(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172707
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】発熱構造体、熱利用システム及び空調システム
(51)【国際特許分類】
F24V 30/00 20180101AFI20231129BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F24V30/00 302
H05B3/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084692
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 亜美
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QB05
3K092QB21
3K092VV40
(57)【要約】
【課題】優れたエネルギー密度を実現し得る発熱構造体、これを備えた熱利用システム及び空調システムを提供する。
【解決手段】発熱構造体は、水素を吸脱蔵して過剰熱を発生する水素吸蔵合金を含む発熱材と、水素吸蔵合金を加熱するための正温度係数(PTC)特性を有するPTC材及びPTC材を挟持する一対の板状の電極を備えたPTCヒータと、発熱材及びPTCヒータを収容する容器を具備する。発熱材の表面の少なくとも一部が、絶縁材で被覆されている。発熱材とPTC材とが、電極の面内方向において隣接配置されており、一対の板状の電極が、電極の面内方向に延在して発熱材を挟持している。容器の内部において発熱材及びPTCヒータと容器の内壁との間に水素ガスを含有する断熱材が充填された断熱層が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を吸脱蔵して過剰熱を発生する水素吸蔵合金を含む発熱材と、前記水素吸蔵合金を加熱するための正温度係数(PTC)特性を有するPTC材及び前記PTC材を挟持する一対の板状の電極を備えたPTCヒータと、前記発熱材及び前記PTCヒータを収容する容器を具備した発熱構造体であって、
前記発熱材の表面の少なくとも一部が、絶縁材で被覆されており、
前記発熱材と前記PTC材とが、前記電極の面内方向において隣接配置されており、
前記一対の板状の電極が、前記電極の面内方向に延在して前記発熱材を挟持しており、
前記容器の内部において前記発熱材及び前記PTCヒータと前記容器の内壁との間に水素ガスを含有する断熱材が充填された断熱層が形成されている
ことを特徴とする発熱構造体。
【請求項2】
前記発熱材と前記PTC材とが、前記電極の面内方向のうちの少なくとも1つの方向において、交互に並んでいることを特徴とする請求項1に記載の発熱構造体。
【請求項3】
前記一対の板状の電極が、多孔質構造を有することを特徴する請求項2に記載の発熱構造体。
【請求項4】
前記一対の板状の電極が、前記発熱材の挟持領域においてのみ多孔質構造を有することを特徴とする請求項2に記載の発熱構造体。
【請求項5】
前記断熱材が、水素ガスを内包する空隙を有する多孔質体又は繊維構造体を含むことを特徴とする請求項1に記載の発熱構造体。
【請求項6】
前記電極の面内方向のうちの少なくとも1つの方向において、前記発熱材及び/又は前記PTC材の幅が異なる領域を有することを特徴とする請求項2に記載の発熱構造体。
【請求項7】
前記発熱材と前記PTC材との隣接面の面積が、前記隣接面を接続方向から投影した投影面の面積よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の発熱構造体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つの項に記載の発熱構造体と、他の部材及び/又は装置を備えた熱利用システムであって、
前記発熱構造体から発生した熱を利用して前記他の部材及び/又は装置を暖める
ことを特徴とする熱利用システム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1つの項に記載の発熱構造体と、空調装置を備えた空調システムであって、
前記発熱構造体から発生した熱を利用して前記空調装置内の空気を暖め出力する
ことを特徴とする空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱構造体、熱利用システム及び空調システムに係り、さらに詳細には、優れたエネルギー密度を実現し得る発熱構造体、これを備えた熱利用システム及び空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、本来不安定な水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金を利用して熱を発する発熱体セルを用いて、安定して熱を得ることができる発熱システムが提案されている(特許文献1参照)。この発熱システムにおいては、時間経過と共に変化する発熱体セルの発熱状況に応じて、適宜、発熱体セル内に供給する水素系ガスの供給位置を変化させて過剰熱が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような発熱システムは、ガス供給部等を含み、複雑で非常に大型なシステムになってしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、優れたエネルギー密度を実現し得る発熱構造体、これを備えた熱利用システム及び空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、絶縁材で被覆された発熱材と正温度係数(PTC)ヒータのPTC材とをPTCヒータの板状の電極の面内方向において隣接配置し、発熱材をPTCヒータの板状の電極で挟持することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の発熱構造体は、水素を吸脱蔵して過剰熱を発生する水素吸蔵合金を含む発熱材と、水素吸蔵合金を加熱するための正温度係数(PTC)特性を有するPTC材及びPTC材を挟持する一対の板状の電極を備えたPTCヒータと、発熱材及びPTCヒータを収容する容器を具備する。
この発熱構造体においては、発熱材の表面の少なくとも一部が、絶縁材で被覆されている。また、この発熱構造体においては、発熱材とPTC材とが、電極の面内方向において隣接配置されており、一対の板状の電極が、電極の面内方向に延在して発熱材を挟持している。
さらに、この発熱構造体においては、容器の内部において発熱材及びPTCヒータと容器の内壁との間に水素ガスを含有する断熱材が充填された断熱層が形成されている。
【0008】
また、本発明の熱利用システムは、上述の発熱構造体と、他の部材及び他の装置の少なくとも一方を備える。この熱利用システムは、発熱構造体から発生した熱を利用して他の部材及び他の装置の少なくとも一方を暖めることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の空調システムは、上述の発熱構造体と、空調装置を備える。この空調システムは、発熱構造体から発生した熱を利用して空調装置内の空気を暖め出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶縁材で被覆された発熱材と正温度係数(PTC)ヒータのPTC材とをPTCヒータの板状の電極の面内方向において隣接配置し、発熱材をPTCヒータの板状の電極で挟持することなどとしたため、優れたエネルギー密度を実現し得る発熱構造体、これを備えた熱利用システム及び空調システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の発熱構造体の第1実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示した発熱構造体の一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態の発熱構造体の他の例における一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態の発熱構造体の更に他の例における一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図5】第2実施形態の発熱構造体における一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図6】第3実施形態の発熱構造体における一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図7】第4実施形態の発熱構造体の一例を模式的に示す断面図である。
【
図8】第4実施形態の発熱構造体の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図9】第5実施形態の発熱構造体の一例における一部を模式的に示す端面図である。
【
図10】第5実施形態の発熱構造体の他の例における一部を模式的に示す端面図である。
【
図11】
図9に示した発熱構造体を空調装置のダクトに配置した状態を模式的に示す部分断面図である。
【
図12】
図9に示したXII線で囲んだ部分の拡大断面図である。
【
図13】第6実施形態の発熱構造体の一例における一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図14】第6実施形態の発熱構造体の他の例における一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図15】本発明の熱利用システムの一実施形態を模式的に示す構成図である。
【
図16】本発明の空調システムの一実施形態を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の発熱構造体、熱利用システム及び空調システムについて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
[発熱構造体]
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の発熱構造体1は、発熱材10と、PTCヒータ20と、容器30を具備している。発熱材10は、水素を吸脱蔵して過剰熱を発生する水素吸蔵合金11を含んでいる。PTCヒータ20は、水素吸蔵合金11を加熱するためのPTC特性を有するPTC材21及びPTC材21を挟持する一対の板状の電極23,23を備えている。容器30は、発熱材10及びPTCヒータ20を収容している。
【0014】
また、
図1に示すように、本実施形態においては、発熱材10の表面10aのうちPTC材21又は電極23に接する部分が、絶縁材13で被覆されている。
【0015】
さらに、
図1に示すように、本実施形態においては、板状の発熱材10と板状のPTC材21とが、電極23の面内方向のうちの1つの方向(
図1中の矢印Xで示す方向(横方向))において隣接配置され、交互に並んでいる。
【0016】
さらに、
図1に示すように、本実施形態においては、一対の板状の電極23,23が、電極23の面内方向のうちの1つの方向(
図1中の矢印Xで示す方向(横方向))に延在して発熱材10を挟持している。
【0017】
さらに、
図1に示すように、本実施形態においては、容器30の内部において発熱材10及びPTCヒータ20と容器30の内壁31との間に水素ガスを含有する断熱材(図示せず)が充填された断熱層40が形成されている。なお、図示しないが、電極23,23には図示しない外部電源から電力が供給されている。また、図示しないが、発熱材10、PTC材21及び電極23,23は、図示しない保持部材によって容器30の中央側に保持されていることが好ましい。
【0018】
図2は、
図1に例示した発熱構造体1Aにおける発熱材10及びPTCヒータ20を模式的に示す分解斜視図である。なお、
図2においては、便宜上、絶縁材、容器及び断熱層の記載を省略している。
【0019】
図2に示すように、本例の発熱構造体1Aにおいては、板状の発熱材10と板状のPTC材21とが、電極23の面内方向のうちの1つの方向(
図2中の矢印Xで示す方向(発熱材10及びPTC材21の長辺方向))において隣接配置され、交互に並んでいる。
【0020】
また、
図3は、
図1に例示した発熱構造体1Aの変形例である発熱構造体1Bにおける発熱材10及びPTCヒータ20を模式的に示す分解斜視図である。なお、
図3においても、便宜上、絶縁材、容器及び断熱層の記載を省略している。
【0021】
図3に示すように、本例の発熱構造体1Bにおいては、細い板状の発熱材10と細い板状のPTC材21とが、電極23の面内方向のうちの1つの方向(
図3中の矢印Xで示す方向(発熱材10及びPTC材21の短辺方向))において隣接配置され、交互に並んでいる。
【0022】
さらに、
図4は、
図1に例示した発熱構造体1Aの変形例である発熱構造体1Cにおける発熱材10及びPTCヒータ20を模式的に示す分解斜視図である。なお、
図4においても、便宜上、絶縁材、容器及び断熱層の記載を省略している。
【0023】
図4に示すように、本例の発熱構造体1Cにおいては、板状の発熱材10と板状のPTC材21とが、電極23の面内方向のうちの2つの方向(
図4中の矢印X及び矢印Yで示す方向(発熱材10及びPTC材21の長辺方向及び短辺方向))において隣接配置されている。また、板状の発熱材10と板状のPTC材21とが、電極23の面内方向のうちの1つの方向(
図4中の矢印Xで示す方向)において、交互に並んでいる。
【0024】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の発熱構造体1によれば、絶縁材13で被覆された発熱材10とPTC材21とを板状の電極23の面内方向に隣接配置し、好ましくは交互に並べて配置し、板状の電極23,23で発熱材10を挟持し、容器30の内部において発熱材10及びPTCヒータ20と容器30の内壁31との間に上述した所定の断熱層40を形成したので、発熱材10とPTCヒータ20を薄型化でき、PTCヒータ20によって発熱材10を効率的に加熱することができる。これにより、発熱構造体1のエネルギー密度を高めることができる。
【0025】
より具体的には、PTC材21と発熱材10とを板状の電極23の面内方向に隣接配置することにより、薄型化することが可能になる。さらに発熱材10を絶縁材13で被覆することにより、絶縁材13で被覆された発熱材10とPTC材21とを板状の電極23,23で挟持することが可能になる。これらにより、PTCヒータ20によって発熱材10を隣接方向(例えば、
図4中の矢印Xや矢印Yで示す方向)から加熱するだけでなく、電極23,23を介して厚さ方向(例えば、
図4中の矢印Zで示す方向)からも加熱することが可能になり、発熱材10全体を効率的に加熱することができる。その結果、発熱材10全体から全方位に過剰熱を発生させやすくなる。さらに、このように、薄型化したものを、水素ガスを含有する断熱材が充填された断熱層40を介して容器30に収容することにより、更に薄型化することができる。これにより、発熱構造体1のエネルギー密度を高めることができる。
【0026】
また、本実施形態の発熱構造体1は、ガス供給部等を備える必要がないため、小型化しやすく、車両などの移動体にも搭載可能になる。発熱材10に含まれる上述した水素吸蔵合金11のエネルギー消費効率は少なくとも1よりも大きいため、例えば、電気自動車(EV)に搭載されるヒータ、例えば暖房用ヒータとして利用すれば、EVの航続距離を延ばすことが可能になる。
【0027】
さらに、
図3に示すように発熱材10及びPTC材21を短辺方向(
図3中の矢印Xで示す方向)に隣接配置した発熱構造体1Bは、
図2に示すように発熱材10及びPTC材21を長辺方向(
図2中の矢印Xで示す方向)に隣接配置した発熱構造体1Aよりも、発熱材10とPTC材21との隣接面の面積を大きくしやすく、発熱材10をより効率的に加熱することができるという利点がある。
【0028】
さらに、
図4に示すように発熱材10及びPTC材21を長辺方向及び短辺方向(
図4中の矢印X及び矢印Yで示す方向)に隣接配置した発熱構造体1Cは、
図2、
図3に示すように発熱材10及びPTC材21を長辺方向又は短辺方向(
図2又は
図3中の矢印Xで示す方向)のみに隣接配置した発熱構造体1A、1Bよりも、発熱材10とPTC材21との隣接面の面積を大きくしやすく、発熱材10をより効率的に加熱することができるという利点がある。また、
図4に示す発熱構造体1Cは、
図2、
図3に示す発熱構造体1A,1Bよりも熱分布を広く均一にすることができるという利点もある。
【0029】
なお、発熱材10に電流が流れることとなると、発熱材10自体がヒータとなって、自己制御型発熱を実現するPCTヒータ20を適用した利点が失われるので、発熱材10自体に電流が流れなくなるように絶縁材13が被覆されていることが好ましい。
【0030】
ここで、各構成要素の仕様や材種について更に詳細に説明する。
【0031】
(発熱材)
発熱材10としては、例えば、水素を吸蔵・脱蔵(放出)して過剰熱を発生する水素吸蔵合金を含んでいれば、特に限定されない。例えば、このような水素吸蔵合金は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる第1及び第2の金属を含む水素吸蔵合金により形成される。第1の金属及び第2の金属は、具体的な種類について特に制限はなく、上記の水素吸蔵機能を発揮し得る組み合わせから任意に選択可能である。そして、ある金属が「第1の金属」に該当するか「第2の金属」に該当するかは、組み合わされる他の金属との関係で決定される相対的なものである。このため、これらの金属の組み合わせによっては、ある金属が「第1の金属」に該当する場合と、「第2の金属」に該当する場合の双方の可能性が存在する。
【0032】
第1の金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)及び鉛(Pb)が挙げられる。また、第2の金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)及びカルシウム(Ca)が挙げられる。これらの金属は、発熱量の大きい発熱材を構成することが可能である点で好ましい。
【0033】
加熱温度が比較的低い場合でも発熱材として機能し得るという観点からは、融点が比較的低いスズ(Sn)を第1の金属として用いることが好ましい。また、発熱量が大きいという観点からは、アルミニウム(Al)を第1の金属として用いることも好ましい。
【0034】
さらに、「第1金属-第2金属」の組み合わせとしては、ニッケル-ジルコニウム、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、アルミニウム-マンガン、アルミニウム-亜鉛、スズ-チタン、アルミニウム-カルシウムなどが挙げられる。特に発熱量の大きい発熱材を構成することが可能であるという観点からは、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、スズ-チタンの組み合わせが好ましく、アルミニウム-ニッケル、スズ-チタンの組み合わせがより好ましく、アルミニウム-ニッケルの組み合わせが特に好ましい。なお、これら以外の金属や、これら以外の組み合わせが用いられても良いことは勿論である。
【0035】
発熱材に対する前処理として、2相の水素吸蔵合金に対し、高圧・高温下において水素を吸蔵させ、エネルギー的に安定した状態の発熱材にする。次いで、例えば圧力を常圧程度に下げるか又は温度を200℃などの中温度に下げるなどしてエネルギー状態をずらし、エネルギー的に不安定な状態の発熱材にする。
【0036】
発熱材中に2つの相が共存すると、一方の相と他方の相とでエネルギー的にバランスが取れる平衡点が異なり、水素の吸脱蔵スピードが異なるので、一方の相が水素を放出して他方の相が水素を吸蔵する。この状態が一方の相の平衡点まで続き、一方の相の平衡点で一方の相からの水素放出が止まる。
【0037】
この一方の相の平衡点は、他方の相の平衡点からずれているので、今度は、他方の相が水素を放出して一方の相が水素を吸蔵し、上記一方の相の平衡点を通り過ぎて他方の相の平衡点まで他方の相からの水素の放出が続く。
【0038】
上記のように、一方の相からの水素放出、一方の相の平衡点、他方の相からの水素放出、他方の相の平衡点のサイクルが繰り返され、パルス的な発熱を継続して得ることができる。なお、発熱材は、水素の吸脱蔵を何度も繰り返すうちに、水素吸蔵合金であった材料が徐々に水素吸蔵機能がない単なる合金になる。
【0039】
なお、このような発熱材は、例えば、上述の合金粉末をペレット状に固めたものを用いることが好ましい。さらに、発熱材の表面を被覆する絶縁材は、例えば、多孔質構造を有するゼオライトなどのセラミックスで形成されていることが好ましい。発熱材が、水素ガス透過性を有する絶縁被膜を有すると、発熱材における水素の吸脱蔵が促進される。また、絶縁材で発熱材の表面を被覆する際には、例えば、ゾル・ゲル法を利用することが好ましい。
【0040】
(PTCヒータ)
PTCヒータ20としては、例えば、従来公知のPTC特性を有するPTC材及びPTC材を挟持する一対の板状の電極を備えていれば、特に限定されない。PTC材として用いられる半導体セラミックスとしては、キュリー温度(Tc)近傍に至ると急激に電気抵抗が増大するチタン酸バリウム(BaTiO3)などを挙げることができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、上述した発熱材が過剰熱を発生し得る温度以上にPTC材のキュリー温度を設定したものを好適に用いることができる。また、一対の板状の電極としては、例えば、水素ガス透過性、耐熱性を有することが好ましい。このような電極の材質としては、耐熱性の観点からは、アルミニウムなどの金属を好適に用いることができる。水素ガス透過性の観点からは、パラジウムなどのそれ自体が水素透過性を有する金属を用いて良いが、後述するように水素ガスを透過し得る連通孔を有する多孔質構造を有する電極としても良い。
【0041】
(容器)
容器30としては、例えば、その内部に発熱材及びPTCヒータと共に水素ガスを収容することができれば、特に限定されない。容器としては、例えば、耐熱性、耐久性を有することが好ましい。このような容器の材質としては、耐熱性、耐久性の観点からは、アルミニウムや鋼などの金属を好適に用いることができる。
【0042】
(断熱層)
断熱層40としては、例えば、容器の内部において発熱材及びPTCヒータと容器の内壁との間に水素ガスを含有する断熱材が充填されていれば、特に限定されない。従って、断熱層においては、水素ガス自体が断熱材として機能してもよい。また、その水素ガスの移動を抑制する他の断熱材が含まれていてもよい。また、断熱性能を向上させるために、容器の内部に少量の水素ガスを充填することも好ましい。この場合、例えば、容器の内部圧力を0.1MPa以下とすることが好ましく、1kPa~10kPaとすることがより好ましい。
【0043】
図5~
図14は、本発明の発熱構造体の第2実施形態~第6実施形態を説明する図である。以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同じ構成部位に同一符号を付して詳細な発明を省略する。なお、
図5、
図6、
図9、
図10、
図13及び
図14においても、便宜上、絶縁材、容器及び断熱層の記載を省略している。
【0044】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の発熱構造体2における発熱材10及びPTCヒータ20を模式的に示す分解斜視図である。
図5に示すように、本実施形態の発熱構造体2においては、一対の板状の電極23,23が、発熱材10と断熱層(図示せず)とを連通する孔23aを含む多孔質構造を有していること以外は、第1実施形態の発熱構造体1と同じ構成を有している。このような電極23としては、例えばパンチングメタルからなるものを挙げることができる。
【0045】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の発熱構造体2によれば、一対の板状の電極23,23が上述の多孔質構造を有しているので、水素を吸脱蔵して過剰熱を発生する水素吸蔵合金11を含む発熱材10における水素の吸脱蔵が進行しやすく、発熱材10から過剰熱をより発生させやすくなる。
【0046】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態の発熱構造体3における発熱材10及びPTCヒータ20を模式的に示す分解斜視図である。
図6に示すように、本実施形態の発熱構造体3においては、一対の板状の電極23,23が、発熱材10の挟持領域においてのみ上述した孔23aを含む多孔質構造を有していること以外は、第2実施形態の発熱構造体2と同じ構成を有している。このような電極23としては、例えば上述の発熱材10の挟持領域のみがパンチングメタルからなるものを挙げることができる。
【0047】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の発熱構造体3によれば、一対の板状の電極23,23が、発熱材10の挟持領域においてのみ上述の多孔質構造を有しているので、第2実施形態の利点に加えて、PTC材21と水素との接触によるPTC材21の劣化を抑制ないし防止し得るという利点がある。
【0048】
(第4実施形態)
図7に示すように、本実施形態の発熱構造体4(4A)においては、断熱層40に充填されている水素ガスを含有する断熱材43が水素ガス41を内包する空隙43aを有する多孔質体43Aを含んでいること以外は、第1実施形態の発熱構造体1と同じ構成を有している。このような多孔質体43Aとしては、例えば発泡セラミックスからなるものを挙げることができる。このような発泡セラミックスは、電極表面や容器の内壁に塗工して塗膜を形成してもよい。
【0049】
また、
図8に示すように、本実施形態の発熱構造体4(4B)においては、断熱層40に充填されている水素ガスを含有する断熱材43が水素ガス41を内包する空隙43aを有する繊維構造体43Bを含んでいること以外は、第1実施形態の発熱構造体1と同じ構成を有している。このような繊維構造体43Bとしては、例えばグラスウールからなる織布や不織布を挙げることができる。もちろん、断熱層に単にガラス繊維を配置してもよい。
【0050】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の発熱構造体4によれば、断熱層40の断熱材43が水素ガス41を内包する空隙43aを有する多孔質体43Aや繊維構造体43Bを含んでいるので、第1実施形態の利点に加えて、水素充填空間を確保しつつ、発熱構造体表面の過度な温度上昇を抑制ないし防止することができるという利点がある。また、これにより、発熱構造体の周辺に樹脂部品を配置しても樹脂部品に悪影響を及ぼすことがなくなる。
【0051】
(第5実施形態)
図9及び
図10は、第5実施形態の発熱構造体5(5A,5B)における発熱材10及びPTCヒータ20を模式的に示す端面図である。
図9及び
図10に示すように、本実施形態の発熱構造体5(5A,5B)においては、電極23の面内方向のうちの1つの方向(
図9及び
図10中の矢印Xで示す方向(横方向))において、発熱材10及びPTC材21の幅が異なる領域を有していること以外は、第4実施形態の発熱構造体4Aと同じ構成を有している。
【0052】
より具体的には、
図9に例示した発熱構造体5Aにおいては、中央側に発熱材10及びPTC材21の幅が相対的に小さい領域を有し、両端側に発熱材10及びPTC材21の幅が相対的に大きい領域を有している。
【0053】
また、
図10に例示した発熱構造体5Bにおいては、左端側に発熱材10及びPTC材21の幅が相対的に小さい領域を有し、中央側及び右端側に発熱材10及びPTC材21の幅が相対的に大きい領域を有している。なお、図示しないが、
図10に例示した発熱構造体5Bと逆に、右端側に発熱材10及びPTC材21の幅が相対的に小さい領域を有するようにすることも可能である。
【0054】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の発熱構造体5によれば、電極23の面内方向のうちの1つの方向(
図9及び
図10中の矢印Xで示す方向(横方向))において、発熱材10及びPTC材21の幅が異なる領域を有しているので、第4実施形態の利点に加えて、発熱材10やPTC材21の幅が相対的に小さい領域において、より多くの過剰熱を発生することができ、用途に応じて加熱により暖めたい範囲を適宜規定することができるという利点がある。
【0055】
より具体的には、
図9に示すように、中央側に発熱材10及びPTC材21の幅が相対的に小さい領域を有している場合、中央側においてPTC材21が早く高温になりやすく、発熱材10が早く過剰熱を発生しやすいだけでなく、発熱材10が効果的に加熱されて過剰熱を発生しやすい。一方、
図10に示すように、左端側に発熱材10及びPTC材21の幅が相対的に小さい領域を有している場合、左端側においてPTC材21が早く高温になりやすく、発熱材10が早く過剰熱を発生しやすいだけでなく、発熱材10が効果的に加熱されて過剰熱を発生しやすい。
【0056】
例えば、空調装置における
図11に示すようなダクト611内においては、ダクト611内の空気流れが層流である場合、中心部に近づくに従って流速が大きくなることが知られている。従って、このような空気が流れるダクト611内に
図12に示すような発熱構造体5Aを配置すれば、中心部で発生した過剰熱によってダクト611内を流れる空気を効果的に暖めることができる。
【0057】
(第6実施形態)
図13及び
図14は、第6実施形態の発熱構造体6における発熱材10及びPTCヒータ20を模式的に示す分解斜視図である。
図13及び
図14に示すように、本実施形態の発熱構造体6(6A,6B)においては、発熱材10とPTC材21との隣接面21aの面積が、隣接面21aを接続方向(
図13及び
図13中の矢印Xで示す方向(横方向))から投影した投影面の面積よりも大きいこと以外は、第1実施形態の発熱構造体1と同じ構成を有している。
【0058】
より具体的には、
図13に例示した発熱構造体6Aにおいては、
図13中の矢印Zで示す方向から発熱材10とPTC材21との接続部分を見たときに凹部21Aと凸部21Bとからなる隣接面21aが描く形状が矩形波形状である。
【0059】
また、
図14に例示した発熱構造体6Bにおいては、
図14中の矢印Zで示す方向から発熱材10とPTC材21との接続部分を見たときに凹部21Aと凸部21Bとからなる隣接面21aが描く形状が三角波形状である。
【0060】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の発熱構造体6によれば、発熱材10とPTC材21との隣接面21aの面積を、隣接面21aを接続方向から投影した投影面の面積よりも大きくしたので、第1実施形態の利点に加えて、接触面積が増えることによって熱移動がより促進され、発熱材10が効果的に加熱されてより過剰熱を発生しやすいという利点がある。
【0061】
[熱利用システム]
図15に示すように、本実施形態の熱利用システム50は、発熱構造体1(2~6)と他の部材(他の装置)51を備えている。この熱利用システム50においては、発熱構造体1(2~6)から発生した熱を利用して他の部材(他の装置)51を暖める。
【0062】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の熱利用システム50によれば、上述した発熱構造体1(2~6)から発生した熱を利用して他の部材(他の装置)51を暖めることができるので、熱利用システム50を小型化することができるという利点がある。また、上述したように、車両などの移動体にも搭載可能になる。発熱構造体1(2~6)に含まれる上述した水素吸蔵合金11のエネルギー消費効率は少なくとも1よりも大きいため、例えば、電気自動車(EV)に搭載されるヒータ、具体的には、例えば、他の部材(他の装置)としてのバッテリー、シート、ステアリングなどに用いられるヒータとして利用すれば、EVの航続距離を延ばすことが可能になる。
【0063】
[空調システム]
図16に示すように、本実施形態の空調システム60は、発熱構造体1(2~6)と空調装置61を備えている。この空調装置61は、ダクト611と、送風機613と、熱交換器615を有している。また、この空調装置61においては、発熱構造体1(2~6)は、熱交換器615より下流側のダクト611内に配置されている。ダクト611内を通って図示しない室内(具体的には、車室内)に供給される空気は、送風機613によって矢印αで示すように熱交換器615に送られ、熱交換器615において暖められる。熱交換器615において暖められた空気は、矢印βで示すように発熱構造体1(2~6)に送られ、発熱構造体1において更に暖められる。その後、発熱構造体1(2~6)で暖められた空気は、空調装置61の図示しない吹出し口から室内に送られる。
【0064】
次に本実施形態の利点について説明する。
本実施形態の熱利用システム60によれば、上述した発熱構造体1(2~6)から発生した熱を利用して空調装置61内の空気を暖め出力することができるので、空調システム60を小型化することができるという利点がある。また、上述したように、車両などの移動体にも搭載可能になる。発熱構造体1(2~6)に含まれる上述した水素吸蔵合金11のエネルギー消費効率は少なくとも1よりも大きいため、例えば、電気自動車(EV)に搭載されるヒータ、例えば空調における暖房用ヒータとして利用すれば、EVの航続距離を延ばすことが可能になる。
【0065】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0066】
本発明においては、エネルギー密度を高めるために、PTCヒータによって水素吸蔵合金を含む発熱材を効果的に加熱して発熱材から過剰熱を発生させることを実現すべく、PTCヒータのPTC材と絶縁材で被覆された発熱材とを、PTCヒータの板状の電極の面内方向において隣接配置し、PTCヒータの板状の電極で発熱材を挟持したことを骨子とする。
【0067】
従って、上述の効果が得られれば、例えば、図示しないが、板状の電極が電極の面内方向において分割されていてもよい。
【0068】
また、上述の効果が得られれば、例えば、図示しないが、発熱材とPTC材の2つが、電極の面内方向のうちのいずれか一方の方向(
図4中の矢印X又は矢印Yで示す方向)において隣接配置されていてもよく、2つの発熱材と2つのPTC材が、双方の方向(
図4中の矢印X及び矢印Yで示す方向)おいて隣接配置されていてもよい。
【0069】
さらに、上述の効果が得られれば、例えば、図示しないが、PTCヒータに替えて熱電対温度計を有するセラミックスヒータを用い、その熱電対温度計で計測される温度に基づいてセラミックスヒータの温度制御をしてもよい。
【0070】
さらに、例えば、上述した構成要素は、各実施形態に示した構成に限定されるものではなく、発熱材(水素吸蔵合金、絶縁材)、PTCヒータ(PTC材、電極)、容器、断熱層(断熱材)の仕様や材質の細部を変更することや、一の実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と入れ替えて又は組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0071】
1,2,3,4,5,6 発熱構造体
10 発熱材
10a 表面
11 水素吸蔵合金
13 絶縁材
20 PTCヒータ
21 PTC材
21A 凹部
21B 凸部
21a 隣接面
23 電極
23a 孔
30 容器
31 内壁
40 断熱層
41 水素ガス
43 断熱材
43a 空隙
43A 多孔質体
43B 繊維構造体
50 熱利用システム
51 他の部材(他の装置)
60 空調システム
61 空調装置
611 ダクト
613 送風機
615 熱交換器