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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172756
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】EV管理システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/32 20060101AFI20231129BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20231129BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231129BHJP
   B60L 58/16 20190101ALI20231129BHJP
   B60L 55/00 20190101ALI20231129BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20231129BHJP
   B60L 53/67 20190101ALI20231129BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231129BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H02J3/32
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L58/16
B60L55/00
B60L3/00 S
B60L53/67
H02J7/00 P
H02J7/00 X
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084785
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山内 晋
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AC09
5G064CB08
5G064CB12
5G064DA11
5G066HA13
5G066HA15
5G066HB09
5G066JA01
5G066JB03
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503DA07
5G503EA05
5G503FA06
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF27
5H125AA03
5H125AC12
5H125AC22
5H125BC09
5H125BC18
5H125BC24
5H125BE01
5H125EE25
5H125EE27
5H125EE29
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】EVの車両活用及びV2X活用を考慮したEV管理を的確に遂行可能なEV管理システムを提供する。
【解決手段】EV管理システム1は、電池が搭載されたEV13の稼働履歴に係る情報、及び実測値に基づく電池劣化度に係る情報を取得する情報取得部と、EV稼働履歴に係る情報、及び電池劣化度に係る情報に基づいて、EV13が予め設定された車両寿命に到達した際の電池劣化度を推定する保証特性推定部21と、保証特性推定部21による推定結果に基づいて、EV13が車両寿命に到達するまでの充放電容量である車両寿命到達残容量、及び電池19が電池寿命に到達するまでの充放電容量である生涯寿命残容量を算出すると共に、車両寿命到達残容量に比べて生涯寿命残容量の方が大きい場合に、電池19の余力容量の演算を行う活用余力演算部25と、活用余力演算部25による演算結果である電池19の余力容量を活用余力として出力する出力部27と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池が搭載されたEVの稼働履歴に係る情報、及び実測値に基づく電池劣化度に係る情報を取得する情報取得部と、
前記EVのEV稼働履歴に係る情報、及び前記電池劣化度に係る情報に基づいて、当該EVが予め設定された車両寿命に到達した際の電池劣化度を推定する推定部と、
前記推定部による推定結果に基づいて、当該EVが前記車両寿命に到達するまでの充放電容量である車両寿命到達残容量、及び当該電池が電池寿命に到達するまでの充放電容量である生涯寿命残容量を算出すると共に、前記車両寿命到達残容量に比べて前記生涯寿命残容量の方が大きい場合に、前記電池の余力容量の演算を行う演算部と、
当該演算部による演算結果である当該電池の余力容量を活用余力として出力する出力部と、
を備えることを特徴とするEV管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のEV管理システムであって、
前記推定部は、当該EVの車両寿命と電池寿命を一致させる保証劣化特性を推定し、
前記演算部は、前記保証劣化特性に基づく寿命判断によって、当該EVの電池寿命が車両寿命を超えている場合に、前記電池の余力容量を活用余力とみなす一方、当該EVの電池寿命が車両寿命以下である場合に、当該電池の活用余力がないとみなす
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のEV管理システムであって、
当該電池の活用余力はV2Xに活用される
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項4】
請求項3に記載のEV管理システムであって、
前記出力部は、前記V2Xに係る活用余力をインジケータに表示させる
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のEV管理システムであって、
車両寿命として予め定義した経過時間・走行距離を超えて当該EVが走行している場合、前記生涯寿命残容量と現在の充放電容量との差分である前記電池の余力容量を活用余力とみなす
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のEV管理システムであって、
前記推定部は、電池劣化度を予測するための劣化予測式を、複数のEVに係るそれぞれのEV稼働履歴及び電池劣化度を用いて補正する
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項7】
請求項6に記載のEV管理システムであって、
前記劣化予測式は、保存劣化及びサイクル劣化の予測に基づいて立てられており、
前記保存劣化の予測では、当該EVの休止期間における平均SOC、平均温度、当該休止期間における容量減少率に基づき劣化係数を決定し、
前記サイクル劣化の予測では、当該EVの稼働期間における平均温度、走行距離、V2G活用量、当該稼働期間における保存劣化の影響を差し引いた容量減少率に基づき劣化係数を補正する
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のEV管理システムであって、
前記推定部は、前記EV稼働履歴が予め定められる閾値未満である場合に、予め設定された当該電池に係る初期設定活用可能量から現在に至るまでにEV以外の用途に活用した容量を差し引いた値を前記活用余力とみなす
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項9】
請求項2に記載のEV管理システムであって、
複数のEVのうち、前記保証劣化特性と、当該EVの稼働履歴に対する電池劣化度との間隔がより大きいEVを優先的にV2X活用するようにEV管理を行う
ことを特徴とするEV管理システム。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のEV管理システムであって、
複数のEVのうち、車両寿命を超えているEVを優先的にV2X活用するようにEV管理を行う
ことを特徴とするEV管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車EVを多用途に活用するための管理を行うEV管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱炭素社会の実現に向けて、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの導入が進められている。一方で再生可能エネルギーは天候等に左右されるため、悪天候等により計画していた発電量を充足できない、つまり、需要に対する供給が不足するケースでは停電等のリスクを生じる。
【0003】
この対策として、発電量の予測精度向上、火力発電等の他の発電で不足分を補償、空調や照明、蓄電池設備等の調整可能な需要家機器でデマンドレスポンス(Demand Response:DR)を行う補償等が種々検討されている。
特に、DRの調整機器である蓄電池設備のうち、電気自動車EV(Electric Vehicle)のビークル ツウ グリッド(Vehicleto Grid:V2G)への活用が期待されている。
【0004】
特許文献1には、電動の移動体に搭載された電池を有効活用する技術が開示されている。特許文献1に係る情報処理方法では、電動の移動体の車体にかかる負荷に関する第1データを取得し、移動体に搭載される電池の稼動に関する第2データを取得し、第1データに基づいて車体の残寿命を算出し、第2データに基づいて電池の残寿命を算出し、車体の残寿命と電池の残寿命とを比較し、車体の残寿命が電池の残寿命より短い場合、移動体における電力を用いる複数の機能のうちの使用していない機能の起動及び使用している機能の性能の向上の少なくとも一方を指示する。
【0005】
特許文献1に係る情報処理方法によれば、移動体に搭載された電池の残寿命を移動体の車体の残寿命に近づけることにより、電池を無駄なく有効活用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-15038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る電池活用技術では、V2Gを含む多用途にEVを活用することは開示も示唆もされていない。そのため、特許文献1に係る電池活用技術では、V2Gを含む多用途にEVを活用することまでは到底できない。
【0008】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、V2Gを含む多用途にEVを活用可能なEV管理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解消するために、本発明に係るEV管理システムは、電池が搭載された電気自動車(EV)の稼働履歴に係る情報、及び実測値に基づく電池劣化度に係る情報を取得する情報取得部と、前記EVの稼働履歴に係る情報、及び前記電池劣化度に係る情報に基づいて、当該EVが予め設定された車両寿命に到達した際の電池劣化度を推定する推定部と、前記推定部による推定結果に基づいて、当該EVが前記車両寿命に到達するまでの充放電容量である車両寿命到達残容量、及び当該電池が電池寿命に到達するまでの充放電容量である生涯寿命残容量を算出すると共に、前記車両寿命到達残容量に比べて前記生涯寿命残容量の方が大きい場合に、前記電池の余力容量の演算を行う演算部と、当該演算部による演算結果である当該電池の余力容量を活用余力として出力する出力部と、を備えることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両寿命に影響を与えない範囲で電池の余力容量であるEVに係る活用余力を求めることができるため、EVの車両活用及びV2X活用を考慮したEV管理を的確に遂行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】EV管理装置及びEVを含むEV管理システムの構成図である。
図2】EV管理装置の内部構成を表す機能ブロック図である。
図3】EV管理装置の動作説明に供するフローチャート図である。
図4】保証劣化特性線及び複数の各EVに係る電池劣化度の関係を、経過時間を横軸として比較した説明図である。
図5】保証劣化特性線及び複数の各EVに係る電池劣化度の関係を、走行距離を横軸として比較した説明図である。
図6】充放電容量に対する電池劣化度の推移を表す説明図である。
図7】EV管理装置の出力部に備わるインジケータの表示例を表す図である。
図8】劣化予測部を活用したEV管理システムの構成図である。
図9】保存劣化予測DBのデータ構造を表す図である。
図10】サイクル劣化予測DBのデータ構造を表す図である。
図11】EV稼働履歴が短い場合にV2G活用余力演算を行う際の処理の流れを表すフローチャート図である。
図12】保証劣化特性及び管理対象となる複数のEVの走行距離を参照して優先度を選定する際の処理の流れを表すフローチャート図である。
図13】保証劣化特性線と複数の各EVの電池劣化度、経過時間での比較及び間隔算出の概念を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の複数の実施形態について、適宜図面を参照して説明する。
以下の説明は本発明の実施形態を示すものであり、本発明はこれらの説明に限定されるものではない。本発明を説明するための図面において、同一の機能を有するものには同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0013】
本発明は、V2Gに係る電力需給調整を含む多用途に電気自動車(Electric Vehicle)EV13を活用可能なEV管理システム1について開示する。EV管理システム1は、例えば、複数の商用車(EV13)を管理する工場・事業所等において、エネルギー管理を好適に遂行する役割を果たす。
EV管理システム1では、EV13が車両寿命(経過時間・走行距離に基づき設定される)に到達するまでの充放電容量である車両寿命到達残容量、及び電池19(図2参照)が電池寿命に到達するまでの充放電容量である生涯寿命残容量を算出すると共に、車両寿命到達残容量に比べて生涯寿命残容量の方が大きい場合に、EV13に係る余力容量(=生涯寿命残容量-車両寿命到達残容量)を活用余力としてV2Gに係る電力需給調整に用いる。なお、EV13に係る余力容量を活用余力として、V2G(Vehicle to Grid)と比べて適用範囲がより広範なV2X(Vehicle to Everything communication)に適用しても構わない。
これにより、例えば、EV13に係る活用余力を用いて、地域間の電力需給バランスの調整を図ることができる。
【0014】
〔実施形態1〕
本実施形態1では、EV管理システム1がEV13に係る活用余力を算出する例について説明する。
図1は、EV管理装置11及びEV13を含むEV管理システム1の構成図である。図2は、EV管理装置11の内部構成を表す機能ブロック図である。図3は、EV管理装置11の動作説明に供するフローチャート図である。
【0015】
EV管理システム1は、図1及び図2に示すように、EV管理装置11と、例えば事業所の駐車場等のスペースに置かれた複数の電気自動車EV13と、電力系統15に対して充放電可能な複数の充電器17と、を備えて構成されている。
EV管理装置11は、複数のEV13及び複数の充電器17の各情報を取得し管理する機能を有する。EV管理装置11の内部構成について、詳しくは後記する。
【0016】
図1に示す例では、EV13に対して充電器17を各1台ずつ接続する構成をとるが、充電器17:1台に対して複数のEV13を接続する構成を採用しても構わない。EV管理装置11は、充電器17との間で例えばCAN通信を行うことで各種の情報を取得する。EV13からIoT経由で情報を取得できる場合には、その手段は問わない。こうした構成により、EV管理装置11は複数のEV13の情報を取得し運用することができる。
【0017】
EV管理装置11は、図2に示すように、保証特性推定部(本発明の「情報取得部」及び「推定部」に相当する。)21と、寿命判断部(本発明の「情報取得部」の一部に相当する。23と、活用余力演算部(本発明の「演算部」に相当する。)25と、出力部27と、を備えて構成されている。
【0018】
EV管理装置11の寿命判断部23は、EV13又は充電器17経由でEV稼働履歴及び電池劣化度(SOH:電池19の健全度や劣化状態を表す指標)の情報を取得する。EV稼働履歴とは、例えば、現在までの経過時間・走行距離、平均電池温度、平均充電率(SOC)である。
SOHの値はEV13側から取得しても良いし、充電器17側が充電又は放電時の電流電圧の挙動、入出力電力とSOCの挙動から実測しても良い。
また、EV管理装置11の寿命判断部23は、充電器17経由でV2G活用履歴として充放電電力量(単位:kWh、充放電容量と呼ぶ場合がある。)の情報を取得する。
【0019】
EV管理装置11の保証特性推定部21(本発明の「情報取得部」の一部に相当する。)は、車両寿命として経過時間や使用走行距離を入力設定する。本実施形態では、車両メーカ側が保証する経過時間・走行距離を車両寿命として取り扱う。具体的には、例えば、保証年数:8年、保証走行距離:16万kmを車両寿命の例として計算する。電池19の寿命としては、容量維持率(SOHQ:電池劣化度の下位概念)60%とする。
【0020】
なお、本発明に実施形態の説明において、電池19の劣化状態を表す指標として、電池劣化度(SOH)及び容量維持率(SOHQ)を用いて説明しているが、これらの概念(SOH・SOHQ)を包括して「電池劣化度」と呼ぶ場合があることを付言しておく。
【0021】
ここで、EV管理装置11が使用する劣化式について述べる。電池19には、保存時に起こる保存劣化と充放電の回数によって起こるサイクル劣化が存在する。本実施形態1では、下記式(1)(2)(3)を採用し劣化推定を実施する。
保存劣化による容量減少率=保存劣化係数(平均電池温度・平均SOCに基づく)×√経過時間 (1)
サイクル劣化による容量減少率=サイクル劣化係数(平均電池温度に基づく)×充放電容量(kWh) (2)
容量維持率:SOHQ=100-保存劣化による容量減少率-サイクル劣化による容量減少率 (3)
【0022】
式(1)にて保存劣化による容量劣化率を演算する。保存劣化は、一般的に電池内部の負極表面に反応不活性な層(Solid-Electrolyte-Interface:SEI)が時間経過によって生成されることに由来する。そのため、経過時間の√に比例する√則で設定する。
保存劣化係数は平均電池温度・平均SOCをパラメータとして変化する係数とする。本実施形態1では、この保存劣化係数は、設計時の電池19の劣化試験によって予め設定されているものとする。
【0023】
同様に、サイクル劣化による容量減少率を式(2)にて演算する。
サイクル劣化は、保存劣化と異なり化学的な速度での劣化ではなく、充放電に伴う膨張収縮に由来する機械的な劣化が主である。そのため、必ずしも√則に従うとは限らない。本実施形態1では、これを充放電容量(kWh)による一時式とした。また、サイクル劣化係数は、平均温度をパラメータとして変化する係数とする。このサイクル劣化係数も、設計時の電池19の劣化試験によって予め設定されているものとする。
【0024】
現在の電池19に係る容量維持率の予測値は式(3)によって算出される。
EV管理装置11の保証特性推定部21は、予め設定される車両寿命と式(1)~(3)の劣化式を用いて電池19の保証劣化特性線を推定する。保証劣化特性線とは、後述する劣化式を用いて、現在の経過時間・走行距離であればSOH(電池劣化度)がいくつであれば保証を満足できる見込みであるかを判定する際の基礎として参照される特性線である。
保証劣化特性線は、本発明の「生涯寿命残容量」の概念を含む。
【0025】
実施形態1では、EV13に係る活用余力を判断する際の基準を、保証劣化特性という新規な概念を用いて定義したため、EV13に係る活用余力を簡易かつ高精度で把握することができる。
【0026】
本実施形態ではメーカ保証としているが、例えば個人所有ではなくリース形態であったり、シェアリング形態で使用される車両(EV13)であれば、メーカ保証内であっても減価償却が完了するケースも想定される。このため、任意の経過時間・走行距離を車両寿命として適宜入力設定できるものとする。
【0027】
保証特性推定部21では、下記の式(4)~(6)を仮定し係数を調整する。
保存劣化による容量減少率=保存劣化係数(電池温度・平均充電率100%)×√車両寿命経過時間(4)
サイクル劣化による容量減少率=サイクル劣化係数(電池温度)×車両寿命での充放電容量(kWh) (5)
電池寿命の容量維持率=100-保存劣化による容量減少率-サイクル劣化による容量減少率 (6)
【0028】
まず、式(4)にて車両寿命の経過時間:8年を入力し、平均SOCは100%とし、電池温度のみを変数とする。平均SOC100%とするのは、EV13は高いSOCの値に維持され保管されるケースが多いためである。
【0029】
また、式(5)にて車両寿命に到達するまでの充放電容量(kWh)をEV13の平均電費から算出し、電池温度のみを変数とする。
例えば、平均電費が10km/kWhであれば、車両寿命に到達するまでの充放電容量(本発明の「車両寿命到達残容量」に相当する。)は、160000km÷10km/kWh×2(充電及び放電を加味)から32000kWhと算出する。
【0030】
式(6)にて左辺は電池寿命の容量維持率60%として試算し、保存劣化係数とサイクル劣化係数を電池温度を変数として調整し、SOHQ60%となる値をフィッティングする。これにより、車両寿命を満たすための保証劣化特性線を算出することができる。
【0031】
EV管理装置11の寿命判断部23は、現在のSOH値と保証劣化特性線との関係比較を行う。これについて、図4及び図5を参照して説明する。
図4は、保証劣化特性線及び複数の各EV13に係るSOH(電池劣化度)の関係を、経過時間を横軸として比較した説明図である。図5は、保証劣化特性線及び複数の各EV13に係る電池劣化度の関係を、走行距離を横軸として比較した説明図である。
図4及び図5において、車両A~Dは、同一車種で経過時間、走行距離が異なる複数の車両(EV13)である。
【0032】
寿命判断部23は、車両A~Dのそれぞれについて、現在のSOH及び保証劣化特性線の関係を比較し、SOH値<保証劣化特性線の関係が成立するか否かを判断する。SOH値<保証劣化特性線の関係が成立する場合、車両寿命よりも先に電池寿命に到達してしまうおそれがある。このケースでは、当該車両(EV13)をV2G活用することはNGとなる。
なお、寿命判断部23は、車両寿命経過時間及び車両寿命充放電容量(kWh)のいずれか一方でSOH値<保証劣化特性線の関係が成立する場合に、車両寿命よりも電池寿命に先に到達するとみなして、該当する電池19のV2G活用余力を0とする。
【0033】
図4及び図5に示す例では、車両B、車両CがNG対象(活用余力=0)となる。例えば、車両Cの電池劣化度(SOHQ)は、経過時間の観点では保証劣化特性線を超えているが、走行距離に応じた充放電容量(kWh)の観点では保証劣化特性線未満である。このため、保証を満足できないおそれがあるのでV2G活用余力を0とする。
【0034】
一方、SOH値=>保証劣化特性線の関係が成立する場合、現在の使われ方では車両寿命の方が電池寿命よりも先に到達するため、電池19に活用余力があるとみなす。
この場合、活用余力演算部25は、EV13(電池19)に係る活用余力の演算を行う。
車両寿命を既に満たしている、つまり8年16万kmのいずれかを満たしている場合にも、もはや当該車両(EV13)は廃棄を待つ状態であるため、当該車両を電池19として活用しても何ら問題ない。
【0035】
図4及び図5に示す例では、車両B、車両CがOK対象(活用余力あり)となる。
なお、車両Dに関しては、走行距離が保証距離(車両寿命走行距離)を超えている状態であるため、車両としての要求を満たしている。
【0036】
活用余力演算部25は、電池劣化式を用いて車両寿命かつ電池寿命となる電池19の充放電残容量(kWh)を算出する。このため、式(1)~(3)を活用し、下記式(7)~(9)を立てる。
保存劣化による容量減少率=保存劣化係数(平均電池温度・平均SOC)×√車両寿命経過時間 (7)
サイクル劣化による容量減少率=サイクル劣化係数(平均電池温度)×(車両寿命に到達するまでの充放電容量(kWh)+充放電残容量(kWh)) (8)
電池寿命の容量維持率=100-保存劣化による容量減少率-サイクル劣化による容量減少率 (9)
【0037】
式(7)では、EV13経由で取得した電池温度・平均SOCに基づき劣化係数を策定し、車両寿命経過時間に到達した際の容量減少率を算出している。
式(8)では、EV13経由で取得した電池温度・走行距離に基づき換算される充放電容量(kWh)及びV2G活用量の和である現在までの充放電容量(kWh)と充放電残容量(kWh)の和に基づき容量減少率を算出する。
【0038】
式(9)では、電池寿命の容量維持率となる充放電残容量(kWh)を算出する。このイメージを図6に示す。図6は、充放電容量に対する電池劣化度の推移を表す説明図である。
図6に示す実線は、充放電残容量(kWh)が0の時、つまり対象車両/電池が現在の状態(劣化係数)で車両寿命の定義としている経過時間・走行距離に到達するまで走行した場合の補正前の保証劣化特性線を示している。
一方、図6に示す点線は、電池寿命の容量維持率になる充放電残容量(kWh)を足した補正後の保証劣化特性線を示している。この横軸の差分が充放電残容量(kWh)となる。車両寿命を超える車両Dに関しては、保証劣化特性線は現在までの保証劣化特性線とを表し、補正後の保証劣化特性線は、式(8)に充放電残容量(kWh)を足したのみの計算で算出する。車両寿命経過時間と車両寿命に到達するまでの充放電容量(kWh)は既に超過しているので現在値を入力して算出する。
このように構成すれば、車両寿命が到来したEV13を無駄なく利用する効果を期待することができる。
【0039】
EV管理装置11の出力部27は、図7に示すように、V2G活用余力をインジケータ29に表示する。図7は、EV管理装置11の出力部27に備わるインジケータ29の表示例を表す図である。出力部27は、インジケータ29への表示以外に、XEMS等上位のコントローラにV2G活用余力を出力しても良い。
EV管理装置11は、図7に示すように、各車両番号情報と稼働年数、走行距離、SOHQの情報、V2G活用余力を紐づけて管理することにより、車両寿命を超えた該当車両(EV13)に係るV2G活用を促進することが可能となる。
また、所要のEV13に係る活用余力を表示させることで活用余力の管理を適切に行う効果を期待することができる。
【0040】
次に、実施形態1に係るEV管理装置11の動作について、図3を参照して説明する。
図3に示すステップS1において、EV管理装置11は、EV稼働履歴、電池劣化度(SOH)、及びV2G活用履歴の情報をそれぞれ取得する。
【0041】
ステップS2において、EV管理装置11の寿命判断部23は、現在のSOH値と保証劣化特性線との関係比較を行う。
【0042】
ステップS3において、EV管理装置11の寿命判断部23は、現在のSOH値が保証劣化特性以上か否かの判定を行う。
ステップS3の判定の結果、現在のSOH値が保証劣化特性未満である場合、つまり、SOH値<保証劣化特性線の関係が成立する場合、EV管理装置11は、処理の流れをステップS4に進ませる。
一方、ステップS3の判定の結果、現在のSOH値が保証劣化特性以上である場合、つまり、SOH値=>保証劣化特性線の関係が成立する場合、EV管理装置11は、処理の流れをステップS5に進ませる。
【0043】
なお、ステップS3において、EV管理装置11の寿命判断部23は、現在のSOH値が保証劣化特性以上であるか、又は、車両寿命を超えているか否かの条件判定を行う構成を採用しても良い。
この場合、ステップS3の判定の結果、現在のSOH値が保証劣化特性未満であり、かつ、車両寿命以下である場合に、EV管理装置11は、処理の流れをステップS4に進ませる。
一方、現在のSOH値が保証劣化特性以上であるか、又は、車両寿命を超えている(いずれか一方を充足している)場合に、EV管理装置11は、処理の流れをステップS5に進ませる。
【0044】
ステップS4において、EV管理装置11の出力部27は、V2G活用余力=0(V2G活用余力なし)の情報を出力する。
【0045】
ステップS5において、EV管理装置11の活用余力演算部25は、前記した電池劣化式を用いて電池19の充放電残容量(kWh)を算出する。
【0046】
ステップS6において、EV管理装置11の出力部27は、V2G活用余力=電池の充放電残容量0(V2G活用余力あり)の情報を出力する。
その後、EV管理装置11は、一連の処理の流れを終了させる。
【0047】
〔実施形態2〕
実施形態2では劣化式自体を実測値から補正する方式について説明する。実施形態1では劣化式(1)~(3)は設計段階で固定としていたが、実際の車両(EV13)の運転環境を考慮して修正しても良い。
以下、この内容について説明する。劣化式は式(1)~(3)で変更がない場合、保存劣化係数及びサイクル劣化係数が事前の設計を要するパラメータである。これらの係数は、実環境での充放電試験環境下で事前の劣化試験結果と異なるケースがある。このため、例えば統計的なデータ解析からこれらの係数を算出することが精度向上の点で有効である。
【0048】
この構成を図8に示す。図8は、劣化予測部200を活用したEV管理システム1の構成図である。
図8に示すEV管理システム1は、基本的な構成部分は図1と同様であるが、EV管理装置11が劣化予測部200と相互に通信を行う構成が追加されている。
劣化予測部200は、保存劣化予測DB201及びサイクル劣化予測DB202を備えて構成されている。劣化予測部200は、実際には、クラウドや大型のサーバ機に実装するのが望ましい。
【0049】
保存劣化予測DB201の構成を図9に示す。図9は、保存劣化予測DBのデータ構造を表す図である。
保存劣化を示す前記式(1)に関しては、平均SOCと平均温度と時間によって保存劣化による容量減少率を算出することができる。
【0050】
従って、複数の各車両ごとの平均SOC、平均温度、時間、保存劣化による容量減少率の各情報を保存劣化予測DB201に集約することで、機械学習等の処理により保存劣化係数を算出することができる。このとき、保存劣化による容量減少率は本来サイクル劣化による容量減少率と切り分けることは困難である。
【0051】
保存劣化予測DB201を活用する場合には、入力の時点でここを切り分けておくことが重要となる。このため、例えば、走行せずに保存のみをしていた休止期間のみを抽出して保存劣化予測DB201に入力することにより精度向上を図ることができる。
【0052】
サイクル劣化予測DB202の構成を図10に示す。図10は、サイクル劣化予測DB202のデータ構造を表す図である。
サイクル劣化を示す前記式(2)に関しては、平均温度と走行距離とV2G活用量によってサイクル劣化による容量減少率を算出することができる。
【0053】
従って、複数の各車両ごとの平均温度、走行距離、V2G活用量、サイクル劣化による容量減少率の各情報をサイクル劣化予測DB202に集約することで、機械学習等の処理によりサイクル劣化係数を算出することができる。このとき、サイクル劣化による容量減少率は本来保存劣化による容量減少率と切り分けることは困難である。
【0054】
サイクル劣化予測DB202を活用する場合には、入力の時点でここを切り分けておくことが重要となる。このため、例えば、走行距離やV2G活用が多かった繁忙稼働期間のみに限定し、該当繁忙区間での保存劣化による容量減少率を差し引きサイクル劣化による容量減少率のみを抽出してサイクル劣化予測DB202に入力することにより精度向上を図ることができる。
【0055】
実施形態2では、劣化予測部200を参照して算出された保存劣化係数及びサイクル劣化係数を用いて、実施形態1と同様に、保証劣化特性線及び電池劣化式に基づいて電池充放電残容量(kWh)を算出する。
実施形態2に係るEV管理システム1によれば、劣化予測式を、複数のEV13に係るそれぞれのEV稼働履歴及び電池劣化度の情報を用いて補正するため、EV13に係る活用余力の精度向上効果を期待することができる。
【0056】
〔実施形態3〕
実施形態3では、使用履歴が少ない、つまり経過時間や走行距離が少ない車両(EV13)では、実施形態1で示した処理を変更する内容について説明する。
経過時間や走行距離が少ない場合には、劣化が進行していないため、V2Gで活用可能な活用余力にも余裕がある。また、どのような劣化推移を辿るかに関しては、ある程度の時間が経たないと把握が難しい。このため、劣化予測の精度も低下してしまう。
そこで、劣化が進行していないタイミングでは、実施形態1に示したような推定処理を行わずに、設計時に把握した固定値を活用することが望ましい。
【0057】
実施形態3に係るEV管理システム1の動作について、図11を参照して説明する。
図11は、EV稼働履歴が短い場合のV2G活用余力演算を行う際の処理の流れを表すフローチャート図である。
【0058】
図3に示すステップS1において、EV管理装置11は、EV稼働履歴、電池劣化度(SOH)、及びV2G活用履歴の情報をそれぞれ取得する。
【0059】
図11に示すステップS100において、EV管理装置11は、EV稼働履歴が予め設定される閾値未満か否かを判定する。
EV稼働履歴とは、例えば稼働年数や走行距離である。予め設定される閾値としては、例えば稼働年数:1年、又は、走行距離2万km等の、EV稼働履歴が短いとみなせる値を適宜設定すれば良い。
ステップS100の判定の結果、EV稼働履歴が予め設定される閾値以上である場合、つまり、EV稼働履歴がさほど短くない場合、EV管理装置11は、処理の流れを図3のステップS2(通常処理)に進ませる。
一方、ステップS100の判定の結果、EV稼働履歴が予め設定される閾値未満である場合、つまり、EV稼働履歴が短い場合、EV管理装置11は、処理の流れをステップS101(例外処理)に進ませる。
【0060】
ステップS100において、EV管理装置11の活用余力演算部25は、V2G活用余力を下記式(9)を用いて演算する。
V2G活用余力=初期設定V2G活用可能量-V2G活用量(9)
【0061】
初期設定V2G活用可能量とは、設計時に設定したV2Gに活用が許された量である。この値は、設計時において、任意の値に適宜設定変更可能である。
V2G活用量とは、EV13が現在までにV2Gを実施した際の充放電容量(kWh)である。このように稼働履歴が短く、劣化進行が小さく、かつ、予測精度が保てない状況では、式(9)のように例外処理を行う。
実施形態3に係るEV管理システム1によれば、EV稼働履歴が短いEV13について、車両寿命に影響しづらい未劣化の状態でのV2G活用を促進することができる。
【0062】
〔実施形態4〕
実施形態4では、管理対象として複数の車両(EV13)が存するケースにおいて、複数のEV13のうち、EV管理装置11がV2G活用する際の優先度を選定する方式について説明する。
【0063】
前提として、実施形態1~3の各方式を用いてV2G活用余力を算出したとしても、管理対象として複数のEV13が存するケースにおいて、例えば、1台分の需給調整力を要する場合に、どのEV13を優先的に使用するかを経済性要件等を考慮して的確に決定することは困難を伴う。
【0064】
これは、管理対象として複数のEV13が存するケースにおいて、仮にEV稼働履歴が短いために活用余力が大きいEVが存するとしても、車両寿命間近で廃車予定タイミングが到来する車両(EV13)が存する場合、後者を優先した方が経済的に有利である等の事情があるためである。
【0065】
こうした課題を解決するため、実施形態4に係るEV管理システム1では、管理対象として複数のEV13が存するケースにおいて、EV管理装置11がV2G活用する際の優先度を選定する新規な方式を開示する。
【0066】
図12は、保証劣化特性及び管理対象となる複数のEV13の走行距離を参照して優先度を選定する際の処理の流れを表すフローチャート図である。図12に示す処理は、図3に示すステップS6の後に行われる。
【0067】
図12に示すステップS200において、EV管理装置11は、保証劣化特性線及び管理対象となる車両(EV13)毎の電池劣化度の間隔を計算する。
これについて図13を参照して説明する。図13は、図4と同じグラフに、別の車両(EV13)4台の電池劣化度及び稼働年数をプロットしている。
【0068】
S200において言及した「間隔」とは、図13に示すように、車両E間隔300、車両F間隔301、車両G間隔302を意味する。これは、各車両(EV13)のプロット位置と、保証劣化特性線とを結ぶ最短経路の長さに相当する。この間隔が大きいほど、保証劣化特性線に対して活用余力があることを意味する。
そのため、管理対象となる複数のEV13のうち、間隔がより大きい方の車両(EV13)をV2G活用対象として優先的に選択する。これにより、V2G活用対象とすべきEV13を適切に選定することができる。
【0069】
図13に示す車両Hは車両寿命を超過しているがまだ稼働可能な(活用余力のある)車両である。ただし、同車両Hは廃車間近であるため、最優先で有効活用すべきである。
そこで、ステップS201において、EV管理装置11は、優先度の高い車両(EV13)を、車両寿命以上、間隔大の順序で決定する。
【0070】
従って、実施形態4に係る発明によれば、管理対象として複数のEV13が存するケースにおいて、EV管理装置11がV2G活用対象を選定する際の優先度として、車両寿命以上、距離大の順で適用するため、車両H、車両E、車両F、車両Gの順でV2G活用とすることができ、経済性及び利便性を一層高めることができる。
なお、本実施形態4では、図13に示す通り、横軸に経過時間をとる例をあげて説明したが、図5に示すように、走行距離を横軸にとった場合のグラフを用いて同様の処理を行っても構わない。
実施形態4に係るEV管理システム1によれば、管理対象となる複数のEV13が存するケースであっても、適切なEV13を選定する効果を期待することができる。
【0071】
〔実施形態の拡張〕
本発明に係る複数の各実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであって、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、前記した構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0072】
1 EV管理システム
11 EV管理装置
13 EV
15 電力系統
17 充電器
19 電池
21 保証特性推定部(情報取得部、及び推定部)
23 寿命判断部(情報取得部)
25 活用余力演算部(演算部)
27 出力部
29 インジケータ
200 劣化予測部
201 保存劣化予測DB
202 サイクル劣化予測DB
300 車両E間隔
301 車両F間隔
302 車両G間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13