(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172923
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
C10G1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082592
(22)【出願日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】10-2022-0062588
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジョ サン ファン
(72)【発明者】
【氏名】カン ス キル
(72)【発明者】
【氏名】イ ホ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ジェ フム
(72)【発明者】
【氏名】ムン セ ラ
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB03
4H129BC12
4H129NA01
4H129NA21
4H129NA43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】不純物を含有した廃プラスチックの熱分解工程において、選別/前処理工程なしに熱分解工程を行って塩素含量が最小化された廃プラスチック熱分解油を製造できる方法を提供する。
【解決手段】(S1)水分を含む廃プラスチック原料を反応器に投入するステップと、(S2)前記反応器を昇温し、この際、2℃/分以下の昇温速度(R1)で目的温度(Tf)まで昇温して前記廃プラスチック原料を熱分解するステップと、(S3)前記反応器にて熱分解された熱分解油を回収するステップと、を含み、前記(S2)ステップは、100℃以上の温度帯域で一定温度(T1)を一定時間維持する停滞区間を1つ以上含むことを特徴とする、脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)水分を含む廃プラスチック原料を反応器に投入するステップと、
(S2)前記反応器を昇温し、この際、2℃/分以下の昇温速度(R1)で目的温度(Tf)まで昇温して前記廃プラスチック原料を熱分解するステップと、
(S3)前記反応器にて熱分解された熱分解油を回収するステップと、
を含み、
前記(S2)ステップは、100℃以上の温度帯域で一定温度(T1)を一定時間維持する停滞区間を1つ以上含むことを特徴とする、脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項2】
前記昇温速度(R1)は1.5℃/分以下である、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項3】
前記目的温度(Tf)は400~600℃である、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項4】
前記停滞区間の昇温速度(R2)は、下記条件のいずれか1つを満たす、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
(1)昇温速度(R2)が実質的に0℃/分
(2)昇温速度(R2)が昇温速度(R1)よりも小さく、前記停滞区間内の温度変動幅(ΔT)が10℃以下
【請求項5】
前記停滞区間が2個以上である、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項6】
前記停滞区間は、100~150℃の温度帯域の第1停滞区間、および200~350℃の温度帯域の第2停滞区間を含む、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項7】
前記停滞区間が30分以上である、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項8】
前記(S2)ステップの総運転時間中に停滞区間が占める割合は20~60%である、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項9】
前記水分は、廃プラスチック100重量部を基準として1~25重量部で含まれる、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項10】
前記(S2)ステップは、非酸化雰囲気で行われる、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項11】
前記非酸化雰囲気は、気化した水蒸気により反応器が加圧パージ(purge)されて形成された水蒸気雰囲気である、請求項10に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項12】
前記(S2)ステップは、常圧条件で行われる、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項13】
前記反応器に添加剤をさらに投入して行われる、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項14】
前記反応器は、バッチ反応器(batch reactor)である、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項15】
前記(S3)ステップで回収された熱分解油中の総塩素含量は300ppm以下である、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項16】
前記(S3)ステップで回収された熱分解油中の総塩素含量は、廃プラスチック原料に対して80%以上除去される、請求項1に記載の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックは、再活用度が低く、ゴミとして廃棄処分されていることが多い。このような廃棄物は、自然状態での分解に長時間がかかるため、土壌を汚染させ、深刻な環境汚染を引き起こしている。前記廃プラスチックを再活用するための方法として、熱分解工程を行って留分に転換させる方法が行われている。
【0003】
しかしながら、廃プラスチックは、塩素、窒素、水分などの過量の不純物を含んでおり、それにより製造された熱分解油は、一般的な方法により原油から製造される留分と比較して塩素、窒素、金属、固体副産物などの不純物含量が高いため、ガソリン、ディーゼル油などの付加価値の高い燃料として直ちに使用することができず、精製工程により前記不純物の吸着後に燃料として使用することができる。
【0004】
従来、精製工程として水素化触媒下で水素化処理することで塩素をHClに転換して除去したが、廃プラスチック熱分解油は、塩素を高含量で含んでおり、水素化処理時に過量のHClが生成され、これは、装置の腐食および反応の異常、製品の性状悪化などの問題を引き起こす。
また、従来、廃プラスチックに含まれた水分は、精製工程で不純物除去効率を低下させ、製造された熱分解油の純度を低下させるなどの問題を招く。
【0005】
上記のような廃プラスチックに含まれた塩素および水分などの不純物による問題を防止するために、廃プラスチック原料の選別ステップにおいて不純物含量の少ない廃プラスチックを選別して熱分解する方法が行われているが、生活および産業界全般で発生する膨大な量の廃プラスチック処理には適していない限界がある。また、廃プラスチックの熱分解工程でCaOなどの添加剤を投入する方法、ヒータまたは送風ファンなどの乾燥設備または前処理設備を備える方法などの熱分解工程が行われているが、このための施設費などの追加費用がかかるという問題がある。
そこで、廃プラスチック原料の選別工程または乾燥設備などの前処理工程なしに最小限の工程で熱分解油を製造できる技術が求められる実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、不純物を含有した廃プラスチックの熱分解工程において、選別/前処理工程なしに熱分解工程を行って塩素含量が最小化された廃プラスチック熱分解油を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、(S1)水分を含む廃プラスチック原料を反応器に投入するステップと、(S2)前記反応器を昇温し、この際、2℃/分以下の昇温速度(R1)で目的温度(Tf)まで昇温して前記廃プラスチック原料を熱分解するステップと、(S3)前記反応器にて熱分解された熱分解油を回収するステップと、を含み、前記(S2)ステップは、100℃以上の温度帯域で一定温度(T1)を一定時間維持する停滞区間を1つ以上含むことを特徴とする、脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。
【0008】
一実施形態において、前記昇温速度(R1)は1.5℃/分以下であってもよい。
一実施形態において、前記目的温度(Tf)は400~600℃であってもよい。
【0009】
一実施形態において、前記停滞区間の昇温速度(R2)は、下記条件のいずれか1つを満たしてもよい。
(1)昇温速度(R2)が実質的に0℃/分
(2)昇温速度(R2)が昇温速度(R1)よりも小さく、前記停滞区間内の温度変動幅(ΔT)が10℃以下
【0010】
一実施形態において、前記停滞区間が2個以上であってもよい。
一実施形態において、前記停滞区間は、100~150℃の温度帯域の第1停滞区間、および200~350℃の温度帯域の第2停滞区間を含んでもよい。
【0011】
一実施形態において、前記停滞区間が30分以上であってもよい。
一実施形態において、前記(S2)ステップの総運転時間中に停滞区間が占める割合は20~60%であってもよい。
【0012】
一実施形態において、前記水分は、廃プラスチック100重量部を基準として1~25重量部で含まれてもよい。
一実施形態において、前記(S2)ステップは、非酸化雰囲気で行われてもよい。
【0013】
一実施形態において、前記非酸化雰囲気は、気化した水蒸気により反応器が加圧パージ(purge)されて形成された水蒸気雰囲気であってもよい。
一実施形態において、前記(S2)ステップは、常圧条件で行われてもよい。
【0014】
一実施形態において、前記反応器に添加剤をさらに投入して行われてもよい。
一実施形態において、前記反応器は、バッチ反応器(batch reactor)であってもよい。
【0015】
一実施形態において、前記(S3)ステップで回収された熱分解油中の総塩素含量は300ppm以下であってもよい。
一実施形態において、前記(S3)ステップで回収された熱分解油中の総塩素含量は、廃プラスチック原料に対して80%以上除去されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示によると、不純物を含有した廃プラスチックの熱分解工程において、選別/前処理工程なしに熱分解工程を行って塩素含量が最小化された廃プラスチック熱分解油を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で用いられる用語の単数の形態は、特に指示しない限り、複数の形態も含むものと解釈されてもよい。
本明細書で用いられる数値範囲は、下限値および上限値とその範囲内での全ての値、そのうち限定された全ての値および互いに異なる形態に限定された数値範囲の上限および下限の全ての可能な組み合わせを含む。本明細書において、特に定義しない限り、実験誤差または値の四捨五入により発生し得る数値範囲外の値も定義された数値範囲に含まれる。
【0018】
本明細書で言及される「含む」は、「備える」、「含有する」、「有する」、「特徴とする」などの表現と等価の意味を有する開放型記載であって、追加的に列挙されていない要素、材料、または工程を排除するものではない。
【0019】
本明細書において、特に言及なしに用いられた%の単位は、他の定義がない限り、重量%を意味する。
本明細書において、特に言及なしに用いられたppm単位は、他の定義がない限り、質量ppmを意味する。
本明細書において、特に言及なしに用いられた沸点(bp、boiling point)は、1気圧(常圧、1atm)での沸点を意味する。
【0020】
廃プラスチックに含まれた塩素および水分などの不純物による問題を防止するために、廃プラスチック原料の選別ステップにおいて不純物含量の少ない廃プラスチックのみを選別して処理する方法が行われているが、生活全般で発生する膨大な量の一般の廃プラスチック処理には適さない限界がある。また、廃プラスチックの熱分解工程でCaOなどの添加剤を投入する方法、ヒータまたは送風ファンなどの乾燥設備または前処理設備を備える方法などの熱分解工程が行われているが、このための施設費などの追加費用がかかるという問題がある。
【0021】
したがって、水分および塩素などの不純物を含有した廃プラスチックを対象とし、追加の設備なしに熱分解工程によっても塩素が最小化された高品質の熱分解油を製造できる技術が必要である。
【0022】
そこで、本開示は、(S1)水分を含む廃プラスチック原料を反応器に投入するステップと、(S2)前記反応器を昇温し、この際、2℃/分以下の昇温速度(R1)で目的温度(Tf)まで昇温して前記廃プラスチック原料を熱分解するステップと、(S3)前記反応器にて熱分解された熱分解油を回収するステップと、を含み、前記(S2)ステップは、100℃以上の温度帯域で一定温度(T1)を一定時間維持する停滞区間を1つ以上含むことを特徴とする、脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。
【0023】
前記廃プラスチックは、生活系プラスチック廃棄物(生活系廃プラスチック)または産業界プラスチック廃棄物(産業界廃プラスチック)であってもよい。
【0024】
前記生活系廃プラスチックは、ポリオレフィン系廃プラスチックであってもよく、具体的に、PE、PP以外のPVC、PS、PET、PBTなどが混合されたプラスチックであってもよい。より具体的に、PE、PPとともにPVCを3重量%以上含む混合廃プラスチックであってもよい。塩素含量は、廃プラスチック100重量部に対して5,000ppm以上で含まれてもよく、具体的には5,000~15,000ppmで含まれてもよい。前記生活系廃プラスチックは、水分が多様な範囲で含まれてもよく、通常、高い含量で含まれてもよい。例えば0.01~40重量%で含まれてもよいが、これは例示にすぎず、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0025】
前記産業界廃プラスチックは、産業体において製造工程中に発生するスクラップや不良品などの産業界廃棄物であり、PE/PPが大半を占める。塩素含量は、廃プラスチック100重量部に対して100~1,000ppmで含まれてよく、具体的には500~1,000ppm、より具体的には700~1,000ppmで含まれてもよい。前記産業界廃プラスチックは、生産工程で発生するスクラップなどであって、比較的にきれいな状態を維持し、生活系廃プラスチックと比べて塩素含量が低く、水分含量も0.03重量%以下と低いレベルである。しかし、接着剤または染料成分に起因する有機塩素含量が高く、特に芳香族環(aromatic ring)に含まれた塩素の割合が高いという特徴がある。
【0026】
(S1)ステップでは、廃プラスチックの選別/前処理工程なしに、水分を含む廃プラスチック原料を反応器に投入する。従来の水分を含む廃プラスチックの場合には、生成された熱分解油中に塩素などの不純物が過量存在することが知られているのに対し、本開示の熱分解油の製造方法を利用する場合には、生成された熱分解油中の塩素含量を最小化することができる。
【0027】
(S2)ステップでは、前記反応器を昇温し、この際、2℃/分以下の昇温速度(R1)で目的温度(Tf)まで昇温して前記廃プラスチック原料を熱分解する。前記(S2)ステップでは、廃プラスチックの脱塩素反応が起こり、その結果、炭化水素生成物に変換される。前記炭化水素生成物は、気相を含み、(S3)ステップでは、気相である熱分解ガスがコンデンサ(Condenser)に流入後に冷却され、液相熱分解油として貯蔵タンクに回収されることができる。
【0028】
前記(S2)ステップにおいて、昇温速度(R1)を2℃/分超過して急速に昇温させて熱分解工程を行う場合、炭素を伴う塩素の脱離が発生し、生成物中に有機塩素化合物が残存することになる。そこで、2℃/分以下の低昇温速度条件で熱分解工程を行うことで、有機塩素化合物が生成されるのを防止することができ、脱塩素効率を向上させることができる。また、前記(S2)ステップの原料として水分を含む廃プラスチックを用いることで、脱離した塩素を水分で効果的に捕集(trapping)して有機塩素が生成されるのを最小化することができる。これに加え、(S2)ステップにおいて、100℃以上の温度帯域で一定温度(T1)を一定時間維持する停滞区間を1つ以上含むことで、廃プラスチックから解離した塩素が水分に捕集(trapping)される効率を極大化することができ、反応安定性および反応収率を向上させることができる。すなわち、本開示の脱塩素化された廃プラスチック熱分解油の製造方法は、塩素除去効率を極大化させることで生成された熱分解油中の塩素含量を最小化することができ、別の選別/前処理工程を行わなくても塩素含量の低い熱分解油を製造することができる。
【0029】
一実施形態において、前記昇温速度は1.5℃/分以下であってもよく、好ましくは1.1℃/分以下であってもよい。上記範囲にて、塩素除去効率をさらに向上させることができる。
【0030】
一実施形態において、前記目的温度(Tf)は400~600℃であってもよい。前記400~600℃まで昇温して熱分解工程を行う場合、廃プラスチック中の水分により発生し得る熱分解効率の低下を防止することができる。また、廃プラスチックの融着を防止し、塩素が最小化された熱分解油の収率を極大化することができる。具体的に、前記温度は、具体的には450~580℃、より具体的には480~550℃であってもよい。
【0031】
一実施形態において、前記停滞区間の昇温速度(R2)は、下記条件のいずれか1つを満たしてもよい。
(1)昇温速度(R2)が実質的に0℃/分
(2)昇温速度(R2)が昇温速度(R1)よりも小さく、前記停滞区間内の温度変動幅(ΔT)が10℃以下
【0032】
前記(1)のように停滞区間の昇温速度(R2)を実質的に0℃/分とすることで、温度変化なしに停滞させて反応安定性の向上および副反応の発生を最小化することができる。また、反応効率を向上させるために、前記(2)のように一部の温度変化を加えてもよいが、昇温速度(R2)を昇温速度(R1)よりも小さくし、前記停滞区間内の温度変動幅(ΔT)を10℃以下とすることで、反応効率の向上および副反応の発生抑制効果の両方とも満たすことができる。すなわち、停滞区間(R2)の昇温速度が前記(1)または(2)を満たすことで、副反応の発生を最小化して反応安定性を向上させ、塩素除去率を向上させることができる。
【0033】
一実施形態において、前記停滞区間が2個以上であってもよい。例えば、脱水反応が起こる停滞区間、および脱塩素反応が起こる停滞区間を含んでもよい。停滞区間を2個以上含むことで、水分による塩素除去効果および高温による塩素除去効果を向上させることができる。
【0034】
一実施形態において、前記停滞区間は、100~150℃の温度帯域の第1停滞区間、および200~350℃の温度帯域の第2停滞区間を含んでもよい。100~150℃の温度帯域の第1停滞区間で一定時間維持することで、廃プラスチックから解離した塩素が水分に捕集(trapping)される効率を極大化することができ、水分による塩素除去効果を向上させることができる。また、200~350℃の温度帯域の第2停滞区間で一定時間維持することで、高温での脱塩素反応効率をさらに向上させることができる。具体的に、前記第1停滞区間の温度帯域は100~130℃であってもよく、第2停滞区間の温度帯域は250~300℃であってもよい。
【0035】
一実施形態において、前記停滞区間が30分以上であってもよい。前記停滞区間を30分以上維持することで十分な熱分解を行うことができる。具体的に、前記第1停滞区間は、1時間~2時間維持してもよく、前記第2停滞区間は、2時間~4時間維持してもよい。
【0036】
一実施形態において、前記(S2)ステップの総運転時間中に停滞区間が占める割合は20~60%であってもよい。前記停滞区間が占める割合を20~60%とすることで、塩素を十分に除去することができ、反応効率を向上させることができる。具体的に、前記停滞区間が占める割合は20~50%であってもよく、より具体的には30~50%であってもよい。
【0037】
一実施形態において、前記水分は、廃プラスチック100重量部を基準として1~25重量部で含まれてもよい。前記水分が25重量部を超過すると、熱分解生成物中のオレフィン(Olefin)と水の接触面積が大きくなり、塩素がオレフィン(Olefin)と再結合するBack-mixing Effectにより熱分解油中の塩素含量が増加することになる。また、過量の水分は、反応器または配管の腐食を引き起こし、生成された熱分解油の純度や品質を低下させるなどの問題を引き起こし得る。前記水分は、具体的に、廃プラスチック100重量部に対して2~25重量部で含まれてもよく、好ましくは5~25重量部で含まれてもよい。水分をほぼ含まない廃プラスチックの場合は、水と混合して廃プラスチック原料を準備してもよく、水分を含有した廃プラスチックは、そのまま用いてもよい。例えば、前記廃プラスチック中の水分含量が0.03重量%以下と極めて低い場合、前記廃プラスチックに一定量の水を混合することで、廃プラスチック100重量部を基準として水分が1~25重量部で含まれる原料を準備することができる。また、生活系廃プラスチックのように水分の重量部を満たす廃プラスチックの場合は、そのまま用いることができるため、乾燥工程効率や経済性の面で向上することができる。
【0038】
一実施形態において、前記熱分解工程は、非酸化雰囲気で行われてもよい。前記非酸化雰囲気は、廃プラスチックが酸化(燃焼)しない雰囲気であり、上記の雰囲気で効率的な熱分解を行うことができる。前記非酸化雰囲気は、例えば、酸素濃度が1体積%以下に調整された雰囲気であり、窒素、水蒸気、二酸化炭素、およびアルゴンなどの不活性ガス雰囲気であってもよい。酸素濃度が1体積%以下に作られた低酸素雰囲気で、熱分解工程は安定的に行われることができる。
【0039】
一実施形態において、前記非酸化雰囲気は、気化した水蒸気により反応器が加圧パージ(purge)されて形成された水蒸気雰囲気であってもよい。水分から発生した水蒸気により加圧パージ(purge)されて酸素が除去され、そこで、水蒸気による非酸化雰囲気を作ることができるため、別の不活性ガスを用いたパージ(purge)工程を行わなくてもよいという利点がある。
【0040】
一実施形態において、前記熱分解工程は、常圧条件で行われてもよい。熱分解反応器を常圧条件で運転して高い収率で熱分解物を得ることができ、作業便宜性および安全性に優れた環境で反応を行うことができる。
【0041】
一実施形態において、前記熱分解工程は、反応器に添加剤をさらに投入して行われてもよい。前記添加剤は、金属酸化物、金属水酸化物、および金属炭酸塩からなる群から選択される1つ以上の脱塩剤であってもよいが、必ずしもこれに制限されるものではない。前記添加剤をさらに含むことで塩素除去効果をさらに向上させることができる。前記金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であってもよく、具体的に、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、またはカルシウムなどであってもよい。前記脱塩剤は、具体的に、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、または炭酸カリウムなどであってもよい。
【0042】
一実施形態において、前記反応器は、バッチ反応器(batch reactor)であってもよい。具体的に、撹拌および昇温の制御が可能な全てのバッチ反応器を含んでもよく、例えば、Rotary Kilnタイプのバッチ反応器にて熱分解を行ってもよいが、本開示がこれに制限されるものではない。
【0043】
前記熱分解工程により熱分解ガスを沸点別に得ることができる。前記熱分解ガスは、具体的に、ナフサ(bp~150℃)、Kero(bp 150~265℃)、LGO(bp 265~380℃)、およびUCO-2/AR(bp 380℃~)を含んでもよい。この他に、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)のような低沸点炭化水素化合物残量を含んでもよい。また、前記熱分解ガスは、重質留分(LGOおよびUCO-2/ARの総和)に対する軽質留分(ナフサおよびKeroの総和)の重量比が0.1~3、0.1~2.0、または0.2~1.0であってもよい。仮に、上述したように100~150℃で一定時間維持し、150~350℃で一定時間維持して行う場合には、各温度範囲に応じて生成された熱分解ガスの重量が異なり得る。
【0044】
前記熱分解ガスを前記コンデンサ(Condenser)に流入する前に、熱分解ガス中のメタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)のような低沸点炭化水素化合物を含む低沸点ガスを別に回収してもよい。前記熱分解ガスは、一般的に、水素、一酸化炭素、低分子量の炭化水素化合物などの可燃性物質を含む。炭化水素化合物の例としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、ブタン、ブテンなどが挙げられる。熱分解ガスは、可燃性物質を含むため、前記反応器やRotary Kilnを加熱する燃料として再使用することができる。
【0045】
前記コンデンサは、冷却水が流動する領域を含み、コンデンサに流入した熱分解ガスは、冷却水により液化して熱分解油に転換されることができる。コンデンサ内に生成された熱分解油が所定レベルまで上昇すると、移送されて貯蔵タンクに回収される。
【0046】
前記貯蔵タンクに回収された液相熱分解油は、油分層と水分層を含んでもよい。熱分解ガスとともに水分から生成された水蒸気も液化して貯蔵タンクに回収され、油水分離が行われて液相熱分解油中に油分層と水分層を形成する。
【0047】
前記水分層には塩素化合物が含まれているため、貯蔵タンクの腐食を引き起こし得、これを防止するために、前記水分層に中和剤を投入してもよい。前記中和剤は、水に溶解時にpH7以上の値を有するアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を含んでもよい。具体的に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、塩基性炭酸塩、または脂肪酸塩を含んでもよい。前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属は、当該技術分野で通常用いられる金属であってもよく、例えば、アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、またはフランシウム(Fr)を含んでもよく、アルカリ土類金属は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、またはラジウム(Ra)を含んでもよい。前記中和剤は、単独で投入するか、または中和効率を向上させるためにアルコールなどの溶媒と混合して投入してもよい。
【0048】
前記水分層に中和剤を投入する場合、貯蔵タンクの下部に位置するpH測定器を用いて、水分層のpHを測定することで中和剤を適正含量で投入することができる。
【0049】
前記油分層と水分層が分離されると、油分層を直ちに回収するか、または水分層の除去後に回収することで、塩素が最小化された油分層(廃プラスチック熱分解油)を回収することができる。水分層は、排出して除去することができ、排出された水分を精製後に再循環させ、廃プラスチックに混合される水として再使用することができる。
【0050】
前記油分層と水分層の効果的な分離のために電場を加えてもよく、電場の印加により静電気的付着により、油分層と水分層が速い時間内に分離されることができる。また、前記油水分離効率を上げるために添加剤を必要に応じて付加してもよく、前記添加剤としては、当該分野で周知の通常の抗乳化剤であってもよい。
【0051】
前記水分層を排出して除去する場合、密度プロファイラを用いて密度を探知することで、前記水分層の除去時に前記油分層が共に除去されるのを防止し、水分層のみを効果的に除去することができる。
【0052】
一実施形態において、前記熱分解工程により生成された廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量は300ppm以下であってもよい。本開示の廃プラスチックの熱分解工程により、添加剤/中和剤を投入せず、水分および昇温速度の制御だけで生成された熱分解油中の総塩素含量を最小化することができる。前記総塩素含量は、非制限的に10以上300ppm以下であってもよい。
【0053】
本開示の一例において、前記熱分解工程により生成された熱分解油中の総塩素含量は、廃プラスチックに対して80%以上除去されてもよい。前記塩素除去率は、水分および昇温速度に応じて高くなることができ、原料(feed)に対して80%以上低減することができる。具体的に90%以上低減することができ、非制限的に90%以上97%以下低減することができる。
【0054】
以下、本開示の好ましい実施例および比較例を記載する。ただし、下記の実施例は、好ましい一実施例にすぎず、本開示が下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1
PE、PPとともにPVCを3重量%以上含む生活系混合プラスチックを250℃の条件で押出して生活系廃プラスチックペレットを製造した。前記生活系廃プラスチックペレットの総塩素含量は9,000ppmであり、水分は0.03重量%とほぼ存在しなかった。
【0056】
生活系廃プラスチックに水をさらに混合して廃プラスチックの乾燥重量約100g当たりに水分約20gに調節した後、バッチ反応器に投入して熱分解を開始した。廃プラスチックの熱分解過程で発生する水蒸気により非酸化雰囲気を作り、非酸化雰囲気下で反応を行った。2℃/分の昇温速度で熱分解開始温度25℃から425℃まで昇温して熱分解を行い、前記昇温過程で反応器の温度が110℃に達した際に前記温度を2時間維持した。熱分解により発生した熱分解ガスをコンデンサ(Condenser)にて捕集し、貯蔵タンクにて廃プラスチック熱分解油を得た。
【0057】
実施例2
実施例1において、廃プラスチックの乾燥重量約100g当たりに水分約15gに調節してバッチ反応器に投入し、1℃/分の昇温速度で昇温して熱分解を行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0058】
実施例3
実施例1において、反応器の温度が300℃に達した際に前記温度を4時間維持する過程を追加して反応を行った。その後、再び2℃/分の昇温速度で昇温して425℃まで昇温したことを除いては、実施例1と同様の方法で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0059】
実施例4
実施例1において、昇温時の反応器の温度が120℃に達した際に0.08℃/分の昇温速度で130℃まで2時間昇温した。その後、再び1℃/分の昇温速度で昇温して熱分解を行い、反応器の温度が320℃に達した際に0.04℃/分の昇温速度で330℃まで4時間昇温した。その後、再び1℃/分の昇温速度で昇温して425℃まで昇温したことを除いては、実施例1と同様の方法で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0060】
実施例5
実施例1において、廃プラスチックの乾燥重量約100g当たりに水分約30gに調節してバッチ反応器に投入して熱分解を行ったことを除いては、実施例1と同様の条件で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0061】
比較例1
実施例1において、4℃/分の昇温速度で熱分解を行ったことを除いては、実施例1と同様の条件で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0062】
比較例2
実施例1において、3℃/分の昇温速度で熱分解を行ったことを除いては、実施例1と同様の条件で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0063】
比較例3
実施例1において、反応器の温度を110℃に維持する停滞過程を省略して熱分解を行ったことを除いては、実施例1と同様の条件で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0064】
比較例4
比較例3において、水を追加投入せずに熱分解を行ったことを除いては、比較例3と同様の条件で反応を行って廃プラスチック熱分解油を得た。
【0065】
評価例
廃プラスチック中の水分は、Karl Fischer法を用いて測定した。
得られた廃プラスチック熱分解油の塩素含量は、ICPおよびXRF分析により測定された。
【0066】
【0067】
実施例1の場合、廃プラスチックの乾燥重量100g当たりに水分20gを含む廃プラスチックを対象とし、2℃/分の昇温速度で昇温し、110℃に達した際に当該温度で2時間維持させる停滞区間を1つ含むことにより、廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量が285ppmと非常に低減されたことを確認することができる。
【0068】
実施例2の場合、廃プラスチックの乾燥重量100g当たりに水分15gを含む廃プラスチックを対象とし、1℃/分の昇温速度で昇温する場合、廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量が273ppmとさらに低減されることを確認することができる。
【0069】
これに対し、比較例1および比較例2の場合、昇温速度を4℃/分および3℃/分とすることにより、廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量が594ppmおよび519ppmと塩素低減効果が非常に低下することを確認することができ、実施例5の場合、廃プラスチックの乾燥重量100g当たりに水分30gを含むことにより、廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量が384ppmと塩素低減効果が多少低下したことを確認することができる。
【0070】
実施例3および実施例4の場合、実施例1における停滞区間をもう1つ含むことにより、廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量が217~220ppmと最も効果的に低減されたことを確認することができる。
【0071】
これに対し、比較例3の場合、停滞区間を含まないことにより、廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量が425ppmと塩素低減効果が多少低下したことを確認することができ、比較例4の場合も、水分を含まない廃プラスチックを対象として熱分解工程を行い、停滞区間を含まないことにより、廃プラスチック熱分解油中の総塩素含量が505ppmと塩素低減効果が非常に低下したことを確認することができる。
【0072】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、前記実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で実施されてもよく、本開示が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述された実施形態は、全ての面で例示的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。