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特開2023-172733グリス塗布方法及びブレーキディスク付き車輪の組立方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172733
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】グリス塗布方法及びブレーキディスク付き車輪の組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20231129BHJP
   B61H 5/00 20060101ALI20231129BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F16D65/12 P
F16D65/12 X
B61H5/00
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084746
(22)【出願日】2022-05-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年2月18日に、機械振興会館B2階大ホールで開催された令和3年度全国「車両と機械」研究発表会にて、グリス塗布方法及びブレーキディスク付き車輪の組立方法に関する研究について公開した。 令和4年3月30日に、JR九州エンジニアリング株式会社 新幹線熊本車両事業所での竣工式にて、グリス塗布方法及びブレーキディスク付き車輪の組立方法について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】507293505
【氏名又は名称】JR九州エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】田辺 努
(72)【発明者】
【氏名】山本 将也
(72)【発明者】
【氏名】松岡 拓夢
【テーマコード(参考)】
2G047
3J058
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AC07
2G047BA03
2G047BB01
2G047BC18
3J058AA44
3J058AA47
3J058AA53
3J058AA62
3J058BA47
3J058BA61
3J058CB14
3J058DB23
3J058DD02
3J058FA21
(57)【要約】
【課題】所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合に比して更に安定化することのできるグリス塗布方法を提供する。また、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法についても提供する。
【解決手段】鉄道車輪の輪心部にブレーキディスクを締結するボルトの軸回りに対し定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って定量的に載置する工程と、前記ボルトに螺合させたナットを螺進させて前記ねじ山に沿って載置したグリスを塗り広げる工程を有するグリス塗布方法とした。また、ボルトの自然長を計測する自然長測定工程と、グリスをボルトの軸回りに定量的に載置するグリス載置工程と、各ボルトに螺合させたナットを螺進させて前記グリスを塗り広げつつ締結しブレーキディスク付き車輪を構築するボルト締結工程と、自然長と締結状態のボルトの長さとを比較して各ボルトの軸力を算出する軸力確認工程を備えるブレーキディスク付き車輪の組立方法とした。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車輪の輪心部にブレーキディスクを締結するボルトの軸回りに対し定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って定量的に載置する工程と、
前記ボルトに螺合させたナットを螺進させて前記ねじ山に沿って載置したグリスを塗り広げる工程を有することを特徴とするグリス塗布方法。
【請求項2】
前記ボルトのねじ部におけるグリスの載置領域は、前記ナットにより被締結物を所定の軸力で締結した際の螺合領域と略同じ領域としたことを特徴とする請求項1に記載のグリス塗布方法。
【請求項3】
前記グリスのねじ山に対する載置位置は、ねじ山の頂部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリス塗布方法。
【請求項4】
前記定量供給装置は、軸部軸線を回転軸として定速回転する前記ボルトのねじ山のピッチに同期して前記グリスが定量的に導出される前記ノズルを前記回転軸と並行に移動させつつ配置するものであって、
前記グリスの配置位置がねじ山の頂部となる位置に前記ノズルの位置を微調整するためのノズル位置調整手段を備えることを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載のグリス塗布方法。
【請求項5】
鉄道車輪の輪心部にブレーキディスクをボルト締結してなるブレーキディスク付き車輪の組立方法であって、
固有の識別子が付与された複数のボルトのそれぞれに探触子を接触させて超音波で自然長を計測する自然長測定工程と、
定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って前記各ボルトの軸回りに定量的に載置するグリス載置工程と、
前記車輪の輪心部にブレーキディスクが配された仮組体の複数の締結孔にグリスが載置された前記ボルトをそれぞれ装着し、各ボルトに螺合させたナットを所定の着座トルクに至るまで螺進させて前記グリスを塗り広げ、更に角度法による本締めを行って前記車輪とブレーキディスクを締結しブレーキディスク付き車輪を構築するボルト締結工程と、
前記ブレーキディスク付き車輪にて締結状態のボルトの長さを前記探触子により超音波で計測し、前記識別子に基づいて同一のボルトにおける前記自然長と前記締結状態のボルトの長さとを比較して各ボルトの軸力を算出すると共に、所定の適正軸力範囲内にないボルトを含む場合には当該ブレーキディスク付き車輪を不適合品とする一方、所定の軸力範囲内にないボルトを含まない場合には適合品として輪軸組立に供する軸力確認工程を備えることを特徴とするブレーキディスク付き車輪の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリス塗布方法及びブレーキディスク付き車輪の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトとナットの対にて構成される機械要素は、締結手段としてあらゆる箇所で広く使用されている。
【0003】
中でも、高い安全性や堅牢性が要求される箇所では、被締結部材に対し適切な締結圧力状態を維持するために、軸力による管理が行われている。
【0004】
このような軸力管理の具体例としては、例えば新幹線の如き高速鉄道のブレーキディスク付き車輪に用いられるディスクボルトが挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ディスクボルトは車輪の輪心部とブレーキディスクとを締結する際に用いられるボルトであり、緩みや破断によるボルト又はブレーキディスクの脱落を防ぐためにも、大きすぎず、また小さすぎない適切な軸力範囲での締結が極めて重要である。
【0006】
一方、このような軸力管理対象であるボルトに対し、リアルタイムで軸力を測定しながらナットを螺進させつつ所望の軸力に至るまで締付けを行うことは通常は困難であることから、現在は所定のトルク値を目標とした締付作業が軸力の検査に先立って行われている。すなわち、トルク値は軸力と相関があることを利用し、適切な軸力範囲内になると推定される所定トルク値に至るまでナットを螺進させることで締結し、その後の軸力検査にて軸力を測定し締結状態の適否判断が行われる。
【0007】
また、トルク値と軸力との関係は、ボルトやナットの個体差、特にボルトとナットの間に働く摩擦力による影響を受けやすく、ねじ部の微妙な表面状態の違い等に由来して、一定のトルク値で締結したとしても軸力は各ボルトナット対によって個体差が生じる。
【0008】
そこで、所定のトルク値で締付けたときに生じる軸力の個体差(ばらつき)を小さくするために、締結前のボルトには予めグリスを塗布することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-255665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、上記従来のボルトに対するグリスの塗布作業により、一定のトルク値を目標とした適切な軸力範囲内での締結は実現されている。
【0011】
しかしながら、長年に亘り鉄道車両の整備に携わる本発明者らは、既に満たされていた適切な範囲内での軸力の発現に関し、更なる鋭意研究を重ねることで未だ残されていた改善の余地についての知見を得た。
【0012】
具体的には、グリスの塗布作業に関し、上記従来のグリスの塗布は塗布量の管理までしっかりと行われていたのであるが、塗布作業自体が手作業で行われていたことから作業者や塗布部位によって塗着量の微妙なムラが存在し、適切な軸力範囲内ではあるものの個体差に由来する軸力のばらつきを大きくしていることを見出した。
【0013】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合に比して更に安定化することのできるグリス塗布方法を提供する。
【0014】
また本発明では、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るグリス塗布方法では、(1)鉄道車輪の輪心部にブレーキディスクを締結するボルトの軸回りに対し定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って定量的に載置する工程と、前記ボルトに螺合させたナットを螺進させて前記ねじ山に沿って載置したグリスを塗り広げる工程を有することとした。
【0016】
また、本発明に係るグリス塗布方法では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記ボルトのねじ部におけるグリスの載置領域は、前記ナットにより被締結物を所定の軸力で締結した際の螺合領域と略同じ領域としたこと。
(3)前記グリスのねじ山に対する載置位置は、ねじ山の頂部であること。
(4)前記定量供給装置は、軸部軸線を回転軸として定速回転する前記ボルトのねじ山のピッチに同期して前記グリスが定量的に導出される前記ノズルを前記回転軸と並行に移動させつつ配置するものであって、前記グリスの配置位置がねじ山の頂部となる位置に前記ノズルの位置を微調整するためのノズル位置調整手段を備えること。
【0017】
また、本発明に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法では、(5)鉄道車輪の輪心部にブレーキディスクをボルト締結してなるブレーキディスク付き車輪の組立方法であって、固有の識別子が付与された複数のボルトのそれぞれに探触子を接触させて超音波で自然長を計測する自然長測定工程と、定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って前記各ボルトの軸回りに定量的に載置するグリス載置工程と、前記車輪の輪心部にブレーキディスクが配された仮組体の複数の締結孔にグリスが載置された前記ボルトをそれぞれ装着し、各ボルトに螺合させたナットを所定の着座トルクに至るまで螺進させて前記グリスを塗り広げ、更に角度法による本締めを行って前記車輪とブレーキディスクを締結しブレーキディスク付き車輪を構築するボルト締結工程と、前記ブレーキディスク付き車輪にて締結状態のボルトの長さを前記探触子により超音波で計測し、前記識別子に基づいて同一のボルトにおける前記自然長と前記締結状態のボルトの長さとを比較して各ボルトの軸力を算出すると共に、所定の適正軸力範囲内にないボルトを含む場合には当該ブレーキディスク付き車輪を不適合品とする一方、所定の軸力範囲内にないボルトを含まない場合には適合品として輪軸組立に供する軸力確認工程を備えることとした。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るグリス塗布方法によれば、鉄道車輪の輪心部にブレーキディスクを締結するボルトの軸回りに対し定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って定量的に載置する工程と、前記ボルトに螺合させたナットを螺進させて前記ねじ山に沿って載置したグリスを塗り広げる工程を有することとしたため、所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合に比して更に安定化することが可能なグリス塗布方法を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法によれば、鉄道車輪の輪心部にブレーキディスクをボルト締結してなるブレーキディスク付き車輪の組立方法であって、固有の識別子が付与された複数のボルトのそれぞれに探触子を接触させて超音波で自然長を計測する自然長測定工程と、定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って前記各ボルトの軸回りに定量的に載置するグリス載置工程と、前記車輪の輪心部にブレーキディスクが配された仮組体の複数の締結孔にグリスが載置された前記ボルトをそれぞれ装着し、各ボルトに螺合させたナットを所定の着座トルクに至るまで螺進させて前記グリスを塗り広げ、更に角度法による本締めを行って前記車輪とブレーキディスクを締結しブレーキディスク付き車輪を構築するボルト締結工程と、前記ブレーキディスク付き車輪にて締結状態のボルトの長さを前記探触子により超音波で計測し、前記識別子に基づいて同一のボルトにおける前記自然長と前記締結状態のボルトの長さとを比較して各ボルトの軸力を算出すると共に、所定の適正軸力範囲内にないボルトを含む場合には当該ブレーキディスク付き車輪を不適合品とする一方、所定の軸力範囲内にないボルトを含まない場合には適合品として輪軸組立に供する軸力確認工程を備えることとしたため、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ブレーキディスク付き車輪の一般的構成を模式的に示した説明図である。
図2】ブレーキディスク付き車輪の組立作業場の構成を平面視にて示した説明図である。
図3】矢視G2における作業場の構成を示す説明図である。
図4】ブレーキディスク付き車輪の組立工程の一連の流れを示したフローである。
図5】グリス載置装置の構成を示す正面図である。
図6】装置本体部を右側面側から臨んだ状態を示す説明図である。
図7】ねじ部におけるグリスの状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明はボルトとナットの対にて構成された締結手段に対するグリス塗布方法を提供するものであり、より具体的には、所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合に比して更に安定化することのできるグリス塗布方法を提供する。
【0022】
前述の如く、例えばブレーキディスク付きの鉄道車輪に用いられるディスクボルトの場合、従来のグリスの塗布では、まず刷毛先に耐熱性グリス(例えば、モリブデングリス)を付着させ、一方の手で把持したボルトを軸回りに回転させつつ他方の手で刷毛先をボルトのねじ部の所定位置に擦り付けることで作業が行われていた。すなわち、ボルトのねじ部に対するグリスの配置作業と、配置したグリスの塗り広げの作業とがワンステップにて同時に手作業で行われていた。
【0023】
これに対し、本実施形態に係るグリス塗布方法の特徴としては、グリス載置工程と、グリス塗り広げ工程とのツーステップの工程を有する点が挙げられる。
【0024】
グリス載置工程は定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿ってボルトの軸回りに定量的に載置する工程であり、グリス塗り広げ工程はボルトに螺合させたナットを螺進させてねじ山に沿って載置したグリスを塗り広げる工程である。
【0025】
定量供給装置は、ノズルより吐出した際にその形状を維持できる程度のペースト状(半固形状)のグリスを、ボルトのねじ山に沿った周回りの単位長さあたり所定量ずつ供給できる機能を有するものであり、例えば、ボルトの軸部軸線を回転軸として定速回転する前記ボルトのねじ山のピッチに同期してグリスが定量的に導出されるノズルを回転軸と並行に移動させつつ配置するものであったり、ねじ山のピッチに同期させつつ回転速度に応じて平行移動速度を変化させるものなどを利用することができる。
【0026】
また、グリスの定量的な載置は、手作業によるグリス塗布作業に比して所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を安定化できる程度の定量性で行われれば特に限定されるものではないが、例えば、ピッチが1.5~2.0mm程度のボルトであれば、ネジ山に沿った周回り方向の長さ1cmあたり0.5~5.0mg程度の範囲で載置するのが望ましい。なお、本実施形態にて使用する後述のグリス載置装置15は、1cmあたり1mgを載置分けできる精度か、これよりも高い精度でグリスの吐出量(載置量)の調節が可能なものを使用している。
【0027】
また、定量供給装置のノズルの形状は、ボルトのピッチやねじ山の大きさに対し、少なくとも隣の山と区別可能な程度の正確性でアプライできるノズル形状、より好ましくは、ねじ山の頂部やフランク部に対し載置分けできる程度のノズル形状とすることができる。
【0028】
グリスは、手作業によるグリス塗布作業に比して所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を安定化できるグリスを採用すべきであり、また、締結部の環境に適したグリス、ブレーキディスク締結のためのボルトの場合は、例えば耐熱性に優れたモリブデングリス等を使用するのが望ましい。
【0029】
グリスの載置に関しねじ山に沿って載置とは、ねじ山のピッチと同期させながら軸回りにらせん状にグリスを載置することを意味しており、ねじ山の頂部に載置する態様やフランク部に載置する態様のほか、これら両者に跨がりながら載置する態様も含んでいる。
【0030】
螺合させたナットの螺進によるグリスの塗り広げは、締付けにより行われるのが好ましい。例えば、グリス塗り広げのためにナットの螺合と螺脱を行い、その後再びナットを螺合させて締付を行う場合の如く、締付けに先立って別個に塗り広げの工程が行われると、往路→復路→往路と複数回にわたり異方向へ塗り広げが行われることとなり、ねじ部におけるグリスの塗布ムラが生じやすいため好ましくない。
【0031】
そして、このような構成とすることにより、ねじ部へのグリス配置(載置)の際の量的なムラを排除すると共に、塗り広げの時の広げ方や力加減によるムラを防止して、ボルトやナットの個体差を緩衝すべきグリスの塗布のばらつきに由来する緩衝ムラを抑制し、所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合(刷毛による塗り広げの場合)に比して更に安定化することが可能となる。
【0032】
また従来の手作業による塗布作業の後は、グリスが付着したボルトを10mg単位まで正確に測定できる天秤に乗せて付着前の重量と比較することで、所定量のグリスが塗布されていることの確認を行っていたのであるが、定量供給によるグリスの載置でボルト・ナット対ごとのばらつきが低減され、グリス量の確認作業を省略することも可能となり作業効率を向上させることもできる。
【0033】
また本実施形態に係るグリス塗布方法では、ボルトのねじ部におけるグリスの載置領域は、ナットにより被締結物を所定の軸力で締結した際の螺合領域と略同じ領域としても良い。
【0034】
換言すれば、被締結物を所定の軸力で締結した際のナットの螺合領域と略同じボルトのねじ部上の領域をグリス塗布領域とする一方、同グリス塗布領域よりも先端側や基端側(頭部側)はグリスを塗布しない非塗布領域としている。
【0035】
そしてこのような構成によれば、余剰グリスによる塗布ムラの発生を抑制して軸力の安定化を図ることができる。また、グリスの使用量を節約することができる。
【0036】
また本実施形態に係るグリス塗布方法では、前記グリスのねじ山に対する載置位置は、ねじ山の頂部としても良い。
【0037】
ここでねじ山の頂部とは、ねじ山の頂の他に頂の近傍となるフランクの上部も含まれる。すなわち、載置したグリス条をねじ山の頂のみに載置することは実質的に困難なのであって、ねじ山の頂部にグリスを載置するとは、頂と接触する位置にグリス条を載置する程度の意味合いである。
【0038】
またねじ山のフランク部にグリスを載置するとは、頂と接触しないフランク面にグリス条を載置することを意味している。
【0039】
なお、頂部に載置する場合とフランク部に載置する場合とのいずれの場合においても、グリス条の全長全部に亘って完全に頂部載置状態やフランク部載置状態が実現されている必要はなく、本発明者らの経験上、大凡9割程度が所望する載置状態となっていれば、安定した軸力を発現させることができる。
【0040】
そして、グリスのねじ山に対する載置位置をねじ山の頂部とすれば、前記ノズルとの距離が適度となるため、的確にグリスを塗布することができる。
【0041】
また本実施形態に係るグリス塗布方法では、前記定量供給装置は、軸部軸線を回転軸として定速回転する前記ボルトのねじ山のピッチに同期して前記グリスが定量的に導出される前記ノズルを前記回転軸と並行に移動させつつ配置するものであって、前記グリスの配置位置がねじ山の頂部となる位置に前記ノズルの位置を微調整するためのノズル位置調整手段を備えることとしても良い。
【0042】
特に、ノズル位置調整手段は、電気的な制御の下で自動的にねじ山の頂部位置を検出してノズルの位置を調整するものであっても良く、また、マイクロメーターの如く例えば大きな回動動作を微小な直線的動作に変換する機構などを介して目視と手動によりノズル位置の調整を行うものであっても良い。
【0043】
そして、このようなノズル位置調整手段を備えることにより、個体差によりねじ山の位置が異なるボルトに対しても、グリスの配置位置がねじ山の頂部となる位置にノズルの位置を微調整することができる。
【0044】
また本願では、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法についても提供する。
【0045】
特に本実施形態に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法では、ボルトの自然長を計測する自然長測定工程と、グリスをボルトの軸回りに定量的に載置するグリス載置工程と、各ボルトに螺合させたナットを螺進させて前記グリスを塗り広げつつ締結しブレーキディスク付き車輪を構築するボルト締結工程と、自然長と締結状態のボルトの長さとを比較して各ボルトの軸力を算出する軸力確認工程を備える点で特徴的である。
【0046】
各工程についてより詳細に説明すると、自然長測定工程は、固有の識別子が付与された複数のボルトのそれぞれに探触子を接触させて、ブレーキディスク付き車輪の組立に使用される前の状態のボルトの軸方向への長さである自然長を超音波で計測する工程である。
【0047】
この工程によれば、超音波を利用した測定により正確な自然長が計測され、軸力測定の精度を向上することができる。
【0048】
グリス載置工程は、定量供給装置のノズルより押し出された半固形状のグリスをねじ山に沿って前記各ボルトの軸回りに定量的に載置する工程であり、その内容は先の説明と略同様である。
【0049】
ボルト締結工程は、前記車輪の輪心部にブレーキディスクが配された仮組体の複数の締結孔にグリスが載置された前記ボルトをそれぞれ装着し、各ボルトに螺合させたナットを所定の着座トルクに至るまで螺進させて前記グリスを塗り広げ、更に角度法による本締めを行って前記車輪とブレーキディスクを締結しブレーキディスク付き車輪を構築する工程である。
【0050】
また軸力確認工程は、ブレーキディスク付き車輪にて締結状態のボルトの長さを前記探触子により超音波で計測し、前記識別子に基づいて同一のボルトにおける前記自然長と前記締結状態のボルトの長さとを比較して各ボルトの軸力を算出すると共に、所定の適正軸力範囲内にないボルトを含む場合には当該ブレーキディスク付き車輪を不適合品とする一方、所定の軸力範囲内にないボルトを含まない場合には適合品として輪軸組立に供する工程である。
【0051】
そして、本実施形態に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法では、これらの工程を備えることにより、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法を提供することができる。
【0052】
また本実施形態に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法では、必要に応じてフィードバック工程(キャリブレーション工程)を備えるようにしても良い。
【0053】
すなわち、同フィードバック工程は、軸力確認工程にて得た所定のボルトの軸力と、所定の軸力範囲内にて更に規定される理想的な軸力や軸力範囲とを比較して、その差に応じて差が小さくなるよう前記ボルト締結工程での前記着座トルク又は前記本締めの際の締め角度の増減を行うフィードバック工程(キャリブレーション工程)を備えることとすれば、作業環境温度の変化に対しても安定した軸力を実現することができる。
【0054】
以下、本実施形態に係るグリス塗布方法やブレーキディスク付き車輪の組立方法に関し、図面を参照しながら更に具体的に説明する。なお以下の説明では、まずブレーキディスク付き車輪の構成について簡単に説明し、次に本実施形態に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法について一連の流れを説明しつつ、本実施形態に係るグリス塗布方法についても併せて説明する。
【0055】
図1は、ブレーキディスク付き車輪の一般的構成を模式的に示した説明図であり、図1(a)はブレーキディスク付き車輪の平面視(内側面)における説明図、図1(b)は側面視における説明図である。
【0056】
ブレーキディスク付き車輪Wは、図1(a)において網掛けで示すように、車輪本体1にブレーキディスク2が配された車輪であって、ディスクブレーキが採用された鉄道車両の輪軸に用いられる車輪である。特に本実施形態では、高速鉄道に用いられる車輪、中でも新幹線車両に用いられる車輪を示している。図中、符号3はボス部3、符号4はフランジ部4を示している。
【0057】
ブレーキディスク付き車輪Wを構成するブレーキディスク2は、図1(a)及び図1(b)に示すように、ディスクボルト5とナット6により、車輪本体1に対して締結固定されている。
【0058】
ここで、図1(c)を参照しつつ、締結構造について具体的に説明する。図1(c)は図1(a)のG1-G1断面における分解説明図であり、図中上方(車輪本体1の内面側)に示すブレーキディスク2は車輪本体1から取り外された状態を示しており、もう一方の車輪本体1の外面側のブレーキディスク2は車輪本体1に装着された状態にて端面のみ示している。
【0059】
図1(c)に示すように、ブレーキディスク2にはディスクボルト5を挿通させるためのボルト挿通孔2aが、輪軸構成時の車軸軸線7を中心とする等しい半径Rにて周方向へ等間隔で複数(図1(a)参照。ここでは30度毎に計12カ所。)穿設されている。
【0060】
また、車輪本体1の輪心部8には、ブレーキディスク2を装着した際のボルト挿通孔2aの対向位置に、それぞれボルト挿通孔8aが穿設されている。
【0061】
そして、車輪本体1の輪心部8の内面側と外面側の両方にブレーキディスク2が装着され、内面側ブレーキディスク2のボルト挿通孔2aと、輪心部8のボルト挿通孔8aと、外面側ブレーキディスク2のボルト挿通孔2aとが連通することで、図1(b)に示す如く締結孔9が形成される。
【0062】
これにディスクボルト5を挿通させ、ナット6を螺合させて締付けを行うことで、2つのブレーキディスク2が車輪本体1の輪心部8に締結されたブレーキディスク付き車輪Wが組み立てられている。なお、図1では新幹線車両に用いられる車輪の中でも、締結孔9までの半径Rが小さく比較的ボス部3に近い位置で締結される内周締結ブレーキディスク付き車輪を図示しつつ説明したが、これはブレーキディスク付き車輪の一般的構成の説明のために代表例として示したものである。以下も同様に内周締結ブレーキディスク付き車輪を参照しつつ説明するが、これは何ら本願発明を限定するものではなく、例えば中央締結ブレーキディスク付き車輪をはじめ、その他のブレーキディスク付き車輪について本実施形態に係るグリス塗布方法やブレーキディスク付き車輪の組立方法を適用できるのは言うまでもない。
【0063】
次に、ブレーキディスク付き車輪の組立方法の一連の流れについて説明する。図2は、ブレーキディスク付き車輪Wの組立作業場Fの構成を平面視にて示した説明図であり、図3図2の矢視G2における同作業場の構成を示す説明図である。図2及び図3に示すように、ブレーキディスク付き車輪Wの組立作業場Fには、各種装置類を配置することでブレーキディスク付き車輪の組立ラインAが構築されている。
【0064】
組立ラインAは、図1に示すように、コンベア11と、識別子付与作業部13と、軸力測定装置14と、グリス載置装置15と、ナット締付装置16とで構成している。
【0065】
コンベア11は、図2図3において紙面左右方向へ伸延させて配置されたロールコンベアであり、重量物であるブレーキディスク付き車輪Wを搬送するためのコンベアである。このコンベア11の上には、コンベア11に載置されたブレーキディスク付き車輪Wに対し、軸力測定装置14により軸力の測定が行われる際のブレーキディスク付き車輪Wの定位置となる測定作業定置領域E3としている。
【0066】
識別子付与作業部13は、ディスクボルト5の先端平面に固有の識別子としてボルト番号を付与するための部位である。この識別子付与作業部13でのボルト番号の付与は、本実施形態ではマーカーペン13aにより手書きで記入することとしているが、他の公知手段を用いて機械的に付与することも可能である。
【0067】
軸力測定装置14は、超音波計測装置17と制御装置18で構成された装置であり、識別子付与作業部13にてボルト番号が付与されたディスクボルト5の自然長を測定したり、ブレーキディスク付き車輪Wのディスクボルト5の締結状態における長さ(以下、締結時長さともいう。)を測定して軸力を算出(軸力測定)するための装置である。なお、制御装置18は超音波計測装置17の他に、組立ラインAを構成する各装置との間で通信したり制御を行う役割も有している。
【0068】
グリス載置装置15は、自然長が測定されたディスクボルト5の所定位置に対しグリスを載置するための装置であり、作業台15aの上に配置されている。
【0069】
ナット締付装置16は、コンベア11の延長線上、本実施形態ではコンベア11の一側端部近傍(紙面右側端部近傍)に配設した装置であり、仮組体Waのナット6の締付を行ってブレーキディスク付き車輪Wを構築するための装置である。ナット締付装置16は、複数のナットランナー部(図示せず)を備えており、仮組体Wa上の複数のナット6の締付を同時に行えるよう構成している。コンベア11の端部はナット締付装置16内に望ませており、仮組体Waをコンベア11からナット締付装置16に導入したり、また締付を終えたブレーキディスク付き車輪Wをコンベア11へ導出できるよう構成している。なお、本実施形態においてナット締付装置16は6つのナットランナー部を備えており、仮組体Waのディスクボルト5に螺合する12個のナット6のうち、1つおきに6個のナット6を同時に締付できる。
【0070】
このように、ブレーキディスク付き車輪Wの組立ラインAは、効率的な組立作業が可能な各装置の配置構造を備えている。
【0071】
図4は、本実施形態に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法が実施されるブレーキディスク付き車輪の組立工程の一連の流れを示したフローである。次に、このフローに沿って、各工程での作業について詳説する。
【0072】
〔1.識別子付与工程〕
ブレーキディスク付き車輪の組立作業では、まず、ブレーキディスク付き車輪Wの構築に使用される複数のディスクボルト5のそれぞれに対し、固有の識別子としてボルト番号を付与する識別子付与工程を行う(ステップS10)。
【0073】
識別子付与工程は、複数のディスクボルト5の精確な軸力測定を行うための測定準備工程であり、ボルト番号記入ステップS10aとボルト収容ステップS10bと、の2つの作業ステップで構成している。
【0074】
ボルト番号記入ステップS10aは、ディスクボルト5のボルト先端の平面部(以下、ボルト先端面5aという。)にボルト番号を記入するステップであり、一のディスクボルト5を他のディスクボルト5と互いに識別可能な文字、数字、記号等よりなる識別符号をそれぞれのディスクボルト5にボルト番号として割り当てる。
【0075】
ボルト収容ステップS10bは、ボルト番号が付与されたディスクボルト5を後述の自然長の計測対象としてラック107に収納設置するステップである。
【0076】
図2に示すように、識別子付与作業部13の近傍に規定されたワーク配置領域E1にはラック107が配されており、作業者は識別子付与作業部13にてボルト番号が付与されたディスクボルト5を、ラック107に倒立状態(先端を上に頭部を下にした状態)で収容する。
【0077】
なお、ボルト番号記入ステップS10aとボルト収容ステップS10bは、入れ替え可能であり、例えば、ボルト収容ステップS10bを経て上方へ向けた各ボルト先端面5aのそれぞれに対し、ボルト番号記入ステップS10aとして識別子付与作業部13にてボルト番号を付与してもよい。
【0078】
ディスクボルト5が収容されたラック107は、図2に示す如く軸力測定装置14の近傍に設定された自然長測定用のワーク配置領域E2に配置される。
【0079】
〔2.自然長測定工程〕
次に、ブレーキディスク付き車輪の組み立て工程では、自然長測定工程が行われる(ステップS11)。本自然長測定工程S11は、ディスクボルト5の自然長の測定における媒質馴染ませ操作や探触子当接操作、測定値取得操作などの軸力測定装置14を中心とした各種操作を行い、制御装置18に測定値を保存する工程であり、ボルト番号読み取りステップS11a、接触媒質塗布ステップS11b、探触子当接ステップS11c、媒質馴染ませステップS11d、測定値取得ステップS11e、データ保存ステップS11fの6つの作業ステップで構成している。
【0080】
ここではまず、本工程において自然長測定装置として機能する軸力測定装置14の構成について説明し、その後ボルト番号読み取りステップS11aからデータ保存ステップS11fまでの各ステップについて説明する。なお、軸力測定装置14は自然長の測定装置としても、軸力の測定装置としても機能するものであり、多くの操作は本自然長測定工程S11と後述の軸力確認工程S14とで共通することから、以下では自然長測定時に関連する構成や動作と共に軸力測定時に関連する操作についても一部言及する。
【0081】
(2-1.軸力測定装置の構成)
図2図3に示すように、軸力測定装置14は超音波計測装置17と制御装置18を備えている。
【0082】
超音波計測装置17は、計測本体部50と探触子102とをケーブル50aにて接続して構成している。
【0083】
探触子102は、超音波の発信部と、同発信部より発信された超音波の反射波を捉える受信部とが備えられている。
【0084】
計測本体部50は、探触子102に対し超音波発信の制御を行うと共に、探触子102の受信部にて受信した反射波の信号を受けて、発信と受信のタイミングの差から測定対象であるディスクボルト5の長さを計測する。
【0085】
また計測本体部50には、図示しない入力操作部が設けられており、ボルト番号を入力可能に構成している。計測本体部50は制御装置18と通信可能に接続されており、計測したディスクボルト5の長さの情報(例えば、自然長や締付後長さの情報)を作業者が入力したボルト番号と共に制御装置18へ送信し記憶させる。
【0086】
制御装置18は、各種装置の稼働制御を行うプログラマブルロジックコントローラ(PLC)機能と、計測本体部50からのディスクボルト5の個々の長さ(自然長や締付後長さ)に関する情報を受信して記憶したり、これら長さに基づいて算出した軸力情報等の保存管理を行う管理PC機能を果たす。
【0087】
(2-2.自然長測定工程における各ステップの説明)
次に、上述した軸力測定装置14の構成等を踏まえ、図2のブレーキディスク付き車輪の組立工程のフローにおける自然長測定工程S11の各ステップ、すなわちボルト番号読み取りステップS11aからデータ保存ステップS11fまでについて説明する。
【0088】
ボルト番号読み取りステップS11aは、ディスクボルト5に付与されているボルト番号を作業者が読み取り、超音波計測装置17の入力部を介してボルト番号の入力を行うステップである。
【0089】
超音波計測装置17に一時的に記録されたボルト番号は、後述するデータ保存ステップS11fにて取得されたディスクボルト5の長さの情報と共に制御装置18へ送信される。
【0090】
接触媒質塗布ステップS11bは、各ボルト先端面5aに接触媒質を塗布するステップである。基本的には、作業者が、適量の接触媒質としてのグリセリンペーストを各ディスクボルト5のボルト先端面5aに塗布して行う。
【0091】
探触子当接ステップS11cは、図2にて破線で示す探触子102aの如く、ラック107に倒立状態で整列させたディスクボルト5のボルト先端面5aに探触子102を当接(接触)させるステップである。
【0092】
媒質馴染ませステップS11dは、ボルト先端面5aに塗布された接触媒質を作業者が探触子102にて押し広げて馴染ませるステップである。この探触子102の媒質馴染ませ動作により、探触子102とボルト先端面5aとの間を接触媒質で埋めて超音波の伝達性を向上させる。
【0093】
測定値取得ステップS11eは、媒質馴染ませステップS11dの後に接触媒質を静置させて超音波が落ち着くのを見計らい、軸方向長さ(自然長)の測定値を取得するステップである。
【0094】
これにより、探触子102で送受信する超音波が落ち着く最適なタイミングでの測定値を取得することができ、各ディスクボルト5で測定値にバラつきが発生しづらくなる。
【0095】
データ保存ステップS11fは、測定値取得ステップS11eにより得られたディスクボルト5の自然長の測定値を、ボルト番号読み取りステップS11aにて入力されたボルト番号と共に制御装置18へ送信し保存するステップである。すなわち、ボルト番号に基づく1個のディスクボルト5について、自然長の測定値を割り当て保存する。なおボルト番号は、この他にも後述の軸力確認工程S14や適正軸力判定ステップS14gでディスクボルト5の測定値、例えば自然長や締結時長さであったり、軸力などのデータ割り振りをする際に照会され使用される。
【0096】
自然長測定工程S11を経たディスクボルト5が収容されたラック107は、グリス載置装置15の近傍に設定されたグリス載置作業用のワーク配置領域(図示せず)に配置される。
【0097】
〔3.グリス載置工程〕
図4に示すように、自然長測定工程S11を終えると、ブレーキディスク付き車輪の組み立て工程では次に、グリス載置工程S12が行われる。
【0098】
グリス載置工程S12において作業者は、グリス載置作業用のワーク配置領域(図示せず)に配置されたラック107内から自然長の測定が完了したディスクボルト5を取出してグリス載置装置15にセットする。ここで本工程の説明に関し、まずはグリス載置装置15の構成について説明し、その後本工程の実施内容について説明する。
【0099】
(3-1.グリス載置装置の構成)
図5はグリス載置装置15の構成を示す正面図であり、図6はグリス載置装置15のうち装置本体部22を右側面側から臨んだ状態を示す説明図である。なお、以下の説明において、図5中の紙面左右方向をX軸方向、左方向を正のX軸方向、右方向を負のX軸方向と称し、紙面上下方向をZ軸方向、下方向を正のZ軸方向、上方向を負のZ軸方向と称し、紙面手前奥行方向、すなわち、図6における紙面左右方向をY軸方向、右方向(図5における紙面奥行方向)を正のY軸方向、左方向(図5における紙面手前方向)を負のY軸方向と称する場合がある。
【0100】
図5に示すようにグリス載置装置15は、吐出量制御部20と、駆動制御部21と、装置本体部22とで構成している。
【0101】
吐出量制御部20は、装置本体部22に設けられたノズル40より吐出されるグリスの吐出量を制御する装置である。同吐出量制御部20の前面には操作部20aが配されており、作用者は操作部20aにて所定の吐出量等を入力することにより、装置本体部22に配されたノズル40から吐出されるグリスの量を調節することができる。
【0102】
駆動制御部21は、装置本体部22に配された各駆動部の動きを制御するための装置であり、装置本体部22と電気的に通信可能に構成している。
【0103】
装置本体部22は、作業者がセットしたディスクボルト5に対してグリスを載置する装置である。この装置本体部22を含めグリス載置装置15は、ディスクボルト5に対してグリスを載置するものの、塗布、すなわち塗り広げは行わない点で特徴的であると言える。
【0104】
装置本体部22は大別すると、基台部30と、ボルト回転部31と、ノズル移動部32とで構成している。
【0105】
基台部30は、ボルト回転部31やノズル移動部32の基台として機能する部位であり、図6に示すように基台の手前側(負のY軸方向寄り)にボルト回転部31が配され、基台の奥側(正のY軸方向より)の支柱部36を介してノズル移動部32が基台部30やボルト回転部31に対しオーバーハング状に配されている。
【0106】
また基台部30は、その表面にY軸移動ステージ33を備えている。このY軸移動ステージ33は基台部30の内部に設置されたY軸移動機構(図示せず)によりY軸方向へ移動する板状体であり、このY軸移動ステージ33上にボルト回転部31を固定することで基台部30に対しボルト回転部31を図6にて長破線で示す如くY軸方向に移動可能としている。
【0107】
ボルト回転部31は、図5に示す如くY軸移動ステージ33に固定配置したベース板31aの上にチャック部34と先端支持部35とを配することで構成している。チャック部34は、作業者によりディスクボルト5の頭部を回転可能な状態で嵌着固定可能な構成としており、ディスクボルト5の軸部軸線5cをX軸方向へ指向させた状態で支持できるようにしている。
【0108】
またチャック部34には図示しないモータが内蔵されており、駆動制御部21の制御により所定の速度で軸部軸線5c周りに回動可能(ここでは、正のX軸方向視にて反時計回り方向に回動可能)としている。
【0109】
先端支持部35は、チャック部34への頭部嵌着により支持させたディスクボルト5の先端部を支持するための部位であり、回転中にブレることを防止しつつも回転に追従できるようベアリングを配して構成している。
【0110】
ノズル移動部32は、ボルト回転部31にて回転可能に支持されたディスクボルト5のねじ部5bに対し、グリスが吐出されるノズル40を所望の位置に配置するための部位であり、支柱部36とX軸梁体37とX軸移動体38と吐出ユニット39とで構成している。
【0111】
支柱部36は、ボルト回転部31に対してノズル40を上方に配置すべく高さを得るための部位である。基台部30の奥側に立設した2本の支柱部36間には、X軸梁体37が架設されている。
【0112】
X軸梁体37は、図5において長破線で示したX軸移動体38の如く、X軸梁体37に沿ってX軸移動体38を移動させるための梁である。X軸梁体37の内部には図示しないX軸移動機構が配設されており、X軸梁体37とX軸移動体38との間に架設された連結アーム(図示せず)を介してX軸移動体38をX軸梁体37に対しX軸方向へ移動可能としている。
【0113】
X軸移動体38は、自身はX軸梁体37に沿ってX軸方向へ移動可能であると共に、正面側に配設したZ軸移動プレート41(図6参照)を図示しないZ軸移動機構によってX軸移動体38に対し長破線にて示す如くZ軸方向へ移動させる部材である。
【0114】
Z軸移動プレート41には吐出ユニット39が固定されており、駆動制御部21の制御によるZ軸移動プレート41の移動に伴い、図5図6において長破線で示した吐出ユニット39の如くX軸移動体38に対してZ軸方向に移動するよう構成している。なお、上述した基台部30のY軸移動機構やX軸梁体37のX軸移動機構、X軸移動体38のZ軸移動機構(以下、各軸移動機構と総称する。)は、いずれも各軸方向に対して0.1mm程度の精度にて極めて正確にノズル40を配置できる性能を有している。
【0115】
吐出ユニット39は、図示しないグリスタンクに貯留されているモリブデングリスをポンプの如き所定の送給手段を介してノズル40へ供給するためのユニットである。なお、送給手段は特に限定されるものではないが、例えばモーノポンプを採用することができる。
【0116】
また吐出ユニット39には、ノズル40のX軸方向における位置の微調整を手動で行えるノズル位置調整手段としての微調整装置(図示せず)が備えられている。この微調整装置は、精密な微調整ねじ構造よりなるマイクロメーター機構が備えられており、微調整ねじの回転角に変位を置き換えることによって、ディスクボルト5に対するノズル40のX軸方向への精密な配置位置の調整(例えば、ねじ山の頂部やフランク部に対し載置分けできる程度の微調整)が可能な微調整装置が実現されている。
【0117】
また送給手段は吐出量制御部20に接続されており、作業者が予め吐出量制御部20に対し所定のプログラム等を入力しておくことで、チャック部34の回転速度やX軸移動体38の移動速度に応じてねじ部5bのピッチに同期させつつ定量供給可能に構成されている。特に本実施形態では、ノズル接近動作プログラムと、ボルト回転動作プログラムと、吐出動作プログラムと、ボルト停止動作プログラムと、ノズル退避動作プログラムとが少なくとも予め入力されている。
【0118】
ノズル接近動作プログラムでは、各軸移動機構を主に正のY軸方向や正のZ軸方向へ(X軸方向は適宜調節しつつ)駆動して、ディスクボルト5のねじ部5bに形成された約20のねじ山よりなる完全ねじ部にて頭部側から先端側へ約4番目のねじ山近傍の上部位置(吐出開始位置)にノズル40を配置する動作が規定されている。
【0119】
ボルト回転動作プログラムでは、チャック部34のモータを所定の速さで駆動して、ディスクボルト5を定速回転させる動作が規定されている。
【0120】
吐出動作プログラムでは、ディスクボルト5の回転速度に応じたX軸方向における見かけ上のねじ山の移動速度に同期してX軸梁体37のX軸移動機構に対しX軸移動体38を頭部側から先端側へ約4番目のねじ山近傍から約11番目のねじ山近傍まで約8山分にわたりノズル40を正のX軸方向へ定速移動させると共に、吐出量制御部20を介しノズル40より所定量のグリスを定量吐出させ、約11番目のねじ山近傍位置(吐出終了位置)にノズルが達した際にグリスの吐出を停止させる動作が規定されている。
【0121】
ボルト停止動作プログラムでは、チャック部34のモータを停止させて、ディスクボルト5の回転を止める動作が規定されている。
【0122】
ノズル退避動作プログラムでは、作業者がグリス載置装置15からディスクボルト5を取り外すにあたり、作業の邪魔にならない位置にノズル40が配置されるよう、各軸移動機構を駆動する動作が規定されている。
【0123】
なお、上述の各プログラム(総称して、グリス載置動作プログラムともいう。)は、それぞれ別個のプログラムとして入力されていても良いし、一部又は全部のプログラムが纏まった状態で入力されていても良く、更に別の動作を規定するプログラムが実装されていても良いのは言うまでも無い。また、ボルト回転動作プログラムは、吐出動作プログラムの実行開始と略同時に実行されていても良いし、予め実行されていても良い。またボルト停止動作プログラムについても、グリスの吐出停止動作と略同時に実行されても良いが、吐出動作プログラムの実行終了後にボルト停止動作プログラムを実行することもできる。
【0124】
(3-2.本グリス載置工程の実施内容)
そしてグリス載置工程S12では、このように構成されたグリス載置装置15に対して作業者がディスクボルト5をセットし、グリス載置装置15を稼働させる。
【0125】
するとグリス載置装置15は、各軸移動機構が駆動制御部21による制御下で精密に駆動し、ノズル40をX、Y(主に正のY軸方向)、Z軸方向(主に正のZ軸方向)へ自在に移動させながら吐出開始位置に接近させつつ配置する。
【0126】
次いで、グリス載置装置15は、ボルト回転動作プログラムや吐出動作プログラムを実行し、定速回転するディスクボルト5のねじ山のピッチに同期してノズル40を回転軸と並行に正のX軸方向へ定速移動させる。
【0127】
またこのとき、図7(a)に示すように、ノズル40より押し出された半固形状のモリブデングリス40aが、ねじ山5dに沿ってディスクボルト5の軸回りに定量的に載置される。
【0128】
また本実施形態に係るグリス塗布方法に特徴的な点として、ディスクボルト5のねじ部5bにおけるモリブデングリスの載置領域は、前述のグリス載置動作プログラムを実行する駆動制御部21の制御により、後述のボルト締結工程S13にてナットによりブレーキディスク2を輪軸組立に使用可能なブレーキディスク付き車輪Wとして適正な軸力で締結した際の螺合領域と略同じ領域(本実施形態ではディスクボルト5の頭部側から約4番目のねじ山近傍から約11番目のねじ山近傍まで約8山分の領域)としている。
【0129】
従って、余剰のモリブデングリスによる塗布ムラの発生を抑制して、締結状態にあるディスクボルト5の軸力の安定化を図ることができる。また、グリスの使用量を節約することもできる。
【0130】
ノズル40が吐出終了位置に達してディスクボルト5の軸回りに対しグリスの載置を終えると、グリス載置装置15はボルト停止動作プログラムやノズル退避動作プログラムを実行し、ノズル40を主に負のZ軸方向や負のY軸方向(X軸方向は適宜)へ移動してノズル40とディスクボルト5との間を離隔させながら、作業者がグリス載置装置15からディスクボルト5を取り外し可能な状態とする。
【0131】
作業者は、グリスが載置されたディスクボルト5をグリス載置装置15から取出し、図2に示すワーク配置領域E4に配置されたコンテナ108に収容する。
【0132】
グリス載置工程S12を経たディスクボルト5が収容されたコンテナ108は、ボルト締結作業用のワーク配置領域(図示せず)に移動し配置される。
【0133】
〔4.ボルト締結工程〕
図4に示すように、グリス載置工程S12を終えると、ブレーキディスク付き車輪の組み立て工程では次に、ボルト締結工程S13が行われる。
【0134】
ボルト締結工程S13において作業者は、ボルト締結作業用のワーク配置領域(図示せず)に配置されたコンテナ108内からグリスの載置が完了したディスクボルト5を取出して、車輪本体1の内外面にブレーキディスク2は配されているがディスクボルト5等は未だ装着されていない構成体の各締結孔9に対し座金と共に挿入し、ナット6を螺合させて仮組体Waを構築する。
【0135】
次に作業者は、着座する位置までナット6を螺進させる。このとき、図7(b)に示すように、先のグリス載置工程S12にてねじ部5bのねじ山5dに沿って載置したモリブデングリス40aの塗り広げが行われる。なお、この際のナット6の螺進はナットランナー等で機械的に行うのが好ましいが、手で螺進させてもよい。すなわち、ナットは手作業の際の刷毛の動きと比較して相当に動きが規制されており、手で螺進させた場合であっても塗り広げムラを飛躍的に抑制することができるからである。
【0136】
これにより、先のグリス載置装置15の使用によりねじ部へのグリス配置(載置)の際の量的なムラが排除されるのと相俟って、塗り広げの時の広げ方や力加減によるムラが防止され、ディスクボルト5やナット6の個体差を緩衝すべきモリブデングリス40aの塗布のばらつきに由来する緩衝ムラが抑制され、所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合に比して更に安定化することが可能となる。
【0137】
また本実施形態では、図7(a)及び図7(b)に示すように、ねじ山5dに対するモリブデングリス40aの載置位置は、ねじ山5dの頂部5eとしている。
【0138】
従って、図7(b)に示すようにモリブデングリス40aがナット6の螺進により頂部5eから頭部側のフランク面にかけて均一になだれるように塗布が行われ、また谷部に至ったグリスがナット6の螺進によりすくい上げられるように先端側フランク面に均一に塗布されることとなるため、一様なムラのないグリスの塗布を実現することができる。
【0139】
またこのような、ねじ山5dの頂部5eに対するモリブデングリス40aの載置を堅実に実現すべく、前述の如くグリス載置装置15ではノズル位置調整手段としての微調整装置を備えている。
【0140】
従って、個体差によりねじ山5dの位置が異なるディスクボルト5に対しても、モリブデングリス40aの配置位置がねじ山5dの頂部5eとなる位置にノズル40の位置を容易に微調整することができる。
【0141】
次に作業者は、図2に示すように第2コンベア12上にて仮組体Waを移動させてナット締付装置16内に導入し、ナットランナーにてナット6の締付を行う。
【0142】
具体的には、まず、ディスクボルト5に螺合させたナット6をナットランナーにより、所定の着座トルクに至るまで螺進させる。なお着座トルクは、ナットを所定角度だけ締付回動させる動作(本締め動作)を行えば所望する所定の軸力(予め規定された軸力)の発生が見込める状態、とすることのできる締付トルク値である。
【0143】
そして、このように着座トルク値でのナット6の仮締めが行われた時点のディスクボルト5は、モリブデングリス40aの理想的な塗布がなされており、また、この理想的なグリスの塗布により、引き続き本締め動作すれば生じるであろう軸力の安定化が図られた状態(以下、軸力ばらつき抑制可能状態という。)である。
【0144】
そこで次に、このように所定の着座トルク値での締付けにて仮締めされた状態のナット6に対し、ナットを所定角度だけ締付回動させる動作、すなわち角度法による本締め動作を行って、所望する所定の軸力(予め規定された軸力)が発生していると推定される状態とし、車輪本体1とブレーキディスク2を締結することでブレーキディスク付き車輪Wを構築する。
【0145】
このように、軸力ばらつき抑制可能状態にあるディスクボルト5に対し、ナット6を角度法により本締め動作することで、本締め後に発生する軸力の堅実な安定化を図ることができる。
【0146】
ボルト締結工程S13を経て構築されたブレーキディスク付き車輪Wは、コンベア11の上を移動させて測定作業定置領域E3に配置される。
【0147】
〔5.軸力確認工程〕
図4に示すように、ボルト締結工程S13を終えると、ブレーキディスク付き車輪の組み立て工程では次に、軸力確認工程S14が行われる。
【0148】
本軸力確認工程S14は、締結後のブレーキディスク付き車輪Wのディスクボルト5の軸力測定を行い、その軸力が予め制御装置18に設定されている適正範囲にあるかの判定を行う工程であり、測定作業定置領域E3に配置されているブレーキディスク付き車輪Wの個々のディスクボルト5毎に、一連の軸力確認作業、すなわち軸力測定装置14による先述の媒質馴染ませ操作や探触子当接操作、測定値取得操作などの探触子102を中心とした各種探査動作を行う。
【0149】
具体的には、本軸力確認工程S14では、自然長測定工程S11と同様に、ブレーキディスク付き車輪Wが有する複数(12本)のディスクボルト5の中から測定対象となる未測定の1本を定め、その1本に対してボルト番号読み取りステップS14a、接触媒質塗布ステップS14b、探触子当接ステップS14c、媒質馴染ませステップS14d、測定値取得ステップS14e、データ保存ステップS14fの6つの作業ステップを行い、加えて、適正軸力判定ステップS14gを行うこととしており、更にこれらのステップを複数(12本)分繰り返す動作が行われる。これらボルト番号読み取りステップS14aからデータ保存ステップS14fの6つの作業ステップは自然長測定工程S11と概ね同様であり、ここでは大部分についての説明を省略するが、例えば探触子当接ステップS14cでは、図2にて破線で示す探触子102bの如く、ブレーキディスク付き車輪Wに組み付けられた締結状態のディスクボルト5ボルト先端面5aに探触子102を当接(接触)させる作業が行われる。
【0150】
また、データ保存ステップS14fにおいて超音波計測装置17は、先の自然長測定工程S11と同様に、測定値取得ステップS14eにて得た締結時長さを、ボルト番号読み取りステップS14aにて作業者により入力されたボルト番号と共に制御装置18へ送信する。これらデータを受信した制御装置18は、制御装置18が備える記録媒体の所定の記憶領域に記憶されているボルト情報のうち当該ボルト番号に対応するボルト情報、特に先のステップにて取得された自然長に関する情報と対応させて測定値取得ステップS14eにて得た締結時長さを記憶する。
【0151】
適正軸力判定ステップS14gは、この記憶動作に引き続いて制御装置18が、現在測定中のディスクボルト5の締結時長さと自然長の差分からディスクボルト5の伸び量を算出し、同算出値から軸力演算し、さらにその軸力が予め制御装置18に設定されている適正範囲、すなわち、所望する所定の軸力(予め規定された軸力)として容認できる所定の適正軸力範囲内にあるかの判定を行う工程である。
【0152】
ここでは、自然長と締結時長さの差に軸力換算定数を自動で乗じて軸力を算出する。算出されたディスクボルト5の軸力が、適性軸力範囲内にある場合にはそのディスクボルト5は正常として判断され、適性軸力範囲を逸脱している場合にはそのディスクボルト5は異常として判断される。そして、異常と判断されたディスクボルト5を含むブレーキディスク付き車輪Wは輪軸組立にあたり不適合品として判定される一方、異常と判断されたディスクボルト5を含まないブレーキディスク付き車輪Wは適合品として輪軸組立に供されることとなる。
【0153】
また、この工程におけるディスクボルト5の正常・異常に関する判断結果や、ブレーキディスク付き車輪Wの適不適の判定結果は、最終的に制御装置18が備えるモニタ部161(図3参照)に反映される。また、ブレーキディスク付き車輪Wのディスクボルト5のうち1つでも軸力が適正範囲内にない場合(不適合品の場合)には、異常と判断されたディスクボルト5を作業者が特定できる情報、例えばボルト番号をモニタ部161に表示させる。
【0154】
この場合、作業者は、異常と判断されたディスクボルト5をブレーキディスク付き車輪Wから取り外し、自然長測定工程S11で測定されグリス載置工程S12に供された他のディスクボルト5に交換して、先のボルト締結工程S13と同様の手順により締付作業を行う。このようにディスクボルト5が新たに交換されたブレーキディスク付き車輪Wは、再び軸力確認工程S14に供される。以下、この作業を再構築作業という。
【0155】
このように、ボルト番号基づいて同一のディスクボルト5における自然長と締結時長さとを比較して各ボルトの軸力を算出すると共に、所定の適正軸力範囲内にない異常と判断されたディスクボルト5を含む場合には当該ブレーキディスク付き車輪Wを不適合品とする一方、異常と判断されたディスクボルト5を含まない場合には適合品として輪軸組立に供することで、「車輪本体1とブレーキディスク2とが、高軸力で複数のディスクボルト5により締結されている」との被締結部材同士の締結性を保証することができ、締結物の堅牢性及び信頼性についての要求が満たされる。
【0156】
また、軸力測定装置14を用いたディスクボルト5の如き締結ボルトの軸力測定方法との観点において、車輪本体1とブレーキディスク2の如き被締結部材同士の締結前の前記締結ボルトの自然長の測定値と、前記被締結部材同士の締結後の前記締結ボルトの締結時長さの測定値と、を比較してその差に基づき前記締結ボルトの軸力を算出して当該軸力の適正を判断するにあたり、超音波計測により得られた測定値を用いることとしたため、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法について提供できる。
【0157】
特に、ラック107に収容された状態の組み付け前のディスクボルト5と、ブレーキディスク付き車輪Wに組み付けられた後のディスクボルト5とを、同一の軸力測定装置14にて効率的に測定を行えるよう、ワーク配置領域E2と測定作業定置領域E3の両者を軸力測定装置14の近傍に設定したことにより、軸力測定結果にバラつきが生じず、また評価検査結果に応じた再構築作業についても即座に対応でき、検査作業の省力化及び効率化を図ることができる。
【0158】
〔6.軸力測定の安定化確認試験〕
次に、本実施形態に係るグリス塗布方法により、手作業によるグリス塗布の場合に比して軸力を安定化できることについて確認すべく試験を行った。
【0159】
ここでは、複数本のボルトについて手塗り(刷毛塗り)にてグリスの塗布を行った場合と、グリス載置装置15及びナット締付装置16を用いてグリスの載置及び塗布を行った場合(本実施形態に係るグリス塗布方法の場合)との軸力の平均値やその標準偏差を確認することで、安定性について検証した。
【0160】
その結果、本実施形態に係るグリス塗布方法の場合は、手塗りで行った場合に比して標準偏差の値が小さく軸力のばらつきが少ないこと、すなわち、所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合に比して更に安定化することのできるグリス塗布方法であることが示された。
【0161】
またこのことは、軸力測定装置14によりボルトの自然長を計測する自然長測定工程と、グリスをボルトの軸回りに定量的に載置するグリス載置工程と、各ボルトに螺合させたナットを螺進させて前記グリスを塗り広げつつ締結しブレーキディスク付き車輪を構築するボルト締結工程と、自然長と締結状態のボルトの長さとを比較して各ボルトの軸力を算出する軸力確認工程を備える本実施形態に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法は、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法を提供可能であることを示している。
【0162】
上述してきたように、本実施形態に係るグリス塗布方法によれば、鉄道車輪(例えば、車輪本体1)の輪心部(例えば、輪心部8)にブレーキディスク(例えば、ブレーキディスク2)を締結するボルト(例えば、ディスクボルト5)の軸回りに対し定量供給装置(例えば、グリス載置装置15)のノズル(例えば、ノズル40)より押し出された半固形状のグリス(例えば、モリブデングリス40a)をねじ山(例えば、ねじ山5d)に沿って定量的に載置する工程(例えば、グリス載置工程S12)と、前記ボルトに螺合させたナット(例えば、ナット6)を螺進させて前記ねじ山に沿って載置したグリスを塗り広げる工程(例えば、ボルト締結工程S13)を有することとしたため、所定のトルク値での締付けに対して生じる軸力を手作業の場合に比して更に安定化することが可能なグリス塗布方法を提供することができる。
【0163】
また、本実施形態に係るブレーキディスク付き車輪の組立方法によれば、鉄道車輪(例えば、車輪本体1)の輪心部(例えば、輪心部8)にブレーキディスク(例えば、ブレーキディスク2)をボルト締結(例えば、ディスクボルト5及びナット6)してなるブレーキディスク付き車輪(例えば、ブレーキディスク付き車輪W)の組立方法であって、固有の識別子(例えば、ボルト番号)が付与された複数のボルト(例えば、ディスクボルト5)のそれぞれに探触子(例えば、探触子102)を接触させて超音波で自然長を計測する自然長測定工程(例えば、自然長測定工程S11)と、定量供給装置(例えば、グリス載置装置15)のノズル(例えば、ノズル40)より押し出された半固形状のグリス(例えば、モリブデングリス40a)をねじ山(例えば、ねじ山5d)に沿って前記各ボルトの軸回りに定量的に載置するグリス載置工程(例えば、グリス載置工程S12)と、前記車輪の輪心部にブレーキディスクが配された仮組体(例えば、仮組体Wa)の複数の締結孔(例えば、締結孔9)にグリスが載置された前記ボルトをそれぞれ装着し、各ボルトに螺合させたナット(例えば、ナット6)を所定の着座トルクに至るまで螺進させて前記グリスを塗り広げ、更に角度法による本締めを行って前記車輪とブレーキディスクを締結しブレーキディスク付き車輪(例えば、ブレーキディスク付き車輪W)を構築するボルト締結工程(例えば、ボルト締結工程S13)と、前記ブレーキディスク付き車輪にて締結状態のボルトの長さを前記探触子により超音波で計測し、前記識別子に基づいて同一のボルトにおける前記自然長と前記締結状態のボルトの長さ(例えば、締結時長さ)とを比較して各ボルトの軸力を算出すると共に、所定の適正軸力範囲内にないボルトを含む場合には当該ブレーキディスク付き車輪を不適合品とする一方、所定の軸力範囲内にないボルトを含まない場合には適合品として輪軸組立に供する軸力確認工程(例えば、軸力確認工程S14)と、を備えることとしたため、安定した軸力を備え、輪軸の組立適性についてより正確に判断されたブレーキディスク付き車輪の組立方法を提供することができる。
【0164】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0165】
1 車輪本体
2 ブレーキディスク
5 ディスクボルト
5a ボルト先端面
5d ねじ山
5e 頂部
6 ナット
8 輪心部
9 締結孔
13 識別子付与作業部
14 軸力測定装置
15 グリス載置装置
16 ナット締付装置
17 超音波計測装置
18 制御装置
40 ノズル
40a モリブデングリス
102 探触子
A 組立ライン
S10a ボルト番号記入ステップ
S11 自然長測定工程
S12 グリス載置工程
S13 ボルト締結工程
S14 軸力確認工程
W ブレーキディスク付き車輪
Wa 仮組体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7