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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172657
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】流体制御弁およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/17 20060101AFI20231129BHJP
   F16K 7/16 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F16K7/17 B
F16K7/17 A
F16K7/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084615
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 広之
(72)【発明者】
【氏名】常塚 淳志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真由子
(57)【要約】
【課題】ガスが薄膜部材を透過することに起因する、当接部の位置ずれを防止することが可能な流体制御弁およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ダイヤフラム部材122は、駆動軸113の環状弁座121dの側の端部に結合される軸部材1221と、パーフルオロアルコキシアルカンからなり、軸部材1221の駆動軸113とは反対側の端面に、面接触して位置される薄膜部材1222と、軸部材1221と薄膜部材1222との境界において、軸部材1221と薄膜部材1222とを接合する、レーザ溶接による溶着部32と、を備えること、薄膜部材1222は、軸部材1221の側とは反対側の面に、環状弁座に当接する当接部122bを備えること、溶着部32は、少なくとも当接部122bの裏側において、環状に形成されていること。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御流体が流れる流路と、前記流路上に設けられる環状弁座と、前記環状弁座に当接離間することで前記制御流体の流れを制御するダイヤフラム部材と、前記環状弁座と同軸上に並び、前記ダイヤフラム部材を前記当接離間の方向に駆動する駆動軸と、を備える流体制御弁において、
前記ダイヤフラム部材は、
前記駆動軸の前記環状弁座の側の端部に結合される軸部材と、
パーフルオロアルコキシアルカンからなり、前記軸部材の前記駆動軸とは反対側の端面に、面接触して位置される薄膜部材と、
前記軸部材と前記薄膜部材との境界において、前記軸部材と前記薄膜部材とを接合する、レーザ溶接による溶着部と、
を備えること、
前記薄膜部材は、前記軸部材の側とは反対側の面に、前記環状弁座に当接する当接部を備えること、
前記溶着部は、少なくとも前記当接部の裏側において、環状に形成されていること、
を特徴とする流体制御弁。
【請求項2】
請求項1に記載の流体制御弁において、
前記溶着部の外径は、前記環状弁座の外径よりも大きいこと、
前記溶着部の内径は、前記環状弁座の内径よりも小さいこと、
を特徴とする流体制御弁。
【請求項3】
請求項2に記載の流体制御弁において、
前記溶着部の内径は、ゼロであること、
を特徴とする流体制御弁。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の流体制御弁おいて、
前記溶着部は、直径の異なる複数の環状の溶接痕が、同心円状に設けられることで、形成されていること、
前記溶着部の径方向に隣接する前記溶接痕は、外周側の前記溶接痕が、内周側の前記溶接痕の外周部に重ねられて形成されていること、
を特徴とする流体制御弁。
【請求項5】
請求項1または2に記載の流体制御弁において、
前記軸部材は、前記軸部材と前記薄膜部材との境界のうち前記溶着部の内周側から、前記軸部材の外部に連通する通気路を備えること、
を特徴とする流体制御弁。
【請求項6】
制御流体が流れる流路と、前記流路上に設けられる環状弁座と、前記環状弁座に当接離間することで前記制御流体の流れを制御するダイヤフラム部材と、前記環状弁座と同軸上に並び、前記ダイヤフラム部材を前記当接離間の方向に駆動する駆動軸と、を備える流体制御弁を製造する流体制御弁の製造方法において、
前記駆動軸の前記環状弁座の側の端部に結合される軸部材と、
パーフルオロアルコキシアルカンからなり、前記軸部材の前記駆動軸に結合される側とは反対側の端面に、面接触して位置される薄膜部材とを、
レーザ溶接により、前記軸部材と前記薄膜部材との境界において溶着部を形成することで接合し、前記ダイヤフラム部材を得る工程を備えること、
前記薄膜部材は、前記軸部材の側とは反対側の面に、前記環状弁座に当接する当接部を備えること、
前記溶着部は、少なくとも前記当接部の裏側において、環状に形成されること、
を特徴とする流体制御弁の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の流体制御弁の製造方法において、
前記溶着部の外径は、前記環状弁座の外径よりも大きいこと、
前記溶着部の内径は、前記環状弁座の内径よりも小さいこと、
を特徴とする流体制御弁の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の流体制御弁の製造方法において、
前記溶着部の内径は、ゼロであること、
を特徴とする流体制御弁の製造方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1つに記載の流体制御弁の製造方法おいて、
前記溶着部は、直径の異なる複数の環状の溶接痕が、同心円状に設けられることで、形成されていること、
前記溶接痕は、前記溶着部の径方向の内周側から外周側に向かって、直径が漸増するように順次形成され、前記径方向に隣接する前記溶接痕は、外周側の前記溶接痕が、内周側の前記溶接痕の外周部に重ねられて形成されること、
を特徴とする流体制御弁の製造方法。
【請求項10】
請求項6または7に記載の流体制御弁の製造方法において、
前記軸部材は、前記軸部材と前記薄膜部材との境界のうち前記溶着部の内周側から、前記軸部材の外部に連通する通気路を備えること、
を特徴とする流体制御弁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御流体が流れる流路と、流路上に設けられる環状弁座と、環状弁座に当接離間することで制御流体の流れを制御するダイヤフラム部材と、環状弁座と同軸上に並び、ダイヤフラム部材を当接離間の方向に駆動する駆動軸と、を備える流体制御弁およびそのような流体制御弁の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弁体が弁座に当接または離間することで、流体の流れを制御する流体制御弁としては、例えば、半導体製造装置には、薬液の流量制御を行う流体制御弁として、薬液弁が用いられている。このような流体制御弁では、駆動軸に動作されるダイヤフラム部材が、環状弁座に当接離間することで制御流体の流れを制御する。ダイヤフラム部材としては、例えば特許文献1に開示されるように、駆動軸と結合する軸部材(特許文献1の補助軸)に、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)からなる薄膜部材(特許文献1のダイヤフラム)をレーザ溶接により接合することで形成されるダイヤフラム部材が知られている。このような薄膜部材は、流体制御弁の内部を、制御流体が接触する接液部と、制御流体に接触しない非接液部とに区画している。また、薄膜部材は、ダイヤフラム部材の環状弁座との当接離間動作の際には、弾性変形が繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-29522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるダイヤフラム部材は、例えば、図15(a)に示すように、軸部材2221と薄膜部材2222とを接合する溶着部132が、環状弁座121dと当接する部分(当接部)の外周側に位置していた。薄膜部材2222は、一般的に厚みが0.5mm以下と薄く、かつ、薄膜部材2222を形成するPFAはガスの透過率が高いため、軸部材2221と薄膜部材2222との境界部分に、窒素や酸素といったガスが溜まるおそれがある。ガスが溜まると、図15(b)に示すように、薄膜部材2222は環状弁座121d側に膨出してしまう。薄膜部材2222は、当接部の外周側で、軸部材2221に溶着されているため、薄膜部材2222の膨出する部分には、当接部が含まれている。このため、薄膜部材2222の、環状弁座121dと当接する位置が本来の位置でなくなるおそれがある。このように、薄膜部材2222の、環状弁座121dと当接する当接部の位置がずれると、弁閉時のシールに不良が生じたり、摩耗粉の発生によって制御流体にパーティクルが混入したりするおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、ガスが薄膜部材を透過することに起因する、当接部の位置ずれを防止することが可能な流体制御弁およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の流体制御弁および流体制御弁の製造方法は、次のような構成を有している。
(1)制御流体が流れる流路と、前記流路上に設けられる環状弁座と、前記環状弁座に当接離間することで前記制御流体の流れを制御するダイヤフラム部材と、前記環状弁座と同軸上に並び、前記ダイヤフラム部材を前記当接離間の方向に駆動する駆動軸と、を備える流体制御弁において、前記ダイヤフラム部材は、前記駆動軸の前記環状弁座の側の端部に結合される軸部材と、パーフルオロアルコキシアルカンからなり、前記軸部材の前記駆動軸とは反対側の端面に、面接触して位置される薄膜部材と、前記軸部材と前記薄膜部材との境界において、前記軸部材と前記薄膜部材とを接合する、レーザ溶接による溶着部と、を備えること、前記薄膜部材は、前記軸部材の側とは反対側の面に、前記環状弁座に当接する当接部を備えること、前記溶着部は、少なくとも前記当接部の裏側において、環状に形成されていること、を特徴とする。
【0007】
(6)制御流体が流れる流路と、前記流路上に設けられる環状弁座と、前記環状弁座に当接離間することで前記制御流体の流れを制御するダイヤフラム部材と、前記環状弁座と同軸上に並び、前記ダイヤフラム部材を前記当接離間の方向に駆動する駆動軸と、を備える流体制御弁を製造する流体制御弁の製造方法において、前記駆動軸の前記環状弁座の側の端部に結合される軸部材と、パーフルオロアルコキシアルカンからなり、前記軸部材の前記駆動軸に結合される側とは反対側の端面に、面接触して位置される薄膜部材とを、レーザ溶接により、前記軸部材と前記薄膜部材との境界において溶着部を形成することで接合し、前記ダイヤフラム部材を得る工程を備えること、前記薄膜部材は、前記軸部材の側とは反対側の面に、前記環状弁座に当接する当接部を備えること、前記溶着部は、少なくとも前記当接部の裏側において、環状に形成されること、を特徴とする。
【0008】
(1)に記載の流体制御弁、または、(6)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、溶着部は、少なくとも当接部の裏側において、環状に形成されるため、薄膜部材を透過したガスが、軸部材と薄膜部材の境界に溜まり、薄膜部材が環状弁座側に膨出したとしても、その膨出した部分に当接部が含まれることがない。よって、当接部の位置がずれることがない。このように、当接部の位置ずれを防止することで、弁閉時のシールに不良が生じたり、摩耗粉の発生によって制御流体へパーティクルが混入したりするおそれを低減することができる。
【0009】
(2)(1)に記載の流体制御弁において、前記溶着部の外径は、前記環状弁座の外径よりも大きいこと、前記溶着部の内径は、前記環状弁座の内径よりも小さいこと、を特徴とする。
【0010】
(7)(6)に記載の流体制御弁の製造方法において、前記溶着部の外径は、前記環状弁座の外径よりも大きいこと、前記溶着部の内径は、前記環状弁座の内径よりも小さいこと、を特徴とする。
【0011】
(2)に記載の流体制御弁、または、(7)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、溶着部の外径は、環状弁座の外径よりも大きいこと、溶着部の内径は、環状弁座の内径よりも小さいこと、を特徴とするため、溶着部は、軸部材と薄膜部材との境界において、当接部よりも大きい範囲で形成される。よって、ガスが薄膜部材を透過し、軸部材と薄膜部材の境界に溜まったとしても、当接部の位置がずれることがない。
【0012】
(3)(2)に記載の流体制御弁において、前記溶着部の内径は、ゼロであること、を特徴とする。
【0013】
(8)(7)に記載の流体制御弁の製造方法において、前記溶着部の内径は、ゼロであること、を特徴とする。
【0014】
(3)に記載の流体制御弁、または、(8)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、溶着部の内径は、ゼロであること、を特徴とするため、軸部材と薄膜部材との境界において、環状弁座の内周側は、全て溶着部となる。よって、薄膜部材を透過したガスが、軸部材と薄膜部材の境界に溜まるおそれがない。
【0015】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の流体制御弁おいて、前記溶着部は、直径の異なる複数の環状の溶接痕が、同心円状に設けられることで、形成されていること、前記溶着部の径方向に隣接する前記溶接痕は、外周側の前記溶接痕が、内周側の前記溶接痕の外周部に重ねられて形成されていること、を特徴とする。
【0016】
(9)(6)乃至(8)のいずれか1つに記載の流体制御弁の製造方法おいて、前記溶着部は、直径の異なる複数の環状の溶接痕が、同心円状に設けられることで、形成されていること、前記溶接痕は、前記溶着部の径方向の内周側から外周側に向かって、直径が漸増するように順次形成され、前記径方向に隣接する前記溶接痕は、外周側の前記溶接痕が、内周側の前記溶接痕の外周部に重ねられて形成されること、を特徴とする。
【0017】
(4)に記載の流体制御弁、または、(9)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、内周側から外周側に向かって、複数の環状の溶接痕が隙間なく形成されていくことで溶着部32が形成されるため、レーザ溶接を行う際、軸部材と薄膜部材との境界における空気等の気体は、外周側に追い出されていく。これにより、軸部材と薄膜部材とを隙間なく接合することが可能である。軸部材と薄膜部材とを隙間なく接合することができれば、薄膜部材を透過したガスが、軸部材と薄膜部材の境界に溜まることがないため、当接部の位置がずれることがない。
【0018】
(5)(1)または(2)に記載の流体制御弁において、前記軸部材は、前記軸部材と前記薄膜部材との境界のうち前記溶着部の内周側から、前記軸部材の外部に連通する通気路を備えること、を特徴とする。
【0019】
(10)(6)または(7)に記載の流体制御弁の製造方法において、前記軸部材は、前記軸部材と前記薄膜部材との境界のうち前記溶着部の内周側から、前記軸部材の外部に連通する通気路を備えること、を特徴とする。
【0020】
(5)に記載の流体制御弁、または、(10)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、薄膜部材を透過したガスが、通気路を通って、ダイヤフラム部材の外部に排出される。これにより、薄膜部材を透過したガスが軸部材と薄膜部材の境界に溜まることが防止されるため、当接部の位置がずれることがない。
【発明の効果】
【0021】
本発明の流体制御弁または流体制御弁の製造方法によれば、ガスが薄膜部材を透過することに起因する、当接部の位置ずれを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る流体制御弁の断面図であり、閉弁状態を示す図である。
図2】本実施形態に係る流体制御弁の断面図であり、開弁状態を示す図である。
図3】ダイヤフラム部材の断面図である。
図4図3の部分Aの部分拡大図である。
図5】(a)乃至(c)は、レーザ溶接によってダイヤフラム部材を製造する工程を説明する図である。
図6】レーザ溶接における、光源側から見た赤外線レーザの走査状態を表したイメージ図である。
図7図6のB-B断面図であり、レーザ溶接後の状態を表した図である。
図8】流体制御弁の変形例を示す図である。
図9】流体制御弁の変形例を示す図である。
図10】ダイヤフラム部材の変形例を示す図である。
図11図10に示すダイヤフラム部材を用いた流体制御弁の断面図である。
図12】ダイヤフラム部材の溶着部の他の態様を説明する図である。
図13】ダイヤフラム部材の溶着部の他の態様を説明する図である。
図14】従来技術に係る流体制御弁の問題点を説明するための図である。
図15】従来技術に係る流体制御弁の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(流体制御弁の構成について)
第1の実施形態に係る流体制御弁1の構成について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る流体制御弁1の断面図であり、閉弁状態を示す図である。図2は、本実施形態に係る流体制御弁1の断面図であり、開弁状態を示す図である。図3は、本実施形態に係る流体制御弁1に用いられるダイヤフラム部材122の断面図である。図4は、図3の部分Aの部分拡大図である。
【0024】
流体制御弁1は、半導体製造工程において薬液の流量制御を行う、エアオペレイト式のノーマルクローズタイプの薬液弁である。流体制御弁1は、図1に示すように、駆動部11と弁部12とからなる。
【0025】
駆動部11は、第1ハウジング111と、第1ハウジング111の上部に積み重ねられる第2ハウジング112とを備え、その内部に駆動軸113を備える。第1ハウジング111は、第2ハウジング112側の端部(図1中の下端部)が開口されている一方で、他方の端部(図1中の上端部)が閉塞された筒形状をなしている。第1ハウジング111の外周面には、第1給排気口111aが形成されている。そして、第1ハウジング111の開口されている第2ハウジング112側の端部は、第2ハウジング112の図1中の上端部に、Oリング115を介して気密的に嵌装されている。
【0026】
第2ハウジング112は、第1ハウジング111側の端部(図1中の上端部)、弁部12側の端部(図1中の下端部)ともに開口された筒形状をなしている。また、第2ハウジング112の外周面には第2給排気口112aが形成されている。第1ハウジング111と第2ハウジング112とは同軸上に並んでおり、第1ハウジング111の内部の中空部と、第2ハウジング112の内部の中空部によりピストン室116が形成されている。
【0027】
ピストン室116には、駆動軸113が、図1中の上下方向に摺動可能に装填されている。ここで、図1中の上方向は、開弁方向であり、図1中の下方向は、閉弁方向である。駆動軸113は、円盤状のピストン部113aを備えており、このピストン部113aにより、ピストン室116は上室116aと下室116bとに区画されている。ピストン部113aの外周と、ピストン室116の内壁の間にはOリング117が配置されており、上室116aと、下室116bとの間を気密に保っている。
【0028】
上室116aは、通気路111bによって、第1給排気口111aに連通しており、下室116bは、通気路112bによって、第2給排気口112aに連通している。また、上室116aには、コイルスプリング114が配設されている。このコイルスプリング114の図1中の下端部は、ピストン部113aの上端面に当接し、図1中の上端部は、上室116aの上面に当接している。よって、駆動軸113は、コイルスプリング114の弾性力により、閉弁方向(図1中の下方向)に付勢されている。
【0029】
また、駆動軸113は、ピストン部113aの上端側、下端側に、それぞれ、円柱状の第1ピストンロッド113bおよび第2ピストンロッド113cを備えている。
【0030】
第1ピストンロッド113bは、第1ハウジング111の図1中の下面側に設けられた溝部111cに挿入されており、駆動軸113が、図1中の上下方向に摺動する際に、ガイドされるようになっている。
【0031】
第2ピストンロッド113cは、第2ハウジング112の下端面と下室116bとを貫通する貫通孔112cに挿通されている。第2ピストンロッド113cの外周面と、貫通孔112cの内周面との間にはOリング118が配設され、下室116bを気密に保っている。そして、第2ピストンロッド113cの先端部には、弁部12を構成するダイヤフラム部材122が螺合されている。
【0032】
弁部12は、駆動部11の図1中の下側に連結されており、弁部本体121と、ダイヤフラム部材122と、台座123とから構成される。弁部本体121は、薬液等の流体が入力される入力流路121aと、入力された流体が出力される出力流路121bとを備える。そして、弁部本体121の図1中の上端面中央には、弁室121cが穿設されており、弁室121cは、入力流路121aと出力流路121bを連通している。入力流路121aと出力流路121bが連通することで、制御流体が流れるための、一連の流路が形成されている。そして、弁室121cの底面には、ダイヤフラム部材122が当接離間する環状弁座121dが形成されている。
【0033】
ダイヤフラム部材122は、図3に示すように、軸部材1221と、環状弁座121dと当接離間する薄膜部材1222と、の結合体である。
【0034】
軸部材1221は、カーボンブラックが分散されたPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)により形成されている。カーボンブラックの含有量は、1.5重量%以上、5重量%以下であることが望ましく、3重量%以上、4重量%以下であることが更に望ましい。本実施形態における含有量は、約3.5重量%である。
【0035】
また、軸部材1221は、略円柱状に形成されている。そして、軸部材1221の駆動軸113側の端面(図1中の上端面)には、ねじ部1221cが穿設されている。このねじ部1221cに、駆動軸113の環状弁座121d側の先端部が螺合されている。これにより、軸部材1221は、駆動軸113と同軸上に位置された状態で固定されており、駆動軸113の上下動するに伴って、軸部材1221が上下動することができる。また、軸部材1221の駆動軸113とは反対側の端面(図1中の下端面)には、薄膜部材1222が、面接触した状態で接合されている。
【0036】
薄膜部材1222は、PFAを材質として、射出成形または押出成形により形成された円盤状のフィルムである。なお、厚みは特に限定されないが、例えば約0.2mmである。この薄膜部材1222は、軸部材1221に対して、同軸上に位置して、接合されている。また、薄膜部材1222の外周端は、図1に示すように、第2ハウジング112と、弁部本体121とによって、上下方向から挟持されている。これにより、薄膜部材1222は、弁室121c内に固定されており、弁室121cを、接液部と非接液部に区画している。薄膜部材1222よりも上方(軸部材1221側)の領域が非接液部であり、薄膜部材1222よりも下方(環状弁座121d側)の領域が接液部である。したがって、薄膜部材1222の環状弁座121d側の面は、制御流体が接触する接液面1222aである。
【0037】
また、薄膜部材1222は、弁室121c内に固定されることで、駆動軸113および軸部材1221が上下動するに伴って、弾性変形を繰り返す。そして、この弾性変形の繰り返しにより、薄膜部材1222の接液面1222aが、環状弁座121dとの当接離間を繰り返す。接液面1222aのうち、環状弁座121dと当接離間する部分を当接部1222b(図中の太い一点鎖線で示す部分)とする。なお、当接部1222bは、成形面により形成されることが望ましい。これは、当接部1222bの表面粗さを下げ、環状弁座121dとの当接離間の繰り返しによる発塵を防止するためである。
【0038】
軸部材1221と薄膜部材1222とは、レーザ溶接により接合されており、軸部材1221と薄膜部材1222の境界は、図4に示すように、溶着部32となっている。本実施形態におけるダイヤフラム部材122は、軸部材1221と薄膜部材1222の境界が全て溶着部32となっており、軸部材1221と薄膜部材1222とが接触する全面で相互に接合されている。
【0039】
以上のように、ダイヤフラム部材122を構成する軸部材1221は、カーボンブラックを分散させたPFAからなるため、一般的なフッ素樹脂により形成される場合に比べて導電性が高められている。これにより、制御流体が流路を通過することにより生じる静電気が放電され、制御流体および接液部の帯電を防止することができる。制御流体および接液部の帯電を防止することができれば、流体制御弁1内部の接液部と非接液部との間の電位差の増大を防止することができる。この電位差の増大を防止することができれば、薄膜部材1222の絶縁破壊の発生を防止することができる。薄膜部材1222の絶縁破壊の発生を防止することができれば、絶縁破壊による微小な亀裂の発生を防止し、ひいては、亀裂を原因とする流体の漏れや疲労破壊の発生を防止することができる。また、制御流体の帯電を防止することができれば、例えば、半導体製造装置において、帯電した制御流体がウエハに接触することを防止することができるため、欠陥回路パターンを現像してしまう等の不具合を起こすおそれが低減される。
【0040】
なお、軸部材1221と薄膜部材1222とを接合する溶着部は、図12に示す溶着部33のように、少なくとも当接部122bの裏側において環状に設けられていれば良い。具体的には、溶着部33は、外径D22が、環状弁座121dの外径D12よりも大きく、内径D21が、環状弁座121dの内径D11よりも小さくされていれば良い。つまり、本実施形態において、軸部材1221と薄膜部材1222の境界を全て溶着部32としているのは、あくまで一例であり、外径D12を最大限大きくし、かつ、内径D11を最大限小さく(即ちゼロ)した状態である。
【0041】
一般的に、流体制御弁1は、環状弁座121dと、環状弁座121dに当接する当接部122bと、の間の流路面積がその他の部分に比べて小さくなっている。このため、制御流体は、環状弁座121dと当接部122bとの間を流れる際に流速が早くなる。よって、制御流体が環状弁座121dと当接部122bとの間を流れる際に静電気が発生しやすい。図12に示すように、少なくとも当接部122bの裏側に溶着部33が形成されていれば、薄膜部材1222は、静電気が発生しやすい当接部122bの裏側で、導電性が高められた軸部材1221に接合されることになるため、静電気の放電を行うのに効果的である。
【0042】
さらに、軸部材1221と薄膜部材1222の境界を全て溶着部32とすること、当接部122bの裏側において環状に溶着部33を設けることには、以下のような効果がある。
【0043】
従来技術に係るダイヤフラム部材(特許文献1に開示されるダイヤフラム部材)は、例えば、図15(a)に示すように、軸部材2221と薄膜部材2222とを接合する溶着部132が、環状弁座121dと当接する部分(当接部)の外周側に位置していた。薄膜部材2222は、一般的に厚みが0.5mm以下と薄く、かつ、薄膜部材2222を形成するPFAはガスの透過率が高いため、軸部材2221と薄膜部材2222との境界部分に、窒素や酸素といったガスが溜まるおそれがある。ガスが溜まると、図15(b)に示すように、薄膜部材2222は環状弁座121d側に膨出してしまう。薄膜部材2222は、当接部の外周側で、軸部材2221に溶着されているため、薄膜部材2222の膨出する部分には、当接部が含まれている。このため、薄膜部材2222の、環状弁座121dと当接する位置が本来の位置でなくなるおそれがある。このように、薄膜部材2222の、環状弁座121dと当接する当接部の位置がずれると、弁閉時のシールに不良が生じたり、摩耗粉の発生によって制御流体にパーティクルが混入したりするおそれがある。
【0044】
本実施形態におけるダイヤフラム部材122のように、軸部材1221と薄膜部材1222の境界を全て溶着部32とすれば、薄膜部材1222を透過したガスが、軸部材1221と薄膜部材1222の境界に溜まるおそれがない。また、図12に示す溶着部33のように、少なくとも当接部122bの裏側において環状に溶着部33を設けておけば、薄膜部材1222を透過したガスが、軸部材1221と薄膜部材1222の境界に溜まり、薄膜部材が環状弁座側に膨出したとしても、その膨出した部分に当接部が含まれることがない。よって、当接部122bの位置がずれない。このように、当接部122bの位置ずれを防止することで、弁閉時のシールに不良が生じたり、摩耗粉の発生によって制御流体へパーティクルが混入したりするおそれを低減することができる。
【0045】
なお、図12に示す溶着部33のように、当接部122bの裏側において環状に溶着部を設ける場合には、ガスが軸部材1221と薄膜部材1222の境界に溜まることを防止するために、図13に示すように、軸部材1221が、通気路1224を備えることとしても良い。この通気路1224は、軸部材1221と薄膜部材1222との境界のうちの溶着部33の内周側から、軸部材1221の外周面まで延伸されている。これにより、薄膜部材1222を透過したガスは、通気路1224通って、ダイヤフラム部材122の外部に排出される。
【0046】
(流体制御弁の動作について)
以上のような構成を有する流体制御弁1の動作について説明する。図1に示す流体制御弁1は閉弁状態にある。この状態で、操作エア供給源(図示せず)から操作エアを第2給排気口112aに供給すると、通気路112bを通じて下室116bに操作エアが供給される。操作エアが供給されるに従い、下室116bの圧力が上昇していく。そして、ピストン部113aの下端面が受ける圧力が、コイルスプリング114の付勢力を超えると、駆動軸113がコイルスプリング114の付勢力に抗して開弁方向(図1中、上方向)に移動する。そして、駆動軸113が開弁方向に移動するに従い、上室116a内の空気は、ピストン部113aに圧縮され、通気路111bおよび第1給排気口111aを通じて駆動部11の外部へ排気される。駆動軸113が開弁方向に移動すると、第2ピストンロッド113cの先端に螺合されているダイヤフラム部材122が開弁方向に移動する。そして、薄膜部材1222(当接部122b)が、環状弁座121dから離間すると、流体制御弁1は図2に示すように、開弁状態とる。
【0047】
開弁状態となった流体制御弁1に対して、操作エアの供給を停止すると、コイルスプリング114の付勢力に抗していた下室116bの圧力が働かなくなり、コイルスプリング114の付勢力により駆動軸113が閉弁方向に移動する。すると、第2ピストンロッド113cの先端に螺合されているダイヤフラム部材122も開弁方向に移動され、薄膜部材1222(当接部122b)が、環状弁座121dに当接する。これにより、流体制御弁1は閉弁状態となる。このとき、下室116bに充填されていた操作エアは、通気路112bおよび第2給排気口112aを通じて駆動部11の外部へ排気され、上室116aには、第1給排気口111aおよび通気路111bを通じて、駆動部11の外部の空気が流入する。
【0048】
(流体制御弁の製造方法について)
次に、本実施形態に係る流体制御弁1を製造するための流体制御弁の製造方法について、図を用いて説明する。図5(a)乃至(c)は、レーザ溶接によってダイヤフラム部材122を製造する工程を説明する図である。図6は、レーザ溶接における、光源側から見た赤外線レーザ25の走査状態を表したイメージ図である。図7は、図6のB-B断面図であり、レーザ溶接後の状態を表した図である。
【0049】
本実施形態における流体制御弁の製造方法は、以下のように、軸部材1221と薄膜部材1222を接合して、ダイヤフラム部材122を得る。
【0050】
まず、図5(a)に示すように、支持体23に対向接触して、軸部材1221を配置する。このとき、軸部材1221は、薄膜部材1222と接合を行う面を上方に向けて配置される。さらに、軸部材1221の上に重ねるようにして、薄膜部材1222を、軸部材1221に面接触させて配置する。このとき、薄膜部材1222と軸部材1221の中心軸が合うように配置する。
【0051】
次に、図5(b)に示すように、積み重ねた軸部材1221と薄膜部材1222とに対し、支持体23とは反対側にヒートシンク作用を有する赤外線透過性固体22を、薄膜部材1222に接触させて配置する。ここで、赤外線透過固体22とは、セレン亜鉛(ZnSe)、硫化亜鉛(Zns)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、サファイア(Al2O3)、砒素化ガリウム(GaAs)、フッ化マグネシウム(MgF2)などの、熱伝導度15w/m・K以上を有する赤外結晶材料が挙げられる。
【0052】
次に、図5(c)に示すように、矢印Fの方向に圧縮力を加えて軸部材1221と薄膜部材1222とを密着させながら、赤外線透過性固体22の側から、軸部材1221と薄膜部材1222とに対して、光源24から赤外線レーザ25を照射する。なお、赤外線レーザ25は、波長0.37μmから15μmであって、望ましくは、波長10.6μm若しくは10.6±0.5μmのCO2レーザ、又は、波長5.3μm若しくは5.3±0.5μmのCOレーザ、又は、波長375から2000nmの半導体レーザであることが望ましい。なお、半導体レーザの場合は、波長1.06μm若しくは1.06±0.5μmのYAGレーザ、又は、波長1.07μm若しくは1.07±0.5μmのファイバレーザ、又は、波長2.05μm若しくは2.05±0.5μmのツリウムレーザであることが望ましい。
【0053】
赤外線レーザ25は、赤外線レーザ25照射時の薄膜部材1222と軸部材1221における温度分布が、薄膜部材1222と軸部材1221との境界で最高になるよう焦点が調整される。これにより、薄膜部材1222と軸部材1221との境界近傍が溶融し、固化した部分が溶接痕となる。薄膜部材1222と軸部材1221とを接合する溶着部32は、複数の環状の溶接痕W11-W15を、同心円状に設けられることで形成されている。
【0054】
具体的には、図6に示すように赤外線レーザ25の照射を行い、溶着部32を形成する。赤外線レーザ25は、開始位置P11において照射が開始される。この開始位置P11は、軸部材1221および薄膜部材1222の中心軸上に位置している。赤外線レーザ25の照射が開始されると、赤外線レーザ25は、溶着部32の中央部をなす溶接痕W11が形成するために必要な時間、開始位置P11において照射され続ける。
【0055】
その後、赤外線レーザ25が開始位置P11から、開始位置P11よりも外周側に位置する第1走査開始点P12まで走査される。そして、赤外線レーザ25は、第1走査線L11に示すように、第1走査開始点P12から、軸部材1221および薄膜部材1222の中心軸を中心として、時計回りに円を描くように走査される。赤外線レーザ25が第1走査開始点P12に戻ると、第1走査線L11に沿って環状の溶接痕W12が形成される。
【0056】
さらに、赤外線レーザ25は、第1走査開始点P12から、第1走査開始点P12よりも外周側に位置する第2走査開始点P13まで走査される。そして、赤外線レーザ25は、第2走査線L12に示すように、第2走査開始点P13から、軸部材1221および薄膜部材1222の中心軸を中心として、時計回りに円を描くように走査される。赤外線レーザ25が第2走査開始点P13に戻ると、第2走査線L12に沿って環状の溶接痕W13が形成される。この溶接痕W13の直径は、第1走査線L11に沿って形成される溶接痕W12の直径よりも、第1走査開始点P12から第2走査開始点P13までの距離の分だけ大きくなる。
【0057】
さらに、赤外線レーザ25は、第2走査開始点P13から、第2走査開始点P13よりも外周側に位置する第3走査開始点P14まで走査される。そして、赤外線レーザ25は、第3走査線L13に示すように、第3走査開始点P14から、軸部材1221および薄膜部材1222の中心軸を中心として、時計回りに円を描くように走査される。赤外線レーザ25が第3走査開始点P14に戻ると、第3走査線L13に沿って環状の溶接痕W14が形成される。この溶接痕W14の直径は、第2走査線L12に沿って形成される溶接痕W13の直径よりも、第2走査開始点P13から第3走査開始点P14までの距離の分だけ大きくなる。
【0058】
以上の繰り返しにより、径方向の内周側から外周側に向かって直径が漸増するように、複数の溶接痕を順次形成していく。径方向に隣接する走査線への走査量(例えば、第1走査開始点P12と第2走査開始点P13との距離や、第2走査開始点P13と第3走査開始点P14との距離)は、赤外線レーザ25の直径よりも小さくされている。例えば、赤外線レーザ25の径が1mmとすれば、0.8mmである。これにより、径方向に隣接する溶接痕は、外周側の溶接痕が、内周側の溶接痕の外周部に重ねられて形成されることになる(具体的には、図7に示すように、径方向に隣接する溶接痕W12と溶接痕W13は、外周側の溶接痕W13が、内周側の溶接痕W12の外周部に重ねられて形成されている)。
【0059】
そして、最外周部においては、赤外線レーザ25が、最終走査線L14に示すように、最終走査開始点P15から、軸部材1221および薄膜部材1222の中心軸を中心として、時計回りに円を描くように走査される。そして、最終走査線L14に沿って環状の溶接痕W15が形成されると、最終走査開始点P15で赤外線レーザ25の照射が終了される。これにより、軸部材1221と薄膜部材1222の接合は完了し、ダイヤフラム部材122が得られる。
【0060】
以上のように、内周側から外周側に向かって、複数の環状の溶接痕W11-W15が隙間なく形成されていくことで溶着部32が形成されるため、レーザ溶接を行う際、軸部材1221と薄膜部材1222との境界における空気等の気体は、外周側に追い出されていく。これにより、軸部材1221と薄膜部材1222とを隙間なく接合することが可能となっている。
【0061】
また、軸部材1221は、カーボンブラックを分散させたPFAからなるため、一般的なフッ素樹脂により形成される場合に比べてレーザ光吸収性が高められている。軸部材1221のレーザ光吸収性が高められていることで、軸部材1221と薄膜部材1222をレーザ溶接により接合する際、軸部材1221がレーザ光を吸収しやすいため、従来よりも低い熱量で接合を行うことができる。これにより、薄膜部材1222の、赤外線レーザ25による熱の影響を受ける範囲を小さくすることができる。具体的には、図7に示すように、薄膜部材1222における、熱の影響を受ける範囲、即ち、溶接痕W11-W15が生じる範囲A11は、薄膜部材1222の厚みt11に対して、約40%となっている(従来技術においては、炭素系添加剤を含有しない軸部材2221に接合した薄膜部材2222の熱の影響を受けた範囲A21は、薄膜部材2222の厚みt21に対して約80%と広範囲に渡っている(図14参照))。このように、薄膜部材1222の熱の影響を受ける範囲を小さくすることができれば、レーザ溶接による薄膜部材1222の強度低下を防止することができる。これにより、薄膜部材1222の、弾性変形の繰り返しによる疲労破壊が発生するおそれを低減することができる。
【0062】
なお、図6に示す赤外線レーザの走査状態は、軸部材1221と薄膜部材1222の境界を全て溶着部32とする場合のものである。図12に示すように、溶着部33を、当接部122bの裏側のみに設ける場合には、当接部122bの範囲内で、内周側から外周側に向かって、環状の溶接痕を順次形成していくことで、溶着部33を形成する。
【0063】
また、上記した支持体23とは、赤外線レーザ25の照射中に赤外線透過性固体22と薄膜部材1222と軸部材1221との接触状態を安定に保つためのものである。したがって、そのような機能を持つものであれば、支持体23の材質や形状はどのようなものであってもよい。例えば矢印Fで示すような圧縮力によっても塑性変形が生じにくく、適度な剛性を有したスチール、アルミニウム合金、銅合金などによる金属製のブロックや板を用いることが考えられる。
【0064】
さらに、支持体23は、赤外線レーザ25を照射する側の表層に、ゴムによる緩衝層を備えることとしてもよい。厚さが薄いまたは熱収縮性が高い、PFAやPTFE等の熱可塑性樹脂部材同士を接合するに当たって、熱可塑性樹脂部材22自身の表面起伏などにより赤外線透過性固体22と、薄膜部材1222と、軸部材1221との接触圧力および接触面積が不足し、接合後に溶着部でボイドや破れ、収縮などの欠陥が生じるおそれがある。そこで、支持体23が緩衝層を備えるものとすれば、赤外線透過性固体22と、薄膜部材1222と、軸部材1221との接触圧力および接触面積を改善し、接合後のボイドや破れ、顕著な収縮などの欠陥の発生を抑えることができる。
【0065】
(流体制御弁の変形例)
上記した流体制御弁1のように、軸部材1221の導電性を高めることで、静電気の放電に効果があるが、図8に示す流体制御弁2のように、アース128を設けることが更に望ましい。流体制御弁2について、流体制御弁1と異なる点のみ説明する。
【0066】
流体制御弁2においては、駆動軸113を金属等(例えばステンレス鋼)の導電体により形成する。また、第1ハウジング111の、コイルスプリング114と当接している上面には、金属等(例えばステンレス鋼)の導電性の板材127が組付けられている。そして、この板材127には、流体制御弁2の外部に放電可能なようにアース128が接続されている。以上の構成により、流体制御弁2は、ダイヤフラム部材122の軸部材1221と、駆動軸113と、コイルスプリング114と、板材127と、アース128とにより導電経路が形成されている。このように導電経路が形成されることで、制御流体が流路を通過することにより生じる静電気の放電を、より確実に行うことが可能となる。
【0067】
また、アースを設ける例としては、図9に示す流体制御弁3のような構成にすることも考えられる。流体制御弁3について、流体制御弁1と異なる点のみ説明する。
【0068】
流体制御弁3に用いられる駆動軸119の全体形状は、上記駆動軸113と同一であるが、例えば金属製の導電部材120が内部にインサートされている点で異なっている。
【0069】
導電部材120は、駆動軸119の第1ピストンロッド119bを形成する太径部120aを備えている。太径部120aの下端部には、駆動軸119のピストン部119aの上端面を形成する円盤部120bが形成されている。コイルスプリング114の下端部は、この円盤部120bに当接している。さらに、太径部120aの下端面からは、太径部120aよりも径が細く、駆動軸119の内部に挿通された細径部120cが延伸している。細径部120cの先端部は、駆動軸119の第2ピストンロッド119cの先端部より突き出ており、軸部材1221と接続されている。
【0070】
流体制御弁3が、板材127を備える点、この板材127にアース128が接続されている点は、上記した流体制御弁2と同様である。以上の構成により、流体制御弁3は、軸部材1221と、導電部材120と、コイルスプリング114と、板材127と、アース128とにより導電経路が形成されている。このように導電経路が形成されることで、制御流体が流路を通過することにより生じる静電気の放電を、より確実に行うことが可能となる。
【0071】
(ダイヤフラム部材の変形例)
ダイヤフラム部材の変形例として、図10に示すダイヤフラム部材124について、上記ダイヤフラム部材122と異なる点のみ説明する。
【0072】
ダイヤフラム部材124を構成する薄膜部材1223は、2層に形成されている。2層のうち、環状弁座121d側の第1層1223aは、上記した薄膜部材1222と同様に、PFAにより形成された層で、厚みも薄膜部材1222と同様である。2層のうち、軸部材1221に面する側の第2層1223bは、カーボンブラックを分散させたPFAにより形成されている。つまり、第2層1223bは、導電性を高めた層である。カーボンブラックの含有量は、1.5重量%以上、5重量%以下であることが望ましく、3重量%以上、4重量%以下であることが更に望ましい。本実施形態における含有量は、約3.5重量%である。また、第2層1223bの厚みは、約0.02mmである。なお、この厚みは、あくまで一例であり、薄膜部材1222の弾性変形を阻害しない厚みが、例えば0.01~0.1mmの範囲から適宜選択される。なお、第1層1223aと第2層1223bは、二色成形により接合されているものとしても良いし、第1層1223aと第2層1223bをそれぞれ別個に成形したものを、圧縮プレス成形することで接合するものとしても良い。
【0073】
薄膜部材1223が、以上のような構成を備えているため、薄膜部材1223は、導電性を高めた第2層1223bが、導電性を高めた軸部材1221に溶着されている。よって、制御流体が流路を通過することにより生じる静電気の放電を、より確実に行うことができる。
【0074】
また、第2層1223bは、カーボンブラックが分散されているため、レーザ光吸収性が高められている。よって、第2層1223bが、軸部材1221とともにレーザ光を吸収するため、軸部材1221と薄膜部材1222をレーザ溶接により接合する際、従来よりも低い熱量で接合を行うことができ、薄膜部材1223の熱の影響を受ける範囲を、より小さくすることができる。なお、ダイヤフラム部材124を得るためのレーザ溶接の工程は、図5に示す工程と同様である。
【0075】
ダイヤフラム部材124を流体制御弁に用いる場合、図11に示す流体制御弁4のように、アース126を設けることが望ましい。流体制御弁4について、流体制御弁1と異なる点のみ説明する。
【0076】
流体制御弁4は、弁部本体121側の端部(図11中の下端部)に、例えばステンレス鋼等の金属からなる、導電部材125を備えている。この導電部材125は、第2ハウジング112と弁部本体121とが薄膜部材1223を上下方向から挟持したときに、第2層1223bと接触するように位置されている。そして、この導電部材125には、アース126が接続されている。
【0077】
以上の構成により、流体制御弁4は、ダイヤフラム部材124の第2層1223bと、導電部材125と、アース126とにより導電経路が形成されている。このように導電経路が形成されることで、制御流体が流路を通過することにより生じる静電気の放電を、より確実に行うことが可能となる。なお、第2層1223bは、カーボンナノチューブを分散させたPFAにより形成されるものとしても良い。この場合、カーボンナノチューブの含有量は、0.01重量%以上、0.1重量%以下が望ましく、本実施形態における含有量は、約0.02重量%である。なお、流体制御弁4の構成はあくまで一例であり、上記した流体制御弁1,2,3の構成において、ダイヤフラム部材122を、ダイヤフラム部材124に置き換えることとしても良い。
【0078】
(軸部材の材質について)
上記した実施形態は、全て、軸部材1221を、カーボンブラックを分散させたPFAにより形成するものとして説明しているが、カーボンナノチューブを分散させたPFAにより形成されるものとしても良い。カーボンナノチューブの含有量は、0.01重量%以上、0.1重量%以下であることが望ましく、本実施形態における含有量は、約0.02重量%である。
【0079】
また、軸部材1221は、PFAに限定されるものではなく、カーボンナノチューブやカーボンブラック等の炭素系添加剤を分散させたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成されるものとしても良い。レーザ溶接による接合強度は、同材同士(PFA同士)を接合した方が優れるが、PTFEは耐薬品性に優れるというメリットがある。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の流体制御弁および流体制御弁の製造方法によれば、(1)制御流体(例えば薬液)が流れる流路(例えば、入力流路121aと出力流路121bが連通することでなる一連の流路)と、流路上に設けられる環状弁座121dと、環状弁座121dに当接離間することで制御流体の流れを制御するダイヤフラム部材122,124と、環状弁座121dと同軸上に並び、ダイヤフラム部材122,124を当接離間の方向に駆動する駆動軸113,119と、を備える流体制御弁1,2,3,4において、ダイヤフラム部材122,124は、駆動軸113,119の環状弁座121dの側の端部に結合される軸部材1221と、パーフルオロアルコキシアルカンからなり、軸部材1221の駆動軸113,119とは反対側の端面に、面接触して位置される薄膜部材1222,1223と、軸部材1221と薄膜部材1222,1223との境界において、軸部材1221と薄膜部材1222,1223とを接合する、レーザ溶接による溶着部32,33と、を備えること、薄膜部材1222,1223は、軸部材1221の側とは反対側の面に、環状弁座に当接する当接部122bを備えること、溶着部32,33は、少なくとも当接部122bの裏側において、環状に形成されていること、を特徴とする。
【0081】
(6)制御流体(例えば薬液)が流れる流路(例えば、入力流路121aと出力流路121bが連通することでなる一連の流路)と、流路上に設けられる環状弁座121dと、環状弁座121dに当接離間することで制御流体の流れを制御するダイヤフラム部材122,124と、環状弁座121dと同軸上に並び、ダイヤフラム部材122,124を当接離間の方向に駆動する駆動軸113,119と、を備える流体制御弁を製造する流体制御弁の製造方法において、駆動軸113,119の環状弁座121dの側の端部に結合される軸部材1221と、パーフルオロアルコキシアルカンからなり、軸部材1221の駆動軸113,119に結合される側とは反対側の端面に、面接触して位置される薄膜部材1222,1223とを、レーザ溶接により、軸部材1221と薄膜部材1222,1223との境界において溶着部32,33を形成することで接合し、ダイヤフラム部材122,124を得る工程を備えること、薄膜部材1222,1223は、軸部材1221の側とは反対側の面に、環状弁座121dに当接する当接部122bを備えること、溶着部32,33は、少なくとも当接部122bの裏側において、環状に形成されること、を特徴とする。
【0082】
(1)に記載の流体制御弁1,2,3,4、または、(6)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、溶着部32,33は、少なくとも当接部122bの裏側において、環状に形成されるため、薄膜部材1222,1223を透過したガスが、軸部材1221と薄膜部材1222,1223の境界に溜まり、薄膜部材1222,1223が環状弁座121d側に膨出したとしても、その膨出した部分に当接部は含まれない。よって、当接部122bの位置がずれることがない。このように、当接部122bの位置ずれを防止することで、弁閉時のシールに不良が生じたり、摩耗粉の発生によって制御流体へパーティクルが混入したりするおそれを低減することができる。
【0083】
(2)(1)に記載の流体制御弁1,2,3,4において、溶着部32,33の外径は、環状弁座121dの外径D11よりも大きいこと、溶着部32,33の内径は、環状弁座121dの内径D12よりも小さいこと、を特徴とする。
【0084】
(7)(6)に記載の流体制御弁の製造方法において、溶着部32,33の外径は、環状弁座121dの外径D11よりも大きいこと、溶着部32,33の内径は、環状弁座121dの内径D12よりも小さいこと、を特徴とする。
【0085】
(2)に記載の流体制御弁1,2,3,4、または、(7)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、溶着部32,33の外径は、環状弁座121dの外径D11よりも大きいこと、溶着部の内径は、環状弁座121dの内径D12よりも小さいこと、を特徴とするため、溶着部32,33は、軸部材1221と薄膜部材1222,1223との境界において、当接部122bよりも大きい範囲で形成される。よって、ガスが薄膜部材1222,1223を透過し、軸部材1221と薄膜部材1222,1223の境界に溜まったとしても、当接部の位置がずれることがない。
【0086】
(3)(2)に記載の流体制御弁1,2,3,4において、溶着部32の内径は、ゼロであること、を特徴とする。
【0087】
(8)(7)に記載の流体制御弁の製造方法において、溶着部32の内径は、ゼロであること、を特徴とする。
【0088】
(3)に記載の流体制御弁1,2,3,4、または、(8)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、溶着部32の内径は、ゼロであること、を特徴とするため、軸部材1221と薄膜部材1222,1223との境界において、環状弁座121dの内周側は、全て溶着部32となる。よって、薄膜部材1222,1223を透過したガスが、軸部材1221と薄膜部材1222,1223の境界に溜まるおそれがない。
【0089】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の流体制御弁1,2,3,4おいて、溶着部32,33は、直径の異なる複数の環状の溶接痕W11-W15が、同心円状に設けられることで、形成されていること、溶着部32,33の径方向に隣接する溶接痕W11-W15は、外周側の溶接痕W11-W15が、内周側の溶接痕W11-W15の外周部に重ねられて形成されていること、を特徴とする。
【0090】
(9)(6)乃至(8)のいずれか1つに記載の流体制御弁の製造方法おいて、溶着部32,33は、直径の異なる複数の環状の溶接痕W11-W15が、同心円状に設けられることで、形成されていること、溶接痕W11-W15は、溶着部32,33の径方向の内周側から外周側に向かって、直径が漸増するように順次形成され、前記径方向に隣接する溶接痕W11-W15は、外周側の溶接痕W11-W15が、内周側の溶接痕W11-W15の外周部に重ねられて形成されること、を特徴とする。
【0091】
(4)に記載の流体制御弁1,2,3,4、または、(9)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、内周側から外周側に向かって、複数の環状の溶接痕が隙間なく形成されていくことで溶着部32が形成されるため、レーザ溶接を行う際、軸部材1221と薄膜部材1222,1223との境界における空気等の気体は、外周側に追い出されていく。これにより、軸部材1221と薄膜部材1222,1223とを隙間なく接合することが可能である。軸部材1221と薄膜部材1222,1223とを隙間なく接合することができれば、薄膜部材1222,1223を透過したガスが、軸部材1221と薄膜部材1222,1223の境界に溜まることがないため、当接部122bの位置がずれることがない。
【0092】
(5)(1)または(2)に記載の流体制御弁1,2,3,4において、軸部材1221は、軸部材1221と薄膜部材1222,1223との境界のうち溶着部33の内周側から、軸部材1221の外部に連通する通気路1224を備えること、を特徴とする。
【0093】
(10)(6)または(7)に記載の流体制御弁の製造方法において、軸部材1221は、軸部材1221と薄膜部材1222,1223との境界のうち溶着部33の内周側から、軸部材1221の外部に連通する通気路1224を備えること、を特徴とする。
【0094】
(5)に記載の流体制御弁1,2,3,4、または、(10)に記載の流体制御弁の製造方法によれば、薄膜部材1222,1223を透過したガスが、通気路1224を通って、ダイヤフラム部材122,124の外部に排出される。これにより、薄膜部材1222,1223を透過したガスが、軸部材1221と薄膜部材1222,1223の境界に溜まることが防止されるため、当接部122bの位置がずれることがない。
【0095】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、流体制御弁1の駆動方式をエアオペレイト式として説明しているが、駆動方式はこれに限定されない。また、流体制御弁1をノーマルクローズタイプとして説明しているが、ノーマルオープンタイプとしても良い。
【符号の説明】
【0096】
1 流体制御弁
32 溶着部
113 駆動軸
121d 環状弁座
122 ダイヤフラム部材
122b 当接部
1221 軸部材
1222 薄膜部材
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