(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172680
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】インバータ装置及びそれを備えた電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231129BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084650
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 康平
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA21
5H770BA05
5H770DA03
5H770JA13Y
5H770KA01W
5H770KA01Y
5H770QA27
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】低電圧回路のノイズを悪化させること無く、モータ及びハウジングから流出するコモンモード電流によるノイズを効果的に低減できるインバータ装置を提供する。
【解決手段】インバータ装置16は、スイッチング素子より構成され、高電圧電源41から電源が供給される三相のインバータ回路34を含む高電圧回路64と、低電圧電源42から電源が供給される低電圧回路63を備え、インバータ回路34によりモータ8を駆動するものであって、インバータ回路34の三相出力部に挿入されたノーマルモードコイル66を備える。インバータ装置16は電動圧縮機1のハウジング2のインバータ収容部6に収容される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子より構成され、高電圧電源から電源が供給される三相のインバータ回路を含む高電圧回路と、低電圧電源から電源が供給される低電圧回路を備え、前記インバータ回路によりモータを駆動するインバータ装置において、
前記インバータ回路の三相出力部に挿入されたノーマルモードコイルを備えたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記インバータ回路の三相出力部の何れか一相、若しくは、二相、或いは、三相全てにノーマルモードコイルを挿入したことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記ノーマルモードコイルは、低い周波数よりも高い周波数でインピーダンスが高くなるものであり、
前記インバータ回路の三相出力部には更に、高い周波数よりも低い周波数で高いインピーダンスが得られるコモンモードコイルを挿入したことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記コモンモードコイルに相当するコモンモード成分と、前記ノーマルモードコイルに相当するノーマルモード成分を一体に備えたコイルを、前記インバータ回路の三相出力部に接続したことを特徴とする請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記モータが収容されるハウジングと、該ハウジングに構成されたインバータ収容部を備え、
前記インバータ装置は、前記ハウジングのインバータ収容部に収容されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のインバータ装置を備えた電動圧縮機。
【請求項6】
前記ハウジングが、前記スイッチング素子のヒートシンクとされていることを特徴とする請求項5に記載の電動圧縮機。
【請求項7】
車両に搭載されることを特徴とする請求項5に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動するインバータ装置と、それを備えた電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両の車室内を空調するための車両用空気調和装置では、エンジン駆動の圧縮機に代わってモータを備えた電動圧縮機が使用される。その場合、車両には例えばDC300V程の高電圧バッテリから成る高電圧電源と、DC12V程の通常のバッテリから成る低電圧電源が搭載され、インバータ装置のインバータ回路により、高電圧電源の直流電圧を交流とした電圧が電動圧縮機のモータに供給される。
【0003】
一方、インバータ装置のインバータ回路を制御する制御回路には、例えば低電圧電源の直流電圧をスイッチング電源装置により所定の電圧(例えばDC15V等)に変換して給電する。そのため、スイッチング電源装置には絶縁トランスから成るスイッチングトランスが設けられ、このスイッチングトランスの一次側の低電圧回路と、二次側の高電圧回路とを絶縁している。即ち、高電圧電源から電源が供給される高電圧回路と、低電圧電源から電源が供給される低電圧回路を備えたインバータ装置が、電動圧縮機のハウジングに構成されたインバータ収容部に収容されるかたちとされていた。
【0004】
図6を用いて係る従来の電動圧縮機100の電気回路を説明する。
図6において100は電動車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路を構成する従来の電動圧縮機であり、2はそのハウジングを示している。このハウジング2内に図示しない圧縮機構と、当該圧縮機構を駆動するモータ8が収容され、ハウジング2のインバータ収容部6にはモータ8を運転するためのインバータ回路34、このインバータ回路34を制御する制御回路36、高電圧回路フィルタ(EMIフィルタ)37、低電圧回路フィルタ(EMIフィルタ)38、及び、スイッチング電源装置39等を備えたインバータ装置103が収納される。
【0005】
尚、車両には電動圧縮機100のモータ8や、図示しない走行用のモータに給電して駆動するための例えばDC300V程の高電圧バッテリから成る高電圧電源(HV電源)41と、DC12V程のバッテリから成る低電圧電源(LV電源)42が搭載されている。また、ハウジング2は車体(グランド)に導通されている。
【0006】
インバータ装置103のインバータ回路34は、三相ブリッジ接続されたIGBT等から成る図示しない6個のスイッチング素子から構成されており、各スイッチング素子は制御回路36が有するゲートドライバが生成するゲート駆動信号により制御される。また、各スイッチング素子はハウジング2と熱交換関係に配置され、スイッチング素子が発生する熱はハウジング2に放出され、スイッチング素子は冷却される構成とされている。即ち、ハウジング2が各スイッチング素子のヒートシンクとされている。
【0007】
制御回路36はマイクロプロセッサ(CPU)から構成されており、インバータ回路34の各スイッチング素子をゲートドライバによりスイッチングしてPWM変調を行うことで、高電圧電源41の直流電圧を所定周波数の交流電圧とし、モータ8に供給する。
【0008】
高電圧回路フィルタ37は高電圧電源41とインバータ回路34の間に接続されており、この例では、コモンモードコイル43、Yコンデンサ44、46、平滑コンデンサ47から構成される。この高電圧回路フィルタ37は、インバータ回路34のスイッチングにより発生するEMIノイズを低減させる作用を奏する。低電圧回路フィルタ38は、この例では、Xコンデンサ48、コモンモードコイル49、Yコンデンサ51、52、平滑コンデンサ53から構成される。低電圧回路フィルタ38は、低電圧電源42とスイッチング電源装置39の間に接続され、スイッチング電源装置39でのスイッチングにより発生するEMIノイズを低減させる作用を奏する。
【0009】
スイッチング電源装置39は、低電圧電源42(DC12V)をスイッチングして所定の直流電圧(HV15V、HV5V)を生成し、制御回路36に給電するためのDC-DCコンバータである。尚、HV15Vはインバータ回路34のゲート駆動信号を生成するゲートドライバ(制御回路36が有する)に供給される電圧であり、HV5Vは制御回路36の電源となる電圧である。
【0010】
スイッチング電源装置39は、一次巻線56と、この一次巻線56とは絶縁された二次巻線57から成る絶縁トランス(カップリングトランス)にて構成されたスイッチングトランス60と、一次巻線56に接続されたスイッチング素子58を有している。そして、スイッチングトランス60の巻数比に応じて、DC15V(HV15V)とDC5V(HV5V)が出力されるようにスイッチング素子58がスイッチング制御される。
【0011】
スイッチング電源装置39は低電圧電源42をスイッチングして制御回路36に電源を供給すると共に、スイッチングトランス60により、一次巻線56が位置する低電圧電源42側の低電圧回路101と、二次巻線57が位置する高電圧電源41側の高電圧回路102とを絶縁する。そして、このように絶縁されたインバータ装置103の高電圧回路102と低電圧回路101が、インバータ収容部6内に近接して収容されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、インバータ回路34を構成するスイッチング素子のスイッチングに伴うサージ電圧(振動電圧)はモータ8側に伝達するため、電圧変動によりモータ8とハウジング2間の浮遊容量(
図6に61で示す)を介してコモンモード電流が流出する(
図6中に矢印で示す)。特に、電動圧縮機100では、モータ8とハウジング2間の浮遊容量61を介して流出するコモンモード電流によるノイズ(コモンモードノイズ)が支配的となる。尚、
図6中の62はインバータ回路34とハウジング2間の浮遊容量である。
【0014】
一方、従来より商用交流を電源とするエアコンや給湯器等の民生用機器においては、インバータ回路の出力部にコモンモードコイルやフェライトコアを挿入することにより、モータとハウジング間の浮遊容量を介して流出する経路のインピーダンスを高めてノイズの低減を図っていた(例えば、特許文献1参照)。
【0015】
しかしながら、
図6のような電動車両に搭載される電動圧縮機100のインバータ装置103では、小型軽量化(振動対策も含む)が必須事項であり、上述した民生用機器のようにインバータ回路34の出力部にコモンモードコイルを入れる、或いは、フェライトコアを付ける等といった対策を施し難い実情がある。
【0016】
その上、前述した如くインバータ収容部6内で高電圧回路102と低電圧回路101が混在しているので、
図7に示すように高電圧回路102にあるインバータ回路34の出力部(インバータ回路34とモータ8の間)に三相のコモンモードコイル104を挿入すると、民生用機器と同様に高電圧回路102のノイズ低減は図れるものの、新たな共振が発生し、結果として高電圧回路102とカップリングしている低電圧回路101のノイズが大幅に悪化してしまうと云う問題があった。
【0017】
即ち、
図8中の(a)は高電圧回路102のノイズ測定結果を示し、横軸は周波数、縦軸はノイズレベルである。また、L100は
図6のようにコモンモードコイルを挿入していない場合、L101は
図7のようにコモンモードコイル104を挿入した場合を示している。また、
図8中の(b)は、改善差違:L100-L101を示している。
【0018】
図8(b)から明らかな如く、インバータ回路34の出力部とモータ8の間に三相のコモンモードコイル104を挿入したことにより、モータ8とハウジング2間の浮遊容量61を介して流出するコモンモード電流(
図7中に黒矢印で示す)によるノイズ(コモンモードノイズ)は低減される(
図8(b)は0より大きい程、ノイズ低減効果が大)。
【0019】
しかしながら、高電圧回路102にコモンモードコイル104を挿入したことにより、この経路のインピーダンスが高まり、ノイズを抑制して流出しないようにする作用が生じる。その結果、後述する共振よってコモンモード電流(ノイズエネルギー)が、
図7中白抜き矢印や破線矢印で示すように低電圧回路101に流出し、低電圧回路101のノイズの悪化をもたらす。
【0020】
図9中の(a)は低電圧回路101のノイズ測定結果を示し、横軸は周波数、縦軸はノイズレベルである。また、L103は
図6のようにコモンモードコイルを高電圧回路102に挿入していない場合、L104は
図7のようにコモンモードコイル104を高電圧回路102に挿入した場合を示している。また、
図9中の(b)は、それらの差違:L103-L104を示している。
【0021】
コモンモードコイル104のリーケージインダクタンスとモータ8の巻線間容量とのディファレンシャルモード共振により、
図8の6MHz付近でインピーダンスは極小値を持ち、この帯域のコモンモード電流が極端に多く流出することになる。その結果、高電圧回路102から低電圧回路101に流出するノイズが極端に大きくなり、
図9(b)から明らかな如く、低電圧回路101のノイズが大幅に悪化する(
図9(b)は0より小さい程、ノイズが増大していることを意味する)。
【0022】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、低電圧回路のノイズを悪化させること無く、モータ及びハウジングから流出するコモンモード電流によるノイズを効果的に低減することができるインバータ装置及びそれを備えた電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のインバータ装置は、スイッチング素子より構成され、高電圧電源から電源が供給される三相のインバータ回路を含む高電圧回路と、低電圧電源から電源が供給される低電圧回路を備え、インバータ回路によりモータを駆動するものであって、インバータ回路の三相出力部に挿入されたノーマルモードコイルを備えたことを特徴とする。
【0024】
請求項2の発明のインバータ装置は、上記発明においてインバータ回路の三相出力部の何れか一相、若しくは、二相、或いは、三相全てにノーマルモードコイルを挿入したことを特徴とする。
【0025】
請求項3の発明のインバータ装置は、請求項1の発明においてノーマルモードコイルは、低い周波数よりも高い周波数でインピーダンスが高くなるものであり、インバータ回路の三相出力部には更に、高い周波数よりも低い周波数で高いインピーダンスが得られるコモンモードコイルを挿入したことを特徴とする。
【0026】
請求項4の発明のインバータ装置は、上記発明においてコモンモードコイルに相当するコモンモード成分と、ノーマルモードコイルに相当するノーマルモード成分を一体に備えたコイルを、インバータ回路の三相出力部に接続したことを特徴とする。
【0027】
請求項5の発明の電動圧縮機は、上記各発明のインバータ装置と、モータが収容されるハウジングと、このハウジングに構成されたインバータ収容部を備え、インバータ装置が、ハウジングのインバータ収容部に収容されていることを特徴とする。
【0028】
請求項6の発明の電動圧縮機は、上記発明においてハウジングが、スイッチング素子のヒートシンクとされていることを特徴とする。
【0029】
請求項7の発明の電動圧縮機は、請求項5の発明において車両に搭載されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、スイッチング素子より構成され、高電圧電源から電源が供給される三相のインバータ回路を含む高電圧回路と、低電圧電源から電源が供給される低電圧回路を備え、インバータ回路によりモータを駆動するインバータ装置において、インバータ回路の三相出力部にノーマルモードコイルを挿入したので、インバータ回路の各相のスイッチング素子のスイッチングに伴うサージ電圧(振動電圧)は、ノーマルモードコイルにより損失として熱エネルギーに変換され、モータ側への伝達が抑制されることになる。
【0031】
これにより、ノーマルモードコイル以降の電圧変動率が低減され、モータとそれが収容されるハウジング間の浮遊容量を経由して流出するコモンモード電流を低減させ、高電圧回路におけるノイズ(コモンモードノイズ)を抑制することができるようになる。
【0032】
更に、ノーマルモードコイルにより電圧変動率が抑制されることで、低電圧回路に伝搬するノイズも抑制されると共に、コモンモードコイルを挿入する場合のような悪化もなく、結果として低電圧回路におけるノイズも効果的に抑制することができるようになる。これは請求項5の発明の如くインバータ装置がハウジングのインバータ収容部に収容されて、請求項6の発明の如くハウジングがスイッチング素子のヒートシンクとされ、請求項7の発明の如く小型軽量化が要求される車両搭載型の電動圧縮機において極めて好適なものとなる。
【0033】
尚、ノーマルモードコイルは、請求項2の発明の如くインバータ回路の三相出力部の何れか一相、若しくは、二相、或いは、三相全てに挿入することで効果が出る。
【0034】
ここで、インバータ回路の三相出力部にノーマルモードコイルを挿入するのみでも上記のようなノイズ抑制効果は得られるが、小型化を優先した場合、ノーマルモードコイルで低減できるのは高い周波数(数MHz以上)のノイズに限られてしまう。
【0035】
そこで、請求項3の発明の如く、インバータ回路の三相出力部に更に、高い周波数よりも低い周波数で高いインピーダンスが得られる小型でリーケージインダクタンスが低いコモンモードコイルを挿入すれば、インバータ装置の高電圧回路と低電圧回路の双方において、広帯域に渡り、効果的にノイズの抑制を図ることが可能となる。
【0036】
この場合、請求項4の発明の如くコモンモードコイルに相当するコモンモード成分と、ノーマルモードコイルに相当するノーマルモード成分を一体に備えたコイルをインバータ回路の三相出力部に接続するようにすれば、更なる小型化を図ることができるようになり、請求項7の発明の如き車両に搭載される電動圧縮機において好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明を適用した一実施例の電動圧縮機の電気回路のブロック図である(実施例1)。
【
図2】本発明の一実施例の電動圧縮機の概略断面図である。
【
図3】
図1の電動圧縮機における高電圧回路のノイズを説明する図である。
【
図4】
図1の電動圧縮機における低電圧回路のノイズを説明する図である。
【
図5】本発明を適用した他の実施例の電動圧縮機の電気回路のブロック図である(実施例2)。
【
図6】従来の電動圧縮機の電気回路のブロック図である。
【
図7】
図6の電動圧縮機のインバータ回路の出力部にコモンモードコイルを挿入した場合の電気回路のブロック図である。
【
図8】
図7の電動圧縮機における高電圧回路のノイズを説明する図である。
【
図9】
図7の電動圧縮機における低電圧回路のノイズを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。尚、下記の各図において、
図6や
図7と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。
【実施例0039】
先ず、
図2を参照しながら本発明を適用した実施例の電動圧縮機(所謂インバータ一体型電動圧縮機)1について説明する。尚、実施例の電動圧縮機1は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成するものである。
【0040】
(1)電動圧縮機1の構成
図2において、電動圧縮機1の金属性の筒状ハウジング2内は、当該ハウジング2の軸方向に交差する仕切壁3により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。
【0041】
この場合、実施例のモータ8はハウジング2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0042】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。ハウジング2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14からハウジング2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0043】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口よりハウジング2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0044】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御する本発明のインバータ装置16が収容される。この場合、インバータ装置16は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0045】
(2)インバータ装置16の構造
本発明の一実施例のインバータ装置16は、基板17と、この基板17の一面側に配線された6個のスイッチング素子18と、基板17の他面側に配線された制御回路36と、図示しないHVコネクタ、LVコネクタ等から構成されている。各スイッチング素子18は、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0046】
この場合、各スイッチング素子18が後述する三相のインバータ回路34を構成するものであり、各スイッチング素子18の端子部22は、基板17に接続されている。そして、このように組み立てられたインバータ装置16は、各スイッチング素子18がある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0047】
このようにインバータ装置16が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18は仕切壁3に直接若しくは所定の絶縁熱伝導材を介して密着し、ハウジング2の仕切壁3と熱交換関係となる。そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18Aは仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3の厚みを介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。即ち、ハウジング2(仕切壁3)が各スイッチング素子18のヒートシンクとされている。
【0048】
(3)インバータ装置16の回路構成
次に、
図1において本発明のインバータ装置16は、モータ8を運転するためのインバータ回路34と、このインバータ回路34を制御する制御回路36と、高電圧回路フィルタ(EMIフィルタ)37と、低電圧回路フィルタ(EMIフィルタ)38と、スイッチング電源装置39等から構成され、これらが前述した基板17上に配線され、前述した如くインバータ収容部6内に収納される。
【0049】
尚、車両には電動圧縮機1のモータ8や、図示しない走行用のモータに給電して駆動するための例えばDC300V程の高電圧バッテリから成る高電圧電源(HV電源)41と、DC12V程のバッテリから成る低電圧電源(LV電源)42が搭載されており、インバータ装置16は前述した図示しないHVコネクタにより高電圧電源41に接続され、LVコネクタにより低電圧電源42に接続される。また、ハウジング2は車体(グランド)に導通されている。
【0050】
インバータ回路34は、三相ブリッジ接続の前述した6個のスイッチング素子18から構成されており、各スイッチング素子18は制御回路36が有するゲートドライバが生成するゲート駆動信号により制御される。制御回路36はマイクロプロセッサ(CPU)から構成されており、インバータ回路34の各スイッチング素子18をゲートドライバによりスイッチングしてPWM変調を行うことで、高電圧電源41の直流電圧を所定周波数の交流電圧とし、モータ8に供給する。
【0051】
高電圧回路フィルタ37は高電圧電源41とインバータ回路34の間に接続されており、実施例では、コモンモードコイル43、Yコンデンサ44、46、平滑コンデンサ47から構成される。この高電圧回路フィルタ37は、インバータ回路34のスイッチングにより発生するEMIノイズを低減させる作用を奏する。低電圧回路フィルタ38は、実施例では、Xコンデンサ48、コモンモードコイル49、Yコンデンサ51、52、平滑コンデンサ53から構成される。低電圧回路フィルタ38は、低電圧電源42とスイッチング電源装置39の間に接続され、スイッチング電源装置39でのスイッチングにより発生するEMIノイズを低減させる作用を奏する。
【0052】
スイッチング電源装置39は、低電圧電源42(DC12V)をスイッチングして所定の直流電圧(HV15V、HV5V)を生成し、制御回路36に給電するためのDC-DCコンバータである。尚、HV15Vはインバータ回路34のゲート駆動信号を生成するゲートドライバ(制御回路36が有する)に供給される電圧であり、HV5Vは制御回路36の電源となる電圧である。
【0053】
スイッチング電源装置39は、一次巻線56と、この一次巻線56とは絶縁された二次巻線57から成る絶縁トランス(カップリングトランス)にて構成されたスイッチングトランス60と、一次巻線56に接続されたスイッチング素子58を有している。そして、スイッチングトランス60の巻数比に応じて、DC15V(HV15V)とDC5V(HV5V)が出力されるようにスイッチング素子58がスイッチング制御される。
【0054】
スイッチング電源装置39は低電圧電源42をスイッチングして制御回路36に電源を供給すると共に、スイッチングトランス60により、一次巻線56が位置する低電圧電源42側の低電圧回路63と、二次巻線57が位置する高電圧電源41側の高電圧回路64とを絶縁する。そして、インバータ装置16は上記のように絶縁された高電圧回路64と低電圧回路63が基板17上で近接した状態で構成され、インバータ収容部6内に収容されている。
【0055】
ここで、前述した如くインバータ回路34を構成するスイッチング素子18のスイッチングに伴うサージ電圧(振動電圧)はモータ8側に伝達するため、電圧変動によりモータ8とハウジング2間の浮遊容量61を介してコモンモード電流が流出する(
図1中に矢印で示す)。特に、実施例のような電動圧縮機1では、モータ8とハウジング2間の浮遊容量61を介して流出するコモンモード電流によるノイズ(コモンモードノイズ)が支配的となる。尚、
図7中の62は同様にインバータ回路34とハウジング2間の浮遊容量である。
【0056】
そこで、この実施例ではインバータ回路34の三相出力部(インバータ回路34とモータ8の間の三線)の三相全てにノーマルモードコイル66をそれぞれ挿入している(
図1)。尚、
図1において、66UはU相線に挿入されたノーマルモードコイル、66VはV相線に挿入されたノーマルモードコイル、66WはW相線に挿入されたノーマルモードコイルであり、これらでノーマルモードコイル66が構成される。このように、インバータ回路34の三相出力部にノーマルモードコイル66を挿入したことにより、インバータ回路34の各相のスイッチング素子18のスイッチングに伴うサージ電圧(振動電圧)は、ノーマルモードコイル66により損失として熱エネルギーに変換され、モータ8側への伝達が抑制されるようになる。
【0057】
これにより、ノーマルモードコイル66以降の電圧変動率が低減され、モータ8とハウジング2間の浮遊容量61を経由して流出するコモンモード電流(
図1に矢印で示す)を低減させ、高電圧回路64におけるノイズ(コモンモードノイズ)を抑制することができるようになる。
【0058】
更に、ノーマルモードコイル66により電圧変動率が抑制されることで、低電圧回路63に伝搬するノイズも抑制されると共に、
図7の如くコモンモードコイルを挿入する場合のような悪化もなく、結果として低電圧回路63におけるノイズも効果的に抑制することができるようになる。
【0059】
図3中の(a)は
図1の高電圧回路64のノイズ測定結果を示し、横軸は周波数、縦軸はノイズである。また、L100は前述した
図6の場合、L1は
図1のようにノーマルモードコイル66を挿入した場合を示している。また、
図3中の(b)は、改善差違:L100-L1を示している。
【0060】
図3(b)から明らかな如く、インバータ回路34の三相出力部とモータ8の間の各相にノーマルモードコイル66を挿入したことにより、インバータ回路34の各相のスイッチング素子18のスイッチングに伴うサージ電圧(振動電圧)は、ノーマルモードコイル66により損失として熱エネルギーに変換され、モータ8側への伝達が抑制され、モータ8とハウジング2間の浮遊容量61を介して流出するコモンモード電流(
図1中に黒矢印で示す)によるノイズ(コモンモードノイズ)は低減されている。
図3(b)は0より大きい程、ノイズ低減効果が大であることを示しており、特に、6MHzより高い周波数帯で効果が大であることが分かる。
【0061】
また、
図4中の(a)は
図1の低電圧回路63のノイズ測定結果を示し、横軸は周波数、縦軸はノイズである。また、L103は前述した
図6の場合、L2は
図1のようにノーマルモードコイル66を高電圧回路64に挿入した場合を示している。また、
図4中の(b)は、それらの差違:L103-L2を示している。
【0062】
図4中の(b)から明らかな如く、ノーマルモードコイル66により電圧変動率が抑制されることで、低電圧回路63に伝搬するノイズも抑制されると共に、
図7の如くコモンモードコイルを挿入する場合のような悪化もなく、結果として低電圧回路63におけるノイズも効果的に抑制できている(
図4中の(b)は0より大きい程、ノイズ低減効果が大であることを示す)。
【0063】
特に、実施例のように車両搭載型の電動圧縮機1では、高電圧回路64と低電圧回路63がハウジング2のインバータ収容部6に収容され、小型軽量化が要求されるので、上記のようなノイズ抑制効果は極めて好適なものとなる。
尚、実施例ではインバータ回路34の三相出力部の三相全てにノーマルモードコイル66をそれぞれ挿入するようにしたが、それに限らず、三相出力部のUVW相のうちの何れか一相にノーマルモードコイルを挿入するようにしてもよく、それらのうちの二相に挿入するようにしても効果がある。
また、実施例ではDC300V程の高電圧バッテリから成る高電圧電源41と、DC12V程のバッテリから成る低電圧電源42を設け、この低電圧電源42から高電圧回路64側の直流電圧(HV15V、HV5V)を生成する場合で説明したが、それに限らず、高電圧電源41から直接高電圧回路64側の直流電圧(HV15V、HV5V)を生成するようにしてもよい。
また、実施例では電動圧縮機のモータを駆動するインバータ装置で本発明を説明したが、請求項1乃至請求項3の発明ではそれに限らず、高電圧回路と低電圧回路を備えてモータを駆動する種々のインバータ装置に適用可能である。更に、実施例で示した具体的な構成や数値はそれに限られるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。