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  • 特開-免疫賦活剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172788
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】免疫賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20231129BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231129BHJP
   A23L 33/13 20160101ALI20231129BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P37/04
A23L33/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084855
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 美玉
(72)【発明者】
【氏名】金田 知美
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD44
4B018ME08
4B018ME09
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZB09
(57)【要約】
【課題】NO産生を誘導させ、免疫力を活性化させることのできる免疫賦活剤の提供である。
【解決手段】天然酵母などから取得されるNRにマクロファージにおけるNO産生を誘導させ、免疫力を活性化できることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドリボシドを有効成分として含む免疫賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、免疫力を活性化させることのできる免疫賦活材、具体的にはマクロファージにおけるNO産生を誘導させることのできる免疫賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫とは、外部から侵入したウイルスや細菌、癌細胞などによる生体への攻撃から、生体が自己を防御する機構である。
免疫が低下すると、癌、感染症、アレルギー症状などの各種疾患が誘発されることが知られている。一方、免疫が賦活されると、発癌抑制、制癌作用、抗感染症、抗アレルギー作用、更には体調リズムの回復・恒常性維持など様々な効果が期待できる。

【0003】
免疫には、多くの種類の細胞が関与しているが、中でもマクロファージは、全動物種に普遍的に存在しており、免疫応答の特に初期段階での働きを含めてあらゆる段階に関与することから、その重要性が認識されている。特に活性化マクロファージにおける誘導型NO合成酵素(iNOS)による一酸化窒素(NO)の産生は、多くの病原体に対する宿主防衛に必須であることが知られている。
【0004】
他方、ニコチンアミドリボシド(NR)は生体内のサルベージ経路の中核物質であるNicotinamide Adenine Dinucleotide (NAD)の中間代謝物である。NR投与によるNAD増加に伴う、Sirt1に代表される「サーチュイン遺伝子 (長寿遺伝子)」の活性化による抗老化 (アンチエイジング)を示すことなどが報告されている(特許文献1)。このように、老化現象に関わるさまざまな生体現象は、NRがサーチュイン活性のトリガーになることで抑制することができ、最終的には生命の延命に繋がるとされている。
【0005】
しかしながら、NRにマクロファージにおけるNO産生を誘導させ、免疫力を活性化させることは、知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2017/062311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、NO産生を誘導させ、免疫力を活性化させることのできる免疫賦活剤の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、研究の結果、天然酵母などから取得されるNRにNO産生を誘導し、免疫賦活効果がある事を見出し、下記の各発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1) NRを有効成分として含む免疫賦活剤、
に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、マクロファージにおけるNO産生を誘導させ、免疫力を活性化させることのできる免疫賦活剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の結果
【0012】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明において、免疫賦活とは、特に限定されるものではないが、自然免疫を賦活することである。前記自然免疫とは、生体が備える免疫のうち、生体に先天的に備わっており、事前に抗原に暴露していなくても前記抗原を生体から排除するに際に機能する機構を意味する。前記抗原としては、例えば、ウイルス、細菌、寄生虫などの外来の抗原、及び癌細胞などの内来の抗原などが挙げられる。
【0013】
本発明の免疫賦活をより具体的に例示すると、例えば、食細胞(マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞) 、抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞) 、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、多形核白血球(好酸球、好塩基球、肥満細胞) などの活性化能がなど挙げられる。これらの中でも、本発明は、各種生物に広く存在し、抗原を排除する効果が高い点で、前記マクロファージの活性化能が高くなる。これらの効果は、常法に従い確認することができる。in vitroで確認する方法としては、例えば、細胞にサンプルを添加して培養し、培養上清中の一酸化窒素(NO)の量をGriess法により測定する方法や、培養上清中のTNF-αやIL-6、IL-1βなどのサイトカインの量をELISA法により測定する方法を挙げることができる。
また、本発明に係る免疫賦活剤の免疫賦活効果をin vivoで確認する方法としては、常法に従い確認することができる。
【0014】
本発明でいうNRは、医薬品又は食品として使用できる方法で取得されれば、特に制限はない。例えば、「ハイチオンエキスYH8」(興人ライフサイエンス社製)を基質に、通常用いられる酵素処理でNADをNRに変換したものなどが挙げられる。精製法は、イオン交換樹脂等を用いた、一般的に採用できる精製法が利用できる。
また、NR含有酵母エキスを本発明のNRの代替として用いることもできる。
【0015】
本発明でいう酵母は、特に限定されないが、たとえばサッカロミセス、エンドミコプシス、サッカロミコデス、ネマトスポラ、キャンディダ、トルロプシス、プレタノミセス、ロドトルラなどの属に属する菌、あるいはいわゆるビール酵母、パン酵母、清酒酵母などが挙げられる。このうち、酵母エキスの原料として用いられるサッカロマイセス・セレビシエやキャンディダ・ユティリスが望ましい。
【0016】
本発明の免疫賦活剤の有効成分は、NRであるため、NRをそのまま免疫賦活剤として投与することもできる。また、NRのサーチュイン活性を低下させない又はNRのサーチュイン活性を増加させる他の素材との混合物にして投与してもよい。例えば、賦形剤、希釈剤となるマルチトール、ソルビトール、澱粉などである。免疫賦活剤の形態は、特に制限されず、NRを含有するものであれば、固形状、油状、溶液状など何れのものでもよい。
【0017】
本発明に係るNRの投与方法は特に限定されず、経口投与、静脈内、腹膜内もしくは皮下投与等の非経口投与をあげることができる。具体的には、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤のいずれでもよい。
【0018】
本発明に係る免疫賦活剤は、長期間にわたって摂取を続けても、また大量に投与しても、副作用がほとんど生じない。したがって、本発明の免疫賦活剤は、安全であるので、本発明の免疫賦活能により、炎症性疾患の予防や治療剤として用いることができ、ヒトの健康維持に大きな効果を奏するものである。また、長期間摂取や投与をしても安全であるので、健康食品や機能性食品、化粧品や石鹸、シャンプーなどのボディークレンジング製品、ロ-ション類、乳液類、クリ-ム類、パック類、サンスクリーン類、浴用剤などに配合して用いることもできる。また、動物の健康維持のためなどのために動物用飼料に含有させ、健康補助飼料の原料として使用することもできる。
【0019】
本発明の有効成分であるNRの飲食品等への添加量は特に限定されず、飲食品の種類や量、性質などに応じて適宜設定すればよく、本願の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【実施例0020】
以下、実施例により本願発明を具体的に説明する。ただし、本発明の技術範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>細胞へのNRの添加およびNO産生量の測定
5X10個/mlに細胞数を調整したRAW264細胞を1mlずつ24穴平底プレートの各ウエルに加えた。37℃、5%COのインキュベータにて24時間前培養した後、培養上清を除去した。続いて、リン酸生理食塩水(PBS)を用いて2回洗浄した後、サンプル含有無血清培地を添加した。37℃、5%COのインキュベータにて、24時間培養を行った。なお、サンプルには市販のNR(SIGMA社製)を終濃度が100μg/mL、250μg/mL、500μg/mLおよび1000μg/mLとなるようにそれぞれ用いた。サンプルを添加しないものをコントロールとした。また、ポジティブコントロールとしてLPS(SIGMA社製、終濃度100ng/mL)を用いた。
【0022】
続いて、下記に記載の方法に従ってNO産生量を測定した。その結果を図1に示す。
NO産生量は、培養した上清を回収し、回収した上清中の一酸化窒素(NO)量をGriess法により測定し、これをNO産生量とした。その結果を図1に示す。
【0023】
図1に示すように、NRを添加した試験区では、濃度依存的にNO産生量が増加することが確認された。したがって、本発明におけるNRは免疫賦活剤として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のNRは、免疫賦活効果のある組成物として食品や健康食品、化粧品、医薬品などの原料として利用できる。
図1