒径・生産速度に合わせた製造プロセスを実現することが可能となっている。今回はロール間ギャップを1~50mm、ロール周速を1~50m/sとして実施した。ロール間ギャップは、小さく設定しすぎると微粒子がつまってしまうので、最小値を1mmとした。大きく設定しすぎると放電径よりも大きくなり冷却ロールでの冷却率が低くなってしまうので、ロール間ギャップの最大値を50mmとした。冷却ロール16の回転速度は、速く設定しすぎると微粒子が分散してしまい、冷却効率が悪くなるので、ロール周速の最大値を50m/sとした。一方、遅く設定しすぎてしまうと回収率が悪くなってしまうのでロール周速の最小値を1m/sとした。上記の点を考慮して、今回はロール間ギャップを1~50mm、ロール周速を1~50m/sとして実施したが、これに限るものではない。冷却ロールを用いた固体冷却を導入することで、冷却ガスによる微粒子のガス分散を抑えることができるので、微粒子の回収率増加に貢献している。
【0046】
(1-7)次に、冷却ロール16に流している冷却水の温度を設定する。今回はチラーを用いて約20℃の冷却水を微粒子製造装置に流したが、場合によっては冷却溶媒を用いて冷却水温度を-20°などに設定してもよい。これによって、冷却ロール16の表面温度を、例えば、20℃又は-20℃に設定できる。なお、表面温度は、冷却水又は冷却溶媒の温度を制御することによって任意に設定できる。冷却水や冷却溶媒を冷却ロール16の内部に流すことにより、制御可能な冷却速度の幅が広がると共に、冷却ロール16の表面の温度制御を行うことができ、ムラの少ない冷却が可能となる。
(1-8)次に、天板4よりガスBを流す。ガスBを流すことにより、冷却ロール16により外側に高温の蒸気や材料ガスが流れることを防ぐことができ、微粒子回収率を高くすることができる。ガスBにはプラズマガスであるアルゴンガスを用いるが、雰囲気制御の用途によっては酸素や水素などの他種のガスを用いることもある。
【0047】
(2)次に、材料を熱プラズマ10中に供給する過程について記載する。材料供給装置8に準備しておいた原料を、キャリアガスとともに材料供給管9を通して熱プラズマ10に供給する。このとき、キャリアガスにはプラズマガスであるアルゴンガスを用いるが、雰囲気制御の用途によっては酸素や水素などの他種のガスを用いることもある。
【0048】
(3)次に、微粒子を生成する過程について記載する。
(3-1)原料が熱プラズマ10中を通過することで、原料は蒸気またはガス化する。
(3-2)原料蒸気または原料ガスは、プラズマガスによって下流に運ばれる。
(3-3)そして、下流に配置された冷却ロール16の表面に触れることで、急速に衝突冷却され、原料蒸気または原料ガスは瞬時に微粒子化する。この時、天板4からガスBを流していることにより、原料蒸気・ガスが冷却ロール16に衝突する確率を高くすることができ、冷却効率を高めるとともに微粒子回収率を高くすることが可能となっている。
(3-4)冷却ロール16によって生成された微粒子は、2つの冷却ロール16が炉の中心軸に対して内向きに回転していることで、冷却ロール16に付着したまま炉中心軸を通り下流部へと運搬される。
(3-5)そして、付着した微粒子は下流にて冷却ロール16の下側に配置された微粒子回収ブラシ17によって表面から剥ぎ落とされる。剥ぎ落とされた微粒子は、微粒子回収バット18に回収され、貯蔵されていく。また、微粒子回収ブラシ17で剥ぎ落とせなかった微粒子は、ガスCによって冷却ロール16の表面から剥ぎ落とされて、真空チャンバー5底面へと集められるか、または微粒子回収装置12へと流されていく。
(3-6)さらに、
図3の実施の形態3に示すように、2つの冷却ロール16a、16bのロール間ギャップをガス状態で抜けてきた原料は、
図3のように2段目に配置する第3の冷却ロール19によって、同様の原理で回収される。
【0049】
冷却ロール16を用いることで、衝突冷却により冷却制御性を高くすることができるとともに、従来例1のガス冷却プロセスのように生成した微粒子が炉側面に付着しないので、微粒子回収率を高くすることが可能となっている。
【0050】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に係る微粒子製造装置1aの断面構造を示す概略断面図である。
実施の形態2に係る微粒子製造装置1aは、実施の形態1に係る微粒子製造装置と対比すると、
図2に示すように、第1及び第2の冷却ロール16a、16bを熱プラズマ10の中心軸を挟んで配置していることを特徴とする。この第1及び第2の冷却ロール16a、16bは、熱プラズマ10の中心軸を挟んで線対称となる2箇所にそれぞれ配置してもよい。
【0051】
また、この2つの第1及び第2の冷却ロール16a、16bは、互いに逆向きに熱プラズマ10の中心軸に向かうようにそれぞれ内向きで回転している。つまり、
図2に示すように、第1の冷却ロール16aでは、回転軸はY軸であり、時計回りに回転し、第2の冷却ロール16bでは、回転軸はY軸であり、反時計回りに回転し、互いに逆方向に回転する。これによって、上流から流れてくる高温の材料の蒸気・ガスを冷却し、中心軸に生成した微粒子を集めることができ、微粒子の回収率を高くすることができる。なお、今回は中心軸内向きに回転させて冷却ロール16a、16bを使用する場合を示しているが、回転方向は外向きでも構わない。しかし、外向きの場合は冷却ロール16の回転により微粒子が熱プラズマ10により再加熱されてしまうので、そのプロセスにあった場合にのみ用いることが望ましい。また、2つの冷却ロール16a、16bのロール間のギャップを小さくすることで、高温の蒸気・ガスをほぼすべて冷却し微粒子化することができる。
【0052】
(実施の形態3)
図3は、実施の形態3に係る微粒子製造装置1bの断面構造を示す概略断面図である。
実施の形態3に係る微粒子製造装置1bは、実施の形態2に係る微粒子製造装置と対比すると、
図3に示すように、冷却ロール16a、16bをガス流れに対して2段構造に配置していることを特徴とする。具体的には、この微粒子製造装置1bは、第1及び第2の冷却ロールの下流域に、熱プラズマの中心軸上にさらに第3の冷却ロールが配置されている。下流域に配置した第3の冷却ロール19は、上段の2つの冷却ロール16a、16bと同様に、回転させて上流側で微粒子を生成し、下流側でブラシにより回収する構造となっている。冷却ロール16a、16b、19を2段構造で配置することで、投入した材料が衝突冷却による微粒子化を起こす割合をより増大させている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示の上記態様に係る微粒子製造装置及び微粒子製造方法によれば、生成した微粒子の高速冷却ができるようになり、高精度な粒径制御を可能とする。また、衝突冷却を導入したことにより冷却ガスによるガス分散を抑えることができたので、微粒子の回収率が増加する。そのため、本開示の前記態様は、電池材料や抗ウイルス剤などの粒径制御が必要であり、低コストでの大量生産が要求される材料に使用される微粒子製造装置及び微粒子製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 微粒子製造装置
2 プラズマトーチ
3 石英管
4 天板
5 真空チャンバー
6 高周波コイル
7 プラズマガス供給口
8 材料供給装置
9 材料供給管
10 熱プラズマ
11 一次粒子
12 微粒子回収装置
13 圧力調整バルブ
14 排気ポンプ
15 ガス供給源
16、16a、16b 冷却ロール
17 微粒子回収ブラシ
18 微粒子回収バット
19 第3の冷却ロール