(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172798
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ソフトカプセル剤及び脂質の固化を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/375 20060101AFI20231129BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20231129BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20231129BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20231129BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61K31/375
A61K9/48
A61K31/455
A61K47/44
A61P3/02 101
A61P3/02 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084867
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 幸子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA56
4C076BB01
4C076CC22
4C076CC24
4C076EE53F
4C076EE55F
4C076FF36
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA18
4C086BC19
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、アスコルビン酸類及びニコチン酸アミドを含有するソフトカプセル剤において、崩壊性が改善されたソフトカプセル剤を提供することを課題とする。
【解決手段】脂質中に、(A)ニコチン酸アミド、及び(B)式(1)に示すアスコルビン酸類を含有し、(B)成分の含有量は20質量%以下であるソフトカプセル剤である。
[式中、R1及びR2は、水素、金属塩又は有機基であり、少なくともいずれか一方が金属塩又は有機基から選択され、R3は、水素又は有機基である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質中に、以下の成分(A)及び成分(B)を含有することを特徴とする、ソフトカプセル剤。
(A)ニコチン酸アミド
(B)以下の式(1)に示すアスコルビン酸類
【化1】
[式中、R1及びR2は、水素、金属塩又は有機基であり、少なくともいずれか一方が金属塩又は有機基から選択され、R3は、水素又は有機基である。]
【請求項2】
前記成分(A)の含有量は、カプセル内容物に対して3~10質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のソフトカプセル剤。
【請求項3】
前記成分(B)の含有量は、カプセル内容物に対して20~50質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のソフトカプセル剤。
【請求項4】
前記成分(B)は、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム又はアスコルビン酸-2-グルコシドから選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のソフトカプセル剤。
【請求項5】
前記脂質の含有量は、カプセル内容物に対して75質量%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のソフトカプセル剤。
【請求項6】
ニコチン酸アミド及びアスコルビン酸類を含有する脂質の固化を抑制する方法であって、以下の成分(B)を含有することを特徴とする、脂質の固化抑制方法。
(B)以下の式(1)に示すアスコルビン酸類
【化1】
[式中、R1及びR2は、水素、金属塩又は有機基であり、少なくともいずれか一方が金属塩又は有機基から選択され、R3は、水素又は有機基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトカプセル剤及び脂質の固化を抑制する方法に関する。より詳細には、脂質中にアスコルビン酸類とニコチン酸アミドを含有するソフトカプセル剤において、崩壊性が改善されたソフトカプセル剤、及び脂質中にアスコルビン酸類とニコチン酸アミドを含有させる脂質の固化を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソフトカプセル剤は、薬剤を含む濃厚溶液、懸濁液あるいは油性物等の液状の内容物を外皮膜に封入し、生体に投与する目的等に用いられている。
【0003】
ソフトカプセル剤は通常、生体内で外皮膜が溶解し、有効成分を含有するカプセル内容物が放出されることによりその効果を発揮する。ソフトカプセル剤の外皮膜は、例えば、ゼラチンを主材としており、水に易溶であることから、内容物は疎水性のものが好ましく、ソフトカプセル剤は多くの場合、内容物が疎水性物質の場合に用いられてきた。他方、水溶性ビタミン等の親水性物質を用いる場合、油性液体(脂質)中に親水性成分を分散した油性懸濁液をソフトカプセル剤に充填することが行われている。
【0004】
このようなソフトカプセル剤の親水性物質と疎水性物質との複合的な構成に起因する様々な問題が生じている。例えば、油性懸濁液中の親水性物質同士の相互作用によりカプセル内容物の粘度が上昇し、カプセル内容物の皮膜への充填が困難となることが知られている。
【0005】
こうした問題に対して、例えば、特許文献1には、マイクロカプセルやマイクロスフィア等の、水溶性薬物を含有した微粒子を油状物質に混合したものをカプセル内容物とする技術が開示されている。特許文献2には、アスコルビン酸及びニコチン酸アミドを含むソフトカプセル剤を製造する方法において、この二つの成分を油性液体中に含む油性懸濁液を23℃以下に保存し、ついで23℃以下の温度を保ったままソフトカプセルに充填する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-139959号公報
【特許文献2】特開2002-291419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術は、ソフトカプセル剤の製剤上の問題は解決したが、製剤後の諸問題、例えば、崩壊遅延の問題を解決できていない。具体的には、アスコルビン酸及びニコチン酸アミドを含有するソフトカプセル剤において、製造後の時間の経過に伴うカプセル内容物の固化による崩壊遅延の問題が生じていた。崩壊遅延が起こると消化管内でカプセル内容物がすみやかに消化吸収できなくなり、期待される効果が得られにくくなる場合がある。従って製剤開発において崩壊遅延を抑制することは重要な課題である。
【0008】
そこで、本発明は、アスコルビン酸類及びニコチン酸アミドを含有するソフトカプセル剤において、崩壊性が改善されたソフトカプセル剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、カプセル内容物として、懸濁油性液中に分散されたアスコルビン酸及びニコチン酸アミドが、親水性の皮膜に含まれる水分により、複合体を形成して固化することで崩壊遅延を起こしていると推測した。
【0010】
そこで、上記課題について鋭意検討した結果、カプセル内容物として、ニコチン酸アミドと、アスコルビン酸の金属塩又は化学修飾したアスコルビン酸誘導体とを用いることにより、内容物の固化を抑制し、崩壊性を改善し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のソフトカプセル剤を提供するものである。
[1]脂質中に、以下の成分(A)及び成分(B)を含有することを特徴とする、ソフトカプセル剤。
(A)ニコチン酸アミド
(B)以下の式(1)に示すアスコルビン酸類
【化1】
[式中、R1及びR2は、水素、金属塩又は有機基であり、少なくともいずれか一方が金属塩又は有機基から選択され、R3は、水素又は有機基である。]
【0012】
本発明のソフトカプセル剤によれば、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸類とを含有するソフトカプセル剤において、脂質の固化を抑制することにより、崩壊性が改善されたソフトカプセル剤を提供することができる。
[2]前記成分(A)の含有量は、カプセル内容物に対して3~10質量%であることを特徴とする、[1]に記載のソフトカプセル剤。
この特徴によれば、ニコチン酸アミドの含有量を特定することにより、より脂質の固化を抑制することができ、本発明のソフトカプセル剤の崩壊性を改善する効果をより奏することができる。
[3]前記成分(B)の含有量は、カプセル内容物に対して20~50質量%であることを特徴とする、[1]に記載のソフトカプセル剤。
この特徴によれば、アスコルビン酸類の含有量を特定することにより、より脂質の固化を抑制することができ、本発明のソフトカプセル剤の崩壊性を改善する効果をより奏することができる。
[4]前記成分(B)は、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム又はアスコルビン酸-2-グルコシドから選択される1種以上であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のソフトカプセル剤。
この特徴によれば、より確実に脂質の固化を抑制することができ、本発明のソフトカプセル剤の崩壊性をより確実に改善することができる。
[5]前記脂質の含有量は、カプセル内容物に対して75質量%以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のソフトカプセル剤。
この特徴によれば、カプセル内容物における脂質の含有量が少ない場合であっても、脂質の固化を抑制し、崩壊性を改善するという本発明の効果を十分に奏することができる。
[6]ニコチン酸アミド及びアスコルビン酸類を含有する脂質の固化を抑制する方法であって、以下の成分(B)を含有することを特徴とする、脂質の固化抑制方法。
(B)以下の式(1)に示すアスコルビン酸類
【化1】
[式中、R1及びR2は、水素、金属塩又は有機基であり、少なくともいずれか一方が金属塩又は有機基から選択され、R3は、水素又は有機基である。]
本発明の脂質の固化を抑制する方法によれば、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸類とを含有する脂質において、脂質の固化を抑制する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アスコルビン酸類及びニコチン酸アミドを含有するソフトカプセル剤において、崩壊性が改善されたソフトカプセル剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】沈殿部の針状結晶と、アスコルビン酸及びニコチン酸アミドのIRスペクトルの比較である。
【
図3】アスコルビン酸とニコチン酸アミドの複合体と考えられる黄色結晶と沈殿部の針状結晶のIRスペクトルの比較である。
【
図4】本発明の固化試験におけるスラリーサンプル調整の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ソフトカプセル剤]
本発明のソフトカプセル剤は、有効成分としてニコチン酸アミドとアスコルビン酸をカプセル内容物とした場合に発生するカプセル内容物の固化を、特定のアスコルビン酸類を含有させることにより抑制することが可能となる。その結果、ソフトカプセル剤の崩壊遅延により、体内において有効成分が放出されないといった事態を防止することができる。
【0016】
本発明のソフトカプセル剤は、脂質中に、(A)ニコチン酸アミド及び(B)以下の式(1)に示すアスコルビン酸類を含有することを特徴とする。
【化1】
[式中、R1及びR2は、水素、金属塩又は有機基であり、少なくともいずれか一方が金属塩又は有機基から選択され、R3は、水素又は有機基である。]
ことを特徴とする。
【0017】
ここで、「脂質」とは広義の脂質をいうものであり、食品又は医薬品等に使用が許容されている疎水性物質を総じて「脂質」と称し、親水性物質と区別するものである。
【0018】
以前よりニコチン酸アミドとアスコルビン酸を内容物としたソフトカプセル剤において、カプセル内容物が固化する現象が確認されていた。このカプセル内容物の固化は、生体内での崩壊遅延の原因となり、生体利用率の低下等の問題を惹起する。この現象について確認するために、本発明者らは、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸を含有する薬液について経時的に観察を行った。より詳細には、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸を含有する薬液を10mlと50mlのガラス製のスクリュービンに注ぎ、室温にて静置し、経時変化を観察した。
【0019】
その結果、初日から薬液と空気との接触面に固化が見られ、数日後には10ml瓶では全ての薬液が固化、50ml瓶においては、表面から数センチが固化し、内部は流動性を保ったままであった。このことから、薬液と空気との接触面からの吸湿によって固化が起こる可能性が考えられた。
【0020】
さらに、薬液中の流動部と表面の固化部をサンプリングしたのち、それぞれヘキサンで洗浄し、1,000rpm5分間の遠心分離を2回かけると、遠心分離により生じた沈殿部は2~3層に分離した。
【0021】
この沈殿部の各層をSEMにて観察した画像データを
図1に示す。なお、左上が沈殿部上層の流動部、右上が沈殿部上層の固化部、左下が沈殿部下層の流動部、右下が沈殿部下層の固化部にて観察されたSEM画像である。
【0022】
これらSEM画像に示されるように、流動部と比較して固化部においては、大量の針状結晶が観察された。次に、この生成した針状結晶と、出発物質であるアスコルビン酸及びニコチン酸アミドについて赤外吸収スペクトル測定法を用いた分析を実施した。
図2にこれらのIRスペクトルを示す。
【0023】
これらIRスペクトルを分析した結果、針状結晶のIRスペクトルは、アスコルビン酸に類似するものの、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸のいずれとも異なるIRスペクトルを有する物質であることがわかった。
【0024】
ここで、アスコルビン酸水溶液にニコチン酸アミドを溶解した水溶液は、瞬時に黄色を呈し、乾燥することにより黄色の結晶が析出する。この黄色結晶は、以下の式(2)で表す、アスコルビン酸とニコチン酸アミドとの荷電移動により形成される複合体であることが知られている。
【0025】
【0026】
そこで、アスコルビン酸水溶液にニコチン酸アミドを溶解した水溶液を乾燥させて得た黄色針状結晶についてもIRスペクトルを分析し、固化部の針状結晶のIRスペクトルと比較した。その結果を
図3に示す。
【0027】
図3に示すように、黄色針状結晶のIRスペクトルのピーク位置と、薬液から採取した沈殿部の針状結晶のIRスペクトルのピーク位置とはほぼ一致していた。従って、薬液中の針状結晶は、上記の水溶液中にて形成されるアスコルビン酸とニコチン酸アミドの複合体(反応物)である可能性が高いと本発明者らは結論づけた。
【0028】
よって、本発明者らは、ソフトカプセル剤の皮膜中の水分、又は外部から侵入した水分中において、カプセル内容物中のニコチン酸アミドとアスコルビン酸とが複合体を形成し、この複合体がカプセル内容物を固化させることにより、ソフトカプセル剤の崩壊不良を引き起こしたと推測した。
【0029】
そこで、本発明者らは、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸との複合体形成を抑制するため、鋭意研究を行った結果、ソフトカプセル剤の内容物として、アスコルビン酸に替えて、後述するアスコルビン酸類を用いることでこの複合体形成を抑制することができ、ソフトカプセル剤の崩壊性を改善し得ることを見出した。
【0030】
[ソフトカプセル剤の構成]
以下、本発明のソフトカプセル剤の具体的な構成について詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。本発明のソフトカプセル剤は、他の構成要素を備えることもできるが、主として液状のカプセル内容物をゼラチン等のカプセル皮膜で被包成型した構成となっている。
【0031】
<カプセル内容物>
本発明のカプセル内容物は、本発明の効果を奏する限り限定はされないが、例えば、有効成分、有効成分を溶解する溶質又は分散媒としての脂質を含有する。本発明の必須成分であるニコチン酸アミド及びアスコルビン酸類は、親水性物質であるため、脂質中に分散して存在している。
【0032】
((A)ニコチン酸アミド)
本発明のソフトカプセル剤は、カプセル内容物としてニコチン酸アミドを含有する。ニコチン酸アミドは、ビタミンBの1種であり、皮膚の機能保持や血流改善効果を期待して医薬品、医薬部外品、及びサプリメントに広く配合されている。本発明に使用できるニコチン酸アミドは、特に限定はされず、これらは公知の方法により製造できるほか、市場にて入手可能な市販品を用いることもできる。
【0033】
本発明のソフトカプセル剤における(A)ニコチン酸アミドの含有量は特に制限はされないが、例えば、カプセル内容物に対して3~10質量%である。(A)ニコチン酸アミドの含有量の上限値は、好ましくは6質量%以下である。(A)ニコチン酸アミドの含有量の下限値は、好ましくは4質量%以上である。(A)ニコチン酸アミドの含有量が3質量%以上であれば、有効成分として期待する生理活性を十分奏することができ、本発明の効果がより顕著に発揮される。(A)ニコチン酸アミドの含有量が10質量%以下であれば、ソフトカプセル剤の設計の自由度が高くなり、例えば、有効成分を追加したり、安定性、崩壊性、溶出性等のソフトカプセル剤の機能を高める構成を追加したりすることが可能となる。同時に脂質の固化を抑制するという本発明の効果をより確実に奏することができる。
【0034】
((B)アスコルビン酸類)
本発明のソフトカプセル剤は、カプセル内容物として(B)以下の式(1)で表されるアスコルビン酸類を含有する。
【化1】
[式中、R1及びR2は、水素、金属塩又は有機基であり、少なくともいずれか一方が金属塩又は有機基から選択され、R3は、水素又は有機基である。]
【0035】
アスコルビン酸は、抗酸化作用、肌の美白作用、コラーゲン産生促進等の効果が期待され、医薬品、医薬部外品、又は化粧品分野において広く用いられている。本明細書でいうアスコルビン酸類とは、アスコルビン酸、及びアスコルビン酸誘導体、それらの塩、全てを包含する概念であり、他方、本発明の(B)アスコルビン酸類は、アスコルビン酸の2位、3位、及び/又は6位の末端の水酸基が前記のように置換された誘導体である。なお、本発明に使用可能な前記アスコルビン酸誘導体は、医薬・食品分野で用いることができれば特に制限されない。
【0036】
ここで、R1、R2は、水素、金属塩又は有機基であれば、本発明の効果を奏する限り特に限定はされない。金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。有機基としては、例えば、水酸基が糖類、リン酸、ポリリン酸、硫酸、脂肪酸、脂肪族炭化水素、その他製薬学上許容される化合物のエステル又はエーテルとなったものなどが挙げられる。好ましくは、ナトリウム塩、カルシウム塩、グルコピラノシル基、分岐してもよい炭素数1~20のアシル基又はアルキル基であり、より好ましくは、ナトリウム塩、カルシウム塩、グルコピラノシル基、分岐してもよい炭素数1~3のアシル基又はアルキル基である。さらに好ましくは、ナトリウム塩、カルシウム塩、又はグルコピラノシル基である。アスコルビン酸の2位、3位のいずれかの水酸基が金属塩又は有機基に置換されることで、式(2)に示したような2位、3位のエンジオール結合による化学的不安定を安定化させ、複合体形成を抑制することができると考えられる。
【0037】
R3は、水素又は有機基であれば、本発明の効果を奏する限り特に限定はされない。有機基としては、例えば、水酸基が糖類、リン酸、ポリリン酸、硫酸、脂肪酸、脂肪族炭化水素、その他製薬学上許容される化合物のエステル又はエーテルとなったものなどが挙げられる。好ましくは、分岐してもよい炭素数1~20のアシル基又はアルキル基、グルコピラノシル基であり、より好ましくは分岐してもよい炭素数1~3のアシル基又はアルキル基、グルコピラノシル基である。
【0038】
(B)アスコルビン酸類の具体的な例としては、例えば、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、2-O-エチルアスコルビン酸、3-O-エチルアスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸エステル、アスコルビン酸-3-リン酸エステル、アスコルビン酸-2-ポリリン酸エステル、アスコルビン酸-2-硫酸エステル、アスコルビン酸-2-パルミチン酸エステル、アスコルビン酸-2-ステアリン酸エステル、アスコルビン酸-6-ステアリン酸エステル、アスコルビン酸-2,6-ジブチルエステル、アスコルビン酸-2,6-ジパルミチン酸エステル、アスコルビン酸-2-グルコシド等が挙げられる。また、それらの塩類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。好ましくは、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸-2-ポリリン酸エステル、アスコルビン酸-2-硫酸エステル、アスコルビン酸-2,6-ジブチルエステル、アスコルビン酸-2-グルコシドであり、より好ましくはアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸-2-グルコシドである。
【0039】
ここで、例えば、(B)アスコルビン酸類におけるR1、R2、又はR3の水酸基が、炭素数の多い疎水性の官能基で置換されている場合、アスコルビン酸類の脂質への親和性が高くなり、粉体である(B)アスコルビン酸類が脂質を吸収し、流動性を失うことで脂質の固化を助長することがある。従って、(B)アスコルビン酸類における置換基としては、金属塩、糖類等の親水性基、分岐してもよい炭素数が1~3のアシル基又はアルキル基がより好ましく使用できる。なお、本発明には、(B)アスコルビン酸類のd体、l体、dl体をいずれも用いることができる。また、食品又は医薬品等の分野において許容される(B)アスコルビン酸類の金属塩を用いてもよい。さらに、成分(B)アスコルビン酸類は1種又は2種以上を適宜組み合わせて任意の配合量で用いることができる。
【0040】
本発明のソフトカプセル剤における(B)アスコルビン酸類の含有量は特に制限はされない。使用目的、投与態様、その他の成分の構成に応じて変更可能であるが、例えば、カプセル内容物に対して20~50質量%である。(B)アスコルビン酸類の含有量の下限値は、好ましくはカプセル内容物に対して30質量%以上である。(B)アスコルビン酸類の含有量の下限値は、好ましくは50質量%以下である。(B)アスコルビン酸類の含有量が20質量%以上であれば、有効成分として期待する生理活性を十分に奏することができ、本発明の効果がより顕著に発揮される。(B)アスコルビン酸類の含有量が50質量%以下であれば、ソフトカプセル剤の設計の自由度が高くなり、例えば、有効成分を追加したり、安定性、崩壊性、溶出性等のソフトカプセル剤の機能を高める構成を追加したりすることが可能となる。同時に脂質の固化を抑制するという本発明の効果をより確実に奏することができる。
【0041】
本発明のソフトカプセル剤における(B)以外のアスコルビン酸類の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に制限されない。ニコチン酸アミドや(B)アスコルビン酸の含有量や脂質の含有量等に応じて変更可能であるが、例えば、カプセル内容物に対して20質量%未満含有する。好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは(B)以外のアスコルビン酸類を実質的に含有しない。ここで、「実質的に含有しない」とは、全く含有しないか、又は生体に対して単独で生理作用を発揮しない程度に含有していることをいい、具体的には、例えば、0.1質量%以下である。(B)以外のアスコルビン酸類の含有量が、カプセル内容物に対して20質量%未満であれば、ニコチン酸アミドとの複合体形成を抑制することができ、脂質の固化を防ぐことにより、ソフトカプセル剤の崩壊不良を防止することができる。
【0042】
(その他の有効成分)
本発明のソフトカプセル剤に含有させることができるその他の有効成分としては、食品、医薬品に使用が許容される成分であり、本発明の効果を奏する限り特に限定はされない。例えば、本発明のソフトカプセル剤に使用できる親水性ビタミン類としては、塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、塩酸ジセチアミン、ジベンゾイルチアミン、ジベンゾイルチアミン塩酸塩、チアミンセチル硫酸塩、チアミンチオシアン酸塩、チアミンナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩、チアミンラウリル硫酸塩等のビタミンB1類、リボフラビン、リボフラビン酪酸エステル、リン酸リボフラビンナトリウム等のビタミンB2類、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール等のビタミンB6類、塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン等のビタミンB12類、葉酸、ビオチン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等のパントテン酸類、メチルヘスペリジン、ルチン等のビタミンP類等が挙げられる。
【0043】
また、本発明のソフトカプセル剤に使用できる疎水性ビタミン類としては、ビタミンD1、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンD4等のビタミンD類、ビタミンK1、ビタミンK2、ビタミンK3、ビタミンK4、ビタミンK5、ビタミンK6、ビタミンK7等のビタミンK類、βカロテン、パーム油カロテン、デュナリエラカロテン、クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、β-アポ-8’-カロテナール、ビキシン、リコペン等のカロチノイド系化合物、d-α-トコフェロール、d-β-トコフェロール、d-γ-トコフェロール、d-σ-トコフェロール等のビタミンE類、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等のビタミンF類等が挙げられる。
【0044】
さらに、本発明のソフトカプセル剤に使用できる酵母類としては、例えば、亜鉛酵母、セレン酵母、クロム酵母、鉄酵母、マグネシウム酵母、マンガン酵母、銅酵母、モリブデン酵母、ビール酵母、パン酵母、ワイン酵母、パン酵母エキス、ビール酵母エキス等が挙げられる。
【0045】
(粉体の含有量)
本発明のソフトカプセル剤における粉体の含有量は特に制限されない。ソフトカプセル剤の構成、有効成分の種類、粉体の性状、脂質の含有量等に応じて変更可能であるが、例えば、カプセル内容物に対して27質量%以上である。好ましくは、40質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上である。ソフトカプセル剤における粉体の含有量が、カプセル内容物に対して27質量%以上である場合、(B)アスコルビン酸類以外のアスコルビン酸類を使用すると、脂質の固化が起こることがある。
【0046】
ここで、粉体の含有量の増加は、相対的に脂質の含有量の減少につながる。そうすると、分散媒である脂質の粉体が、カプセル内容物の内部に侵入した水分と接触する確率が上昇するため、複合体形成に起因する脂質の固化が起こりやすくなると考えられる。他方、本発明の(B)アスコルビン酸類の粉体を使用した場合には、粉体の含有量がカプセル内容物に対して27質量%以上であっても複合体形成を抑制できるため、脂質の固化を防止できる。また、有効成分である粉体の含有量を多くできることで、ソフトカプセル剤の小型化が可能となる。なお、本発明のソフトカプセル剤における粉体の含有量の上限としては特に制限されないが、例えば、カプセル内容物に対して、65質量%以下である。粉体のカプセル内容物に対する含有量が65質量%以下であれば、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸類の複合体形成を抑制することができ、脂質の固化を抑制することができる。
【0047】
(希釈油)
本発明のソフトカプセル剤は、希釈油を含有してもよい。希釈油は、一般的にはソフトカプセル剤のカプセル内容物を希釈するために用いられる。希釈油としては、ココナツ油、ヤシ油、パーム油、グレープフルーツ油及び中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等の飽和脂肪酸を多く含む油類、大豆油、胡麻油、シソ油、落花生油、米ぬか油(こめ油、米胚芽油)、小麦胚芽油、トウモロコシ油、菜種油、綿実油、カボチャ種子油、オリーブ油、グアバ種子油、ナツメヤシ種子油、ブドウ種子油、ツバキ種子油、ヒマワリ油、月見草種子油、サフラワー油等の不飽和脂肪酸を多く含む油類等が挙げられる。これらの希釈油は、1種及び2種以上を適宜組み合わせて任意の配合量で用いることができる。
【0048】
本発明のソフトカプセル剤における希釈油の配合量は、特に制限されないが、例えば、カプセル内容物に対して5~80質量%である。下限値としては、好ましくは10質量%以上である。上限値としては、好ましくは60質量%以下である。
【0049】
(分散剤)
本発明のソフトカプセル剤は分散剤を含有してもよい。分散剤を含むことにより、カプセル内容物の分離が防止され、保存安定性が向上する。分散剤としては、例えば、ミツロウ、グリセリン脂肪酸エステル、縮合リシノレイン酸ポリグリセリル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、菜種水素添加油、サフラワー水素添加油、パーム水素添加油、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、カカオ脂粉末、カルナウバロウ、ライスワックス、モクロウ、パラフィン等が挙げられる。これらの中で好ましくはミツロウである。これらの分散剤は、1種及び2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。分散剤の含有量は、特に制限されないが、例えば、カプセル内容物に対して0.1~30質量%以下である。下限値としては、好ましくは1質量%以上である。他方、上限値としては、好ましくは、10質量%以下である。
【0050】
(脂質の含有量)
本発明のソフトカプセル剤における脂質の含有量は特に制限されない。有効成分の種類や配合、ソフトカプセル剤の用途、大きさ等に応じて適宜変更可能であるが、例えば、カプセル内容物に対して75質量%以下である。上限値としては、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。脂質中に分散されているニコチン酸アミドとアスコルビン酸は、カプセル皮膜又は外部から移行してきた水分中において、複合体を形成し固化すると考えられる。そうすると、脂質の含有量が十分に多い場合、ニコチン酸アミド及びアスコルビン酸と水分との接触を抑制することができ、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸との複合体形成による固化の進行も防ぐことができる。
【0051】
他方、本発明においては、固化の進行を防ぐことができる脂質の含有量が十分でない場合であっても、複合体形成による脂質の固化を抑制することができる点において顕著な効果を有する。脂質の含有量が75質量%以下であれば、有効成分となる粉体の含有量を多くできる等、設計の自由度を上げることができると同時に、脂質の固化を抑制することができ、適切な効能と崩壊性をソフトカプセル剤に付与することができる。なお、脂質とは前述したように食品又は医薬品として許容される広義の脂質をいい、前記希釈油や分散剤としての油分の他、その他の成分としての疎水性物質を含むものである。
【0052】
<その他の成分>
本発明のソフトカプセル剤は、カプセル内容物として、ニコチン酸アミド、アスコルビン酸類以外の成分を含有してもよい。その他の成分は、ソフトカプセル剤の用途と配合によって適宜選択可能であり、特に制限はされないが、例えば、増粘剤、界面活性剤、甘味料、香料、着色料、保存料、その他の有効成分等が挙げられる。
【0053】
(カプセル内容物の粘度)
本発明のおけるカプセル内容物の粘度としては特に制限はされない。粉体及び脂質の配合量、種類、ソフトカプセル剤の投与態様、カプセル皮膜の構成等に応じて変更可能であるが、例えば、2,000~30,000mPa・sである。下限値としては、好ましくは5,000mPa・s以上である。上限値としては、好ましくは20,000mPa・s以下である。カプセル内容物の粘度が2,000mPa・s以上であれば、ソフトカプセル剤の成形が容易となり、脂質中の粉体の分散を安定化することができる。カプセル内容物の粘度が30,000mPa・s以下であれば、適度な流動性を有するため、脂質の固化を抑制することができる。なお、カプセル内容物の粘度は、粉体の量、脂質の種類、配合の他、(B)アスコルビン酸類の選択等によっても調節が可能である。
【0054】
<カプセル皮膜>
本発明のソフトカプセル剤はカプセル皮膜を有する。カプセル皮膜の組成は、特に限定されず、用途や組成に応じて適宜設定可能である。また、市場にて入手可能な市販品を用いることもできる。
【0055】
ソフトカプセル剤のカプセル皮膜の成分としては、例えば、高分子成分、保湿剤、増粘多糖類等が挙げられる。高分子成分としては、特に制限されないが、例えば、ゼラチン、でんぷん、カラギーナン等が挙げられる。カプセル皮膜中の高分子成分の含有量としては、例えば、1~95質量%であり、下限値としては、好ましくは5質量%以上であり、上限値としては90質量%以下である。また、保湿剤としては、特に制限されないが、例えば、グルコース等の糖類、グリセリン等のアルコール類、ソルビトール等の糖アルコール類等が挙げられる。さらに、増粘多糖類としては、特に制限されないが、例えば、カラギーナン、ジェランガム、アルギン酸等の増粘多糖類が挙げられる。ソフトカプセル剤のカプセル皮膜中の各成分の配合割合は、特に制限されず、適宜設定可能である。
【0056】
<ソフトカプセル剤の態様>
(崩壊性)
本発明のソフトカプセル剤は、崩壊時間が60分以内であることが好ましく、40分以内であることがより好ましく、30分以内であることがさらに好ましい。崩壊時間が60分以内であれば、消化管内で有効成分が十分に吸収され、すみやかに必要な血中濃度が得られることで、所望の生体利用率が得られると考えられる。
【0057】
(大きさと質量)
本発明のソフトカプセル剤の大きさとしては、特に制限はされない。ソフトカプセル剤の使用目的、その態様、求められる崩壊性や投与対象等に応じて変更可能であるが、例えば、ソフトカプセル剤の短径が3~10mm、長径が7~20mmである。好ましくは、ソフトカプセル剤の短径が6~10mm、長径が9~15mmである。
ソフトカプセル剤の質量としては、特に制限はされない。有効成分と脂質の配合比率、求められる崩壊性、又はソフトカプセル剤の密度、大きさ等に応じて変更可能であるが、例えば、カプセル内容物の質量として100mg~2,000mgである。カプセル内容物の質量の下限値は、好ましくは200mg以上である。カプセル内容物の質量の上限値は好ましくは1,000mg以下である。
【0058】
[ソフトカプセル剤の製造方法]
本発明のソフトカプセル剤の製造方法としては、特に限定はされず、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、上述のカプセル皮膜の成分から製造されたシートに、上述したカプセル内容物を充填し、圧着成型すること等により形成してもよい。
【0059】
[その他の実施態様]
<脂質の固化を改善する方法>
本発明は、脂質の固化を改善する方法を提供する。例えば、ニコチン酸アミド及び/又はアスコルビン酸類を含有する製剤において、本発明の構成となるよう、(A)ニコチン酸アミド及び/又は(B)アスコルビン酸類を添加又は調製することによって、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸の有効成分としての効果を得ながら、製剤中の脂質の固化を抑制することができ、生体利用率の低下といった問題を解決することができる。
【実施例0060】
以下に実施例を示し、さらに本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。なお、実施例中の配合量は、特に記載がない限り質量%を示している。
【0061】
(1)試験例1:カプセル内容物の固化試験
カプセル内容物の固化を再現するため、カプセル内容物を想定したスラリーサンプルを以下の方法により調製した。1週間経過後、スラリーサンプルの固化の有無について評価した。なお、実施例で用いた原料を以下の表1に示す。
【0062】
【0063】
<固化試験方法>
(スラリーサンプルの調製)
図4に示した手順に従い、200mlのガラス製ビーカーに、表2、表3に示す配合で、ミツロウと希釈油(こめ油)とを入れ、80℃に加温しながら溶解させ、スターラーを用いて混合した。40℃以下になるまで室温で冷却した後、この混合液に、表2、表3に示す配合量でビタミン類をさらに添加し、ホモミキサーにて撹拌、混合した。その後、真空脱泡を行い、水を薬液に対して5質量%となるように添加し、スラリーサンプルとした。
【0064】
(評価方法)
水添加後、1週間室温で放置した後のスラリーサンプルの状態を、以下の判断基準に基づいて評価した。表2及び表3に評価結果を合わせて示した。
〇・・・スパーテルで撹拌し、45度に傾けると流れ落ちてくる。
△・・・スパーテルで撹拌できるが傾けても流れてこない。
×・・・スパーテルが突き刺さる状態であり、撹拌不可能
【0065】
【0066】
【0067】
表2の結果より、ニコチン酸アミドの含有量が6質量%、アスコルビン酸の含有量が20質量%以上になると脂質の固化を引き起こすことがわかった。表3の結果より、アスコルビン酸に替えてアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸-2-グルコシドを使用した薬液においては、脂質の固化を抑制することができ、良好な流動性を保つことが確認された。
【0068】
(2)試験例2:ソフトカプセル剤の製造例における崩壊性試験
実際のソフトカプセル剤の製造例において、崩壊性改善の効果を確認するため、下記に示す製造方法により、製造実施例1及び製造比較例1のソフトカプセル剤を製造し、崩壊性の改善効果について検討した。カプセル皮膜は下記処方で、カプセル製造機を用いて植物皮膜カプセルに充填し、被膜の水分値が8%程度に乾燥させたものを評価した。
【0069】
(植物皮膜カプセル)
主原料:でんぷん、増粘多糖類、グリセリン、水
シート厚み:0.5~1mm
カプセル化:ロータリー式のカプセル充填機
充填量:290mg/粒
形状:オーバル型
ソフトカプセル剤のカプセル内容物としては、表4に示す配合に従い、希釈油であるこめ油にミツロウを加えて加温溶解させ、この溶液を室温で放冷させた。そして、この溶液に、ニコチン酸アミド及びアスコルビン酸類を加え、ホモミキサーにて均一に混合し、この溶液をカプセル内容物とした。
【0070】
このカプセル内容物を、一粒当たり290mgずつ、上述したカプセル皮膜を用いてソフトカプセル成型機を用いて常法でカプセル充填し、ソフトカプセル剤を得た。得られたソフトカプセル剤をアルミ袋に入れ密封し、40℃75%RHで4か月間保存した。保存終了後、アルミ袋を開封し、取り出したソフトカプセル剤を、以下のソフトカプセル剤の崩壊性試験に示す手順で保存後の崩壊性を試験した。
【0071】
(評価方法)
製造したソフトカプセル剤について、「第17改正日本薬局方」の一般試験法に記載の「6.09崩壊試験法」に従い、ソフトカプセル剤の崩壊時間を測定した。試験液として、イオン交換水を使用した。崩壊試験機は富山産業(株)の崩壊試験器(NT-610(商品名)、富山産業社製)を使用した。
【0072】
試験液(精製水)の液量は900mLとして試験を行い、37℃の水中における崩壊時間を試料6カプセルについて測定し、平均値を崩壊時間とした。崩壊時間を以下の評価基準に従い、崩壊性を評価した。
【0073】
(崩壊性の評価基準)
〇:崩壊時間が60分以下
×:崩壊時間が60分を超える
崩壊試験の結果を表4に合わせて示した。
【0074】
【0075】
表4に示すように、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸とを用いた製造比較例1では、崩壊時間が60分を超えても崩壊しない結果となった。他方、アスコルビン酸に替えて、アスコルビン酸の2位の水酸基の金属ナトリウム塩とした、アスコルビン酸ナトリウムを用いた製造実施例1においては、崩壊時間は17分とその崩壊性を大きく向上させる結果となった。
【0076】
また、植物皮膜カプセルに代えて、下記に示す処方で作成したゼラチン皮膜に充填し、被膜の水分値が8%程度に乾燥させたソフトカプセル剤を試験例2と同様の方法で評価した。
【0077】
(ゼラチンソフトカプセル)
主原料:ゼラチン、グリセリン、水
シート厚み:0.5~1mm
カプセル化:ロータリー式のカプセル充填機
充填量:290mg/粒
形状:オーバル型
ゼラチン皮膜に充填したソフトカプセル剤でも、試験例2の植物皮膜を用いた場合と同様の効果が認められた。
【0078】
従って、上述した試験例1、試験例2の結果により、ニコチン酸アミドとアスコルビン酸を含有するソフトカプセル剤は、アスコルビン酸の2又は3位の水酸基を金属塩とする、又は有機基によって修飾することにより、アスコルビン酸とニコチン酸アミドの複合体形成を抑制し、脂質の流動性の低下及び固化も抑制することができ、その崩壊性を改善し得ることが確認された。
本発明のソフトカプセル剤は、ニコチン酸アミド及びアスコルビン類を含有するソフトカプセル剤において、崩壊性が改善されたソフトカプセル剤に利用できる。また、ニコチン酸アミド及びアスコルビン類を含有する脂溶性の組成物等において、流動性を維持し、固化を抑制する方法を提供することができる。
本発明のソフトカプセル剤、医薬品、医薬部外品、獣医科製品、食品、サプリメント等の様々な分野において活用できるものである。