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特開2023-172700インバータ装置及びそれを備えた電動圧縮機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172700
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】インバータ装置及びそれを備えた電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231129BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H01F37/00 C
H01F37/00 A
H01F37/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084677
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397038037
【氏名又は名称】学校法人成蹊学園
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 康平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
(72)【発明者】
【氏名】高橋 翔太郎
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA21
5H770BA05
5H770DA03
5H770JA13W
5H770JA13Y
5H770KA01W
5H770KA01Y
5H770QA08
5H770QA27
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】効率的にスイッチング素子及びモータから流出するコモンモードノイズの低減を図り、且つ、小型化も図ることができるインバータ装置を提供する。
【解決手段】インバータ回路の単相入力部に挿入された入力側コモンモードコイル67と、インバータ回路34の三相出力部に挿入された出力側コモンモードコイル66を備え、入力側コモンモードコイル67と出力側コモンモードコイル66が、共通コアの一体構造のコモンモードコイル69とされ、インバータ回路34において、三相出力のLCフィルタ回路のバイパスコンデンサ中点と入力フィルタ回路のバイパスコンデンサ中点を直接接合する回路を有さず、一体構造のコモンモードコイル69により、インバータ回路34から流出するコモンモード電流の経路がインピーダンスを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子より構成された三相のインバータ回路を備え、該インバータ回路によりモータを駆動するインバータ装置において、
前記インバータ回路の単相入力部に挿入された入力側コモンモードコイルと、
前記インバータ回路の三相出力部に挿入された出力側コモンモードコイルを備え、
前記入力側コモンモードコイルと前記出力側コモンモードコイルが、共通コアの一体構造のコモンモードコイルとされていると共に、
前記インバータ回路において、三相出力のLCフィルタ回路のバイパスコンデンサ中点と入力フィルタ回路のバイパスコンデンサ中点を直接接合する回路を有さず、
前記一体構造のコモンモードコイルにより、前記インバータ回路から流出するコモンモード電流の経路がインピーダンスを有することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記入力側コモンモードコイルの正極側と負極側の二線、及び、前記出力側コモンモードコイルのUVW相の三線は前記コアに対してペンタファイラ巻きされていることを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記入力側コモンモードコイルと前記出力側コモンモードコイルは、同一のコモンモードインダクタンスを有することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記入力側コモンモードコイルと前記出力側コモンモードコイルは、異なるコモンモードインダクタンスを有することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記モータが収容されるハウジングと、該ハウジングに構成されたインバータ収容部を備え、
前記インバータ装置は、前記インバータ収容部に収容されると共に、前記ハウジングが前記スイッチング素子のヒートシンクとされていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のインバータ装置を備えた電動圧縮機。
【請求項6】
車両に搭載されることを特徴とする請求項5に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動するインバータ装置と、それを備えた電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三相インバータ機器のEMIノイズ抑制としては、従来より入力側のEMIフィルタによるノイズ低減を行うことや、インバータ出力線に大型のコモンモードコイルを入れること、或いは、キャパシタと組み合わせたパッシブフィルタ方式とすること等によって、インバータ起因のノイズ低減対策を行っていた。
【0003】
また、インバータ機器のノイズにおいては、モータとハウジング(筐体)間、及び、スイッチング素子を冷却するヒートシンク(電動圧縮機では後述する如くハウジングと兼用)から流出するコモンモードノイズが多い。このなかで、モータとハウジング間から流出するノイズにおいては、従来から入力部に大型のコモンモードコイルを入れることや、インバータ出力部にコモンモードコイル、フェライトコアを挿入することでノイズ低減を行ってきた。
【0004】
一方で、ヒートシンク経由で流出するノイズについては、民生品等においてはヒートシンクとハウジングを接地しない等の対策が可能であった。
【0005】
ここで、例えば車両搭載型の電動圧縮機においては、小型軽量化が必須事項(振動対策を含め)であり、上記のようなノイズ対策のためにインバータ出力部にコモンモードコイルを入れることや、フェライトコアを付ける等と云った対策を施しにくい上に、スイッチング素子の冷却をヒートシンクではなく電動圧縮機のハウジングで代用し、冷媒で冷却するという方式が採用されるため、スイッチング素子からハウジング(ヒートシンク)を経由して流出するコモンモードノイズについてノイズ源からの流出を抑制する効果的な対策がなかった。
【0006】
そこで、従来では例えば、特許文献1や非特許文献1に記載された方法により対策が検討されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-130575号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】電気学会研究会資料(電磁環境/半導体電力変換合同研究会)The Papers of Joint Technical Meeting on ”Electromagnetic Compatibility” and ”Semiconductor Power Converter”, IEE Japan 2021.12.8 EMC-21-045 SPC-21-165. 高橋翔太郎, 前川佐理(成蹊大学):「モータドライブシステムにおける入出力結合パッシブEMIフィルタ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図8に上記特許文献1の図1の電気回路のコモンモード等価回路を示す。特許文献1はインバータの入出力フィルタを結合させることにより、この経路のノイズ低減を行うものであるが、回路構成上、ヒートシンク経由の流出の抑制は不可能である。即ち、スイッチング素子からヒートシンク(ハウジング)に漏れ出るコモンモード電流(図8のICMh)の経路にインピーダンスを持たないため、インバータから流出するコモンモード電流を阻止できていない。これは、三相入力部のコモンモードコイルにおいて、整流器側との間にバイパスコンデンサ(Yコンデンサ)が接地されているため、この経路を介してインバータノイズが流出するからである。特許文献1の構成は、あくまでも入力のコモンモードコイルと出力のコモンモードコイルを結合させただけのものである。
【0010】
次に、前記非特許文献1に記載された一般的なモータドライブシステムの回路を図9に示し、図10の左にそのコモンモード等価回路を改めて示す。図9のようなモータドライブシステムのインバータ起因のノイズ経路は、コモンモードに着目して等価回路にすると、図10の右に示す経路が考えられる。ここで、図10の右のLoop1はモータ/筐体間から流出し、LISN(電源インピーダンス安定化回路網)を回り込むコモンモードノイズの経路であり、Loop2は同じくモータから流出するが、スイッチング素子と筐体間の浮遊容量を経由して回り込む経路である。
【0011】
ここで、このLoop1とLoop2においては、上述のようにインバータ出力線にコモンモードコイルを挿入することで、コモンモード電流経路のインピーダンスを増加させることができ、抑制可能となる。
【0012】
しかしながら、ヒートシンクと筐体が一体化されている電動圧縮機においては、図10の右のLoop3(スイッチング素子から流出し、LISNに戻る経路)のコモンモード電流を抑制するには、入力側に大型のEMIフィルタが必要となる。即ち、全てのコモンモードノイズを効果的に抑制するには、入出力に大型のコモンモードフィルタが必要となってしまい、機器の小型化が必須の電動圧縮機では適用し難い。
【0013】
また、Loop3から流出するコモンモードノイズは高周波成分を多く含むため、入力部に大型のコモンモードフィルタを搭載したとしても、高周波ではコイルのインピーダンスが低下してしまうため、EMIレベルを抑制するのは容易ではない。
【0014】
このような背景のなか、非特許文献1では図11に示されているように、インバータ回路100において、三相出力のLCフィルタ回路のバイパスコンデンサ101の中点と入力フィルタ回路のバイパスコンデンサ102の中点を直接接合する回路構成とし、入出力結合EMIコイルを活用している。これにより、図11のコモンモード等価回路は図12のようになり、Loop1、Loop2、Loop3全てのノイズにおいて流出源であるスイッチング素子直近において抑制可能となっていた。
【0015】
本発明は、このような背景を踏まえ、一般的な三相インバータ(特に電動圧縮機)におけるインバータノイズに起因するEMIノイズの低減に関して、入力側EMIフィルタの大型化や、入出力のバイパスコンデンサ(Yコンデンサ)の結合ではなく、ノイズ発生源前後において流出する全ての経路においてコモンモードインピーダンスを増加させることにより、効率的にスイッチング素子及びモータから流出するコモンモードノイズの低減を図ることができるインバータ装置及びそれを備えた電動圧縮機を提供することを目的とする。
【0016】
本発明の目的は、更に非特許文献1にて使用されていたディファレンシャルモードコンデンサ及びコモンモードコンデンサ(CCM、CDM)を不要とすることにより、ノイズ低減効果を維持しつつ、小型化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のインバータ装置は、スイッチング素子より構成された三相のインバータ回路を備え、このインバータ回路によりモータを駆動するものであって、インバータ回路の単相入力部に挿入された入力側コモンモードコイルと、インバータ回路の三相出力部に挿入された出力側コモンモードコイルを備え、入力側コモンモードコイルと出力側コモンモードコイルが、共通コアの一体構造のコモンモードコイルとされていると共に、インバータ回路において、三相出力のLCフィルタ回路のバイパスコンデンサ中点と入力フィルタ回路のバイパスコンデンサ中点を直接接合する回路を有さず、一体構造のコモンモードコイルにより、インバータ回路から流出するコモンモード電流の経路がインピーダンスを有することを特徴とする。
【0018】
請求項2の発明のインバータ装置は、上記発明において入力側コモンモードコイルの正極側と負極側の二線、及び、出力側コモンモードコイルのUVW相の三線はコアに対してペンタファイラ巻きされていることを特徴とする。
【0019】
請求項3の発明のインバータ装置は、請求項1の発明において入力側コモンモードコイルと出力側コモンモードコイルは、同一のコモンモードインダクタンスを有することを特徴とする。
【0020】
請求項4の発明のインバータ装置は、請求項1の発明において入力側コモンモードコイルと出力側コモンモードコイルは、異なるコモンモードインダクタンスを有することを特徴とする。
【0021】
請求項5の発明の電動圧縮機は、モータが収容されるハウジングと、このハウジングに構成されたインバータ収容部を備え、上記各発明のインバータ装置が、インバータ収容部に収容されると共に、ハウジングがスイッチング素子のヒートシンクとされていることを特徴とする。
【0022】
請求項6の発明の電動圧縮機は、上記発明において車両に搭載されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スイッチング素子より構成された三相のインバータ回路を備え、このインバータ回路によりモータを駆動するものであって、インバータ回路の単相入力部に挿入された入力側コモンモードコイルと、インバータ回路の三相出力部に挿入された出力側コモンモードコイルを備え、入力側コモンモードコイルと出力側コモンモードコイルを、共通コアの一体構造のコモンモードコイルとすることで、ノイズ発生源であるインバータ回路の入力側と出力側を磁気結合し、ノイズ源前後のインピーダンスを高くできる。
【0024】
これにより、モータとそれが収容されるハウジング間の浮遊容量、及び、インバータ回路のスイッチング素子とハウジング間の浮遊容量を介して流出する全てのコモンモード電流を抑制し、コモンモードノイズの大幅な低減を図ることができるようになる。
【0025】
また、入力側コモンモードコイルと出力側コモンモードコイルを磁気結合させているので、コア一つのみで対応可能であり、ターン数も削減できる。これにより、請求項5や請求項6の発明の如くインバータ装置がハウジングに収容され、小型化が必要な電動圧縮機にとっては極めて優位なこととなる。更に、ノイズをハウジングに漏らさない源流の対策であるので、高周波ノイズの抑制効果が高いものとなる。
【0026】
特に、インバータ回路において、三相出力のLCフィルタ回路のバイパスコンデンサ中点と入力フィルタ回路のバイパスコンデンサ中点を直接接合する回路を有さず、一体構造のコモンモードコイルにより、インバータ回路から流出するコモンモード電流の経路が大きなインピーダンスを有することになるので、ノイズ低減効果を維持しつつ、沿面距離を必要とするコンデンサを削除して、更なる小型化を図ることができるようになる。
【0027】
また、請求項2の発明の如く入力側コモンモードコイルの正極側と負極側の二線、及び、出力側コモンモードコイルのUVW相の三線をコアに対してペンタファイラ巻きすることで、インバータ回路の入力側と出力側のコモンモードコイルを効果的に磁気結合することができるようになる。
【0028】
尚、入力側コモンモードコイルと出力側コモンモードコイルは、請求項3の発明の如く同一のコモンモードインダクタンスを有するものでもよく、請求項4の発明の如く異なるコモンモードインダクタンスを有するものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明を適用した一実施例の電動圧縮機の電気回路のブロック図である。
図2】本発明の一実施例の電動圧縮機の概略断面図である。
図3図1の電気回路の簡易コモンモード等価回路である。
図4図1の電動圧縮機のインバータ回路の入力部と出力部に挿入したコモンモードコイルの構造を説明する図である。
図5図4のコモンモードコイルのインピーダンス特性を説明する図である。
図6図1の電動圧縮機における高電圧回路のノイズを説明する図である。
図7図1の電動圧縮機における低電圧回路のノイズを説明する図である。
図8】特許文献1の電気回路の簡易コモンモード等価回路である。
図9】非特許文献1の一般的なモータドライブシステムの回路図である。
図10図9の簡易コモンモード等価回路である。
図11】非特許文献1の電気回路のブロック図である。
図12図11の簡易コモンモード等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。先ず、図2を参照しながら本発明を適用した実施例の電動圧縮機(所謂インバータ一体型電動圧縮機)1について説明する。尚、実施例の電動圧縮機1は、電動車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成するものである。
【0031】
(1)電動圧縮機1の構成
図2において、電動圧縮機1の金属性の筒状ハウジング(筐体)2内は、当該ハウジング2の軸方向に交差する仕切壁3により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。
【0032】
この場合、実施例のモータ8はハウジング2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0033】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。ハウジング2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14からハウジング2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0034】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口よりハウジング2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0035】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御する本発明のインバータ装置16が収容される。この場合、インバータ装置16は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0036】
(2)インバータ装置16の構造
本発明の一実施例のインバータ装置16は、基板17と、この基板17の一面側に配線された6個のスイッチング素子18と、基板17の他面側に配線された制御回路36等から構成されている。各スイッチング素子18は、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0037】
この場合、各スイッチング素子18が後述する三相のインバータ回路34を構成するものであり、各スイッチング素子18の端子部22は、基板17に接続されている。そして、このように組み立てられたインバータ装置16は、各スイッチング素子18がある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0038】
このようにインバータ装置16が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18は仕切壁3に直接若しくは所定の絶縁熱伝導材を介して密着し、ハウジング2の仕切壁3と熱交換関係となる。そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18Aは仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3の厚みを介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。即ち、ハウジング2(仕切壁3)が各スイッチング素子18のヒートシンクとされている。
【0039】
(3)インバータ装置16の回路構成
次に、図1において本発明のインバータ装置16は、モータ8を運転するためのインバータ回路34と、このインバータ回路34を制御する制御回路36と、LISN37、38と、スイッチング電源装置39と、平滑コンデンサ47等から構成され、これらが前述した基板17上に配線され、前述した如くインバータ収容部6内に収納される。
【0040】
尚、車両には電動圧縮機1のモータ8や、図示しない走行用のモータに給電して駆動するための例えば高電圧バッテリから成る高電圧電源41と、通常のバッテリから成る低電圧電源42が搭載されており、インバータ装置16は高電圧電源41と低電圧電源42に接続される。また、ハウジング2は車体B(Ground plane)に導通されている。
【0041】
インバータ回路34は、三相ブリッジ接続の前述した6個のスイッチング素子18から構成されており、各スイッチング素子18は制御回路36が有するゲートドライバが生成するゲート駆動信号により制御される。制御回路36はマイクロプロセッサ(CPU)から構成されており、インバータ回路34の各スイッチング素子18をゲートドライバによりスイッチングしてPWM変調を行うことで、高電圧電源41の直流電圧を所定周波数の交流電圧とし、モータ8に供給する。
【0042】
スイッチング電源装置39は、低電圧電源42をスイッチングして所定の直流電圧を生成し、制御回路36に給電するためのDC-DCコンバータである。スイッチング電源装置39は、一次巻線と、それとは絶縁された二次巻線から成る絶縁トランス(カップリングトランス)にて構成されたスイッチングトランスから構成されている。そして、スイッチング電源装置39は低電圧電源42をスイッチングして制御回路36に電源を供給すると共に、スイッチングトランスにより、一次巻線が位置する低電圧電源42側の低電圧回路63と、二次巻線が位置する高電圧電源41側の高電圧回路64とを絶縁する。そして、インバータ装置16は上記のように絶縁された高電圧回路64と低電圧回路63が基板17上で近接した状態で構成され、インバータ収容部6内に収容されている。
【0043】
ここで、前述した如くインバータ回路34を構成するスイッチング素子18のスイッチングに伴うサージ電圧(振動電圧)はモータ8側に伝達するため、電圧変動によりモータ8とハウジング2間の浮遊容量を介してコモンモード電流が流出する。更に、ノイズ発生源であるインバータ回路34とハウジング2間の浮遊容量を介して流出するコモンモード電流もある。
【0044】
特に、実施例のようにハウジング2がインバータ回路34のスイッチング素子18のヒートシンクとされた電動圧縮機1では、モータ8とハウジング2間の浮遊容量とインバータ回路34とハウジング2間の浮遊容量を介して流出するコモンモード電流によるノイズ(コモンモードノイズ)が支配的となる。
【0045】
そこで、本発明ではインバータ回路34の単相入力部(二線)に入力側コモンモードコイル67を挿入すると共に、インバータ回路34の三相出力部(インバータ回路34とモータ8の間の三線)に出力側コモンモードコイル66を挿入している(図1)。この場合、図4に示す如く入力側コモンモードコイル67と出力側コモンモードコイル66を、共通の一つのコア68に巻回して一体構造のコモンモードコイル69としている。これにより、入力側コモンモードコイル67と出力側コモンモードコイル66は磁気結合される(Magnetic coupling)。
【0046】
更に、この実施例の場合、入力側コモンモードコイル67は高電圧電源41の正極側に接続された正極線(巻線:コイル)67Hと、負極側に接続された負極線(巻線:コイル)67Lから成る。また、出力側コモンモードコイル66はインバータ回路34の出力のU相に接続されたU相線(巻線:コイル)66Uと、V相に接続されたV相線(巻線:コイル)66Vと、W相に接続されたW相線(巻線:コイル)66Wから成る。そして、これら正極側と負極側の二線67H、67Lと、UVW相の三線66U、66V、66W、合わせて5線が例えば平行に、図4に示す如くコア68に対してペンタファイラ巻きされている。尚、図4中の矢印は磁束の向きを示す。
【0047】
図3に、図1の電気回路の簡易コモンモード等価回路を示す。図中、VCMはインバータ回路34が出力する直流入力中点を基準としたコモンモード電圧、Csmはモータ8の巻線とハウジング2間の浮遊容量、3Cshはスイッチング素子18とハウジング2間の浮遊容量、LCM/4は各コモンモードコイル66、67のインダクタンス(コモンモードインダクタンス)であり、実施例では入力側コモンモードコイル67のインダクタンスと出力側コモンモードコイル66のインダクタンスを同一のLCM/4としている。また、RLISN/2はLISN37、38の出力端子における終端抵抗であり、Lwi、Lwo、Rwi、Rwoはそれぞれ入力側及び出力側ケーブルが有するインダクタンスと抵抗である。
【0048】
図3に示すように、全てのコモンモード電流ループにコモンモードコイル66、67のインダクタンスが配置されるため、入出力双方のコモンモード電流を効果的に抑制することができる。即ち、一体構造のコモンモードコイル69により、インバータ回路34からハウジング2に流出するコモンモード電流の経路が大きなインピーダンスを有することになる。また、実施例のコモンモードコイル69では、入出力の5線67H、67L、66U、66V、66Wを平行にコア68に対してペンタファイラ巻きすることで磁気結合させているので、通常のEMIフィルタに比して、接続しなければならないコモンモードコイルのインダクタンス(コモンモードインダクタンス)を4分の1に削減することが可能となる。
【0049】
即ち、通常のEMIフィルタで必要なコモンモードインダクタンスを得るために、入力側のコモンモードコイルと出力側のコモンモードコイルとしてLCMのインダクタンスのものを接続しなければならなかった場合、本発明の如く出力側コモンモードコイル66と入力側コモンモードコイル67を磁気結合させれば、それぞれLCM/4のインダクタンスのものを用いて上記必要なコモンモードインダクタンスを得ることができるようになる。
【0050】
図5のL100はインバータ回路34の出力部のみに三相コモンモードコイルを挿入した場合のインピーダンスの周波数特性を示し、L1は図4のコモンモードコイルの場合のインピーダンスの周波数特性を示す。この図より、高周波以外では両者は略等しいことが分かる。
【0051】
次に、図6中の(a)は図1の高電圧回路64のノイズ測定結果を示し、横軸は周波数、縦軸はノイズである。また、L101はインバータ回路34の出力部にコモンモードコイルを入れない場合、L102はインバータ回路34の出力部のみに三相コモンモードコイルを挿入した場合、L2は図4のコモンモードコイル69の場合を示している。また、図7中の(b)は、改善差違:L102-L2を示している。
【0052】
図7中の(a)は図1の低電圧回路63のノイズ測定結果を示し、横軸は周波数、縦軸はノイズである。また、L103はインバータ回路34の出力部にコモンモードコイルを入れない場合、L104はインバータ回路34の出力部のみに三相コモンモードコイルを挿入した場合、L3は図4のコモンモードコイル69の場合を示している。また、図7中の(b)は、差違:L104-L3を示している。
【0053】
図6(b)、図7(b)は0より大きい程、ノイズが改善されていることを意味する。図6(b)から明らかな如く、図4の実施例のコモンモードコイル69の場合、入力側コモンモードコイル67と出力側コモンモードコイル66の磁気結合で、高電圧回路64のノイズが改善されている。また、図7(b)から明らかな如く、低電圧回路63のノイズも改善されている。これは高電圧回路64のノイズ改善で、低電圧回路63に及ぼす影響が抑制されたものと考えられる。
【0054】
以上のように本発明によれば、インバータ回路34の単相入力部に挿入された入力側コモンモードコイル67と、インバータ回路45の三相出力部に挿入された出力側コモンモードコイル66を設け、入力側コモンモードコイル67と出力側コモンモードコイル66を、共通コア68の一体構造としたので、ノイズ発生源であるインバータ回路45の入力側と出力側を磁気結合し、インピーダンスを高くすることができる。
【0055】
これにより、モータ8とハウジング2間の浮遊容量、及び、インバータ回路34のスイッチング素子18とハウジング2間の浮遊容量を介して流出する全てのコモンモード電流を抑制し、コモンモードノイズの大幅な低減を図ることができるようになる。
【0056】
また、入力側コモンモードコイル67と出力側コモンモードコイル66を磁気結合させているので、コア68が一つのみで対応可能であり、ターン数も削減できる。これにより、インバータ装置16がハウジング2のインバータ収容部6に収容され、小型化が必要な電動圧縮機1にとっては極めて優位なこととなる。更に、ノイズをハウジング2に漏らさない源流の対策であるので、高周波ノイズの抑制効果が高いものとなる。
【0057】
特に、図11の従来例の如くインバータ回路100において、三相出力のLCフィルタ回路のバイパスコンデンサ101の中点と入力フィルタ回路のバイパスコンデンサ102の中点を直接接合する回路を本発明では有さず、且つ、本発明では一体構造のコモンモードコイル69により、インバータ回路34から流出するコモンモード電流の経路が大きなインピーダンスを有する構造としたので、ノイズ低減効果を維持しつつ、沿面距離を必要とする多数のコンデンサを削除して、更なる小型化を図ることができるようになる。
【0058】
また、実施例では入力側コモンモードコイル67の正極側と負極側の二線、及び、出力側コモンモードコイル66のUVW相の三線を、平行にコア68に対してペンタファイラ巻きしているので、インバータ回路34の入力側と出力側のコモンモードコイルを効果的に磁気結合することができるようになる。
【0059】
尚、実施例では入力側コモンモードコイル67のインダクタンスと出力側コモンモードコイル66のインダクタンス(コモンモードインダクタンス)を同一のLCM/4としたが、それに限らず、入力側コモンモードコイル67と出力側コモンモードコイル66が、異なるインダクタンス(コモンモードインダクタンス)を有するようにしてもよい。即ち、インバータ回路34の入力側のインピーダンスのみを増加させるために入力側コモンモードコイル67の巻回数を増やしてコモンモードインダクタンスを増加させてもよく、或いは、出力側のインピーダンスのみを増加させるために出力側コモンモードコイル66の巻回数を増やしてコモンモードインダクタンスを増加させてもよい。
【0060】
また、実施例ではDC300V程の高電圧バッテリから成る高電圧電源41と、DC12V程のバッテリから成る低電圧電源42を設け、この低電圧電源42から高電圧回路64側の直流電圧(HV15V、HV5V)を生成する場合で説明したが、それに限らず、高電圧電源41から直接高電圧回路64側の直流電圧(HV15V、HV5V)を生成するようにしてもよい。
【0061】
更に、実施例では電動圧縮機のモータを駆動するインバータ装置で本発明を説明したが、請求項1及び請求項2の発明ではそれに限らず、モータを駆動する種々のインバータ装置に適用可能である。更に、実施例で示した具体的な構成や数値はそれに限られるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 電動圧縮機
2 ハウジング
3 仕切壁
6 インバータ収容部
8 モータ
16 インバータ装置
17 基板
18 スイッチング素子
34 インバータ回路
36 制御回路
41 高電圧電源
42 低電圧電源
66 出力側コモンモードコイル
66U U相線
66V V相線
66W W相線
67 入力側コモンモードコイル
67H 正極線
67L 負極線
68 コア
69 コモンモードコイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図12