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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172881
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】鋼管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 37/06 20060101AFI20231129BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231129BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
B21C37/06 L
B21C37/06 M
C22C38/00 301Z
C22C38/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031261
(22)【出願日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022084295
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】仲澤 稜
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 耕平
【テーマコード(参考)】
4E028
【Fターム(参考)】
4E028BB02
4E028BB03
4E028BB07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来よりもフレア加工性が向上した鋼管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板の端部ともう一方の端部を合わせた衝合面10を有する鋼管9であって、鋼管内表面から外表面に向かって100μmの位置において、前記衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率が1/2以下、および、前記衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率が1/2以下である鋼管。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の端部ともう一方の端部を合わせた衝合面を有する鋼管であって、
鋼管内表面から外表面に向かって100μmの位置において、前記衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率が1/2以下、および、前記衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率が1/2以下である鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載された鋼管の製造方法であって、
鋼板のエッジ部を成形したのち、加熱炉にて前記鋼板を加熱し、次いで管状に成形しつつ、成形された鋼板の各エッジ部を衝合して、鍛接する工程を含み、
前記衝合前の鋼板のエッジ部の温度T(℃)が鋼板のSi(%)、Mn(%)と加熱終了後から衝合するまでの時間t(sec.)によって構成される式(1)を満足する鋼管の製造方法。
-22×{Si(%)}×{t(sec.)}-14×{Mn(%)}×{t(sec.)}+1530
<T(℃)<
-17×{Si(%)}×{t(sec.)}-7×{Mn(%)}×{t(sec.)}+1542・・・(1)

式(1)において、Si(%)、Mn(%)は鋼板中の各元素の含有量(質量%)であり、T(℃)は衝合前の鋼板のエッジ部の温度、t(sec.)は加熱終了後から衝合するまでの時間である。
【請求項3】
前記衝合前、酸素濃度が体積分率で20%以上40%以下である気体を、吹き付け圧力を0.50MPa以上として鋼板のエッジ部に対して供給する請求項2に記載の鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管に適する、鋼管(鍛接鋼管)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安価で加工性に優れる鍛接鋼管は、水道用配管などの配管設備に用いられてきた。こうした流体を通す配管の接合方法として、近年、施工省力化のため、管端にフレア加工を施してフランジを用いた接合方法が多く用いられている。フレア加工とは鋼管端部を拡管してつばだしする加工であり、鋼管円周方向に過大な張力を与えて加工を行うため、優れた加工性(以下、「フレア加工性」とも記す)が要求されている。
【0003】
鍛接鋼管は成型後に鋼帯端部を衝合し接合するが、衝合部に酸化物が残存していると接合力を弱め、フレア加工時に割れが生じてしまう。酸化物は主に2種類に大別され、主成分であるFeとOの酸化物とMnやSiといった添加元素とOの酸化物である。こうした酸化物を抑制する方法として、例えば、特許文献1では不活性ガスを吹き付ける方法また特許文献2にはスケール抑止剤を塗布する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-224614号公報
【特許文献2】特開平8-243635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこうした方法ではより低い酸素分圧で生じるMnやSiといった添加元素の酸化物は残存し、フレア加工性を十分満足しなかった。そのため、特許文献1、2で提案されている方法では鋼管のフレア加工性を低下させる酸化物を衝合部に生じさせない方法としてまだ十分といえなかった。本発明は上記のフレア加工性の低下を抑制する課題を解決すべく鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは衝合部に残存する含有元素との酸化物を低減する製造方法について研究を行った。
【0007】
まず、本発明者らは上記の目標を達成するために鋼板を加熱し、エッジ部を衝合および鍛接する方法において、最適な製造方法を検討した。その結果、衝合を行う直前において鋼板端部を加熱すると、まずFeとOのスケールが生成する。さらに加熱を続けると、FeとOのスケールが溶融し、この溶融スケールの中にSi、Mnが拡散し、これらの酸化物が生成する。このとき、Si、MnがOと結合することによって、酸化物が生成する層の下部にはSi、Mnの欠乏した相が生成される。この溶融酸化物が、アップセットや高圧の空気の吹付によって排出されると、鋼管衝合部にはよりSi、Mn濃度の低い層が残存する。なお、アップセットとは、鋼板から鋼管を製造する際、鋼板の端部同士を押し付け、接合を行うことである。こうした過程を経ることによって、接合時酸素と結合しやすい元素が衝合部近傍から欠乏するため、衝合部に含有元素の酸化物が生成されず、フレア加工性に優れた鋼管(鍛接鋼管)を製造することが可能になった。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて、完成されたものであり、本発明は、上記の課題を解決するために以下の手段を採用する。
[1] 鋼板の端部ともう一方の端部を合わせた衝合面を有する鋼管であって、
鋼管内表面から外表面に向かって100μmの位置において、前記衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率が1/2以下、および、前記衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率が1/2以下である鋼管。
[2] 前記[1]に記載された鋼管の製造方法であって、
鋼板のエッジ部を成形したのち、加熱炉にて前記鋼板を加熱し、次いで管状に成形しつつ、成形された鋼板の各エッジ部を衝合して、鍛接する工程を含み、
前記衝合前の鋼板のエッジ部の温度T(℃)が鋼板のSi(%)、Mn(%)と加熱終了後から衝合するまでの時間t(sec.)によって構成される式(1)を満足する鋼管の製造方法。
-22×{Si(%)}×{t(sec.)}-14×{Mn(%)}×{t(sec.)}+1530
<T(℃)<
-17×{Si(%)}×{t(sec.)}-7×{Mn(%)}×{t(sec.)}+1542・・・(1)

式(1)において、Si(%)、Mn(%)は鋼板中の各元素の含有量(質量%)であり、T(℃)は衝合前の鋼板のエッジ部の温度、t(sec.)は加熱終了後から衝合するまでの時間である。
[3] 前記衝合前、酸素濃度が体積分率で20%以上40%以下である気体を、吹き付け圧力を0.50MPa以上として鋼板のエッジ部に対して供給する[2]に記載の鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、従来よりもフレア加工性が向上した鋼管およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、鋼管製造設備の一例を示す図である。
図2図2は、鋼管の圧延直角方向の断面(C方向断面)図を示す図である。
図3図3(a)は、図2の測定領域20の拡大図を示す図である。図3(b)は、図2の測定領域21の拡大図を示す図である。
図4図4(a)は、フレア加工前の鋼管を示す図である。図4(b)は、フレア加工後の鋼管を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本発明の鋼管は、鋼板を使用し、鋼板のエッジ部を衝合・鍛接して製造されたものである。素材である鋼板は、鋼帯であることが好ましいが、薄板、厚板などの切り板でも適用できる。
【0013】
鋼板(この場合は、鋼帯)から鍛接鋼管を製造する工程を図1に示す。図1を用いて、鋼帯から鋼管(鍛接鋼管)を製造する工程の詳細を鋼管の製造ライン設備に基づいて説明する。
【0014】
コイル1から払い出された鋼帯2をルーパー3に通し、エッジ成形機4で鋼帯2のエッジ部を成形する。本発明では特に限定はしないが、エッジ部の成形にはアップセットロールで端部を成形する方法、切削により端部を削る方法が考えられる。その後、加熱炉5で鋼帯全幅を加熱し、成形鍛接機6で管状に連続成形しつつ、エッジ部を衝合および鍛接する直前において気体をノズル7から吹き付けて、鋼帯エッジ部の温度が式(1)の範囲になるまで加熱した後に鍛接して結合し、さらに絞り圧延機における縮径圧延ロール8で所望の外径まで絞り圧延し、鋼管(鍛接鋼管)9を製造する。図2は鋼管の圧延直角方向の断面(C方向断面)図を示す図である。鍛接鋼管9には鍛接衝合部10が形成されている。上記の気体吹き付ける際には、酸素濃度が体積分率で20%~40%を含む気体であり、吹き付ける圧力が0.50MPa以上であることが好ましい。この設備ラインでは、鋼帯端部を鍛接して結合した後に絞り圧延を施して鍛接鋼管9を仕上げているが、絞り圧延を施さないで鍛接鋼管を仕上げる場合もある。
【0015】
なお、本発明では、衝合前の鋼板エッジ部を加熱し、その際、酸素を含有した気体を高圧で吹き付けることにより、衝合時に衝合面(鍛接衝合部あるいは衝合部)10からFeの酸化物を除去するとともに衝合部10にSi、Mn等の含有元素の酸化物を生成させずに鍛接鋼管9を製造することが可能となる。
【0016】
まず、鋼管(鍛接鋼管)9の特定の元素規定について説明する。
【0017】
衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率が1/2以下、および衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率が1/2以下
衝合部10からSi、Mnが欠乏することで衝合時に低い酸素分圧でも生成するSi、Mn酸化物の生成を抑制できる。特にフレア加工時には鋼管内面側が最も高い応力が付与され、フレア加工時に生ずる割れは内面側から進展する。そのため、鋼管内表面から外表面に向かって100μmの位置において、衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率が1/2以下、および、衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率が1/2以下であれば、衝合部にSi、Mnの酸化物の生成を抑制でき、フレア加工性が所望の値を満足する。そのため、鋼管内表面から外表面に向かって100μmの位置において衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率が1/2以下、および衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率が1/2以下とする。好ましくは上記比率は3/8以下である。なお、Si酸化物およびMn酸化物の両方とも抑制しないと所望のフレア加工性が得られないため、衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率と、衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率の両方を1/2以下とする必要がある。
【0018】
さらに、Si、Mnは特に鋼板の板厚中央部に偏析しやすいため、衝合部10の板厚中央部においてもこれらの元素が偏析しやすく、酸化物が多く生成されて所望のフレア加工性を満足できない。そのため、衝合部10の板厚中央部における、衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均SiおよびMn濃度(質量%)の母材の平均濃度(質量%)に対する比率は、1/2以下にすることが好ましい。なお、衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲とは、衝合面からそれぞれ片側に5μm離れた位置までの範囲を示しており、上記範囲の総長さは10μmである。
【0019】
次に鋼管の製造方法について説明する。
【0020】
鋼板のエッジ部を成形する
製造されたままの鋼板のエッジは凹凸があるなどの理由から、接合力を低下させる要因となるため、所定の接合力を確保するために、成形を加えてエッジの形状を整える必要がある。成形方法は、特に限定されるわけではないが、ロールによる圧延、切削が挙げられる。
【0021】
衝合前の鋼板のエッジ部の温度T(℃)が鋼板のSi(%)、Mn(%)と加熱終了後から衝合するまでの時間t(sec.)によって構成される式(1)を満足
-22×{Si(%)}×{t(sec.)}-14×{Mn(%)}×{t(sec.)}+1530
<T(℃)<
-17×{Si(%)}×{t(sec.)}-7×{Mn(%)}×{t(sec.)}+1542・・・(1)
式(1)において、Si(%)、Mn(%)は鋼板中の各元素の含有量(質量%)であり、T(℃)は衝合前の鋼板のエッジ部の温度、t(sec.)は加熱工程が終了した後から衝合が完了するまでの時間である。
衝合時、エッジ部の温度が高いほど母材から酸化スケールへのSi、Mnの拡散が進行するが、母材のSi、Mn濃度が高いことでも酸化スケールと母材のSi、Mnの濃度差が大きくなり、拡散が進行しやすくなる。加えて加熱工程が終了した後から衝合が完了するまでの時間が長いほど拡散が進行し、衝合部でのSi、Mnの濃度が低下しやすくなり、衝合面と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲において所定のSi、Mn濃度比率が得られる。
一方で、エッジ部の温度が規定値を超過し,母材の融点に近づくと、鋼管衝合部の強度低下や一部に溶融が生じ、衝合の応力に耐えられずに過度に変形し、断面が円形形状を保持できず、鋼管を製造することができなくなる。または、酸化スケールが多量に生成してしまい衝合時に排出しきれずに残存し加工性の低下につながる。母材のSi、Mn濃度が上昇すると融点が低下し衝合時の応力に耐えられず、衝合部を形成できない温度が低下する。加えて衝合が完了するまでの時間が延びることで酸化スケールがより生成し、温度が上昇した時と同じ効果が生じ、酸化スケールを排出しきれない場合が生じる。よって、母材Si、Mn濃度が高く、衝合までの時間が長いほど、衝合時に必要なエッジ部の温度の範囲は低下し、式(1)を満足することで所定の鋼管が得られる。
【0022】
また、酸化スケールへの拡散時間を確保するという理由から、加熱工程終了から衝合が完了するまでの時間であるt(sec.)は、1.0s以上が好ましい。また、過度な酸化スケールの生成抑止という理由から5.0s以下が好ましい。
【0023】
なお、衝合前に酸素濃度を体積分率で20%以上40%以下とした気体を吹き付ける、つまり鋼板のエッジ部に対して所定の気体を供給することにより、酸化発熱反応により衝合前に加熱されるが、その一方で電磁コイルによる高周波加熱、火炎放射、レーザー照射といった方法によっても加熱することが可能である。
【0024】
酸素濃度20%以上40%以下(好適条件)
加熱中の酸化スケール内に酸素を固溶させることで、よりSi、Mnが欠乏し、衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Si濃度(質量%)の母材の平均Si濃度(質量%)に対する比率、および衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲における平均Mn濃度(質量%)の母材の平均Mn濃度(質量%)に対する比率が小さくなる。酸素濃度20%未満では欠乏を促進させる効果が小さく、40%越えの場合、過剰に生成した酸化物が強度を低下させるため、鋼板に吹き付ける気体は酸素濃度を体積分率で20%以上40%以下を含有した気体とすることを好適とした。好ましくは、酸素濃度は25%以上40%以下である。
【0025】
吹き付ける気体の圧力0.50MPa以上(好適条件)
衝合直前の鋼板から酸化物や液相を除去する方法としてアップセットによる排出のほかに酸素を含有させた気体の吹付がある。この吹付圧力を上昇させることで、アップセット前により多くの酸化物や液相を除去し、衝合部のSi、Mn濃度を低下させることが可能になる。そのため、鋼板に吹き付ける気体の圧力を0.50MPa以上とすることが好ましい。より好ましくは0.55MPa以上である。
【0026】
本発明の鋼管9の母材の成分組成は、特に限定されないが、質量%で、C:0.01~0.12%、Si:0.1~0.5%、Mn:0.2~1.0%、P:0.02%以下、S:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成であることが好ましい。以下に、各成分の限定理由を述べる。
【0027】
C:0.01~0.12%
Cが0.01%以上含有されると、所望の強度以上(管軸方向の降伏強度YS:200MPa以上の意、以下同じ)となる。このため、C含有量は0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.02%以上である。一方、0.12%を超えると延性が低下し、所望のフレア加工性が得られない可能性がある。このため、C含有量は、0.12%以下であることが好ましい。
【0028】
Si:0.1~0.5%
Siはフェライトフォーマー元素であるため、Siを含有することで、接合時に拡散係数の高いフェライト組織が多く生成する。Siが0.1%未満のみの含有では、接合時のフェライト相分率が少なく、拡散係数を高めることができず、その結果、衝合部10の接合力が低減し、所望のフレア加工性が得られなくなる。
このため、Si含有量は0.1%以上とすることが好ましい。一方、Siが0.5%を超えると、上述しているようにSi、Mnの欠乏層を生成してもSiが多く残存し、Si酸化物が生成することで衝合力が低下し、フレア加工性を低下させる。このため、Si含有量は、0.5%以下であることが好ましい。
【0029】
Mn:0.2~1.0%
Mnは、0.2%以上含有されると、所望の強度を得ることができる。このため、Mn含有量は0.2%以上とすることが好ましい。一方、Mnが1.0%を超えると上述しているようにSi、Mnの欠乏層を生成してもMnが多く残存し、酸化物が生成することで衝合力が低下し、フレア加工性を低下させる。このため、Mn含有量は、1.0%以下であることが好ましい。
【0030】
P:0.02%以下
Pが、0.02%を超えて含有されると、衝合部10の接合力が低下し、所望のフレア加工性が得られない可能性がある。このため、P含有量は0.02%以下であることが好ましい。下限は特に限定しないが、P含有量は0%であって良い。
【0031】
S:0.01%以下
Sが0.01%を超えて含有されると、衝合部10の接合力が低下し、所望のフレア加工性が得られない可能性がある。このため、S含有量は、0.01%以下であることが好ましい。下限は特に限定しないが、S含有量は0%であって良い。
また、上記以外にAl、Nb、Cr、Mo、Tiを含有することも可能である。
【0032】
次に各値の測定方法について、図2を用いて説明する。
【0033】
鋼管肉厚
図2は鋼管の圧延直角方向の断面(C方向断面)図を示す図である。図2に示すように、鋼管肉厚は鋼管9のC方向断面において、衝合部10の位置を0時とした際に円周方向に3時、6時、9時の肉厚測定位置11の3点を片球マイクロメータ等で計測し、その3点の平均値を鋼管肉厚tとする。
【0034】
鋼管外径
図2に示すように、衝合部10においてフレア加工前の鍛接鋼管の外径12をノギス等で計測し、その値をフレア加工前の鍛接鋼管外径とする。
【0035】
酸素濃度
ノズル7から吹き付ける空気または酸素混合空気の酸素濃度をノズル7出口直前においた酸素濃度計で計測し、その値を酸素濃度とする。
【0036】
吹き付け圧力
ノズル7から吹き付ける空気または酸素混合空気の圧力をノズル7出口直前において圧力計等で計測し、その値を吹き付け圧力とする。
【0037】
衝合部の平均Si、Mn濃度
図3(a)は図2の測定領域20の拡大図を示す図である。図3(a)に示すように、鋼管9のC方向断面において、鋼管内面側から、衝合部10に沿って外面側に向かって100μm位置において、衝合部に垂直な方向のライン(衝合部の平均Si、Mn濃度測定ライン)13を引き、このライン13に沿って、衝合部10と衝合部10を中心として左右に0.2μmピッチで25点ずつ計測し、測定した51点分の平均Si、Mn濃度をそれぞれ衝合部10の平均Si、Mn濃度とする。上記で測定した範囲が、上述している衝合面10と垂直方向に衝合面からそれぞれ片側5μmの範囲である。Si、Mnの濃度測定は特性X線を用いた方法などが考えられるが、特に限定されない。
【0038】
母材の平均Si、Mn濃度
図3(b)は図2の測定領域21の拡大図を示す図である。図3(b)に示すように、鋼管9のC方向断面において衝合部10を0時としたときの3時、6時、9時の位置で鋼管外面から鋼管内面に向かって引いた法線14に沿って鋼管内面側から、外面側に向かって100μm位置において、法線14に垂直に母材の平均Si、Mn濃度測定ライン15を引き、法線14とライン15の交点とその交点を中心としてライン15に沿って左右に0.2μmピッチで25点ずつ計測し、測定した51点分の平均Si、Mn濃度をそれぞれ求める。
その計測を3時、6時、9時位置でそれぞれ行い、それぞれの位置で求めた値の平均値を母材の平均Si、Mn濃度とする。Si、Mnの濃度測定は特性X線を用いた方法などが考えられるが、特に限定されない。
【0039】
なお、フレア加工性の評価は、実施例に記載した方法で実施する。
【実施例0040】
図1に示す製造工程に従って表1に示す成分の素材を使って鍛接鋼管9を製造した。コイル1から払い出され、ルーパー3を通過し、エッジを成形し、その後加熱炉5で鋼帯全幅を加熱し、成形鍛接機6で管状に連続成形しつつ、エッジ部を衝合および鍛接する直前において酸素混合空気をノズルから吹付けて昇温して鍛接して結合し、さらに縮径圧延ロール8で所望の外径まで絞り圧延し、鍛接鋼管9を製造した。衝合直前の鋼帯エッジ部の温度は上述している式(1)の範囲になるようにした。
【0041】
上記のとおり製造した鍛接鋼管9の外径を計測し、その後、フレア加工機を用いてフレア加工を行った。図4(a)にフレア加工前の鍛接鋼管、図4(b)にフレア加工後の鍛接鋼管を示す。フレア加工後の鍛接鋼管の外径16がフレア加工前の鍛接鋼管の外径12の1.7倍になるまで加工した際に割れが生じなかったものをフレア加工性が良好であると判断した。1.7倍まで成形しても割れが生じなかったものについては、さらに割れが生じないところまで加工を行い、その時のフレア加工後の鍛接鋼管の外径16/フレア加工前の鍛接鋼管の外径12を拡管率とした。なおフレア加工後の鍛接鋼管の外径16は図4(b)に示すようにフレア加工後の鍛接衝合部10を含む外径をノギスで計測した。平均Si、Mn濃度を測定する試験片は、フレア加工で未加工の部分から長手方向に厚さ5mmの測定試験片を採取した。採取した試験片を研磨し、特性X線を用いて元素分析を行う、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて計測した。加速電圧は15kv、ビーム径は0.2μmで衝合部10を中心とした10μmのライン上を計測した。表2に評価結果を示す。
【0042】
本発明の発明例である鋼管No.1~6、11、12は表2からわかるように衝合部10の平均Si、Mn濃度の母材部の平均Si、Mn濃度に対する比率が適正な範囲に収まっている。この結果、フレア加工時に割れ(フレア管のつば部の鍛接部分同士が剥離)が生じることなく、フレア加工性が良好(〇もしくは◎)であった。特に、鋼管No.2、4、6は気体の吹き付け圧力が0.56MPa以上あり、拡管率が高く、フレア加工性が極めて高いこと(◎)がわかる。これに対し、比較例の鋼管No.7~10、13はいずれも所望の外径までフレア加工する前に接合部の割れを目視で確認し、フレア加工性は不良(×)であった。No.13に関しては衝合時の温度が上限を超過したため、エッジ部が極度に軟化または一部溶融により、衝合の応力に耐えられずに変形し、断面が円形形状を保持できず、鋼管を製造することができなかった。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【符号の説明】
【0045】
1 コイル
2 鋼帯
3 ルーパー
4 エッジ成形機
5 加熱炉
6 成形鍛接機
7 ノズル
8 絞り圧延機における縮径圧延ロール
9 鋼管(鍛接鋼管)
10 衝合面(鍛接衝合部あるいは衝合部)
11 肉厚測定位置
12 フレア加工前の鍛接鋼管の外径
13 ライン(衝合部の平均Si、Mn濃度測定ライン)
14 鋼管内面に向かって引いた法線(法線)
15 ライン(母材の平均Si、Mn濃度測定ライン)
16 フレア加工後の鍛接鋼管の外径
20 測定領域
21 測定領域
図1
図2
図3
図4