(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172681
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】粉末固化体および粉末固化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/12 20220101AFI20231129BHJP
B22F 1/148 20220101ALI20231129BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20231129BHJP
B22F 9/04 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
B22F1/12
B22F1/148
B22F1/052
B22F9/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084652
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】寿福 誠
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA03
4K017BA06
4K017BA10
4K017CA07
4K017EA01
4K017EA03
4K017EB00
4K018AB10
4K018AC01
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA17
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC11
4K018BC12
4K018CA11
(57)【要約】
【課題】取り扱いが容易で、且つ凝集体がより解砕された状態で元の金属粉末を液中に分散させることができる粉末固化体を提供する。
【解決手段】粉末固化体は、金属粉末に、水中もしくは有機溶媒中にて反応して発泡する発泡材料を混合させた状態で塊状に固められている。発泡材料は、粉末固化体100質量部に対して1~30質量部含有されている。
【選択図】無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末に、水中もしくは有機溶媒中にて反応して発泡する発泡材料を混合させた状態で塊状に固められた粉末固化体。
【請求項2】
前記粉末固化体100質量部に対して前記発泡材料が1~30質量部含有されている、請求項1に記載の粉末固化体。
【請求項3】
前記発泡材料は、炭酸塩と弱酸性化合物を含んでいる、請求項1または2に記載の粉末固化体。
【請求項4】
前記炭酸塩は、重曹と、炭酸水素アンモニウム塩のいずれか1種または2種を含み、
前記弱酸性化合物は、クエン酸と、L-アスコルビン酸のいずれか1種または2種を含んでいる、請求項3に記載の粉末固化体。
【請求項5】
前記金属粉末の平均粒子径が10μm以下である、請求項1に記載の粉末固化体。
【請求項6】
前記金属粉末はSiを含んでいる、請求項1に記載の粉末固化体。
【請求項7】
請求項1に記載の粉末固化体を製造する方法であって、
前記金属粉末および前記発泡材料を混合したスラリーを容器に充填した後、前記スラリーを乾燥固化して前記粉末固化体を得る、粉末固化体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の粉末固化体を製造する方法であって、
前記金属粉末および前記発泡材料を混合した混合紛末を、圧粉成形して前記粉末固化体を得る、粉末固化体の製造方法。
【請求項9】
前記発泡材料は、炭酸塩と弱酸性化合物とを含んでいる、請求項7または8に記載の粉末固化体の製造方法。
【請求項10】
前記炭酸塩は、重曹と、炭酸水素アンモニウム塩のいずれか1種または2種を含み、
前記弱酸性化合物は、クエン酸と、L-アスコルビン酸のいずれか1種または2種を含んでいる、請求項9に記載の粉末固化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末固化体および粉末固化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サブミクロンオーダーやナノオーダーに微粉砕された金属粉末は、電子部品の原材料などの広い用途で用いられている(例えば下記特許文献1参照)。しかしながらこのような微粉砕された金属粉末は、その保存や搬送時に、粉塵の飛散や発火の虞が生じる場合があるほか、粉末の全体形状が流動的に変化してしまったり、体積的に嵩張ってしまうなど、取扱いが難しい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微粉末であることに起因するこのような問題点を解消するために、微粉末を一時的に所定の大きさの固化体に成形して取扱いを容易にすることも考えられるが、固化体に成形したものを元の微粉末に戻す際に、十分に分散されずにダマ(凝集体)が生じ易くなってしまう。
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、取り扱いが容易で、且つ凝集体がより解砕された状態で元の金属粉末を液中に分散させることができる粉末固化体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記のように本発明に想到した。
【0007】
而して本発明の第1の局面の粉末固化体は、次のように規定される。即ち、
金属粉末に、水中もしくは有機溶媒中にて反応して発泡する発泡材料を混合させた状態で塊状に固められたものである。
【0008】
このように規定された第1の局面の粉末固化体は、金属粉末が塊状に固められたものであるため、金属粉末自体がサブミクロンオーダーやナノオーダーの微粉末であったとしても、大きな塊状の粉末固化体として取り扱うことができ、微粉末であることに起因する取扱い上の問題点を解消することができる。
また第1の局面の粉末固化体は、水中もしくは有機溶媒中にて反応して発泡する発泡材料を内部に備えているため、この発泡材料を液中で発泡させ、発砲ガスの破裂エネルギーを利用することで、凝集体がより解砕された状態で元の金属粉末を液中に分散させることができる。
【0009】
ここで、前記発泡材料を、粉末固化体100質量部に対して1~30質量部含有させることができる(第2の局面)。凝集体を解砕する効果を高めるためには、発泡材料を1質量部以上含有させることが好ましい。但し、過度に発泡材料比率を高めた場合、相対的に金属粉末の量が低下してしまうことから、発泡材料の比率は1~30質量部とすることが好ましい。
【0010】
この粉末固化体に含有される発泡材料は、炭酸塩と弱酸性化合物を含むものとすることができる(第3の局面)。
ここで、前記炭酸塩は、重曹と、炭酸水素アンモニウム塩のいずれか1種または2種を含み、前記弱酸性化合物は、クエン酸と、L-アスコルビン酸のいずれか1種または2種を含むものとすることができる(第4の局面)。
【0011】
この粉末固化体は、平均粒子径が10μm以下の金属粉末に適用して好適であり(第5の局面)、Siを含む金属粉末に適用することができる(第6の局面)。
【0012】
この発明の第7の局面の粉末固化体の製造方法は次のように規定される。即ち、
第1の局面に記載の粉末固化体を製造する方法であって、
前記金属粉末および前記発泡材料を混合したスラリーを容器に充填した後、前記スラリーを乾燥固化して前記粉末固化体を得る。
【0013】
この発明の第8の局面の粉末固化体の製造方法は次のように規定される。即ち、
第1の局面に記載の粉末固化体を製造する方法であって、
前記金属粉末および前記発泡材料を混合した混合粉末を、圧粉成形して前記粉末固化体を得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態の粉末固化体の製造方法を示したフローチャートである。
【
図2】
図1とは異なる製造方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の一実施形態の粉末固化体について具体的に説明する。
本実施形態の粉末固化体は、微粉砕された金属粉末が塊状に固められたもので、その内部には水中にて反応し発泡する発泡材料が混合されている。
【0016】
金属粉末としては、1種もしくは2種以上の元素を含む金属組成物が微粉化されたものとすることができる。金属粉末の粒子径は特に限定されるものではなく、金属粉末の用途に応じた粒子径とすることができるが、本実施形態の粉末固化体は、平均粒子径が10μm以下で、発火や燃焼の虞が生じやすい金属粉末に適用して特に有効である。本実施形態の粉末固化体によれば、金属粉末自体が微粉化されたものであっても、大きな塊状の粉末固化体として取り扱うことができ、微粉末であることに起因する取扱い上の問題点を解消することができる。また、微粉末を固化体とすることで不燃性を高めることができる。
ここで、金属粉末の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察される粒子の輪郭線から得られる最大長さで規定される。そして平均粒子径は、数~数十視野中から観察された粒子径の平均である。
【0017】
発泡材料は、水中にて反応して発泡ガスを発生させる。本実施形態では、発泡材料が発泡した際の破裂エネルギーを利用して、粉末固化体を粉末に戻す際に生じる凝集体を解砕し、凝集体のサイズを抑制する。
発泡材料としては、有機溶媒中にあっても反応せず、水中において反応して炭酸ガスを発生させる重曹(炭酸水素ナトリウム)およびクエン酸を、本例における発泡材料として例示することができる。また、これらに代えて、重曹とL-アスコルピン酸の組み合わせや、炭酸水素アンモニウムとクエン酸の組み合わせを例示することができる。
発泡材料中における炭酸塩と弱酸性化合物の割合は、重量比で1(炭酸塩):10(弱酸性化合物)~10(炭酸塩):1(弱酸性化合物)であることが好ましい。
【0018】
発泡材料は、粉末固化体100質量部に対して1~30質量部含有させることができる。凝集体のサイズを抑制する効果を高めるためには、発泡材料を1質量部以上含有させることが好ましい。但し、過度に発泡材料比率を高めた場合は相対的に金属粉末量が低下してしまうことから、発泡材料の比率は1~30質量部とすることが好ましい。より好ましい発泡材料の比率は5~10質量部である。
【0019】
図1は、本実施形態の粉末固化体の製造方法を示したフローチャートである。同図で示すように、本実施形態の粉末固化体は、原材料準備S001、湿式粉砕S003、発泡材料混合S005、容器充填S007および乾燥S009の各ステップを経て製造される。
【0020】
先ず、原材料準備S001では、原材料としての金属組成物を準備する。所定の化学組成となるように各原料を量り取り、量り取った各原料を、アーク炉、高周波誘導炉、加熱炉などの溶解手段を用いて溶解させるなどして得た合金溶湯を、アトマイズ法を用いて急冷して粒状の金属組成物を得ることができる。またアトマイズ法に代えてロール急冷法を用いて箔片化された金属組成物を原材料とすることも可能である。
【0021】
湿式粉砕S003は、準備した原材料としての金属組成物を粉砕装置に投入して微粉砕する。粉砕装置としては、金属組成物を所望の粒子径に粉砕できるものであれば特に制限はなく、例えばビーズミル等の粉砕装置を用いることができる。粉砕時の使用される溶媒として、メタノール、エタノール等のアルコールを用いることができる。湿式粉砕S003では、湿式粉砕により、微粉砕された金属粉末を含むスラリーが得られる。
【0022】
発泡材料混合S005では、湿式粉砕で得たスラリーに対して、所定の配合比率の発泡材料(例えば、重曹およびクエン酸である)を添加し、ボールミルやミキサ等により混合する。発泡材料は、スラリー中の溶媒(アルコール)に反応しないため粉末状態のまま溶媒中に分散する。
【0023】
そして、前記スラリーを、所定形状を有する容器内に充填し(S007)、乾燥させる(S009)。これにより、金属粉末に発泡材料を混合させた状態で塊状に固められた粉末固化体が得られる。なお、乾燥のステップS009においては、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等の手段を用いることができる。真空乾燥を用いた場合は、粉末固化体がポーラス状となるので毛細管現象により水が内部まで浸透しやすくなり、発泡による凝集体解砕効果を高めることができる。
【0024】
なお、本実施形態の粉末固化体は、
図2で示す方法によっても製造可能である。
図2の例では、粉末固化体が、原材料準備S001、湿式粉砕S003、乾燥S011、発泡材料混合S013および圧粉成形S015の各ステップを経て製造される。
詳しくは、
図1の場合の同様に、原材料準備S001および湿式粉砕S003を経て作製されたスラリーを、ステップS011にて乾燥させて乾燥粉とする。そして得られた乾燥粉と発泡材料とを混合させ(S013)、圧粉成形(S015)することで、ペレット化された粉末固化体を得ることができる。
【実施例0025】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。ここでは、下記表1に示す16種の粉末固化体もしくは金属粉末を作製し、可燃性、かさ密度、混練後の凝集体サイズについて評価した。
【0026】
1.粉末固化体の作製
下記表1に示す原料粉末を、ビーズミルにて湿式粉砕し、平均粒子径300nmとなるように微粉砕した(湿式溶媒はエタノールである)。このようにして得られたスラリーに、表1で示した所定の配合比率の発泡材料を添加してミキサにて混合した。そしてスラリーを容器内に充填して真空乾燥を行い、一辺が10mmの立方体状に成形された粉末固化体を作製した。なお、発泡材料中の炭酸塩と弱酸性化合物の割合は、重量比で1:1である。
【0027】
なお、下記表1の比較例1と比較例2は何れも発泡材料が添加されていない例である。比較例1では、発泡材料が添加されていないスラリーをそのまま容器に充填し、真空乾燥を行い粉末固化体を作製した。比較例2では、発泡材料が添加されていないスラリーをミキサで撹拌しながら乾燥させて、非塊状の乾燥粉(金属材料の微粉末)とした。
【0028】
【0029】
2.評価
2-1.可燃性
作製した粉末固化体について、危険物第2類(可燃性固体)の判定試験である小ガス炎着火試験を下記に示す手順で行った。
(1)厚さ10mm以上の無機質断熱板の上に、試料としての粉末固化体を置く(比較例2の金属粉末については半球状に置く)。
(2)先端が長い携帯用簡易着火器具を用い、液化石油ガスの火炎を長さ約70mmに調節して、試料に10秒間接触(火炎と試料の接触面積は1~2cm2,接触角度約30度)させた後、試料から炎を遠ざける。
(3)上記(1)および(2)の操作を10回以上繰り返し、接炎から試料に着火するまでの時間と、燃焼が継続するかを確認する。
判定は、着火時間が10秒以下の場合を「可燃性固体」、着火時間10秒を超える場合又は燃焼が継続しない場合を「非危険物」とした。その結果を表1に示している。
【0030】
2-2.かさ密度評価
作製した粉末固化体(比較例2は金属粉末)についてのかさ密度は、500ml容器に粉末固化体または比較例2の金属粉末を充填することによって、測定した。
【0031】
2-3.凝集体サイズ評価
作製した粉末固化体(比較例2は金属粉末)と水系バインダー(ポリアクリル酸系バインダー)とを、質量比90/10の比率で混合し、撹拌脱泡機で混錬してスラリーを作製した。そして、グラインドゲージを用いて混錬後のスラリー中に存在する凝集体のサイズを確認した。その結果を表1に示している。
【0032】
以上のようにして得られた表1の結果から次のことが分かる。
固化されていないSi合金の微粉末である比較例2は、凝集体サイズが小さく抑えられており、水系バインダー中での分散性は良好であったが、不燃性が確保できておらず第2類の危険物(可燃性固体)に該当するものであった。また、かさ密度が低く体積的に嵩張るため、その取扱いが難しい。
【0033】
一方、Si合金の微粉末を固化体とした比較例1は、第2類の危険物に該当せず、かさ密度も比較例2に比べて高められており、取扱い性が改善されている。しかしながら、混練後の凝集体のサイズは100μm以上で、比較例2に比べて10倍以上大きく、水系バインダー中での分散性が悪化している。
このように比較例のものは、取り扱い性もしくは分散性の何れかに問題をあることが分かる。
【0034】
これに対し、金属材料の微粉末に発泡材料を混合させた状態で塊状に固められた各実施例は、取り扱い性および分散性がバランスよく改善されたものであることが分かる。
各実施例は、何れも第2類の危険物に該当せず、かさ密度も粉末状の比較例2に比べて高められており、微粉末であることに起因する取扱い上の問題点が解消されている。混練後の凝集体のサイズについても、粉末状の比較例2には劣るものの、発泡材料が添加されないまま固化された比較例2の100μm以上に比べて、20~40μmと大幅に改善されている。この効果は水と発泡材料とが接触した際に発生したガスの破裂エネルギーにより、凝集体がより解砕されたことによるものであると考えられる。各実施例で示された粉末固化体であれば、これを電極材料として、水系バインダーに混ぜてペースト状として基材に塗布する場合であっても、均一に塗布することが可能であると推測される。
【0035】
以上、本発明の実施形態および実施例について詳しく説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。例えば、上記実施形態および実施例は、一旦固化させた粉末固化体を水中で元の金属粉末に戻した例であったが、粉末固化体を有機溶媒中で元の金属粉末に戻す場合には、水中にあっても反応せず、有機溶媒中において発泡ガスを発生させる、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドなどの発泡材料を用いることも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。