(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172833
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】磁極位置推定装置および磁極位置推定方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20231129BHJP
【FI】
H02P6/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150496
(22)【出願日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022083714
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】西村 光博
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA07
5H560DB07
5H560DB20
5H560DC12
5H560GG04
5H560TT08
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦や機械共振が存在する機械系に用いた場合でも,少ないステップ数で高い精度のロータ磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置を提供する。
【解決手段】磁極位置推定装置は、同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器7と、電流検出器7で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器8と、電流指令とフィードバック側座標変換器8で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、電圧指令、または、電流指令を座標変換する指令側座標変換器4と、ロータの位置を検出する位置検出部9と、ロータの位置と位置指令とロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する磁極位置算出部10と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定装置であって、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換器で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換器と、
前記ロータの位置を検出する位置検出部と、
前記ロータの位置と位置指令と、前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する磁極位置算出部と、
を備え、
前記磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換器と前記指令側座標変換器が座標変換することにより、前記磁極位置推定装置は前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算されることを特徴とする、磁極位置推定装置。
【請求項2】
前記磁極位置算出部は、
前記ロータの位置と前記位置指令との偏差から前記制御磁極位置を算出する位置制御器、または、前記ロータの速度と前記速度指令との偏差から前記磁極ずれ量を算出する速度制御器、を備える、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項3】
前記磁極位置算出部は、
前記磁極ずれ量に前記ロータの位置を加算することで、前記制御磁極位置を算出する、請求項1または2に記載の磁極位置推定装置。
【請求項4】
前記ディザ信号は正方向の振幅の平均値と負方向の振幅の平均値が同じ値である、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項5】
前記ディザ信号の大きさは、静止摩擦やクーロン摩擦より大きなトルクを発生させる値である、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項6】
前記ディザ信号は、所定の周波数帯の周波数成分から構成される疑似乱数である、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項7】
前記磁極位置推定装置は、前記磁極位置算出部に機械系の共振周波数帯のゲインを低減するノッチフィルタをさらに備える、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項8】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法であって、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と、前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を備え、
前記算出工程で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換工程と前記指令側座標変換工程において座標変換することにより、前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算されることを特徴とする、磁極位置推定方法。
【請求項9】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法であって、
q軸電流指令に基づいて電流制御を行い,制御磁極位置、または、磁極ずれ量を第一収束値に収束させる第一工程と、
d軸電流指令にディザ信号を加算した電流指令に基づいて電流制御を行い,または、前記制御磁極位置に前記ディザ信号を加算して、前記d軸電流指令に基づいて電流制御を行い、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を第二収束値に収束させる第二工程と、を備え、
前記第一工程及び前記第二工程は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
前記電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と、前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を有する、磁極位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁極位置推定装置および磁極位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータの磁極位置に応じた電流をステータの巻線に流してトルクを発生させる同期電動機において、ロータの位置検出器としてインクリメンタルエンコーダを用いて、駆動開始時にロータの磁極位置の初期値を推定する技術が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、駆動開始時にロータの磁極位置の初期値を推定する技術が開示されている。具体的には、一定のdq軸電流を流した時にロータの磁極位置と制御磁極位置とのずれである磁極位置誤差が存在すると、磁極位置誤差に応じてトルクが発生し、ロータの位置が移動する。移動したロータの位置を検出し、移動前のロータの位置に対する偏差をPI演算して座標変換位置を補正することで、磁極位置誤差量を0に収束させ、ロータの磁極位置の初期値を推定する。
また、特許文献1には、同期電動機を用いた機械系の静止摩擦の影響を受けずにロータの磁極位置の初期値を推定する技術が開示されている。具体的には、非特許文献1に開示されている技術に加えて、ロータの位置を正方向に移動させた場合の磁極ずれ量の収束値と負方向に移動させた場合の磁極ずれ量の収束値の平均値を算出し、ロータの磁極位置の初期値を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電気学会論文誌D、Vol.122、No.9、2002 「インクリメンタルエンコーダ付きブラシレスDCサーボモータの磁極位置検出法と制御」
【特許文献1】特開2009-183022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モータ制御装置のインバータ容量等からステータの巻線に流す電流量には制約がある。そのため、非特許文献1の手法では同期電動機を用いた機械系の静止摩擦やクーロン摩擦が大きい場合、磁極位置誤差を小さくできず、高精度なロータの磁極位置の推定が困難であった。また、特許文献1に開示されているロータの磁極位置の初期値の推定方法は、4つの工程から構成されており、推定時間が長いという課題があった。
さらに、同期電動機を用いた機械系が2慣性系など共振系である場合、非特許文献1の手法や特許文献1で開示されている推定方法では、磁極位置推定系が発振するため、機械共振の影響で高精度なロータの磁極位置の推定が困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦や機械共振が存在する機械系に用いた場合でも、少ない工程数で機械共振の影響を受けずに高精度なロータの磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定装置は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換器で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換器と、
前記ロータの位置を検出する位置検出部と、
前記ロータの位置と位置指令と、前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する磁極位置算出部と、
を備え、
前記磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換器と前記指令側座標変換器が座標変換することにより、前記磁極位置推定装置は前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算される。
【0008】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と、前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を備え、
前記算出工程で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換工程と前記指令側座標変換工程において座標変換することにより、前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算される。
【0009】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法は、
q軸電流指令に基づいて電流制御を行い,制御磁極位置、または、磁極ずれ量を第一収束値に収束させる第一工程と、
d軸電流指令にディザ信号を加算した電流指令に基づいて電流制御を行い,または、前記制御磁極位置に前記ディザ信号を加算して、前記d軸電流指令に基づいて電流制御を行い、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を第二収束値に収束させる第二工程と、を備え、
前記第一工程及び前記第二工程は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
前記電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と、前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦や機械共振が存在する機械系に用いた場合でも、少ない工程数で機械共振の影響を受けずに高精度なロータの磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置のクーロン摩擦が存在する場合のシミュレーション結果である。
【
図4】参考例に係る磁極位置推定装置のクーロン摩擦が存在する場合のシミュレーション結果である。
【
図5】本発明の第一実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明の第一実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置であって、所定の周波数帯の周波数成分から構成される疑似乱数であるディザ信号を加算した場合のシミュレーション結果である。
【
図7】参考例に係る磁極位置推定装置であって、反共振周波数と同じ周波数のディザ信号を加算した場合のシミュレーション結果である。
【
図8】本発明の第二実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の第二実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の第三実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された構成と同一の参照番号を有する構成については、説明の便宜上、その説明は省略する。
【0013】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、サーボモータMの制御装置(以下、磁極位置推定装置ともいう)は、dq軸電流指令設定器1と、q軸電流制御器2と、d軸電流制御器3(以下、q軸電流制御器2とd軸電流制御器3を、まとめて電流制御部ともいう)と、指令側座標変換器4と、PWM制御器5と、電力変換機6と、電流検出器7と、フィードバック側座標変換器8と,位置検出部(エンコーダ)9と、磁極位置算出部10と、フィルタ11と、磁極ずれ量保存器12と、ディザ信号設定器13から構成される。磁極位置算出部10は、速度算出器14と、位置制御器15と、速度制御器16とを含む。dq軸電流指令設定器1とディザ信号設定器13は、磁極位置推定コントローラ20によって制御される。位置制御器15は例えば比例制御器で構成され、速度制御器16は例えば比例積分制御器で構成される。
【0014】
dq軸電流指令設定器1は、q軸電流指令設定値を出力する。ディザ信号設定器13は、ディザ信号を出力する。ここで、本実施形態におけるディザ信号とは、三角波や正弦波や矩形波等の正方向と負方向に交互に動作する波形であり、正方向の振幅の平均値と負方向の振幅の平均値が同じ値であり、静止摩擦やクーロン摩擦より大きなトルクを発生させる値である。次に、q軸電流指令設定値に、ディザ信号が加算されることで、q軸電流指令IqCが算出される。次に、q軸電流指令IqCとフィードバック側座標変換器8からのq軸電流フィードバックIqFとの偏差がq軸電流制御器2に入力される。q軸電流制御器2は、入力された偏差からq軸電圧指令VqCを算出する。
【0015】
また、dq軸電流指令設定器1は、d軸電流指令IdCであるd軸電流指令設定値を出力する。次に、d軸電流指令IdCとフィードバック側座標変換器8からのd軸電流フィードバックIdFとの偏差がd軸電流制御器3に入力される。d軸電流制御器3は、入力された偏差からd軸電圧指令VdCを算出する。
【0016】
算出されたq軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCは、指令側座標変換器4に入力される。指令側座標変換器4は、磁極位置算出部10からの制御磁極位置θcに基づいて、q軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCを、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換し、三相電圧指令VUC、VVC、VWCを算出する。三相電圧指令VUC、VVC、VWCはPWM制御器5に入力され、PWM制御器5は入力された三相電圧指令VUC、VVC、VWCからPWM制御信号を生成し、出力する。PWM制御信号は電力変換機6に入力され、電力変換機6はPWM制御信号に基づいてサーボモータMを駆動する。
【0017】
なお、本実施形態ではq軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCが、指令側座標変換器4に入力されて、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換される構成となっているが、q軸電流指令IqCとd軸電流指令IdCが、指令側座標変換器4に入力されて、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換される構成であってもよい。
【0018】
電流検出器7はサーボモータMのU相のモータ電流IUと、V相のモータ電流IVを検出する。モータ電流IU、IVの電流検出値はフィードバック側座標変換器8に入力される。フィードバック側座標変換器8は、磁極位置算出部10からの制御磁極位置θcに基づいて、モータ電流IU、IVの電流検出値を、三相静止座標系からdq回転座標系へ座標変換し、q軸電流フィードバックIqFとd軸電流フィードバックIdFを算出する。
【0019】
位置検出部(エンコーダ)9は、サーボモータMに搭載されていて、サーボモータMのロータの位置θFBを検出する。検出されたロータの位置θFBは、速度算出器14に入力される。速度算出器14は、検出されたロータの位置θFBを微分処理してモータ速度VFBを算出する。
【0020】
また、位置指令θcmdと検出されたロータの位置θFBの偏差が位置制御器15に入力され、位置制御器15は速度指令Vcmdを出力する。出力された速度指令Vcmdとモータ速度VFBとの偏差が速度制御器16に入力され、速度制御器16は制御磁極位置θcを算出する。算出された制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4とフィードバック側座標変換器8とフィルタ11に入力される。フィルタ11は、ローパスフィルタ等で構成され、ディザ信号による制御磁極位置θcの変動を抑制する。フィルタ11を通過した制御磁極位置θcと検出されたロータの位置θFBとの差である磁極ずれ量推定値θeFが、磁極ずれ量保存器12に保存される。
【0021】
上記構成において、位置指令θcmdを0に設定し、速度制御器16を比例積分制御器で構成することで、速度指令Vcmdとモータ速度VFBとの定常偏差が0となるように制御される。その結果、検出されたロータの位置θFBは最終的に0に収束される。
【0022】
なお、本実施形態では位置指令θcmdが入力される構成となっているが、位置制御器15を設けずに、速度指令Vcmdが入力される構成であってもよい。
【0023】
図2は、本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
磁極位置推定装置が磁極位置推定フローを開始すると、第一工程として、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を一定値に設定し、d軸電流指令設定値を0に設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をOFFに設定し、同期電動機を駆動する(S101)。
【0024】
これにより、ロータの磁極位置θreと制御磁極位置θcとのずれである磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生し、トルクによりロータの位置θFBが移動する。そのため、位置指令θcmdと検出されたロータの位置θFBの偏差が発生し、位置制御器15から速度指令Vcmdが出力される。さらに、速度指令Vcmdとモータ速度VFBとの偏差が発生し、速度制御器16によって制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力されて、サーボモータMの電流制御が行われる。したがって、q軸電流のみ電流を流していることから磁極位置誤差はπ/2付近(第一収束値)に収束し、収束後のロータに発生するトルクは停止時の摩擦トルク相当のトルクになる。位置偏差を抑制する方向に制御系が動作するため、検出されたロータの位置θFBは移動した位置から元の位置に戻る。
【0025】
第一工程において制御磁極位置θcが収束するまでの一定時間が経過した後、第二工程として、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を0に設定し、d軸電流指令設定値を一定値に設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をONに設定し、同期電動機を駆動する(S102)。
【0026】
これにより、磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生し、トルクによりロータの位置θFBが移動する。そのため、第一工程と同様に、速度制御器16によって制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力されて、サーボモータMの電流制御が行われる。したがって、ロータに発生するトルクが小さくなるように制御され、磁極位置誤差は0(第二収束値)に収束し、収束後にロータに発生するトルクはディザ信号によるトルクのみとなる。
【0027】
第二工程において制御磁極位置θcが収束するまでの一定時間が経過した後、フィルタ11を通過した制御磁極位置θcと検出されたロータの位置θFBの差である磁極ずれ量推定値θeFが、磁極ずれ量保存器12に保存されて、磁極位置推定フローは終了する。磁極位置推定フロー終了後、磁極ずれ量保存器12に保存されている磁極ずれ量推定値θeFを検出されたロータの位置θFBに加算して、制御磁極位置θcを算出することで、正確なロータの磁極位置での同期電動機の駆動が可能となる。
【0028】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁極位置推定方法は第一工程、第二工程から構成されるため、少ない工程数で高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0029】
図3は、本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置のクーロン摩擦が存在する場合のシミュレーション結果である。
図3の(A)~(G)の横軸は時間tを示し、単位は秒(s)である。0s≦t<0.02sでは、
図2に示す第一工程(S101)を行い、0.02s≦tでは、
図2に示す第二工程(S102)を行う。
【0030】
図3の(A)はq軸電流指令IqCとq軸電流フィードバックIqFの波形を示す。
図3の(B)はd軸電流指令IdCとd軸電流フィードバックIdFの波形を示す。第一工程(0s≦t<0.02s)では、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を一定値に設定し、d軸電流指令設定値を0に設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をOFFに設定する。そのため、q軸電流指令IqCは3A、d軸電流指令IdCは0Aとなる。第二工程(0.02s≦t)では、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を0に設定し、d軸電流指令設定値を一定値に設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をONに設定する。そのため、q軸電流指令IqCはディザ信号によって0Aを中心に振動する三角波となり、d軸電流指令IdCは3Aとなる。なお、q軸電流フィードバックIqFとd軸電流フィードバックIdFは、それぞれ、q軸電流指令IqCとd軸電流指令IdCに追従する波形となる。
【0031】
図3の(C)はロータに発生するトルクの波形を示す。
図3の(C)に示すように、第一工程の開始時(t=0s)において、磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生する。その後、磁極位置誤差はπ/2付近に収束する。また、第二工程の開始時(t=0.02s)において、磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生する。その後、磁極位置誤差は0に収束し、収束後のロータに発生するトルクはディザ信号によるトルクのみとなる。
【0032】
図3の(D)は速度指令Vcmdとモータ速度VFBの波形を示す。
図3の(E)は検出されたロータの位置θFBの波形を示す。磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生し、
図3の(E)に示すように、トルクによりロータの位置θFBが移動する。
【0033】
図3の(F)はロータの磁極位置θreと制御磁極位置θcの波形を示す。
図3の(G)は磁極位置誤差の波形を示す。第二工程開始から、制御磁極位置θcが収束するまでの一定時間が経過した後(0.02s≦t)、磁極位置誤差はディザ信号によって0に収束する。これにより、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0034】
(参考例)
図4は、参考例に係る磁極位置推定装置のクーロン摩擦が存在する場合のシミュレーション結果である。
図4の(A)~(G)は、
図3の(A)~(G)と同じ波形を表す。また、
図4の(A)~(G)の横軸は時間tを示し、単位は秒(s)である。0≦t<0.02では、
図2に示す第一工程(S101)を行い、0.02≦tでは、
図2に示す第二工程(S102)を行う。参考例に係る磁極位置推定装置では、本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置と異なり、第二工程において、ディザ信号設定器13のディザ信号をOFFに設定する。
【0035】
図4の(C)に示すように、第二工程(0.02s≦t)において、磁極位置誤差の収束後に、ロータにはディザ信号によるトルクが発生していない。そのため、
図4の(G)に示すように、磁極位置誤差は負の値に収束し、0に収束しない。つまり、同期電動機を用いた機械系の静止摩擦やクーロン摩擦によりロータの磁極位置の推定誤差が発生し、高精度なロータの磁極位置の推定が困難となる。
【0036】
(第一実施形態の変形例)
図5は、本発明の第一実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、本実施形態に係る磁極位置推定装置は、
図1に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置の磁極位置算出部10に、ノッチフィルタ17が追加された構成となっている。速度制御器16で算出されてノッチフィルタ17を通過した制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4とフィードバック側座標変換器8とフィルタ11に入力される。
なお、本実施形態に係る磁極位置推定装置のロータ磁極位置の推定処理フローは、
図2に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置のロータ磁極位置の推定処理フローと同様である。
【0037】
本実施形態において、ディザ信号とは、正方向と負方向に交互に動作する波形であり、静止摩擦やクーロン摩擦より大きなトルクを発生させる値であり、所定の周波数帯の周波数成分から構成される疑似乱数のM系列信号などである。
同期電動機を用いた機械系が2慣性系であって、ディザ信号の周波数が一定値であって機械系の反共振周波数と一致する場合、ディザ信号を与えても機械系が動かないため、
図4に示す第二工程でディザ信号をOFFに設定した場合と同様に、ロータの磁極位置の推定誤差が発生する。そのため、高精度なロータの磁極位置の推定が困難となる。そこで、本実施形態では、ディザ信号の周波数が反共振周波数と一致した固定周波数にならないように、ディザ信号を所定の周波数帯の周波数成分から構成される疑似乱数としている。
【0038】
また、ノッチフィルタ17は、特定帯域の周波数成分を除去する帯域除去フィルタであり、機械系の共振周波数帯のゲインを低減する機能を有する。モータイナーシャに対して機械系の負荷イナーシャが大きく、モータMと機械系との間の動力伝達機構の剛性が低い場合、機械系に大きな共振が発生する可能性がある。そのため、ノッチフィルタ17のノッチ周波数に機械系の共振周波数を設定することで、機械系の共振を抑制し、磁極位置推定制御系の発振を防止することができる。
【0039】
図6は、本発明の第一実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置であって、クーロン摩擦が存在し、同期電動機を用いた機械系が2慣性系であって、所定の周波数帯の周波数成分から構成される疑似乱数であるディザ信号を加算した場合のシミュレーション結果である。
図6の(A)~(G)の横軸は時間tを示し、単位は秒(s)である。0s≦t<0.1sでは、
図2に示す第一工程(S101)を行い、0.1s≦tでは、
図2に示す第二工程(S102)を行う。
【0040】
図6の(A)はq軸電流指令IqCとq軸電流フィードバックIqFの波形を示す。
図6の(B)はd軸電流指令IdCとd軸電流フィードバックIdFの波形を示す。第一工程(0s≦t<0.1s)では、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を一定値に設定し、d軸電流指令設定値を0に設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をOFFに設定する。そのため、q軸電流指令IqCは3A、d軸電流指令IdCは0Aとなる。第二工程(0.1s≦t)では、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を0に設定し、d軸電流指令設定値を一定値に設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をONに設定する。そのため、q軸電流指令IqCはディザ信号によって0Aを中心に動作する疑似乱数波形となり、d軸電流指令IdCは3Aとなる。なお、q軸電流フィードバックIqFとd軸電流フィードバックIdFは、それぞれ、q軸電流指令IqCとd軸電流指令IdCに追従する波形となる。
【0041】
図6の(C)はロータに発生するトルクの波形を示す。
図6の(C)に示すように、第一工程の開始時(t=0s)において、磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生する。その後、磁極位置誤差はπ/2付近に収束する。また、第二工程の開始時(t=0.1s)において、磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生する。その後、磁極位置誤差は0に収束し、収束後のロータに発生するトルクはディザ信号によるトルクのみとなる。
【0042】
図6の(D)は速度指令Vcmdとモータ速度VFBの波形を示す。
図6の(E)は検出されたロータの位置θFBの波形を示す。磁極位置誤差に応じてロータにトルクが発生し、
図6の(E)に示すように、トルクによりロータの位置θFBが移動する。
【0043】
図6の(F)はロータの磁極位置θreと制御磁極位置θcの波形を示す。
図6の(G)は磁極位置誤差の波形を示す。第二工程開始から、制御磁極位置θcが収束するまでの一定時間が経過した後(0.1s≦t)、磁極位置誤差はディザ信号によって0に収束する。これにより、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0044】
(参考例)
図7は、参考例に係る磁極位置推定装置であって、クーロン摩擦が存在し、同期電動機を用いた機械系が2慣性系であって、反共振周波数と同じ周波数のディザ信号を加算した場合のシミュレーション結果である。
図7の(A)~(G)のそれぞれは、
図6の(A)~(G)のそれぞれと同じ波形を表す。また、
図7の(A)~(G)の横軸は時間tを示し、単位は秒(s)である。0≦t<0.1では、
図2に示す第一工程(S101)を行い、0.1≦tでは、
図2に示す第二工程(S102)を行う。参考例に係る磁極位置推定装置では、本発明の第一実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置と異なり、ディザ信号の周波数が一定値であって反共振周波数と一致している。
【0045】
図7の(G)に示すように、第二工程(0.1s≦t)において、磁極位置誤差は低い周波数で変動して、0に収束しない。つまり、同期電動機を用いた機械系のクーロン摩擦によりロータの磁極位置の推定誤差が発生し、高精度なロータの磁極位置の推定が困難となる。
【0046】
(第二実施形態)
図8は、本発明の第二実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置では、速度制御器16は制御磁極位置θcを算出し、算出された制御磁極位置θcは指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力される。これに対して、
図8に示す第二実施形態に係る磁極位置推定装置では、速度制御器16は磁極ずれ量推定値θeを算出し、算出された磁極ずれ量推定値θeに検出されたロータの位置θFBが加算されて制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力される。本実施形態に係る磁極位置推定装置も、第一実施形態に係る磁極位置推定装置と同様に、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
なお、速度制御器16と、指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8の間の経路以外の構成(dq軸電流指令設定器1、q軸電流制御器2、d軸電流制御器3、指令側座標変換器4、PWM制御器5、電力変換機6、電流検出器7、フィードバック側座標変換器8,位置検出部(エンコーダ)9、磁極位置算出部10、フィルタ11、磁極ずれ量保存器12、およびディザ信号設定器13)は、
図1に示す第一実施形態の各構成と同様である。したがって、これらの説明については省略する。
【0047】
(第二実施形態の変形例)
図9は、本発明の第二実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、第二実施形態の変形例に係る磁極位置推定装置は、
図8に示す第二実施形態に係る磁極位置推定装置の磁極位置算出部10に、ノッチフィルタ17が追加された構成となっている。速度制御器16で算出されてノッチフィルタ17を通過した制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4とフィードバック側座標変換器8とフィルタ11に入力される。
なお、本実施形態に係る磁極位置推定装置のロータ磁極位置の推定処理フローは、
図2に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置のロータ磁極位置の推定処理フローと同様である。
本発明の第一実施形態の変形例と同様に、ノッチフィルタ17のノッチ周波数に機械系の共振周波数を設定することで、機械系に大きな共振が発生する場合でも、機械系の共振による磁極位置推定制御系の発振を防止することができる。
【0048】
(第三実施形態)
図10は、本発明の第三実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置では、ディザ信号設定器13がdq軸電流指令設定器1とq軸電流制御器2の間に配置されているのに対して、本発明の第三実施形態に係る磁極位置推定装置では、ディザ信号設定器13が指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8と、速度制御器16との間に配置されている。
図10に示すように、速度制御器16は制御磁極位置推定値θdを算出し、算出された制御磁極位置推定値θdにディザ信号設定器13から出力されるディザ信号が加算され、制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4とフィードバック側座標変換器8に入力される。本実施形態に係る磁極位置推定装置も、第一実施形態に係る磁極位置推定装置と同様に、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
なお、ディザ信号設定器13以外の構成(dq軸電流指令設定器1、q軸電流制御器2、d軸電流制御器3、指令側座標変換器4、PWM制御器5、電力変換機6、電流検出器7、フィードバック側座標変換器8,位置検出部(エンコーダ)9、磁極位置算出部10、フィルタ11、および磁極ずれ量保存器12)は、
図1に示す第一実施形態の各構成と同様である。したがって、これらの説明については省略する。
【0049】
また、第一実施形態の変形例、第二実施形態の変形例と同様に、本実施形態の変形例として、磁極位置算出部10に、ノッチフィルタ17を追加した構成としてもよい。ディザ信号を所定の周波数帯の周波数成分から構成される疑似乱数として、ノッチフィルタ17のノッチ周波数に機械系の共振周波数を設定することで、機械系に大きな共振が発生する場合でも、機械系の共振による磁極位置推定制御系の発振を防止することができる。
【0050】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置は、電流指令がディザ信号を含む、または、制御磁極位置にディザ信号が加算されることで、同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦や機械共振が存在する機械系に用いた場合でも、少ない工程数で機械共振の影響を受けずに高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0052】
1:dq軸電流指令設定器
2:q軸電流制御器
3:d軸電流制御器
4:指令側座標変換器
5:PWM制御器
6:電力変換機
7:電流検出器
8:フィードバック側座標変換器
9:位置検出部(エンコーダ)
10:磁極位置算出部
11:フィルタ
12:磁極ずれ量保存器
13:およびディザ信号設定器
14:速度算出器
15:位置制御器
16:速度制御器
17:ノッチフィルタ
M:サーボモータ