(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172722
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ドアシステムの故障予兆診断システム及び故障予兆診断方法
(51)【国際特許分類】
E05F 15/41 20150101AFI20231129BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20231129BHJP
B61B 1/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
E05F15/41
B61L23/00 Z
B61B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084723
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北井 瑳佳
(72)【発明者】
【氏名】宮内 努
(72)【発明者】
【氏名】小池 潤
【テーマコード(参考)】
2E052
3D101
5H161
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052EA15
2E052EB01
2E052GA09
2E052GB20
2E052KA10
3D101AA27
3D101AA32
3D101AB06
3D101AB08
5H161AA01
5H161MM01
5H161MM15
5H161NN01
5H161PP01
5H161PP11
5H161QQ01
5H161QQ03
(57)【要約】
【課題】各ドアの駆動部だけでなく、管理部や通信装置などを含めたドアシステム全体の故障予兆診断を可能にする。
【解決手段】複数のドア個々の開閉を制御する複数の開閉装置に対して開閉タイミングを指令する管理部を有するドアシステムの故障予兆診断システムとして、複数のドア個々の開閉時間に関する情報を入力するデータ入力部と、複数のドア個々の開閉時間に関する情報を過去の分も含めて記憶する記憶部と、開閉時間に関する情報と開閉時間に関する過去分も含めた情報とを比較して、複数のドアの内一部のドアの開閉時間が過去の開閉時間とが異なる場合には、一部のドアの開閉装置に故障予兆があると診断し、複数のドア全ての開閉時間が過去の開閉時間と異なる場合には、管理部に故障予兆があると診断する故障予兆診断部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のドア、当該複数のドア個々の開閉を制御する複数の開閉装置及び当該複数の開閉装置に対して前記複数のドア個々の開閉タイミングを指令する管理部を有するドアシステムの故障予兆を診断する故障予兆診断システムであって、
前記ドアシステムから前記複数のドア個々の開閉時間に関する情報を入力するデータ入力部と、
前記データ入力部から取得する前記複数のドア個々の開閉時間に関する情報を過去の分も含めて記憶する記憶部と、
前記データ入力部から取得する前記開閉時間に関する情報と、前記記憶部から取得する前記開閉時間に関する前記過去の分も含めた情報とを比較して、前記ドアシステムの故障予兆を診断する故障予兆診断部と
を備え、
前記故障予兆診断部は、前記複数のドアの内一部のドアの開閉時間と当該ドアの過去の開閉時間とが異なる場合には、当該一部のドアの前記開閉装置に故障予兆があると診断し、前記複数のドア全ての開閉時間と当該ドア全ての過去の開閉時間とが異なる場合には、前記管理部に故障予兆があると診断する
ことを特徴とする故障予兆診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の故障予兆診断システムであって、
前記複数のドア個々の開閉時間に関する情報及び前記複数のドア個々の過去の総開閉時間と総開閉回数とに関する情報から、前記複数のドア個々の開閉時間に関する過去の情報が更新され、前記記憶部には、前記複数のドア個々に対して前記故障予兆を診断する基準となる開閉時間として記憶される
ことを特徴とする故障予兆診断システム。
【請求項3】
請求項1に記載の故障予兆診断システムであって、
前記故障予兆診断部は、前記故障予兆があると診断した場合に、当該故障予兆を少なくとも画面表示及び音声鳴動のいずれかによって報知する
ことを特徴とする故障予兆診断システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の故障予兆診断システムであって、
前記故障予兆診断部は、前記一部のドアの前記開閉装置に故障予兆があると診断した場合に、さらに、当該診断までの当該開閉装置による開閉回数が当該開閉装置を構成する機器または部品の耐用年数から想定される開閉回数よりも多いときは、当該機器または当該部品に故障予兆があると判定する
ことを特徴とする故障予兆診断システム。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の故障予兆診断システムであって、
前記故障予兆診断部は、前記一部のドアの前記開閉装置に故障予兆があると診断した場合に、さらに、当該診断までの当該開閉装置による開閉回数が当該開閉装置を構成する機器または部品の耐用年数から想定される開閉回数以下であるときは、前記一部のドアの開時間及び閉時間が共に当該ドアの過去の開時間及び閉時間と異なれば、前記一部のドアまたは当該ドアを支えるレール部分に水平方向の故障予兆があると判定し、前記一部のドアの開時間または閉時間のいずれかが当該ドアの過去の開時間または閉時間と異なれば、前記一部のドアまたは当該ドアを支えるレール部分に垂直方向の故障予兆があると判定する
ことを特徴とした故障予兆診断システム。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の故障予兆診断システムであって、
前記ドアシステムの前記管理部及び前記故障予兆診断システムの前記データ入力部が、複数の外部装置を介して通信を行う場合、
前記故障予兆診断部は、前記複数の外部装置の内一部の外部装置を介して取得した前記開閉時間に関する情報に対して前記故障予兆を診断したときに、当該一部の外部装置に故障予兆があると判定し、前記複数の外部装置全てを介して取得した前記開閉時間に関する情報に対して前記故障予兆を診断したときに、前記ドアシステムに請求項1に記載した故障予兆があると判定する
ことを特徴とする故障予兆診断システム。
【請求項7】
請求項6に記載の故障予兆診断システムであって、
前記ドアシステムも複数存在する場合には、前記複数の外部装置及び前記複数のドアシステムそれぞれに識別情報を付与し、
前記故障予兆診断部は、前記識別情報を用いて前記故障予兆を診断したドアシステム及び外部装置を識別する
ことを特徴とする故障予兆診断システム。
【請求項8】
複数のドア、当該複数のドアの開閉を制御する複数の開閉装置及び当該複数の開閉装置に対して前記複数のドア個々の開閉タイミングを指令する管理部を有するドアシステムの故障予兆を診断する故障予兆診断方法であって、
前記管理部から前記複数のドア個々の開閉時間に関する情報を入力し、
前記複数のドア個々の開閉時間に関する情報を過去の分も含めて記憶し、
前記開閉時間に関する情報と前記開閉時間に関する前記過去の分を含めた情報とを比較して、前記複数のドアの内一部のドアにおける開閉時間と当該ドアの過去の開閉時間とが異なる場合には、当該一部のドアの前記開閉装置に故障予兆があると診断し、前記複数のドア全てにおける開閉時間と当該ドア全ての過去の開閉時間とが異なる場合には、前記管理部に故障予兆があると診断する
ことを特徴とする故障予兆診断方法。
【請求項9】
請求項8に記載の故障予兆診断方法であって、
前記複数のドア個々の開閉時間に関する情報及び前記複数のドア個々の過去の総開閉時間と総開閉回数とに関する情報から前記複数のドア個々の開閉時間に関する過去の情報を更新し、前記複数のドア個々に対して前記故障予兆を診断する基準となる開閉時間として記憶する
ことを特徴とする故障予兆診断方法。
【請求項10】
請求項8に記載の故障予兆診断方法であって、
前記故障予兆があると診断した場合に、当該故障予兆を少なくとも画面表示及び音声鳴動のいずれかによって報知する
ことを特徴とする故障予兆診断方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の故障予兆診断方法であって、
前記一部のドアの前記開閉装置に故障予兆があると診断し、さらに、当該診断までの当該開閉装置による開閉回数が当該開閉装置を構成する機器または部品の耐用年数から想定される開閉回数よりも多い場合には、当該機器または当該部品に故障予兆があると判定する
ことを特徴とする故障予兆診断方法。
【請求項12】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の故障予兆診断方法であって、
前記一部のドアの前記開閉装置に故障予兆があると診断し、さらに、当該診断までの当該開閉装置による開閉回数が当該開閉装置を構成する機器または部品の耐用年数から想定される開閉回数以下である場合に、前記一部のドアの開時間及び閉時間が共に当該ドアの過去の開時間及び閉時間と異なるときは、前記一部のドアまたは当該ドアを支えるレール部分に水平方向の故障予兆があると判定し、前記一部のドアの開時間または閉時間のいずれかが当該ドアの過去の開時間または閉時間と異なるときは、前記一部のドアまたは当該ドアを支えるレール部分に垂直方向の故障予兆があると判定する
ことを特徴とした故障予兆診断方法。
【請求項13】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の故障予兆診断方法であって、
前記ドアシステムの前記管理部が複数の外部装置を介して通信を行う場合、
前記複数の外部装置の内一部の外部装置を介して取得した前記開閉時間に関する情報に対して前記故障予兆を診断したときには、当該一部の外部装置に当該故障予兆があると判定し、前記複数の外部装置全てを介して取得した前記開閉時間に関する情報に対して前記故障予兆を診断したときには、前記ドアシステムに請求項8に記載の故障予兆があると判定する
ことを特徴とする故障予兆診断方法。
【請求項14】
請求項13に記載の故障予兆診断方法であって、
前記ドアシステムも複数存在する場合には、前記複数の外部装置及び前記複数のドアシステムそれぞれに識別情報を付与し、当該識別情報を用いて前記故障予兆を診断したドアシステム及び外部装置を識別する
ことを特徴とする故障予兆診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアシステムを対象とする故障予兆診断システム及び故障予兆診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道に係る保守作業の効率化及び省力化の観点から、鉄道の地上機器に対する故障予兆診断技術の開発が求められている。鉄道の地上機器の中でも、駅ホームに設置されているホームドア装置は、故障が発生すると、列車の運行に遅れを生じさせるなど大きな影響を及ぼす。そのため、故障が発生する前に、その予兆を検知及び診断する故障予兆診断技術の開発が求められている。
【0003】
本発明に対する背景技術として、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、モータを駆動することによって開閉可能な開閉装置において、駆動電流取得部によってモータの駆動電流を取得し、診断部は、駆動電流取得部で取得された駆動電流の時間変化により電流波形を特定し、当該電流波形に基づいて開閉装置の健全性を診断する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、交通機関のプラットフォームに設置されるホームドアシステムにおいて、各ドアの駆動部の故障予兆に対する診断手法が開示されている。しかし、ホームドアシステムには、各ドアの開閉操作を制御する指令装置や、車両のドアと連動して開閉するための通信装置なども存在するため、これらの機器の故障予兆も併せて検知する必要がある。
【0006】
そこで、本発明では、各ドアの駆動部だけでなく、指令装置や通信装置などを含めたホームドアシステム全体の故障予兆診断を可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の故障予兆診断システムの一つは、複数のドア、当該複数のドア個々の開閉を制御する複数の開閉装置及び当該複数の開閉装置に対し複数のドア個々の開閉タイミングを指令する管理部を有するドアシステムの故障予兆を診断する故障予兆診断システムであって、ドアシステムから複数のドア個々の開閉時間に関する情報を入力するデータ入力部と、データ入力部から取得する複数のドア個々の開閉時間に関する情報を過去の分も含めて記憶する記憶部と、データ入力部から取得する開閉時間に関する情報と記憶部から取得する開閉時間に関する過去分も含めた情報とを比較してドアシステムの故障予兆を診断する故障予兆診断部とを備え、故障予兆診断部は、複数のドアの内一部のドアの開閉時間と当該ドアの過去の開閉時間とが異なる場合には、一部のドアの開閉装置に故障予兆があると診断し、複数のドア全ての開閉時間と当該ドア全ての過去の開閉時間とが異なる場合には、管理部に故障予兆があると診断するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ホームドアシステムに代表される、複数の開閉装置とその開閉タイミングを制御する管理部を備えたドアシステムにおいて、ドアシステム全体の故障予兆を診断することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1に係る故障予兆診断システム及び診断対象となるドアシステムのブロック構成を示す図である。
【
図2】実施例1における記憶部の処理フローの一例を示す図である。
【
図3】実施例1における故障予兆診断部の処理フローの一例を示す図である。
【
図4】各故障モードを判定するための故障モード判定処理の処理フローの一例を示す図である。
【
図5】実施例1における故障予兆診断部による各ドアの故障モード判定処理の処理フローの一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る故障予兆診断システム、診断対象となるドアシステム及び介在する車両のブロック構成を示す図である。
【
図7】実施例2における記憶部の処理フローの一例を示す図である。
【
図8】実施例2における故障予兆診断部の処理フローの一例を示す図である。
【
図9】各故障モードを判定するための故障モード判定処理の処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態である実施例1及び実施例2について説明する。なお、これら実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例0011】
本発明に係る実施例1について、
図1~
図5を参照して説明する。
(ブロック構成)
図1は、本発明の実施例1に係る故障予兆診断システム100及び診断対象となるドアシステム200のブロック構成を示す図である。
【0012】
故障予兆診断システム100は、データ入力部110、記憶部120及び故障予兆診断部130を備える。
【0013】
ドアシステム200は、複数のドア210及び管理部220を備え、さらに、各ドア210は、それぞれ内部に開閉装置211を1つずつ備える。
ここで、ドアシステムとしては、駅等のホームに設置されるホームドアを対象としているが、これに限定されるものではない。例えば、列車等に搭載される車両ドアを対象とするドアシステムにも適用可能である。この点は、実施例1及び後述する実施例2も同様である。
【0014】
先ず、故障予兆診断システム100の個々の構成要素について説明する。
データ入力部110は、ドアシステム200の管理部220から、各ドア210の開閉時間情報(開時間及び閉時間)を入力し、記憶部120と故障予兆診断部130へ開閉時間情報を出力する。なお、データ入力部110への開閉時間情報の入力方法としては、管理部220からの入力ではなく、管理部220を通さずに直接各ドア210の開閉装置211から入力してもよい。
【0015】
また、ドアシステム200が、車両基地等に設置されたサーバやクラウド環境上に構築された記憶領域に送信可能な機能を備えている場合には、公共無線通信等を用いて、故障予兆診断システム100をこの記憶領域に接続可能な環境下に実装することで、この記憶領域から入力してもよい。この点については、後述する実施例2でも同様である。
【0016】
記憶部120は、データ入力部110から各ドア210の開閉時間情報を、故障予兆診断部130から診断状態を、それぞれ入力し、入力された情報を基に各ドア210の基準開閉時間情報を更新し、記憶領域に記憶する。その際に、各ドア210に対応してドア識別情報を付与し、このドア識別情報と併せて記憶してもよい。
【0017】
また、記憶部120は、記憶領域から各ドア210の基準開閉時間情報(基準開時間及び基準閉時間)を取得して故障予兆診断部130へ出力する。記憶部120の動作態様(処理フロー)については、後述する。
【0018】
ここで、記憶領域に関しては、故障予兆診断システム100内に、メモリ、ハードディスクまたはSSDなどの記憶領域が存在する場合は、その記憶領域内に記憶するか、有線または無線通信等を介して外部の記憶領域に接続可能な場合は、その記憶領域内に記憶してもよい。この点については、後述する実施例2でも同様である。
【0019】
故障予兆診断部130は、データ入力部110から各ドア210の開閉時間情報を、記憶部から各ドア210の基準開閉時間情報を、それぞれ入力し、入力された各情報を基に故障予兆を診断し、診断結果を運転士、運転指令(運転指令所)または検修区(車両基地)などへ出力する。故障予兆診断部130の動作態様(処理フロー)については、後述する。
【0020】
次に、ドアシステム200の個々の構成要素について説明する。
ドア210は、開閉装置211によって開動作または閉動作を行う。
開閉装置211は、ドア210の開閉動作を行うための図示しない駆動装置を備え、管理部220から開閉指令(開指令または閉指令)を入力し、開閉指令に応じてドア210の開動作または閉動作を行い、また、ドア210が開状態であるか閉状態であるかを管理部220へ出力する。
【0021】
管理部220は、各ドア210の開閉装置211にそれぞれ開閉指令を出力し、開閉装置211から、各ドアの開閉状態(開状態または閉状態)を入力する。また、管理部220は、開閉指令の送信タイミングと、開閉装置211から受信した各ドア210の開閉状態の変化から、各ドア210の開閉時間情報を算出し、故障予兆診断システム100のデータ入力部110へ出力する。
【0022】
ここで、開時間及び閉時間の算出方法について、以下に示す。
・開時間:管理部220がドア開信号を送信してから、各ドア210の開閉状態が開状態に変化したことをそれぞれの開閉装置211から受信するまでの時間
・閉時間:管理部220がドア閉信号を送信してから、各ドア210の開閉状態が閉状態に変化したことをそれぞれの開閉装置211から受信するまでの時間
【0023】
(記憶部120の動作)
図2は、実施例1における記憶部120の処理フローの一例を示す図である。以下に記す各処理ステップの実行主体は、記憶部120が有する処理部であるが、以下ではその主体の記載は省略する。
【0024】
ステップS1001では、記憶領域から各ドア210の基準開閉時間情報を取得して故障予兆診断部130へ出力する。
ステップS1002では、データ入力部110から各ドア210の開閉時間情報を、故障予兆診断部130から診断状態の値を、それぞれ取得する。
【0025】
ステップS1003では、診断状態の値が0(正常)かどうかを判定し、0(正常)の場合(Yes)には、ステップS1004へ進み、0以外(異常)の場合(No)には、処理を終了する。
【0026】
以降のステップS1004からステップS1008までの処理は、ドア210(=開閉装置211)の数だけループし、各ドア210の各開閉時間情報に対して実施する。
【0027】
ステップS1004では、記憶領域から、各ドア210の、基準時間情報、総開閉時間情報(総開時間と総閉時間)及び総開閉回数情報(総開回数と総閉回数)を取得する。
ステップS1005では、各ドア210の総開時間/総閉時間に対して、データ入力部110から取得した各ドア210の開時間/閉時間をそれぞれ加算し、ステップS1006へ進む。
【0028】
ステップS1006では、各ドア210の総開回数/総閉回数の値をそれぞれ+1する。
ステップS1007では、以下の式を用いて、各ドア210の基準開時間情報を更新する。
基準開時間=総開時間÷総開回数
基準閉時間=総閉時間÷総閉回数
ステップS1008では、各ドア210の更新後の基準開閉時間情報を記憶領域に記憶する。
【0029】
全てのドア210に対して処理が終了している場合は処理を終了し、終了していない場合はステップS1004へ戻る。
【0030】
(故障予兆診断部130の動作)
図3は、実施例1における故障予兆診断部130の処理フローの一例を示す図である。以下に記す各処理ステップの実行主体は、故障予兆診断部130であるが、以下ではその主体の記載は省略する。
【0031】
ステップS1101では、データ入力部110から各ドア210の開閉時間情報を、記憶部120から各ドア210の基準開閉時間情報を、それぞれ取得する。
ステップS1102では、全てのドア210について、開時間と基準開時間との差分の絶対値かつ閉時間と基準閉時間との差分の絶対値がそれぞれ閾値d1以下であるかを判定する。YesであればステップS1103へ進み、NoであればステップS1106へ進む。閾値d1の詳細については、後述する。
【0032】
ステップS1103では、診断状態の値を0(正常)にする。
ステップS1104では、管理部220の故障予兆カウンタの値及び全てのドア210の故障予兆カウンタの値を、共に0に初期化する。
ステップS1105では、診断状態を記憶部120へ出力し、処理を終了する。
【0033】
ステップS1106では、診断状態の値を1(異常の可能性)にする。
ステップS1107では、後述する故障モード判定処理を実施する。
ステップS1108では、管理部220または各開閉装置211の中に、故障モードの値が0以外の装置の有無を判定する。有れば(Yes)、ステップS1109へ進み、無ければ(No)、ステップS1105へ進む。
ステップS1109では、故障予兆アラートを、運転士、運転指令(運転指令所)または検修区(車両基地)などへ報知する。故障予兆アラートの報知方法の詳細については、後述する。
【0034】
(閾値d1)
ここで、閾値d1の詳細について説明する。
閾値d1は、現在の開/閉時間が、基準開/閉時間よりも何秒以上長い値を示した際に、異常値であると判断するかを示すパラメータである。閾値d1としては、例えば、事前に正常な状態の各ドア210の開/閉時間のデータを、運用や天候の影響などを無視できるデータ数だけ収集して算出した標準偏差σから一般的に統計上外れ値とされる3σの値を求めて設定するか、ドア210の仕様で標準的な開/閉時間及び最大または最小の開/閉時間が定まっている場合は、標準的な開/閉時間と最大または最小の開/閉時間との差分の内最も大きいものを設定してもよい。
【0035】
(故障モード及び故障モード判定処理)
次に、故障予兆診断部130における故障モード判定処理の詳細について説明する。
先ず、故障モードとは、ドアシステム200の故障予兆があるか、また、故障予兆がある場合はどこにどのような故障予兆が発生しているかを示す信号である。
【0036】
以下に、実施例1における故障モードの定義を示す。
・故障モードの値‘0’: 故障予兆無し
・故障モードの値‘1’: 管理部220の制御・伝送装置に、故障予兆あり
・故障モードの値‘2’: ある特定のドア210の開閉装置211の駆動装置に、経年劣化による故障予兆あり
・故障モードの値‘3’: ある特定のドア210の開閉装置211の駆動装置に、ドアまたはドアを支えるレールの水平方向のゆがみ等の予兆あり
・故障モードの値‘4’: ある特定のドア210の開閉装置211の駆動装置に、ドアまたはドアを支えるレールの垂直方向のゆがみ等の予兆あり
【0037】
図4は、各故障モードを判定するための故障モード判定処理(
図3に示す、ステップS1107)の処理フローの一例を示す図である。以下に記す各処理ステップの実行主体は、故障予兆診断部130であるが、以下ではその主体の記載は省略する。
【0038】
ステップS1201は、全てのドア210において、開時間と基準開時間との差分の絶対値かつ閉時間と基準閉時間との差分の絶対値が、閾値d1よりも大きいか否かを判定する。Yesであれば、ステップS1202へ進み、Noであれば、ステップS1206へ進む。
【0039】
ステップS1202では、管理部220の故障予兆カウンタの値を+1する。
ステップS1203では、管理部の故障予兆カウンタの値が閾値d2より大きいか否かを判定する。Yesであれば、ステップS1204へ進み、Noであれば、ステップS1205へ進む。閾値d2の詳細については、後述する。
【0040】
ステップS1204では、故障モードの値を1にして、処理を終了する。
ステップS1205では、故障モードの値を0にして、処理を終了する。
ステップS1206では、各ドア210の故障モード判定処理を実施して、処理を終了する。各ドア210の故障モード判定処理の詳細については、後述する。
【0041】
(閾値d2)
ここで、閾値d2の詳細について説明する。
閾値d2は、管理部220から取得した開/閉時間が、何回連続で基準開/閉時間と異なった値を示した場合に、故障予兆が発生したと判定するかを示すパラメータである。
ホームドア等のドアシステム200では、開閉動作中に異物が挟まったことにより閉時間が長くなるといった、故障予兆ではないが突発的に標準的な開閉時間よりも異なった開閉時間を示す現象が発生する場合がある。それ故に、閾値d2の算出方法としては、上記した現象とは異なり、確実に毎回標準的な開閉時間と異なった時間を示していると判断できる値(例えば、5回や10回などの回数)を設定する。
【0042】
(ドア210の故障モード判定処理)
図5は、実施例1における故障予兆診断部130による各ドア210の故障モード判定処理(
図4に示す、ステップS1206)の処理フローの一例を示す図である。以下に記す各処理ステップの実行主体は、故障予兆診断部130であるが、以下ではその主体の記載は省略する。
【0043】
ステップS1301では、故障モード判定処理のステップS1201において、開時間と基準開時間との差または閉時間と基準閉時間との差のいずれかが閾値d1よりも大きいと判定されたドア210から1つを選ぶ。
ステップS1302では、選出したドア210の故障予兆カウンタの値を+1する。
【0044】
ステップS1303では、選出したドア210の故障予兆カウンタの値が閾値d2より大きいか否か判定する。Yesであれば、ステップS1304へ進み、Noであれば、ステップS1307へ進む。
【0045】
ステップS1304では、選出したドア210の総開回数または総閉回数が閾値d3よりも大きいか否かを判定する。Yesであれば、ステップS1305へ、Noであれば、ステップS1309へ進む。閾値d3の詳細については、後述する。
【0046】
ステップS1305では、選出したドア210の故障モードの値を2にする。
ステップS1306では、ステップS1301で選出されていないドア210が残っていないかを判定する。Yesであれば、処理を終了し、Noであれば、ステップS1301へ戻る。
ステップS1307では、選出したドア210の故障モードの値を0にする。
【0047】
ステップS1308では、選出したドア210の開時間と基準開時間との差分かつ閉時間と基準閉時間との差分が、共に閾値d1より大きいか否かを判定する。Yesであれば、ステップS1309へ進み、Noであれば、ステップS1310へ進む。
【0048】
ステップS1309では、選出したドア210の故障モードの値を3にする。すなわち、上記した開時間に関する差分及び閉時間に関する差分が共に閾値d1より大きいと判断された場合は、開閉動作に直接関与する部分である、ドアまたはドアを支えるレールの水平方向に、ゆがみ等の故障予兆有りと判断する。
ステップS1310では、選出したドア210の故障モードの値を4にする。すなわち、上記した開時間に関する差分または閉時間に関する差分のいずれかが閾値d1より大きいと判断された場合は、開閉動作に直接関与しない部分である、ドアまたはドアを支えるレールの垂直方向に、ゆがみ等の故障予兆有りと判断する。
【0049】
(閾値d3)
ここで、閾値d3の詳細について説明する。
閾値d3は、開閉装置211の駆動装置を構成する機器または部品の劣化によると判断するためのパラメータであり、総開/閉回数が何回以上に至ったかで判断する。例えば、タイミングベルトや、モータブラシ等の定期的に交換が必要な機器または部品の劣化を対象とする。
閾値d3の算出方法としては、例えば、交換が必要な機器または部品の耐用年数と、列車の運用から算出した年間の開回数または閉回数を掛け合わせることで算出することができる。また、交換が必要な機器または部品が複数ある場合には、各機器または各部品の内、耐用年数が最も少ない機器または部品の耐用年数と上記した年間の開回数または閉回数を掛け合わせることで算出してもよい。さらには、故障予兆診断システム100を導入した時点で過去に交換済みの機器または部品がある場合には、故障予兆診断システム100の導入時点での残りの耐用年数が最も短いものを選出して算出してもよい。
【0050】
(故障予兆アラートの報知)
次に、故障予兆アラートの報知方法について説明する。
故障予兆アラートは、ドアシステム200の故障予兆を検知した旨を、少なくとも画面表示及び音声鳴動のいずれかによって、運転士、運転指令(運転指令所)または検修区(車両基地)などに報知する機能である。
【0051】
故障予兆診断システム100が列車に搭載されている場合には、故障予兆診断システム100は、図示しない車両情報制御装置に故障予兆アラートを出力し、図示しない車両情報制御装置から、運転台等の表示器に故障予兆を検知した旨の画面表示を行う。あるいは、故障予兆診断システム100が直接、運転台等の表示器に故障予兆を検知した旨の画面表示を行ってもよい。
【0052】
また、故障予兆診断システム100が、図示しない車両情報制御装置で集約された車両データを、公共無線通信網等を用いて、運転指令(運転指令所)や検修区(車両基地)などにある地上システムに送信する機能を有する場合には、故障予兆アラートを車両データに含ませて地上システムに送信する。これにより、地上システムを介して、地上システムが備える画面等から故障予兆アラートを報知してもよい。
【0053】
さらには、運転指令(運転指令所)や検修区(車両基地)などにある地上システムが故障予兆診断システム100を実装する場合には、故障予兆診断システム100が、故障予兆アラートを地上システムが備える画面等に表示してもよい。
(作用効果)
以上のとおり、実施例1に係る故障予兆診断システムは、管理部と複数のドア装置の開閉を制御する開閉装置から成るドアシステムに対して、各ドアの開閉装置の駆動装置のみならず、管理部を含めたドアシステム全体の故障予兆を検知することを可能にする。
【0054】
また、実施例1に係る故障予兆診断システムは、過去の開閉時間情報から機器正常時の標準的な開閉時間を算出する機能を用いて、過去の開閉時間と現在の開閉時間を比較して全てのドアの開閉時間が過去の開閉時間と異なっている場合には、ドアシステムの管理部に故障予兆があると判定し、特定のドアの開閉時間が過去の開閉時間と異なっている場合には、その特定のドアに故障予兆があると判定する機能を備えている。
【0055】
さらに、実施例1に係る故障予兆診断システム100は、ドアの故障予兆に関して、これまで開閉動作を行った回数や、開時間と閉時間それぞれの過去の開/閉時間との差異を考慮することにより、ドアの開閉装置の駆動装置における故障要因を判別する機能を備えている。
実施例2では、故障予兆診断システム100の構成要素及びドアシステム200の構成要素については、実施例1と同様であるが、ドアシステム200に対する開閉動作の指令が、車両300から送信される点において実施例1と異なる。
以下では、実施例2について、ドアシステム200及び車両300が、鉄道の線区の各駅に設置されたホームドア及びその線区を走行する列車群のように、それぞれ複数存在して、ある特定のドアシステム200に対してある特定の車両300が停車した場合を例にして、説明する。
なお、故障予兆診断システム100及びドアシステム200の各構成要素の説明は、実施例1と同様のため省略する。また、それぞれの各部の入出力に関しては、実施例1と相違する点についての説明に絞ることとする。
車両300は、車両情報制御部310、第1の伝送部320及び第2の伝送部330を備える。また、車両300は、本来、車輪など走行するための機能や装備、走行を制御するための運転士または運転士を代替する自動運転制御のための機能や装備、等を備えているが、実施例2の動作態様には直接影響を及ぼさないため、それらの説明は省略する。
データ入力部110は、車両300の第1の伝送部320から、車両識別情報(例えば、どの車両300から取得したかという情報)と、ドアシステム識別情報(どのドアシステム200から取得したかという情報)を含んだ各ドア210の開閉時間情報を入力し、記憶部120及び故障予兆診断部130へ出力する。
ここで、データ入力部110における開閉時間情報の入力方法としては、車両300の第1の伝送部320から、公共無線通信等を介して直接故障予兆診断システム100へ入力する場合、また、車両基地等に設置されたサーバやクラウド環境上に構築された記憶領域に対して車両が送信可能な機能を備えている場合は、故障予兆診断システム100をこの記憶領域に接続可能な環境下に実装し、この記憶領域から入力する場合、等が想定される。
記憶部120は、記憶領域から、ドアシステム識別情報と一致するドアシステム200の各ドア210の基準開閉時間情報を取得し、故障予兆診断部130へ出力する。また、データ入力部から各ドア210の開閉時間情報を入力し、ドアシステム識別情報と一致するドアシステム200の各ドア210の基準開閉時間情報を更新して記憶領域に記憶する。記憶部120の動作の詳細は後述する。
故障予兆診断部130は、データ入力部110から各ドア210の開閉時間情報を、記憶部120からドアシステム識別情報と一致するドアシステム200の各ドア210の基準開閉時間情報を、それぞれ入力し、入力した各情報を基に故障予兆を診断し、診断結果を運転士、運転指令(運転指令所)または検修区(車両基地)などへ出力する。運転士、運転指令(運転指令所)または検修区(車両基地)などへの出力方法については、実施例1と同様であるため、説明を省略する。また、故障予兆診断部130の動作態様(処理フロー)については、後述する。
ドアシステム200の管理部220は、車両300の第2の伝送部330から、開閉指令を入力し、各ドア210の開閉装置211にそれぞれ開閉指令を出力する。また、開閉装置211から各ドアの開閉状態(開状態であるか、閉状態であるか)を入力し、車両300の第2の伝送部330へ出力する。
車両300の車両情報制御部310は、第1の伝送部320を介して故障予兆診断システム100のデータ入力部110と通信を行う。また、車両情報制御部310は、第2の伝送部330を介してドアシステム200の管理部220と通信を行い、管理部220へ開閉指令を出力し、管理部220から各ドア210の開閉状態を入力する。
さらに、車両情報制御部310は、入力した各ドア210の閉閉状態から各ドア210の開閉時間情報を算出し、この開閉時間情報に車両識別情報とドアシステム識別情報とを付与してデータ入力部110へ出力する。
ここで、開閉時間情報の算出方法について、以下に示す。
・開時間:車両情報制御部310がドア開信号を送信してから、各ドア210の開閉状態情報が開状態に変化したことを管理部220から受信するまでの時間
・閉時間:車両情報制御部310がドア閉信号を送信してから、各ドア210の開閉状態情報が閉状態に変化したことを管理部220から受信するまでの時間
ステップS1404では、記憶領域から、ドアシステム200の各ドア210の基準時間情報、総開閉時間情報(総開時間と総閉時間)及び総開閉回数情報(総開回数と総閉回数)を取得する。
ステップS1005からステップS1008までの各処理内容は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
ステップS1101からステップS1103、ステップS1105、ステップS1106及びステップS1109での各処理内容は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
ただし、ステップS1107の故障モード判定処理については、実施例1とは異なるため、後述する。
ステップS1501では、ドアシステム識別情報と一致するドアシステム200における管理部220の故障予兆カウンタの値及び全てのドア210の故障予兆カウンタの値を、それぞれ0に初期化する。
ステップS1502では、車両識別情報と一致する車両300の故障予兆カウンタの値を0に初期化する。
ステップS1503では、車両識別情報と一致する車両300、ドアシステム識別情報と一致するドアシステム200における管理部220及び各ドア210のいずれかの故障モードの値が0以外の装置の有無を判定する。有れば(Yes)、ステップS1109へ進み、無ければ(No)、ステップS1105へ進む。
また、故障予兆診断システムは、車両側とドアシステム側のどちらの通信装置で故障予兆が発生しているかを判別することが可能な機能や、車両及びドアシステムが複数ある場合に、どの車両またはどのドアシステムで故障予兆が発生したかを特定する機能を備えている。
すなわち、実施例2に係る故障予兆診断システムは、車両から開閉指令を受信することで開閉装置の動作を制御するドアシステムにおいて、車両との通信装置も含めたドアシステム全体の故障予兆を検知することを可能にする。
以上、本発明の実施例1及び実施例2について説明したが、本発明は、上記した実施例1及び2に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記した実施例1及び2は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであるが、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も、本発明の範囲内に含まれるものである。
また、上記した各構成、機能、処理部等については、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。さらに、上記した各構成及び機能等は、プロセッサが、それぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル及びファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体、に置くことができる。