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特開2023-172831熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172831
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231129BHJP
   C08K 5/5333 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/5333
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143420
(22)【出願日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2022084239
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 大光
(72)【発明者】
【氏名】森 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】光永 正樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB011
4J002BC031
4J002BC061
4J002BD061
4J002BD121
4J002BN061
4J002BN151
4J002CB001
4J002CF041
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002CG011
4J002CG021
4J002CH091
4J002CL001
4J002CN021
4J002EW126
4J002FD136
4J002GC00
4J002GG00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】過酷な加工条件下であっても、変色および強度低下が少なくリサイクル性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】
(A)熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)酸価が0.01~0.30mgKOH/gであるホスホン酸エステル(B成分)を0.001~1重量部含有する熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)酸価が0.01~0.30mgKOH/gであるホスホン酸エステル(B成分)を0.001~1重量部含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
A成分が、(A-1)ポリカーボネート樹脂(A-1成分)、(A-2)ABS樹脂(A-2成分)、(A-3)ポリエステル樹脂(A-3成分)、(A-4)AS樹脂(A-4成分)、(A-5)PS樹脂(A-5成分)および(A-6)AAS樹脂(A-6成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
A成分が、(A-1)ポリカーボネート樹脂(A-1成分)、(A-2)ABS樹脂(A-2成分)および(A-3)ポリエステル樹脂(A-3成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であり、A-1成分の含有量がA成分100重量部中40~100重量部である請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
B成分が、トリエチルホスホノアセテートである請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形加工時の変色および強度の低下の少ない熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。更に詳しくは、過酷な加工条件下であっても、変色および強度低下が少なくリサイクル性にも優れた熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物は、電気・電子・OA機器の筐体や部品、自動車用内装・外装部品、家具、楽器、雑貨類などの幅広い分野で使用されている。特に近年では持続可能な社会の実現のために、熱可塑性樹脂組成物に対して高いリサイクル性が望まれている。一方、熱可塑性樹脂組成物に熱安定剤としてリン系化合物を用いることは広く知られている。特許文献1ではポリカーボネート系樹脂およびポリエステル樹脂からなる樹脂に特定のリン系化合物が用いることが開示されている。特許文献2ではリン系化合物を併用することが開示されている。しかしながら、既存の方法では未だ成形加工時の熱安定性は不十分であり、特に薄肉軽量化が求められる用途では成形条件が高温となる傾向にあり熱安定性が不十分となるケースが増えている。更に、製品を再度リサイクルして使用する要求も高く、過酷な加工条件下であっても変色や強度低下がなく、リサイクル性にも優れる熱可塑性樹脂組成物への要求に満足できる材料を提案する必要が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4983427号公報
【特許文献2】特許5640734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、過酷な加工条件下であっても、変色および強度低下が少なくリサイクル性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂組成物に特定の酸価を有するホスホン酸エステルを配合することで、過酷な加工条件下であっても、変色および強度低下が少なくリサイクル性にも優れた熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.(A)熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)酸価が0.01~0.30mgKOH/gであるホスホン酸エステル(B成分)を0.001~1重量部含有する熱可塑性樹脂組成物。
2.A成分が、(A-1)ポリカーボネート樹脂(A-1成分)、(A-2)ABS樹脂(A-2成分)、(A-3)ポリエステル樹脂(A-3成分)、(A-4)AS樹脂(A-4成分)、(A-5)PS樹脂(A-5成分)および(A-6)ASA樹脂(A-6成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である前項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
3.A成分が、(A-1)ポリカーボネート樹脂(A-1成分)、(A-2)ABS樹脂(A-2成分)および(A-3)ポリエステル樹脂(A-3成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であり、A-1成分の含有量がA成分100重量部中40~100重量部である前項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.B成分が、トリエチルホスホノアセテートである前項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.前項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品。
【0007】
以下、本発明の詳細について説明する。
<A成分:熱可塑性樹脂>
本発明のA成分として使用される熱可塑性樹脂はポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素系樹脂、PPS樹脂、PEEK樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂等であり、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、AS樹脂、PS樹脂およびAAS樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることが好ましい。さらに、A成分は、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂であり、ポリカーボネート樹脂の含有量がA成分100重量部中40~100重量部であることがより好ましい。なお、ポリカーボネート樹脂の含有量は、A成分100重量部中60~100重量部であることがより好ましい。
【0008】
<A-1成分:ポリカーボネート樹脂>
本発明のA-1成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0009】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましく、汎用されている。
【0010】
本発明では、汎用のポリカーボネート樹脂であるビスフェノールA系のポリカーボネート樹脂以外にも、他の2価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ-ト樹脂をA‐1成分として使用することが可能である。例えば、2価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis-TMC”と略称することがある)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ-ト樹脂(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の2価フェノールは、該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分が次の(1)~(3)の共重合ポリカーボネート樹脂であるのが特に好適である。
【0011】
(1)該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつBCFが20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート樹脂。
(2)該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分100モル%中、BPAが10~95モル%(より好適には50~90モル%、さらに好適には60~85モル%)であり、かつBCFが5~90モル%(より好適には10~50モル%、さらに好適には15~40モル%)である共重合ポリカーボネート樹脂。
(3)該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつBis-TMCが20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート樹脂。
【0012】
これらの特殊なポリカーボネート樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂と混合して使用することもできる。これらの特殊なポリカーボネート樹脂の製法及び特性については、例えば、特開平6-172508号公報、特開平8-27370号公報、特開2001-55435号公報及び特開2002-117580号公報等に詳しく記載されている。
【0013】
なお、上述した各種のポリカーボネート樹脂の中でも、共重合組成等を調整して、吸水率及びTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が0.05~0.15%、好ましくは0.06~0.13%であり、かつTgが120~180℃であるポリカーボネート樹脂、あるいは
(ii)Tgが160~250℃、好ましくは170~230℃であり、かつ吸水率が0.10~0.30%、好ましくは0.13~0.30%、より好ましくは0.14~0.27%であるポリカーボネート樹脂。
【0014】
ここで、ポリカーボネート樹脂の吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62-1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0015】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0016】
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0017】
分岐ポリカーボネート樹脂は、本発明の熱可塑性樹脂組成物に、ドリップ防止性能などを付与できる。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0018】
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、2価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.01~1モル%、より好ましくは0.05~0.9モル%、さらに好ましくは0.05~0.8モル%である。また、特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造単位が生ずる場合があるが、かかる分岐構造単位量についても、2価フェノールから誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.001~1モル%、より好ましくは0.005~0.9モル%、さらに好ましくは0.01~0.8モル%であるものが好ましい。なお、かかる分岐構造の割合についてはH-NMR測定により算出することが可能である。
【0019】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω-ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマー固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献および特許公報などで良く知られている方法である。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するにあたり、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、12,500~32,000であることが好ましく、より好ましくは16,000~28,000、さらに好ましくは18,000~26,000である。粘度平均分子量が12,500未満のポリカーボネート樹脂では、良好な機械的特性が得られない場合がある。一方、粘度平均分子量が32,000を超えるポリカーボネート樹脂から得られる樹脂組成物は、成形加工性に劣る場合がある。
【0022】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
【0023】
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
尚、本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の算出は次の要領で行なわれる。すなわち、該組成物を、その20~30倍重量の塩化メチレンと混合し、組成物中の可溶分を溶解させる。かかる可溶分をセライト濾過により採取する。その後得られた溶液中の溶媒を除去する。溶媒除去後の固体を十分に乾燥し、塩化メチレンに溶解する成分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上記と同様にして20℃における比粘度を求め、該比粘度から上記と同様にして粘度平均分子量Mを算出する。
【0024】
本発明のポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂を使用することも出来る。ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂は下記一般式(1)で表される二価フェノールおよび下記一般式(3)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサンを共重合させることにより調製される共重合樹脂であることが好ましい。
【0025】
【化1】
[上記一般式(1)において、R及びRは夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~18のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシ基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、e及びfは夫々1~4の整数であり、Wは単結合もしくは下記一般式(2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。]
【0026】
【化2】
[上記一般式(2)においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17及びR18は夫々独立して水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基及び炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19及びR20は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシ基からなる群から選ばれる基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、gは1~10の整数、hは4~7の整数である。]
【0027】
【化3】
[上記一般式(3)において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R及びR10は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは10~300の自然数である。Xは炭素数2~8の二価脂肪族基である。]
【0028】
一般式(1)で表される二価フェノール(I)としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,3’-ビフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’-ジフェニル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’-(1,3-アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0029】
なかでも、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-スルホニルジフェノール、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼンが好ましく、殊に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、4,4’-スルホニルジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンが好ましい。中でも強度に優れ、良好な耐久性を有する2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好適である。また、これらは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記一般式(3)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサンとしては、例えば下記に示すような化合物が好適に用いられる。
【0031】
【化4】
【0032】
ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は、オレフィン性の不飽和炭素-炭素結合を有するフェノール類、好適にはビニルフェノール、2-アリルフェノール、イソプロペニルフェノール、2-メトキシ-4-アリルフェノールを所定の重合度を有するポリシロキサン鎖の末端に、ハイドロシリレーション反応させることにより容易に製造される。なかでも、(2-アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサン、(2-メトキシ-4-アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサンが好ましく、殊に(2-アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサン、(2-メトキシ-4-アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサンが好ましい。ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は、その分子量分布(Mw/Mn)が3以下であることが好ましい。さらに優れた高温成形時の低アウトガス性と低温衝撃性を発現させるために、かかる分子量分布(Mw/Mn)はより好ましくは2.5以下であり、さらに好ましくは2以下である。かかる好適な範囲の上限を超えると高温成形時のアウトガス発生量が多く、また、低温衝撃性に劣る場合がある。
【0033】
また、高度な耐衝撃性を実現するためにヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)のジオルガノシロキサン重合度(p+q)は10~300が適切である。かかるジオルガノシロキサン重合度(p+q)は好ましくは10~200、より好ましくは12~150、更に好ましくは14~100である。かかる好適な範囲の下限未満では、ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合体の特徴である耐衝撃性が有効に発現せず、かかる好適な範囲の上限を超えると外観不良が現れる。
【0034】
A―1成分で使用されるポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂全重量に占めるポリジオルガノシロキサン含有量は0.1~50重量%が好ましい。かかるポリジオルガノシロキサン成分含有量はより好ましくは0.5~30重量%、さらに好ましくは1~20重量%である。かかる好適な範囲の下限以上では、耐衝撃性や難燃性に優れ、かかる好適な範囲の上限以下では、成形条件の影響を受けにくい安定した外観が得られやすい。かかるポリジオルガノシロキサン重合度、ポリジオルガノシロキサン含有量は、H-NMR測定により算出することが可能である。
【0035】
本発明において、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は1種のみを用いてもよく、また、2種以上を用いてもよい。
【0036】
また、本発明の妨げにならない範囲で、上記二価フェノール(I)、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)以外の他のコモノマーを共重合体の全重量に対して10重量%以下の範囲で併用することもできる。
【0037】
本発明においては、あらかじめ水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中における二価フェノール(I)と炭酸エステル形成性化合物の反応により末端クロロホルメート基を有するオリゴマーを含む混合溶液を調製する。
【0038】
二価フェノール(I)のオリゴマーを生成するにあたり、本発明の方法に用いられる二価フェノール(I)の全量を一度にオリゴマーにしてもよく、又は、その一部を後添加モノマーとして後段の界面重縮合反応に反応原料として添加してもよい。後添加モノマーとは、後段の重縮合反応を速やかに進行させるために加えるものであり、必要のない場合には敢えて加える必要はない。
このオリゴマー生成反応の方式は特に限定はされないが、通常、酸結合剤の存在下、溶媒中で行う方式が好適である。
【0039】
炭酸エステル形成性化合物の使用割合は、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。また、ホスゲン等のガス状の炭酸エステル形成性化合物を使用する場合、これを反応系に吹き込む方法が好適に採用できる。
【0040】
前記酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、ピリジン等の有機塩基あるいはこれらの混合物などが用いられる。酸結合剤の使用割合も、上記同様に、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜定めればよい。具体的には、オリゴマーの形成に使用する二価フェノール(I)のモル数(通常1モルは2当量に相当)に対して2当量若しくはこれより若干過剰量の酸結合剤を用いることが好ましい。
【0041】
前記溶媒としては、公知のポリカーボネートの製造に使用されるものなど各種の反応に不活性な溶媒を1種単独であるいは混合溶媒として使用すればよい。代表的な例としては、例えば、キシレン等の炭化水素溶媒、塩化メチレン、クロロベンゼンをはじめとするハロゲン化炭化水素溶媒などが挙げられる。特に塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒が好適に用いられる。
【0042】
オリゴマー生成の反応圧力は特に制限はなく、常圧、加圧、減圧のいずれでもよいが、通常常圧下で反応を行うことが有利である。反応温度は-20~50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、重合に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は他の条件に左右され一概に規定できないが、通常、0.2~10時間で行われる。オリゴマー生成反応のpH範囲は、公知の界面反応条件と同様であり、pHは常に10以上に調製される。
【0043】
本発明はこのようにして、末端クロロホルメート基を有する二価フェノール(I)のオリゴマーを含む混合溶液を得た後、該混合溶液を攪拌しながら分子量分布(Mw/Mn)が3以下まで高度に精製された一般式(3)で表わされるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)を二価フェノール(I)に加え、該ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)と該オリゴマーを界面重縮合させることによりポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合体を得る。
【0044】
【化5】
(上記一般式(3)において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R及びR10は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは10~300の自然数である。Xは炭素数2~8の二価脂肪族基である。)
【0045】
界面重縮合反応を行うにあたり、酸結合剤を反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜追加してもよい。酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、ピリジン等の有機塩基あるいはこれらの混合物などが用いられる。具体的には、使用するヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)、又は上記の如く二価フェノール(I)の一部を後添加モノマーとしてこの反応段階に添加する場合には、後添加分の二価フェノール(I)とヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との合計モル数(通常1モルは2当量に相当)に対して2当量若しくはこれより過剰量のアルカリを用いることが好ましい。
【0046】
二価フェノール(I)のオリゴマーとヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との界面重縮合反応による重縮合は、上記混合液を激しく攪拌することにより行われる。
かかる重合反応においては、末端停止剤或いは分子量調節剤が通常使用される。末端停止剤としては一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられ、通常のフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、トリブロモフェノールなどの他に、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、ヒドロキシフェニルアルキル酸エステル、アルキルエーテルフェノールなどが例示される。その使用量は用いる全ての二価フェノール系化合物100モルに対して、100~0.5モル、好ましくは50~2モルの範囲であり、二種以上の化合物を併用することも当然に可能である。
【0047】
重縮合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミン又は第四級アンモニウム塩などの触媒を添加してもよい。
かかる重合反応の反応時間は、好ましくは30分以上、更に好ましくは50分以上である。所望に応じ、亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイドなどの酸化防止剤を少量添加してもよい。
【0048】
分岐化剤を上記の二価フェノール系化合物と併用して分岐化ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサンとすることができる。かかる分岐ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。分岐ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂中の多官能性化合物の割合は、ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂全量中、好ましくは0.001~1モル%、より好ましくは0.005~0.9モル%、さらに好ましくは0.01~0.8モル%、特に好ましくは0.05~0.4モル%である。なお、かかる分岐構造量についてはH-NMR測定により算出することが可能である。
【0049】
反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでも可能であるが、通常は、常圧若しくは反応系の自圧程度で好適に行い得る。反応温度は-20~50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、重合に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は反応温度等の他の条件によって異なるので一概に規定はできないが、通常、0.5~10時間で行われる。
【0050】
場合により、得られたポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂に適宜物理的処理(混合、分画など)及び/又は化学的処理(ポリマー反応、架橋処理、部分分解処理など)を施して所望の還元粘度[ηSP/c]のポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂として取得することもできる。
【0051】
得られた反応生成物(粗生成物)は公知の分離精製法等の各種の後処理を施して、所望の純度(精製度)のポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂として回収することができる。
【0052】
ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂成形品中のポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズは、1~40nmの範囲が好ましい。かかる平均サイズはより好ましくは1~30nm、更に好ましくは5~25nmである。かかる好適な範囲の下限未満では、耐衝撃性や難燃性が十分に発揮されず、かかる好適な範囲の上限を超えると耐衝撃性が安定して発揮されない場合がある。
【0053】
本発明におけるポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂成形品のポリジオルガノシロキサンドメインの平均ドメインサイズ、規格化分散は、小角エックス線散乱法(Small Angle X-ray Scattering:SAXS)により評価した。小角エックス線散乱法とは、散乱角(2θ)<10°以内の小角領域で生じる散漫な散乱・回折を測定する方法である。この小角エックス線散乱法では、物質中に1~100nm程度の大きさの電子密度の異なる領域があると、その電子密度差によりエックス線の散漫散乱が計測される。この散乱角と散乱強度に基づいて測定対象物の粒子径を求める。ポリカーボネートポリマーのマトリックス中にポリジオルガノシロキサンドメインが分散した凝集構造となるポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の場合、ポリカーボネートマトリックスとポリジオルガノシロキサンドメインの電子密度差により、エックス線の散漫散乱が生じる。散乱角(2θ)が10°未満の範囲の各散乱角(2θ)における散乱強度I を測定して、小角エックス線散乱プロファイルを測定し、ポリジオルガノシロキサンドメインが球状ドメインであり、粒径分布のばらつきが存在すると仮定して、仮の粒径と仮の粒径分布モデルから、市販の解析ソフトウェアを用いてシミュレーションを行い、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと粒径分布(規格化分散)を求める。小角エックス線散乱法によれば、透過型電子顕微鏡による観察では正確に測定できない、ポリカーボネートポリマーのマトリックス中に分散したポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと粒径分布を、精度よく、簡便に、再現性良く測定することができる。平均ドメインサイズとは個々のドメインサイズの数平均を意味する。規格化分散とは、粒径分布の広がりを平均サイズで規格化したパラメータを意味する。具体的には、ポリジオルガノシロキサンドメインサイズの分散を平均ドメインサイズで規格化した値であり、下記式(1)で表される。
【0054】
【数1】
上記式(1)において、δはポリジオルガノシロキサンドメインサイズの標準偏差、Davは平均ドメインサイズである。
【0055】
本発明に関連して用いる用語「平均ドメインサイズ」、「規格化分散」は、かかる小角エックス線散乱法により、実施例記載の方法で作製した3段型プレートの厚み1.0mm部を測定することにより得られる測定値を示す。また、粒子間相互作用(粒子間干渉)を考慮しない孤立粒子モデルにて解析を行った。
【0056】
<A-2成分:ABS樹脂>
本発明のA-2成分として使用されるABS樹脂は、ポリブタジエンにアクリロニトリルおよびスチレンをグラフト重合した共重合体である。スチレンとしては特にスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく使用できる。かかるポリブタジエンにグラフトされる成分の割合は、ABS樹脂成分100重量%中95~20重量%が好ましく、特に好ましくは90~50重量%である。更にかかるアクリルニトリルおよびスチレンの合計量100重量%に対して、アクリルニトリルが5~50重量%、スチレンが95~50重量%であることが好ましい。更に上記のポリブタジエンにグラフト重合される成分の一部についてメチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、無水マレイン酸、N置換マレイミドなどを混合使用することもでき、これらの含有割合はABS樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。更に反応で使用する開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などは必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。本発明のABS樹脂においては、ポリブタジエンの粒子径は0.1~5.0μmが好ましく、より好ましくは0.2~3.0μm、特に好ましくは0.3~1.5μmである。かかるポリブタジエンの粒子径の分布は単一の分布であるもの及び2山以上の複数の山を有するもののいずれもが使用可能であり、更にそのモルフォロジーにおいても粒子が単一の相をなすものであっても、粒子の周りにオクルード相を含有することによりサラミ構造を有するものであってもよい。またABS樹脂がジエン系ゴム成分にグラフトされないアクリルニトリルおよびスチレンからなる共重合体を含有することは従来からよく知られているところであり、本発明のABS樹脂においてもかかる重合の際に発生するフリーの重合体成分を含有するものであってもよい。かかるフリーのアクリルニトリルおよびスチレンからなる共重合体の還元粘度は、還元粘度(30℃)が0.2~1.0dl/gが 好ましく、より好ましくは0.3~0.7dl/gであるものである。またグラフトされたアクリルニトリルおよびスチレンの割合はポリブタジエンに対して、グラフト率(重量%)で表して20~200%が好ましく、より好ましくは20~70%のものである。かかるABS樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよいが、特に塊状重合によるものが好ましい。塊状重合の場合には乳化剤などに由来するアルカリ金属塩などを実質的に含まないため、樹脂組成物の熱安定性をより良好に保つことが可能となる。また共重合の方法も一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。また、かかる製造法により得られたABS樹脂にアクリルニトリルおよびスチレンを別途共重合して得られるビニル化合物重合体をブレンドしたものも好ましく使用できる。
【0057】
<A-3成分:ポリエステル樹脂>
本発明のA-3成分として使用されるポリエステル樹脂は、ポリエステルを形成するジカルボン酸成分とジオール成分の内、ジカルボン酸成分100モル%の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるポリエステル樹脂が好ましく、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは99モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるポリエステル樹脂である。
【0058】
このジカルボン酸の例として、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、4,4-スチルベンジカルボン酸、4,4-ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4-ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-Naスルホイソフタル酸、エチレン-ビス-p-安息香酸等があげられる。これらのジカルボン酸は単独でまたは2種以上混合して使用することができる。本発明のポリエステル樹脂には、上記の芳香族ジカルボン酸以外に、30モル%未満の脂肪族ジカルボン酸成分を共重合することができる。その具体例として、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等があげられる。
【0059】
本発明のジオール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、トランス-またはシス-2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p-キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して使用することができる。尚、ジオール成分中の二価フェノールは30モル%以下であることが好ましい。
【0060】
具体的なポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレートなどの他、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体などのような共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0061】
また本発明に使用されるポリエステル樹脂の末端基構造は特に限定されるものではなく、末端基における水酸基とカルボキシ基の割合がほぼ同量の場合以外に、一方の割合が多い場合であってもよい。またかかる末端基に対して反応性を有する化合物を反応させる等により、それらの末端基が封止されているものであってもよい。
【0062】
本発明に使用されるポリエステル樹脂の製造方法については、常法に従い、チタン、ゲルマニウム、アンチモン等を含有する重縮合触媒の存在下に、加熱しながらジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重合させ、副生する水または低級アルコールを系外に排出することにより行われる。例えば、ゲルマニウム系重合触媒としては、ゲルマニウムの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート、フェノラート等が例示でき、更に具体的には、酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム等が例示できる。また本発明では、従来公知の重縮合の前段階であるエステル交換反応において使用される、マンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の化合物を併せて使用でき、およびエステル交換反応終了後にリン酸または亜リン酸の化合物等により、かかる触媒を失活させて重縮合することも可能である。更にポリエステル樹脂の製造方法は、バッチ式、連続重合式のいずれの方法をとることも可能である。
【0063】
更に上記ポリエステル樹脂中でも特に好適であるのは、ポリエチレンテレフタレートである。本発明のポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸あるいはその誘導体と、1,4-エタンジオールあるいはその誘導体とから重縮合反応により得られるポリマーであるが、上述のとおり他のジカルボン酸成分および他のアルキレングリコール成分を共重合したものを含む。
【0064】
ポリエチレンテレフタレートの末端基構造は上記と同様、特に限定されるものではないが、より好ましいのは末端カルボキシ基が末端水酸基に比較して少ないものである。また製造方法についても上記の各種方法を取り得るが、連続重合式のものが好ましい。これはその品質安定性が高く、またコスト的にも有利なためである。更に重合触媒としては有機チタン化合物を用いることが好ましい。これはエステル交換反応などへの影響が少ない傾向にあるからである。かかる有機チタン化合物としては、好ましい具体例としてチタンテトラブトキシド、チタンイソプロポキシド、蓚酸チタン、酢酸チタン、安息香酸チタン、トリメリット酸チタン、テトラブチルチタネートと無水トリメリット酸との反応物などを挙げることができる。有機チタン化合物の使用量は、そのチタン原子がポリエチレンテレフタレートを構成する酸成分に対し、3~12mg原子%となる割合が好ましい。
【0065】
本発明のポリエステル樹脂の分子量については特に制限されないが、o-クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.5~1.5であるのが好ましく、特に好ましくは0.6~1.2である。
【0066】
<A-4成分:AS樹脂>
本発明のA-4成分として使用されるAS樹脂はアクリルニトリルとスチレンの共重合体である。AS樹脂はその製造時にメタロセン触媒等の触媒使用により、シンジオタクチックポリスチレン等の高い立体規則性を有するものであってもよい。更に場合によっては、アニオンリビング重合、ラジカルリビング重合等の方法により得られる、分子量分布の狭い重合体及び共重合体、ブロック共重合体、及び立体規則性の高い重合体、共重合体を使用することも可能である。
【0067】
<A-5成分:PS樹脂>
本発明のA-5成分として使用されるPS樹脂はスチレンの重合体である。
【0068】
<A-6成分:AAS樹脂>
本発明のA-6成分として使用されるAAS樹脂はアクリロニトリル、スチレンおよびアクリルゴム成分からなる共重合体である。
【0069】
<B成分:ホスホン酸エステル>
本発明で使用されるホスホン酸エステルは、ホスホン酸モノエステル、ホスホン酸ジエステル、ホスホン酸トリエステルが使用できるがホスホン酸トリエステルが好ましい。エステルの炭素数は1から22のものまで種々の組合せが使えるが、トリエチルホスホノアセテートが最も好ましい。ホスホン酸エステルの酸価は0.01~0.30mgKOH/gであり、好ましくは0.01~0.20mgKOH/g、より好ましくは0.05~0.15mgKOH/gである。酸価が0.01mgKOH/g未満のものは製造上現実的ではなく、0.30mgKOH/gより大きい場合、成形加工時の変色及び強度の低下が防止できない。酸価の測定は電位差滴定装置を使用し、ホスホン酸エステルのアルコール溶液をKOHアルコール溶液にて滴定した。
【0070】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.001~1重量部であり、好ましくは0.01~0.1重量部、より好ましくは0.01~0.07重量部である。B成分の含有量が0.001重量部未満の場合、1重量部を超える場合共に成形加工時の変色及び強度の低下が防止できない。
【0071】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、各種充填材、難燃剤およびその他の添加剤を配合することができる。
【0072】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分、B成分および任意に他の成分を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、その後ペレタイザーによりペレット化する方法が挙げられる。
【0073】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。各成分の一部を予備混合する方法としては例えば、A成分以外の成分を予め予備混合した後、A成分の熱可塑性樹脂に混合または押出機に直接供給する方法が挙げられる。
【0074】
予備混合する方法としては例えば、A成分としてパウダーの形態を有するものを含む場合、かかるパウダーの一部と配合する添加剤とをブレンドしてパウダーで希釈した添加剤のマスターバッチを製造し、かかるマスターバッチを利用する方法が挙げられる。更に一成分を独立に溶融押出機の途中から供給する方法なども挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0075】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0076】
溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0077】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~3.5mmである。
【発明の効果】
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、過酷な加工条件下であっても、変色および強度低下が少なくリサイクル性にも優れた熱可塑性樹脂組成物であるため、成形条件が高温となる薄肉軽量化が求められる用途および製品を再度リサイクルして使用する場合等に有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明者らが現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例0080】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
尚、評価としては以下の項目について実施した。
(i)滞留時の変色
実施例の各組成から得られたペレットを100℃で5時間、熱風乾燥機にて乾燥し、射出成形機[住友重機械工業(株)SG150U・S-M IV]により、表中の温度にて連続して150mm×150mm×2mmtの角板を100ショット成形した。その後成形機の操作を中断し、樹脂をシリンダー内に滞留させた。15分後に再び角板を成形し、滞留前後での角板の色相を東京電色製カラーアナライザーTC-1800MKIIを使用して測定し、滞留前後の色差(ΔE)を算出した。
【0081】
(ii)滞留時の強度保持率
「(i)滞留時の変色」に用いた角板を使用し、高速面衝撃試験を行い、滞留前後の角板の破壊エネルギーを測定し、下記式により滞留前後での強度保持率を算出した。なお、測定は株式会社島津製作所製ハイドロショットHTM-1を使用し、23℃、試験速度7m/sの条件で実施した。
強度保持率(%)=[滞留後の破壊エネルギー/滞留前の破壊エネルギー]×100
【0082】
(iii)リサイクル性
「(i)滞留時の変色」に用いた滞留前の角板を、1年間千葉市緑区の屋外に水平に放置したのち、粉砕して再度角板を成形した。放置前の角板および再生成形した角板の色相および破壊エネルギーを「(i)滞留時の変色」および「(ii)滞留時の強度保持率」と同様の方法で測定し、両者の色差(ΔE)および強度保持率を測定した。
【0083】
[実施例1~12、比較例1~5]
表1中の配合割合からなる樹脂組成物を以下の要領で作成した。尚、説明は以下の表中の記号にしたがって説明する。表の割合の各成分を計量して、タンブラーを用いて均一に混合し、かかる混合物を押出機に投入して樹脂組成物の作成を行った。押出機は、ベント式二軸押出機(株)日本製鋼所製:TEX-30XSST(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。押出条件は吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は表中の温度とした。得られたペレットを使用して上記の方法で射出成形機を用いて評価用の試験片を成形した。各評価結果を表1に示す。なお、表1中記号表記の各成分は下記の通りである。
【0084】
(A成分:熱可塑性樹脂)
A-1-1:芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量20,700のポリカーボネート樹脂パウダー、帝人(株)製 パンライトL-1225WS(製品名))
A-1-2:下記製法により得られた粘度平均分子量22,300の変性ポリカーボネート樹脂パウダー
温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応器に、48%水酸化ナトリウム水溶液4229部およびイオン交換水20,000部を仕込み、これに1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下Bis-1と略す)2191部、ビスフェノールA1951部およびハイドロサルファイト8.3部を溶解した後、塩化メチレン11,620部を加え、撹拌下、15~25℃でホスゲン2,200部を約60分かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液704部およびp-tert-ブチルフェノール102部を加え、撹拌を再開、乳化後トリエチルアミン4.32部を加え、さらに28~33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで、この溶液を目開き0.3μmのフィルターに通過させ、さらに軸受け部に異物取出口を有する隔離室付きニーダー中の温水に滴下、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化し、引続き該含液フレークを粉砕・乾燥してパウダーを得た。
A-1-3:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(粘度平均分子量19,800、PDMS量4.2%、PDMS重合度37)
A-2:ABS樹脂(日本A&L(株)製 サンタックAT-07(商品名)、ブタジエンゴム成分約17.5重量%、重量平均ゴム粒子径1.2μm、塊状重合にて製造)
A-3:ポリエチレンテレフタレート(帝人(株)製 TRN-8550FF(商品名))
A-4:AS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 ライタックA BS-207(商品名))
A-5:PS樹脂(IRPC Public CompanyLimited製 GP-110(商品名))
A-6:AAS樹脂(INEOS社製 777K(商品名))
【0085】
(B成分:ホスホン酸エステル)
B-1: トリエチルホスホノアセテート(城北化学工業(株)製 JC―224(商品名)酸価0.08mgKOH/g)
B-2(比較例):トリエチルホスホノアセテート(Solvay社製 酸価0.39mgKOH/g)
B-3:トリエチルホスホノアセテート(B-1およびB-2の混合物(重量比1:1) 酸価0.23mgKOH/g)
【0086】
【表1】