(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017281
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】転てつ機
(51)【国際特許分類】
B61L 5/10 20060101AFI20230131BHJP
E01B 7/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B61L5/10 Z
E01B7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121427
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 育雄
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161SS04
5H161SS15
5H161SS21
(57)【要約】
【課題】従来の転てつ機の構造に対して大掛かりな付帯設備の変更をせずに、エスケープクランクのように比較的高負荷要素を含む分岐器にも対応して転換時間を短縮化可能であり、且つ密着力が極端に強くなっても転てつ機が異状なく転換鎖錠を完了できる転てつ機の技術を提供すること。
【解決手段】ピニオンの最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除するまで、鎖錠体と被鎖錠体とが近接状態を維持し、噛み合いが解除する直前にモータ接点をオフにスイッチングし、その後に、慣性による回転動力によって、ピニオンの最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除して鎖錠体と被鎖錠体とが係合状態となり、且つ、転換表示出力接点をオンにスイッチングする構成とした。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転力を減速機構部で減速させた回転動力をもとに、動作かんと、鎖錠かんと、前記鎖錠かんの切欠部に挿抜されることで前記鎖錠かんを鎖錠又は解錠するロックピースとを連動して作動させ、前記モータへの電力供給を停止した後も慣性によって前記回転動力が余力として生じる転てつ機であって、
前記モータの回転力によって回転するピニオンと、
前記ピニオンと噛み合い、前記ピニオンの回転力をもとに前記動作かんを駆動させるための前記動作かんに設けられたラックと、
前記ピニオンと一体に回転する大径部と小径部とを有する異形円板状の鎖錠体と、前記動作かんと一体に移動する被鎖錠体と、を有し、前記鎖錠体の前記大径部の外周面と前記被鎖錠体の係合面とが係合することで前記動作かんの転換解除方向への移動を規制する鎖錠機構部と、
前記ロックピースが前記切欠部に挿入開始された時に前記モータを駆動させる電力供給を停止させるためにオフにスイッチングされるモータ接点と、
前記ロックピースが前記切欠部に挿入完了したことでオンにスイッチングされる転換表示出力接点と、
を備え、
前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除するまで、前記鎖錠体と前記被鎖錠体とが近接状態を維持し、前記噛み合いが解除する直前に前記モータ接点をオフにスイッチングし、その後に、前記慣性による前記回転動力によって、前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除して前記鎖錠体と前記被鎖錠体とが係合状態となり、且つ、前記転換表示出力接点をオンにスイッチングする構成とされた、
転てつ機。
【請求項2】
前記鎖錠体は、前記大径部の外周面と前記小径部の外周面とが接続曲面で連続的に接続された形状を有し、
前記ピニオンは、歯列の一部を欠いた部分ピニオンであり、
前記接続曲面は、前記ピニオンの回転軸方向から見て、前記ピニオンの最終端歯と当該最終端歯の1つ前の歯との間の位置から始まっている、
請求項1に記載の転てつ機。
【請求項3】
前記被鎖錠体は、前記係合面の端部に端曲面を有する、
請求項2に記載の転てつ機。
【請求項4】
前記係合面は、前記大径部の外周面の曲率に対応する凹曲面であり、
前記端曲面は、凸曲面である、
請求項3に記載の転てつ機。
【請求項5】
前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除するまで、前記鎖錠体の前記接続曲面と前記被鎖錠体の前記端曲面との間に隙間がある状態であり、
前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除すると、前記鎖錠体の前記大径部の外周面と前記被鎖錠体の前記係合面とが接触した前記係合状態になる、
請求項3又は4に記載の転てつ機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転てつ機に関する。
【背景技術】
【0002】
転てつ機は、転換を終了した後に鎖錠かんの切欠部にロックピースを挿入させ、挿入が完了したことを回路制御器が検知し、連動装置に転換鎖錠の完了を知らせる信号を送る仕組みである。転換開始から完了までには一定の時間が必要である。転換時間を短くすることができれば、時間当たりの列車本数の増加を実現することができるなど、様々な点で有益である。
【0003】
例えば、新幹線用転てつ機の場合、特許文献2の
図13に示すように1台の転てつ機の動力によって2台のエスケープクランクを介して分岐器を転換鎖錠する仕組みである。このエスケープクランクには分岐器を転換鎖錠する機能があり、転てつ機の転換動作によって転換鎖錠動作を行う。従来の転てつ機は、解錠・転換・鎖錠の一連の動作で分岐器を転換するが、エスケープクランクを介する場合は転換期間中にエスケープクランクの転換鎖錠を行うことになり、エスケープクランクを介在させない場合に比べ転換時間はほぼ2倍となる。仮に、転換時間短縮のために、モータをパワーアップして転換力の増強や高速回転させると、減速歯車や筐体の強度変更、電源や電源ケーブル等の容量変更が生じ、鉄道事業者にとってメリットよりデメリットが増える。鉄道事業者は、従来の付帯設備を変更しない或いは大がかりな変更をせずに転換時間の短縮化を図り、更に転てつ機を小型軽量化し、消費電力は減らしたいと要望している。
【0004】
これらの要望を実現するための技術が、特許文献1と特許文献2で、モータパワーを変更せずにエスケープクランクの動作を利用して転てつ機の鎖錠を行うことで転換時間の短縮化を図った転てつ機の技術(特許文献1)や、小型軽量化を図った転てつ機の技術(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01-192901号公報
【特許文献2】特開2004-262371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
事業者の要望を実現するために、特許文献2の転てつ機を試作して特許文献2の
図13に示すように1台の転てつ機の動力によって2台のエスケープクランクを介して分岐器を転換鎖錠する試験を行ったところ、分岐器の密着力が増加するほどエスケープクランクの鎖錠・解錠区間で負荷が増加し、極端に密着力が強くなると、動作かん鎖錠機構が鎖錠する前に動作かんが停止してしまう恐れがあることが判明した。分岐器の密着力は、転てつ機の保守点検時に分岐器のトングレールと基本レールの接着状態を調整されるが、その後は、分岐器の軌道保守や列車の通過、外気温の変化等によって変動する。従って、特許文献2の転てつ機に関する問題を解消するには、密着力が極端に強くなっても転てつ機が異状なく転換鎖錠を完了できるようにする必要がある。
【0007】
本発明の課題は、従来の転てつ機の構造に対して大掛かりな付帯設備の変更をせずに、エスケープクランクのように比較的高負荷要素を含む分岐器にも対応して転換時間を短縮化可能であり、且つ密着力が極端に強くなっても転てつ機が異状なく転換鎖錠を完了できる転てつ機の技術を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、モータの回転力を減速機構部で減速させた回転動力をもとに、動作かんと、鎖錠かんと、前記鎖錠かんの切欠部に挿抜されることで前記鎖錠かんを鎖錠又は解錠するロックピースとを連動して作動させ、前記モータへの電力供給を停止した後も慣性によって前記回転動力が余力として生じる転てつ機であって、前記モータの回転力によって回転するピニオンと、前記ピニオンと噛み合い、前記ピニオンの回転力をもとに前記動作かんを駆動させるための前記動作かんに設けられたラックと、前記ピニオンと一体に回転する大径部と小径部とを有する異形円板状の鎖錠体と、前記動作かんと一体に移動する被鎖錠体と、を有し、前記鎖錠体の前記大径部の外周面と前記被鎖錠体の係合面とが係合することで前記動作かんの転換解除方向への移動を規制する鎖錠機構部と、前記ロックピースが前記切欠部に挿入開始された時に前記モータを駆動させる電力供給を停止させるためにオフにスイッチングされるモータ接点と、前記ロックピースが前記切欠部に挿入完了したことでオンにスイッチングされる転換表示出力接点と、を備え、前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除するまで、前記鎖錠体と前記被鎖錠体とが近接状態を維持し、前記噛み合いが解除する直前に前記モータ接点をオフにスイッチングし、その後に、前記慣性による前記回転動力によって、前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除して前記鎖錠体と前記被鎖錠体とが係合状態となり、且つ、前記転換表示出力接点をオンにスイッチングする構成とされた、転てつ機である。
【0009】
第2の発明は、前記鎖錠体は、前記大径部の外周面と前記小径部の外周面とが接続曲面で連続的に接続された形状を有し、前記ピニオンは、歯列の一部を欠いた部分ピニオンであり、前記接続曲面は、前記ピニオンの回転軸方向から見て、前記ピニオンの最終端歯と当該最終端歯の1つ前の歯との間の位置から始まっている、第1の発明の転てつ機である。
【0010】
また、第3の発明は、前記被鎖錠体は、前記係合面の端部に端曲面を有する、第2の発明の転てつ機である。
【0011】
また、第4の発明は、前記係合面が、前記大径部の外周面の曲率に対応する凹曲面であり、前記端曲面は、凸曲面である、第3の発明の転てつ機である。
【0012】
また、第5の発明は、前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除するまで、前記鎖錠体の前記接続曲面と前記被鎖錠体の前記端曲面との間に隙間がある状態であり、前記ピニオンの最終端歯と前記ラックの最終歯との噛み合いが解除すると、前記鎖錠体の前記大径部の外周面と前記被鎖錠体の前記係合面とが接触した前記係合状態になる、第3又は第4の発明の転てつ機である。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明の転てつ機によれば、分岐器の密着力が極端に強くなったとしても、転てつ機は少なくとも、ピニオンの最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除する直前まではモータの動力で回転する。エスケープクランクを介して分岐器を動作させる転てつ機として用いる場合であれば、この噛み合いが解除する直前においては、エスケープクランクがすでに鎖錠状態になっていて、ピニオンの回転は歯が抜ける方向なので慣性力程度の力で済み、わずかに動作かんを押し出すことでエスケープクランクの鎖錠状態を更に確実にすることができる。ピニオンの最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除して、鎖錠体と被鎖錠体とが係合状態となり、ロックピースの挿入完了した時点で転換表示出力接点がオンとなり、転てつ機の転換・鎖錠が完了したことを連動装置への信号として伝送することができる。
【0014】
よって、従来の転てつ機の構造に対して大掛かりな付帯設備の変更をせずに、エスケープクランクのように比較的高負荷要素を含む分岐器にも対応して転換時間を短縮化可能であり、且つ密着力が極端に強くなっても転てつ機が異状なく転換鎖錠を完了できる転てつ機を実現できる。
【0015】
第2の発明によれば、接続曲面は、ピニオンの回転軸方向から見て、ピニオンの最終端歯と当該最終端歯の1つ前の歯との間の位置から始まっている。鎖錠体の端面に着目して言い換えれば、特許文献2では当該端面(特許文献2の
図3~
図7における直線部28)はピニオン中心(特許文献2の
図3~
図7における歯合部22の最終端歯の中心)にあるが、第2の発明では当該端面はピニオン中心より先端側(最終端歯の1つ前の歯の側)となる。
【0016】
第3の発明によれば、第2の発明のように鎖錠体の端面がピニオン中心より先端側(最終端歯の1つ前の歯の側)にすると鎖錠体と被鎖錠体とが係合開始時の当たりが強くなりスムーズな係合を阻害する。しかし、被鎖錠体の係合面の端部に端曲面を設けたことで、スムーズに係合ができるようになる。
【0017】
第4の発明によれば、端曲面から係合面への面の繋がりがスムーズになり、鎖錠体と被鎖錠体との係合開始からの接触抵抗を低減できる。
【0018】
第5の発明によれば、ピニオンの最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除するまで、鎖錠体の大径部の外周面と被鎖錠体の係合面との間に隙間が空くように構成することで、ピニオンとラックの噛み合いが解除されるまでの鎖錠機構部の摺動抵抗・摺動磨耗を無くすことができる。そして、ピニオンの最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除すると、鎖錠体の大径部の外周面と被鎖錠体の係合面とが接触した係合状態になって、動作かんを転換完了位置に停止させることができ、且つ、動作かんに鎖錠体方向の外力が加わっても移動できない鎖錠状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図1におけるY軸正方向に転てつ機を見た図。
【
図4】転てつ機の動作を説明するための図(その1)。
【
図5】転てつ機の動作を説明するための図(その2)。
【
図6】転てつ機の動作を説明するための図(その3)。
【
図7】転てつ機の動作を説明するための図(その4)。
【
図8】転てつ機の動作を説明するための図(その5)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の例を説明するが、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限られないことは勿論である。
【0021】
図1は、本実施形態の転てつ機の内部構造を上から見た図であって、動作かん周りの構造のうち本実施形態に係る主要部を中心に示した図である。
図2は、
図1におけるY軸正方向に転てつ機を見た図である。但し、理解を容易にするために一部の要素の図示を省略している。また、
図1,
図2他、各図には共通の方向を示す直交三軸を示す。
【0022】
転てつ機3は、動作かん4と鎖錠かん8(定位鎖錠かん8t、反位鎖錠かん8h)とを水平又は略水平な姿勢で支持する。動作かん4の一端(
図1,
図2の右端)は、ケース6から常時突出した状態にあり、分岐器のトングレールに接続される。鎖錠かん8は、動作かん4の上方で交差するように配置されている。なお、本実施形態では、動作かん4の支持構造部と案内構造部の図示を省略している。
【0023】
転てつ機3は、モータ90(例えば、誘導モータ)の回転動力を減速機構部92で減速して回転軸10に伝達し、回転軸10が正逆何れかに回転することで、動作かん4による定位又は反位への転換動作がなされる。そして、転換終了時には、回転軸10の回転とともに回転する鎖錠体20が、動作かん4の被鎖錠体40に係合状態になることで動作かん4が鎖錠される。
【0024】
回転軸10には、上から順に(Z軸正方向から負方向に見た順に)、鎖錠体20と、ピニオン30と、が一体で回転可能に固定されている。ピニオン30は、歯列の一部を欠いた部分ピニオンであり、歯付部31と無歯部33とで構成される。
【0025】
鎖錠体20は、回転軸10の回転面に沿って平らな板状の部品であって、動作かん4の上面に取り付けられた被鎖錠体40と同じ高さで回転し、被鎖錠体40とともに鎖錠機構部9を構成する。
【0026】
図3は、回転軸10周りの上面視拡大図である。鎖錠体20は、大径部22と、小径部24と、を結合した上面視略半月型の異形円板状を成している。外周の面の連なりに着目して述べれば、鎖錠体20は、大径部22の外周面と小径部24の外周面とが接続曲面26で連続的に接続された形状を有している。
【0027】
小径部24の外周面と大径部22の外周面との境界部は、小径部24側から半径に沿って一気に径が拡大し、外向き凸曲面である接続曲面26を経て大径部22の外周面へ滑らかに接続されている。ここで特許文献2との差異について述べると、特許文献2における境界部(特許文献2の
図3~7における直線部28)はピニオン中心(特許文献2の
図3~7における歯合部22の最終端歯の中心)にあるが、本実施形態ではピニオン中心より先端側(最終端歯の1つ前の歯の側)となる。
【0028】
接続曲面26は、本実施形態におけるラック12・ピニオン30・鎖錠体20・被鎖錠体40の各部寸法や配置位置関係に基づき、ピニオン30の回転軸方向から見て、ピニオン30の歯列の末端歯(最終端歯)と当該末端部の1つ前の歯との間の位置から始まるように構成されている。
【0029】
大径部22の外周面は、外向き凸曲面であり、定位/反位に転換すると被鎖錠体40の角部に設けられた凹曲面である係合面46(定位係合面46t、反位係合面46h)と凹凸が適合して係合状態になる。従って、大径部22の外周凸曲面の曲線半径R1は、被鎖錠体40の係合面46の凹曲面の曲線半径R2に合わせて設定されている。具体的には、曲線半径R1は曲線半径R2より僅かに小さく設定されている。
【0030】
被鎖錠体40は、動作かん4の上面、具体的にはラック12の上方に当たる上面に設置された板状の部品である。係合面46は、被鎖錠体40の回転軸10側の2つの角部それぞれに設けられた曲面であり、Z軸方向に沿った平面視において被鎖錠体40の中央へ向けて凹んだ凹曲面である。係合面46の、被鎖錠体40の前後側面(X軸方向のプラス側の側面およびマイナス側の側面)と接続する部分は、係合面46の曲線半径R2よりも高い曲率の外向き凸の端曲面44を形成している。
【0031】
図1に示すように、転てつ機3は、動作かん4の上部に設けられた2つのロックピース50(定位ロックピース50t、反位ロックピース50h)と、2つのロックピース50それぞれに対応する作動レバー60(定位作動レバー60t、反位作動レバー60h)と、を有する。
【0032】
ロックピース50は、動作かん4の上面で、動作かん4の動作方向と平行移動可能に、動作かん4にスライド自在に支持されている。
【0033】
図1および
図2に示すようにロックピース50は、鎖錠かん8側の上面に突起部51を有する。突起部51は、鎖錠かん8の切欠部82に嵌入することで鎖錠かん8を鎖錠する。すなわち、定位ロックピース50tは定位鎖錠かん8tに対応するロックピースであり、定位鎖錠かん8tを鎖錠する。反位ロックピース50hは、反位鎖錠かん8hに対応するロックピースであり、反位鎖錠かん8hを鎖錠する。
【0034】
ロックピース50は、回転軸10の側の上面に動作方向に直交するローラ溝53を有する。ローラ溝53には、対応する作動レバー60の揺動ローラ66が溝内に嵌入されている。
【0035】
作動レバー60は、垂直な揺動軸で水平面に沿って揺動可能なレバー本体62と、レバー本体62の一端部に設けられたカムローラ64と、レバー本体62の他端部に設けられた揺動ローラ66と、カムローラ64を動作かん4の側面に付勢するようにレバー本体62に回転力を付与する付勢部68と、を有する。
【0036】
定位作動レバー60tのカムローラ64は、動作かん4の側面に押し付けられるように付勢されている。当該側面には定位鎖錠用カム面16tが凹設されている。転換にともなって動作かん4が移動することで、定位作動レバー60tと定位鎖錠用カム面16tとの相対位置関係が変化し、カムローラ64が定位鎖錠用カム面16tを転がって定位鎖錠用カム面16tのカムプロフィールを拾い、定位作動レバー60tがカムプロフィールに従って揺動される。
【0037】
レバー本体62は、揺動ローラ66のある他端側の揺動の軌跡が、定位ロックピース50tの動作方向に揺動するように配置されている。従って、定位作動レバー60tが定位鎖錠用カム面16tのカムプロフィールに従って揺動されると、ローラ溝53に係合した揺動ローラ66を介して定位ロックピース50tが移動する。
【0038】
反位ロックピース50hと反位作動レバー60hとの関係も、これと同様である。
反位作動レバー60hのカムローラ64は、動作かん4の側面に押し付けられるように付勢されている。当該側面には反位鎖錠用カム面16hが凹設されている。動作かん4が動作することで、反位作動レバー60hと反位鎖錠用カム面16hとの相対位置関係が変化し、カムローラ64が反位鎖錠用カム面16hを転がってカムプロフィールを拾い、反位作動レバー60hが反位鎖錠用カム面16hのカムプロフィールに従って揺動される。反位作動レバー60hのカムローラ64が反位鎖錠用カム面16hのカムプロフィールに従って揺動されることで、ローラ溝53に係合した揺動ローラ66を介して反位ロックピース50hが移動する。
【0039】
転てつ機3は、電気転てつ機用回路制御器70を有する。電気転てつ機用回路制御器70は、ロックピース50の移動にともなう定位/反位に反応してスイッチングされるモータ接点76と転換表示出力接点75とを有する。例えば、モータ接点76と転換表示出力接点75は、ロックピース50の移動に伴って揺動される揺動片72と係合してスイッチングされる。具体的には、モータ接点76は、ロックピース50が切欠部82に挿入開始された挿入中にオフにスイッチングされる。転換表示出力接点75は、ロックピース50が切欠部82に挿入完了した状態、つまりロックピース50が転換完了の位置まで移動するとオンにスイッチングされる。
【0040】
図4~
図8は、転てつ機3の動作について、定位から反位への転換において鎖錠が完了する少し前からの状態を図番の順に遷移するように示している。なお、理解を容易にするために、転てつ機3の要部のみを選抜して簡略表記し、且つ、各部の位置関係を明確にするために透視表記している。また、
図4~
図8中の丸枠内にて、鎖錠体20と被鎖錠体40との状態を拡大表記している。
【0041】
図4に示すように、転てつ機3は、モータ90を所定の反位転換動作方向(回転軸10が反時計回りとなる方向)へ駆動させている。反位作動レバー60hのカムローラ64が反位鎖錠用カム面16hの凹部内に入っておらず、反位ロックピース50hは、まだ移動せず、反位鎖錠かん8hには挿入されていない。転換表示出力はオフであり、外部へは動作かん4が転換中であると示される。
【0042】
図4の状態では、ピニオン30の歯列の末端歯(最終端歯)が、ラック12の最後の歯溝に係合した状態にあり、動作かん4を反位転換における転換動作方向(X軸プラス方向)へ駆動させている。一方、鎖錠体20と被鎖錠体40とは接触には至っておらず、互いに非接触な近接状態にある。
【0043】
転換が進行すると、
図5に示す状態に遷移する。
鎖錠体20の接続曲面26と、被鎖錠体40の反位係合面46h側の端曲面44は、互いに非接触な近接状態で維持されている。一方、動作かん4が反位転換動作方向へ移動することで、鎖錠体20と被鎖錠体40との係合開始の直後に、反位作動レバー60hのカムローラ64が反位鎖錠用カム面16hの凹部に入り始め、反位作動レバー60hが揺動し、反位ロックピース50hを反位転換動作方向へ動かす。この頃には、分岐器で転換が進行するのに伴って、反位鎖錠かん8hの切欠部82が反位ロックピース50hの反位転換動作方向の正面に移動してきており、反位ロックピース50hの突起部51が反位鎖錠かん8hの切欠部82に挿入し始める。
【0044】
更に転換が進行すると、間もなく
図6に示す状態に遷移する。
ピニオン30とラック12の噛合は継続中である。鎖錠体20の接続曲面26と、被鎖錠体40の反位係合面46h側の端曲面44とは、互いに非接触な近接状態が維持されている。反位ロックピース50hの突起部51は、反位鎖錠かん8hの切欠部82に挿入中である。
【0045】
反位ロックピース50hの突起部51が反位鎖錠かん8hの切欠部82に挿入完了する前の状態で、反位側のモータ接点76がオフにスイッチングされ、モータ90への電力供給を停止する。ここから暫くの間、モータ90は回転力の余力(慣性)で引き続き回転し続け、動作かん4の反位転換動作方向への駆動は継続される。
【0046】
転換が更に進行すると、
図7に示す状態に遷移する。
鎖錠体20の接続曲面26と、被鎖錠体40の反位係合面46h側の端曲面44とは、互いに非接触な近接状態が維持されている。反位作動レバー60hのカムローラ64は反位鎖錠用カム面16hの底に達し、反位作動レバー60hは一杯まで揺動して止まる。反位作動レバー60hの揺動停止とともに反位ロックピース50hの突起部51が、反位鎖錠かん8hの切欠部82に挿入完了する。そして、反位側の転換表示出力接点75がオンにスイッチングされ、転てつ機3は外部へ転換完了を示す。
【0047】
モータ90は、残り少ない回転力の余力で引き続き回転し続け、動作かん4の反位転換動作方向への駆動は継続され、
図8で示す動作かん4が反位転換完了位置に達した状態に遷移して、やがて停止する。回転力の余力次第では、
図8に示す状態よりも更にピニオン30の回転が進んだ状態になる場合もある。
【0048】
動作かん4が反位転換完了位置に達すると、ピニオン30とラック12の噛合は解かれ、動作かん4の駆動は停止する。
図7から
図8の状態へ遷移するなかで、鎖錠体20と被鎖錠体40との間では、接続曲面26と端曲面44とが互いに非接触な近接状態が解かれて、大径部22の外周面と反位係合面46hとが対向状態となる。そして、鎖錠体20の大径部22の外周面と被鎖錠体40の係合面46とが係合・接触し、鎖錠機構部9による鎖錠が完了し、以降は動作かん4の転換解除方向への移動は規制される。
【0049】
仮に、転てつ機3を、特許文献2の
図13に示すように1台の転てつ機の動力によって2台のエスケープクランクを介して分岐器を転換鎖錠するように配置・接続した場合、転てつ機3の動作とエスケープクランクとの動作の関係は次のようになる。すなわち、
図5の段階でエスケープクランクの原動クランクのローラは従動クランクの鎖錠面の位置にある。分岐器の密着力が極端に強くなったとしても、転てつ機3は少なくとも、
図6の位置まではモータ90の動力で回転し、この位置で停止したときはエスケープクランクがすでに鎖錠状態になっていて、ピニオン30の回転は歯が抜ける方向なので慣性力程度の力で済み、わずかに動作かん4を押し出すことでエスケープクランクの鎖錠状態を更に確実にすることができる。ロックピース50の挿入完了(
図7参照)した時点で転換表示出力接点75をオンすれば、転てつ機3の転換・鎖錠が完了したことを連動装置への信号として伝送することができる。
【0050】
また、鎖錠体20と被鎖錠体40との接触は、接続曲面26と端曲面44との曲面同士の接触であり、スムーズに接触が始まり且つ小面積での接触に留まる。よって、接続曲面26および端曲面44を設けなかった場合に比べて、鎖錠体20と被鎖錠体40との接触が始まっても、接触開始時の衝突による摩耗や、接触抵抗の増加、接触中の摩耗、を抑制できる。
【0051】
図4~
図8では、定位から反位への転換について説明したが、反位から定位への転換についても同様である。すなわち、
図4~
図8の説明における「反位」「定位」の関係を逆に読み替えれば、反位から定位への転換についての説明となる。
【0052】
現行の転てつ機3の一例においては、次の様な数値関係を1つの好適値として示すことができる。すなわち、動作かん4が、転換完了位置に対して20mm手前の位置ではロックピース50は駆動せず、8mm手前で鎖錠かん8の切欠部82に挿入中となる。2mm手前で、モータ接点76がオフになり、転換完了位置到達で転換表示出力接点75がオンになる。
【0053】
転てつ機3の作用効果を総括すると次のようになる。
転てつ機3によれば、分岐器の密着力が極端に強くなったとしても、転てつ機3は少なくとも、ピニオン30の最終端歯とラック12の最終歯との噛み合いが解除する直前まではモータ90の動力で回転する。仮に転てつ機3が、エスケープクランクを介して分岐器を動作させる場合でも、この噛み合いが解除する直前で動力が停止したときはエスケープクランクがすでに鎖錠状態になっていて、ピニオン30の回転は歯が抜ける方向なので慣性力程度の力で済み、わずかに動作かんを押し出すことでエスケープクランクの鎖錠状態を更に確実にすることができる。ピニオン30の最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除して、鎖錠体20と被鎖錠体40との係合が開始する係合状態となり、ロックピース50の挿入完了した時点で転換表示出力接点がオンとなり、転てつ機3の転換・鎖錠が完了したことを連動装置への信号として伝送することができる。つまり、密着力が極端に強くなっても、ピニオン30の最終端歯とラック12の最終歯との噛み合いが解除する直前までモータ90の回転力で転てつ機が動作できるので、異状なく転換鎖錠を完了できる。
【0054】
また、転てつ機3によれば、鎖錠体20の端面(接続曲面26)の開始位置が、ピニオン30の回転軸10の方向から見て、ピニオン30の最終端歯と当該最終端歯の1つ前の歯との間の位置になっている。鎖錠体20の端面に着目して言い換えれば、特許文献2では当該端面(特許文献2の
図3~7における直線部28)はピニオン中心(特許文献2の
図3~7における歯合部22の最終端歯の中心)にあるが、転てつ機3では当該端面はピニオン中心より先端側(最終端歯の1つ前の歯の側)となる。
【0055】
また、転てつ機3によれば、接続曲面26がピニオン中心より先端側にすると鎖錠体20と被鎖錠体40とが係合開始時の当たりが強くなりスムーズな係合を阻害する。しかし、被鎖錠体40の係合面46の端部に端曲面44を設けたことで、スムーズに係合ができるようになる。
【0056】
また、転てつ機3によれば、端曲面44から係合面への面の繋がりがスムーズになり、鎖錠体20と被鎖錠体40との係合開始からの接触抵抗を低減できる。
【0057】
また、転てつ機3によれば、ピニオンの最終端歯とラックの最終歯との噛み合いが解除するまで、鎖錠体20の大径部22の外周面と被鎖錠体40の係合面46との間にわずかな隙間が空くように構成することで、ピニオンとラックの噛み合いが解除されるまでの鎖錠機構部の摺動抵抗・摺動磨耗を無くすことができる。
【符号の説明】
【0058】
3…転てつ機
9…鎖錠機構部
10…回転軸
12…ラック
16h…反位鎖錠用カム面
16t…定位鎖錠用カム面
20…鎖錠体
22…大径部
24…小径部
26…接続曲面
30…ピニオン
31…歯付部
33…無歯部
40…被鎖錠体
44…端曲面
46…係合面
46h…反位係合面
46t…定位係合面
50…ロックピース
50h…反位ロックピース
50t…定位ロックピース
53…ローラ溝
60…作動レバー
60h…反位作動レバー
60t…定位作動レバー
64…カムローラ
70…電気転てつ機用回路制御器
75…転換表示出力接点
76…モータ接点
90…モータ