(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172804
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】抗菌組成物ならびにそれを用いた飲食品および化粧品
(51)【国際特許分類】
A23L 3/34 20060101AFI20231129BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20231129BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231129BHJP
A23L 2/44 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
A23L3/34
A61K8/9789
A61Q19/00
A23L2/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084876
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】峰 正樹
(72)【発明者】
【氏名】黒瀧 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【テーマコード(参考)】
4B021
4B117
4C083
【Fターム(参考)】
4B021LW06
4B021LW10
4B021MC01
4B021MK05
4B021MP01
4B021MQ04
4B117LC15
4B117LG01
4B117LP01
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC122
4C083BB48
4C083CC01
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE01
4C083EE06
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】 最終的に得られる製品に対して強い酸味や酸臭を付与することなく、酵母等の微生物に対して優れた抗菌性を発揮し得る抗菌組成物ならびにそれを用いた飲食品および化粧品を提供することにある。
【解決手段】 本発明の抗菌組成物は、ザクロ抽出物を有効成分として含有する。このザクロ抽出物が、0.1質量%のギ酸水溶液(A液)から0.1質量%のギ酸アセトニトリル溶液(B液)へのグラジエントを用いる液体クロマトグラフィー質量分析において、選択イオンモニタリング(SIM)モードでのm/z274にピークを有するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ザクロ抽出物を有効成分として含有する、抗菌組成物であって、
該ザクロ抽出物が、0.1質量%のギ酸水溶液(A液)から0.1質量%のギ酸アセトニトリル溶液(B液)へのグラジエントを用いる液体クロマトグラフィー質量分析において、選択イオンモニタリング(SIM)モードでのm/z274にピークを有するものである、抗菌組成物。
【請求項2】
前記ザクロ抽出物が水溶性である、請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
前記ザクロ抽出物が、果皮を含むザクロ果実から得た抽出物である、請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項4】
飲食品材料と請求項1から3のいずれかに記載の抗菌組成物とを含有する、飲食品。
【請求項5】
化粧品材料と請求項1から3のいずれかに記載の抗菌組成物とを含有する、化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌組成物ならびにそれを用いた飲食品および化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲食品の製造時や保存中における、腐敗、劣化に関与する微生物の発生やその増殖を抑制するために、種々の抗菌剤が提案されている。抗菌剤の有効成分については、安全性が高く食経験の豊富なものが求められ、例えば、エタノール、グリシン、有機酸およびその塩(例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸、乳酸)などが用いられている。
【0003】
例えば、酢酸および酢酸ナトリウムには食品へのカビ抑制効果があることが知られている。しかし、カビ抑制効果をより高いものとするために配合量を増量すると、製剤自体の酸臭が強まり、最終飲食品に強い酸味や酸臭が付与されることがあった。
【0004】
このことから、抗菌剤の有効成分の使用に当たっては、使用する飲食品本来の風味、香り、粘度等に対する影響を与えにくい成分を選択するか、有効成分の使用量を可能な限り減らして使用することが求められている。
【0005】
なお、飲食品の腐敗、劣化に関与する微生物としては、細菌やカビに加え、酵母も挙げられる。特に既存の日持ち向上剤での抑制が困難であるという点で酵母への抗菌効果を発揮する抗菌剤の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、最終的に得られる製品に対して強い酸味や酸臭を付与することなく、酵母等の微生物に対して優れた抗菌性を発揮し得る抗菌組成物ならびにそれを用いた飲食品および化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ザクロ抽出物を有効成分として含有する、抗菌組成物であって、
該ザクロ抽出物が、0.1質量%のギ酸水溶液(A液)から0.1質量%のギ酸アセトニトリル溶液(B液)へのグラジエントを用いる液体クロマトグラフィー質量分析において、選択イオンモニタリング(SIM)モードでのm/z274にピークを有するものである、抗菌組成物である。
【0008】
1つの実施形態では、上記ザクロ抽出物は水溶性である。
【0009】
1つの実施形態では、上記ザクロ抽出物は、果皮を含むザクロ果実から得た抽出物である。
【0010】
本発明はまた、飲食品材料と上記抗菌組成物とを含有する、飲食品である。
【0011】
本発明はまた、化粧品材料と上記抗菌組成物とを含有する、化粧品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酵母等の広範な微生物に対して優れた抗菌効果を発揮することができる。本発明の抗菌組成物はまた、芳香、風味、味等を損なうことなく飲食品および化粧品の構成材料としてそのまま使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)、ならびに比較例1~3のザクロ抽出物(C1)、(C2)および(C3)の液体クロマトグラフィー質量分析(Scanモード)の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)のマス(MS)スペクトルである。
【
図3】実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)、ならびに比較例1~3のザクロ抽出物(C1)、(C2)および(C3)の液体クロマトグラフィー質量分析(SIMモード)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明について詳述する。
【0015】
(抗菌組成物)
本発明の抗菌組成物はザクロ抽出物を有効成分として含有する。
【0016】
ここで、本明細書中に用いられる用語「抗菌」とは、微生物の増殖または生育を制御することを包含して言う。
【0017】
本発明の抗菌組成物が抗菌効果を発揮し得る微生物の種類は特に限定されず、例えば、細菌類(耐熱菌、大腸菌群など)および真菌類(酵母、カビなど)が挙げられる。微生物の具体的な例としては、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)などの細菌、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・カカオイ(Candida cacaoi)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)などの不完全酵母、ウィッカーハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus)、サッカロマイセス・セレビシエ(Sacchatomyces cerevisiae)などの酵母が挙げられる。
【0018】
ザクロ(学名Punica granatum.、英名Pomegranate)は、セキリュウ、石榴とも呼ばれるザクロ科の植物であり、原産地の中近東だけでなく亜熱帯地方で広く栽培されている。ザクロ抽出物の調製に使用されるザクロの部位としては、果実の一部(例えば、果皮、果肉、種皮および種子、ならびにそれらの組み合わせを包含する)、および果実の全部(例えば、果皮、果肉、種皮および種子のすべてを含有する)のいずれであってもよい。
【0019】
ここで、本明細書における用語「ザクロ抽出物」は、ザクロ生果(未乾燥果実)または果実乾燥物をそのまま、あるいは破砕または粉砕して溶媒で抽出して得られる抽出物と、ザクロ生果および/または果実乾燥物を圧搾して得られる果汁と、それらの組み合わせとを包含して言う。
【0020】
本発明におけるザクロ抽出物は好ましくは水溶性であり、より好ましくは水、エタノール、またはそれらの組み合わせから構成される水性溶媒を用いて抽出されたものである。
【0021】
ザクロ抽出物はまた、フォーリンチオカルト法にて算出された没食子酸に換算して、好ましくは0.5(w/w)%~85(w/w)%、より好ましくは5(w/w)%~70(w/w)%のポリフェノールを含有する。フォーリンチオカルト法では、フェノール性水酸基の還元作用により、試薬の色調を変化させ吸光度で測定する。例えば、液状のザクロ抽出物の濃縮または凍結乾燥によって、より高いポリフェノール量のザクロ抽出物を得ることができる。当該ポリフェノールの含有量が0.5(w/w)%を下回ると、そのような抽出物は、満足し得る抗菌性を有さないことがある。ポリフェノールの含有量が85(w/w)%を上回る抽出物は、実質的に工業的に生産することが困難となることがある。
【0022】
本発明の抗菌組成物を構成するザクロ抽出物は、一般的なザクロ抽出物と比較して明らかに異なる点を有する。すなわち、本発明におけるザクロ抽出物は、0.1質量%のギ酸水溶液(A液)から0.1質量%のギ酸アセトニトリル溶液(B液)へのグラジエントを用いる液体クロマトグラフィー質量分析において、選択イオンモニタリング(SIM)モードでのm/z274にピークを有する。
【0023】
液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)の一種に分類されており、液体中の成分を固定相と移動相の相互作用の差を用いて分離し、質量検出器で検出する手法である。
【0024】
一般に、液体クロマトグラフィー(LC)は、試料中の各成分の固定相と移動相に対する親和性(保持力)の差によって成分を分離し、各成分の性質によって吸光度や蛍光強度、電気伝導度などの測定が行われる分析方法である。一方、質量分析(MS)は試料中の成分を所定の方法でイオン化させ、得られたイオンを真空中で質量と電荷との比(m/z)により、各イオンの強度が測定される分析方法である。
【0025】
これに対し、LC/MSは、分離能力に優れた上記LCと定性能力に優れた上記MSを結合した装置であり、選択イオンモニタリング(SIM)モードでの分析によって成分のm/zごとに単一のクロマトグラムが抽出できる。これにより、成分の判別および定量が可能である。
【0026】
ここで、本発明においては、実施例に記載するように様々なザクロ抽出物を用いて微生物に対する抗菌試験を実施した結果、特に優れた結果を有するザクロ抽出物のLC/MS分析のSIMモードにおいて、m/z274にて特異的なピークが出現していることを見出した。反対に言えば、このSIMモードにおけるm/z274にピークが出現していないザクロ抽出物は、上記ピークが出現しているものと比較して、種々の微生物の対する抗菌性が劣る傾向があることがわかった。
【0027】
なお、本発明の抗菌組成物に含まれるザクロ抽出物では、LC/MS分析におけるSIMモードのm/z274のピーク面積が、好ましくは250,000カウント・秒~4,000,000カウント・秒、より好ましくは1,000,000カウント・秒~3,000,000カウント・秒の範囲を満たす。ピーク面積がこのような範囲内に含まれていることにより、当該ザクロ抽出物は、上記微生物に対して一層効果的に抗菌効果を発揮することができる。
【0028】
ザクロ抽出物のLC/MS分析にあたり、ザクロ抽出物から以下のようにしてLC/MSサンプルが作製される。
【0029】
まず、測定するザクロ抽出物の濃度を水で希釈して1質量%の水溶液が調製される。その後、この水溶液は所定時間をかけて混合かつ遠心分離にかけられ、上清が回収される。回収された上清は例えば水で100倍にさらに希釈され、所定のフィルターでろ過される。これにより、LC/MS用の測定サンプルを得ることができる。
【0030】
このようにして得られたLC/MS用の測定サンプルから、SIMモードにおける分析条件は、使用するLC/MS分析装置によって適宜当業者にて選択され得る。
【0031】
このような特徴的なピークを有するザクロ抽出物は、好ましくは、果皮を含むザクロ果実から得た抽出物である。ザクロの果皮は、例えば漢方薬・生薬の1種である、石榴実皮(原名:安石榴))として珍重されている。石榴実皮は、ザクロ科のザクロの成熟果実の果皮を乾燥したものである。通常、石榴の果皮には、例えば約28質量%のタンニン類を含み、かつ加水分解後にエラグ酸を生じるものとして知られている。すなわち、上記「果皮を含むザクロ果実から得た抽出物」は、このようなザクロの果皮を利用して得られたザクロ抽出物であり、例えば、ザクロ果実をその果皮を有した状態のまま用いて抽出したもの、およびザクロ果皮のみを用いて抽出したもの、のいずれも包含する。
【0032】
本発明において、ザクロ抽出物は、例えば以下のようにして作製され得る。
【0033】
まず、石榴実皮のようなザクロ部位1重量部に対して上記水性溶媒を、好ましくは1重量部~50重量部、より好ましくは5重量部~25重量部にて常温で撹拌しながら添加され、必要に応じて加温される。これによりザクロ部位から所定の抽出成分を溶出させることができる。その後、濾別によって濾液を回収し、必要に応じて水性溶媒を留去することにより、液状またはペースト状のザクロ抽出物を得ることができる。このようなザクロ抽出物は、さらに必要に応じて当業者に公知の方法で凍結乾燥等が行われ、固形状(例えば粉末状)の形態にしてもよい。さらに当該ザクロ抽出物は、当業者に公知の手段を用いて精製されたものであってもよい。
【0034】
本発明の抗菌組成物は、上記ザクロ抽出物以外に他の成分を含有していてもよい。他の成分の例としては、pH調整剤、乳化剤、分散剤、賦形剤、糖類、保存料、日持向上剤、酸味料、調味料、アルコール、甘味料、増粘剤、酸化防止剤、着色料、香料、香辛料、食塩、およびアミノ酸、ならびにそれらの組み合わせなどの飲食品または食品添加物に許容され得る成分が挙げられる。抗菌組成物中の他の成分の含有量は、抗菌組成物の抗菌性を損なわない範囲において、当業者によって適宜設定され得る。
【0035】
本発明の抗菌組成物はまた、別の抗菌性成分をさらに含むものであってもよい。このよう別の抗菌性成分の例としては、エタノール、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、チアミンラウリル硫酸塩、リゾチーム、ポリリジン、安息香酸、プロピオン酸、ソルビン酸、有機酸およびその塩(例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸、乳酸、フマル酸一ナトリウム)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。抗菌組成物中の別の抗菌性成分の含有量は、抗菌組成物の抗菌性を損なわない範囲において、当業者によって適宜設定され得る。
【0036】
(飲食品および化粧品)
【0037】
上記のように得られた抗菌組成物は、例えば、飲食品や化粧品の製造に際して添加され得る。
【0038】
本発明の飲食品は、飲食品材料と上記抗菌組成物とを含有する。
【0039】
ここで、本明細書中に用いられる用語「飲食品」とは、食品および飲料を包含していう。飲食品の例としては、特に限定されないが、例えば、惣菜類、カット野菜、野菜サラダ、ボイル後野菜、ボイル後魚介類(例えば、エビ、貝類)、ボイル後肉類、米飯類、麺類・餃子皮・パン等の穀粉(例えば小麦粉)加工品、穀粉、菓子・ケーキ類(例えば、洋菓子、和菓子、中華菓子など)、飴類(例えばキャラメル)、冷菓(例えば、アイスクリーム、アイスミルク、氷菓、ゼリーなど)、グミ、米飯、惣菜、汁物、スープ、めんつゆ(例えばうどんつゆ、そばつゆなど)、ソース、たれ、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、ハム・ソーセージ類、畜産加工品、水産練り製品、水産加工品、農産・林産加工食品、乳・乳製品、油脂・油脂加工品、冷蔵食品、冷凍食品、調味料、酒類、清涼飲料(例えば、ジュース、コーヒー、茶、麦芽飲料、発泡飲料)などが挙げられる。食品の「原材料」として、食品の製造に通常用いられる食物(例えば、穀類(米、パン、麺等)、魚、肉、卵、乳製品、豆類、野菜、果物、きのこ等)、調味料(砂糖、塩、酢、醤油、味噌等)などが挙げられる。
【0040】
また、飲食品材料は、これらの飲食品を構成するために必要される、上記抗菌組成物以外材料を包含していう。飲食品材料に対する上記抗菌組成物の含有量は特に限定されない。使用する飲食品材料の種類や目的に応じて上記抗菌組成物の適切な量が当業者によって適宜選択され得る。
【0041】
本発明の化粧品は、化粧品材料と上記抗菌組成物とを含有する。
【0042】
化粧品の例としては、髪油、染毛料、スキ油、セットローション、チック、びん付油、ヘアクリーム、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアスプレー、ポマードなどの頭髪用化粧品類;髪洗い粉、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメントなどの洗髪用化粧品類;(一般)化粧水、アフターシェービングローション、オーデコロン、シェービングローション、ハンドローション、日焼けローション、日焼け止めローションなどの化粧水類;アプターシェービクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、シェービングクリーム、乳液、バニシングクリーム、ハンドクリーム、日焼けクリーム、日焼け止めクリームなどのクリーム類;パック用化粧料のようなパック類;クリーム状ファンデーション、液状ファンデーション、固形ファンデーションなどのファンデーション類;クリームおしろい、固形おしろい、粉おしろい、タルカムパウダー、練おしろい、ベビーパウダー、ボディパウダー、水おしろいなどの白粉打粉類;口紅、リップクリームなどの口紅類;アイクリーム、アイシャドー、アイラィナー、頬紅、マスカラ、眉墨などの眉目頬化粧品類;美爪エナメル、美爪エナメル除去液などの爪化粧品類;(一般)香水、練香水、粉末香水などの香水類;バスオイル、バスソルト、入浴剤などの浴用化粧品類;化粧用油、ベビーオイルなどの化粧用油類;洗顔クリーム、肌洗い粉、洗顔フォームなどの洗顔料類;および化粧石鹸などの石鹸類;歯磨き、デンタルリンス、洗口液などの歯磨き類;が挙げられる。
【0043】
また、化粧品材料は、これらの化粧品を構成するために必要される、上記抗菌組成物以外材料を包含していう。化粧品材料には、化粧品を構成する添加剤も包含される。このような添加剤の例としては、疎水性剤、滑剤、酸化防止剤、香料ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。疎水性剤の例としては、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類、液状炭化水素油、植物油、および精油、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。滑剤の例としては、流動パラフィン、合成蜜蝋、天然蜜蝋、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。酸化防止剤の例としては、トコフェノール、トコトリエノールなどのビタミンE;BHAなどのフェノール系酸化防止剤;グリシン、システインなどのアミノ酸;クエン酸などの有機酸;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
本発明の飲食品および化粧品において、上記抗菌組成物は例えば日持ち向上剤として作用し得る。「日持ち向上剤」とは、日持ち向上剤を添加していないと比較して、無添加の場合と比較して、微生物の増殖および生育を制御することにより、飲食品または化粧品の品質の維持を一定期間延長することができる。
【0045】
上記抗菌組成物を飲食品材料または化粧品材料に適用する場合、種々の方法が採用され得る。例えば、抗菌組成物が適用時に液状形態(例えば、溶液または懸濁液)を有している場合、抗菌組成物を含む浴中に飲食品材料や化粧品材料を浸漬してもよく、あるいは抗菌組成物を、飲食品材料または化粧品材料に対して塗布または噴霧してもよい。あるいは、抗菌組成物が液状、ペースト状、粉末状、またはこれらの組み合わせの形態を有する場合は、例えば飲食品材料または化粧品材料に当該抗菌組成物を添加し、必要に応じて混合または練り込みを行う方法が採用されてもよい。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1:ザクロ濃縮液(E1)の作製)
ザクロの生果実(カリフォルニア産)を果皮がついた状態のままフードプロセッサーで粉砕し、ザクロ粉砕物の全量を1重量部とした場合に対して水10重量部を加えて80℃に加温し、120分間かけて抽出した。この抽出物を室温程度に冷却した後、吸引ろ過にて原材料および不溶性成分を除去してザクロ抽出液を得た。得られたザクロ抽出液をハロゲン水分計に供して固形分含量を測定したところ抽出液中の固形分は5.0%であった。
【0048】
このザクロ抽出液をエバポレーターにより減圧濃縮し、後述の測定例1の方法を用いてザクロ抽出液中のポリフェノール量を定量し、最終的に若干量の水を添加して、ポリフェノール量が10(w/w)%であるザクロ濃縮液(E1)を得た。
【0049】
(測定例1:ザクロエキスのポリフェノール測定)
ザクロ抽出液を段階希釈し、固形分として100ppmとなるように調整した。調整した液を試験管に2mLずつ分注し、フォーリンチオカルト試薬5mLを加え、撹拌後5分間静置した。次いで、7.5重量%炭酸ナトリウム水溶液を4mL加え、撹拌後60分間静置した後、765nmの吸光度を測定した。得られた吸光度を、没食子酸で作製した検量線を用いて、ポリフェノール量として算出した。
【0050】
(測定例2:ポリフェノール量の比較)
製造者および型番が互いに異なる市販のザクロ抽出物(C1)、(C2)および(C3)(比較例1~3)に含まれるポリフェノール量を測定例1と同様にして測定した。次いで、後述の試験例1における抗菌活性の評価のため、これらを実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)と同様のポリフェノール量(10(w/w)%)に調製するための希釈倍率を算出した。結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
(測定例3:抗菌活性の評価)
比較例1~3のザクロ抽出物(C1)~(C3)を、表1に示す希釈倍率にて水で希釈して、ポリフェノール量が10(w/w)%であるサンプル溶液(SC1)、(SC2)および(SC3)を調製した。一方、実施例1で得られたサンプル濃縮液(E1)は希釈することなく、そのままサンプル溶液(SE1)とした。
【0053】
サンプル溶液(SE1)および(SC1)~(SC3)をボルテックスで1分間撹拌し、その後10000rpmにて10分間遠心分離にかけ、その後上清を回収した。この上清に10倍量の水を添加して、各サンプル溶液中のポリフェノール量を1(w/w)%に調製した(この調製した上澄みを、以降「ポリフェノール量を1(w/w)%に調製したサンプル溶液」という)。
【0054】
このポリフェノール量を1(w/w)%に調製したサンプル溶液(SE1)および(SC1)~(SC3)を複数の標準寒天培地に添加して、各ポリフェノール量が100~2000ppmの範囲内で100ppm毎に変動する濃度となるように調製した培地を作製した。次いで、これらの作製した培地に、対象菌として以下の表2に示す酵母のいずれかを含み、かつ104CFU/mL程度に希釈した菌液を10μLずつ接種した。
【0055】
【0056】
その後、25℃・72時間培養した後、各培地におけるコロニーの有無を目視にて確認し、コロニーが確認されなくなる培地のポリフェノール量(濃度)をMICとした。結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
表3に示すように、実施例1および比較例1~3のザクロ濃縮液(E1)およびザクロ抽出物(C1)~(C3)からそれぞれで調製したサンプル溶液(SE1)および(SC1)~(SC3)のいずれについても、各対象菌に対する抗菌活性が認められた。このうち、実施例1のザクロ濃縮液(E1)から調製したサンプル溶液(SE1)が、比較例1~3より調製された他のサンプル溶液(SC1)~(SC3)と比較して著しく低い濃度(ポリフェノール量)で制菌効果を発揮できたことがわかる。
【0059】
(測定例4:液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)(1))
実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)および比較例1~3のザクロ抽出物(C1)~(C3)をそれぞれのポリフェノール量が1(w/w)%となるまで水で希釈した。その後、ボルテックスで10000rpmにて10分間遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を水で100倍量に希釈し、孔径0.45μmのメンブレンフィルタでろ過することにより、LC/MS用のサンプル溶液を得た。
【0060】
得られたLC/MS用のサンプル溶液を用いて、液体クロマトグラフィー質量分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製G6160AA型)により表4に示す測定条件により、Scanモード(m/z100~1200)の測定(ポジティブ測定)を行った。
【0061】
【0062】
結果を
図1に示す。
図1の(a)~(d)に示すように、実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)および比較例1~3のザクロ抽出物(C1)~(C3)のScanモードにおけるLC/MSスペクトルは、ザクロ濃縮液(E1)においてリテンションタイム約4.5分に特徴的なピークを観察した。当該ピークのMSスペクトルを観察したところ、m/z274のピークを検出した。
【0063】
(測定例5:液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)(2))
一方、
図2に示すように、実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)のマス(MS)スペクトル(アジレント・テクノロジー株式会社製G6160AA型を上記表4の測定条件で使用)では、リテンションタイム約4.5分のピークから、m/z274に特定の成分が含まれていることを確認した。
【0064】
このことから、測定例4と同様にして、実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)および比較例1~3のザクロ抽出物(C1)~(C3)からLC/MS用のサンプル溶液を作製し、液体クロマトグラフィー質量分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製G6160AA型))により表5に示す測定条件により、SIMモード(m/z274)での測定を行った。
【0065】
【0066】
結果を
図3に示す。
図3の(a)~(d)に示すように、実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)および比較例1~3のザクロ抽出物(C1)~(C3)のSIMモードにおけるLC/MSスペクトルは、m/z274においてザクロ濃縮液(E1)にのみ特異的なピーク(リテンションタイム:約4.5分)が出現しており、他のザクロ抽出物(C1)~(C3)ではこのようなピークを観察することができなかった。なお、このザクロ濃縮液(E1)を用いたLC/MSスペクトル(SIMモード)におけるm/z274のピーク面積は、2,209,444カウント・秒であった。
【0067】
(実施例2、ならびに比較例4および5:飲料の作製と評価)
表6にそれぞれ示す組成(成分および量)で構成される各材料を混合し、簡易の飲料を作製した。得られた飲料を複数の専門家が試飲し、その結果を合議により評価した。結果を表6に示す。
【0068】
【0069】
表6に示すように、比較例5の飲料は、試飲の際に使用した醸造酢に起因する酸味および酸臭が残った。これに対し、醸造酢に代えて実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)を用いた実施例2の飲料は、試飲の際にそのような酸味および酸臭を全く感じなかった。
【0070】
(実施例3、ならびに比較例6および7:化粧水の作製と評価)
表7にそれぞれ示す組成(成分および量)で構成される各材料を混合し、簡易の化粧水を作製した。得られた化粧水を複数の専門家が適量を皮膚に付与し、その結果を合議により評価した。結果を表7に示す。
【0071】
【0072】
表7に示すように、比較例5の化粧水は、皮膚への付与の際に使用した醸造酢に起因する酸臭を感じた。これに対し、醸造酢に代えて実施例1で得られたザクロ濃縮液(E1)を用いた実施例3の化粧水は、皮膚への付与の際にそのような酸臭を全く感じなかった。