(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172878
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】内視鏡用キャップ及び光治療用内視鏡システム
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
A61B1/00 651
A61B1/00 621
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025364
(22)【出願日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】63/344,750
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水中 賢
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161CC06
4C161DD03
4C161FF37
4C161FF40
4C161HH56
4C161JJ11
4C161LL02
4C161QQ02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光治療用の波長帯域の光を出射する光源の出力を抑制しつつ、当該光治療用の波長帯域の所望の光量を安定させた状態で均一に照射すること。
【解決手段】内視鏡用キャップ5は、透光性材料によって構成された筒形状を有し、当該筒形状の内面にコーティング層511が設けられた透光性部材51と、内視鏡2の挿入部21の先端に透光性部材51を固定する固定部材52とを備える。透光性部材51は、挿入部21の中心軸Ax2に沿う方向から見て挿入部21の先端における光治療用の波長帯域の光と白色光画像撮影用の波長帯域の光とがそれぞれ出射される出射部位を囲む状態で挿入部21の先端に固定される。コーティング層511は、光治療用の波長帯域の光を反射し、白色光画像撮影用の波長帯域の光を透過する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性材料によって構成された筒形状を有し、当該筒形状の内面または外面にコーティング層が設けられた透光性部材と、
内視鏡の挿入部の先端に前記透光性部材を固定する固定部材とを備え、
前記挿入部の先端からは、
光治療用の波長帯域の光と、白色光画像撮影用の波長帯域の光とがそれぞれ出射され、
前記透光性部材は、
前記挿入部の中心軸に沿う方向から見て前記挿入部の先端における前記光治療用の波長帯域の光と前記白色光画像撮影用の波長帯域の光とがそれぞれ出射される出射部位を囲む状態で前記挿入部の先端に固定され、
前記コーティング層は、
前記光治療用の波長帯域の光を反射し、前記白色光画像撮影用の波長帯域の光を透過する内視鏡用キャップ。
【請求項2】
前記コーティング層は、
680nm以上の波長帯域の光を反射し、680nm未満の波長帯域の光を透過する請求項1に記載の内視鏡用キャップ。
【請求項3】
前記コーティング層は、
前記透光性部材の内面に設けられている請求項1に記載の内視鏡用キャップ。
【請求項4】
前記透光性部材の先端は、
前記透光性部材の中心軸に交差する状態で傾斜している請求項1に記載の内視鏡用キャップ。
【請求項5】
前記透光性部材における長手方向の長辺側の内面または外面には、
光を拡散する拡散部材が設けられている請求項4に記載の内視鏡用キャップ。
【請求項6】
前記コーティング層は、
処置対象部位に対して前記光治療用の波長帯域の光が照射され、前記光治療用の波長帯域の光によって励起された前記処置対象部位からの蛍光を反射する請求項1に記載の内視鏡用キャップ。
【請求項7】
光治療用の波長帯域の光を供給する第1の光源と、
白色光画像撮影用の波長帯域の光を供給する第2の光源と、
被検体内に挿入される挿入部を有し、前記挿入部の先端から前記光治療用の波長帯域の光と前記白色光画像撮影用の波長帯域の光とをそれぞれ照射する内視鏡と、
前記挿入部の先端に着脱自在に接続される内視鏡用キャップとを備え、
前記内視鏡用キャップは、
透光性材料によって構成された筒形状を有し、当該筒形状の内面または外面にコーティング層が設けられた透光性部材と、
前記挿入部の先端に前記透光性部材を固定する固定部材とを備え、
前記透光性部材は、
前記挿入部の中心軸に沿う方向から見て前記挿入部の先端における前記光治療用の波長帯域の光と前記白色光画像撮影用の波長帯域の光とがそれぞれ出射される出射部位を囲む状態で前記挿入部の先端に固定され、
前記コーティング層は、
前記光治療用の波長帯域の光を反射し、前記白色光画像撮影用の波長帯域の光を透過する光治療用内視鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用キャップ及び光治療用内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん細胞表面に結合する抗体とフタロシアニン誘導体IR700とからなる抗体薬剤を被検体に投与した後、光治療用の波長帯域の光を照射し、がん細胞のみ特異的に殺傷する光免疫療法(Photo-immuno Therapy(PIT))の研究が進められている(例えば、特許文献1,2参照)。この際、抗体薬剤は、光治療用の波長帯域の光の照射によって励起されることによって蛍光を発する。そして、この蛍光強度は、治療効果の指標として用いられる。このため、当該蛍光を撮像装置によって撮像することによって、当該撮像装置によって撮像される蛍光強度から治療効果を把握することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-72969号公報
【特許文献2】特開2020-114467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に記載の技術では、治療効果を把握する際、所定の蛍光強度の蛍光を得るために光源装置からの光治療用の波長帯域の光の出力を大きくする必要がある。このため、特許文献1,2に記載の技術では、光治療用の波長帯域の光を出射する光源装置として、出力の大きい光源装置が必要となり、当該光源装置が大型化してしまうとともに高コスト化してしまう。
そこで、光治療用の波長帯域の光を出射する光源の出力を抑制しつつ、当該光治療用の波長帯域の所望の光量を安定させた状態で均一に照射することができる技術が要望されている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、光治療用の波長帯域の光を出射する光源の出力を抑制しつつ、当該光治療用の波長帯域の所望の光量を安定させた状態で均一に照射することができる内視鏡用キャップ及び光治療用内視鏡システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る内視鏡用キャップは、透光性材料によって構成された筒形状を有し、当該筒形状の内面または外面にコーティング層が設けられた透光性部材と、内視鏡の挿入部の先端に前記透光性部材を固定する固定部材とを備え、前記挿入部の先端からは、光治療用の波長帯域の光と、白色光画像撮影用の波長帯域の光とがそれぞれ出射され、前記透光性部材は、前記挿入部の中心軸に沿う方向から見て前記挿入部の先端における前記光治療用の波長帯域の光と前記白色光画像撮影用の波長帯域の光とがそれぞれ出射される出射部位を囲む状態で前記挿入部の先端に固定され、前記コーティング層は、前記光治療用の波長帯域の光を反射し、前記白色光画像撮影用の波長帯域の光を透過する。
【0007】
本発明に係る光治療用内視鏡システムは、光治療用の波長帯域の光を供給する第1の光源と、白色光画像撮影用の波長帯域の光を供給する第2の光源と、被検体内に挿入される挿入部を有し、前記挿入部の先端から前記光治療用の波長帯域の光と前記白色光画像撮影用の波長帯域の光とをそれぞれ照射する内視鏡と、前記挿入部の先端に着脱自在に接続される内視鏡用キャップとを備え、前記内視鏡用キャップは、透光性材料によって構成された筒形状を有し、当該筒形状の内面または外面にコーティング層が設けられた透光性部材と、前記挿入部の先端に前記透光性部材を固定する固定部材とを備え、前記透光性部材は、前記挿入部の中心軸に沿う方向から見て前記挿入部の先端における前記光治療用の波長帯域の光と前記白色光画像撮影用の波長帯域の光とがそれぞれ出射される出射部位を囲む状態で前記挿入部の先端に固定され、前記コーティング層は、前記光治療用の波長帯域の光を反射し、前記白色光画像撮影用の波長帯域の光を透過する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る内視鏡用キャップ及び光治療用内視鏡システムによれば、光治療用の波長帯域の光を出射する光源の出力を抑制しつつ、当該光治療用の波長帯域の所望の光量を安定させた状態で均一に照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る内視鏡システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、内視鏡用キャップの構成を示す図である。
【
図3】
図3は、コーティング層の透過特性を示す図である。
【
図4】
図4は、光治療方法を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施の形態の変形例1を説明する図である。
【
図13】
図13は、実施の形態の変形例2を説明する図である。
【
図14】
図14は、実施の形態の変形例3を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態)について説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0011】
〔内視鏡システムの構成〕
内視鏡システム1は、医療分野において用いられ、被検体内(生体内)を観察しつつ治療を行うシステムである。この内視鏡システム1は、
図1に示すように、内視鏡2と、表示装置3と、処理装置4と、内視鏡用キャップ5とを備える。
【0012】
本実施の形態では、内視鏡2は、所謂、軟性内視鏡である。この内視鏡2は、一部が生体内に挿入され、当該生体内を撮像し、当該撮像によって生成した画像信号を出力する。そして、内視鏡2は、
図1に示すように、挿入部21と、操作部22と、ユニバーサルコード23と、コネクタ部24とを備える。
挿入部21は、少なくとも一部が可撓性を有し、生体内に挿入される部分である。この挿入部21内には、ライトガイド25と、照明レンズ26と、撮像装置27とが設けられている。
【0013】
ライトガイド25は、挿入部21から、操作部22及びユニバーサルコード23を通って、コネクタ部24まで引き回されている。そして、ライトガイド25の一端は、挿入部21内の先端部分に位置する。また、内視鏡2が処理装置4に対して接続した状態では、ライトガイド25の他端は、当該処理装置4内に位置する。そして、ライトガイド25は、処理装置4内の光源装置42から供給された光を他端から一端に伝達する。
照明レンズ26は、挿入部21内において、ライトガイド25の一端に対向する。そして、照明レンズ26は、ライトガイド25によって伝達された光を生体内に照射する。
【0014】
撮像装置27は、挿入部21内の先端部分に設けられている。そして、撮像装置27は、生体内を撮像し、当該撮像によって生成した画像信号を出力する。この撮像装置27は、
図1に示すように、レンズユニット271と、カットフィルタ272と、撮像素子273とを備える。
【0015】
レンズユニット271は、被写体像を取り込み、当該被写体像を撮像素子273の受光面に結像する。
カットフィルタ272は、レンズユニット271と撮像素子273との間に配置され、当該レンズユニット271を通った光のうち、後述する第2の波長帯域の光のみをカットする。本実施の形態では、後述するように、当該第2の波長帯域の光として、PITで用いられる光治療用の波長帯域(680nmよりも長い波長(690nm程度))の光(以下、第1の励起光と記載)を採用している。このため、カットフィルタ272は、中心波長:690nmの光のみをカットする(
図3に一点鎖線で示した曲線L1参照)。すなわち、カットフィルタ272は、第1の励起光の略全てをカットする。
なお、カットフィルタ272の配設位置については、レンズユニット271と撮像素子273との間に限らず、当該撮像素子273の光路前段であれば、その他の位置、例えば、当該レンズユニット271内でも構わない。
【0016】
したがって、生体内に白色光画像撮影用の波長帯域の光(以下、白色光と記載)のみが照射されている場合には、被写体像は、当該生体内で反射された白色光から構成される。また、生体内に第1の励起光のみが照射されている場合には、被写体像は、当該生体内で反射された第1の励起光は含まれず、当該第1の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光のみから構成される。さらに、生体内に白色光と第1の励起光とが同時に照射されている場合には、被写体像は、当該生体内で反射された第1の励起光は含まれず、当該生体内で反射された白色光と、当該第1の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光とから構成される。
【0017】
撮像素子273は、被写体像を受光して電気信号に変換するCCD(Charge Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等によって構成され、被写体像を撮像することによって画像信号を生成する。
【0018】
操作部22は、挿入部21における基端部分に対して接続されている。そして、操作部22は、内視鏡2に対する各種の操作を受け付ける。
ユニバーサルコード23は、操作部22から挿入部21の延在方向とは異なる方向に延在し、撮像装置27及び処理装置4内の制御装置41を電気的に接続する信号線やライトガイド25等が配設されたコードである。
コネクタ部24は、ユニバーサルコード23の端部に設けられ、処理装置4に対して着脱自在に接続される。
【0019】
表示装置3は、LCD(Liquid Crystal Display)またはEL(Electro Luminescence)ディスプレイ等であり、処理装置4によって画像処理が実行された後の画像等を表示する。
【0020】
処理装置4は、
図1に示すように、制御装置41と、光源装置42とを備える。なお、本実施の形態では、光源装置42及び制御装置41は、処理装置4として1つの筐体内に設けられているが、これに限らず、光源装置42と制御装置41とを別々の筐体内にそれぞれ設けても構わない。
【0021】
光源装置42は、制御装置41による制御の下、特定の光をライトガイド25の他端に対して供給する。この光源装置42は、
図1に示すように、第1の光源421と、第2の光源422とを備える。
第1の光源421は、第1の波長帯域の光を出射する。本実施の形態では、第1の光源421は、第1の波長帯域の光として白色光を出射する。この第1の光源421としては、LED(Light Emitting Diode)等を例示することができる。
第2の光源422は、第1の波長帯域とは異なる第2の波長帯域の光を出射する。本実施の形態では、第2の光源422は、第2の波長帯域の光として、PITで用いられる第1の励起光(680nmよりも長い波長(690nm程度))を出射する。また、当該抗体薬剤は、当該第1の励起光によって励起すると、当該第1の励起光の波長帯域の中心波長よりも長波長側に中心波長を有する蛍光を発する。この第2の光源422としては、半導体レーザ等を例示することができる。
【0022】
制御装置41は、内視鏡システム1全体の動作を統括的に制御する。この制御装置41は、
図1に示すように、制御部411と、記憶部412と、入力部413とを備える。
制御部411は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等のコントローラ、または、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路を含んで構成され、内視鏡システム1全体の動作を制御する。
【0023】
例えば、制御部411は、撮像素子273から画像信号を取得し、当該画像信号に対して画像処理を実行する。当該画像処理としては、オプティカルブラック減算処理、ホワイトバランス調整処理、デモザイク処理、色補正処理、ガンマ補正処理、RGB信号を輝度信号及び色差信号(Y,CB/CR信号)に変換するYC処理等を例示することができる。そして、制御部411は、当該画像処理を実行した後の画像信号に基づく画像を表示装置3に表示させる。以下では、説明の便宜上、生体内に白色光のみが照射され、当該白色光から構成された被写体像を撮像することによって生成された画像信号に対して上述した画像処理が施された画像を白色光画像と記載する。また、生体内に第1の励起光のみが照射され、当該第1の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光から構成された被写体像を撮像することによって生成された画像信号に対して上述した画像処理が施された画像を蛍光画像と記載する。
【0024】
記憶部412は、制御部411が実行する各種プログラム、及び制御部411の処理に必要な情報等を記憶する。
入力部413は、キーボード、マウス、スイッチ、タッチパネル等を用いて構成され、術者等のユーザによるユーザ操作を受け付ける。そして、入力部413は、当該ユーザ操作に応じた操作信号を制御部411に対して出力する。
【0025】
内視鏡用キャップ5は、挿入部21の先端に対して着脱自在に接続される部材である。
以下、内視鏡用キャップ5の詳細について説明する。
【0026】
〔内視鏡用キャップの構成〕
図2は、内視鏡用キャップ5の構成を示す図である。なお、
図2では、説明の便宜上、一部のみを断面によって図示している。
内視鏡用キャップ5は、
図2に示すように、透光性部材51と、固定部材52とが一体的に構成されたものである。この内視鏡用キャップ5は、透光性を有する樹脂材料によって構成されている。
【0027】
透光性部材51は、円筒形状を有する。本実施の形態では、透光性部材51の先端は、当該透光性部材51の中心軸Ax1(
図2)に直交する平面に平行になっている。また、透光性部材51における内面には、
図2に示すように、コーティング層511が設けられている。当該コーティング層511を設ける位置は、透光性部材51における内面に限らず、外面であっても構わない。
なお、コーティング層511の透過特性については、後述する「コーティング層の透過特性」において説明する。
【0028】
固定部材52は、円筒形状を有し、透光性部材51と同軸となる状態で当該透光性部材51の一端に一体的に形成されている。そして、固定部材52は、挿入部21の先端が嵌合することによって、透光性部材51を当該挿入部21の先端に固定する。この状態では、透光性部材51は、挿入部21の中心軸Ax2(
図1)に沿う方向から見て、当該挿入部21の先端における第1の励起光と白色光とがそれぞれ出射される出射部位(照明レンズ26)を囲む状態となる。
【0029】
〔コーティング層の透過特性〕
図3は、コーティング層511の透過特性を示す図である。具体的に、
図3では、縦軸が透過率[%]を示し、横軸が波長[nm]を示している。また、
図3において、一点鎖線で示した曲線L1は、カットフィルタ272の透過特性を示している。また、実線で示した曲線L2は、コーティング層511の透過特性を示している。さらに、スペクトルS11は、第1の励起光のスペクトルを示している。また、スペクトルS12は、第1の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光のスペクトルを示している。
【0030】
本実施の形態では、第1の励起光は、
図3のスペクトルS11に示すように、690nm程度の波長帯域の光である。また、第1の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光は、
図3のスペクトルS12に示すように、700nm程度の波長帯域の光である。さらに、白色光は、具体的な図示は省略したが、680nm未満の波長帯域の光である。
そして、コーティング層511は、
図3の曲線L2に示すように、680nm以上の波長帯域の光を反射し、680nm未満の波長帯域の光を透過する。すなわち、コーティング層511は、第1の励起光と当該第1の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光とを反射し、白色光を透過する。
【0031】
〔光治療方法〕
次に、光治療方法について説明する。
図4は、光治療方法を示すフローチャートである。
図5ないし
図11は、光治療方法を説明する図である。具体的に、
図5は、ステップS1~S3を示す図であって、挿入部21の先端に取り付けられた内視鏡用キャップ5と生体組織LTとの位置関係を示す図である。
図6は、ステップS4において生成された白色光画像WLIを示す図である。
図7は、ステップS4において生成された蛍光画像FLを示す図である。
図8は、
図5に対応した図であって、ステップS5を示す図である。
図9は、
図5に対応した図であって、ステップS6を示す図である。
図10は、ステップS6において生成された白色光画像WLIを示す図である。
図11は、ステップS6において生成された蛍光画像FLを示す図である。
【0032】
先ず、術者等のユーザは、
図5に示すように、内視鏡用キャップ5を挿入部21の先端に固定する(ステップS1)。
ステップS1の後、術者等のユーザは、
図5に示すように、内視鏡用キャップ5の先端を生体組織LTに押し当てる(ステップS2)。
【0033】
ステップS2の後、術者等のユーザは、操作部22や入力部413を操作する。これによって、制御部411は、第1の光源421または第2の光源422を動作させ、
図5に示すように、白色光LWまたは第1の励起光LE1を出射させる(ステップS3)。
【0034】
ここで、挿入部21の先端(照明レンズ26)から出射された白色光LWは、
図5に示すように、内視鏡用キャップ5の内面に形成されたコーティング層511で反射することなく、すなわち、当該内視鏡用キャップ5によって照射領域が制限されることなく、生体組織LTに照射される。また、当該生体組織LTで反射された白色光LWについても、内視鏡用キャップ5によって制限されることなく、撮像装置27に取り込まれる。
【0035】
一方、挿入部21の先端(照明レンズ26)から出射された第1の励起光LE1の略全ては、
図5に示すように、内視鏡用キャップ5の内面に形成されたコーティング層511で反射し、生体組織LTのうち、内視鏡用キャップ5内に位置する部位に照射される。また、当該部位で反射された第1の励起光LE1及び当該部位からの蛍光の略全ては、コーティング層511で反射しつつ、撮像装置27に取り込まれる。
【0036】
ステップS3の後、制御部411は、撮像素子273から画像信号を取得し、当該画像信号に対して画像処理を実行する。これによって、制御部411は、
図6に示した白色光画像WLI、または
図7に示した蛍光画像FLを生成する(ステップS4)。そして、制御部411は、当該生成した白色光画像WLIまたは蛍光画像FLを表示装置3に表示させる。
【0037】
なお、ステップS4において、制御部411は、白色光画像WLIと蛍光画像FLとの双方を生成した場合には、当該白色光画像WLIと当該蛍光画像FLとを対応する画素同士で重畳した重畳画像を生成し、当該重畳画像を表示装置3に表示させても構わない。
【0038】
ここで、術者等のユーザは、表示装置3に表示された白色光画像WLIまたは蛍光画像FLを確認しながら生体組織LTに内視鏡用キャップ5の先端を押し当てた状態で挿入部21の先端を動かし、処置対象部位LT1(
図6,
図7)を探索する。当該処置対象部位LT1としては、腫瘍を例示することができる。なお、処置対象部位LT1については、既に抗体薬剤の投与が行われている。当該抗体薬剤の投与は、内視鏡2を用いて実施してもよいし、他の機器を用いて実施してもよいし、患者に薬剤を飲ませてもよい。
【0039】
ステップS4の後、術者等のユーザは、操作部22や入力部413を操作する。これによって、制御部411は、第1,第2の光源421,422のうち、第2の光源422のみを動作させ、
図8に示すように、第1の励起光LE1を出射させる。すなわち、処置対象部位LTに対する治療が施される(ステップS5)。
【0040】
なお、第2の光源422から出射される第1の励起光LE1を治療に用いているが、これに限らない。例えば、当該第1の励起光LE1は、治療効果を確認するために用いる。そして、第2の光源422とは異なる別の光源から当該第1の励起光LE1と同様の第2の波長帯域の光を出射させ、当該光を治療に用いる治療光としても構わない。例えば、挿入部21に設けられた処置具チャンネル(図示略)に挿通され、当該挿入部21の先端から突出する処置具から当該治療光を処置対象部位LT1に照射する構成を採用することができる。
【0041】
また、ステップS5における処置対象部位LT1の治療中に、制御部411は、蛍光画像FLと、白色光画像WLI及び蛍光画像FLとを対応する画素同士で重畳した重畳画像との一方を生成し、当該一方の画像を表示装置3に表示させても構わない。
【0042】
ステップS5の後、術者等のユーザは、操作部22や入力部413を操作する。これによって、制御部411は、第1の光源421または第2の光源422を動作させ、
図9に示すように、白色光LWまたは第1の励起光LE1を出射させる。また、制御部411は、撮像素子273から画像信号を取得し、当該画像信号に対して画像処理を実行する。これによって、制御部411は、
図10に示した白色光画像WLI、または
図11に示した蛍光画像FLを生成する。そして、制御部411は、当該生成した白色光画像WLIまたは蛍光画像FLを表示装置3に表示させる。術者等のユーザは、表示装置3に表示された白色光画像WLIまたは蛍光画像FLを確認することによって、処置対象部位LTの治療効果を確認する(ステップS6)。
【0043】
なお、ステップS6において、制御部411は、白色光画像WLIと蛍光画像FLとの双方を生成した場合には、当該白色光画像WLIと当該蛍光画像FLとを対応する画素同士で重畳した重畳画像を生成し、当該重畳画像を表示装置3に表示させても構わない。
【0044】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
本実施の形態に係る内視鏡用キャップ5は、筒形状の内面にコーティング層511が設けられた透光性部材51と、挿入部21の先端に当該透光性部材51を固定する固定部材52とを備える。そして、コーティング層511は、第1の励起光LE1を反射する透過特性を有する。すなわち、内視鏡用キャップ5を生体組織LTに押し当てた状態で、挿入部21の先端から出射された第1の励起光LE1の略全ては、コーティング層511で反射し、当該生体組織LTのうち、当該内視鏡用キャップ5内に位置する部位に照射される。このため、第2の光源422からの第1の励起光LE1の出力を大きくしなくても、特定の領域に効率的に当該第1の励起光LE1を照射することができる。
したがって、本実施の形態に係る内視鏡用キャップ5によれば、第1の励起光LE1を出射する第2の光源422の出力を抑制しつつ、当該第1の励起光LE1の所望の光量を安定させた状態で均一に照射することができる。また、第2の光源422の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0045】
特に、内視鏡用キャップ5を生体組織LTに押し当てた状態で、挿入部21の先端から第1の励起光LE1を出射するため、当該生体組織LTと当該挿入部21の先端との距離が変動することがない。このため、第1の励起光LE1の照射範囲や照射密度を一定の状態とすることができ、処置対象部位LT1の治療を安定して行うことができる。
【0046】
また、本実施の形態に係る内視鏡用キャップ5では、コーティング層511は、白色光LWを透過する透過特性を有する。このため、内視鏡用キャップ5によって白色光LWによる視野が制限されることがない。また、内視鏡用キャップ5によって白色光画像WLIのホワイトバランスが崩れてしまうこともない。
【0047】
また、本実施の形態に係る内視鏡用キャップ5では、コーティング層511は、第1の励起光LE1によって抗体薬剤から発せられる蛍光を反射する透過特性を有する。すなわち、内視鏡用キャップ5を生体組織LTに押し当てた状態で、挿入部21の先端から出射され、当該生体組織LTのうち、当該内視鏡用キャップ5内に位置する部位に照射された第1の励起光LE1によって当該部位に存在する抗体薬剤から発せられる蛍光の略全ては、コーティング層511で反射しつつ、撮像装置27に取り込まれる。このため、効率的に蛍光を取り込むことができ、蛍光画像FL上での蛍光の蛍光強度をより高めることができ、治療効果を良好に確認することができる。
【0048】
(その他の実施形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
上述した実施の形態において、以下に示す変形例1~3の構成を採用しても構わない。
以下、変形例1~3を順に説明する。
【0049】
(変形例1)
図12は、実施の形態の変形例1を説明する図である。具体的に、
図12は、
図3に対応した図である。
図12において、一点鎖線で示した曲線L1は、本変形例1に係るカットフィルタ272の透過特性を示している。また、実線で示した曲線L2は、本変形例1に係るコーティング層511の透過特性を示している。さらに、スペクトルS21は、本変形例1に係る第2の励起光のスペクトルを示している。また、スペクトルS22は、第2の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光のスペクトルを示している。さらに、スペクトルS31は、本変形例1に係る第3の励起光のスペクトルを示している。また、スペクトルS32は、第3の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光のスペクトルを示している。さらに、スペクトルS41は、本変形例1に係る第4の励起光のスペクトルを示している。また、スペクトルS42は、第4の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光のスペクトルを示している。
【0050】
上述した実施の形態では、第1の励起光LE1として、
図12のスペクトルS11に示すように、690nm程度の波長帯域の光であって。また、第1の励起光LE1によって抗体薬剤から発せられる蛍光は、
図12のスペクトルS12に示すように、700nm程度の波長帯域の光であった。
しかしながら、励起光としては、第1の励起光LE1に限らず、本変形例1に係る第2~第4の励起光を採用しても構わない。
【0051】
第2の励起光は、
図12のスペクトルS21に示すように、780nm程度の波長帯域の光である。また、第2の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光は、
図12のスペクトルS22に示すように、800nm程度の波長帯域の光である。
【0052】
第3の励起光は、
図12のスペクトルS31に示すように、400nm程度の波長帯域の光である。また、第3の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光は、
図12のスペクトルS32に示すように、420~460nm程度の波長帯域の光である。
【0053】
第4の励起光は、
図12のスペクトルS41に示すように、488nm程度の波長帯域の光である。また、第4の励起光によって抗体薬剤から発せられる蛍光は、
図12のスペクトルS42に示すように、520nm程度の波長帯域の光である。
【0054】
ここで、本変形例1に係るカットフィルタ272は、
図12に一点鎖線で示した曲線L1のように、第1の励起光LE1及び第2~第4の励起光の光をカットし、他の波長帯域の光(スペクトルS12,S22,S32,S42で示した各蛍光)を透過する透過特性を有する。
【0055】
また、本変形例1に係るコーティング層511は、
図12に実線で示した曲線L2のように、全ての波長帯域の光を反射する透過特性を有する。すなわち、挿入部21の先端(照明レンズ26)から出射された白色光LW、第1の励起光LE1及び第2~第4の励起光の略全ては、内視鏡用キャップ5の内面に形成されたコーティング層511で反射し、生体組織LTのうち、内視鏡用キャップ5内に位置する部位にそれぞれ照射される。また、当該部位で反射された白色光LW、第1の励起光LE1、第2~第4の励起光、及び当該部位からの各蛍光の略全ては、コーティング層511で反射しつつ、撮像装置27に取り込まれる。
【0056】
以上説明した本変形例1に係る構成を採用した場合であっても、上述した実施の形態と同様の効果を奏する。
【0057】
(変形例2)
図13は、実施の形態の変形例2を説明する図である。具体的に、
図13は、
図12に対応した図である。
図13において、実線で示した曲線L2は、本変形例2に係るコーティング層511の透過特性を示している。
上述した変形例1において、コーティング層511の透過特性として、
図13に示した曲線L2の透過特性を採用しても構わない。
【0058】
具体的に、コーティング層511は、
図13の曲線L2に示すように、680nm以上の波長帯域の光を反射する。また、コーティング層511は、680nm未満の波長帯域については、50%の透過率を有する。
【0059】
すなわち、挿入部21の先端(照明レンズ26)から出射された第1の励起光LE1及び第2の励起光の略全ては、内視鏡用キャップ5の内面に形成されたコーティング層511で反射し、生体組織LTのうち、内視鏡用キャップ5内に位置する部位にそれぞれ照射される。また、当該部位で反射された第1の励起光LE1及び第2の励起光と当該部位からの各蛍光との略全ては、コーティング層511で反射しつつ、撮像装置27に取り込まれる。
【0060】
一方、挿入部21の先端(照明レンズ26)から出射された白色光LWの略半分の光量の光、第3の励起光の略半分の光量の光、及び第4の励起光の略半分の光量の光は、コーティング層511で反射することなく、すなわち、内視鏡用キャップ5によって照射領域が制限されることなく、生体組織LTに照射される。また、挿入部21の先端(照明レンズ26)から出射された白色光LWの残りの略半分の光量の光、第3の励起光の残りの略半分の光量の光、及び第4の励起光の残りの略半分の光量の光は、コーティング層511で反射し、生体組織LTのうち、内視鏡用キャップ5内に位置する部位にそれぞれ照射される。生体組織LTで反射された白色光LW及び第3,第4の励起光と当該第3,第4の励起光によって発生した蛍光についてもコーティング層511で略半分の光量の光のみがそれぞれ反射する。
【0061】
以上説明した本変形例2に係る構成を採用した場合であっても、上述した実施の形態及び変形例1と同様の効果を奏する。
【0062】
(変形例3)
図14は、実施の形態の変形例3を説明する図である。具体的に、
図14は、
図2に対応した図である。
上述した実施の形態において、内視鏡用キャップ5(透光性部材51)の先端を、
図14に示した本変形例3のように、当該透光性部材51の中心軸Ax1に直交する平面に対して傾斜した平面に平行になっていても構わない。すなわち、当該先端を中心軸Axに交差する状態で傾斜した形状としても構わない。
【0063】
以下では、説明の便宜上、本変形例3に係る内視鏡用キャップ5において、中心軸Ax1に沿う方向の長辺側を長辺側SI1(
図14)とし、短辺側を短辺側SI2(
図14)とする。
そして、本変形例3に係る内視鏡用キャップ5では、透光性部材51の内面において、長辺側SI1には、
図14に示すように、入射した光を拡散する拡散部材512が設けられている。本変形例3では、拡散部材512は、透光性部材51の内面において、中心軸Ax1を中心とする周方向の略半周分に設けられている。また、拡散部材512は、透光性部材51の内面に表面加工等によって形成されている。当該拡散部材512を設ける位置は、透光性部材51の内面に限らず、外面であっても構わない。
【0064】
以上説明した本変形例3によれば、上述した実施の形態において説明した効果と同様の効果の他、以下の効果を奏する。
本変形例3では、透光性部材51の先端が中心軸Ax1に交差する状態で傾斜しているので、挿入部21の挿入方向に対して特定の姿勢で位置する生体組織LTに対しても治療を行うことが可能となる。
【0065】
ところで、本変形例3に係る内視鏡用キャップ5のように、透光性部材51の先端が中心軸Ax1に交差する状態で傾斜した形状である場合には、以下の問題が生じ易い。
すなわち、生体組織LTに対して第1の励起光LE1を照射する際、当該生体組織LTにおける当該内視鏡用キャップ5内に位置する部位のうち、長辺側SI1に位置する部位には、当該第1の励起光LE1の照射強度が弱くなってしまい、当該長辺側SI1と短辺側Si2との照射強度が不均一になってしまう。
これに対して、本変形例3に係る内視鏡用キャップ5では、透光性部材51の内面の長辺側SI1には、拡散部材512が設けられている。このため、拡散部材512によって、生体組織LTにおける内視鏡用キャップ5内に位置する部位のうち、長辺側SI1に位置する部位への第1の励起光LE1の照射強度と短辺側SI2に位置する部位への当該第1の励起光LE1の照射強度とを均一にすることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 内視鏡システム
2 内視鏡
3 表示装置
4 処理装置
5 内視鏡用キャップ
21 挿入部
22 操作部
23 ユニバーサルコード
24 コネクタ部
25 ライトガイド
26 照明レンズ
27 撮像装置
51 透光性部材
52 固定部材
41 制御装置
42 光源装置
271 レンズユニット
272 カットフィルタ
273 撮像素子
411 制御部
412 記憶部
413 入力部
421 第1の光源
422 第2の光源
511 コーティング層
512 拡散部材
Ax1,Ax2 中心軸
FL 蛍光画像
L1,L2 曲線
LT 生体組織
LT1 処置対象部位
LE1 第1の励起光
LW 白色光
S11,S12,S21,S22,S31,S32,S41,S42 スペクトル
SI1 長辺側
SI2 短辺側
WLI 白色光画像