(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172758
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ガス検知システムおよびガス検知装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20231129BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084788
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】冨士 航
(72)【発明者】
【氏名】小野田 昭
(72)【発明者】
【氏名】國定 照房
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059EE01
2G059FF01
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG08
2G059HH01
2G059JJ05
2G059JJ11
2G059JJ30
2G059KK04
2G059MM05
2G059PP04
(57)【要約】
【課題】耐久性が高く、かつ周辺環境の影響を受けにくいガスの検知を実現する技術を提供する。
【解決手段】ガス検知装置(1)は、ガス(100)の吸収波長の赤外光を光源(12)からドットアレイ状に照射しつつ撮像し、照射時の画像情報と非照射時の画像情報とからガス(100)の像の強調画像の情報をCPU(15)にて生成するガス検知システム(10)と、表示部(20)と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス漏洩の可能性がある撮像対象領域を撮像する赤外線イメージセンサと、
前記ガスの吸収波長を含む赤外光を前記撮像対象領域に照射する光源と、
前記光源からの赤外光を、前記赤外線イメージセンサの受光面において集光させる光学系と、
前記光源から前記赤外光が照射された前記撮像対象領域の画像の情報と、前記光源から前記赤外光が照射されていない前記撮像対象領域の画像の情報とを取得し、取得した前記画像の情報を参照して、前記画像中の前記ガスの像を強調した強調画像の情報を生成する画像情報処理部と、
を有する、ガス検知システム。
【請求項2】
前記光源はパルス光源または連続発振光源であり、
前記光学系は、前記撮像対象領域における前記光源からの赤外光の像をドットアレイ状の像となるように集光する照明光学系を含む、請求項1に記載のガス検知システム。
【請求項3】
前記光学系は、回折光学素子またはメタサーフェスであり、前記光源から前記撮像対象領域への出射光または前記撮像対象領域から前記赤外線イメージセンサへの入射光の光路上に配置される、請求項1に記載のガス検知システム。
【請求項4】
前記光学系は前記メタサーフェスである、請求項3に記載のガス検知システム。
【請求項5】
前記光学系は、前記光源から前記撮像対象領域への出射光の光路上に配置される、請求項3に記載のガス検知システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のガス検知システムと、前記強調画像を表示するための表示部と、を有する、ガス検知装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のガス検知システムと、前記強調画像の情報を送信するための送信部と、を有する、ガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検知システムおよびガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の異常気象による大規模災害をうけてカーボンニュートラル2050が宣言され、温室効果ガスの削減が急速に求められている。温室効果ガスとしては、二酸化炭素(CO2)の他に、変圧器に封入されている六フッ化硫黄(SF6)ガスおよび冷蔵設備に利用されている各種冷媒ガスなどが挙げられる。六フッ化硫黄ガスおよび冷媒ガスは、二酸化炭素(CO2)に比べ、数倍から3万倍近くの温室効果を有することが報告されている。
【0003】
また、近年では、化石燃料に代わるエネルギー変換ガスとして、メタンガス(CH4)およびアンモニアガス(NH3)などの火力発電プラントでの混焼燃焼発電または専焼発電が開発されている。
【0004】
上記のエネルギー変換ガスおよび温室効果ガスは、漏洩により周辺環境に与える影響が大きい。このため、ガスの漏洩を検知するシステムが求められている。ガスの検知システムには、赤外線カメラを用いる技術が知られている。
【0005】
赤外線カメラを用いるガス検知システムには、赤外光源であるレーザ点光源をガルバノミラーで二次元に走査する方法(例えば、特許文献1参照)、および、赤外光源であるレーザを、拡散レンズを透過させて当該レーザで二次元に均一に照明する方法(例えば、特許文献2参照)、が知られている。
【0006】
また、赤外線カメラを用いるガス検知システムには、背景輻射光を光源とするパッシブタイプのガス雲の画像を可視光カメラの画像上に重ねて表示させる方法(例えば、特許文献3参照)、および、背景輻射光を光源とするパッシブタイプのガス雲の画像をスナップショットタイプの検出器で検出する方法(例えば、非特許文献1参照)、が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-346796号公報
【特許文献2】特開平6-288858号公報
【特許文献3】国際公開第2019/064822号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nathan Hagen, “Survey of autonomous gas leak detection and quantification with snapshot infrared spectral imaging”, J. Opt. 22(2020), p.1-18, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような従来技術は、実用上の様々な課題を有している。たとえば、特許文献1に記載の方法では、レーザ点光源をガルバノミラーで二次元に走査するため、このような可動部を有することに起因して耐久性を高めることが困難である。また、特許文献3および非特許文献1に記載の方法は、いずれもパッシブタイプの画像を用いてガスを検知するため、検知感度が周囲の温度、風または他のガスの影響を受け易い。また、特許文献2に記載の方法では、アクティブタイプの画像とパッシブタイプの画像との撮像が切り替え可能に構成されているが、前述の特許文献3および特許文献1と同様に、周囲の環境の影響を受けやすい。このように、従来技術は、耐久性の向上、および、検知結果への周辺環境の影響軽減の観点から検討の余地が残されている。
【0010】
本発明の一態様は、耐久性が高く、かつ周辺環境の影響を受けにくいガスの検知を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るガス検知システムは、ガス漏洩の可能性がある撮像対象領域を撮像する赤外線イメージセンサと、前記ガスの吸収波長を含む赤外光を前記撮像対象領域に照射する光源と、前記光源からの赤外光を、前記赤外線イメージセンサの受光面において集光させる光学系と、前記光源から前記赤外光が照射された前記撮像対象領域の画像の情報と、前記光源から前記赤外光が照射されていない前記撮像対象領域の画像の情報とを取得し、取得した前記画像の情報を参照して、前記画像中の前記ガスの像を強調した強調画像の情報を生成する画像情報処理部と、を有する。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るガス検知装置は、上記のガス検知システムと、前記強調画像を表示するための表示部、または、強調画像の情報を送信するための送信部と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、耐久性が高く、かつ周辺環境の影響を受けにくいガスの検知を実現する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1に係るガス検知装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1における赤外光照射時の赤外線イメージセンサでの受光の様子と赤外光非照射時の赤外線イメージセンサでの受光の様子とを説明するための模式図である。
【
図3】本発明の実施形態1における撮像対象領域の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態1において生成する撮像対象領域のドットアレイのアクティブ画像の一例を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の実施形態1において生成する撮像対象領域のパッシブ画像の一例を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の実施形態1において生成する撮像対象領域の強調画像の一例を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の実施形態2における赤外光照射時の赤外線イメージセンサでの受光の様子を説明するための模式図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係るガス検知装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係るガス検知装置の構成を模式的に示す図である。
図1に示されるように、ガス検知装置1は、ガス検知システム10と表示部20とを有する。ガス検知装置1は、携帯用の装置であり、例えば作業員が持ちながら表示部20を確認できるように構成されている。
【0016】
ガス検知装置1は、検知対象のガス100を検知する装置である。通常、ガスは、赤外領域においてガス種に固有の吸収波長を有する。このようなガスとその吸収波長の例には、二酸化炭素(4.26μm)、一酸化炭素(4.7μm)、メタン(3.3μm)、アンモニア(10~11μm)、六フッ化硫黄(10.6μm)、および、フロンガスなどを含むフッ素化合物の冷媒ガス(8~9.5μm)、が含まれる。ガス100は、上記のような赤外領域に固有の吸収波長を有するガスを含む。ガス検知装置1は、撮像対象領域130内のガス100の像としてガス100を検知する。ガス検知装置1が検出する信号は、背景輻射光源120の光の信号を含む。背景輻射光源120の光の例には、当該大気中のエアロゾルと微粒子からの後方散乱光、ガス漏えい個所の背景または周囲に存在する構造物体からの反射光、および輻射光が含まれる。背景輻射光源120は、これらの種々の光の光源を仮想的に示している。
【0017】
[ガス検知システム]
ガス検知システム10は、赤外カメラ11、光源12、照明光学系13、集光光学系14およびCPU15を有する。
【0018】
赤外カメラ11は、ガス漏洩の可能性がある撮像対象領域を撮像する装置であり、当該撮像対象領域を撮像する受光素子である赤外線イメージセンサ111を有する。赤外線イメージセンサ111には、検知対象となるガスの吸収波長に応じた公知の赤外線イメージセンサを採用することができる。
【0019】
光源12は、ガスの吸収波長を含む赤外光を撮像対象領域130に照射する装置である。光源12には、赤外領域(780nm~16μm)の単色の赤外光を発光可能な赤外レーザを採用することができる。本実施形態において、光源12は、パルス光源である。パルス光源の例には、量子カスケードレーザ(QCL)および発光ダイオード(LED)が含まれる。
【0020】
照明光学系13は、光源12から撮像対象領域130への出射光の光路上に配置されており、光源12が出射する赤外光の進行を制御する光学的な構成である。照明光学系13は、光源12が出射した赤外光を撮像対象領域130にドットアレイ状に集光させるように構成されている。より詳しくは、照明光学系13は、メタサーフェスである。
【0021】
メタサーフェスとは、表面に「メタ原子」と呼ばれる誘電体柱状構造が多数配列された光学素子である。メタレンズは、ガラス板の表面に上記のメタ原子が多数配置されて構成されている。メタレンズは、微小構造によって物質の屈折率を制御する。メタレンズは、入射波長より小さいサブ波長サイズの構造体によるMie共鳴現象によって、透過する赤外光を撮像対象領域130においてドットアレイ状に集光するように拡散させる。本実施形態におけるメタサーフェスは、このように特定のパターンに赤外光を集光することから、メタレンズとも言う。メタレンズの透過光の像は、上記構造体の大きさおよび配置によって適宜に設定可能であり、メタレンズは、そのようにして光源12の出射光を撮像対象領域130においてドットアレイ状に集光させる。ドットアレイにおけるドットの配置は、画角に応じて適宜に決めることができる、画角は、赤外線イメージセンサ111におけるセンササイズと集光光学系14の焦点距離とに応じて決めることができ、当該ドットは、例えば撮像対象領域130におけるガス100の外縁を特定可能な密度で撮像対象領域130に均等に配置されるように設定され得る。
【0022】
メタレンズ(メタサーフェス)におけるサブ波長構造体は、1回のリソグラフィとエッチングによって製作することが可能である。メタレンズは、このように製造面でも優位性を有している。なお、メタレンズには、偏光分離機能のように従来レンズでは不可能な高い機能性を持たせることが可能である。
【0023】
メタレンズを屈折率の制御に採用することは、屈折レンズで屈折率を制御する場合に比べて、大幅な薄型化および軽量化が図られる。また、メタレンズは、フレネルレンズおよび回折レンズなどの従来の薄型レンズに比べ、斜入射光に対する性能の低下の抑制および射出光の偏角(曲がり角)を大きくすることが可能である。
【0024】
集光光学系14は、撮像対象領域130からの光を赤外線イメージセンサ111に集光して結像ざせるための光学要素である。集光光学系14は、例えば赤外ズームレンズであってもよい。集光光学系14は、光源12が出射する赤外光に対応している。
【0025】
このように、本実施形態では、照明光学系13のメタレンズと、集光光学系の赤外ズームレンズとが、光源12からの赤外光を、赤外線イメージセンサ111の受光面においてドットアレイ状の像となるように集光させる光学系を構成している。
【0026】
CPU15は、撮像対象領域130におけるガス100の像の強調画像の情報を生成するための画像情報処理部である。CPU15は、例えば、光源12から赤外光が照射された撮像対象領域130の画像の情報と、光源12から赤外光が照射されていない撮像対象領域130の画像の情報とを取得する画像情報取得部と、取得したそれらの画像の情報を参照して、撮像対象領域130の画像中のガス100の像を強調した強調画像の情報を生成する画像情報生成部と、生成した強調画像の情報を出力する出力部と、を機能的構成として備える。
【0027】
[表示部]
表示部20は、CPU15が生成した強調画像の情報に応じて当該強調画像を表示する装置である。表示部20は、例えば液晶表示装置である。
【0028】
[画像情報の説明]
ガス検知システム10における画像情報の取得について説明する。
図2は、本発明の実施形態1における赤外光照射時の赤外線イメージセンサでの受光の様子と赤外光非照射時の赤外線イメージセンサでの受光の様子とを説明するための模式図である。
図2の左図は、赤外光照射時における赤外線イメージセンサ111の受光面を模式的に示しており、
図2の右図は、赤外光非照射時における赤外線イメージセンサ111の受光面を模式的に示している。
図2は、受光面のうちのガス100の像の境界部を示している。赤外線イメージセンサ111の受光面には、多数の光電変換素子が配列しており、ガス100の外側に位置する光電変換素子(Pa1、Pa2)と、ガス100の内側に位置する光電変換素子(Pb1、Pb2)とが存在する。
【0029】
光源12であるパルス光源から照射された赤外光は、撮像対象領域130においてドットアレイ状に集光する。仮に、赤外線イメージセンサ111の受光面におけるすべての光電変換素子に対応する位置にドットアレイが位置するように設定されているとする。
【0030】
光源12が出射する赤外線は、ガス100の吸収波長を含むことから、光源12からの赤外光によるドットアレイ状の赤外光のうち、ガス100を照射するドット状の赤外光はガス100に吸収される。このため、ガス100の外側の光電変換素子Pa1ではドット状の赤外光が検出され、ガス100の内側の光電変換素子Pb1ではガス100に吸収され光強度が減衰したドット状の赤外光が検出される。よって、パルス光源が赤外光を出射しているときは、赤外線イメージセンサ111は、ガス100の外側でドット状の赤外光をより強く検出し、内側ではより弱く検出する。
【0031】
検出される画像は、ドットの検出の強弱に応じた画像であり、ドット画像のために解像度は低いが、照射した赤外光による像であるためにコントラストは高い。このときの画像を「アクティブ画像」とも言う。
【0032】
一方、ガス100は、背景輻射光中の吸収波長の光も吸収している。したがって、パルス光源が赤外光を出射しないときには、赤外線イメージセンサ111は、背景輻射光源120のうち、ガスの吸収波長の光がガス100に吸収された像を検出する。このため、パルス光源が赤外光を出射しないときには、
図2の右図に示されるように、ガス100の外側の光電変換素子Pa2では当該赤外光を含む背景輻射光が検出され、ガス100の内側の光電変換素子Pb2では赤外光が吸収された背景輻射光が検出される。よって、パルス光源が赤外光を出射しないときには、赤外線イメージセンサ111は、ガス100の外側で強く背景輻射光中の赤外光を検出し、内側でより弱く検出する。
【0033】
検出される画像は、撮像対象領域をそのまま撮影した画像であるために解像度は高いが、外乱および背景輻射光に影響されやすいために通常、コントラストは低い。このときの画像を「パッシブ画像」とも言う。
【0034】
[画像の生成例]
本実施形態における強調画像の情報の生成を説明する。
図3は、本発明の実施形態1における撮像対象領域の一例を模式的に示す図である。撮像対象領域130は、配管131とそれを開閉するためのバルブ132とを含む領域とする。
図3は、例えば可視光画像であり、バルブ132からガスが漏出していても、一見わからない。この撮像対象領域130をガス検知装置1で撮像する。このとき、赤外線イメージセンサ111の同軸上または、同じ画角となるように、撮影したいエリアへ光源12を向け、ガス100の吸収波長に合わせた波長の赤外光を撮像対象領域130に照射する。
【0035】
図4は、本発明の実施形態1において生成する撮像対象領域のドットアレイのアクティブ画像の一例を模式的に示す図である。ガス検知装置1で撮像対象領域130を撮像すると、パルス光源から赤外光が出射している時には、CPU15の画像情報取得部は、
図4に示されるように、ガス100の部分ではより弱く、ガス100の外側ではより強いドット画像の情報を取得する。
【0036】
図5は、本発明の実施形態1において生成する撮像対象領域のパッシブ画像の一例を模式的に示す図である。パルス光源から赤外光が照射されていない時には、CPU15の画像情報取得部は、
図5に示されるように、ガス100の部分ではより暗く、ガス100の外側ではより明るい画像の情報を取得する。なお、パッシブ画像ではガスが濃い部分ほど暗くなる。
【0037】
図6は、本発明の実施形態1において生成する撮像対象領域の強調画像の一例を模式的に示す図である。CPU15の画像情報生成部は、
図4に示されるようなアクティブ画像の情報と、
図5に示されるようなパッシブ画像の情報とを取得し、これらの情報を参照して、ガス100の像が強調されている強調画像の情報を作成する。たとえば、画像情報生成部は、画像情報取得部が取得したアクティブ画像およびパッシブ画像の画素ごとに信号値の比を求め、予め設定されている当該比の閾値に応じて当該画素におけるガス100の有無を判断する。これにより、強調画像においてガス100の外縁が明確に示される。また、画像情報生成部は、例えばガス100の部分が強調画像において特定の色で表示されるように、閾値以上の画素には特定の色の情報を付加する。これにより、強調画像においてガス100がより強調されて示される。さらに、画像情報生成部は、上記比の大きさに基づいて、比が大きいほどガス100の濃度が高いと推定し、例えばこれに対応した特定の色の情報を付加する。また、画像情報生成部は、上記比の大きさに基づいて、隣接する画素間の比の大きさの変動の大小からガス100の動きを推定し、例えばこれに対応した画像(矢印など)の情報を付加する。これにより、強調画像においてガス100の動きがより強調されて示される。
【0038】
CPU15は、生成する画像情報の画像に、当該画像おける縦方向および横方向以外に深さ方向の情報を追加することができる。深さ方向の情報の追加は、例えば画面内の距離の分布に色分けした画像をさらに重畳することによって実現可能である。深さ方向の情報の追加では、色と距離の対応関係をスケールバーで表示してもよい。また、表示部20がタッチパネルであれば、タッチパネルの操作者がペンタブレット等で指定した位置の距離(深さ方向の情報)を数値にてオーバレイ表示してもよい。
【0039】
CPU15は、予め距離を学習しておいた分類器を用いて距離の推定を行ってもよい。たとえばCPU15は、文献「RANFTL, Rene et. Al., "Vision Transformers for Dense Prediction”, 2021 IEEE/CVF International Conference on Computer Vision, 2021, p.12159-12168」に記載されているような手法を利用して、距離の推定を行ってもよい。なお、この手法で得られる距離の情報は、相対的な距離である。よって、距離のキャリブレーションを計測前に行うことが、距離の推定結果を前述の画像に反映させる観点から好ましい。
【0040】
また、別の方法として、距離ごとにマークを投影し、そのマークのピントおよびそのずれの程度から距離を推定してもよい。ピントが合っていれば、マークの領域のヒストグラムはシャープになるが、ピントがずれるにしたがってヒストグラムの形がずれブロードな形状になる。この方法では、マークの領域のヒストグラムの半値幅と、ピントが合っている距離とのズレ量との相関関係に基づいて距離を推定することができる。たとえば、予め、ヒストグラムの半値幅とピントが合っている距離とのズレ量とをテーブルとして作成し、距離の分布図を作成する。ヒストグラムの半値幅だけではマーカーがピントの合ったマーカーよりカメラから遠いのか近いのか分からない。一方、距離がカメラに近い場合は投影像が大きくなり、カメラから遠い投影像は小さな投影像になる。このことを利用してカメラと投影像の距離の分布を計測することが可能となる。
【0041】
CPU15は、画像情報生成部が生成した強調画像の情報を表示部20に送信する。表示部20は、当該情報に応じて、
図6に示されるような強調画像を表示する。
【0042】
[主な作用効果]
本実施形態のガス検知装置1は、大気中に漏れ出した可燃性ガスおよび温室効果ガスなどの特定のガスの検知を目的としたガス雲検知カメラシステムとして使用され得る。
【0043】
ガス検知装置1において、CPU15は、アクティブ画像の情報とパッシブ画像の情報とを取得し、参照して上記の強調画像の情報を作成する。強調画像は、アクティブ画像とパッシブ画像の両方の特徴(長所)を含む。そして、取得したアクティブ画像とパッシブ画像とに基づいてガスの像を強調する強調処理を行うことで、赤外線の減衰からガスの漏えいを検知することができる。よって、ガス検知装置1は、パッシブタイプのガス検知カメラによる方法などの従来の検出方法よりも、周辺環境の影響を受けにくいガスの検知が実現可能であり、高感度なガス雲の検知装置が実現される。
【0044】
ガス検知装置1は、ドットアレイを照射するための光学素子としてメタレンズ(メタサーフェス)を有している。したがって、撮像対象領域の全体に赤外線を照射する場合に比べて、光源12をより小さくすることが可能である。よって、ガス検知装置1は、小型化の観点から有利である。
【0045】
また、本実施形態では、照明光学系13がメタレンズを含む。メタレンズは、波長の半分の高さで光学素子として集光、拡散機能を発現する。このため、従来の屈折レンズまたはフレネルレンズよりも数分の一から数百分の一程度の厚さに薄型、軽量化することが可能になる。また、光学系にメタレンズを使用することによって、当該光学系に回折光学素子を用いる場合に比べて、ガスの検出限界を上げることが可能である。
【0046】
さらに、照明光学系13にメタレンズを用いることにより、撮像対象領域130を赤外光で均一に照射する場合と比較して、光のエネルギー利用効率を高くすることができる。このため、上記の場合と比較して出力が小さい光源でもより遠距離まで照明することが可能になる。本実施形態において、照射するドットの範囲は、赤外線イメージセンサ111による撮像の画角の範囲内であるが、範囲外にはみ出しても機能し得る。
【0047】
また、照明光学系13にメタレンズを用いることにより、従来技術のように点光源で二次元スキャンを行う場合に比べて、撮像時間が短く、可動部を含まないことからガス検知装置1の耐久性が高められる。
【0048】
また、本実施形態では、光源12には、パルス光源を用いてガスの吸収波長を含む赤外光を出射する。よって、アクティブ画像の情報とパッシブ画像の情報とを略同時に取得することが可能であり、短時間で明確なガス100の位置の検出が可能である。このため、ガス100の検出を高い感度で実現することが可能である。
【0049】
また、光源12がガスの吸収波長を含む赤外光を出射する。本実施形態では、ガス100に吸収されやすい波長の電磁波をガス100の漏えい個所の近傍に照射した場合、照射した電磁波はガス100に吸収され、減衰する原理が適用される。よって、水蒸気などの検出対象のガス100とは異なる他のガスの影響を低減させることが可能であり、従来よりも高感度でガス100を検出することが可能である。
【0050】
[変形例]
本実施形態における光学系では、メタレンズに代えて回折光学素子を用いてもよい。メタレンズおよび回折光学素子は、いずれも、当該光学系に要求される透過効率、赤外線イメージセンサ111の視野角、赤外線イメージセンサ111の画素数および検出対象のガスの吸収波長に基づいて適宜に設計することが可能である。メタレンズおよび回折光学素子のいずれを用いるかは、これらの要求項目に基づいて適宜に決めればよい。回折光学素子は、その凹凸の最大高さが入射する電磁波の波長の2倍以下で光学素子として集光、拡散機能を発現する。よって、回折光学素子を用いても、従来の屈折レンズまたはフレネルレンズに対して、光学系の薄型およびガス検知装置の軽量化に有利である。
【0051】
また、本実施形態における光学系は、光源12からの赤外光を、赤外線イメージセンサ111の受光面においてドットアレイ状の像となるように集光させる光学的構成であればよい。よって、メタレンズまたは回折光学素子は、照明光学系13ではなく集光光学系14に、すなわち赤外線イメージセンサ111への入射光の光路上に配置してもよい。あるいは、メタレンズまたは回折光学素子は、照明光学系13および集光光学系14の両光学系に含められていてもよい。
【0052】
また、表示部20はタッチパネルをさらに備えてもよく、ガス検知システムの入力部としての機能をさらに備えてもよい。
【0053】
また、CPU15は、強調画像の生成において、アクティブ画像とパッシブ画像との画素の比から強調画像におけるガス100の外縁を決定し、外縁の内側に該当するパッシブ画像の信号値を定数倍することによって強調画像を生成してもよい。あるいは、CPU15は、強調画像の生成において、アクティブ画像からガス100の外縁を決定し、パッシブ画像からガス100の像を生成してもよい。
【0054】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、以下の実施形態において、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0055】
本実施形態のガス検知装置は、パルス光源に代えて赤外光の連続波を発生する連続発振光源を光源12に用いる以外は、前述の実施形態1と同様の構成を有する。連続発振光源の例には、量子カスケードレーザおよびLEDが含まれる。本実施形態において、CPU15は、アクティブ画像の情報とパッシブ画像の情報とを取得する方法が異なる以外は、前述した実施形態1と同様に画像の情報を取得し、強調画像の情報を生成する。
【0056】
図7は、本発明の実施形態2における赤外光照射時の赤外線イメージセンサでの受光の様子を説明するための模式図である。赤外線イメージセンサ111の受光面に配列する光電変換素子は、幾何学的な規則性を有して、例えば市松模様の第一色の位置に、配置された第一群の光電変換素子と、市松模様の第二色の位置に配置された第二群の光電変換素子とに設定されている。第一群の光電変換素子は、メタレンズによるドットアレイ状の赤外光を受光する光電変換素子であり、第二群の光電変換素子は、メタレンズにドットアレイ状の赤外光以外の部分の光を受光する光電変換素子である。
【0057】
ガス100の外側における第一群の光電変換素子Pa1は、ドット状の赤外光を検出し、ガス100の内側における第一群の光電変換素子Pb1は、ガス100に吸収されたドット状の赤外光を検出する。よって、実施形態1と同様に、赤外線イメージセンサ111は、その受光面における幾何学的な第一の配置の領域において、アクティブ画像を撮像する。
【0058】
ガス100の外側における第二群の光電変換素子Pa2は、ドット状以外の領域の赤外光、すなわち背景輻射光中の赤外光、を検出し、ガス100の内側における第二群の光電変換素子Pb2は、ガス100に吸収された背景輻射光中の赤外光を検出する。よって、実施形態1と同様に、赤外線イメージセンサ111は、その受光面における幾何学的な第二の配置の領域において、パッシブ画像を撮像する。強調画像の生成において信号値の比を求める場合には、隣接しているなどの予め決められている対応関係にある光電変換素子Pa1と光電変換素子Pa2との間、および光電変換素子Pb1と光電変換素子Pb2との間で信号値の比を求めればよい。
【0059】
本実施形態によれば、前述した実施形態1に比べれば所定の幾何学的な配置に起因してアクティブ画像およびパッシブ画像の解像度が低下するが、アクティブ画像およびパッシブ画像の情報が同時に取得される。このように、本実施形態では、アクティブ画像の情報とパッシブ画像の情報とを同時に取得して、空間での差分に応じて強調画像を生成することが可能である。
【0060】
〔実施形態3〕
図8は、本発明の実施形態3に係るガス検知装置の構成を模式的に示す図である。
図8に示されるように、ガス検知装置2は、表示部20に代えて送信部30を有する以外は、前述した実施形態1のガス検知装置1と同様の構成を有している。ガス検知装置2は、移動体に搭載可能な装置であり、例えばドローンなどの無人航空機に搭載され、取得した画像を、別途待機している作業員に送信するように構成されている。送信部30には、取得した画像の情報を無線で送信可能な公知の機器を採用することができる。
【0061】
本実施形態によれば、高所または作業員の進入が規制される場所でも、実施形態1と同様のガスの検知が可能である。また、無人でもガスの検知が可能になるため、自動的なガス検知のシステムにも適用可能である。
【0062】
〔ソフトウェアによる実現例〕
CPU15(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(前述した画像情報取得部および画像情報生成部など)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0063】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0064】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0065】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0066】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。たとえば、上記の実施形態において、撮像時における光学系の条件の決定、および、強調画像の情報の生成、をAIに実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0067】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0068】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の第一の態様におけるガス検知システム(10)は、ガス漏洩の可能性がある撮像対象領域(130)を撮像する赤外線イメージセンサ(111)と、ガスの吸収波長を含む赤外光を撮像対象領域に照射する光源(12)と、光源からの赤外光を、赤外線イメージセンサの受光面において集光させる光学系(照明光学系13)と、光源から赤外光が照射された撮像対象領域の画像の情報と、光源から赤外光が照射されていない撮像対象領域の画像の情報とを取得し、取得した画像の情報を参照して、画像中のガスの像を強調した強調画像の情報を生成する画像情報処理部(CPU15)と、を有する。第一の態様によれば、耐久性が高く、かつ周辺環境の影響を受けにくいガスの検知を実現するガス検知システムを提供することができる。
【0069】
本発明の第二の態様におけるガス検知システムは、第一の態様において、光源がパルス光源または連続発振光源であり、光学系は、撮像対象領域における光源からの赤外光の像をドットアレイ状の像となるように集光する照明光学系を含んでもよい。この構成は、装置およびシステムの小型化の観点からより一層効果的である。
【0070】
本発明の第三の態様におけるガス検知システムは、第一または第二の態様において、光学系が回折光学素子またはメタサーフェスであり、光源から撮像対象領域への出射光または撮像対象領域から赤外線イメージセンサへの入射光の光路上に配置されてもよい。この構成は、装置およびシステムの小型化の観点からより一層効果的である。
【0071】
本発明の第四の態様におけるガス検知システムは、第三の態様において、光学系がメタサーフェスであってもよい。この構成は、装置およびシステムの小型化および高感度でのガスの検知の観点、および、ガスの検出限界を高める観点からより一層効果的である。
【0072】
本発明の第五の態様におけるガス検知システムは、第三または第四の態様において、光学系が光源から撮像対象領域への出射光の光路上に配置されてもよい。この構成は、光源の小型化による装置、システムの小型化の観点からより一層効果的である。
【0073】
本発明の第六の態様におけるガス検知装置(1)は、第一から第五の態様のいずれかのガス検知システムと、強調画像を表示するための表示部(20)と、を有する。第六の態様によれば、耐久性が高く、小型化が可能で、かつ周辺環境の影響を受けにくいガスの検知を実現するガス検知装置を提供することができる。
【0074】
本発明の第六の態様におけるガス検知装置(1)は、第一から第五の態様のいずれかのガス検知システムと、強調画像の情報を送信するための送信部(30)と、を有する。第七の態様によれば、耐久性が高く、小型化が可能で、かつ周辺環境の影響を受けにくいガスの検知を実現するガス検知装置を提供することができる。加えて、本態様は、作業員を要さない無人での作業への適用に好適である。
【0075】
本発明によれば、温室効果ガスなどの環境への影響の大きいガスの漏洩を明確に検出することが可能である。これにより、このようなガスの消費または生産のパターンの確保に関する持続可能な開発目標、および、気候変動への対策に関する持続可能な開発目標(SDGs)の達成への貢献が期待される。
【符号の説明】
【0076】
1、2 ガス検知装置
10 ガス検知システム
11 赤外カメラ
12 光源
13 照明光学系
14 集光光学系
15 CPU(画像情報処理部)
20 表示部
30 送信部
100 ガス
111 赤外線イメージセンサ
120 背景輻射光源
130 撮像対象領域
131 配管
132 バルブ
Pa1、Pa2、Pb1、Pb2 光電変換素子