(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172748
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】モータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の調整方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20231129BHJP
F04D 13/06 20060101ALI20231129BHJP
F04D 29/00 20060101ALI20231129BHJP
H02K 11/225 20160101ALI20231129BHJP
【FI】
H02P29/024
F04D13/06 C
F04D29/00 B
H02K11/225
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084769
(22)【出願日】2022-05-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】田中 琢也
【テーマコード(参考)】
3H130
5H501
5H611
【Fターム(参考)】
3H130AA02
3H130AB12
3H130AB22
3H130AB46
3H130AC01
3H130BA90E
3H130DA02Z
3H130DA05Z
3H130DB01Z
3H130DB03Z
3H130DB13Z
3H130DD04Z
3H130DF01Z
3H130DF03Z
3H130DF06Z
3H130DF09Z
5H501AA05
5H501BB08
5H501DD03
5H501HB07
5H501JJ03
5H501JJ12
5H501JJ16
5H501JJ17
5H501JJ26
5H501LL23
5H501LL29
5H501LL53
5H501MM09
5H611AA01
5H611BB01
5H611PP03
5H611QQ05
5H611QQ06
5H611RR01
5H611UA01
(57)【要約】
【課題】駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持可能なモータ軸受摩耗監視装置、調整方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置5,5A,5Bは、複数の検出コイルC1~C8を用いて軸受32,33の摩耗状態を監視する。検出コイルは、複数のスラスト検出コイルC2,C4,C6,C8を含む。同装置は、一組となるスラスト検出コイルC2,C4の合成信号と他の一組となるスラスト検出コイルC6,C8の合成信号との差分に基づいて、軸受のスラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部543、モータ3の駆動周波数を取得する周波数取得部541,548、駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得部542,549、調整データに基づいて差分が駆動周波数に対応する摩耗量を示すように合成信号にオフセット処理を実行するオフセット処理部57、を有してなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、
複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、
複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイルを含み、
一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部と、
前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得部と、
取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得部と、
取得された前記調整データに基づいて、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように、前記差分の算出に用いられる前記合成信号にオフセット処理を実行するオフセット処理部と、
を有してなる、
モータ軸受摩耗監視装置。
【請求項2】
前記周波数取得部は、前記ステータに対する前記ロータの状態を検出するために取得される状態信号に基づいて、前記駆動周波数を取得する、
請求項1に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項3】
前記モータ用の3相交流電源の第1相と第2相および前記第2相と第3相の各線間それぞれに接続され、各線間の電圧に対応すると共に前記回転軸の回転方向の検出に用いられるパルス信号を生成するパルス信号生成部と、
所定の単位時間あたりの前記パルス信号のパルス数をカウントするパルスカウンタと、
を有してなり、
前記周波数取得部は、前記状態信号である前記パルス信号の前記パルス数に基づいて、前記駆動周波数を取得する、
請求項2に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項4】
前記検出信号は、
前記駆動周波数に基づく基本波成分と、
前記ロータの回転に基づく高調波成分と、
を含み、
前記周波数取得部は、前記状態信号である前記検出信号の前記基本波成分および/または前記高調波成分に基づいて、前記駆動周波数を取得する、
請求項2に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項5】
複数の前記検出コイルのうち、一組となる前記検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号に対して高速フーリエ変換処理を実行することにより、前記合成信号の周波数スペクトルを生成するFFT処理部を有してなり、
前記周波数取得部は、前記周波数スペクトルに基づいて、前記基本波成分または前記高調波成分を抽出する、
請求項4に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項6】
前記駆動周波数ごとに、前記駆動周波数と、前記駆動周波数に対応する前記調整データと、を関連付けて記憶する記憶部を有してなり、
前記データ取得部は、前記駆動周波数に基づいて、前記記憶部から前記駆動周波数に対応する前記調整データを取得する、
請求項1乃至5のいずれかに記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項7】
前記駆動周波数に対応する前記調整データの算出に用いられる関数および定数を記憶する記憶部を有してなり、
前記データ取得部は、前記駆動周波数、前記関数、および前記定数に基づいて、前記駆動周波数に対応する前記調整データを取得する、
請求項1乃至5のいずれかに記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項8】
前記オフセット処理部は、前記調整データに基づいてオフセット信号を生成し、前記オフセット信号を用いて前記オフセット処理を実行する、
請求項1に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項9】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置の調整方法であって、
複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、
複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイルを含み、
一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出ステップと、
前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得ステップと、
取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得ステップと、
取得された前記調整データに基づいて、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように、前記差分の算出に用いられる前記合成信号にオフセット処理を実行するオフセット処理ステップと、
を含む、
モータ軸受摩耗監視装置の調整方法。
【請求項10】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置が備えるプロセッサに実行されるプログラムであって、
複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、
複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイルを含み、
前記プロセッサを、
一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部、
前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得部、
取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得部、および、
前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように前記差分の算出に用いられる前記合成信号に実行されるオフセット処理に用いられるオフセット情報を、前記調整データから抽出するデータ抽出部、
として機能させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の調整方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
キャンドモータポンプは、ポンプとモータとが一体で、取扱液の漏洩が無い構造を有している。一般的に、キャンドモータポンプの回転構造部分(ロータ、回転軸、軸受、およびインペラ)は、取扱液で満たされるキャンに密封されている。そのため、キャンドモータポンプの内部構造は、外部から目視により監視できない。したがって、このような構造を有するキャンドモータポンプを効率よく運用するために、軸受の摩耗状態を監視する装置(以下「監視装置」という。)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている監視装置(モータ軸受摩耗監視装置)は、ステータの長手方向の両端に取り付けられた検出コイルを用いて、ロータの回転時の磁束変化を測定することにより、軸受の摩耗により生じるロータ(回転軸)の半径方向および軸方向の変位を監視している。この手法では、軸受が摩耗していないとき、検出コイルの出力が変位ゼロを示すように検出コイルの出力を調整するゼロ点調整が必要となる。監視装置は、モータの回転により検出コイルに誘起される電圧を検出している。そのため、ゼロ点調整は、使用される所定の動作条件によりモータを回転させた状態で行われている。
【0004】
キャンドモータポンプでは、流量を絞るとき、キャンドモータポンプの吐出側に接続されている配管のバルブを絞る手法が用いられている。同手法では、配管内を流れる液体の抵抗が増加するため、エネルギーロスが生じる。そこで、近年、インバータによりモータの駆動条件(例えば、駆動周波数)を可変させる手法が用いられている(例えば、特許文献2参照)。同手法では、バルブを絞る手法のようなエネルギーロスが無いため、同手法による流量の調整は、近年の主流になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-080103号公報
【特許文献2】特開2007-162700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のとおり、監視装置は、ロータの回転時の磁束変化を測定する。そのため、インバータにより駆動周波数が変更されると、検出コイルに誘起される電圧が変わり、計測値と摩耗量との対応関係のずれによる誤検出などの技術的課題が生じる。その結果、駆動周波数の変更のたびに、手動による対応関係の調整(ゼロ点調整)が必要となる。このように、従来の監視装置は、人的な機械操作を介在させることなく、インバータによる流量制御に対応できていない。
【0007】
本発明は、駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持可能なモータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の調整方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイルを含み、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部と、前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得部と、取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得部と、取得された前記調整データに基づいて、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように、前記差分の算出に用いられる前記合成信号にオフセット処理を実行するオフセット処理部と、を有してなる。
【0009】
本発明の一実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置の調整方法は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置の調整方法であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイルを含み、前記モータ軸受摩耗監視装置が、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出ステップと、前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得ステップと、取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得ステップと、取得された前記調整データに基づいて、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように、前記差分の算出に用いられる前記合成信号にオフセット処理を実行するオフセット処理ステップと、を含む。
【0010】
本発明の一実施態様におけるプログラムは、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置が備えるプロセッサに実行されるプログラムであって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、 複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイルを含み、前記プロセッサを、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部、前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得部、取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得部、および、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように前記差分の算出に用いられる前記合成信号に実行されるオフセット処理に用いられるオフセット情報を、前記調整データから抽出するデータ抽出部、として機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持可能なモータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の調整方法、およびプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1のキャンドモータポンプが備えるモータ部の縦断面を示す模式断面図である。
【
図3】
図2のモータ部のA部を拡大した模式拡大断面図である。
【
図4】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える検出コイルの配置を示す模式斜視図である。
【
図7】
図5の検出コイルの検出信号の一例を示す模式図である。
【
図8】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備えるパルス信号生成部の構成の例を示す模式図である。
【
図9】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える記憶部に記憶されている情報の一例を示す模式図である。
【
図10】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える位置調節部の機能ブロック図である。
【
図11】
図4のモータ軸受摩耗監視装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図11の動作に含まれる周波数取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図11の動作に含まれる調整処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図13の調整処理において実行されるオフセット処理前の合成信号の一例を示す模式図である。
【
図15】
図13の調整処理において実行されるオフセット処理後の合成信号の一例を示す模式図である。
【
図16】
図11の動作に含まれる摩耗量検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図17】
図11の動作に含まれる回転方向検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図18】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える回転方向検出部の回転方向の検出原理を示す模式図である。
【
図19】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の別の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【
図20】
図19のモータ軸受摩耗監視装置により実行される周波数取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図21】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置のさらに別の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【
図22】
図21のモータ軸受摩耗監視装置により実行される調整処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、キャンドモータポンプのモータ軸受摩耗監視装置に、駆動周波数を自動的に取得する機能、駆動周波数に対応する調整データを自動的に取得する機能、および、調整データに基づいて駆動周波数に応じたオフセット処理を自動的に実行する機能、を具備させることにより、駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持し、モータ軸受摩耗監視装置におけるインバータによる流量制御を可能とさせるものである。各用語の詳細は、後述される。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置(以下「本装置」という。)、モータ軸受摩耗監視装置の調整方法(以下「本方法」という。)、およびプログラム(以下「本プログラム」という。)の実施の形態について説明する。各図において、同一の部材および要素については同一の符号が付され、重複する説明は省略する。
【0015】
●キャンドモータポンプ●
●キャンドモータポンプの構成
先ず、キャンドモータポンプの構成について説明する。
【0016】
図1は、キャンドモータポンプの側面図である。
同図は、説明の便宜上、キャンドモータポンプ1の上半部を断面図として示す。
【0017】
キャンドモータポンプ1(以下単に「ポンプ1」という。)は、取扱液の漏洩が無い構造を有し、特に、高温の液体、または危険性の高い液体(例えば、爆発性、引火性、または毒性を有する液体)の送液に用いられているポンプである。ポンプ1は、ポンプ部2、モータ部3、アダプタ4、および本装置5を有してなる。
【0018】
ポンプ1の構成のうち、ポンプ部2、モータ部3、およびアダプタ4の構成は、公知のキャンドモータポンプの構成と共通する。そのため、以下の説明において、ポンプ部2、モータ部3、およびアダプタ4の構成は、概略のみ説明され、詳細な説明は省略される。
【0019】
以下の説明において、「フロント方向」はモータ部3に対してポンプ部2が位置する方向(前方)であり、「リア方向」はポンプ部2に対してモータ部3が位置する方向(後方)である。
【0020】
ポンプ部2は、取扱液を吸引・吐出する。ポンプ部2は、筐体20、インペラ21、ポンプ室22、吸引管部23、および吐出管部24を備える。筐体20は、インペラ21を収容するポンプ室22、ポンプ室22に吸引される取扱液の経路である吸引管部23、および、ポンプ室22から吐出される取扱液の経路である吐出管部24を構成している。ポンプ室22は、吸引管部23および吐出管部24に連通している。
【0021】
モータ部3は、所定の駆動電圧・駆動周波数(例えば、200V、60Hz)で駆動し、ポンプ部2のインペラ21を回転させる。モータ部3は、筐体30、回転軸31、2つの軸受32,33、2つのスラストワッシャ34,35、ロータ36、ステータ37、キャン38、およびターミナル端子39を備える。モータ部3は、本発明におけるモータの一例である。
【0022】
図2は、モータ部3の縦断面を示す模式断面図である。
図3は、
図2のモータ部3のA部を拡大した模式拡大断面図である。
【0023】
筐体30は、ステータ37およびキャン38を液密に収容している。
【0024】
回転軸31は、ロータ36の回転により回転し、回転動力をインペラ21に伝達する。回転軸31の形状は、円柱状である。回転軸31は、ロータ36に挿通されて、固定されている。回転軸31の前端部はポンプ室22(
図1参照)内に突出し、同前端部にはインペラ21が取り付けられている。回転軸31は、回転軸31のフロント部およびリア部を保護する円筒状のスリーブ31a,31bを備える。
【0025】
以下の説明において、「スラスト方向」は回転軸31の軸方向であり、「ラジアル方向」は回転軸31の半径方向であり、「周方向」は回転軸31の円周方向である。
【0026】
軸受32は、ロータ36のフロント方向に配置され、回転軸31を回転自在に支持している。軸受33は、ロータ36のリア方向に配置され、回転軸31を回転自在に支持している。軸受32,33は、例えば、転がり軸受である。スラストワッシャ34は、回転軸31のうち、軸受32とロータ36との間に取り付けられ、回転軸31のフロント方向への移動を制限している。スラストワッシャ35は、回転軸31のうち、軸受33とロータ36との間に取り付けられ、回転軸31のリア方向への移動を制限している。
【0027】
軸受32,33とスラストワッシャ34,35との間には、長さL1の間隔が形成されている。軸受32,33とスリーブ31a,31bとの間には、長さL2の間隔が形成されている。
【0028】
ロータ36は、ステータ37に生じる回転磁界により回転する。ロータ36の形状は、円筒状である。ロータ36は、周方向においてロータ36の外周縁部に等間隔で埋設されている複数(本実施の形態では28個)の棒状のロータバー36aを備える。
【0029】
ステータ37は、ロータ36を回転させる回転磁界を生成する。ステータ37の形状は、略円筒状である。ステータ37は、ステータコア37a、および複数のモータ巻線37bを備える。
【0030】
ステータコア37aは、モータ巻線37bを保持する。ステータコア37aの形状は、円筒状である。ステータコア37aは、複数の歯部37c(
図6参照。以下同じ。)を備える。
【0031】
歯部37cは、モータ巻線37bが挿通されるスロット37d(
図6参照。以下同じ。)を形成する。周方向において、歯部37cは、ステータコア37aの内周面に等間隔で配置されている。モータ巻線37bは、スロット37dに挿通され、ターミナル端子39を介して、例えば、インバータなどの電源装置(不図示)に接続されている。
【0032】
キャン38は、回転軸31、軸受32,33、スラストワッシャ34,35、ロータ36を液密に収容している。キャン38の形状は、円筒状である。吸引管部23から導入された取扱液の一部は、キャン38内に導入され、軸受32,33およびモータ部3の冷却に用いられ、吐出管部24に排出される。
【0033】
図1に戻る。
アダプタ4は、ポンプ部2のリア側の端部とモータ部3のフロント側の端部とに接続され、ポンプ部2とモータ部3とを連結している。
【0034】
本装置5は、ステータ37に対するロータ36の機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出することにより、回転軸31を支持する軸受32,33の摩耗状態を監視する。本装置5の具体的な構成は、後述される。
【0035】
●モータ軸受摩耗監視装置(1)●
●モータ軸受摩耗監視装置(1)の構成
次に、本装置5の構成について説明する。以下の説明において、
図1~
図3は適宜参照される。
【0036】
図4は、本装置5の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【0037】
本装置5は、8つの検出コイルC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8、接続部50、信号処理回路51a,51b,51c,51d、パルス信号生成部52、A/D変換器53、制御部54、記憶部55、表示部56、およびオフセット処理部57を備える。A/D変換器53および制御部54は、例えば、マイクロコンピュータで構成されている。
【0038】
図5は、検出コイルC1~C8の配置を示す模式斜視図である。
図6は、
図5のB部を拡大した拡大斜視図である。
【0039】
検出コイルC1~C8は、ステータ37に対するロータ36の位置変化(変位)に対応する磁束変化を検出し、磁束変化を示す検出信号を生成・出力する。ロータ36は、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量に応じて回転軸31と共にラジアル方向に変位し、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量に応じて回転軸31と共にスラスト方向に変位する。すなわち、ロータ36の変位量は、軸受32,33の摩耗量とみなすことができる。そのため、本装置5は、検出コイルC1~C8を用いてロータ36の変位量を検出することにより、軸受32,33の摩耗量を検出できる。検出コイルC1~C8の形状は、扁平なボビン状である。検出コイルC1~C8は、ステータ37のフロント側およびリア側の端部の歯部37cに形成されている切欠き37eに嵌め込まれている。
【0040】
周方向において、検出コイルC1~C4は、ステータ37の歯部37cのフロント側の端部に等間隔(90°間隔)で取り付けられている。検出コイルC1は検出コイルC3に対して180°の位置に向かい合うように配置され、検出コイルC2は検出コイルC4に対して180°の位置に向かい合うように配置されている。一方、周方向において、検出コイルC5~C8は、ステータ37の歯部37cのリア側の端部に等間隔(90°間隔)で取り付けられている。検出コイルC5は検出コイルC7に対して180°の位置に向かい合うように配置され、検出コイルC6は検出コイルC8に対して180°の位置に向かい合うように配置されている。
【0041】
【0042】
検出コイルC1~C8の検出信号は、モータ部3の主磁束の変化に対応する波形(以下「基本波成分」という。)、および、ロータ36のロータバー36aに流れる誘導電流により発生する磁束の変化に対応する波形(以下「高調波成分」という。)を含んでいる。基本波成分はモータ部3の駆動電圧により発生し、その周波数は駆動電圧の駆動周波数と同じである。高調波成分はロータバー36aに流れる誘導電流により発生し、その周波数はロータ36の回転およびロータバー36aの数により定まる。すなわち、例えば、次の条件(駆動周波数:60Hz、ロータバー36aの数:28個)では、ロータ36が1回転する間に検出コイルC1~C8それぞれはロータバー36aによる磁束の変化を28回検出する。そのため、高調波成分の周波数は、60Hz×28=1.68kHzとなる。このように、基本波成分は駆動周波数に基づいて定まり、高調波成分はロータ36の回転、駆動周波数、およびロータバー36aの数に基づいて定まる。
【0043】
図5および
図6に戻る。
検出コイルC1,C3,C5,C7は、軸受32,33とスリーブ31a、31bとの間の間隔(L2)が広がることによるロータ36のラジアル方向の変位に対応する磁束変化を検出することにより、ロータ36のラジアル方向の変位量(すなわち、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量)を検出する。検出コイルC1,C3は一組のラジアル検出コイルを構成し、それぞれの検出信号が打ち消し合うように接続されている。検出コイルC5,C7は他の一組のラジアル検出コイルを構成し、それぞれの検出信号が打ち消し合うように接続されている。そのため、検出コイルC1,C3それぞれの検出信号が合成された合成信号(以下「合成信号(C1C3)」という。)は、検出コイルC1,C3それぞれの検出信号の差分を示す。同差分によりロータ36のフロント側のラジアル方向の変位量が検出される。すなわち、同差分は、軸受32のラジアル方向の摩耗量を示しており、差分の値は電圧値で表される。同様に、検出コイルC5,C7それぞれの検出信号が合成された合成信号(以下「合成信号(C5C7)」という。)は、検出コイルC5,C7それぞれの検出信号の差分を示す。同差分によりロータ36のリア側のラジアル方向の変位量が検出される。すなわち、同差分は、軸受33のラジアル方向の摩耗量を示しており、差分の値は電圧値により表される。したがって、例えば、ロータ36のラジアル方向の変位が無いとき、合成信号(C1C3,C5C7)において、基本波成分および高調波成分は打ち消し合い、その電圧値はほぼ「0」となる。一方、ロータ36のラジアル方向の変位が有るとき、検出コイルC1,C3それぞれの検出信号の高調波成分の信号レベル(振幅)の大きさには差が生じ、検出コイルC5,C7それぞれの検出信号の高調波成分の信号レベルの大きさには差が生じることになる。そのため、合成信号(C1C3,C5C7)において、変位量に応じて高調波成分の差分値、すなわち、合成信号(C1C3,C5C7)の電圧値は増加する。また、検出コイルC1,C3は検出コイルC5,C7とは独立しているため、合成信号(C1C3)と合成信号(C5C7)とを比較することにより、軸受32,33の偏摩耗(一方が他方よりも摩耗している状態)が検出可能である。
【0044】
検出コイルC2,C4,C6,C8は、軸受32,33とスラストワッシャ34,35との間の間隔(L1)が広がることによるロータ36のスラスト方向の変位に対応する磁束変化を検出することにより、ロータ36のスラスト方向の変位量(すなわち、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を検出する。検出コイルC2,C4は一組のスラスト検出コイルを構成し、検出信号が重畳されるように接続されている。検出コイルC6,C8は他の一組のスラスト検出コイルを構成し、検出信号が重畳されるように接続されている。そして、検出コイルC2,C4それぞれの検出信号が合成された合成信号(以下「合成信号(C2C4)」という。)と、検出コイルC6,C8それぞれの検出信号が合成された合成信号(以下「合成信号(C6C8)」という。)と、の差分を取る合成により、ロータ36のスラスト方向の変位量が検出される。すなわち、同差分は、ロータ36のスラスト方向の変位量、すなわち、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を示しており、差分の値は電圧値で表される。したがって、例えば、ロータ36のスラスト方向の変位が無いとき、差分において基本波成分および高調波成分が打ち消し合い、その電圧値はほぼ「0」となる。一方、ロータ36のスラスト方向の変位が有るとき、一方側の合成信号(例えば、合成信号(C2C4))の基本波成分の信号レベルは変位量に応じて低下し、他方側の合成信号(例えば、合成信号(C6C8))の基本波成分の信号レベルは殆ど変化しない。そのため、差分を示す信号において基本波成分の差分値(電圧値)は変位量に応じて増加する。また、合成信号(C2C4,C6C8)の大小を比較することにより、スラスト方向における変位の方向が検出可能である。
【0045】
図4に戻る。
接続部50は、検出コイルC1~C8、パルス信号生成部52、および後述される3相交流電源が接続されているインターフェイスである。
【0046】
信号処理回路51a~51dは、対応する検出コイルC1~C8の組に接続され、対応する合成信号(C1C3~C6C8)を交流から直流に変換する。信号処理回路51a~51dは、例えば、フィルタ回路、整流回路および積分回路により構成されている。
【0047】
図8は、パルス信号生成部52の構成の例を示す模式図である。
同図は、説明の便宜上、制御部54も併せて図示している。
パルス信号生成部52は、モータ部3用の3相交流電源の給電線の第1相(U)と第2相(V)および第2相と第3相(W)の各線間それぞれに接続され、各線間の電圧に対応するパルス信号を生成する。パルス信号生成部52は、例えば、2つのフォトカプラ52a,52bを備える公知の位相検出回路である。パルス信号は、後述する回転軸31の回転方向の検知、および駆動周波数の取得に用いられる。給電線は、例えば、インバータ(不図示)に接続されていて、3相交流電源の電圧および駆動周波数はインバータにより制御されている。
【0048】
図4に戻る。
A/D変換器53は、信号処理回路51a~51d、後述される演算回路57cおよび差分絶対値変換回路57dそれぞれから入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して、制御部54に出力する。
【0049】
制御部54は、本装置5全体の動作を制御する。制御部54は、例えば、CPU(Central Processing Unit)54aなどのプロセッサ、CPU54aの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)54bなどの揮発性メモリ、および、本プログラムや他の制御プログラムなどの各種情報を記憶するROM(Read Only Memory)54cなどの不揮発性メモリ、により構成されている。制御部54は、パルスカウンタ540、周波数取得部541、データ取得部542、摩耗量検出部543、回転方向検出部544、データ抽出部545、および表示制御部546を備える。
【0050】
制御部54では、本プログラムが動作して、本プログラムが本装置5のハードウェア資源と協働して、後述する各方法を実現している。また、制御部54を構成しているプロセッサ(CPU54a)に本プログラムを実行させることにより、本プログラムは同プロセッサをパルスカウンタ540、周波数取得部541、データ取得部542、摩耗量検出部543、回転方向検出部544、データ抽出部545、および表示制御部546として機能させて、同プロセッサに本方法を実行させることができる。
【0051】
パルスカウンタ540は、所定の単位時間(例えば、1sec)あたりのパルス信号のパルス数をカウントする。パルスカウンタ540の具体的な動作は、後述される。
【0052】
周波数取得部541は、状態信号に基づいて、モータ部3の駆動周波数を取得する。周波数取得部541の具体的な動作は、後述される。
【0053】
「状態信号」は、ステータ37に対するロータ36の状態を検出するために取得される信号であり、本実施の形態において、パルス信号である。
【0054】
「ステータ37に対するロータ36の状態」は、ステータ37に対するロータ36の機械的な変化を示し、本実施の形態において、ロータ36の回転方向である。
【0055】
データ取得部542は、周波数取得部541により取得された駆動周波数に基づいて、駆動周波数に対応する調整データを取得する。データ取得部542の具体的な動作は、後述される。
【0056】
「調整データ」は、検出コイルC1~C8の検出信号に基づいて、本装置5がロータ36の変位量(軸受32,33の摩耗量)を正確に検出するために必要なパラメータ群により構成される情報である。調整データは、例えば、駆動周波数の変動に応じて変動する変動パラメータ(例えば、オフセット情報、第1対応関係情報など)、および、各駆動周波数において変動しない(共通する)不変パラメータ(例えば、表示情報、第2対応関係情報など)を含む。調整データは、所定の駆動周波数(例えば、40Hz,50Hz,60Hz)ごとに、例えば、ポンプ1の出荷前に予め測定または設定され、駆動周波数に関連付けられて記憶部55に記憶されている。
【0057】
「オフセット情報」は、オフセット処理において、合成信号(C2C4)に加算または減算されるオフセット電圧を示す情報(例えば、電圧値のデジタル変換値)である。
【0058】
「オフセット処理」は、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分が駆動周波数に対応するロータ36のスラスト方向の変位量(軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を正しく示すように、合成信号(C2C4)にオフセット電圧を加算または減算する処理を意味する。
【0059】
オフセット電圧が合成信号(C2C4)に加算される信号(加算信号)か減算される信号(減算信号)かは、合成信号(C2C4,C6C8)の大小により決定されている。すなわち、例えば、合成信号(C2C4)が合成信号(C6C8)より大きいときオフセット電圧は減算信号であり、その逆のときオフセット情報は加算信号である。本実施の形態では、オフセット電圧は、加算信号である。
【0060】
「第1対応関係情報」は、スラスト方向において、ステータ37に対するロータ36の位置(変位量)と、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分の電圧値(差分値)と、の対応関係を示す情報である。「第1対応関係情報におけるロータ36のスラスト方向の位置」は、例えば、中央位置(後述される機械中心)、中央位置からフロント側に所定距離変位させた位置(以下「フロント位置」という。)、および、中央位置からリア側に所定距離変位させた位置(以下「リア位置」という。)である。「所定距離」は、例えば、軸受32,33の最大変位量の50%の距離であり、軸受32,33が摩耗していない状態の遊びに相当する距離である。前述のとおり、ステータ37に対するロータ36のスラスト方向の変位量は、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を意味する。すなわち、第1対応関係情報は、スラスト方向における軸受32,33の摩耗量と差分値との対応関係を示している。
【0061】
「表示情報」は、ステータ37に対するロータ36の変位量(軸受32,33の摩耗量)と、表示部56の各LED(Light Emitting Diode)の表示態様と、の関係を示す情報である。変位量(摩耗量)は、最大変位量(最大摩耗量)に対する割合(%)で表される。同割合は各駆動周波数に共通するため、表示情報は不変パラメータである。
【0062】
「第2対応関係情報」は、ラジアル方向において、ステータ37に対するロータ36のラジアル方向の位置(変位量)と、合成信号(C1C3,C5C7)の電圧値(差分値)と、の対応関係を示す情報である。前述のとおり、ラジアル方向の変位は高調波成分の差分の大小で検出されるため、駆動周波数の変動の影響は殆ど生じない。そのため、第2対応関係情報は、不変パラメータとして取り扱われる。
【0063】
摩耗量検出部543は、第2対応関係情報および合成信号(C1C3,C5C7)に基づいて、ロータ36のラジアル方向の変位量を検出することにより、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量を検出する。また、摩耗量検出部543は、第1対応関係情報および合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分に基づいて、ロータ36のスラスト方向の変位量を検出することにより、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。摩耗量検出部543の具体的な動作は、後述される。
【0064】
回転方向検出部544は、パルス信号生成部52からのパルス信号に基づいて、ロータ36の回転方向を検出する。回転方向検出部544の具体的な動作は、後述される。
【0065】
データ抽出部545は、データ取得部542に取得された調整データから、オフセット処理に必要なオフセット情報を抽出し、オフセット処理部57に出力する。
【0066】
表示制御部546は、表示情報、検出された摩耗量、および、検出された回転方向に基づいて、表示部56の表示を制御する。
【0067】
記憶部55は、本装置5の動作に必要な情報(例えば、調整データなど)を記憶する。記憶部55は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリである。
【0068】
図9は、記憶部55に記憶されている情報(調整データ)の一例を示す模式図である。
同図は、調整データの一部を例示している。同図は、駆動周波数ごとに、オフセット情報、第1対応関係情報、および表示情報(すなわち、調整データ)が関連付けられて記憶部55に記憶されていることを示している。データ取得部542は、例えば、取得された駆動周波数を用いて記憶部55を参照することにより、駆動周波数に関連付けられて記憶部55に記憶されている調整データを読み出すことができる。
【0069】
表示部56は、軸受32,33の摩耗量および回転方向を表示する。表示部56は、例えば、摩耗量および回転方向を表示する複数のLEDで構成されている。
【0070】
図10は、オフセット処理部57の機能ブロック図である。
【0071】
オフセット処理部57は、調整データに含まれるオフセット情報に基づいて、オフセット処理を実行する。オフセット処理部57は、D/A変換器57a、オフセット電圧生成回路57b、演算回路57cおよび差分絶対値変換回路57dにより構成されている。
【0072】
D/A変換器57aは、制御部54(データ抽出部545)からのオフセット情報をデジタル信号からアナログ信号に変換する。
【0073】
オフセット電圧生成回路57bは、アナログ信号に変換されたオフセット情報に基づいて、検出コイルC2,C4の合成信号(C2C4)に加算または減算されるオフセット電圧を生成する。オフセット電圧は、本発明におけるオフセット信号の一例である。
【0074】
演算回路57cは、合成信号(C2C4)にオフセット電圧を加算または減算することにより同合成信号(C2C4)にオフセット処理を実行すると共に、オフセット処理後の合成信号(C2C4)と、合成信号(C6C8)と、の差分値を算出する。
【0075】
差分絶対値変換回路57dは、演算回路57cにより算出された差分値を絶対値に変換する。
【0076】
●キャンドモータポンプ(モータ軸受摩耗監視装置(1))の動作
次に、ポンプ1の動作について、本装置5の動作を中心に以下に説明する。以下の説明において、
図1~
図10は、適宜参照される。
【0077】
図11は、本装置5の動作の一例を示すフローチャートである。
【0078】
ポンプ1の動作中、モータ部3には駆動電源が供給され、ロータ36、回転軸31およびインペラ21は所定の回転数で回転している。このとき、本装置5は、周波数取得処理(S1)、摩耗量検出処理(S3)、および回転方向検出処理(S4)を常時繰り返し実行している。
【0079】
●周波数取得処理
図12は、周波数取得処理(S1)の一例を示すフローチャートである。
【0080】
「周波数取得処理(S1)」は、パルス信号生成部52からのパルス信号に基づいて、モータ部3の駆動周波数を取得する処理である。本装置5は、パルス信号を受信する度に、周波数取得処理(S1)を実行する。周波数取得処理(S1)に用いられるパルス信号は、フォトカプラ52aにより生成され、制御部54(パルスカウンタ540)に出力されている。
【0081】
なお、本発明において、パルスカウンタ540は、フォトカプラ52aに代えて、フォトカプラ52bから出力されるパルス信号のパルス数をカウントしていてもよい。
【0082】
先ず、パルスカウンタ540は、所定の単位時間(例えば、1sec)当たりのパルス信号のパルス数(すなわち、周期の数)をカウントする(S11)。
【0083】
次いで、周波数取得部541は、単位時間およびパルス数に基づいて駆動周波数を算出することにより、駆動周波数を取得する(S12)。すなわち、例えば、カウントされたパルス数が「60」のとき、駆動周波数は「60Hz」である。
【0084】
次いで、周波数取得部541は、取得された駆動周波数と、RAM54bに記憶されている駆動周波数(以下「既存周波数」という。)と、を比較する(S13)。
【0085】
取得された駆動周波数と既存周波数とが一致するとき(S13の「Y」)、本装置5は、駆動周波数取得処理(S1)を終了する。
【0086】
一方、取得された駆動周波数と既存周波数とが一致しないとき(S13の「N」)、周波数取得部541は、RAM54bに記憶されている既存周波数を取得された駆動周波数に書き換える(S14)。その結果、RAM54bには、変更後の駆動周波数が既存周波数として記憶される。次いで、本装置5は、調整処理(S2)を実行する。
【0087】
ここで、「駆動周波数と既存周波数とが一致」は、駆動周波数と既存周波数とが完全に一致する状態だけでなく、種々の要因(例えば、商用電源の周波数偏差内の変動)で生じる誤差により僅かにずれている状態(例えば、実際の駆動周波数±5%程度)も含む。
【0088】
なお、本装置5の電源投入直後、RAM54bは、既存周波数および調整データを記憶していない。この場合、取得された駆動周波数と既存周波数とが一致しない(情報が一致しない)ため、本装置5は、調整処理(S2)を実行する。
【0089】
また、本発明において、本装置5は、電源投入直後、周波数取得処理(S1)の実行前に、最後に用いられていた調整データを記憶部55から読み出していてもよい。
【0090】
さらに、本発明において、周波数取得部541は、取得された駆動周波数と既存周波数との比較をすることなく、既存周波数を取得された駆動周波数に書き換えていてもよい。
【0091】
●調整処理
図13は、調整処理(S2)の一例を示すフローチャートである。
【0092】
「調整処理(S2)」は、変更後の駆動周波数に対応する調整データを取得し、同調整データに基づいて、RAM54bに記憶されている調整データの書き換え、および駆動周波数に対応するオフセット処理を実行する処理である。周波数取得処理(S1)、調整処理(S2)、および後述される摩耗量検出処理(S3)は、本方法の一例である。
【0093】
先ず、データ取得部542は、変更後の駆動周波数(既存周波数)に関連付けられて記憶部55に記憶されている調整データを読み出すことにより、駆動周波数に対応する調整データを取得する(S21)。
【0094】
なお、本発明において、データ取得部542は、変更後の駆動周波数に対応する調整データが記憶部55に記憶されていないとき、取得された駆動周波数に最も近い駆動周波数に対応する調整データを記憶部55から読み出していてもよい。
【0095】
次いで、データ取得部542は、RAM54bに記憶されている調整データ(以下「既存調整データ」という。)を取得された調整データに書き換える(S22)。
【0096】
次いで、データ抽出部545は、RAM54bからオフセット情報を読み出す(抽出する)(S23)。オフセット情報は、オフセット処理部57に出力される。
【0097】
オフセット処理部57では、信号の変換(S24)、オフセット電圧の生成(S25)、およびオフセット処理(S26)が実行される。
【0098】
具体的には、先ず、D/A変換器57aは、オフセット情報をデジタル信号からアナログ信号に変換する(S24)。次いで、オフセット電圧生成回路57bは、変換後のオフセット情報に基づいて、オフセット電圧を生成する(S25)。次いで、演算回路57cは、オフセット電圧に基づいて、オフセット処理を実行する(S26)。前述のとおり、オフセット処理は、合成信号(C2C4)にオフセット電圧を加算または減算(本実施の形態では加算)することにより実行される。
【0099】
図14は、オフセット処理前の合成信号(C2C4,C6C8)の一例を示す模式図である。
図15は、オフセット処理後の合成信号(C2C4,C6C8)の一例を示す模式図である。
両図において、縦軸は、合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値および差分値を示している。横軸は、軸受32,33のスラスト方向の最大摩耗量に対する摩耗量の割合(%)を示している。横軸の右半部はフロント側の摩耗量(変位量)を示し、左半部はリア側の摩耗量(変位量)を示し、横軸の中点はロータ36の機械的な中心位置(以下「機械中心」という。)を示している。また、合成信号(C2C4,C6C8)の変化を示す各プロット線の交点は、後述される磁気的な中心(以下「磁気中心」という。)を示している。さらに、一点鎖線は、差分値のプロット線を示している。
【0100】
「機械中心」は、スラスト方向におけるステータ37に対するロータ36の初期状態の位置を意味する。そのため、軸受32,33が摩耗していないときには、スラスト方向において、ステータ37の中心に対してロータ36の中心が一致していなければならない。また、スラスト方向において、ステータ37の中心に対してロータ36の中心が一致すれば、フロント側とリア側との磁束変化は等しくなり、「磁気中心」は「機械中心」に位置することになる。そして、このような初期状態が実現されることにより、その後のポンプ1の駆動に伴う摩耗量は正しく検出されるようになる。
【0101】
なお、「ステータ37の中心に対してロータ36の中心が一致する」とは、モータ部3の製造上の誤差などによるずれを含み、両中心が完全に一致していなくてもよい。
【0102】
ここで、製造上の理由などにより、モータ部3の組立後において、ステータ37の中心に対するロータ36の位置が一致せず、初期状態の磁気中心が機械中心からずれてしまう場合がある。この場合、摩耗量は正しく検出されない。また、このずれた状態からポンプ1の駆動のために駆動周波数が変更されると、合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値も変わり、磁気中心のずれ量がさらに変動することになる。このように磁気中心がずれている初期状態に対応するため、オフセット処理部57は、初期状態における合成信号(C2C4)の電圧値と合成信号(C6C8)の電圧値とを一致させ、初期状態の磁気中心が機械中心に一致していたかのようにオフセット処理を実行する。すなわち、両電圧値を一致させる処理が、オフセット電圧によるオフセット処理であり、オフセット処理は、調整処理(S2)が実行されるたびに実行されている。以下、
図14および
図15を参照しながら、オフセット処理が、説明される。
【0103】
図14に示されるとおり、機械中心において、オフセット処理前の合成信号(C2C4)は合成信号(C6C8)に対して低電位に位置し、2つのプロット線の交点である磁気中心は機械中心よりもフロント側にずれている場合が有る。このようなずれが生じると、摩耗量検出部543は正確な摩耗量を検出できず、表示部56は誤った摩耗量を表示し得る。このずれを無くすため、合成信号(C2C6)にオフセット電圧が加算される。すなわち、
図14および
図15に示されるとおり、オフセット処理は、機械中心において、合成信号(C2C4)の電圧値と合成信号(C6C8)の電圧値とが一致するように(磁気中心を機械中心に一致させるように)、合成信号(C2C4)にオフセット電圧を加算することにより、ステータ37の中心に対するロータ36の中心が初期状態から一致していたかのように電圧値を調整する処理である。換言すれば、オフセット処理は、軸受32,33が摩耗していない状態において、合成信号(C2C4)の電圧値と合成信号(C6C8)の電圧値とが一致するように、ポンプ1の駆動時に合成信号(C2C4)にオフセット電圧を常に加算する処理である。オフセット処理後の合成信号(C2C4)のプロット線は、
図15に示されるとおり、機械中心で合成信号(C6C8)のプロット線と交わる。その結果、オフセット処理後の合成信号(C2C4)と、合成信号(C6C8)と、の差分は、駆動周波数に対応する摩耗量を示すように調整される。
【0104】
ここで、「磁気中心」は、
図14および
図15に示されるとおり、2つの合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値が一致する点であり、スラスト方向における磁束変化が釣り合う位置を示す。したがって、オフセット処理は、磁気中心を、機械中心に調整する処理(ゼロ点調整)でもある。
【0105】
なお、本発明において、演算回路57cは、合成信号(C2C4)に代えて、合成信号(C6C8)にオフセット電圧を加算または減算していてもよい。この場合、オフセット情報は、合成信号(C6C8)に対応するように設定されている。
【0106】
また、本発明において、演算回路57cは、各合成信号(C2C4,C6C8)にオフセット電圧を加算または減算していてもよい。この場合、オフセット情報は、各合成信号(C2C4,C6C8)それぞれに対応するように設定されている。
【0107】
●摩耗量検出処理
図16は、摩耗量検出処理(S3)の一例を示すフローチャートである。
【0108】
「摩耗量検出処理(S3)」は、各合成信号(C1C3~C6C8)に基づいて、軸受32,33の摩耗量を検出する処理である。
【0109】
検出コイルC1~C8は、ロータ36の回転中、常に検出信号を出力している。検出コイルC1,C3,C5,C7からの合成信号(C1C3,C5C7)は信号処理回路51a,51bおよびA/D変換器53を介して、摩耗量検出部543に入力される。
【0110】
検出コイルC2,C4,C6,C8からの検出信号(合成信号(C2C4,C6C8))は信号処理回路51c,51dを介して、演算回路57cに入力される。演算回路57cにおいて、オフセット処理が実行され、差分値が算出される。差分値は差分絶対値変換回路57dにより絶対値に変換される。オフセット後の合成信号(C2C4)、合成信号(C6C8)、および絶対値は、A/D変換器53を介して、摩耗量検出部543に入力される。
【0111】
摩耗量検出処理(S3)において、摩耗量検出部543は、ラジアル方向の摩耗量の検出処理(S31)、および、スラスト方向の摩耗量の検出処理(S32)を個別に実行している。
【0112】
ラジアル方向の摩耗量の検出処理(S31)では、摩耗量検出部543は、第2対応関係情報、合成信号(C1C3)の電圧値、および合成信号(C5C7)の電圧値に基づいて、軸受32,33の摩耗量を検出する。次いで、摩耗量検出部543は、両摩耗量を比較して、摩耗量の大きい方をラジアル方向の摩耗量として選択する。検出された摩耗量は、ログ情報として、例えば、記憶部55に記憶される。
【0113】
スラスト方向の摩耗量の検出処理(S32)では、摩耗量検出部543は、第1対応関係情報および差分値の絶対値に基づいて、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。検出された摩耗量は、ログ情報として、例えば、記憶部55に記憶される。
【0114】
このように、スラスト方向の摩耗量の検出処理(S32)では、オフセット電圧によるオフセット処理後の合成信号(C2C4)が用いられている。そのため、前述のとおり、摩耗量検出部543は、駆動周波数に対応するスラスト方向の摩耗量を検出できる。
【0115】
次いで、表示制御部546は、検出された摩耗量に基づいて、表示部56の表示態様を決定し、決定された表示態様で表示部56に表示させる(S33)。
【0116】
●回転方向検出処理
図17は、回転方向検出処理(S4)の一例を示すフローチャートである。
図18は、回転方向検出部544の回転方向の検出原理を示す模式図である。
【0117】
「回転方向検出処理(S4)」は、パルス信号生成部52からのパルス信号に基づいて、ロータ36の回転方向を検出する処理である。
【0118】
パルス信号生成部52は、通電中、常にパルス信号を生成し、制御部54(回転方向検出部544)に出力している。
【0119】
回転方向検出部544は、フォトカプラ52aからのパルス信号(以下「信号A」という。)とフォトカプラ52bからのパルス信号(以下「信号B」という。)を受信する(S41)。
【0120】
次いで、回転方向検出部544は、信号Aの立ち上がり時の信号Bのレベルを検出し、同レベルが「H」(ハイレベル)か「L」(ローレベル)かを判定する(S42)。
【0121】
信号Bのレベルが「L」のとき、回転方向検出部544は回転方向が「正転」であると判定し、レベルが「L」の信号Cを生成する(S43)。一方、信号Bのレベルが「H」のとき、回転方向検出部544は回転方向が「逆転」であると判定し、レベルが「H」の信号Cを生成する(S44)。
【0122】
次いで、表示制御部546は、信号Cのレベルが「L」のとき表示部56に「正転」を表示させ(S45)、信号Cのレベルが「H」のとき表示部56に「逆転」を表示させる(S46)。
【0123】
なお、本発明において、回転方向検出部544は誤配線を検出して「H」「L」が交互に連続する信号Cを生成し、表示制御部546はLEDを点滅させてもよい。
【0124】
このように、本装置5は、ロータ36の回転方向の検出に用いられているパルス信号を駆動周波数の取得にも転用している。すなわち、本装置5は、駆動周波数を取得するための特別な信号、配線、および部品を必要とすることなく駆動周波数を取得できる。一般的に、キャンドモータポンプには、取扱液や設置環境の関係上、防爆構造が求められている。防爆構造を有する機器は防爆構造規格を遵守しなければならず、機器の物理的な構成の変更は難しい。また、駆動周波数の情報はインバータから得ることも可能であるが、その場合、ポンプ1の設置先において、本装置5とインバータとの間に専用の配線が必要となる。これに対して、本装置5は、前述のとおり、回転方向検出に用いられている公知の位相検出回路からのパルス信号を駆動周波数の取得に転用している。そのため、本装置5は、防爆構造を有する既存のモータ軸受摩耗監視装置(以下「既存装置」という。)において制御プログラムを変更する(本プログラムを実行する)だけで、物理的な構成を変更することなく実現できる。すなわち、本発明は、防爆構造を有する既存装置において、防爆構造の変更をすることなく適用できる。
【0125】
●まとめ(1)
以上説明した実施の形態によれば、本装置5は、摩耗量検出部543、周波数取得部541、データ取得部542、およびオフセット処理部57を備える。摩耗量検出部543は、一組となる検出コイルC2,C4の合成信号(C2C4)と、他の一組となる検出コイルC6,C8の合成信号(C6C8)と、の差分に基づいて、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。周波数取得部541は、パルス信号に基づいて、駆動周波数を取得する。データ取得部542は、取得された駆動周波数に基づいて、駆動周波数に対応する調整データを取得する。オフセット処理部57は、取得された調整データに基づいて、合成信号(C2C4)と合成信号(S6C8)との差分が駆動周波数に対応する摩耗量を示すように、合成信号(C2C4)にオフセット処理を実行する。この構成によれば、本装置5は、運転中または稼働時に駆動周波数が変更されても、自動的に駆動周波数および調整データを取得し、駆動周波数に応じたオフセット処理を実行できる。その結果、本装置5は、インバータによる流量制御により駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持し、軸受32,33の摩耗状態を監視できる。すなわち、本装置5は、インバータによる流量制御に対応できる。
【0126】
また、以上説明した実施の形態によれば、周波数取得部541は、ステータ37に対するロータ36の状態(回転方向)を検出するために取得される状態信号(パルス信号)に基づいて、駆動周波数を取得する。この構成によれば、本装置5は、駆動周波数を取得するための特別な信号、配線、または部品を用いることなく、駆動周波数を取得できる。その結果、本装置5は、既存装置において物理的な構成を変更することなく容易に実現できる。
【0127】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、本装置5は、パルス信号生成部52およびパルスカウンタ540を備える。パルス信号生成部52は、モータ部3用の3相交流電源の第1相(U)と第2相(V)および第2相と第3相(W)の各線間それぞれに接続され、各線間の電圧に対応するパルス信号を生成する。パルスカウンタ540は、所定の単位時間あたりのパルス信号のパルス数をカウントする。周波数取得部541は、パルス信号のパルス数に基づいて、駆動周波数を取得する。この構成によれば、本装置5は、ロータ36の回転方向の検出に用いられているパルス信号を駆動周波数の取得にも転用することにより、駆動周波数を取得するための特別な信号、配線、または部品を用いることなく、駆動周波数を取得できる。また、例えば、本プログラムを用いて、本装置5と同じ回転方向検出方法を採用する既存装置のプロセッサをパルスカウンタ540および周波数取得部541として機能させることにより、本装置5は、既存装置において物理的な構成を変更することなく容易に実現することができる。
【0128】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、本装置5は、駆動周波数ごとに、駆動周波数と駆動周波数に対応する調整データとを関連付けて記憶する記憶部55を備える。データ取得部542は、駆動周波数に基づいて、記憶部55から駆動周波数に対応する調整データを取得する。この構成によれば、駆動周波数に対応する正確な調整データが予め計測され記憶部55に記憶されている。そのため、本装置5は、駆動周波数を取得するだけで、駆動周波数に対応する正確な調整データを容易に取得できる。その結果、本装置5は、インバータによる流量制御により駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持し、軸受32,33の摩耗状態を正確に監視することができる。
【0129】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、オフセット電圧生成回路57bはオフセット情報(調整データ)に基づいてオフセット電圧を生成し、演算回路57cはオフセット電圧を用いてオフセット処理を実行する。この構成によれば、本装置5は、駆動周波数に対応する1のオフセット電圧を容易に生成でき、安定したオフセット処理を実行できる。
【0130】
●モータ軸受摩耗監視装置(2)●
次に、本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の別の実施の形態(以下「第2実施形態」という。)について、先に説明した実施の形態(以下「第1実施形態」という。)とは異なる部分を中心に説明する。第2実施形態では、駆動周波数を取得するための構成および方法が、第1実施形態と異なる。以下の説明において、第1実施形態と共通する要素については、同一の符号が付され、その説明は省略される。
【0131】
●モータ軸受摩耗監視装置(2)の構成
図19は、本装置の別の実施形態(第2実施形態)を示す機能ブロック図である。
【0132】
本装置5Aは、8つの検出コイルC1~C8、接続部50、信号処理回路51a~51d、パルス信号生成部52、A/D変換器53、制御部54A、記憶部55、表示部56、オフセット処理部57、およびフィルタ回路58を備える。
【0133】
制御部54Aは、本装置5A全体の動作を制御する。制御部54Aは、例えば、CPU54a、RAM54b、およびROM54cにより構成されている。制御部54Aは、データ取得部542、摩耗量検出部543、回転方向検出部544、データ抽出部545、表示制御部546、FFT処理部547、および周波数取得部548を備える。
【0134】
制御部54Aでは、本プログラムが動作して、本プログラムが本装置5Aのハードウェア資源と協働して、後述する各方法を実現している。また、制御部54Aを構成しているプロセッサ(CPU54a)に本プログラムを実行させることにより、本プログラムは同プロセッサをデータ取得部542、摩耗量検出部543、回転方向検出部544、データ抽出部545、表示制御部546、およびFFT処理部547、および周波数取得部548として機能させて、同プロセッサに本方法を実行させることができる。
【0135】
FFT処理部547は、一組となる検出コイルC2,C4の合成信号(C2C4)に対して高速フーリエ変換処理(FFT処理)を実行することにより、合成信号(C2C4)の周波数スペクトルを生成する。FFT処理部547の具体的な動作は、後述される。ロータ36の変位は本発明におけるステータ37に対するロータ36の状態の一例であり、合成信号(C2C4)すなわち検出信号は本発明における状態信号の一例である。
【0136】
周波数取得部548は、状態信号に基づいて、モータ部3用の駆動周波数を取得する。周波数取得部548の具体的な動作は、後述される。
【0137】
フィルタ回路58は、合成信号(C2C4)にフィルタ処理を実行して、合成信号(C2C4)から高周波数帯域のノイズを除去する。フィルタ回路58は、例えば、カットオフ周波数が10kHzのローパスフィルタにより構成されている。フィルタ回路58は、信号処理回路51c、51dと並列に接続され、A/D変換器53に接続されている。
【0138】
●キャンドモータポンプ(モータ軸受摩耗監視装置(2))の動作
次に、ポンプ1の動作について、本装置5Aの動作を中心に以下に説明する。以下の説明において、
図1~
図10および
図19は、適宜参照される。
【0139】
ポンプ1の動作中、本装置5Aは、第1実施形態の周波数取得処理(S1)に代えて、周波数取得処理(S5)を実行している。すなわち、本装置5Aは、摩耗量検出処理(S3)、回転方向検出処理(S4)、および周波数取得処理(S5)を常時実行している。
【0140】
●周波数取得処理
図20は、周波数取得処理(S5)の一例を示すフローチャートである。
【0141】
「周波数取得処理(S5)」は、合成信号(C2C4)の周波数スペクトルを生成し、同周波数スペクトルに基づいて、駆動周波数を取得する処理である。
【0142】
合成信号(C2C4)は、信号処理回路51c,51d、フィルタ回路58およびA/D変換器53を介して、制御部54(FFT処理部547)に入力される。
【0143】
FFT処理部547は、ノイズ除去およびデジタル変換後の合成信号(C2C4)の所定のサンプリング区間に対してFFT処理を実行し、同合成信号(C2C4)の周波数スペクトルを生成する(S51)。
【0144】
次いで、周波数取得部548は、周波数スペクトルに基づいて、駆動周波数を取得する(S52)。具体的には、周波数取得部548は、周波数スペクトルに対してフィルタ処理を実行し、駆動周波数の基本波成分のピークを検出することにより、駆動周波数を取得する。換言すれば、周波数取得部548は、基本波成分に基づいて駆動周波数を取得する。前述のとおり、合成信号(C2C4)では高調波成分が打ち消し合うため、合成信号(C2C4)は、主に基本波成分を含んでいる。そのため、合成信号(C2C4)の周波数スペクトルは、ノイズ成分を除き、基本波成分のピークを含んでいる。また、日本の商用電源の周波数は50Hzまたは60Hzであり、ポンプ1の動作がインバータ制御されたとしても、駆動周波数は30Hz~120Hz程度(主に40Hz~60Hz)の範囲に収まる。そのため、フィルタ処理は、例えば、周波数スペクトルに対して、120Hzをカットオフ周波数とするローパスフィルタを適用して、基本波成分のピークを検出することにより実行される。
【0145】
次いで、周波数取得部548は、取得された駆動周波数と、RAM54bに記憶されている既存周波数と、を比較する(S53)。
【0146】
取得された駆動周波数と既存周波数とが一致するとき(S53の「Y」)、本装置5Aは、駆動周波数取得処理(S5)を終了する。
【0147】
一方、取得された駆動周波数と既存周波数とが一致しないとき(S53の「N」)、周波数取得部548は、RAM54bに記憶されている既存周波数を取得された駆動周波数に書き換える(S54)。次いで、本装置5Aは、調整処理(S2)を実行する。
【0148】
なお、本装置5Aの電源投入直後では、RAM54bは、既存周波数を記憶していない。この場合、本装置5Aは、調整処理(S2)を実行する。
【0149】
このように、本装置5Aは、ロータ36のスラスト方向の変位の検出に用いられている合成信号(C2C4)を駆動周波数の取得にも転用している。すなわち、本装置5Aは、駆動周波数を取得するための特別な信号を必要としない。また、本装置5Aと第1実施形態における本装置5との物理的な構成上の差異は、フィルタ回路58の有無、および必要とされるプロセッサ処理能力のみである。そのため、本装置5Aは、本装置5において、回路基板の交換または改良、および制御プログラムの変更のみで実現できる。また、回路基板の交換または改良は、防爆構造に殆ど影響を与えない。そのため、本装置5Aは、既存装置において、物理的な構成の僅かな変更および制御プログラムの変更のみで防爆構造に殆ど影響を与えることなく実現できる。すなわち、本発明は、防爆構造を有する既存装置において、フィルタ回路の追加またはフィルタ処理をプログラムで実行させることにより防爆構造の変更をすることなく適用できる。
【0150】
なお、本発明において、本装置5Aは、合成信号(C6C8)に基づいて、駆動周波数を取得していてもよい。この場合、合成信号(C6C8)は、本発明における状態信号の一例である。
【0151】
また、本発明において、本装置5Aは、合成信号(C1C3)に基づいて、駆動周波数を取得していてもよい。この場合、合成信号(C1C3)の周波数スペクトルは高調波成分のピークを含んでいるため、周波数取得部548は、周波数スペクトルに対してフィルタ処理を実行し、駆動周波数の高調波成分のピークを検出し、同ピークに対応する周波数をロータバー36aの本数で除算することにより、駆動周波数を取得する。この場合、フィルタ処理は、例えば、カットオフ周波数を800Hz~3.4kHzとするバンドパスフィルタを適用することにより実行される。また、この構成では、モータ部3の回転数も取得可能である。合成信号(C1C3)は、本発明における状態信号の一例である。
【0152】
さらに、本発明において、本装置5Aは、合成信号(C5C7)に基づいて、駆動周波数を取得していてもよい。この場合、合成信号(C5C7)は、本発明における状態信号の一例である。
【0153】
さらにまた、本発明において、本装置5Aは、合成信号(C2C4,C6C8)または合成信号(C1C3,C5C7)に基づいて、駆動周波数を取得していてもよい。この場合、本装置5Aは、取得された2つの駆動周波数を比較して、その異同を判定することにより、異常(例えば、ステータ37の異常など)を報知する機能を備えていてもよい。
【0154】
さらにまた、本発明において、制御部54Aがフィルタ回路58として機能していてもよい。
【0155】
さらにまた、本発明において、本装置5Aは、合成信号(C2C4)に対してフィルタ回路58によるフィルタ処理を実行していなくてもよい。この場合、FFT処理において高域のノイズ成分が含まれるが、同ノイズ成分は周波数取得処理(S5)のフィルタ処理により除去可能である。この構成では、フィルタ回路58は不要となる。
【0156】
●まとめ(2)
以上説明した実施の形態によれば、本装置5Aは、摩耗量検出部543、周波数取得部548、データ取得部542、およびオフセット処理部57を備える。周波数取得部548は、合成信号(C2C4)の周波数スペクトルに基づいて、駆動周波数を取得する。データ取得部542は、取得された駆動周波数に基づいて、駆動周波数に対応する調整データを取得する。オフセット処理部57は、取得された調整データに基づいて、合成信号(C2C4)と合成信号(S6C8)との差分が駆動周波数に対応する摩耗量を示すように、合成信号(C2C4)にオフセット処理を実行する。この構成によれば、本装置5Aは、ポンプ1の運転中または稼働時に駆動電源の駆動周波数が変更されても、自動的に駆動周波数および調整データを取得し、駆動周波数に応じたオフセット処理を実行できる。その結果、本装置5Aは、インバータによる流量制御により駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持し、軸受32,33の摩耗状態を監視できる。すなわち、本装置5Aは、インバータによる流量制御に対応できる。
【0157】
また、以上説明した実施の形態によれば、周波数取得部548は、ステータ37に対するロータ36の状態(変位)を検出するために取得される状態信号(合成信号(C2C4))に基づいて、駆動周波数を取得する。この構成によれば、本装置5Aは、駆動周波数を取得するための特別な信号を用いることなく、駆動周波数を取得できる。
【0158】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、周波数取得部548は、合成信号(C2C4)に含まれる基本波成分に基づいて、駆動周波数を取得する。前述のとおり、基本波成分の周波数は、駆動周波数と同じである。この構成によれば、本装置5Aは、ロータ36の変位の検出に用いられている合成信号(C2C4)を駆動周波数の取得にも転用することにより、駆動周波数を取得するための特別な信号を用いることなく、正確な駆動周波数を取得できる。
【0159】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、周波数取得部548は、一組となる検出コイルC2,C4からの合成信号(C2C4)に対してFFT処理を実行することにより、合成信号(C2C4)の周波数スペクトルを生成し、同周波数スペクトルに基づいて、駆動周波数を取得する。この構成によれば、本装置5Aは、モータ軸受摩耗監視装置の技術分野では通常用いられないFFT処理を実行するための構成を用いることにより、容易に正確な駆動周波数を取得できる。その結果、本装置5Aは、既存装置において物理的な構成の僅かな変更、および制御プログラムの変更のみで実現できる。
【0160】
●モータ軸受摩耗監視装置(3)●
次に、本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置のさらに別の実施の形態(以下「第3実施形態」という。)について、先に説明した第1および第2実施形態とは異なる部分を中心に説明する。第3実施形態では、調整データを取得するための構成および方法が、第1および第2実施形態と異なる。以下の説明において、第1実施形態と共通する要素については、同一の符号が付され、その説明は省略される。
【0161】
●モータ軸受摩耗監視装置(3)の構成
図21は、本装置のさらに別の実施形態(第3実施形態)を示す機能ブロック図である。
【0162】
本装置5Bは、8つの検出コイルC1~C8、接続部50、信号処理回路51a~51d、パルス信号生成部52、A/D変換器53、制御部54B、記憶部55B、表示部56、およびオフセット処理部57を備える。
【0163】
制御部54Bは、本装置5B全体の動作を制御する。制御部54Bは、例えば、CPU54a、RAM54b、およびROM54cにより構成されている。制御部54Bは、パルスカウンタ540、周波数取得部541、摩耗量検出部543、回転方向検出部544、データ抽出部545、表示制御部546、およびデータ取得部549を備える。
【0164】
制御部54Bでは、本プログラムが動作して、本プログラムが本装置5Bのハードウェア資源と協働して、後述する各方法を実現している。また、制御部54Bを構成しているプロセッサ(CPU54a)に本プログラムを実行させることにより、本プログラムは同プロセッサをパルスカウンタ540、周波数取得部541、摩耗量検出部543、回転方向検出部544、データ抽出部545、表示制御部546、およびデータ取得部549として機能させて、同プロセッサに本方法を実行させることができる。
【0165】
データ取得部549は、周波数取得部541により取得された駆動周波数、後述する関数および定数に基づいて、駆動周波数に対応する調整データを取得する。データ取得部549の具体的な動作は、後述される。
【0166】
記憶部55Bは、本装置5Bの動作に必要な情報(関数、定数、基準調整データなど)を記憶する。記憶部55は、例えば、EEPROMやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリである。
【0167】
「関数」は、調整データに含まれる各パラメータと、駆動周波数と、の関係を表す1次関数である。本発明の発明者は、各パラメータのうち、変動パラメータが駆動周波数の変動に対してほぼ線形に変動することを見出した。その結果、本実施の形態では、パラメータごとに適切な定数が設定されることにより、駆動周波数に対応する各変動パラメータの自動算出が可能となっている。関数は、例えば、「Y=aX」(ここで、Y:変動パラメータ、X:駆動周波数、a:定数)で表される。
【0168】
「定数」は、前述の関数の「a」に相当し、例えば、出荷前に所定の基準駆動周波数(例えば、60Hz)において、各変動パラメータに対して予め算出されている。すなわち、定数は、変動パラメータごとに算出されている。本実施の形態において、定数が算出されている変動パラメータは、少なくとも、摩耗量の検出に必要な変動パラメータ(例えば、オフセット情報、最大フロント位置の差分値、および最大リア位置の差分値)を含む。
【0169】
なお、本発明において、定数が算出されている変動パラメータは、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、定数は、変動パラメータの全てに対して算出されていてもよく、あるいは、処理負荷低減のため、摩耗量の検出に必要な変動パラメータのみに対して算出されていてもよい。
【0170】
また、本発明において、関数は、「Y=aX」の一次関数に限定されない。すなわち、例えば、関数は、「Y=aX+b」(ここで、Y:変動パラメータ、X:駆動周波数、a:定数、b:切片)の一次関数でもよい。この場合、定数「a」および切片「b」は、2種の基準駆動周波数(例えば、40Hzおよび60Hz)において、各変動パラメータに対して予め算出されている。この構成では、2つの基準駆動周波数における基準調整データ、定数および切片の取得が必要となるが、「Y=aX」による算出よりも変動パラメータの算出精度は向上する。
【0171】
さらに、本発明において、基準駆動周波数は、ポンプ1の使用環境に合わせて選択されればよく、60Hzに限定されない。
【0172】
「基準調整データ」は、基準駆動周波数に対応する調整データである。基準調整データには、例えば、変動パラメータ、変動パラメータに対応する定数、および、不変パラメータが書き込まれている。
【0173】
●ポンプ(モータ軸受摩耗監視装置(3))の動作
次に、ポンプ1の動作について、本装置5Bの動作を中心に以下に説明する。以下の説明において、
図1~
図10、および
図21は、適宜参照される。
【0174】
ポンプ1の動作中、本装置5Bは、周波数取得処理(S1)、摩耗量検出処理(S3)、および回転方向検出処理(S4)を常時実行している。本実施の形態において、本装置5Bは、第1および第2実施形態の調整処理(S2)に代えて調整処理(S6)を実行している。
【0175】
ここで、本装置5Bの起動時において、制御部54Bは、関数および基準調整データを記憶部55Bから読み出し、RMA54bに記憶している。
【0176】
●調整処理
図22は、調整処理(S6)の一例を示すフローチャートである。
【0177】
「調整処理(S6)」は、駆動周波数に対応する調整データ(変動パラメータ)を取得し、取得された調整データに基づいて、既存調整データの書き換え、およびオフセット処理を実行する処理である。
【0178】
先ず、データ取得部549は、駆動周波数、関数、および必要な変動パラメータごとの定数をRAM54bから読み出し、駆動周波数に対応する各変動パラメータを算出することにより、駆動周波数に対応する各変動パラメータ(すなわち、調整データ)を取得する(S61)。
【0179】
次いで、データ取得部549は、RAM54bに記憶されている既存調整データのうち、変動パラメータを、取得された変動パラメータに書き換える(S62)。
【0180】
次いで、データ抽出部545は、RAM54bからオフセット情報を読み出す(抽出する)(S63)。オフセット情報は、オフセット処理部57に出力される。
【0181】
オフセット処理部57では、信号の変換(S64)、オフセット電圧の生成(S65)、およびオフセット処理(S66)が実行される。これらの処理(S64~S66)は第1実施形態の処理(S24~S26)と共通するため、詳細は省略される。
【0182】
このように、本装置5Bは、関数と定数とを用いて変動パラメータを算出することにより、全ての駆動周波数に対応する調整データを容易に取得できる。また、本装置5Bでは、第1、第2実施形態のように駆動周波数ごとの調整データの事前取得が不要となる。さらに、算出する変動パラメータを絞ることにより、同算出に必要な処理負荷が低減される。そのため、本発明は、既存装置のプロセッサでも算出できる。その結果、本装置5Bは、既存装置において制御プログラムを変更する(本プログラムを実行する)だけで、物理的な構成を変更することなく実現できる。
【0183】
●まとめ(3)
以上説明した実施の形態によれば、本装置5Bは、駆動周波数に対応する調整データの算出に用いられる関数および定数を記憶する記憶部55Bを備える。データ取得部549は、駆動周波数、関数、および定数に基づいて、駆動周波数に対応する調整データ(変動パラメータ)を取得する。この構成によれば、第1、第2実施形態のように駆動周波数ごとの調整データの事前取得が不要となり、本装置5Bは、1つの駆動周波数における基準調整データおよび定数の取得のみで、全ての駆動周波数の変動に対応する調整データを取得できる。その結果、本装置5Bは、インバータによる流量制御により駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持し、軸受32,33の摩耗状態を正確に監視できる。すなわち、本装置5Bは、インバータによる流量制御に対応できる。
【0184】
なお、本発明において、本装置5Bは、第2実施形態のようにFFT処理により駆動周波数を取得していてもよい。
【0185】
●その他の実施形態●
なお、以上説明した各実施形態において、本発明が実施可能であれば、検出コイルC1~C8の数は「8」に限定されない。
【0186】
また、以上説明した第1および第2実施形態において、本装置5,5Aは、記憶部55ではなく、外部のハンディ機器から赤外線などの通信回線を介して、調整データを取得していてもよい。
【0187】
さらに、以上説明した各実施形態において、制御部54,54A,54Bは、CPU54aに代えて、DSP(Digital Signal Processor)やMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサにより構成されていてもよい。
【0188】
さらにまた、以上説明した各実施形態において、本方法は、制御部5,5A,5Bにより実行されていた。これに代えて、本方法の一部(例えば、摩耗量検出処理(S1))は、本装置5,5A,5Bに接続されている外部装置(例えば、コンピュータなど)により実行されていてもよい。
【0189】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様について、各実施形態において記載された用語と符号とを援用しつつ、以下に記載する。
【0190】
本発明の第1の実施態様は、キャンドモータポンプ(例えば、キャンドモータポンプ1)のモータ(例えば、モータ部3)のステータ(例えば、ステータ37)に対するロータ(例えば、ロータ36)の機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイル(例えば、検出コイルC1~C8)を用いて検出することにより、前記ロータの回転軸(例えば、回転軸31)を支持する軸受(例えば、軸受32,33)の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置(例えば、本装置5,5A,5B)であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル(例えば、検出コイルC2,C4,C6,C8)を含み、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号(例えば、合成信号(C2C4))と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号(例えば、合成信号(C6C8))と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部(例えば、摩耗量検出部543)と、前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得部(例えば、周波数取得部541,548)と、取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得部(例えば、データ取得部542,549)と、取得された前記調整データに基づいて、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように、前記差分の算出に用いられる前記合成信号にオフセット処理を実行するオフセット処理部(例えば、オフセット処理部57)と、を有してなる、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、運転中または稼働時に駆動周波数が変更されても、自動的に駆動周波数および調整データを取得し、駆動周波数に応じたオフセット処理を実行できる。すなわち、本装置は、駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持できる。
【0191】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記周波数取得部は、前記ステータに対する前記ロータの状態(例えば、回転方向、位置変化)を検出するために取得される状態信号(例えば、パルス信号、検出信号)に基づいて、前記駆動周波数を取得する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、駆動周波数を取得するための特別な信号、配線、または部品を用いることなく、駆動周波数を取得できる。
【0192】
本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様において、前記モータ用の3相交流電源の第1相と第2相および前記第2相と第3相の各線間それぞれに接続され、各線間の電圧に対応すると共に前記回転軸の回転方向の検出に用いられるパルス信号を生成するパルス信号生成部(例えば、パルス信号生成部52)と、所定の単位時間あたりの前記パルス信号のパルス数をカウントするパルスカウンタ(例えば、パルスカウンタ540)と、を有してなり、前記周波数取得部(例えば、周波数取得部541)は、前記状態信号である前記パルス信号の前記パルス数に基づいて、前記駆動周波数を取得する、モータ軸受摩耗監視装置(例えば、本装置5,5B)である。
この構成によれば、本装置は、既存装置において物理的な構成を変更することなく容易に実現することができる。
【0193】
本発明の第4の実施態様は、第2の実施態様において、前記検出信号は、前記駆動周波数に基づく基本波成分と、前記ロータの回転に基づく高調波成分と、を含み、前記周波数取得部(例えば、周波数取得部548)は、前記状態信号である前記検出信号の前記基本波成分および/または前記高調波成分に基づいて、前記駆動周波数を取得する、モータ軸受摩耗監視装置(例えば、本装置5A,5B)である。
この構成によれば、本装置は、駆動周波数を取得するための特別な信号を用いることなく、正確な駆動周波数を取得できる。
【0194】
本発明の第5の実施態様は、第4の実施態様において、複数の前記検出コイルのうち、一組となる前記検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号(例えば、合成信号(C2C4))に対して高速フーリエ変換処理を実行することにより、前記合成信号の周波数スペクトルを生成するFFT処理部(例えば、FFT処理部547)を有してなり、前記周波数取得部は、前記周波数スペクトルに基づいて、前記基本波成分または前記高調波成分を抽出する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、モータ軸受摩耗監視装置の技術分野では通常用いられないFFT処理を実行するための構成を用いることにより、容易に正確な駆動周波数を取得できる。
【0195】
本発明の第6の実施態様は、第1乃至第5のいずれかの実施態様において、前記駆動周波数ごとに、前記駆動周波数と、前記駆動周波数に対応する前記調整データと、を関連付けて記憶する記憶部(例えば、記憶部55)を有してなり、前記データ取得部(例えば、データ取得部542)は、前記駆動周波数に基づいて、前記記憶部から前記駆動周波数に対応する前記調整データを取得する、モータ軸受摩耗監視装置(例えば、本装置5,5A)である。
この構成によれば、本装置は、駆動周波数を取得するだけで、駆動周波数に対応する正確な調整データを容易に取得できる。
【0196】
本発明の第7の実施態様は、第1乃至第5のいずれかの実施態様において、前記駆動周波数に対応する前記調整データの算出に用いられる関数および定数を記憶する記憶部(例えば、55B)を有してなり、前記データ取得部(例えば、データ取得部549)は、前記駆動周波数、前記関数、および前記定数に基づいて、前記駆動周波数に対応する前記調整データを取得する、モータ軸受摩耗監視装置(例えば、本装置5B)である。
この構成によれば、本装置は、1つの駆動周波数における基準調整データおよび定数の取得のみで、全ての駆動周波数の変動に対応する調整データを取得できる。
【0197】
本発明の第8の実施態様は、第1の実施態様において、前記オフセット処理部は、前記調整データに基づいてオフセット信号(例えば、オフセット電圧)を生成し、前記オフセット信号を用いて前記オフセット処理を実行する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、駆動周波数に対応するオフセット情報に基づいて、容易にオフセット電圧を生成し、オフセット処理を実行できる。
【0198】
本発明の第9の実施態様は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置の調整方法(例えば、周波数取得処理(S1,S5)、調整処理(S2,S6)、摩耗量検出処理(S3))であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する4つのスラスト検出コイルを含み、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出ステップ(例えば、処理S31)と、前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得ステップ(例えば、処理S12,S52)と、取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得ステップ(例えば、処理S22,S62)と、取得された前記調整データに基づいて、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように、前記差分の算出に用いられる前記合成信号にオフセット処理を実行するオフセット処理ステップ(例えば、処理S26,S66)と、を含む、モータ軸受摩耗監視装置の調整方法である。
この構成によれば、本装置は、運転中または稼働時に駆動周波数が変更されても、自動的に駆動周波数および調整データを取得し、駆動周波数に応じたオフセット処理を実行できる。すなわち、本装置は、駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持できる。
【0199】
本発明の第10の実施態様は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置が備えるプロセッサに実行されるプログラム(例えば、本プログラム)であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記磁束変化を示す検出信号を出力し、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す前記検出信号を出力する複数のスラスト検出コイルを含み、前記プロセッサを、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された合成信号と、の差分に基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部、前記モータの駆動周波数を取得する周波数取得部、取得された前記駆動周波数に基づいて、前記駆動周波数に対応する調整データを取得するデータ取得部、および、前記差分が前記駆動周波数に対応する前記摩耗量を示すように前記差分の算出に用いられる前記合成信号に実行されるオフセット処理に用いられるオフセット情報を、前記調整データから抽出するデータ抽出部、として機能させる、プログラムである。
この構成によれば、本装置は、運転中または稼働時に駆動周波数が変更されても、自動的に駆動周波数および調整データを取得し、駆動周波数に応じたオフセット処理を実行できる。すなわち、本装置は、駆動周波数が変更されても、人的な機械操作を介在させることなく検出精度を維持できる。
【符号の説明】
【0200】
1 キャンドモータポンプ
3 モータ部
31 回転軸
32 軸受
33 軸受
36 ロータ
37 ステータ
5 モータ軸受摩耗監視装置
52 パルス信号生成部
540 パルスカウンタ
541 周波数取得部
542 データ取得部
543 摩耗量検出部
55 記憶部
57 オフセット処理部
5A モータ軸受摩耗監視装置
547 FFT処理部
548 周波数取得部
5B モータ軸受摩耗監視装置
549 データ取得部
55B 記憶部
C1~C8 検出コイル