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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172691
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】緩み止め器具および乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/12 20060101AFI20231129BHJP
   F16B 39/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B66B23/12 Z
F16B39/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084665
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 才明
(72)【発明者】
【氏名】松本 良史
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA01
3F321CB27
(57)【要約】
【課題】乗客コンベアの踏段を固定しているボルトの緩みを止め得る緩み止め器具を提供する。
【解決手段】ブラケットは、ボルトにより軸受けに固定される第1の面と、第1の面に立設される第2の面と、を備え、回転止め部の内周面には、ボルトの回転方向の所定の角度ごとにボルトに取り付け可能なように、複数の凹部が形成され、回転止め部の外周面には、第2の面に正対するように緩み止め器具がボルトに取り付けられている場合に、所定の角度より大きい角度だけボルトが緩む方向に回転したときに第2の面に当接するように、曲面が形成されている、を設けるようにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの踏段を駆動するためのチェーンの軸受けと前記踏段の枠体に設けられたブラケットとを固定するためのボルトに取り付け可能であり、前記ボルトの緩みを止めるための緩み止め器具であって、
板状に形成され、厚み方向に貫通する貫通孔が形成された回転止め部を備え、
前記ブラケットは、前記ボルトにより前記軸受けに固定される第1の面と、前記第1の面に立設される第2の面と、を備え、
前記回転止め部の内周面には、前記ボルトの回転方向の所定の角度ごとに前記ボルトに取り付け可能なように、複数の凹部が形成され、
前記回転止め部の外周面には、前記第2の面に正対するように前記緩み止め器具が前記ボルトに取り付けられている場合に、前記所定の角度より大きい角度だけ前記ボルトが緩む方向に回転したときに前記第2の面に当接するように、曲面が形成されている、
緩み止め器具。
【請求項2】
前記軸受けと前記ブラケットとが前記ボルトにより固定され、前記緩み止め器具が前記ボルトに取り付けられた場合、前記ボルトの頭部の上面と、前記回転止め部の上面とが同一平面上に位置するように、前記回転止め部が形成されている、
請求項1に記載の緩み止め器具。
【請求項3】
前記ボルトは、バネ座金付きのボルトであり、
前記回転止め部に連接され、前記ボルトが規定のトルクで締められている際のバネ座金の高さと同じ高さを前記回転止め部の厚み方向に有する段差部を備える、
請求項2に記載の緩み止め器具。
【請求項4】
前記回転止め部の外周面には、前記緩み止め器具を工具で挟んで取り外すための平坦な部位が設けられている、
請求項3に記載の緩み止め器具。
【請求項5】
第1の係止部と第2の係止部とが設けられた脱落止め部を備え、
前記第1の係止部は、前記段差部であり、
前記第1の係止部および前記第2の係止部は、前記緩み止め器具が前記ボルトに取り付けられている場合に、前記回転止め部の厚み方向の両側から前記ブラケットおよび前記軸受けを挟む位置に配置されている、
請求項3に記載の緩み止め器具。
【請求項6】
前記緩み止め器具は、合成樹脂で形成されている、
請求項5に記載の緩み止め器具。
【請求項7】
踏段を備え、前記踏段を駆動するためのチェーンの軸受けと前記踏段の枠体に設けられたブラケットとがボルトにより固定されている乗客コンベアであって、
前記ブラケットは、前記ボルトにより前記軸受けに固定される第1の面と、前記第1の面に立設される第2の面と、を備え、
前記ボルトには、板状に形成され、厚み方向に貫通する貫通孔が形成された回転止め部を備える緩み止め器具が取り付けられ、
前記回転止め部の内周面には、前記ボルトの回転方向の所定の角度ごとに前記ボルトに取り付け可能なように、複数の凹部が形成され、
前記回転止め部の外周面には、前記第2の面に正対するように前記緩み止め器具が前記ボルトに取り付けられている場合に、前記所定の角度より大きい角度だけ前記ボルトが緩む方向に回転したときに前記第2の面に当接するように、曲面が形成されている、
乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、乗客コンベアの踏段を固定しているボルトの緩みを止める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗客コンベアの据付、保全等では、作業者は、構成部品の分解、組立、調整等する作業を行っている。この作業において、作業者は、回転締結金具と称されるボルト類(以下、ボルト)を緩めたり締めたりしている。かかる作業を終了する際、適切な工具を用いて管理された締付力で、ボルトを漏れなく固定している。
【0003】
しかしながら、例えば、乗客コンベアの踏段は、走行時および利用者の乗り降り時に絶えず振動するため、ボルトが徐々に緩んで構成部品の固定力が低下するおそれがある。
【0004】
この点、固定力を維持するための回転締結金具用弛緩防止具が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3104843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、ボルトの弛緩方向に生じる回転力を止める部位は、構成部品に引っ掛けて装着する際に撓む薄肉部が形成されている回転止め片であるため、回転力により薄肉部が大きく変形、破損等した場合に、緩み止めとして十分に機能しないおそれがある。
【0007】
本発明は、以上の点を考慮してなされたもので、乗客コンベアの踏段を固定しているボルトの緩みを止め得る緩み止め器具等を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明においては、乗客コンベアの踏段を駆動するためのチェーンの軸受けと前記踏段の枠体に設けられたブラケットとを固定するためのボルトに取り付け可能であり、前記ボルトの緩みを止めるための緩み止め器具であって、板状に形成され、厚み方向に貫通する貫通孔が形成された回転止め部を備え、前記ブラケットは、前記ボルトにより前記軸受けに固定される第1の面と、前記第1の面に立設される第2の面と、を備え、前記回転止め部の内周面には、前記ボルトの回転方向の所定の角度ごとに前記ボルトに取り付け可能なように、複数の凹部が形成され、前記回転止め部の外周面には、前記第2の面に正対するように前記緩み止め器具が前記ボルトに取り付けられている場合に、前記所定の角度より大きい角度だけ前記ボルトが緩む方向に回転したときに前記第2の面に当接するように、曲面が形成されている。
【0009】
上記構成では、緩み止め器具が第2の面に正対するように取り付けられている場合に、所定の角度より大きい角度(例えば、所定の角度が15度であるときは、20度、40度等)にボルトが回転しようとする際に、回転止め部の曲面が第2の面に当接する。上記構成によれば、例えば、ボルトが緩む方向に回転した場合には、板状の回転止め部がブラケットに当接するので、ボルトの回転(緩み)を止めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乗客コンベアの踏段を固定しているボルトの緩みを止めるための緩み止め器具を実現することができる。上記以外の課題、構成、および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施の形態による乗客コンベアの一例を示す図である。
図2】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
図3A】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
図3B】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
図3C】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
図3D】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
図3E】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
図4】第1の実施の形態による緩み止め器具の装着方法を説明するための図である。
図5】第1の実施の形態による緩み止め器具の装着方法を説明するための図である。
図6】第1の実施の形態による緩み止め器具の装着方法を説明するための図である。
図7】第1の実施の形態による緩み止め器具の装着方法を説明するための図である。
図8】第1の実施の形態による緩み止め器具の装着方法を説明するための図である。
図9】第1の実施の形態によるボルトの緩みを止める方法を説明するための図である。
図10】第1の実施の形態によるボルトの締結確認方法を説明するための図である。
図11】第1の実施の形態によるボルトの締結確認方法を説明するための図である。
図12】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
図13】第1の実施の形態による緩み止め器具の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(I)第1の実施の形態
以下、本発明の一実施の形態を詳述する。ただし、本発明は、実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施の形態では、乗客コンベアの踏段を固定している回転締結金具に取り付けられる緩み止め器具について説明する。以下では、回転締結金具としては、乗客コンベアの踏段とチェーンとを固定(連結)するボルトを例に挙げて説明する。
【0014】
ここで、乗客コンベアの踏段を固定することを前提としていないボルトの緩みを止める緩み止め器具では、ボルトが地面に対して逆さまの状態での装着を前提にしていないことがあるため、ボルトが逆さまの状態では緩み止め器具が外れてしまうおそれがある。
【0015】
また、全てのボルトの締付けが前提であるものの、人手によりボルトの締結作業(手締め)が行われるため、稀に適切な工具が用いられなかったり、適切な締付力で固定されなかったりして締め付けられたボルト、俗に言う「手締め状態のボルト」が存在する。例えば、特許文献1に記載の回転締結金具用弛緩防止具のように、ボルトを全て覆う構成では、装着時および装着後に、手締め状態のボルトであるか否かの見分けが付かない問題がある。
【0016】
この点、本実施の形態の緩み止め器具は、回転止め部と、回転止め部と一体に設けられた脱落止め部とを含んで構成される。
【0017】
回転止め部は、ボルトを固定する複数の固定角度に対応する凹みが形成された凹部(挿入溝部)と、ボルトと共に回転した際に構成部品に当接する幅を有する当接部とを備える。当接部には、緩み止め器具の回転半径(軌跡)よりも大きく設定した曲面が形成されている。
【0018】
脱落止め部は、乗客コンベアの構成部品を上下方向または左右方向から挟み込むように形成されている。また、脱落止め部は、構成部品と当接(接触)してボルトの回転を停止させる機能を有した弾性体である。例えば、脱落止め部は、乗客コンベアの構成部品を上下方向から挟み込む構成として、ボルトと共に固定されるバネ座金を回避する空間を設けるための段差部と、ボルトが適切に固定された際の寸法に調整され、かつ、凹部の中心に配置され、ボルトのネジ直径よりも小さい幅の係止部(止端部)とを備えてもよい。
【0019】
上記構成では、任意の角度に固定されたボルトに対し、緩み止め器具を装着する場合、当該角度に対応可能な複数の凹部(挿入溝)により容易に装着可能である。複数の凹部間の角度に固定されたボルトが存在した場合でも、弾性体で構成された脱落止め部が変形するので、近い角度の凹部にボルトを嵌め込むことができる。
【0020】
また、上記構成では、例えば、強い回転が脱落止め部に加わって弾性力を超えて脱落止め部が変形した場合、回転止め部の当接部は、構成部品と当接してボルトの回転(弛緩)を止めることができる。更に、弾性体で構成された脱落止め部は、弾性体の復元力で構成部品を挟み込むことで固定されるので、乗客コンベアの踏段とチェーンとを固定するボルトのように、絶えず上下が逆転するような構成部品でも緩み止め器具が脱落することがない。
【0021】
ここで、回転止め部の上面と脱落止め部の係止部に設けた係止面との間の寸法は、ボルトが規定のトルク(締付力)で締付けられた際の寸法であってもよい。この場合、手締め状態のボルトに緩み止め器具が装着されたとしても、手締めでは完全に潰れることがないバネ座金の厚さ方向の寸法(完全に潰された状態のバネ座金の高さとの差分寸法)が、回転止め部の上面から露出するので、ボルトが完全に固定されているか否かを目視で判断できる。
【0022】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」等の表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数または順序を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は、文脈毎に用いられ、1つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0023】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は、単数でも複数でも構わない。
【0024】
なお、以下の説明では、図面において同一要素については、同じ番号を付し、説明を適宜省略する。また、同種の要素を区別しないで説明する場合には、枝番を含む参照符号のうちの共通部分(枝番を除く部分)を使用し、同種の要素を区別して説明する場合は、枝番を含む参照符号を使用することがある。例えば、スプロケットを特に区別しないで説明する場合には、「スプロケット130」と記載し、個々のスプロケットを区別して説明する場合には、「スプロケット130-1」、「スプロケット130-2」のように記載することがある。
【0025】
図1において、100は、全体として第1の実施の形態による乗客コンベアを示す。
【0026】
乗客コンベア100は、エスカレーター、移動歩道等である。より具体的には、乗客コンベア100は、移動手すり110と、踏段120と、スプロケット130と、チェーン140とを含んで構成される。
【0027】
踏段120は、無端状に連結されたチェーン140に軸支されている。上部のスプロケット130-1と下部のスプロケット130-2とは、チェーン140に巻き掛けられている。スプロケット130は、駆動モータの動力によって回転される。チェーン140は、スプロケット130の回転に伴って踏段120と共に循環走行する。
【0028】
より具体的には、踏段120は、客が搭乗する踏面121と、踏面121を支持する枠体122とを備える。枠体122には、ブラケット123が設けられている。ブラケット123は、バネ座金124が付いたボルト125を取付可能な収納空間を有する。ブラケット123は、踏面121と反対側の面である底面(ボルト125により軸受け141に固定される第1の面)と、底面に立設される側面(第2の面)と、を備える。なお、ブラケット123の底面には、ボルト125を挿通させる貫通孔が設けられている。
【0029】
以下では、ボルト125は、頭部の形状が正六角形であるボルトを例に挙げて説明するが、頭部の形状は、正六角形に限定されない。例えば、頭部の形状は、四角形、八角形等の多角形であってもよい。また、ボルト125は、時計回りに回すと締まり、反時計回りに回すと緩むボルト(右螺子)を例に挙げて説明するが、これに限らない。後述の緩み止め器具200の右左を入れ替えた構成、左右対称の構成等とすることで左螺子にも適用可能である。
【0030】
また、チェーン140には、一定の間隔で踏段軸(前軸)が軸支されている。この踏段軸の中心に対して左右対称の部位に軸受け141が設けられている。軸受け141には、ネジ孔が設けられている。
【0031】
踏段120を軸受け141に固定する際には、作業者は、ブラケット123の貫通孔を軸受け141のネジ孔に接合するように載置し、ボルト125を軸受け141のネジ孔にねじ込んでブラケット123と軸受け141とを締結する。これにより、踏段120は、踏段軸を介してチェーン140に連結される。付言するならば、チェーン140に設けられた軸受け141と、踏段120に設けられたブラケット123とがボルト125により固定される。
【0032】
従来、作業者は、人手により適切な締付力でボルト125を固定した後、ボルト125を締付けたことを示す確認装具126の一部を折り曲げる。折り曲げられた面126Aには、他の作業者が視認し易い色(例えば、赤色)が付けられていて、二重確認を容易にしている。なお、確認器具126は、例えば、厚さが数mmのアルミニウムといった金属からなる赤色の舌付きワッシャである。
【0033】
しかしながら、作業者が適切な締付力でボルト125を締めない状態で確認装具126を折り曲げてしまうと、ボルト125の固定状態が判らなくなってしまう。また、確認装具126自体は、ボルト125の弛緩方向に作用する回転力に耐えられる強度を有しておらず、強度を確保すると人手で折り曲げが困難になる問題がある。
【0034】
以下では、乗客コンベア100の踏段120を固定しているボルト125の緩みを防ぎ、かつ、ボルト125の固定状態が判らなくなる問題を解決するための緩み止め器具200について説明する。
【0035】
図2、および図3A図3Eは、緩み止め器具200の一例を示す図である。図3Aは、緩み止め器具200を上側(方向201)から見た様子を示す。図3Bは、緩み止め器具200を右側(方向202)から見た様子を示す。図3Cは、緩み止め器具200を下側(方向203)から見た様子を示す。図3Dは、緩み止め器具200を正面(方向204)から見た様子を示す。図3Eは、緩み止め器具200を背面(方向205)から見た様子を示す。
【0036】
緩み止め器具200は、例えば、乗客コンベア100の構成部品である踏段120とチェーン140との連結部分であるブラケット123および軸受け141を固定する目的で使用するバネ座金124を有するボルト125に装着される。例えば、緩み止め器具200は、緩み止め器具200の全体形状が略J字形状となるように形成される合成樹脂製の射出成形品である。緩み止め器具200の材質は、ナイロン(ポリアミド合成樹脂)、ABS樹脂(Acrylonitrile、Butadiene、Styreneの3種類の成分を組み合わせた樹脂)、PET(Poly Ethylene Terephthalate)、ポリカーボネート等である。また、緩み止め器具200の一部(例えば、背面)または全部は、取り付けられているか否かの確認がし易いように、所定の色(例えば、赤色)に着色されている。
【0037】
より具体的には、緩み止め器具200は、回転止め部210と脱落止め部220とを備える。回転止め部210は、板状に形成され、ボルト125を挿通させる貫通孔が設けられている(厚み方向に貫通する貫通孔が形成されている)。回転止め部210の厚みは、ボルト125の頭部の厚みと同じであってよい。
【0038】
回転止め部210の内周面には、ボルト125の回転方向の所定の角度(例えば、20度、15度)ごとに取り付け可能(嵌合可能)なように、複数の凹部211が形成されている。凹部211は、例えば、挿入溝であり、6の整数倍の個数(例えば、18個、24個)だけV字が円周上に連続した断面形状を備えている。付言するならば、凹部211の数は、少なすぎるとはめ込み難く、多すぎるとボルト125を止めることができなくなるため、所定の角度としては、15度くらいが好適である。
【0039】
回転止め部210の外周面には、ブラケット123の側面に正対するように緩み止め器具200が取り付けられている場合に、所定の角度より大きい角度だけボルト125が緩む方向に回転したときにブラケット123に当接するように、曲面212が形成されている。曲面212は、ボルト125と共に弛緩方向へ回転した際にブラケット123に接触して停止することが可能な幅301を有する。また、回転止め部210の外周面には、緩み止め器具200を工具で挟んで取り外すための平坦な部位213が設けられている。
【0040】
脱落止め部220は、段差部221と把持部222とを備え、段差部221と把持部222とにより緩み止め器具200が係止される。段差部221は、ボルト125と共に固定されるバネ座金124を回避する空間を設けるための部位である。例えば、段差部221は、回転止め部210に連接され、ボルト125が規定の締付力で締められている際のバネ座金124の高さ(ボルト125が適切に固定されてバネ座金124が潰れた状態の寸法)と同じ高さ302を回転止め部210の厚み方向に有する。把持部222は、緩み止め器具200がボルト125に取り付けられた際、踏段120の構成部材(本例では、ボルト125)に当接する部位である。把持部222は、ボルト125の呼び径(ネジ直径)よりも小さい幅303を有し、緩み止め器具200がボルト125に取り付けられた際、回転止め部210の貫通孔の中央に配置される。
【0041】
段差部221と把持部222とは、緩み止め器具200がボルト125に取り付けられている場合に、回転止め部210の厚み方向の両側からブラケット123および軸受け141を挟む位置に配置されている。
【0042】
また、脱落止め部220は、弾性体であり、緩み止め器具200がボルト125に取り付けられた際、踏段120の構成部材(本例では、ブラケット123)と接触することで弛緩方向の回転力を低減することができる。
【0043】
次に、緩み止め器具200の装着方法を図4図8を用いて説明する。
【0044】
図4に示すように、作業者は、軸受け141に設置されたブラケット123を完全に固定したボルト125に対し、作業性がよいブラケット123の開口部方向400から緩み止め器具200を取り付けることになる。回転止め部210には、ボルト125がどのような方向に固定されても装着可能なように複数の凹部211が設けられているため、作業者は、緩み止め器具200を取り付ける際に、ボルト125の固定状態(角度)を調整する必要がなくなる。
【0045】
図5に示すように、緩み止め器具200は、把持部222の把持面501から回転止め部210の下面502までの高さを示す開口高さ503を備える。作業者は、緩み止め器具200をボルト125に装着する際は、開口高さ503を広げる方向510に、緩み止め器具200の把持部222を弾性範囲内で押し下げる。なお、開口高さ503については、バネ座金124が潰れた状態のボルト125の寸法として説明するが、構成部品をより強固に把持するために、当該寸法より小さい寸法であってもよい。
【0046】
図6に示すように、作業者は、ボルト125を回転止め部210に挿入し、把持部222を解放する。ボルト125が完全に固定された場合、バネ座金124が圧縮され、バネ座金124が潰れた状態となり、ボルト125の頭部の上面601と回転止め部210の上面602とが同一平面状に位置する。なお、作業者が把持部222を解放した場合、緩み止め器具200は、開口高さ503に復元する。
【0047】
図7および図8に示すように、ボルト125に取り付けられた緩み止め器具200においては、脱落止め部220(段差部221および把持部222)は、ボルト125の軸方向の両側から構成部品を把握する。かかる構成によれば、上下方向が変わる踏段120に使用されるボルト125に緩み止め器具200が用いられたとしても、緩み止め器具200は、決して脱落することはない。
【0048】
次に、ボルト125の緩みを止める構成(方法)について、図9を用いて説明する。
【0049】
図9に示すように、ボルト125が弛緩する方向に回転900する場合、この回転900に追従して回転止め部210も軌跡901に沿って回転する。
【0050】
回転900においては、まずは、ブラケット123と接触する脱落止め部220で止めることが可能である。更に強い弛緩力が回転900に加わり、脱落止め部220が弾性力を超えて変形した場合であっても、回転止め部210の回転半径902の軌跡901よりもアールを大きく設定した曲面212が、接触点903で弛緩を停止する。より具体的には、ブラケット123の側面904に正対するように緩み止め器具200がボルト125に取り付けられている場合に、所定の角度(例えば、15度)より大きい角度だけボルト125が緩む方向に回転したときにブラケット123の側面904に当接するように、曲面212が形成されている。回転止め部210がブラケット123に当接する面を、平面ではなく、曲面212とすることで、空間にゆとり(遊び)が設けられ、緩み止め器具200の取り付けを容易にしている。
【0051】
このように、緩み止め器具200において、回転止め部210に曲面212が形成されていることで、作業性能および弛緩防止性能を向上させている。
【0052】
ここで、ボルト125は、人手で締め付けられるが、作業の中断等により完全に締め付けない状態で放置される可能性がある。ボルト125が適切に締め付けられたことを確認する確認方法について、図10および図11を用いて説明する。
【0053】
図10に示すように、ボルト125が完全に固定された場合、回転止め部210の上面602からブラケット123とバネ座金124の接地面1001までの寸法1002が、完全に圧縮されたバネ座金124が完全に潰れた状態の厚さを想定した空間(バネ座金124の高さ302)と回転止め部210の厚み1011との和になる。この場合、回転止め部210の下面502から把持部222の把持面501までの寸法が開口高さ503と一致する。
【0054】
図11のように、例えば、手締め状態のボルト125に緩み止め器具200が装着されたとする。
【0055】
手締め状態のボルト125である場合、バネ座金124の一部が回転止め部210に入り込み、バネ座金124は、完全に潰れた状態にならず、完全に潰れた状態のバネ座金124との差分寸法1101を生じることになる。この場合、接地面1001から変化しない寸法1002に対し、回転止め部210の上面602から差分寸法1101と同様の寸法でボルト125が露出することになる。また、ボルト125の把持部222とボルト125の底面との間にも差分寸法1101の空間が現れる。このため、緩み止め器具200とボルト125との装着状態を目視で容易に確認することが可能となる。
【0056】
ここで、緩み止め器具200において、脱落止め部220の把持部222は、ボルト125に当接可能なようにテーパー状(先細り)に形成されていたが、この形状に限るものではない。例えば、脱落止め部220は、図12および図13に示すように、ブラケット123、軸受け141等の形状に合わせて設けられていてもよい。
【0057】
図12に示すように、脱落止め部220には、軸受け141のネジ孔の直径より幅が広い幅広把持部1200が形成されていてもよい。
【0058】
図13に示すように、脱落止め部220には、軸受け141のネジ孔に挿入し易くする突起部1301が設けられた把持部1300が形成されていてもよい。
【0059】
本実施の形態によれば、回転締結金具の緩みを止めると共に、回転締結金具が適切に固定されているか装着時に判断可能な回転締結金具の緩み止め器具を提供することができる。
【0060】
(II)付記
上述の実施の形態には、例えば、以下のような内容が含まれる。
【0061】
上述の実施の形態においては、ボルト125がバネ座金付きのボルトである場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、ボルト125は、バネ座金が付いていないボルトであってもよい。この場合、緩み止め器具には、段差部が設けられていない。
【0062】
また、上述の実施の形態においては、軸受け141のネジ孔は、貫通孔である場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、軸受け141のネジ孔は、ネジ穴(くぼみ、凹み等)であってもよい。
【0063】
また、上述の実施の形態においては、緩み止め器具200がボルト125に取り付けられる場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、確認器具126が装着されているボルト125に緩み止め器具200が取り付けられる運用(緩み止め器具200が確認器具126の上から被せられる運用)であってもよい。
【0064】
また、上述の実施の形態においては、回転止め部210の内周面の全面に凹部211が設けられる場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、回転止め部210の内周面の一部(例えば、正面側と背面側、左右の側面側)に凹部211が設けられるようにしてもよい。
【0065】
また、上述の実施の形態においては、図11に示すように、手締め状態のボルト125に緩み止め器具200が取り付けられた場合、バネ座金124が回転止め部210に入り込む場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、バネ座金124の形状(寸法)は、回転止め部210に入り込まない形状(寸法)であってもよい。
【0066】
上述した実施の形態は、例えば、以下の特徴的な構成を有する。
【0067】
(1)
乗客コンベア(例えば、乗客コンベア100)の踏段(例えば、踏段120)を駆動するためのチェーン(例えば、チェーン140)の軸受け(例えば、軸受け141)と上記踏段の枠体(例えば、枠体122)に設けられたブラケット(例えば、ブラケット123)とを固定するためのボルト(例えば、ボルト125)に取り付け可能であり、上記ボルトの緩みを止めるための緩み止め器具(例えば、緩み止め器具200)であって、板状に形成され、厚み方向に貫通する貫通孔が形成された回転止め部(例えば、回転止め部210)を備え、上記ブラケットは、上記ボルトにより上記軸受けに固定される第1の面(底面)と、上記第1の面に立設される第2の面(枠体122に取り付けられる面)と、を備え、上記回転止め部の内周面には、上記ボルトの回転方向の所定の角度ごとに上記ボルトに取り付け可能なように、複数の凹部(例えば、凹部211)が形成され、上記回転止め部の外周面には、上記第2の面に正対するように上記緩み止め器具が上記ボルトに取り付けられている場合に、上記所定の角度より大きい角度だけ上記ボルトが緩む方向に回転したときに上記第2の面に当接するように、曲面(例えば、曲面212)が形成されている。
【0068】
上記構成では、緩み止め器具が第2の面に正対するように取り付けられている場合に、所定の角度より大きい角度(例えば、所定の角度が15度であるときは、20度、40度等)にボルトが回転しようとする際に、回転止め部の曲面が第2の面に当接する。上記構成によれば、例えば、ボルトが緩む方向に回転した場合には、板状の回転止め部がブラケットに当接するので、ボルトの回転(緩み)を止めることができる。
【0069】
(2)
上記軸受けと上記ブラケットとが上記ボルトにより固定され、上記緩み止め器具が上記ボルトに取り付けられた場合、上記ボルトの頭部の上面(例えば、上面601)と、上記回転止め部の上面(例えば、上面602)とが同一平面上に位置するように、上記回転止め部が形成されている(例えば、図6参照)。
【0070】
上記構成によれば、例えば、ボルトが途中までしか締められていない場合、ボルトの頭部が回転止め部からはみ出るので、作業者は、ボルトが適切に締められていないことを容易に把握することができる。
【0071】
(3)
上記ボルトは、バネ座金(例えば、バネ座金124)付きのボルトであり、上記回転止め部に連接され、上記ボルトが規定のトルクで締められている際のバネ座金の高さと同じ高さを上記回転止め部の厚み方向に有する段差部(例えば、段差部221)を備える。
【0072】
上記構成によれば、例えば、バネ座金付きのボルトが規定のトルクで締められていない場合、ボルトの頭部が回転止め部からはみ出るので、作業者は、ボルトが規定のトルクで締められていないことを容易に把握することができる。
【0073】
(4)
上記回転止め部の外周面には、上記緩み止め器具を工具で挟んで取り外すための平坦な部位(例えば、平坦な部位213)が設けられている。
【0074】
上記構成によれば、例えば、作業者は、踏段を分解する作業において、工具を用いて、緩み止め器具を取り外すことができるので、作業時間を短縮できるようになる。
【0075】
(5)
上記緩み止め器具は、第1の係止部(例えば、段差部221)と第2の係止部(例えば、把持部222)とが設けられた脱落止め部(例えば、脱落止め部220)を備え、上記第1の係止部は、上記段差部であり、上記第1の係止部および上記第2の係止部は、上記緩み止め器具が上記ボルトに取り付けられている場合に、上記回転止め部の厚み方向の両側から上記ブラケットおよび上記軸受けを挟む位置に配置されている(例えば、図7参照)。
【0076】
上記構成によれば、例えば、踏段が反転した場合でも、緩み止め器具が脱落してしまう事態を回避することができる。
【0077】
(6)
上記緩み止め器具は、合成樹脂で形成されている。
【0078】
上記構成によれば、例えば、作業者は、脱落止め部を撓ませることができるので、緩み止め器具をボルトに容易に取り付けることができる。
【0079】
また上述した構成については、本発明の要旨を超えない範囲において、適宜に、変更したり、組み替えたり、組み合わせたり、省略したりしてもよい。
【0080】
「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」という形式におけるリストに含まれる項目は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)または(A、B、およびC)を意味することができると理解されたい。同様に、「A、B、またはCのうちの少なくとも1つ」の形式においてリストされた項目は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)または(A、B、およびC)を意味することができる。
【符号の説明】
【0081】
100……乗客コンベア、200……緩み止め器具、210……回転止め部、220……脱落止め部。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13