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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172823
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】セラミック焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20231129BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20231129BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20231129BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C04B35/01 600
B01J23/889 M
H01M4/86 T
H01M4/90 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119860
(22)【出願日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022084678
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100227732
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 祥二
(72)【発明者】
【氏名】井原 章夫
(72)【発明者】
【氏名】菅 洋平
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 良仁
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA06
4G169EA08
4G169EA11
4G169EB01
4G169EC23
4G169EC24
5H018BB01
5H018BB12
5H018EE12
5H018EE13
5H018HH05
(57)【要約】
【課題】 セラミック焼結体において、低温域における触媒性能を大きくし、高温域における劣化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】 セラミック焼結体は、一般式ABO3で表され、Bサイトには少なくともMnを含むペロブスカイト型酸化物と、(Ni,Mn)34と、を含み、セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、25mol%以下である。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック焼結体であって、
一般式ABO3で表され、Bサイトには少なくともMnを含むペロブスカイト型酸化物と、
(Ni,Mn)34と、を含み、
前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、25mol%以下である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック焼結体であって、
前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、20mol%以下である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセラミック焼結体であって、
前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、0.2mol%以上である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のセラミック焼結体であって、
NiOを含まない、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のセラミック焼結体は、さらに、
酸化マンガンを含む、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のセラミック焼結体は、さらに、
NiOを含まず、かつ、酸化マンガンを含む、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【請求項7】
請求項6に記載のセラミック焼結体であって、
前記セラミック焼結体の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、30%以下である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ペロブスカイト型酸化物を含むセラミック焼結体が知られている(例えば、特許文献1)。ペロブスカイト型酸化物は、一般式ABO3で表され、AサイトとBサイトのそれぞれのイオンの組み合わせを変えることで電気伝導性やイオン電導性などの電子物性を制御可能であり、ペロブスカイト型酸化物を含むセラミック焼結体は、触媒として利用される。セラミック焼結体に含まれるペロブスカイト型酸化物は、セラミック焼結体に隣接する部材との反応性が比較的高いため、BサイトにMn(マンガン)を固溶させたペロブスカイト型酸化物を用いる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-113714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、BサイトにMnを含むペロブスカイト型酸化物は、低温域における導電率が比較的小さく、触媒性能が小さい。一方、低温域における導電率が大きいペロブスカイト型酸化物は、高温域において劣化しやすい。このため、ペロブスカイト型酸化物を含むセラミック焼結体において、低温域における触媒性能が大きく、かつ、高温域における劣化を抑制する技術が求められていた。
【0005】
本発明は、セラミック焼結体において、低温域における触媒性能が大きく、かつ、高温域における劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、セラミック焼結体が提供される。このセラミック焼結体は、一般式ABO3で表され、Bサイトには少なくともMnを含むペロブスカイト型酸化物と、(Ni,Mn)34と、を含み、前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、25mol%以下である。
【0008】
この構成によれば、セラミック焼結体は、BサイトにMnを含むペロブスカイト型酸化物の他に、(Ni,Mn)34を含んでいる。(Ni,Mn)34は、セラミック焼結体において電子伝導体およびイオン伝導体として機能するため、低温域におけるセラミック焼結体の導電率が大きくなり、触媒性能を大きくすることができる。また、セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、25mol%以下であるため、Ni原子の含有量の割合が、例えば、30mol%である場合に比べ、高温での焼結などによって比表面積が低下し、劣化することを抑制することができる。したがって、セラミック焼結体の低温域における触媒性能を大きくし、高温域における劣化を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態のセラミック焼結体において、前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、20mol%以下であってもよい。この構成によれば、セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、20mol%以下であるため、Ni原子の含有量の割合が25mol%である場合に比べ、高温での焼結によって比表面積が低下することをさらに抑制することができる。これにより、セラミック焼結体の高温域における劣化をさらに抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態のセラミック焼結体において、前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、0.2mol%以上であってもよい。この構成によれば、セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、0.2mol%以上であるため、セラミック焼結体は、一定以上の大きさの導電率を有することができる。これにより、低温域における触媒性能を大きくすることができる。
【0011】
(4)上記形態のセラミック焼結体において、NiOを含まなくてもよい。この構成によれば、セラミック焼結体は、NiOを含まない。「セラミック焼結体がNiOを含まない」とは、セラミック焼結体に対するX線回折法による分析において、(Ni,Mn)34のピーク強度に対するNiOのピーク強度の比が、5%以下であることを指す。これにより、セラミック焼結体は、例えば、(Ni,Mn)34から生成されるNiOによる触媒性能の低下が抑制されており、触媒性能が維持されている。
【0012】
(5)上記形態のセラミック焼結体において、酸化マンガンを含んでもよい。この構成によれば、セラミック焼結体は、酸化マンガンを含んでいる。これにより、例えば、セラミック焼結体を長時間使用するとき、セラミック焼結体に含まれる(Ni,Mn)34のMn原子が拡散する場合であっても、酸化マンガンからMn原子が補填されるため、(Ni,Mn)34からNiOが生成されにくくなる。したがって、(Ni,Mn)34からのMn原子の拡散による触媒性能の低下を抑制することができる。
【0013】
(6)上記形態のセラミック焼結体において、NiOを含まず、かつ、酸化マンガンを含んでもよい。この構成によれば、セラミック焼結体は、触媒性能を低下させるNiOを含んでおらず、かつ、(Ni,Mn)34にMn原子を補填しNiOの生成を抑制する酸化マンガンを含んでいる。これにより、長時間の使用においても、触媒性能を維持することができる。
【0014】
(7)上記形態のセラミック焼結体において、セラミック焼結体の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、30%以下であってもよい。この構成によれば、セラミック焼結体は、断面における(Ni,Mn)34の面積占有率が30%以下であり、Ni原子の含有量が比較的少ない。これにより、高温域での焼結による比表面積の低下を抑制することができるため、劣化をさらに抑制することができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、セラミック焼結体を備える装置、セラミック焼結体の製造方法、セラミック焼結体の使用方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態のセラミック焼結体の外観斜視図である。
図2】セラミック焼結体に関する第1の評価試験の結果を説明する図である。
図3】セラミック焼結体に関する第2の評価試験の結果を説明する図である。
図4】セラミック焼結体に関する第3の評価試験の結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のセラミック焼結体の外観斜視図である。本実施形態のセラミック焼結体1は、略矩形状の平板の部材であって、ペロブスカイト型酸化物と、(Ni,Mn)34と、Mn34と、を含んでいる。セラミック焼結体1は、内部に気孔を含む多孔質体であって、酸素還元触媒、酸素発生触媒、酸素透過膜などとして機能する。なお、セラミック焼結体1の形状は、これに限定されず、例えば、円筒形状や薄膜であってもよい。
【0018】
セラミック焼結体1に含まれるペロブスカイト型酸化物は、一般式ABO3で表され、Aサイトは、La(ランタン)およびSr(ストロンチウム)の少なくとも一方が占有する。本実施形態では、セラミック焼結体1に含まれるペロブスカイト型酸化物のBサイトは、Mn(マンガン)が占有する。
【0019】
セラミック焼結体1に含まれる(Ni,Mn)34は、スピネル相の結晶構造を有している。セラミック焼結体1に含まれる(Ni,Mn)34の結晶構造は、セラミック焼結体1の粉末を用いて、X線回折(XRD:X-ray Diffraction)法によって特定される。
【0020】
本実施形態では、セラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、30%以下である。セラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、走査型電子顕微鏡と、エネルギ分散型X線分析装置とを組み合わせて測定する。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて、セラミック焼結体1の断面のSEM画像(1000倍)を撮像する。撮像したSEM画像に対してEDS(Energy Dispersive X-ray Scaning)分析を行うことにより、SEM画像における(Ni,Mn)34の部分を特定する。走査型電子顕微鏡で撮像したSEM画像を256階調に分割して画像処理し、EDS分析で特定した、セラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の部分の面積比を算出する。本実施形態のセラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、0.7%である。
【0021】
本実施形態では、セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi(ニッケル)原子の含有量の割合は、25mol%以下であり、Ni原子が含まれていればよく、0.1mol%以上含まれていることが望ましい。セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、20mol%以下0.2mol%以上がより望ましい。このように、本実施形態のセラミック焼結体1は、MnがBサイトを占有するペロブスカイト型酸化物に、スピネル相の(Ni,Mn)34が添加されたものともいえる。これにより、本実施形態のセラミック焼結体1は、600℃~800℃の低温域での伝導率が、MnがBサイトを占有するペロブスカイト型酸化物を含み、かつ、Ni原子が含まれていないセラミック焼結体に比べ大きい。本実施形態のセラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、0.5mol%である。セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分析法によって測定する。
【0022】
本実施形態では、セラミック焼結体1は、NiOを含んでいない。「セラミック焼結体がNiOを含まない」とは、セラミック焼結体に対するX線回折法による分析において、(Ni,Mn)34の結晶の(311)面におけるピーク強度に対する、NiOの結晶の(111)面におけるピーク強度の比が、5%以下であることを指す。
【0023】
セラミック焼結体1は、Mn34を含んでいる。セラミック焼結体1に含まれるMn34は、セラミック焼結体1の(Ni,Mn)34からMn原子が拡散する場合に、Mn原子を(Ni,Mn)34に補填する。これにより、セラミック焼結体1において、(Ni,Mn)34からNiOが生成されることを抑制する。なお、「セラミック焼結体がMn34を含む」とは、セラミック焼結体に対するX線回折法による分析において、(Ni,Mn)34の結晶の(311)面におけるピーク強度に対する、Mn34の結晶の(211)面におけるピーク強度の比が、2%以上であることを指す。
【0024】
次に、本実施形態のセラミック焼結体1の製造方法の一例について説明する。最初に、BサイトをMnが占有する一般式ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物の粉末と、(Ni,Mn)34の粉末と、Mn34の粉末と、を混合する。このとき、ペロブスカイト型酸化物の粉末に対する、(Ni,Mn)34の粉末、および、Mn34の粉末の混合比率を調整することで、セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合、および、セラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率を所望の値にすることができる。
【0025】
ペロブスカイト型酸化物の粉末と(Ni,Mn)34の粉末とMn34の粉末との混合物、水、および、バインダーをボールミルで混合し、スラリーを作製する。次に、作製したスラリーを用いて、例えば、本実施形態であれば、平板形状の成形体を作製する。作製された成形体は、電気炉を用いて、酸素が存在する雰囲気において、1000℃~1100℃の温度で、1時間~10時間程度焼成されることで、セラミック焼結体1となる。
【0026】
次に、セラミック焼結体について行った3種類の評価試験について説明する。3種類の評価試験では、セラミック焼結体中の金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合、(Ni,Mn)34に対するNiOの割合、または、(Ni,Mn)34に対するMn34の割合のいずれかを変数として、セラミック焼結体の特性を評価した。本評価試験のために作製したサンプルは、セラミック焼結体と、セラミック焼結体と組み合わせて用いられる部材とを、中間層を介して接合したものである。
【0027】
第1の評価試験では、セラミック焼結体中の金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合を変数として、セラミック焼結体の特性の変化を評価した。具体的には、Ni原子の含有量が異なる複数のサンプルのそれぞれに対して電力を一定時間供給し、セラミック焼結体の電圧とセラミック焼結体を流れる電流とのそれぞれの時間変化を測定した。最後に、測定された電圧と電流とを用いて算出される数値に基づいて、サンプルに含まれるセラミック焼結体の特性を評価した。
【0028】
図2は、セラミック焼結体に関する第1の評価試験の結果を説明する図である。図2は、8種類のサンプルのそれぞれに含まれるセラミック焼結体の「Ni比率(mol%)」と、「導電率(S/cm2)」と、「第1劣化率(-)」と、を示している。
【0029】
「Ni比率(mol%)」は、サンプルのセラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合である。本評価試験では、Ni比率は、上述したセラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合を算出する方法と同様に、ICP発光分析法を用いて算出した。
【0030】
「導電率(S/cm2)」は、サンプルに電力を供給したときに測定される、セラミック焼結体の電圧と電流との関係を用いて算出する。本評価試験では、導電率は、セラミック焼結体の一般的な使用温度である900℃と、900℃より低温の700℃とのそれぞれについて、算出した。
【0031】
「第1劣化率(-)」は、サンプルに電力の供給を開始したときの過電圧の値と、サンプルへの電力の供給を開始してから1000時間経過後の過電圧の値とを比較することで算出した。具体的には、サンプルへの電力の供給を開始してから1000時間経過後の過電圧の値を、サンプルに電力の供給を開始したときの過電圧の値で割った値(以下、「第1経過値」という)を算出する。第1劣化率は、第1経過値から1を引いた値であって、触媒反応の抵抗の大きさを示す過電圧の時間変化の大きさを示している。第1劣化率が、0.005以下の場合、1000時間経過した後でも過電圧の変化が少ないことを示しており、判定を「A」とした。第1劣化率が、0.005より大きく、0.007より小さい場合、判定を「B」とし、第1劣化率が、0.007以上の場合、判定を「C」とした。本評価試験では、第1劣化率は、セラミック焼結体の一般的な使用温度である900℃よりも高い950℃と、1000℃とのそれぞれにおいて、算出した。
【0032】
図2に示すように、Ni比率が0mol%のサンプル1、すなわち、Niを含んでいないセラミック焼結体は、700℃の導電率が、0.6S/cm2となった。図2より、サンプル1の700℃での導電率(0.6S/cm2)は、Ni比率が0.1mol%~30.0mol%のサンプル2~8のいずれに比べても、低いことがわかる。したがって、BサイトをMnが占有するペロブスカイト型酸化物を含むセラミック焼結体は、Niが含まれることで、700℃での導電率が大きくなることが確認された。
【0033】
図2に示す8種類のサンプルのうち、Ni比率が最も大きいサンプル8では、950℃での第1劣化率と、1000℃での第1劣化率の判定がいずれもCとなることが明らかとなった。この評価結果は、サンプル8が、サンプル2~7に比べて、劣化しやすいことを示している。これは、950℃や1000℃において、サンプル8が、セラミック焼結体に含まれるNiによって、特に焼結が進行しやすいためと考えられる。このことから、ペロブスカイト型酸化物を含むセラミック焼結体において、Ni比率を25mol%以下とすることで、950℃や1000℃における劣化を0.007より小さくすることができることが明らかとなった。
【0034】
また、Ni比率が25mol%のサンプル7は、セラミック焼結体の一般的な使用温度より高い1000℃において、第1劣化率の判定がBとなることが明らかとなった。したがって、Ni比率を20mol%以下とすることで、950℃や1000℃における劣化をさらに抑制できることが明らかとなった(サンプル2~6)。
【0035】
700℃での導電率については、Ni比率が0.1mol%のサンプル2は、0.8S/cm2となっており、本実施形態において一定の導電率とする1.0S/cm2を下回っている。このことから、セラミック焼結体において、Ni比率を0.2mol%以上とすることで、700℃における導電率を一定以上の大きさとすることができることが明らかとなった。本評価試験では、低温域における導電率の増大と高温域における劣化の抑制とを最もバランスよく両立させるNi比率は、0.5mol%(サンプル4)であることが明らかとなった。
【0036】
第2の評価試験では、セラミック焼結体に含まれる(Ni,Mn)34に対するNiOの割合を変数として、セラミック焼結体の特性の変化を評価した。具体的には、(Ni,Mn)34に対するNiOの割合が異なる複数のサンプルのそれぞれに対して電力を一定時間供給し、測定された電圧と電流とを用いて算出される数値に基づいて、サンプルに含まれるセラミック焼結体の触媒性能の変化を評価した。
【0037】
図3は、セラミック焼結体に関する第2の評価試験の結果を説明する図である。図3は、6種類のサンプルのそれぞれに含まれるセラミック焼結体の「Ni比率(mol%)」と、「NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率(%)」と、「(Ni,Mn)34面積比(%)」と、「第2劣化率(-)」と、を示している。
【0038】
「Ni比率(mol%)」は、上述した第1の評価試験での「Ni比率(mol%)」と同じ方法によって算出した。「NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率(%)」は、サンプルのセラミック焼結体に対するX線回折法による分析から算出される、(Ni,Mn)34の結晶の(311)面におけるピーク強度に対するNiOの結晶の(111)面におけるピーク強度の比である。「(Ni,Mn)34面積比(%)」は、サンプルのセラミック焼結体の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率であって、上述したセラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率を算出する方法と同様に、走査型電子顕微鏡と、エネルギ分散型X線分析装置とを組み合わせて算出した。図3に示す6種類のサンプル9~14のそれぞれは、いずれも、Ni比率が25%以下となっている。
【0039】
「第2劣化率(-)」は、1000℃の温度下において、サンプルに電力の供給を開始したときの過電圧の値と、サンプルへの電力の供給を開始してから3000時間経過後の過電圧の値とを比較することで算出した。具体的には、サンプルへの電力の供給を開始してから3000時間経過後の過電圧の値を、サンプルに電力の供給を開始したときの過電圧の値で割った値(以下、「第2経過値」という)を算出し、第2経過値から1を引いた値を第2劣化率とした。すなわち、第2劣化率は、上述した第1の評価試験での第1劣化率に比べ、より長時間での過電圧の時間変化の大きさを示している。第2劣化率が、0.005以下の場合、3000時間経過した後でも過電圧の変化が少ないことを示しており、判定を「A」とした。第2劣化率が、0.005より大きく、0.007より小さい場合、判定を「B」とし、第2劣化率が、0.007以上の場合、判定を「C」とした。
【0040】
図3に示すように、Ni比率が0.2mol%の場合、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が4%のサンプル9では、第2劣化率の判定がAとなる一方、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が10%のサンプル10では、第2劣化率の判定がCとなることが明らかとなった。また、Ni比率が20mol%の場合、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が2%のサンプル11では、第2劣化率の判定がAとなる一方、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が11%のサンプル12では、第2劣化率の判定がCとなることが明らかとなった。さらに、Ni比率が25mol%の場合でも、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が5%のサンプル13では、第2劣化率の判定がBとなることが明らかとなった。これにより、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が小さいセラミック焼結体は、長時間の使用によっても、劣化しにくくなることが確認された。第2の評価試験では、特に、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が5%以下になると、第2劣化率が小さくなることが確認された。
【0041】
また、Ni比率が25mol%の場合、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が同じ5%の場合であっても、(Ni,Mn)34面積比が33%のサンプル14では、第2劣化率の判定がCとなることが明らかとなった。(Ni,Mn)34面積比が30%のサンプル13と比較すると、(Ni,Mn)34面積比が30%以下になることで、第2劣化率が小さくなることが確認された。
【0042】
第3の評価試験では、セラミック焼結体に含まれる(Ni,Mn)34に対するMn34の割合を変数として、セラミック焼結体の特性の変化を評価した。具体的には、Ni,Mn)34に対するMn34の割合が異なる複数のサンプルのそれぞれに対して電力を一定時間供給し、測定された電圧と電流とを用いて算出される数値に基づいて、サンプルに含まれるセラミック焼結体の触媒性能を評価した。
【0043】
図4は、セラミック焼結体に関する第3の評価試験の結果を説明する図である。図4は、8種類のサンプルのそれぞれに含まれるセラミック焼結体の「Ni比率(mol%)」と、「Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率(%)」と、「(Ni,Mn)34面積比(%)」と、「第2劣化率(-)」と、を示している。
【0044】
「Ni比率(mol%)」は、上述した第1の評価試験での「Ni比率(mol%)」と同じ方法によって算出した。「Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率(%)」は、サンプルのセラミック焼結体に対するX線回折法による分析から算出される、(Ni,Mn)34の結晶の(311)面におけるピーク強度に対するMn34の結晶の(211)面におけるピーク強度の比である。「(Ni,Mn)34面積比(%)」と「第2劣化率(-)」とのそれぞれは、上述した第2の評価試験での「(Ni,Mn)34面積比(%)」と「第2劣化率(-)」とのそれぞれと同じ方法によって算出した。図4に示す8種類のサンプル15~22のそれぞれは、いずれも、Ni比率が25%以下となっている。
【0045】
図4に示すように、Ni比率が0.2mol%の場合、Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が0.5%のサンプル15では、第2劣化率の判定がCとなる一方、Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が3%のサンプル16とMn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が75%のサンプル17とでは、第2劣化率の判定がAとなることが明らかとなった。また、Ni比率が20mol%の場合、Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が0.5%のサンプル18では、第2劣化率の判定がCとなる一方、Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が2%のサンプル19とMn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が50%のサンプル20とでは、第2劣化率の判定がAとなることが明らかとなった。さらに、Ni比率が25mol%の場合でも、NiO/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が5%のサンプル21では、第2劣化率の判定がBとなることが明らかとなった。これにより、Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が大きいセラミック焼結体は、長時間の使用によっても、劣化しにくくなることが確認された。
【0046】
また、Mn34/(Ni,Mn)34XRDピーク比率が同じ5%以下の場合であっても、(Ni,Mn)34面積比が33%のサンプル22では、第2劣化率の判定がCとなることが明らかとなった。(Ni,Mn)34面積比が30%のサンプル21と比較すると、(Ni,Mn)34面積比が30%以下になることで、第2劣化率が小さくなることが確認された。
【0047】
セラミック焼結体1は、Ni比率が0.5mol%となるように(Ni,Mn)34が添加されているため、図2に示すように、(Ni,Mn)34が添加されていないセラミック焼結体に比べ、低温での導電率が大きく、低温域における触媒性能を大きくすることができる。また、セラミック焼結体1は、添加される(Ni,Mn)34の量が多くなると高温域で焼結しやすくなるため、セラミック焼結体1を使用する温度域に合わせて、(Ni,Mn)34の添加量を調整し、高温域における劣化を抑制することができる。
【0048】
本実施形態のセラミック焼結体1は、700℃における導電率が大きくなることで低温域における触媒性能を大きくすることができるため、セラミック焼結体1を備える装置の設計自由度を向上させることができる。具体的には、セラミック焼結体1を備える装置において、通常、900℃の温度でセラミック焼結体1を使う場合でも、装置の構成や状況によっては、セラミック焼結体1の一部の温度が低下するおそれがある。このような場合であっても、セラミック焼結体1は、700℃において一定以上の大きさの導電率を有しているため、触媒として機能することができる。
【0049】
また、セラミック焼結体1は、700℃程度の低温でも触媒として機能することができるため、セラミック焼結体1を備える装置において、装置の温度を維持するための投入エネルギを低減することができる。これにより、装置を運転するために必要なエネルギを小さくすることができる。さらに、セラミック焼結体1は、700℃程度の低温でも触媒として機能することができるため、セラミック焼結体1を使う部分を保温するための部材を安価にすることができる。これにより、装置のコストを小さくすることができる。
【0050】
以上説明した、本実施形態のセラミック焼結体1によれば、セラミック焼結体1は、BサイトをMnが占有するペロブスカイト型酸化物の他に、(Ni,Mn)34を含んでいる。(Ni,Mn)34は、セラミック焼結体1において電子伝導体およびイオン伝導体として機能するため、低温域におけるセラミック焼結体の導電率が大きくなり、触媒性能を大きくすることができる。また、セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、25mol%以下の0.5mol%である。これにより、Ni原子の含有量の割合が、例えば、30mol%である場合に比べ、高温での焼結などによって比表面積が低下し、劣化することを抑制することができる。したがって、セラミック焼結体1の低温域における導電率を大きくし、高温域における劣化を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態のセラミック焼結体1によれば、セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、20mol%以下の0.5mol%である。これにより、Ni原子の含有量の割合が25mol%である場合に比べ、高温での焼結によって比表面積が低下することをさらに抑制することができるため、セラミック焼結体1の高温域における劣化をさらに抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態のセラミック焼結体1によれば、セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、0.2mol%以上の0.5mol%であるため、セラミック焼結体1は、1.0S/cm2以上の導電率を有することができる。これにより、低温域における触媒性能を大きくすることができる。
【0053】
また、本実施形態のセラミック焼結体1によれば、セラミック焼結体1に対するX線回折法による分析において、(Ni,Mn)34のピーク強度に対するNiOのピーク強度の比が5%以下となっている。すなわち、セラミック焼結体1は、NiOを含まない。これにより、セラミック焼結体1は、例えば、(Ni,Mn)34から生成されるNiOによる触媒性能の低下が抑制されており、触媒性能が維持されている。
【0054】
また、本実施形態のセラミック焼結体1によれば、セラミック焼結体1は、Mn34を含んでいる。これにより、セラミック焼結体を長時間使用することで(Ni,Mn)34のMn原子が拡散する場合であっても、Mn34のMn原子が(Ni,Mn)34に補填されるため、(Ni,Mn)34からNiOが生成されにくくなる。したがって、(Ni,Mn)34からのMn原子の拡散による触媒性能の低下を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態のセラミック焼結体1によれば、セラミック焼結体1は、触媒性能を低下させるNiOを含んでおらず、かつ、(Ni,Mn)34にMn原子を補填しNiOの生成を抑制するMn34を含んでいる。これにより、長時間の使用においても、触媒性能を維持することができる。
【0056】
また、本実施形態のセラミック焼結体1によれば、セラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、30%以下の0.7%であることから、セラミック焼結体1は、Ni原子の含有量が比較的少ない。これにより、高温域での焼結による比表面積の低下を抑制することができるため、劣化をさらに抑制することができる。
【0057】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0058】
[変形例1]
上述の実施形態では、セラミック焼結体1に含まれるペロブスカイト型酸化物のBサイトは、Mnが占有するとした。しかしながら、セラミック焼結体1に含まれるペロブスカイト型酸化物は、Mnの他に、Mn以外の原子がBサイトにあってもよい。セラミック焼結体に含まれるペロブスカイト型酸化物のBサイトの一部がMnによって占有されることで、セラミック焼結体とセラミック焼結体に隣接する部材との反応性を低減することができる。
【0059】
[変形例2]
上述の実施形態では、セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、0.5mol%であるとした。セラミック焼結体1に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、これに限定されず、0mol%でなければよく、少しでも含まれていればよい。
【0060】
[変形例3]
上述の実施形態では、セラミック焼結体1は、内部に気孔を含む多孔質体であるとした。セラミック焼結体は、内部に気孔を含まない緻密体であってもよい。
【0061】
[変形例4]
上述の実施形態では、セラミック焼結体1に対するX線回折法による分析において、(Ni,Mn)34のピーク強度に対するNiOのピーク強度の比が、5%以下であるとし、セラミック焼結体1には、NiOが含まれないとした。しかしながら、セラミック焼結体における(Ni,Mn)34のピーク強度に対するNiOのピーク強度の比が、5%以下であることに限定されない。(Ni,Mn)34のピーク強度に対するNiOのピーク強度の比が5%より大きくても、その値が小さいほど、セラミック焼結体1の触媒性能の低下が抑制されやすくなるため、触媒性能が維持されやすくなる。
【0062】
[変形例5]
上述の実施形態では、セラミック焼結体1には、Mn34が含まれるとした。セラミック焼結体1に含まれる酸化マンガンは、これに限定されず、MnO、Mn23、MnO2、Mn27などであってもよい。これらの酸化マンガンによっても、(Ni,Mn)34のMn原子が拡散する場合に、Mn原子が(Ni,Mn)34に補填されるため、(Ni,Mn)34からのMn原子の拡散による触媒性能の低下を抑制することができる。また、セラミック焼結体1は、酸化マンガンを含んでいなくてもよい。
【0063】
[変形例6]
上述の実施形態では、セラミック焼結体1の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、0.7%であるとした。しかしながら、セラミック焼結体1における(Ni,Mn)34の面積占有率が、0.7%であることに限定されない。セラミック焼結体1における(Ni,Mn)34の面積占有率は、30%以下が望ましいが、(Ni,Mn)34の面積占有率が30%より大きくても、その値が小さいほど、高温域での焼結による比表面積の低下を抑制することができるため、劣化をさらに抑制することができる。
【0064】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0065】
[適用例1]
セラミック焼結体であって、
一般式ABO3で表され、Bサイトには少なくともMnを含むペロブスカイト型酸化物と、
(Ni,Mn)34と、を含み、
前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、25mol%以下である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
[適用例2]
適用例1に記載のセラミック焼結体であって、
前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、20mol%以下である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のセラミック焼結体であって、
前記セラミック焼結体に含まれる金属原子の全体量に対するNi原子の含有量の割合は、0.2mol%以上である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一例に記載のセラミック焼結体であって、
NiOを含まない、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
[適用例5]
適用例1から適用例4のいずれか一例に記載のセラミック焼結体は、さらに、
酸化マンガンを含む、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
[適用例6]
適用例1から適用例5のいずれか一例に記載のセラミック焼結体は、
NiOを含まず、かつ、酸化マンガンを含む、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
[適用例7]
適用例1から適用例6のいずれか一例に記載のセラミック焼結体であって、
前記セラミック焼結体の断面における(Ni,Mn)34の面積占有率は、30%以下である、
ことを特徴とするセラミック焼結体。
【符号の説明】
【0066】
1…セラミック焼結体
図1
図2
図3
図4