(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172799
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】浸出液採取装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/153 20060101AFI20231129BHJP
A61B 5/151 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61B5/153 200
A61B5/151
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084871
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038TA02
4C038TA04
4C038UE01
4C038UG01
(57)【要約】
【課題】血糖値など生化学物質濃度の測定精度に悪影響を与えることなく、正常な角質を有する皮膚に適用して効率よく吸引し浸出液を採取できる浸出液吸引手段を提供する。
【解決手段】生体表面から浸出液を浸出させるために中実型マイクロニードルアレイと該マイクロニードルアレイの基板の中央に設けた浸出液吸引のための吸引口とを一端に有する吸引セルと、該吸引セルの吸引口の他端に連結している吸引チューブと、を備える浸出液採取装置であって、該吸引セルを該生体表面に密着させて該マイクロニードルアレイの針先端部が該生体表面に直接接触し、該吸引チューブから減圧して、該吸引口により該吸引セル内に減圧を与えて浸出液を体表面から外部吸引することを特徴とする浸出液採取装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面から浸出液を浸出させるために中実型マイクロニードルアレイと該マイクロニードルアレイの基板の中央に設けた浸出液吸引のための吸引口とを一端に有する吸引セルと、
該吸引セルの吸引口の他端に連結している吸引チューブと、を備える浸出液採取装置であって、該吸引セルを該生体表面に密着させて該マイクロニードルアレイの針先端部が該生体表面に直接接触し、該吸引チューブから減圧して、該吸引口により該吸引セル内に減圧を与えて浸出液を体表面から外部吸引することを特徴とする浸出液採取装置。
【請求項2】
前記マイクロニードルアレイの基板の直径が5mm~20mmである、請求項1に記載の浸出液採取装置。
【請求項3】
前記マイクロニードルアレイの針長さが200μm~2mmである、請求項1に記載の浸出液採取装置。
【請求項4】
前記マイクロニードルアレイの針密度が5本/平方cm~800本/平方cmである、請求項1に記載の浸出液採取装置。
【請求項5】
前記マイクロニードルアレイの針の配置が基板の周囲部に集中している、請求項1に記載の浸出液採取装置。
【請求項6】
前記マイクロニードルアレイの基板上に中心より放射状に外方に伸びる複数の流路溝を有する、請求項1に記載の浸出液採取装置。
【請求項7】
前記吸引セルの外周部が粘着性を有するシール部材で支持されている、請求項1に記載の浸出液採取装置。
【請求項8】
0.001μL/分~10μL/分の浸出液を採集するものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の浸出液採取装置。
【請求項9】
連続1時間以上浸出液を採集するものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の浸出液採取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸出液採取装置に関する。詳しくは、生体表面から微量の間質液である浸出液を採取する手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体内のグルコース濃度、乳酸、尿素窒素などの化学物質濃度の連続測定は、一般的に採血して測定していた。しかし、採血に伴う患者の苦痛や医療側の労力が必要で、感染、失血などの肉体的、精神的苦痛を取り除くことができない問題があった。
【0003】
これらの問題を解決する方法として、局部的に皮膚から血液の代わりに間質液を抽出し、この浸出液をセンサーで体内の成分濃度を測定する方法が開発された(特許文献1、2)。これらの方法は、浸出液が装置内で詰まる、角質層を除去した皮膚面に適用しなければならない、あるいは装置が複雑で操作が不便、等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-341241号公報
【特許文献2】特開平9-66033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、血糖値など生化学物質濃度の測定精度に悪影響を与えることなく、正常な角質を有する皮膚に適用して効率よく吸引し浸出液を採取できる浸出液採取装置およびその採取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、皮膚の角質層を介してマイクロニードルを用いて浸出させた浸出液を吸引口側に効率より送液する事が出来、減圧吸引により浸出液を採取出来る装置を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 生体表面から浸出液を浸出させるために中実型マイクロニードルアレイと該マイクロニードルアレイの基板の中央に設けた浸出液吸引のための吸引口とを一端に有する吸引セルと、
該吸引セルの吸引口の他端に連結している吸引チューブと、を備える浸出液採取装置であって、該吸引セルを該生体表面に密着させて該マイクロニードルアレイの針先端部が該生体表面に直接接触し、該吸引チューブから減圧して、該吸引口により該吸引セル内に減圧を与えて浸出液を体表面から外部吸引することを特徴とする浸出液採取装置。
〔2〕 前記マイクロニードルアレイの基板の直径が5mm~20mmである、〔1〕に記載の浸出液採取装置。
〔3〕 前記マイクロニードルアレイの針長さが200μm~2mmである、〔1〕に記載の浸出液採取装置。
〔4〕 前記マイクロニードルアレイの針密度が5本/平方cm~800本/平方cmである、〔1〕に記載の浸出液採取装置。
〔5〕 前記マイクロニードルアレイの針の配置が基板の周囲部に集中している、〔1〕に記載の浸出液採取装置。
〔6〕 前記マイクロニードルアレイの基板上に中心より放射状に外方に伸びる複数の流路溝を有する、〔1〕に記載の浸出液採取装置。
〔7〕 前記吸引セルの外周部が粘着性を有するシール部材で支持されている、〔1〕に記載の浸出液採取装置。
〔8〕 0.001μL/分~10μL/分の浸出液を採集するものである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の浸出液採取装置。
〔9〕 連続1時間以上浸出液を採集するものである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の浸出液採取装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の装置は、マイクロニードルを用いて減圧吸引により浸出させた浸出液を吸引口側に効率よく送液する事が出来、浸出液を容易に採取することができる。また、浸出液の生体内成分濃度を計測する場合、減圧吸引の管中に体液成分測定センサーをセットすることにより、精度良く浸出液の成分濃度を連続して測定することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の浸出液採取装置の概略を示す断面図及び底面図。底面図は、生体表面に適用される方向から見た図である。
【
図2】本発明の浸出液採取装置を皮膚表面に適用した状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の装置の第1の特徴は、生体表面から浸出液を浸出させるために中実型マイクロニードルを表面に有するマイクロニードルアレイを含む吸引セルを備える。本発明の装置を用いて、特に微量な浸出液を採集することにより、体への負担が小さく、連続長時間(数日間)における体内情報の分析ができる。また、吸引間隔を事前のプログラミングにより制御することが可能である。様々な分析目的に応じて、浸出液の吸引量も制御することが可能である。浸出液の吸引量は、0.001μL/分~10μL/分が好ましい。
【0010】
本発明について、図面を参照して説明する。
図1は、吸引セル5の断面図及び底面図、及びその上部(上部はマイクロニードルがある面の反対面をいう)に取り付ける吸引チューブ6を示す。
図2は、吸引セル5を皮膚8に適用した状態を示す。詳細を以下に述べる。
【0011】
図1の底面図には、中実型マイクロニードルが林立しているマイクロニードルアレイ1が示されている。吸引セル5の形状は、マイクロニードルアレイ1の基板の形状と一致し、円形が望ましいが、楕円形、8角形、等も可能である。
円形の場合の直径は、5mm~20mmが望ましい。5mmより小さいと、総針本数が少なく必要な浸出液を採取するのに長時間を要する。20mmより大きいと、皮膚の持つ凹凸に追随できなくなる恐れがある。
中実型マイクロニードルの針長さは、200μm~2mmである。針長さが200μm未満では、皮膚の凹凸を考慮すると十分な深さに全ての針が穿刺できない恐れがある。針長さが2mmを超えると、出血の恐れが大きい。
中実型マイクロニードルの針の太さは、先端直径において10μm~100μmである(円錐台形の場合)。10μm未満では針の強度が皮膚穿刺により曲がりやすい。また100μmを超えると、太すぎて皮膚穿刺性が悪化する。針形状は、円錐台形、ピラミッド形、あるいはコニーデ形、等がよい。根元太さは50μm~2mmであり、針の長さ、形状により適宜決定される。
中実型マイクロニードルの針密度は、5本/平方cm~800本/平方cmである。5本/平方cm未満では浸出液の浸出量が少なすぎる、800本/平方cmを超えると針密度が高すぎて皮膚への穿刺性が悪化する。
【0012】
外周部2は、吸引セル5の外縁を規定するものであり、マイクロニードルアレイ1の基板よりも高く(基板よりも皮膚に向かって突出しており)、通常、数十μm高い。外周部2の役割は、吸引セル5を皮膚表面に適用して吸引口3を通じて真空吸引するに際し、マイクロニードルアレイ1への外部からの空気の流入を妨げ、吸引セル5と皮膚で囲まれた空間内の減圧度を保持することである。
外周部2は、
図1においてはマイクロニードルの材質と同じであるが、それに限定されることなく、適度な太さ直径を有するゴムリング、シリコーンリングを用いても良い。
【0013】
マイクロニードルアレイ1の材質は、非水溶性であり穿刺に耐える機械的強度を有する材料であればよい。高分子化合物であれば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリグリコール酸とポリ乳酸との共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール、等が成型性の点から望ましい。ステンレス、鉄などの金属を加工してもよい。シリカの加工によっても可能である。
【0014】
吸引チューブ6は、吸引セル5に設けられた吸引口3上部(皮膚とは反対側)の開口部に接続している。吸引チューブ6を通じて吸引セル5を減圧にし、マイクロニードルの穿刺による穿刺穴から間質液が皮膚上に集まる。それがさらに中央部に移動し、吸引チューブ6を通じて体外へ移動する。
図1に示すように、マイクロニードルアレイ1の基板に中心より放射状に外方に伸びる複数の流路溝4を作製し、液体の中央部への移動を促進しても良い。流路溝4の本数、及び中央部での深さ、などは適宜定めることができる。本数は4~8本がよく、溝の深さは中央部で40~100μmが望ましい。
吸引チューブ6は、内径が0.2mmから1mmが望ましい。吸引チューブ6の吸引セル5への装填が容易なように、吸引口3上部(皮膚とは反対側)の開口部に嵌合部を設けてもよい。
【0015】
図2は、本発明の装置を皮膚に適用した状態である。吸引セル5をアプリケータ等により皮膚に適用する。
図2においては、中実型マイクロニードルが皮膚表面に穿刺している。体液または組織の採取のためには、中空型の針を用いて中空針を通過させて体液または組織を採取することが一般的であるが、本発明では中実型のマイクロニードルを使用することが特徴である。中実型のマイクロニードルは、皮膚表面の穿刺を行う目的のみに使用し、上述した大きさであるので、皮膚への痛みはほとんど感じることはない。
吸引セル5の外周部には、吸引セル5の皮膚表面8への適用を安定化し減圧を保持するために、保護具を設置することが好ましい。保護具としては特に制限はないが、空気不透過な支持体にラミネートされた粘着剤テープが本発明の目的にかなう。
チューブにより減圧された吸引セルを装着する際に吸引セルをより安定に皮膚に保持するためには、粘着性を有するシール部材で支持されていることが望ましい。具体的には、支持体に塗布された粘着テープで吸引セルを覆い、セルを固定させることが望ましい。粘着テープの材質は特に制限はないが、皮膚への密着性と支持体を含めての空気遮断性があればよい。
【0016】
図2は、皮膚表面8に適用された吸引セル5及びそれを保護する粘着テープ7を示す。保護具としての粘着テープ7は、吸引セル5の皮膚適用の前であっても皮膚適用直後であってもよい。保護具により安定的に皮膚適用された吸引セル5の上部に吸引チューブ6を取り付け減圧にすることにより、浸出液の採取が開始される。
小型真空ポンプで減圧すると、浸出液が皮膚から吸引セル5次いで吸引チューブ6内に送達される。このような浸出液吸引において、小型真空ポンプは種々のタイプが市販されている。例えば、身につけることができるようなポンプもあり、これを用いれば、採取装置と皮膚面間では確実に減圧吸引が保持され、移動も可能である。
【実施例0017】
以下、本発明を下記実施例によりさらに詳しく説明する。これら実施例は、単に本発明を具体的に説明するための例であり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1
健常被験者上腕で試験した。マイクロニードルパッチ直径は1.3cmの円形の吸引セルを用いた。マイクロニードルの針長さは800μmであり、針本数は550本であった。針面には溝は設けなかった。チューブの内径は1mmであった。吸引セルは、
図2のようにアルミ支持体塗布粘着円形テープ(直径:5cm)により皮膚に密着保護した。真空ポンプで減圧とし0.3気圧すると、マイクロニードルパッチ下面と皮膚面との空間は0.3気圧に保持され、浸出液が皮膚から採取された。チューブ内の浸出液量をマイクロシリンジで測定したところ、20分で15μLであった。