(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172688
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20231129BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20231129BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60C11/12 D
B60C5/00 H
B60C11/12 A
B60C11/03 B
B60C11/03 100C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084662
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴山 健輔
(72)【発明者】
【氏名】坂田 浩一
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB11
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC15
3D131BC18
3D131BC19
3D131BC20
3D131BC44
3D131CB06
3D131EB05V
3D131EB11X
3D131EB14Z
3D131EB23V
3D131EB23X
3D131EB24V
3D131EB24X
3D131EB27V
3D131EB31X
3D131EB46X
3D131EB47V
3D131EB81X
3D131EB82V
3D131EB87V
3D131EB91V
3D131EB94V
3D131EC01V
3D131EC24Z
(57)【要約】
【課題】車両旋回時の操縦安定性を向上させる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】実施形態の一例である空気入りタイヤ1において、トレッド10は、センターリブ40を有する。センターリブ40には、タイヤ周方向に間隔をあけて第1サイプ41が複数形成されている。第1サイプ41は、センターリブ40を横断するサイプであって、主溝20から延びる第1部分41aと、タイヤ周方向に第1部分41aと離れて配置され、主溝22から延びる第2部分41bと、第1部分41aと第2部分41bを接続する第3部分41cとを含み、平面視略S字形状を有することが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドを備え、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤであって、
前記トレッドは、
タイヤ周方向に延びる第1主溝と、
前記第1主溝よりも車両外側に配置される第2主溝と、
前記第1主溝と前記第2主溝により区画されるセンターリブと、
を有し、
前記センターリブには、第1サイプが形成され、
前記第1サイプは、前記第1主溝からタイヤ周方向および軸方向に傾斜して延びる第1部分と、タイヤ周方向に前記第1部分と離れて配置され、前記第2主溝からタイヤ周方向および軸方向に傾斜して延びる第2部分と、前記第1部分と前記第2部分を接続する第3部分と、を含む、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1サイプは、平面視において略S字形状を有する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記センターリブにおいて前記各第1サイプとタイヤ軸方向に重なる領域には、前記第1主溝から延びてリブ内で終端する複数の第2サイプからなる第2サイプ群と、前記第2主溝から延びてリブ内で終端する複数の第3サイプからなる第3サイプ群とがそれぞれ複数形成され、
前記各第2サイプ群において前記複数の第2サイプは、互いに異なる長さを有し、前記第1サイプの前記第1部分に近づくほど長く、
前記各第3サイプ群において前記複数の第3サイプは、互いに異なる長さを有し、前記第1サイプの前記第2部分に近づくほど長い、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記センターリブにおいて前記各第1サイプの間に位置する領域には、前記センターリブを横断する平面視略直線状の第4サイプが形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッドは、タイヤ周方向に延びる3本の主溝を有し、
前記3本の主溝の中で中央に位置するセンター主溝は、タイヤ赤道上に配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記トレッドは、
タイヤ赤道よりも車両内側に配置される第1ショルダーブロックと、
タイヤ赤道よりも車両外側に配置される第2ショルダーブロックと、
をさらに有し、
前記第2ショルダーブロックには、タイヤ軸方向に延びる横溝が形成され、
前記横溝は、サイプを介して前記第2主溝につながっている、請求項1~3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記トレッドは、
前記第1主溝よりも車両内側に配置される第3主溝と、
前記第1主溝と前記第3主溝により区画される第2のセンターリブと、
をさらに有し、
前記第2のセンターリブを横断するサイプの本数は、前記センターリブを横断するサイプの本数よりも多い、請求項1~3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、より詳しくは、車両に対する装着方向が指定されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ周方向に延びる複数の主溝と、主溝により区画されたリブとを有するトレッドを備え、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤが広く知られている。車両に対する装着方向が指定されたタイヤは、一般的に、トレッドパターンが左右非対称である。例えば、特許文献1には、タイヤ周方向に延びる3本の主溝と、3本の主溝により区画された2本のセンターリブとを有し、各センターリブに互いに異なるパターンでサイプが形成された空気入りタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に対する装着方向が指定されたタイヤは、車両内側の領域と車両外側の領域とで機能配分を図ることができるので、装着方向が無指定のタイヤと比較して、例えば、グリップ性能、排水性能等に優れる。このようなタイヤにおいて、制動性能等を損なうことなく、車両旋回時の操縦安定性を向上させることは重要な課題である。なお、特許文献1に開示されたタイヤは、旋回時の操縦安定性について大いに改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッドを備え、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤであって、トレッドは、タイヤ周方向に延びる第1主溝と、第1主溝よりも車両外側に配置される第2主溝と、第1主溝と第2主溝により区画されるセンターリブとを有し、センターリブには、第1サイプが形成され、第1サイプは、第1主溝からタイヤ周方向および軸方向に傾斜して延びる第1部分と、タイヤ周方向に第1部分と離れて配置され、第2主溝からタイヤ周方向および軸方向に傾斜して延びる第2部分と、第1部分と第2部分を接続する第3部分とを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る空気入りタイヤによれば、車両旋回時の操縦安定性を向上させることができる。本発明に係る空気入りタイヤによれば、車両外側のセンターリブに形成された第1サイプの機能により、旋回時に受ける横方向の力に対してエッジ成分が発生し、優れた操縦安定性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の一例である空気入りタイヤの斜視図であって、タイヤの内部構造を併せて示す。
【
図2】実施形態の一例である空気入りタイヤの平面図である。
【
図3】第1のセンターブロックを拡大して示す平面図である。
【
図4】第2のセンターブロックを拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する実施形態の各構成要素を選択的に組み合わせてなる形態は本発明に含まれている。
【0009】
図1は、実施形態の一例である空気入りタイヤ1の斜視図である。
図1では、空気入りタイヤ1の内部構造を併せて図示している。
図1に示すように、空気入りタイヤ1は、路面に接地する部分であるトレッド10を備える。トレッド10は、少なくとも、2本の主溝20,22と、主溝20,22により区画されるセンターリブ40とを有し、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。本実施形態では、タイヤ周方向に延びる3本の主溝20,21,22が形成されている。3本の主溝は、タイヤ軸方向に曲がることなく、タイヤ周方向に沿って真っ直ぐに形成されている。
【0010】
空気入りタイヤ1は、車両に対する装着方向が指定されたタイヤであって、車両の右側と左側とで車両に装着する向きが反対になる。トレッド10は、タイヤ赤道CL(
図2参照)に対して左右非対称のトレッドパターンを有する。赤道CLとは、トレッド10のタイヤ軸方向のちょうど中央を通るタイヤ周方向に沿った仮想線である。本明細書では、説明の便宜上「左右」の用語を使用するが、この左右とは、空気入りタイヤ1が車両に装着された状態で車両の進行方向に向かって左右を意味する。
【0011】
本実施形態では、3本の主溝20,21,22の中で中央に位置するセンター主溝20が、赤道CL上に配置されている。主溝20は、赤道CLに沿ってタイヤ周方向に真っ直ぐに形成され、主溝20の幅方向中央は赤道CL上に位置している。3本の主溝20,21,22は、互いに平行に形成され、互いに同じ幅、深さを有していてもよく、互いに異なる幅、深さを有していてもよい。主溝20と主溝21のタイヤ軸方向の間隔、および主溝20と主溝22のタイヤ軸方向の間隔は、実質的に同じである。
【0012】
トレッド10は、センターリブ30,40と、ショルダーブロック50,60とを有する。リブおよびブロックは、主溝の底に対応する位置からタイヤ径方向外側に向かって隆起した部分であって、陸とも呼ばれる。一般的に、トレッドのリブとは、主溝に挟まれた幅の細い陸であって、タイヤ周方向に連続して環状に形成されたものを意味する。ブロックとは、リブよりも幅広の陸、或いはタイヤ周方向に断続的に形成された陸を意味する。
【0013】
空気入りタイヤ1が車両に装着された状態において、ショルダーブロック50(第1ショルダーブロック)は車両内側に配置され、ショルダーブロック60(第2ショルダーブロック)は車両外側に配置されている。言い換えると、空気入りタイヤ1は、ショルダーブロック50が車両内側に位置し、ショルダーブロック60が車両外側に位置するように車両に装着される。また、センターリブ30は、ショルダーブロック50と赤道CLの間に配置され、センターリブ40は、ショルダーブロック60と赤道CLの間に配置されている。
【0014】
空気入りタイヤ1は、タイヤ軸方向外側に膨らんだ一対のサイドウォール11と、一対のビード12とを備える。ビード12は、ホイールのリムに固定される部分であって、ビードコア17とビードフィラー18を有する。サイドウォール11とビード12は、タイヤ周方向に沿って環状に形成され、空気入りタイヤ1の側面を構成している。サイドウォール11は、トレッド10のタイヤ軸方向両端からタイヤ径方向に延びている。
【0015】
空気入りタイヤ1には、トレッド10の接地端E1,E2と、サイドウォール11のタイヤ軸方向外側に最も張り出した部分との間に、サイドリブ13が形成されていてもよい。なお、接地端E1は車両内側の接地端、接地端E2は車両外側の接地端であり、それぞれショルダーブロック50,60に存在する。サイドリブ13は、タイヤ軸方向外側に向かって突出し、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。空気入りタイヤ1の接地端E1,E2、又はその近傍から左右のサイドリブ13までの部分は、ショルダー又はバットレス領域とも呼ばれる。
【0016】
トレッド10とサイドウォール11は、一般的に、異なる種類のゴムで構成されている。ショルダーは、トレッド10と同じゴムで構成されていてもよく、異なるゴムで構成されていてもよい。本明細書において、接地端E1,E2は、未使用の空気入りタイヤ1を正規リムに装着して正規内圧となるように空気を充填した状態で所定の荷重を加えたときに、平坦な路面に接地する領域(接地面)のタイヤ軸方向両端と定義される。乗用車用タイヤの場合、所定の荷重は正規荷重の88%に相当する荷重である。
【0017】
ここで、「正規リム」とは、タイヤ規格により定められたリムであって、JATMAであれば「標準リム」、TRAおよびETRTOであれば「Measuring Rim」である。「正規内圧」は、JATMAであれば「最高空気圧」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。正規内圧は、乗用車用タイヤの場合は通常180kPaであるが、Extra Load、又はReinforcedと記載されたタイヤの場合は220kPaとする。「正規荷重」は、JATMAであれば「最大負荷能力」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」である。
【0018】
空気入りタイヤ1は、カーカス14、ベルト15、およびインナーライナー16を備える。カーカス14は、ゴムで被覆されたコード層であり、荷重、衝撃、空気圧等に耐える空気入りタイヤ1の骨格を形成する。ベルト15は、トレッド10を構成するゴムとカーカス14との間に配置される補強帯である。ベルト15は、カーカス14を強く締めつけて空気入りタイヤ1の剛性を高める。インナーライナー16は、カーカス14の内周面に設けられたゴム層であって、空気入りタイヤ1の空気圧を保持する。
【0019】
空気入りタイヤ1は車両に対する装着方向が指定されたタイヤとして使用されるため、空気入りタイヤ1は、車両に対する装着方向を示すための表示を有することが好ましい。装着方向を示す表示は、車両内側又は外側を示す文字、記号、イラスト等であってもよく、その構成は特に限定されない。一般的に、空気入りタイヤ1の側面にはセリアルと呼ばれる記号が設けられているが、装着方向を示す表示としてセリアルを用いてもよい。
【0020】
セリアルには、例えば、サイズコード、製造時期(製造年週)、製造場所(製造工場コード)などの情報が含まれる。車両の外側を向く空気入りタイヤ1の側面(サイドウォール11)のみにセリアルを設ける、或いは車両の外側を向く側面と内側を向く側面とで異なるセリアルを設けることで、車両に対する空気入りタイヤ1の装着方向を特定してもよい。具体例としては、空気入りタイヤ1の両側面に製造工場コードおよびサイズコードを設け、車両の外側を向く側面のみに製造年週を設けることが挙げられる。
【0021】
以下、
図2を参照しながら、空気入りタイヤ1のトレッドパターンについて詳説する。
図2は、空気入りタイヤ1(トレッド10)の平面図である。
【0022】
図2に示すように、トレッド10は、赤道CLに対して左右非対称のトレッドパターンを有する。以下では、赤道CLより接地端E1側の領域を第1領域10Aとし、赤道CLより接地端E2側の領域を第2領域10Bとする。詳しくは後述するが、空気入りタイヤ1のトレッドパターンは、第1領域10Aが車両内側に、第2領域10Bが車両外側に位置するように、車両に対してタイヤが装着された場合に、優れた制動性能と旋回時の操縦安定性を発揮する。
【0023】
トレッド10は、赤道CL上に形成された主溝20(センター主溝)と、赤道CLと車両内側の接地端E1との間に形成された主溝21と、赤道CLと車両外側の接地端E2との間に形成された主溝22と、当該3本の主溝により区画された複数のリブおよびブロックとを有する。3本の主溝の幅は、例えば、9~13mmである。本明細書において、溝の幅とは、特に断らない限り、トレッド10の接地面に沿ったプロファイル面における幅を意味する。
【0024】
3本の主溝20,21,22の少なくともいずれかには、一般的に、摩耗インジケータ(図示せず)が設けられる。摩耗インジケータは、溝底に配置される突起であって、トレッドゴムの摩耗レベルを確認するための指標となる。後述するサイプおよび横溝は、一般的に、摩耗インジケータの上面よりも深く形成される。なお、主溝の壁は、溝底に向かって次第に溝幅が細くなるように傾斜している。主溝の壁はリブおよびブロックの測壁を構成するため、言い換えると、リブおよびブロックの側壁は接地面から離れるほど幅が広くなるように側壁が傾斜している。
【0025】
トレッド10は、上記の通り、センターリブ30,40と、ショルダーブロック50,60とを有する。詳しくは後述するが、センターリブ30,40には、幅が2mm以下の細線状のサイプが複数形成されているが、幅が2mmを超える溝は形成されていない。ショルダーブロック60には、幅が2mmを超える横溝61,62が形成されているが、横溝61,62の赤道CL側の端はブロック内で終端しており、ブロックの接地面を横断する溝は形成されていない。他方、ショルダーブロック50は、横溝51により接地面がタイヤ周方向に分断されている。
【0026】
センターリブ30,40は、センター主溝20により分断されている。また、センターリブ30は主溝21によりショルダーブロック50と分断され、センターリブ40は主溝22によりショルダーブロック60と分断されている。本実施形態では、赤道CL(主溝20)から等距離の位置に主溝21,22がそれぞれ形成され、センターリブ30,40は互いに同じ幅を有する。また、ショルダーブロック50,60は、センターリブ30,40より幅広に形成され、互いに同じ幅を有する。
【0027】
なお、タイヤに幅広の溝が存在すると、タイヤの転動時(車両走行時)にエアーポンピング音と呼ばれるノイズが発生する。エアーポンピング音とは、エアーポンピング作用により溝の空洞内に生じる共鳴音である。接地により溝が圧縮変形すると、溝内の空気の一部が溝の開口部から放出されて気柱共鳴振動を起こす。また、溝が路面から離れる際には、溝が元の形状に戻ることで溝の空洞内に空気が流入して空気振動が生じる。これがエアーポンピング作用であり、車両走行時にタイヤから発生するノイズの一因となる。
【0028】
空気入りタイヤ1によれば、センターリブ30,40に幅広の溝が形成されていないため、エアーポンピング音の発生が抑制され、トレッドパターンに起因するノイズを効果的に低減できる。詳しくは後述するが、空気入りタイヤ1によれば、センターリブ30,40のサイプ、ショルダーブロック50,60の横溝の形成パターンを工夫することで、ノイズを効果的に低減しつつ、優れた制動性能と操縦安定性を実現できる。空気入りタイヤ1は、ドライ路面だけでなく、ウェット路面、雪氷路面における性能にも優れ、オールシーズンタイヤに好適である。
【0029】
以下、
図2に加えて、
図3および
図4を適宜参照しながら、トレッドパターンを構成するセンターリブ30,40、およびショルダーブロック50,60について、さらに詳説する。
図3はセンターリブ30の拡大図、
図4はセンターリブ40の拡大図である。なお、
図3および
図4では、各センターリブの接地面にドットハッチングを付している。
【0030】
[センターリブ30]
図2および
図3に示すように、センターリブ30は、タイヤ周方向に沿って真っ直ぐに形成され、全長にわたって一定の幅を有している。センターリブ30の接地面の幅は、例えば、接地端E1から接地端E2までのタイヤ軸方向に沿った長さ(以下、「タイヤ接地幅」とする)の12~25%に相当する幅を有する。センターリブ30の幅が当該範囲内であれば、制動性能の改善効果がより顕著になる。センターリブ30の幅の一例は、15~35mmである。
【0031】
センターリブ30には、タイヤ周方向に間隔をあけてサイプ31が複数形成されている。本明細書では、溝幅が2.0mm以下、好ましくは1.5mm以下の細溝をサイプと定義する。サイプの幅は、例えば、0.5~1.5mm、又は0.5~1.0mmである。サイプ31は、制動性能の向上に大きく寄与し、また旋回時の操縦安定性の改善にも寄与する。センターリブ30には、サイプ31と形状が異なる他のサイプが形成されていてもよいが、本実施形態ではサイプ31のみが形成されている。各サイプ31は、実質的に同じ形状を有する。詳しくは後述するが、センターリブ30を横断するサイプの本数は、センターリブ40を横断するサイプの本数より多い。
【0032】
サイプ31は、例えば、タイヤ周方向に所定本数単位で僅かにサイプ同士の間隔を変化させたバリアブルピッチで形成されていてもよく、同じ間隔で形成されていてもよい。サイプ31の本数は特に限定されないが、一例としては、1つのピッチ(所定本数単位)において2~6本である。タイヤ周方向に隣り合うサイプ31同士の間隔は、例えば、主溝20の幅より小さく、5~30mmである。また、サイプ31同士の間隔は、センターリブ40に形成されるサイプ同士の間隔よりも小さくなっている。
【0033】
サイプ31は、センターリブ30を横断するサイプであって、センターリブ30の平面視において当該サイプの長さ方向両端(第1端31dおよび第2端31e)よりもタイヤ周方向一方側に突出するように曲がった屈曲部31cを有する。
図3では、センターリブ30の接地面におけるサイプ31の長さ方向両端について、車両外側(主溝21側)の端を第1端31d、赤道CL側(主溝20側)の端を第2端31eとしている。なお、サイプ31は、溝底に向かって次第に溝幅が細くなるように傾斜した主溝20,21の壁(リブの側壁)に開口している。
【0034】
サイプ31がセンターリブ30を横断して主溝20,21に連通することで、トレッド10のタイヤ軸方向中央部で空気が流れる流路が多くなり、気柱管共鳴周波数の合致が避けられ、主溝20,21での気柱共鳴音の発生も抑制される。
【0035】
サイプ31は、屈曲部31cで大きく曲がり、第1端31dから屈曲部31cまでの部分である第1部分31aと、第2端31eから屈曲部31cまでの部分である第2部分31bとを含む。空気入りタイヤ1は、サイプ31のエッジ効果により優れた制動性能を発揮する。車両の制動時には車両内側の第1領域10Aで接地面積が大きくなるため、センターリブ30に多くのサイプ31を形成することでエッジ効果が高まり、雪氷路面における制動性能も大きく向上する。また、大きく屈曲したサイプ31により、横方向のエッジ成分が増加し、車両旋回時の操縦安定性も向上する。
【0036】
サイプ31の深さは、例えば、最も深い部分で主溝20の深さの60~90%である。サイプ31は、長さ方向両端から所定の長さ範囲において、他の部分よりも深さが浅くなっていてもよい。この場合、サイプ31の形成によるセンターリブ30の剛性低下を抑制でき、制動性能の改善効果がより顕著になる。所定の長さ範囲は、例えば、センターリブ30の幅の3~10%に相当する長さの範囲である。第2部分31bは、全長にわたって最深部より浅く形成されていてもよい。
【0037】
サイプ31は、屈曲部31cにおいて略直角に曲がっていることが好ましい。ここで、屈曲部31cでサイプ31が曲がる角度とは、センターリブ30の平面視において、第1部分31aと第2部分31bとがなす角度θ(
図3参照)を意味する。略直角とは、実質的に直角とみなされる角度であって、好適な角度θの一例は90°±10°、又は90°±5°である。屈曲部31cは、リブの亀裂等の起点とならないように、角張ることなく緩やかに湾曲していることが好ましい。
【0038】
サイプ31は屈曲部31cで大きく曲がっているため、第1部分31aおよび第2部分31bはタイヤ周方向およびタイヤ軸方向に対して所定の角度で傾斜している。なお、第1部分31aと第2部分31bは、互いに直交する方向に延びている。本実施形態では、タイヤ軸方向に対する傾斜角度が、第1部分31aの傾斜角度>第2部分31bの傾斜角度となっている。タイヤ軸方向に対する第1部分31a、第2部分31bの傾斜角度は、例えば、30~60°、又は35~55°である。この場合、車両旋回時の操縦安定性の向上を図りつつ、制動性能の改善効果がより顕著になる。
【0039】
屈曲部31cは、センターリブ30の幅方向において赤道CL側(第2端31e側)に形成されている。車両旋回時には車両外側に位置する第2領域10Bに大きな荷重がかかるため、第2領域10Bに近い赤道CL寄りに屈曲部31cを形成することで、操縦安定性の改善効果が大きくなる。屈曲部31cは、例えば、センターリブ30の第2端31eからリブ幅の10~30%に相当する長さの範囲内に形成されている。また、各サイプ31の屈曲部31cは、タイヤ周方向に一列に並んで形成されている。この場合、より信頼性の高いタイヤ性能を発揮できる。
【0040】
サイプ31は、屈曲部31cがセンターリブ30の幅方向中央よりも第2端31e側に形成されているため、第1部分31aが第2部分31bよりも長く延びた形状を有している。第1部分31aの長さは、例えば、第2部分31bの長さの3~10倍、又は4~8倍である。第1部分31aは、後述するセンターリブ40の第2サイプ42、第3サイプ43、および第4サイプ44と略同じ方向に延びている。第2部分31bは、第2サイプ42等が延びる方向と略直交する方向に延びている。
【0041】
図3に示すように、本実施形態では、タイヤ周方向に隣り合うサイプ31を、サイプA、サイプBと定義した場合に、サイプAのショルダーブロック50側の第1端31dは、サイプBの屈曲部31cよりもタイヤ周方向他方側に位置している。さらに、サイプAの第1端31dは、サイプBの赤道CL側の第2端31eよりもタイヤ周方向他方側に位置している。このように、各サイプ31の一部同士がタイヤ軸方向に重なりながらタイヤ周方向に多くのサイプ31を形成することで、良好な制動性能と操縦安定性の両立を効果的に実現できる。
【0042】
また、タイヤ周方向に隣り合うサイプ31を、屈曲部31cが突出する方向であるタイヤ周方向一方側から順に、サイプA、サイプB、サイプCと定義した場合に、サイプAの第1端31dが、サイプCの屈曲部31cとタイヤ軸方向に並んでいる。即ち、サイプAの第1部分31aは、サイプCとタイヤ軸方向に重なる位置まで延びている。一方、サイプAの第2端31eは、サイプBの屈曲部31cよりもタイヤ周方向一方側に位置し、サイプAの第2部分31bは、サイプBとタイヤ軸方向に重なる位置まで延びていない。
【0043】
第1部分31aには、屈曲部31cよりも小さく曲がった屈曲部31fが形成されていてもよい。サイプAの屈曲部31fは、サイプBの屈曲部31cとサイプCの屈曲部31cとの間に対応する位置で、タイヤ周方向他方側に突出するように小さく曲がっている。
【0044】
[センターリブ40]
センターリブ40は、上記のように、主溝20を挟んでセンターリブ30とタイヤ軸方向に対向配置され、タイヤ周方向に沿って真っ直ぐに形成されている。センターリブ40の接地面の幅は、例えば、タイヤ接地幅の12~25%である。センターリブ40の幅が当該範囲内であれば、旋回時における操縦安定性の改善効果がより顕著になる。本実施形態において、センターリブ40は、センターリブ30と同じ幅を有し、全長にわたって一定の幅で形成されている。
【0045】
センターリブ40には、タイヤ周方向に間隔をあけて第1サイプ41が複数形成されている。第1サイプ41は、平面視において略S字形状を有し、車両旋回時の操縦安定性の向上に大きく寄与する。複数の第1サイプ41は、例えば、タイヤ周方向に所定本数単位で僅かにサイプ同士の間隔を変化させたバリアブルピッチで形成されていてもよく、同じ間隔で形成されていてもよい。センターリブ40には、第1サイプ41のみが形成されていてもよいが、本実施形態では、第1サイプ41の他に、3種類のサイプ(第2サイプ42、第3サイプ43、および第4サイプ44)が形成されている。
【0046】
第1サイプ41は、センターリブ40を横断するサイプであって、主溝20,21につながっている。第1サイプ41は、主溝20からタイヤ周方向および軸方向に傾斜して延びる第1部分41aと、タイヤ周方向に第1部分41aと離れて配置され、主溝21からタイヤ周方向および軸方向に傾斜して延びる第2部分41bと、第1部分41aと第2部分41bを接続する第3部分41cとを含む。第3部分41cは、その全体がタイヤ周方向に沿って真っ直ぐに形成されてもよいが、好ましくはタイヤ周方向に対して所定の傾斜角度を有する。この場合、センターリブ40の高耐久性を維持しながら、旋回時の操縦安定性を向上させることができる。
【0047】
本実施形態では、屈曲部41fを第1部分41aと第3部分41cの境界とし、屈曲部41iを第2部分41bと第3部分41cの境界とする。第1サイプ41の各部分のタイヤ周方向に沿った長さは、第3部分41c>第1部分41a、第2部分41bである。また、タイヤ軸方向に沿った各部分の長さは、第1部分41a、第2部分41b>第3部分41cである。主溝20との交点である第1端41dから延びる第1サイプ41が、屈曲部41fにおいて、タイヤ周方向に沿うように曲がるか、或いは屈曲部41iに向かって主溝20側に傾斜するように曲がる。また、主溝22との交点である第2端41eから延びた部分は、屈曲部41iにおいて、タイヤ周方向に沿うように曲がるか、或いは屈曲部41fに向かって主溝22側に傾斜するように曲がる。
【0048】
第1サイプ41は、センターリブ40の平面視において、略S字形状を有することが好ましい。この場合、車両旋回時における操縦安定性の改善効果がより顕著になる。第1サイプ41の第1部分41aと第2部分41bは、例えば、同じ方向に延び、タイヤ軸方向に対して30~60°の角度で傾斜している。また、第1部分41aと第2部分41bは、実質的に同じ長さを有し、各々の一部がタイヤ周方向に重なり合う長さで形成されている。そして、第3部分41cは、タイヤ周方向に対し、第1部分41aおよび第2部分41bが傾斜する方向と反対の方向に傾斜している。
【0049】
第3部分41cは、複数の屈曲部を有していてもよい。本実施形態において、第3部分41cは、第1部分41aの近傍が主溝22の方向に突出し、第2部分41bの近傍が主溝21の方向に突出するように形成されている。また、第3部分41cは、長さ方向両端(屈曲部41f,41i)からタイヤ周方向に沿って真っ直ぐに延び、当該両端から等距離の位置でセンターリブ40の幅方向中央側に曲がっている。第3部分41cの長さ方向両端から等距離の位置には、屈曲部41g,41hがそれぞれ形成されている。なお、第1サイプ41の各屈曲部は、サイプ31の屈曲部31cと同様に緩やかに湾曲している。
【0050】
本実施形態では、屈曲部41fと屈曲部41iの接続部である第3部分41cが、複数の屈曲部と複数の直線部により形成されている。具体的に、第3部分41cは、屈曲部41g,41hと、屈曲部41fと屈曲部41gの間に形成された直線部41jと、屈曲部41gと屈曲部41hの間に形成された直線部41kと、屈曲部41hと屈曲部41iの間に形成された直線部41mとを含む。直線部41j,41mは、例えば、互いに同じ長さで、直線部41kより短く、タイヤ周方向に沿って形成されている。直線部41kは、直線部41j,41mが延びる方向に対して略直交する方向に延びている。直線部41kが延びる方向と、直線部41j,41mが延びる方向とがなす角度は、例えば、90°±5°である。
【0051】
センターリブ40において、第1サイプ41の各々とタイヤ軸方向に重なる領域には、複数の第2サイプ42からなる第2サイプ群と、複数の第3サイプ43からなる第3サイプ群とが形成されている。第2サイプ42は、主溝20から延びてリブ内で終端し、第3サイプ43は、主溝22から延びてリブ内で終端している。第2サイプ42および第3サイプ43は、第1サイプ41との間に所定の距離をあけて形成された短いサイプである。また、当該各サイプは、タイヤ軸方向および周方向に対して傾斜し、例えば、第1サイプ41の第1部分41a、第2部分41bと同じ方向に延びている。
【0052】
本実施形態において、1本の第1サイプ41とタイヤ軸方向に重なる第2サイプ群は、3本の第2サイプ42で構成されている。当該3本の第2サイプ42は、例えば、互いに等間隔で平行に形成されている。第3サイプ群についても同様に、互いに等間隔で平行に形成された3本の第3サイプ43で構成されている。各第2サイプ群を構成する複数の第2サイプ42は、互いに異なる長さを有し、第1サイプ41の第1部分41aに近づくほど長くなっている。また、各第3サイプ群を構成する複数の第3サイプ43は、互いに異なる長さを有し、第1サイプ41の第2部分41bに近づくほど長くなっている。
【0053】
即ち、主溝20から延びる各第2サイプ42は、第1サイプ41が主溝22の方向に凸となった領域では長く、主溝20の方向に凸となった領域では短くなっている。主溝22から延びる第3サイプ43は、第1サイプ41が主溝20の方向に凸となった領域では長く、主溝22の方向に凸となった領域では短くなっている。この場合、センターリブ40の剛性バランスが良好になり、より信頼性の高いタイヤ性能を実現できる。
【0054】
3本の第2サイプ42のうち最も短いサイプは、第1サイプ41の第2部分41bの延長線上に配置され、3本の第3サイプ43のうち最も短いサイプは、第1部分41aの延長線上に配置されている。また、残り2本の第2サイプ42は、残り2本の第3サイプ43と同一直線上に配置されている。より詳しくは、最も長い第2サイプ42が2番目に長い第3サイプ43と同一直線上に配置され、最も長い第3サイプ43が2番目に長い第2サイプ42と同一直線上に配置されている。
【0055】
センターリブ40の各第1サイプ41に挟まれた領域には、センターリブ40を横断する略直線状の第4サイプ44が形成されている。即ち、センターリブ40には、第1サイプ41と第4サイプ44がタイヤ周方向に交互に配置されている。第4サイプ44は、第1サイプ41の第1部分41a、第2部分41bと平行に形成され、途中で曲がることなく真っ直ぐに延びている。第4サイプ44は、ノイズの低減において重要な役割を果たす。具体的には、第4サイプ44が主溝20,22に連通することで空気が流れる流路が多くなり、気柱管共鳴周波数の合致が避けられ、主溝20,22での気柱共鳴音の発生が効果的に抑制される。
【0056】
センターリブ40に形成される各サイプの深さは、互いに同じであってもよい。各サイプの深さは、例えば、最も深い部分で主溝20の深さの60~90%である。本実施形態では、長さが短い第2サイプ42と第3サイプ43は全長にわたって一定の深さを有する。他方、第1サイプ41と第4サイプ44は、長さ方向両端から所定の長さ範囲において、他の部分よりも浅くなっている。この場合、サイプの形成によるセンターリブ40の剛性低下を抑制でき、操縦安定性の改善効果がより顕著になる。所定の長さ範囲は、例えば、センターリブ40の幅の3~10%に相当する長さ範囲である。
【0057】
第1サイプ41は、第3部分41cの中間部、具体的には直線部41kにおいて、最深部より浅く形成されていてもよい。この場合、センターリブ40の高耐久性を維持しながら、操縦安定性を向上させることができる。最深部より浅く形成された直線部41kは、例えば、第1サイプ41の長さ方向両端と実質的に同じ深さで形成されていてもよい。
【0058】
センターリブ40を横断するサイプの本数は、センターリブ30を横断するサイプの本数よりも少ないことが好ましい。センターリブ30では、全てのサイプがリブを横断しているが、センターリブ40では、第2サイプ42と第3サイプ43はリブ内で終端し、第1サイプ41と第4サイプ44がリブを横断している。また、各リブに形成されたサイプ同士のタイヤ周方向の間隔は、センターリブ40においてセンターリブ30よりも大きくなっている。このため、センターリブ30,40を比較した場合に、リブを横断するサイプの本数はセンターリブ40で大幅に少なくなっている。
【0059】
また、同一直線上に配置される第2サイプ42と第3サイプ43を1本とカウントした場合において、センターリブ30のサイプの本数が、センターリブ40のサイプの本数より多くてもよい。この場合、センターリブ30のサイプの本数は、例えば、センターリブ40のサイプの本数の1.1~1.5倍である。或いは、第2サイプ42および第3サイプ43の各々を1本とカウントした場合に、センターリブ30のサイプの本数>センターリブ40のサイプの本数であってもよい。
【0060】
センターリブ30のサイプの本数>センターリブ40のサイプの本数とすることにより、サイプに起因して発生するピッチノイズの周波数をずらして共鳴を避けることができるので、ノイズの低減効果がより顕著になる。また、制動性能と操縦安定性をより高いレベルで両立することが容易になる。
【0061】
[ショルダーブロック50]
図2に示すように、ショルダーブロック50は、主溝21を挟んでセンターリブ30とタイヤ軸方向に対向配置され、タイヤ周方向に沿って真っ直ぐに形成されている。ショルダーブロック50の接地面の幅は、例えば、タイヤ接地幅の15~35%であり、センターリブ30の接地面の幅よりも大きい。本実施形態において、ショルダーブロック50は、ショルダーブロック60と同じ幅を有し、全長にわたって一定の幅で形成されている。
【0062】
ショルダーブロック50には、タイヤ軸方向に延びて主溝21につながった横溝として、長さが異なる2種類の横溝51,52が形成されている。いずれの横溝も、主溝21から接地端E1を超える長さを有し、ショルダーブロック50の接地面を横断している。横溝51,52は、2mmを超える幅を有し、細線状の溝であるサイプと区別される。ショルダーブロック50は、上記のように、横溝51,52によりタイヤ周方向に接地面が分断されている。
【0063】
本明細書において、横溝が「タイヤ軸方向に延びる」とは、横溝がタイヤ軸方向に沿って延びる形態、およびタイヤ軸方向に対して45°以下、好ましくは30°以下の傾斜角度で延びる形態の両方を意図する。なお、タイヤ周方向に延びる主溝についても同様であり、主溝はタイヤ周方向に対して45°以下の傾斜角度で曲がりながらジグザグ状に形成されてもよい。
【0064】
横溝51,52は、例えば、主溝21から接地端E1にわたって一定の幅を有する。主溝21につながった横溝51,52を形成することにより排水性が向上し、ウェット路面における制動性能を大幅に改善できる。横溝51,52を主溝21と連通させると、主溝21から横溝51,52に空気が流入するため、ノイズおよび空気抵抗が大きくなることが想定されるが、ショルダーブロック50は車両内側に配置されるため、横溝51,52の影響は小さい。なお、横溝52は、全長にわたって直線状に形成されている。横溝51は、接地端E1を超える位置まで直線状に形成され、サイドリブ13との境界又はその近傍でタイヤ周方向一方側に曲がっている。
【0065】
ショルダーブロック50において、横溝51と横溝52の間に位置する領域には、長さが異なる2種類のサイプ(第1サイプ53、第2サイプ54)が形成されている。いずれのサイプも、主溝21から接地端E1を超える長さを有し、空気入りタイヤ1のショルダーにおいて互いに連結されている。第2サイプ54は、第1サイプ53よりも長く、横溝52と同様の長さを有する。ショルダーブロック50には、タイヤ周方向に、横溝51、第1サイプ53、第2サイプ54、および横溝52の順で、溝とサイプが繰り返し形成されている。なお、複数の溝とサイプは、例えば、バリアブルピッチで形成されている。
【0066】
横溝51,52、第1サイプ53、および第2サイプ54は、互いに平行に形成され、タイヤ軸方向に対して傾斜している。当該横溝とサイプの傾斜角度は、例えば、センターリブ30,40のサイプと比べて小さい。ショルダーブロック50の横溝とサイプは、タイヤ軸方向に対して、サイプ31の第1部分31aと反対の方向に傾斜している。
【0067】
[ショルダーブロック60]
図2に示すように、ショルダーブロック60は、主溝22を挟んでセンターリブ40とタイヤ軸方向に対向配置され、タイヤ周方向に沿って真っ直ぐに形成されている。ショルダーブロック60の接地面の幅は、例えば、タイヤ接地幅の20~35%であり、センターリブ40よりも大きい。ショルダーブロック60には、上記のように、ブロックの接地面を横断する溝は形成されておらず、タイヤ周方向に連続している。
【0068】
ショルダーブロック60は、タイヤ軸方向に延びる横溝61,62、第1サイプ63、および第2サイプ64を有する点で、ショルダーブロック50と共通する。なお、長い方の溝である横溝61は、サイドリブ13との境界又はその近傍で、ショルダーブロック50の横溝51と反対方向に曲がっている。ショルダーブロック50には、タイヤ周方向に、横溝61、第2サイプ64、第1サイプ63、および横溝62の順で、溝とサイプが繰り返し形成されている。一方、ショルダーブロック60は、横溝61,62が主溝22に直接つながっていない点で、ショルダーブロック50と異なる。
【0069】
本実施形態において、横溝61,62は、第3サイプ65を介して主溝22につながっている。この場合、主溝22から横溝61,62に空気が流入して車両外側に放出されることを抑制できるため、ノイズの抑制効果がより顕著になる。また、空気入りタイヤ1の空気抵抗も効果的に低減される。ノイズおよび空気抵抗には、車両内側に配置されるショルダーブロック50よりも車両外側に配置されるショルダーブロック60の溝構成が大きく影響される。第3サイプ65の長さは特に限定されないが、好適な一例としては、ショルダーブロック60の接地面の幅の5~40%、又は10~30%である。各第3サイプ65は、例えば、互いに同じ長さを有する。
【0070】
図5に例示するように、ショルダーブロック50に形成された横溝51,52は、ショルダーブロック60の横溝61,62と同様に、サイプ55を介して主溝21につながっていてもよい。即ち、
図2に例示するトレッドパターンでは、左右のショルダーブロック50,60において横溝と主溝の接続形態が異なっているが、
図5に例示するトレッドパターンでは、ショルダーブロック50,60において横溝と主溝の接続形態が同様となっている。サイプ55の長さ、幅、深さ等は、ショルダーブロック60の第3サイプ65と実質的に同じであってもよい。
【0071】
ここで、
図2に例示するトレッドパターンを有する空気入りタイヤ1(以下、「タイヤX」とする)と、
図5に例示するトレッドパターンを有する空気入りタイヤ1(以下、「タイヤY」とする)のウェット制動性能およびノイズレベルの評価結果を示す。サイズ:195/60R17 90H、空気圧:240kPaのタイヤX,Yを実車に装着して評価を行った。
【0072】
ドライ路面を時速100kmで走行している状態で音圧レベルを計測し、ノイズレベルの評価(2名乗車)を行ったところ、周波数250Hz~2kHzにおいてタイヤX,Yのノイズレベルは同等であった。なお、ノイズレベルは寧ろタイヤXの方が低かった。即ち、車両内側に位置するショルダーブロック50の横溝51,52を主溝21に直接つなげても、ノイズレベルに影響しないことが理解される。
【0073】
ウェット路面を時速100kmで走行中に制動力をかけてABSを作動させたときの制動距離を計測し、ウェット制動性能の評価(1名乗車)を行ったところ、タイヤXの制動距離がタイヤYの制動距離よりも約3%短くなることが確認された。即ち、ショルダーブロック50の横溝51,52を主溝21に直接つなげた場合、排水性能が向上し、ウェット制動性能の改善効果がより顕著になる。
【0074】
以上のように、空気入りタイヤ1によれば、特にセンターリブ40に形成された第1サイプ41の機能により、車両旋回時に受ける横方向の力に対してエッジ成分が発生し、旋回時の操縦安定性を向上させることができる。また、ノイズを効果的に低減できると共に、ウェット路面、雪氷路面においても優れた制動性能と操縦安定性を実現できる。
【0075】
なお、上記実施形態は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。センターリブ30,40およびショルダーブロック50,60を含むトレッドパターンは、優れた制動性能と操縦安定性を効果的に両立し、オールシーズンタイヤに好適であるが、センターリブ40以外の構成を他の構成に変更して、本発明の目的を実現することは可能である。例えば、本開示に目的を損なわない範囲で、車両内側に位置するセンターリブに平面視略S字形状のサイプを形成してもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 空気入りタイヤ、10 トレッド、10A 第1領域、10B 第2領域、11 サイドウォール、12 ビード、13 サイドリブ、14 カーカス、15 ベルト、16 インナーライナー、17 ビードコア、18 ビードフィラー、20,21,22 主溝、30,40 センターリブ、31 サイプ、31a,41a 第1部分、31b,41b 第2部分、31c,31f,41f,41g,41h,41i 屈曲部、41j,41k,41m 直線部、31d,41d 第1端、31e,41e 第2端、41,53,63 第1サイプ、41c 第3部分、42,54,64 第2サイプ、43,65 第3サイプ、44 第4サイプ、50,60 ショルダーブロック、51,52,61,62 横溝、CL 赤道、E1,E2 接地端