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特開2023-172779研磨剤組成物、及び研磨剤組成物の製造方法
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  • 特開-研磨剤組成物、及び研磨剤組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172779
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】研磨剤組成物、及び研磨剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20231129BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20231129BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231129BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084834
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 克彦
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA04
3C158CA06
3C158CB01
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158EA11
3C158EB01
3C158EB02
3C158ED04
3C158ED10
3C158ED11
3C158ED12
3C158ED13
3C158ED26
3C158ED28
(57)【要約】
【課題】水に対する分散安定性に優れ、作業性にも優れ、かつ研磨性にも優れる研磨剤組成物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】二酸化ケイ素及びスメクタイトを含有する研磨剤組成物であって、該研磨剤組成物の固形分中、前記二酸化ケイ素の含有量が50~98質量%であり、前記スメクタイトの含有量が2~50質量%である、研磨剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素及びスメクタイトを含有する研磨剤組成物であって、該研磨剤組成物の固形分中、前記二酸化ケイ素の含有量が50~98質量%であり、前記スメクタイトの含有量が2~50質量%である、研磨剤組成物。
【請求項2】
二酸化ケイ素を20~60質量%、スメクタイトを1~20質量%、及び水を30~70質量%含有する、研磨剤組成物。
【請求項3】
前記研磨剤組成物が、粉砕された含スメクタイト鉱石を水簸精製に付して精製スメクタイトを得る過程で生じる、二酸化ケイ素を主成分とする副産物画分に由来する、請求項1又は2に記載の研磨剤組成物。
【請求項4】
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれるスメクタイトである、請求項1又は2に記載の研磨剤組成物。
【請求項5】
前記研磨剤組成物に含まれる二酸化ケイ素の平均粒子径が0.1~100μmである、請求項1又は2に記載の研磨剤組成物。
【請求項6】
粉砕した含スメクタイト鉱石を水簸精製に付して精製スメクタイトを得る過程で生じる、二酸化ケイ素を主成分とする副産物画分を回収し、該副産物画分を用いて、該副産物画分中の二酸化ケイ素を研磨成分とする研磨剤組成物を得ることを含む、研磨剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれるスメクタイトである、請求項6に記載の研磨剤組成物の製造方法。
【請求項8】
前記研磨剤組成物に含まれる二酸化ケイ素の平均粒子径が0.1~100μmである、請求項6に記載の研磨剤組成物の製造方法。
【請求項9】
前記研磨剤組成物の固形分中、前記二酸化ケイ素の含有量が50~98質量%であり、前記スメクタイトの含有量が2~50質量%である、請求項6~8のいずれか1項に記載の研磨剤組成物の製造方法。
【請求項10】
前記研磨剤組成物中、前記二酸化ケイ素の含有量が20~60質量%であり、前記スメクタイトの含有量が1~20質量%であり、前記水の含有量が30~70質量%である、請求項6~8のいずれか1項に記載の研磨剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨剤組成物、及び研磨剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研磨は、機械部品の摩擦抵抗を少なくして滑りを良くすることにより機械などの耐用年数を向上させる他、各種部品類の形状及び寸法精度を高める、美観を高める、刃物の切れを良くする、表面の異物を除去する、等の様々な目的に用いられる、産業上重要な操作である(非特許文献1)。
【0003】
研磨剤の砥粒には、適切な硬度と共に、通常は、粒度が一定の範囲内でそろっていることが求められる(非特許文献2)。このような砥粒は、一般的には、砥粒の原料となる各種材料を溶融したり、粉砕したり、篩分けしたりする煩雑な工程を経て製造されている(非特許文献3)。また、ペーストや液状で使用する場合には分散工程も必要とされ、この場合、砥粒には水等の媒体に対する分散安定性も求められる。
【0004】
一般的に研磨剤に使用される砥粒としては、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、炭酸カルシウムなどが汎用されている。これらの砥粒は、粉末のまま紙上に固定して紙やすりとして用いたり、分散剤や有機系溶剤を配合してスラリーとして用いたりされている。
また、研磨対象によっては、砥粒の材質として酸化セリウム、酸化タンタル、酸化ニオブなどのレアメタルを使用する場合もある。しかし、上記レアメタルは産出国に偏りがあり、供給リスクの問題がある。また近年のレアメタルの価格高騰を受け、レアメタルを主成分としない研磨剤の開発が進められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】吉田弘美著、“絵とき「みがき加工」基礎のきそ”、日刊工業新聞社、2012年1月、p.24~33
【非特許文献2】吉田弘美著、“絵とき「みがき加工」基礎のきそ”、日刊工業新聞社、2012年1月、p.55~57
【非特許文献3】吉田弘美著、“絵とき「みがき加工」基礎のきそ”、日刊工業新聞社、2012年1月、p.58~64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水に対する分散安定性に優れ、作業性にも優れ、かつ研磨性にも優れる研磨剤組成物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、含スメクタイト鉱石から高純度のスメクタイト成分を精製するために行う水簸工程において、副産物として得られる沈降成分が、水に対する分散安定性に優れ、研磨作業時には研磨対象(被研磨物)に対して良好に付着し、適度な滑り性も示し、かつ研磨性にも優れることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき、更に検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
二酸化ケイ素及びスメクタイトを含有する研磨剤組成物であって、該研磨剤組成物の固形分中、前記二酸化ケイ素の含有量が50~98質量%であり、前記スメクタイトの含有量が2~50質量%である、研磨剤組成物。
〔2〕
二酸化ケイ素を20~60質量%、スメクタイトを1~20質量%、及び水を30~70質量%含有する、研磨剤組成物。
〔3〕
前記研磨剤組成物が、粉砕された含スメクタイト鉱石を水簸精製に付して精製スメクタイトを得る過程で生じる、二酸化ケイ素を主成分とする副産物画分に由来する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の研磨剤組成物。
〔4〕
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれるスメクタイトである、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の研磨剤組成物。
〔5〕
前記研磨剤組成物に含まれる二酸化ケイ素の平均粒子径が0.1~100μmである、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の研磨剤組成物。
〔6〕
粉砕した含スメクタイト鉱石を水簸精製に付して精製スメクタイトを得る過程で生じる、二酸化ケイ素を主成分とする副産物画分を回収し、該副産物画分を用いて、該副産物画分中の二酸化ケイ素を研磨成分とする研磨剤組成物を得ることを含む、研磨剤組成物の製造方法。
〔7〕
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれるスメクタイトである、前記〔6〕に記載の研磨剤組成物の製造方法。
〔8〕
前記研磨剤組成物に含まれる二酸化ケイ素の平均粒子径が0.1~100μmである、前記〔6〕又は〔7〕に記載の研磨剤組成物の製造方法。
〔9〕
前記研磨剤組成物の固形分中、前記二酸化ケイ素の含有量が50~98質量%であり、前記スメクタイトの含有量が2~50質量%である、前記〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の研磨剤組成物の製造方法。
〔10〕
前記研磨剤組成物中、前記二酸化ケイ素の含有量が20~60質量%であり、前記スメクタイトの含有量が1~20質量%であり、前記水の含有量が30~70質量%である、前記〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の研磨剤組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の研磨剤組成物は、水に対する分散安定性に優れ、作業性にも優れ、かつ研磨性にも優れる。また、本発明の研磨剤組成物の製造方法によれば、粘土鉱物の精製工程で生じる副産物画分から研磨剤組成物を得ることができる。したがって、本発明の研磨剤組成物の製造方法は、資源の有効利用に資するものであり、優れた研磨性を示す研磨剤の安価かつ安定的な供給を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の研磨剤組成物でステンレス製の流し台を研磨した際の様子を示す、図面代用写真である。図1において、破線で囲われた範囲が研磨をかけた範囲である。
図2図2は、本発明の研磨剤組成物でシルバーアクセサリーを研磨した際の様子を示す、図面代用写真である。
図3図3は、スメクタイト鉱石から精製スメクタイトを製造する工程、及び副産物画分を得る工程の一例を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0012】
[研磨剤組成物]
本発明の研磨剤組成物は、二酸化ケイ素とスメクタイトとをそれぞれ特定量で含有する組成物である。本発明の研磨剤組成物は、乾燥物であってもよく、水等の媒体を含んでもよい。本発明の研磨剤組成物の構成成分について下記に説明する。
【0013】
(二酸化ケイ素)
本発明の研磨剤組成物において、二酸化ケイ素は砥粒として機能する。前記二酸化ケイ素は化学的に不活性であり、概して安全性が高いものである。本発明に用いられる二酸化ケイ素は、非晶性(アモルファス)の二酸化ケイ素であってもよく、結晶性の二酸化ケイ素であっても良い。また本発明に用いられる二酸化ケイ素を、非晶性の二酸化ケイ素と結晶性の二酸化ケイ素の混合物としてもよい。
例えば非晶性の二酸化ケイ素は、より安全に使用ができる等の利点がある。また、結晶性の二酸化ケイ素(結晶性シリカ)は硬度が高く(酸化セリウムと同程度のモース硬度を有する)、硬い物を研磨対象としても良好な研磨性を示すことができる。
【0014】
前記結晶性の二酸化ケイ素として、例えば、石英(クオーツ)の他、トリディマイト、クリストバライト、コーサイト、スティショバイト、キータイト、モガン石、ザイフェルト石、メラノフログ石などが挙げられる。
【0015】
本発明の研磨剤組成物を構成する二酸化ケイ素は、含スメクタイト鉱石由来の二酸化ケイ素であってもよいし、精製品や市販品由来の二酸化ケイ素であってもよい。
市販品の一例として、例えば石英粉末(型番:SI008BP、平均粒子径:4μm、高純度化学研究所製)や、非晶性二酸化ケイ素粉末(型番:37049-01、平均粒子径:8μm、関東化学株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明の研磨剤組成物は、粗い研磨から、精密な研磨まで幅広い用途に用いることができる。砥粒である二酸化ケイ素の粒子径は、目的に応じて適宜設定することができる。研磨剤組成物を水分散体やペーストとして使用した際の沈降防止の観点などを考慮すると、前記二酸化ケイ素の平均粒子径(平均一次粒子径)は、本発明の研磨剤組成物に含まれるスメクタイトの平均粒子径よりも大きいことが好ましい。前記二酸化ケイ素の平均粒子径は、0.1~100μmであることが好ましく、0.5~50μmとすることもでき、2~30μmとすることもできる。また、粒子径が100μm以上の二酸化ケイ素が含まれていないことが好ましく、粒子径が50μm以上の二酸化ケイ素を含まない形態としてもよく、粒子径が30μm以上の二酸化ケイ素を含まない形態としてもよい。
前記二酸化ケイ素の粒度分布におけるピークは1つでもよく、複数のピークを有してもよい。研磨状態の均一性の観点からは、粒度分布におけるピークは1つであることが好ましい。また、前記二酸化ケイ素の粒度分布は、一定の狭い範囲内に分布していることが好ましい。
例えば、本発明の研磨剤組成物を鏡面仕上げの用途に用いる場合には、前記二酸化ケイ素の平均粒子径を0.1μm以上15μm未満とすることが好ましい。また、本発明の研磨剤組成物を鏡面仕上げの用途に用いる場合には、前記二酸化ケイ素の粒度分布において、粒度分布のピークが、粒子径が15μm未満の範囲に1つ以上(好ましくは1つ)であり、かつ粒子径が15μm以上の粗大粒子を含まないことが好ましい。前記粒度分布におけるピークが複数あり、かつ粒子径が15μm以上の粗大粒子を含む場合には、当該ピークが粒子径15μm未満の範囲に1つ以上あり、粒子径15μm以上の範囲にはピークは存在しないことが好ましい。あるいは、当該ピークが粒子径15μm未満の範囲に1つ以上と粒子径15μm以上の範囲に1つ以上あり、粒子径15μm以上のピークのピーク頻度値(%、ピークトップの値(%)を意味する。)の最大値が、粒子径15μm未満のピークのピーク頻度値(%)の最大値の1/5以下であることが好ましい。
なお本発明において、水分散体中の前記二酸化ケイ素の「平均粒子径」とは、体積基準のメディアン径である。この平均粒子径や粒子径は、例えばレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0017】
(スメクタイト)
本発明の研磨剤組成物が水を含むペーストやスラリー等である場合、スメクタイトは二酸化ケイ素の分散剤、沈降防止剤の他増粘剤等として機能する。また、スメクタイトは研磨作業時の滑り剤として、また、イオンや電荷を持つ成分の吸着材として機能し、さらに低硬度の砥粒等として機能する。
また、本発明の研磨剤組成物が乾燥物であり、乾燥した状態で研磨に用いる場合、スメクタイトは砥粒同士の結着材や、砥粒とサンドペーパー基材との結着剤として機能する。また、砥石形状で使用する場合、スメクタイトは粘結剤等として機能する。
【0018】
本発明の研磨剤組成物を構成するスメクタイトの種類は特に限定されず、天然スメクタイトや合成スメクタイトを適宜用いることができる。スメクタイトそれ自体は公知であり、市販もされている。本発明の研磨剤組成物が、後述のように、含スメクタイト鉱石から水簸精製を経て得られる場合、当該研磨剤組成物に含まれるスメクタイトは含スメクタイト鉱石由来の天然スメクタイトである。なお、本発明ないし本明細書において、「含スメクタイト鉱石」とは、スメクタイトを含む鉱石を意味し、通常はスメクタイト以外の成分を一定量含むものである。例えばベントナイト原鉱は、スメクタイトとしてモンモリロナイトを含む含スメクタイト鉱石である。
前記スメクタイトは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。また前記スメクタイトが天然スメクタイトである場合には、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いるスメクタイトの層間陽イオン種は特に制限がない。水分散体や水分散ペーストとして使用する際に水膨潤が容易である観点から、1価の金属イオンであることが好ましく、リチウムイオン及び/又はナトリウムイオンであることがより好ましい。
また、前記スメクタイトの陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)は、水分散時の膨潤性を向上させる観点から、20meq(ミリ当量)/100g以上が好ましく、25meq/100g以上がより好ましく、30meq/100g以上がさらに好ましい。また通常、本発明に用いるスメクタイトの陽イオン交換容量は250meq/100g以下である。
【0020】
本発明において「スメクタイト」と言う場合、微粒子状のスメクタイトを意味する。より具体的には、前記スメクタイトは、平均粒子径(平均一次粒子径)が20~500nmであることが好ましく、30~400nmであることがより好ましく、40~380nmであることがさらに好ましく、50~370nmであることが特に好ましい。前記スメクタイトの平均粒子径を上記好ましい範囲内とすることにより、例えば、本発明の研磨剤組成物を水分散体として用いる場合に、良好な増粘性、被研磨物に対する付着性、研磨の際の滑り性等を付与することができる。
本発明において水分散体中の前記スメクタイトの「平均粒子径」とは、体積基準のメディアン径である。この平均粒子径は、例えばレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0021】
(水)
本発明の研磨剤組成物は、上述の通り水を含有してもよい。また、本発明の研磨剤組成物は、前記二酸化ケイ素とスメクタイトとが、水に分散した分散体(スラリー)であってもよい。使用する水に特に制限はなく、水道水でもよく、蒸留水やイオン交換水等の精製水でもよい。前記水は、スメクタイトの剥離膨潤を迅速に行う観点、及び粘度上昇や沈降防止の観点から、水中のイオンが除去された精製水であることが特に好ましい。この場合、水のイオン伝導度が10μS/m以下が好ましく、5μS/m以下がより好ましく、2μS/m以下がさらに好ましい。
【0022】
(その他の成分)
本発明の研磨剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでもよい。例えば、分散剤、界面活性剤、消泡剤、湿潤剤、高分子材料、結着剤、滑沢剤などの公知慣用の添加材を用いてもよい。更に、研磨性を高めるために他の砥粒成分を含んでもよい。例えば、アランダム、ホワイトアランダムなどの酸化アルミニウム系化合物、酸化セリウム、酸化鉄、酸化タンタル、酸化ニオブなどの酸化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ケイ素などの炭化物、ダイヤモンド、タングステンなどの硬度の高い単体元素などを添加して用いてもよい。
本発明の研磨剤組成物は、スメクタイトを含有することにより水等への分散安定性に優れる。したがって、有機系の分散剤や溶剤を配合しない形態とすることができ、この場合には、研磨後に研磨対象を水洗いすれば、研磨対象から研磨剤組成物を容易に除去することができる。
【0023】
本発明の研磨剤組成物を、後述のように、含スメクタイト鉱石を水簸精製に付したときの副産物画分を用いて製造する場合には、夾雑成分として頁岩、マイカ類、長石、カルサイト、パイライト、ゼオライト、カオリン、イライトなどが含まれうる。本発明の研磨剤組成物は、これらの夾雑成分を本発明の研磨剤組成物の効果を妨げない範囲内で含有していてもよい。この場合、本発明の研磨剤組成物に含まれる二酸化ケイ素の含有量100質量部に対し、前記夾雑成分の含有量が50質量部以下であることが好ましい。
【0024】
(各成分の含有量)
本発明の研磨剤組成物の固形分(液媒体以外の成分)中の二酸化ケイ素の含有量は50~98質量%である。研磨性の向上の観点から、前記二酸化ケイ素の含有量は70~97質量%であることが好ましく、80~95質量%であることがさらに好ましい。
また本発明の研磨剤組成物の固形分中のスメクタイトの含有量は2~50質量%である。研磨性の向上の観点、水に分散させた際に二酸化ケイ素の沈降を防止して分散安定性を向上する観点、被研磨物への付着性、及び研磨液の滑り性の向上の観点から、前記スメクタイトの含有量は3~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明の研磨剤組成物が水を含む場合、当該研磨剤組成物中の水の含有量は30~70質量%である。分散安定性、作業性、及び研磨対象への付着性の観点から、当該水の含有量は35~65質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。
また、本発明の研磨剤組成物が水を含む場合、当該研磨剤組成物中の二酸化ケイ素の含有量は20~60質量%であり、25~55質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがより好ましい。また、本発明の研磨剤組成物が水を含む場合、当該研磨剤組成物中のスメクタイトの含有量は1~20質量%であり、1.5~15質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明の研磨剤組成物の研磨対象は特に限定されない。例えば、ステンレス、鉄、鋼、銅、アルミなどの金属や、ガラス、シリコン、及び石材等を、本発明の研磨剤組成物を用いた研磨処理における研磨対象とすることができる。
例えば、本発明の研磨剤組成物に水を含ませた状態でステンレス製の流し台を研磨した場合には、図1に示すように流し台の錆びや水垢を効果的に除去し、ステンレスの光沢を回復させることができる。また、本発明の研磨剤組成物に水を含ませた状態でシルバーアクセサリーを研磨した場合には、図2に示すようにアクセサリー表面の黒ずみを効果的に除去することができる。
【0027】
[研磨加工の種類]
本発明の研磨剤組成物を用いた研磨方法は特に限定されず、例えば研磨布紙加工、砥石研磨、ラッピング研磨、ポリシング研磨、バレル研磨等の用途に用いることができる。
【0028】
[研磨剤組成物の製造方法]
本発明の研磨剤組成物は、上記の各構成成分を混合することによって得ることができる。
また、ベントナイト原鉱等の含スメクタイト鉱石を水簸精製に付して精製スメクタイトを得る過程において生じる副産物画分(水簸精製副産物画分、スラッジ)を、本発明の研磨剤組成物ないしその原料として回収し、本発明の研磨剤組成物を得ることもできる。
【0029】
(水簸精製副産物画分を利用した研磨剤組成物の製造方法)
水簸とは、固体粒子の水中における沈降速度差を利用して、固体粒子を分級する方法である。この時の沈降速度はストークスの式により記述される。なお本発明において、水簸精製(水簸工程)における固体粒子の沈降は、自然沈降であってもよく、遠心分離等による沈降であってもよい。
水簸によりスメクタイト鉱石からスメクタイトを精製する場合、含スメクタイト鉱石に多量の水を加えて攪拌し、上澄みの液成分を回収して乾燥させることにより、比重が軽く水膨潤しやすいスメクタイトを精製することができる。一方で、この水簸精製過程では、スメクタイトよりも比重の重い沈降成分(副産物画分)が発生する。この副産物画分を回収し、本発明の研磨剤組成物ないしその原料とすることができる。水簸により含スメクタイト鉱石から精製スメクタイトを得る方法自体は公知である。水簸によりスメクタイト鉱石から精製スメクタイト及び副産物画分を得る工程の一例について、そのフロー図を図3に示す。
【0030】
前記副産物画分は、水簸精製を1回行った後に回収してもよく、水簸精製を複数回(好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上)行った後に回収してもよい。水簸精製を複数回行うことにより、得られる沈降成分の粒度や比重が均一化する。その結果、粒度分布が狭く、純度が高い画分を得ことができる。また、自然沈降により、あるいは、おだやかな遠心分離により沈降した比較的比重の大きな画分については除去し、その後、より厳しい遠心分離条件で沈降した副産物画分を、本発明の研磨剤組成物ないしその原料とすることもできる。このような副産物画分は、粒子径が比較的小さく粒度分布が狭いものである。
上記の副産物画分は、そのまま本発明の研磨剤組成物とすることができる。また、上記の副産物画分を所望の処理、例えば、乾燥処理、分級処理、遠心分離処理等に付して、本発明の研磨剤組成物とすることもできる。本発明において研磨剤組成物が「副産物画分に由来する」とは、これらの両形態を包含する意味である。
【0031】
上記の水簸精製では、比重が近い粒子や、強固に相互作用(結合)した成分の分離が困難である。したがって、得られる副産物画分には、必然的に、ある程度の割合でスメクタイトが含まれる。
【0032】
本発明の研磨剤組成物を上記の水簸精製による副産物画分から得る場合、得られる研磨剤組成物は、研磨性に優れ、さらに粗大粒子の混雑も効果的に抑えることができる。
また、水簸精製では水分散処理を長時間行うため、研磨剤成分である二酸化ケイ素とスメクタイトとの相互作用が強くなると予想される。この相互作用の結果、研磨砥粒である二酸化ケイ素が安定的に分散された状態となり、研磨性、保存安定性(分散安定性)、研磨剤の滑り性等に、より優れた研磨剤組成物を得ることができる。
【0033】
このように、本発明は一実施形態において、次の研磨剤組成物の製造方法を提供するものである。
【0034】
粉砕した含スメクタイト鉱石を水簸精製に付して精製スメクタイトを得る過程で生じる、二酸化ケイ素を主成分とする副産物画分を回収し、該副産物画分を用いて、該副産物画分中の二酸化ケイ素を研磨成分とする研磨剤組成物を得ることを含む、研磨剤組成物の製造方法。
【0035】
上記製造方法によれば、従来は廃棄処分されていた副産物画分を、研磨剤組成物として有効利用することができる。それゆえ資源の有効利用に資するものであり、優れた研磨性を示す研磨剤の安価かつ安定的な供給を可能とするものである。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
山形県月布産のベントナイト原鉱をクラッシングロールにより粉砕し、得られた粗粉砕原鉱3質量部に対して水道水を27質量部加えて24時間静置し、ベントナイト原鉱を膨潤させた。次いで撹拌機を用いて30分間攪拌後、20時間静置し、次いで粗大な沈殿物をデカンテーションにより除去した。得られた上澄み液を遠心分離機(条件:8000×g、15分間)により更に分離し、上澄み部分を除いたあとのペースト状の沈降成分を回収し、研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の通り成分組成を分析し、また物性試験を行った。
【0038】
(実施例2)
山形県月布産のベントナイト原鉱に代えて新潟県三川産ベントナイト原鉱を用いた以外は、実施例1と同様にしてペースト状の沈降成分を回収し、研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の通り成分組成を分析し、また物性試験を行った。
【0039】
(実施例3)
石英粉末(型番:SI008BP、平均粒子径:4μm、高純度化学研究所製;以下、当該石英粉末を「石英(試薬)」とも称する。)18質量部に対し、蒸留水を20質量部加えてスターラーで1時間攪拌した。さらに、精製モンモリロナイト(商品名:クニピアF、平均粒子径:300nm、クニミネ工業社製)を2質量部加え、自公転ミキサー(あわとり練太郎ARE-310、シンキー社製)を用い、2000rpm攪拌モードで10分間撹拌混合した。得られたペースト状の分散体を研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の通り物性試験を行った。
【0040】
(実施例4)
石英粉末に代えて非晶性二酸化ケイ素粉末(型番:37049-01、平均粒子径:8μm、関東化学株式会社製)を用いた以外は、実施例3と同様にしてペースト状の分散体を得て、これを研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の通り物性試験を行った。
【0041】
(比較例1)
精製モンモリロナイトに代えてカチオン性界面活性剤である(商品名:リポソカード C/25、成分名:塩化ポリオキシエチレンヤシアルキルメチルアンモニウム、ライオン社製)を用いた以外は、実施例3と同様にして液状の分散体を得て、これを研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の通り物性試験を行った。
【0042】
(比較例2)
蒸留水21質量部に対し、セルロース系化合物(商品名:メトローズ(登録商標)HE、化学名:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、粘度グレード:30000、信越化学工業社製)を1質量部加え、自公転ミキサー(あわとり練太郎ARE-310、シンキー社製)を用い、2000rpm攪拌モードで10分間撹拌混合することにより粘調な分散体を得た。得られた分散体に対し、石英粉末(型番:SI008BP、平均粒子径:4μm、高純度化学研究所製)を18質量部加え、再度自公転ミキサーで前記と同条件で撹拌混合を行うことにより粘調な分散体を得て、これを研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の物性試験を行った。
【0043】
(比較例3)
石英粉末(型番:SI008BP、平均粒子径:4μm、高純度化学研究所製)20質量部に対し、蒸留水を20質量部加えてスターラーで1時間攪拌した。その後、さらに自公転ミキサー(あわとり練太郎ARE-310、シンキー社製)を用い、2000rpm攪拌モードで10分間撹拌混合した。得られた液状の分散体を研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の通り物性試験を行った。
【0044】
(比較例4)
石英粉末に代えて非晶性二酸化ケイ素粉末(型番:37049-01、平均粒子径:8μm、関東化学社製)を用いた以外は、比較例3と同様にして液状の分散体を得て、これを研磨剤組成物とした。
得られた研磨剤組成物について、下記の通り物性試験を行った。
【0045】
[成分組成の分析]
実施例1及び2の研磨剤組成物について、下記の方法で組成分析を行った。結果を表1に示す。なお、実施例3及び4、並びに比較例1~4の研磨剤組成物の成分組成は、配合量より算出した。併せて表1に示す。
【0046】
(含水率)
日本産業規格JIS A 1125:2015に準拠した105℃乾燥減量法により研磨剤組成物中の含水率(質量%)を測定した。
【0047】
(スメクタイト含有量)
メチレンブルーが粘土層間に特異的に吸着するという性質を利用し、精製スメクタイト粉末と、実施例1及び2の研磨剤組成物の乾燥粉末とに対し、メチレンブルーの吸着量をそれぞれ測定することにより、実施例1及び2の研磨剤組成物中のスメクタイト量を下記の通り算出した。
スメクタイトのメチレンブルー吸着量の測定は、日本ベントナイト工業会の規格であるJBAS-107-77法(ろ紙法)に準じて実施した。スメクタイトの基準品としては、山形県月布産ベントナイト原鉱、及び新潟県三川産ベントナイト原鉱のそれぞれに対して水簸精製を繰り返すことにより、X線回折(XRD)測定で27°付近に検出される石英ピークがほぼ消失した、高純度(純度99質量%以上)の精製スメクタイト(商品名:クニピアF、山形県月布産由来または新潟県三川産由来、クニミネ社製)を用いた。当該基準品となる精製スメクタイト(105℃で2時間乾燥させた粉末)のメチレンブルー吸着量(単位:mmol/100g-精製スメクタイト)を測定し、この測定値をそれぞれのベントナイト原鉱中のモンモリロナイト固有のメチレブルー吸着量(基準値)とした。山形県月布産の精製スメクタイトのメチレブルー吸着量(基準値)は145mmol/100g、新潟県三川産の精製スメクタイトのメチレブルー吸着量(基準値)は125mmol/100gであった。
実施例1及び2の研磨剤組成物を105℃で2時間乾燥させて粉砕し、得られた各乾燥粉末についてメチレンブルー吸着量(単位:mmol/100g-精製スメクタイト)を測定した。山形県月布産のベントナイト原鉱を使用した実施例1の研磨剤組成物の乾燥粉末のメチレンブルー吸着量の測定結果を基準値である145mmol/100gで除し、また新潟県三川産のベントナイト原鉱を使用した実施例2の研磨剤組成物の乾燥粉末のメチレンブルー吸着量の測定結果を基準値である125mmol/100gで除して、さらにそれぞれの値に100をかけた値を、各研磨剤組成物の固形分中のスメクタイト量(モンモリロナイト量、単位:質量(%))とした。
【0048】
(石英含有量)
XRD装置であるMiniFlex500(リガク社製)を用いて、上記実施例1及び2の研磨剤組成物の乾燥粉末について、測定範囲を2θ=1~65°としたときのX線の反射強度を測定し、X線解析データを取得した。
上記実施例1及び2の研磨剤組成物の乾燥粉末のX線解析データにおける、2θ=27°前後に存在する石英由来のピーク面積を計算した。また、基準値として、上記各乾燥粉末と同様の粒度分布を有する100%二酸化ケイ素標準品における、2θ=27°前後に存在する石英由来のピーク面積を計算した。実施例1及び2で得られたピーク面積を、各標準品で得られたピーク面積で除して得られた値に100をかけた値を、それぞれの研磨剤組成物の固形分中の石英含量(質量%)とした。
【0049】
(その他の成分)
研磨剤組成物の固形分量(研磨剤組成物の全量(g)から水の含有量(g)を差し引いた量)から、モンモリロナイト、及び石英の含有量(g)を差し引いた値を、その他の成分の含有量とした。
なお、上記のX線解析データより、上記実施例1及び2の研磨剤組成物の乾燥粉末における当該その他の成分として、長石やカルサイト等が僅かに含まれていることがわかった。
【0050】
[物性試験]
実施例1~4、及び比較例1~4の研磨剤組成物について、以下の試験を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0051】
(分散安定性)
実施例1~4、及び比較例1~4の研磨剤組成物を、研磨剤組成物の調製後に30分間静置させ、砥粒成分(石英、非晶性二酸化ケイ素)の沈降状態を目視により観察した。沈降が観察されない場合を「〇」、沈降が観察された場合を「×」と判定した。
【0052】
(分散粒子径)
実施例1~4、及び比較例1~4の研磨剤組成物を、分散質の濃度が0.01質量%となるように蒸留水を用いて希釈して粒子径測定用サンプルとした。これらの各粒子径測定用サンプルを、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2(堀場製作所製)を用いて、平均分散粒子径(体積基準のメディアン径)を測定した。
【0053】
(粒度分布)
前記の平均分散粒子径の測定において、粒度分布(頻度分布)のピークと粗大粒子の有無を、下記評価基準により評価した。

-評価基準-
〇:粒度分布のピークが粒子径15μm未満の範囲に1つであり、かつ、粒子径15μm以上の粗大粒子を含まないか、又は粒子径15μm以上の粗大粒子を含むが粒子径15μm以上の範囲に粒度分布のピークを有しない。
△:粒度分布のピークが、粒子径15μm未満の範囲に1つ以上と粒子径15μm以上の範囲に1つ以上あり、粒子径15μm以上のピークのピーク頻度値(%)の最大値が、粒子径15μm未満のピークのピーク頻度値(%)の最大値の1/5以下。
×:粒度分布のピークが、粒子径15μm未満の範囲に1つ以上と粒子径15μm以上の範囲に1つ以上あり、粒子径15μm以上のピークのピーク頻度値(%)の最大値が、粒子径15μm未満のピークのピーク頻度値(%)の最大値の1/5超え。
【0054】
(研磨試験)
研磨対象として、横15mm×縦45mmの銅板及び鉛板(実験用金属版セット、ケニス社製)を用意した。実施例1~4及び比較例1~4の研磨剤組成物の約0.3gを銅板及び鉛板上に滴下し、紙(キムワイプ、日本製紙クレシア社製)を用いて、手動で一定の力を加えたまま縦方向に20往復分スライドさせて研磨し、研磨状態を目視で観察した。なお、上記沈降状態の観察において砥粒成分の沈降が観察された比較例1、2及び4の研磨剤組成物は、直前にスパチュラで攪拌してから用いた。
前記研磨により前記銅板及び鉛板の表面が鏡面化した場合を「〇」、表面がほぼ鏡面化したが、浅いひっかき傷も観察された場合を「△」、表面に深いひっかき傷が発生した場合を「×」と判定した。
【0055】
(滑り性試験)
上記の研磨試験において、研磨中の滑り性を評価した。上記の20往復分スライド時に抵抗が少なく非常にスムーズにスライドできた場合を「〇」、「〇」よりも抵抗を感じたがスムーズにスライドができた場合を「△」、抵抗が大きく(引っ掛かりを感じ)、スムーズにスライドできなかった場合を「×」と判定した。
【0056】
(付着性試験)
上記の銅板及び鉛板を垂直に立て、実施例1~4及び比較例1~4の研磨剤組成物の約1gを、前記銅板及び鉛板の表面に付着させた。この状態で1分間放置し、当該研磨剤組成物が、付着させた位置から移動しなかった場合を「〇」、垂れる等などして移動した場合を「×」と判定した。なお、上記沈降状態の観察において砥粒成分の沈降が観察された比較例1、2及び4の研磨剤組成物は、直前にスパチュラで攪拌してから用いた。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、石英や非晶性二酸化ケイ素のみを水に分散させた比較例3及び4の研磨剤組成物、並びにスメクタイトの代替品として界面活性剤を用いた比較例1の研磨剤組成物では、二酸化ケイ素の分散安定性に劣り二酸化ケイ素の沈降が見られた。また、粒子径が15μm以上の粗大粒子のピーク頻度値が大きく研磨性に劣り、滑り性や付着性にも劣っていた。また、スメクタイトに代えてセルロース系化合物を用いた比較例2の研磨剤組成物では、石英の分散安定性が向上し、かつ金属板に対する付着性も改善されたが、それ以外の物性評価については比較例1、3及び4の研磨剤組成物と同様であった。
【0059】
これに対し、ベントナイト鉱石由来の実施例1及び2の研磨剤組成物、並びに二酸化ケイ素とスメクタイトを水に分散させた実施例3及び4の研磨剤組成物は、いずれも分散安定性に優れ、粒度分布もより小粒径の狭い範囲に抑えられ、研磨性、滑り性、付着性に優れていた。このことから、粉砕された含スメクタイト鉱石を水簸精製に付して精製スメクタイトを得る過程で生じる、二酸化ケイ素を主成分とする副産物画分を用いて研磨剤組成物を調製したり、この研磨剤組成物と同等の粒度分布ないし成分組成の研磨剤組成物の形態とすることにより、上記の各特性に優れた研磨剤組成物を提供できることがわかる。
【0060】
(実施例5)
実施例1の研磨剤組成物を105℃で24時間乾燥し、水分を除去した。その後、得られた乾燥物を粉砕装置(商品名:NEWよめっこさん、型番:Y-308B、山本電機社製)を用いて1分間粉砕処理を行い、微粒子状に粉砕することで、実施例5の研磨剤組成物を得た。
得られた研磨剤組成物について、下記の成分組成の分析、及び物性試験を行った。
【0061】
(実施例6)
実施例2の研磨剤組成物について、実施例5と同様にして乾燥、粉砕処理を行い、実施例6の研磨剤組成物を得た。得られた研磨剤組成物について、下記の成分組成の分析、及び物性試験を行った。
【0062】
(比較例5)
石英粉末(型番:SI008BP、平均粒子径:4μm、高純度化学研究所製)を、比較例3の研磨剤として用いた。得られた研磨剤について、下記の物性試験を行った。
【0063】
(比較例6)
非晶性二酸化ケイ素粉末(型番:37049-01、平均粒子径:8μm、関東化学株式会社製)を比較例4の研磨剤として用いた。得られた研磨剤について、下記の物性試験を行った。
【0064】
[成分組成の分析]
実施例5及び6の研磨剤組成物の組成は、実施例1及び2の研磨剤組成物の組成から水分量を除いて算出した。計算結果を下記表2に示す。
【0065】
[物性試験]
実施例5及び6、並びに比較例5及び6の各研磨剤について、以下の試験を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0066】
(研磨試験)
研磨対象として、横15mm×縦45mmの銅板及び鉛板(実験用金属版セット、ケニス社製)を用意した。実施例5及び6、並びに比較例5及び6の研磨剤約0.15gと、これと同量の蒸留水を金属版上に滴下して混合しつつ、紙(キムワイプ、日本製紙クレシア社製)を用いて、手動で一定の力を加えたまま縦方向に20往復分スライドさせて研磨し、研磨状態を目視で観察した。
前記研磨により前記銅板及び鉛板の表面がほぼ鏡面化した場合を「〇」、表面に深いひっかき傷が発生した場合を「×」と判定した。
【0067】
(滑り性試験)
上記の研磨試験において、研磨中の滑り性を評価した。上記の20往復分スライド時にスムーズにスライドができた場合を「〇」、抵抗が大きく(引っ掛かりを感じ)、スムーズにスライドできなかった場合を「×」と判定した。
【0068】
【表2】
【0069】
表2より明らかなように、比較例5及び6の研磨剤は、水に懸濁させて用いても研磨性、滑り性のいずれにも劣っていた。
これに対し、実施例5及び6の研磨剤組成物は、水に懸濁させて用いることにより、水中に良好に再分散し、研磨性、及び滑り性に優れるものであった。
図1
図2
図3