(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172944
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】圧縮空気エネルギー貯蔵法
(51)【国際特許分類】
H02J 15/00 20060101AFI20231129BHJP
H02J 3/28 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H02J15/00 E
H02J3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084236
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022093996
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522229282
【氏名又は名称】石井 克和
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100203242
【弁理士】
【氏名又は名称】河戸 春樹
(72)【発明者】
【氏名】石井克和
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066JA01
(57)【要約】
【課題】圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)設備において設備コストを削減するために、空気貯蔵部の容積空間を有効に利用して、経済的なCAES法を提供する。
【解決手段】空気貯蔵部300を複数の容器301で構成し、各容器内部に形状自在な空間を持つフィルムを配置する。空気の圧縮工程では各容器内部でフィルムの一方面側の空間に予め緩衝ガスを満たしておき、フィルムの他方面側の空間に空気を蓄え、緩衝ガスを体積が縮減した流体にさせてフィルムの他方面側の空間に貯蔵する空気量を増加させ、空気の膨張工程ではこの流体を加熱して気化させてフィルムの他方面側の空間に残存する空気量を減少させる。このようにして空気貯蔵部空間の利用可能容積が拡大され、各容器301の内部空間での正味の空気貯蔵量を増加させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を圧縮空気エネルギーに変換して1つ以上の容器に圧縮空気を貯蔵する圧縮工程と、貯蔵された前記圧縮空気を膨張させて前記電力を回収する膨張工程とを含み、前記圧縮工程と前記膨張工程とを交互に実行するものであり、
前記容器は、全体または一部の前記容器の各容器内部に形状が自在に変形可能な面を持つ空間を形成する単一または複数のフィルムが配置されて、前記容器の内部に複数の部分空間が形成されており、
前記圧縮工程の開始時には前記容器の内部で前記フィルムの両方の表面の一方面側に形成される前記部分空間に緩衝ガスが満たされており、
前記圧縮工程では前記緩衝ガスと混合することなく前記容器の内部で前記フィルムの両方の表面の他方面側の前記部分空間に前記圧縮空気を蓄えるとともに、
前記緩衝ガスを前記容器の内部に留めた状態でまたは前記容器の外部へ導いて体積を縮減させた流体に変化させて前記他方面側の前記部分空間に貯蔵する前記圧縮空気の量を増加させ、
前記膨張工程では前記容器の内部または外部に存在する前記流体を気化させ、前記容器の内部で前記一方面側の前記部分空間に前記緩衝ガスとして復元させることで前記容器の内部に残存する前記圧縮空気の量を減少させる、圧縮空気エネルギー貯蔵方法。
【請求項2】
請求項1の圧縮空気エネルギー貯蔵法において、前記緩衝ガスとして二酸化炭素単一、または二酸化炭素を主成分とする混合物を用いる圧縮空気エネルギー貯蔵法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧縮空気エネルギー貯蔵法における前記緩衝ガスの圧力範囲について、
前記膨張工程における最低圧力は前記緩衝ガスの臨界圧力以下の範囲で使用され、
前記圧縮工程における最高圧力は前記緩衝ガスの臨界圧力の90%以上で使用される、圧縮空気エネルギー貯蔵法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の圧縮空気エネルギー貯蔵法において、
前記圧縮工程では空気の圧縮によって発生する圧縮熱を貯蔵し、
前記膨張工程では貯蔵された前記圧縮熱を前記圧縮空気の加熱、及び前記緩衝ガスの加熱の少なくとも何れか一方に利用する、圧縮空気エネルギー貯蔵法。
【請求項5】
請求項4に記載の圧縮空気エネルギー貯蔵法において、
前記圧縮熱を貯蔵する熱貯蔵工程を有し、
前記熱貯蔵工程は、少なくとも水により前記圧縮熱を吸熱させ、吸熱させた水をタンクで貯蔵する工程を含む、圧縮空気エネルギー貯蔵法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統などで供給が需要を上回る時間帯に発生する余剰電力を圧縮空気のエネルギーとして一時的に貯蔵し、供給が不足する時間帯にこの圧縮空気を用いて再度電力として回収する場合などに利用される圧縮空気エネルギー貯蔵(Compressed Air Energy Storage、以下、CAESと称す)法に関するものである。より具体的には、圧縮空気の貯蔵設備を有効に利用できる圧縮空気エネルギー貯蔵法に関するものである。
【0002】
鋼管などの鋼製の容器を用いる圧縮空気貯蔵部から成るCAES設備では、この部分の鋼材コストが高額となり、費用対効果が少なくなる傾向がある。本発明では、緩衝ガスを用いることにより圧縮空気貯蔵部空間の容積利用効率を向上させ、圧縮空気エネルギー貯蔵法における設備コストの削減を目的としている。
【0003】
ここで、緩衝ガスとは次のように定義される。予め何らかのガスで満たした容器へ空気を送入すれば、このガスは空気の圧力によって加圧されてその体積は縮小する。同時に、このガスの存在は送入空気の容器内での急激な圧力低下を防ぐ作用がある。この容器内に双方の気体間を隔離する膜状部材が存在すると仮定すれば、この容器から空気のみを選択的に排出させることができる。この過程で容器内に残るガスは圧力の低下とともにその体積は増大する。この結果、このガスは空気を容器から外部へ押し出す作用がある。このように空気の出入過程で、予め容器内を満たしたガスは容器内の空気に対して弾力を持つ緩衝媒体としての作用を及ぼしている。ここで定義する緩衝ガスとは、予め圧縮空気貯蔵部内で膜状部材によって圧縮空気とは隔離された状態で所定量が満たされたガスのことである。このガスが、圧縮および膨張の過程で空気に比較して体積が大幅に変化する物質ほど大きな緩衝効果が得られる。
【0004】
CAES法として、断熱型、非断熱型、あるいは双方の折衷型などに分類されるが、空気貯蔵部はいずれの方式でも必要である。従って、緩衝ガスを用いて空気貯蔵部空間の容積利用効率を向上させる本発明は、これら多様な方式に共通して適用でき、何れの方式にも効果を奏することができる。
【背景技術】
【0005】
電力需要は季節、時間帯などによって変化する。さらに、太陽光や風力など気象条件、日夜などによって変動する再生可能エネルギー由来の電力の供給が加わると、電力系統における電力量の需要と供給のバランスを維持することが問題となる。電力系統などで余剰電力が発生した場合、この電力を一旦貯蔵し、これを需要量の多い他の時間帯へ移行させて再利用することが求められる。変動性の高い再生可能エネルギーに由来する電力量の導入拡大に伴い、余剰電力を有効利用する手段としての電力貯蔵技術の役割は益々重要となっている。
【0006】
位置の高低差による物理的エネルギーを利用する揚水式発電方式は優れた電力貯蔵法であり、現在稼働中の圧倒的に多くの電力貯蔵設備はこの方式によって占められている。揚水式発電と同様に物理的な電力貯蔵法として、電力を空気の圧縮エネルギーに変換して貯蔵する圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)法も優れた電力貯蔵法であり、地下の岩塩層に空洞を設けて圧縮空気を蓄える大規模な電力貯蔵設備が長年に亘って稼働中である。この方式は圧縮機を駆動して電力を空気の圧縮エネルギーとして蓄え、電力が必要な時にはこの圧縮空気によって膨張機を駆動させて再度電力として回収するものである。基本的にCAES設備は、電動機、圧縮機、圧縮熱を除去する熱交換器、圧縮空気の貯蔵部、圧縮空気の加熱手段、膨張機、および発電機によって構成されている。以下、
図1に符号を用いてCAES方式の一例を示す。
【0007】
この例では、電力入力時に空気10はシャフト121を介してモーター110によって駆動される低圧圧縮機120および高圧圧縮機130によって2段階で圧縮されて圧縮空気となる。続いて空気貯蔵部300に貯蔵される。従来、CAES設備の貯蔵部は地下の岩塩層に設けた空洞部が使われてきたが、その他の地層あるいは地上に設けた鋼製の高圧容器など多様な選択肢がある。各圧縮機にはアフタークーラー140および150がそれぞれ付随し、各圧縮機で発生する圧縮熱が除去される。アフタークーラー140および150には、それぞれ冷却水30、32が供給され、圧縮熱を吸収した冷却水31、33が排出される。電力が必要な時には空気貯蔵部300に貯蔵された圧縮空気で高圧膨張機230および低圧膨張機220を駆動させる。この時、圧縮空気は各膨脹機の空気入力部に設置した高圧側燃焼器250および低圧側燃焼器240に燃料20、21が供給されることによってそれぞれ加熱される。同時に、高圧側燃焼器250および低圧側燃焼器240とシャフト221を介して駆動される発電機210が作動して、空気の圧縮エネルギーが電力に再変換される。この加熱の過程で低圧膨張機220からの高温排気ガスと空気貯蔵部300からの貯蔵空気とを再生熱交換器260で熱交換させ、この回収熱を利用して熱効率の向上を図ることができる。再生熱交換器260を通った空気11は大気に排出される。
【0008】
従来のCAES法は断熱方式と非断熱方式に分類できる。非断熱方式では、空気の圧縮時に発生する圧縮熱は冷却されて系外へ除去され、動力回収時には膨張機入口にて燃料を供給して圧縮空気への加熱が必要である。非断熱CAES法は古くから大規模な実施例があり、
図1はこの方式の典型例を示したものである。
【0009】
断熱CAES法では空気の圧縮時に発生する圧縮熱を貯蔵し、この熱エネルギーを動力回収時に再利用している。この方式では動力回収時に燃料を使用せず、非断熱方式よりも熱効率を高くすることができる。非断熱CAES法を示す
図1では、各圧縮機で発生する圧縮熱はアフタークーラー140および150でそれぞれ除去されている。断熱CAES法では、非断熱方式に設置されるアフタークーラー140および150に相当する部分で熱回収が行われる。ここで回収された熱エネルギーを貯蔵するため貯蔵部が必要となり、この貯蔵部はTES(Thermal Energy Storage) と呼ばれる。この熱貯蔵部の存在によって断熱CAESは多様な方式が可能であり、その典型的な例が非特許文献1に示されている。
【0010】
一方、断熱CAES法では、動力回収時の膨張機の入口温度が燃焼熱を用いる非断熱方式に比べて低くなる。また、貯蔵熱の損失も加わり、断熱CAES法では回収可能な動力が非断熱CAES法より低くなる傾向がある。この結果、断熱方式は単位圧縮空気量に対する発電量が少なくなり、回収電力量当たりの設備価格が非断熱方式より割高となる傾向がある。この対応策として、特許文献1では断熱と非断熱の複合CAES方式(Hybrid CAES system)が提案されている。
【0011】
圧縮空気貯蔵部の容積空間を無駄無く使用するCAES法も提案されている。例えば、空気の圧入時に予め圧縮空気貯蔵部を水で満たしておき、この部分の空気量の増加とともに排水させる方法がある。空気の圧縮エネルギーを動力として回収する時には、再度空気貯蔵部に水を入れて内部の全空気量を水で置換することによって貯蔵部の容積を最大限に利用できる。この方法では、空気貯蔵部の圧力を常に一定に保てる利点もある。しかし、この方法では空気の貯蔵圧力に相当する十分高い位置に大容量の貯水池を設ける必要があり、地形的制約条件が問題となる。
【0012】
空気貯蔵部空間の容積効率の改善法として、非圧縮性の水の代替として圧縮性ガスを用いる方法がある。特許文献2では、高深度に位置する多孔性の砂岩層などの地層で二酸化炭素を用い、圧縮性ガスの緩衝効果を利用して空気を貯蔵する方法が提案されている。このCAES法では、空気を貯蔵する地層を予め十分な量の二酸化炭素で満たしている。ここへ圧縮空気を送入すれば圧力の増大とともに二酸化炭素の密度も増加する。この時の操作条件が臨界圧力近辺あるいはそれ以上であれば、二酸化炭素の密度が急速に増減するのでその体積も急速に増減する。空気の排出時には貯蔵層の圧力の減少に伴い二酸化炭素の容積が急増し、貯蔵層から空気を追い出すことが可能となり、空気貯蔵層での貯蔵量が増大する。このように二酸化炭素は多孔性の地層内で緩衝ガスとして有効に機能し、空気貯蔵部空間の容積利用効率の改善が図られる。
【0013】
この方法では地層内部で空気と二酸化炭素の境界面が直接接しており、双方の流体が混合する懸念がある。ここでは、層内での位置が低い場所では圧力が高くなることを利用して過度な混合を回避している。即ち、砂岩層などで下層ほど二酸化炭素の流体密度は高くなるので、上層部に留まる低密度の空気との混合を少なくすることができる。しかし、この方法では地層や地形的特性など立地条件の制約を受け、鋼製容器など地上に設置した貯蔵部にこの方法を適用することは困難である。
【0014】
立地条件に左右されることなく、CAES設備を地上に設置できれば好都合である。この場合、空気貯蔵部として鋼管や鋼製の容器を利用することが現実的な選択肢である。しかし、この方法では容器部空間の容積が過大となり、この部分の鋼材コストが高額となる懸念がある。この対応策の一例として、特許文献3に示されているように圧縮空気を液化させて貯蔵容量を縮減させ、これを地上に設けた設備に貯蔵する方法がある。また、この方法では液体空気を常圧で貯蔵できるので、空気貯蔵部の設置コストを著しく低減させることができる。しかし、この方法では空気の液化設備が高額となること、および液化に必要な冷熱の発生に伴うエネルギー効率の低下の問題がある。
【0015】
鋼管などの鋼製の容器を用いた地上置きCAES設備については、上記の液化法を含めて様々な試みが進行中である。本発明もこの流れに属し、設備コストが過大となる鋼管製若しくは鋼製の容器から成る空気貯蔵部空間の容積を有効利用することによって、経済的なCAES法を実現しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】EP 3 255 266 B1
【特許文献2】WO 2009/146101 A2
【特許文献3】WO 2007/096656 A1
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】deBiasi, “Fundamental analyses to optimize adiabatic CAES plant efficiencies”,Gas Turbine World, Sep.- Oct. (2009).
【非特許文献2】Eckroad,S., “Handbook of Energy Storage for Transmission or Distribution”, EPRIReport-1007189 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、経済的なCAES法を提供することである。この目的のためには、空気貯蔵部の容積空間を有効に利用することが必要となる。ここでは、この観点から従来のCAES法における上記問題点を解決して、上記の目的を達成した。
【0019】
従来のCAES法では、設備全体の中で空気貯蔵部コストの占める割合が高いにもかかわらず、この部分の容積利用効率が非常に低い点を挙げることができる。例えば、地下の岩塩層に設けた空洞に空気を貯蔵するCAES法では、空洞容積の利用効率が低いことはよく知られている。非特許文献2によると、Huntorf (Germany) およびMcIntosh(USA) におけるCAES設備についての運転時の変動圧力範囲がそれぞれ示されているが、いずれの場合でも圧縮工程時の最高貯蔵圧力に対して60%を超える圧力の圧縮空気を残した状態で膨張工程を打ち切っている。このように従来のCAES法では空気貯蔵部の容積利用効率について改善の余地があり、この点の改善によって設備全体のコスト削減を実現した。
【0020】
CAES法の圧縮工程では空気貯蔵部の圧力は時間の経過とともに高くなり、膨張工程では時間の経過とともに低下する。膨張工程で空気貯蔵部の圧力が低下し過ぎると膨張機は十分な機能を発揮できず、所定の圧力まで低下した時点で膨張工程を停止させる必要がある。従って、膨張工程終了時の圧力に相当する貯蔵部内に残存する空気量を何らかの方法で減少させることが可能であれば、空気貯蔵部空間の容積利用効率を高めることができる。
【0021】
岩塩層など高深度に設けた空洞、多孔性砂岩層などの地層、鉱山廃坑、あるいは湖や海洋での水深などを利用するCAES設備では、自然条件の恵みをそのまま利用することによって空気貯蔵部のコストをある程度緩和することが可能となる。しかし、このような自然条件を利用可能な場所は限定的で、立地的制約を受けず必要な場所にCAES設備を設置できれば好都合である。この場合、一例として、地上に設置した鋼管などの鋼製の容器に圧縮空気を貯蔵することが想定されるが、このために大量の鋼材が必要となりそのコストが高額となる。空気貯蔵部空間の容積利用効率を改善できれば、鋼製の容器へ圧縮空気を貯蔵するCAES設備のコスト削減も可能となる。
【0022】
空気貯蔵部の容積空間を有効利用する方法として、貯蔵部内の空気を水で置換するCAES法がある。しかし、この方法でも地形的制約によって本発明の対象とするCAES法に採用することは現実的ではない。
【0023】
前述のように特許文献2には、緩衝ガスを用いて多孔性の砂岩層など地下の空気貯蔵部の容積利用効率を向上させる方法が示されている。ここでは緩衝ガスとして二酸化炭素を用い、この物質の臨界点近傍またはそれを超える範囲での圧力変化に対して流体密度が急変する特性を利用している。この方式では作動ガスである空気と緩衝ガスが双方の境界面で混合する懸念があるが、地下の地層では密度の高い緩衝ガスは空気の下層に留まり、下層に行くほど圧力の増加に伴う緩衝ガスの密度が増大するため双方のガスの混合を最小限に抑えることができる。
【0024】
鋼管を含む鋼製の容器に高圧空気を貯蔵してここに緩衝ガスを用いることを想定すれば、緩衝ガスと空気の混合問題の回避法が課題となる。砂岩層などに空気を貯蔵する上記の例では、地層の厚みが100m単位で表わされるような高低差を持ち、ここで緩衝ガスによる流体密度の急変を利用して双方間の過度な混合を防いでいる。一方、鋼製の容器内部でこのような高低差を持つ構造を実現させることは困難である。何らかの方法で空気貯蔵部の内部で空気との混合を防止してガスの緩衝作用を発揮させることが可能であれば、空気貯蔵部空間の容積利用効率の向上を期待できる。その方策として、本発明では貯蔵部内で作動ガスとしての空気から緩衝ガスを隔離させて双方間の混合を防ぐこととした。
【0025】
圧力を臨界圧力以下から臨界点近傍あるいはそれ以上の圧力まで変化させ、緩衝ガスの流体密度の変化を利用することで緩衝効果を高めることができる。従って、圧縮および膨張工程での圧力変化との関係を考慮した緩衝ガスとして望ましい物質を選択した。
【0026】
上記の砂岩層などへ空気を貯蔵する例では、圧力変化による緩衝ガスの密度の変化に伴う体積の増減によって緩衝効果を得ている。しかし、密度の変化は圧力のみならず温度にも依存しており、圧力と温度の双方の流体密度へ影響を加えれば緩衝ガスとしての機能を一層高めることができる。そこで、本発明では温度による緩衝効果をも併せて活用することとした。このため、冷却および加熱を考慮した緩衝ガスの取扱い方を検討した。
【0027】
燃料を消費する非断熱型CAES法では圧縮工程で発生する圧縮熱を除去しているが、断熱型の方法では圧縮熱を回収して再利用している。また、燃料の使用による加熱と圧縮熱の回収を行う折衷型CAES法も提案されている。本発明は特定のCAES法に属するものではなく、圧縮熱および燃料の使い方について多様な選択が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、CAES設備について前述の課題を解決する空気貯蔵法を提供する。より具体的には、CAES設備において空気貯蔵部の容積空間を有効に利用するための手段を提供する。
【0029】
本発明の第一の実施形態に係る圧縮空気エネルギー貯蔵法は、電力を圧縮空気エネルギーに変換して1つ以上の容器に圧縮空気を貯蔵する圧縮工程と、貯蔵された前記圧縮空気を膨張させて前記電力を回収する膨張工程とを含み、前記圧縮工程と前記膨張工程とを交互に実行するものであり、前記容器は、全体または一部の前記容器の各容器内部に形状が自在に変形可能な面を持つ空間を形成する単一または複数のフィルムが配置されて、容器の内部に複数の部分空間が形成されており、圧縮工程の開始時には容器の内部で前記フィルムの両方の表面の一方面側に形成される部分空間に緩衝ガスが満たされており、圧縮工程では緩衝ガスと混合することなく容器の内部で前記フィルムの両方の表面の他方面側の部分空間に圧縮空気を蓄えるとともに、緩衝ガスを容器の内部に留めた状態でまたは容器の外部へ導いて体積を縮減させた流体に変化させて他方面側の部分空間に貯蔵する圧縮空気の量を増加させ、膨張工程では容器の内部または外部に存在する流体を気化させ、容器の内部で一方面側の部分空間に緩衝ガスとして復元させることで容器の内部に残存する圧縮空気の量を減少させる、一連の作動を有している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】従来の非断熱型圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)設備の全体構成を示す概要図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係るCAES設備の全体構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第一の実施形態)
図2を参照して、以下、本発明の第一の実施形態について説明する。CAES(即ち、圧縮空気エネルギー貯蔵)設備において、空気貯蔵部300は断熱、非断熱あるいは双方の折衷型など多様なCAES方式に共通して必要な設備である。本発明の第一の実施形態では、一例として、鋼管若しくは鋼製の容器301によって構成される空気貯蔵部300の場合について説明しているが、鋼製以外の容器301を有する空気貯蔵部300を備えるCAES設備に共通して適用できる。また、
図1に示した非断熱型のCAES設備の空気貯蔵部300以外の設備構成と運転方法とについて、本発明の第一の実施形態に適宜踏襲することができる。
【0032】
図2を参照して、以下に本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法が備える全体の流れを説明する。
図2は、第一の実施形態によるCAES設備の全体構成を符号とともに示している。第一の実施形態によるCAES設備は、低圧圧縮機120、高圧圧縮機130、蓄熱槽160、アフタークーラー150、高温水タンク330、低温水タンク340、熱交換器320、空気貯蔵部300、CO
2貯蔵部310、低圧膨張機220、高圧膨張機230、再生熱交換器260、等を備えている。この実施形態では、空気貯蔵部300が
図2の点線で囲んだ部分に示すように並列した複数の直線状の鋼管から形成されている容器301を配置して構成されている。
【0033】
本発明では、空気貯蔵部内に緩衝ガスと空気を仕切るフィルム面を配置することによって部分的な空間を形成するとともに双方間の混合を防ぎ、空気を系外へ選択的に排出させることにした。このようにして空気貯蔵部空間の容積利用効率が向上し、正味の貯蔵空気量を増加させることができる。
【0034】
フィルムの材質について説明する。フィルムは、気相及び液相に変化する流体の圧力、及び温度に対応できる強度耐久性があるものであれば、如何なる材質のものでもよい。例えば、薄くて強度がある伸縮しない樹脂製の膜状部材で形成されていてよい。
【0035】
次に、圧縮空気エネルギー貯蔵法が備える全体の流れを説明する。空気の圧縮工程開始時までに、各容器301内部の所定の空間に予め二酸化炭素が充填される。この充填過程は、交互に実行される圧縮工程と膨張工程における前回の圧縮工程に続く圧縮空気の膨張工程に含まれている。空気の各容器301の容器内面と、フィルムの一方面とで囲まれた部分空間に、予め緩衝ガスが入れられる。充填された緩衝ガスにより、フィルムは膨張して、前記一方面に対して反対面の他方面が容器内面に密着した状態となる。
【0036】
続く圧縮工程では、圧縮空気がフィルムにより緩衝ガスと隔離された部分空間に蓄えられる。圧縮工程では、大気中から取り入れられた空気10は、低圧圧縮機120と、高圧圧縮機130とによって順次昇圧され圧縮空気となり、アフタークーラー150、三方弁151を介して、最終的に空気貯蔵部300に貯蔵される。低圧圧縮機120、および高圧圧縮機130は共にシャフト121を介してモーター110によって駆動される。低圧圧縮機120、および高圧圧縮機130において発生する圧縮熱は、後述する蓄熱槽160での蓄熱、およびアフタークーラー150での熱交換によりそれぞれ除去される。この工程で、圧縮空気と隔離されている緩衝ガスも同時に圧縮され、緩衝ガスは圧縮空気の持つ圧力により容器301の外部へ押し出される。
【0037】
低圧圧縮機120からの圧縮熱は、膨張工程で再利用するために、以下の方法で蓄熱槽160に一旦貯蔵される。圧縮熱の貯蔵法として熱交換器の伝熱面を通して熱媒油などの流体に熱を移動させる方法もあるが、ここでは蓄熱槽160に納められた図示されない小径の岩石から成る粒子状固体を熱媒体とする直接熱移動方式を採用している。この方式は耐圧容器を必要とするが、伝熱特性が良く、圧力損失が少ないことが特長である。蓄熱槽160は直立した円筒形で、その頂部より低圧圧縮機120からの高温空気が送入される。蓄熱槽160に貯蔵される熱エネルギーは、直前の膨張工程で使われているので、圧縮工程の開始時には蓄熱槽160の温度は圧縮熱の蓄熱時より低下している。圧縮工程では蓄熱槽160内の熱貯蔵量は時間の経過とともに増加し、最初、蓄熱槽160の頂部にあった熱媒体の高温側と低温側の間の温度境界線は底部へ向かって徐々に移動する。このようにして圧縮熱が除去されて圧縮空気の温度は低下し、同時にその熱が蓄熱槽160内に蓄積される。膨張工程では圧縮工程とは反対に低温の空気が蓄熱槽160の下部に送入され、この空気は蓄熱槽160に蓄えられた熱によって加熱されて蓄熱槽160の頂部から排出される。ここで回収された熱は、後述のように膨張工程で高圧膨脹機230に導入される空気の昇温に使われる。
【0038】
低圧圧縮機120から蓄熱槽160を経て冷却された空気は、高圧圧縮機130へ導かれ、アフタークーラー150を経て空気貯蔵部300に蓄えられる。アフタークーラー150での圧縮熱の除去には、低温水タンク340からの低温水が用いられる。本発明では加熱および冷却による緩衝ガスの状態変化に伴う体積の増減が必要となる。アフタークーラー150で除去された圧縮熱は低温水を温めて高温水が生成されて高温水タンク330に貯蔵される。高温水は、緩衝ガスが冷却されて体積が縮減した低温流体を膨張工程で加熱するための熱源として使用される。アフタークーラーで熱除去に必要な低温水は、後述のように高温水が熱交換器320において上記低温流体との熱交換による温度低下によって生じたものである。低温水は、低温水340タンクに貯められて、高温水タンク330との間を交互に循環させて使用される。なお、低温水タンク340への冷却水30、31の補給は、熱交換器320と低温水340タンクの間、及び高温水タンク330と熱交換器320との間においてそれぞれ配置されている3方弁331、341を介して行われる。
【0039】
空気の圧縮と同時に、緩衝ガスは容器301の内部において、圧縮空気の圧力により加圧される。このとき臨界圧力を超え、温度がさらに下がると体積が大きく縮減された流体となる。なお、容器に導入される緩衝ガスの冷却は、緩衝ガスを容器301の外部に導いて冷却して体積を縮減してもよい。容器301の内部に送入される空気量の増加に伴い、各容器301内のフィルムが形成する圧縮空気が導入されている部分空間の形状は内径と長さが容器301である容器の内部空間とほぼ同一形に近づく。従って、各容器301内が圧縮空気で満たされ、緩衝ガスが容器301外へ排出された状態では、フィルムは容器301の内面と密着した状態になる。
【0040】
圧縮空気の膨張工程では、圧縮空気によって加圧され、さら冷却によって緩衝ガスの体積が縮減した流体は加熱され気化し、再び各容器301内でフィルムの一方面側に導入され、圧縮工程以前の緩衝ガスの状態へ復帰する。
【0041】
膨張工程では、空気貯蔵部300に貯蔵されている空気の圧力は空気の排出とともに低下する。膨張工程では、空気貯蔵部300内の空気が占める空間を徐々に縮小させながら、それに対応して緩衝ガスの占める空間を徐々に拡大して置換するために、緩衝ガス貯蔵部310に圧縮工程で冷却されて体積が縮減した流体として蓄えられている緩衝ガスを加熱して、再度空気貯蔵部300へ導入する必要がある。空気貯蔵部の圧力は5(MPa)まで減圧されるので、膨張工程の途上で緩衝ガスは低温の気液混相流体となる。この流体を緩衝ガスとして用いるために、その加熱源として圧縮工程で高温水タンク330に蓄えた熱エネルギーを使用する。この低温混相流体は、熱交換器320において高温水タンク330からの高温水との熱交換によって加熱され、緩衝ガスとして空気貯蔵部300へ送入される。このようにして空気貯蔵部300内の空気は緩衝ガスによって押し出され、最終的には容器301内の全空気が占める空間は緩衝ガスが占める空間によって置換される。
【0042】
空気貯蔵部300から排出される圧縮空気は減圧弁(図示していない)によって常時一定圧力、例えば5(MPa)に保たれ、再生熱交換器260の後半部を経て高圧膨張機230へ導かれる。空気貯蔵部を出た低温の圧縮空気は、再生熱交換器で後述する低圧膨張機220からの高温排熱によって加熱される。続いて、この空気を駆動力として高圧膨張機による最初の動力回収が行われる。高圧膨張機230は低圧膨張機220とともにシャフト221によって発電機210を駆動させている。
【0043】
高圧膨張機230を出た低温の空気は、圧縮工程において低圧圧縮機120で発生する圧縮熱を蓄えた蓄熱槽160の底部に導かれる。この空気は槽内に納められた粒子状の固体蓄熱材と向流接触によって直接加熱される。
【0044】
圧縮工程開始時の空気貯蔵部300の圧力は、例えば5(MPa)、温度は40(℃)に設定され、この時の二酸化炭素のガス密度は120(kg/m3)である。圧縮工程で空気貯蔵部300内のこのガスは空気の蓄圧によって押し出され、熱交換器320において冷却水(入口側:32、出口側:33)による冷却が行われる。空気貯蔵部300の圧力は最終的に9(MPa)になり、同時にこのガスの圧力も空気圧と等しくなる。この状態でこのガスは臨界圧力を超えているので超臨界流体となり、本実施形態ではこの流体の温度を35(℃)まで低下させている。この条件でのこの物質の密度は630(kg/m3)となり、その体積は圧縮工程開始時の19 % まで減少する。一方、貯蔵した圧縮空気の膨張工程では、空気が二酸化炭素によって置換されて空気貯蔵部300の容積はほぼ全容積が使われる。前述のように、従来の圧縮空気エネルギー貯蔵法における空気貯蔵部の空間容積利用効率は40 % 以下である。空気貯蔵部以外に緩衝ガス由来の冷却された流体を貯蔵する緩衝ガス貯蔵部310が必要になるが、この分を相殺しても本実施形態の容積効率は従来法の2倍を超える値となることが見込める。即ち、同一容積空間に倍以上の空気を貯めることが可能となる。
【0045】
加熱されて蓄熱槽160の頂部から出た空気は再生熱交換器260の前半部へ戻り、ここでさらに昇温され燃焼器240へ導かれる。ここで消費される燃料20を含む燃焼器240を出た高温ガスは、低圧膨張機220に導かれ、ここで再度の動力回収が行われる。この燃焼器240からの排気ガスは温度が非常に高く、上述のように再生熱交換器260の前半部および後半部を通して高温から低温となるまで所定温度以上の熱エネルギーが回収され、再生熱交換器260を通った空気11は大気へ放出される。
【0046】
本発明では空気貯蔵部300で使用する緩衝ガスの状態変化による体積の増減を目的に、緩衝ガスとしての二酸化炭素の冷却および加熱が必要になる。本実施形態では
図2に示すように、この冷却および加熱を複数の鋼管より成る空気貯蔵部300の外部へ導いて行っている。この場合、空気の圧縮工程で冷却によって体積が減少した流体となった二酸化炭素を蓄える容器が必要となる。空気貯蔵部300から出た二酸化炭素は、熱交換器320で冷却水によって冷却される。この時、3方弁331を切り替えて冷却塔(図示はしていない)から冷却水がこの熱交換器320に送り込まれる。冷却された二酸化炭素を貯蔵する容器として
図2に示す緩衝ガス貯蔵部310が設けられている。CO
2貯蔵部も空気貯蔵部300と同様に、
図2の点線で囲まれた範囲に示すように並列した複数の直線状の鋼管から形成されている容器311によって構成されている。
【0047】
(第二の実施形態)
この実施形態でも、空気貯蔵部で水平に配置した鋼管の使用、緩衝ガスとして二酸化炭素の使用など
図2に示されている構成は、基本的には第一の実施形態と共通している。しかし、各容器内部では、容器の円形内面の半円周に相当する長さを持つ単一のフィルム面の1組の両端を管長方向の内壁面に沿って平行に固定して鋼管内を上下に分け、フィルム面によって双方間の通気が遮断された二つの空間が形成されている。この場合、フィルムが画定する両空間のフィルム面は互いに補完し合う凹凸状となり、空気の圧縮および膨張工程それぞれの途上でフィルムが仕切る双方の形状が逆転する。圧縮工程に先立つ圧縮ガスの膨張工程で一方の部分空間を緩衝ガスで満たしておくが、この部分空間のフィルム面は凸状となり、空気の貯蔵はフィルムの他方面側の空間から開始される。この実施形態でも、空気貯蔵部300は
図2の点線で囲んだ部分に示すように並列した複数の直線状の鋼管から形成されている容器301を配置して構成されている。空気貯蔵部300は地上に設けられ、CAES設備の全体構成は
図2に示した第一の実施形態と共通している。また、緩衝ガスが
図2に示す緩衝ガス貯蔵部310で点線内に示すように並列した複数の容器311に蓄えている点も共通している。すなわち、第二の実施形態は、空気貯蔵部300の容器301の内部でフィルムの取り付け方が第一の実施形態とは異なる点を除き、CAES設備の全体構成、運転条件および方法が第一の実施形態と共通しており、フィルムの取り付け方は第一の実施形態と異なる変形例である。従って、これらの説明は既に記載した第一の実施形態によって代替する。さらなる変形例として、例えば、鋼管内で長さ方向の中間部に筒状のフィルムの一端を管長に直角な内壁面に固定し、このフィルムによって長さ方向が二分されて容積が増減する空間に仕切るなどの変形例を挙げることができる。
【0048】
上記において説明した各実施形態は、適宜変更が可能である。以下に、変形例を記載する。上記のいずれの実施形態例でも、モーター、低圧圧縮機および高圧圧縮機はそれぞれについての付随機器(例えば、冷却器など)を含めた組み合わせを1セットとしているが、複数のセットによって全体設備を構成することも可能である。同様に、発電機、低圧膨張機および高圧膨張機についても複数のセットを配置して構成することもできる。
【0049】
また、上記のいずれかの実施形態における少なくとも一部がフィルムによって形成される部分的な空間にそれぞれ貯蔵される流体について、各部分的な空間に貯蔵される流体を入れ替えてもよい。具体的には、フィルムの一方面側の部分的な空間に圧縮空気、フィルムの他方面側の部分的な空間に緩衝ガスをそれぞれ貯蔵してもよい。又は、フィルムの一方面側の部分的な空間に緩衝ガス、フィルムの他方面側の部分的な空間に圧縮空気をそれぞれ貯蔵してもよい。
【0050】
また、上記の容器301は、鋼製以外でもよい。例えば、コンクリート製、又は鉄筋コンクリート製でもよい。さらに、鋼製を含め、容器301の内面の全面に、樹脂材等を吹き付け、又は樹脂シート等のシート材を取り付けてもよい。このようにすることで、初期の気密性の向上、及び、長期使用期間中の地震等による破損、劣化等に起因する気密性の低下を防止、又は低減することができる。
【0051】
以上の実施形態例は本発明の好ましい実例を述べたもので、本明細書に示された空気貯蔵部の空間容積利用効率を向上させる方法の適用はこれらの例に限定されるものではない。従って、本発明による圧縮空気貯蔵部の空間容積の効率的な利用法としては、他のCAES法との組み合わせも可能である。
【0052】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法は、空気を圧縮して容器の内部が緩衝ガスで満たされた空間とは異なった部分空間に圧縮空気を蓄え、同時に緩衝ガスを体積が縮減した流体に変化させて貯蔵する圧縮空気量を増加させ、次いでこの縮減流体を気化させて緩衝ガスとして復元させることによって、容器の内部に残存する圧縮空気量を減少させる作動を有している。空気の圧縮工程先立つ膨張工程の終了時までに空気貯蔵部を緩衝ガスで満たすことによって、この部分に残っている空気の空間を緩衝ガスの空間で置換して排除することができる。続く圧縮工程では、空気の蓄圧によって空気貯蔵部に導入された緩衝ガスも圧縮されてその体積が減少し、このガスを冷却すればその体積が一層減少した流体となる。この結果、圧縮工程では膨張工程での残存空気の影響を受けることなく空気貯蔵空間が拡大され、ここに新たに加わる空気量の増大が可能となる。このガスを臨界圧力以下で冷却すれば液体となるが、臨界圧力を超えた圧力条件で冷却すれば液体への相転移を経ずに体積が減少した流体となる。ここでは、冷却された液体と超臨界流体の双方を体積が縮減した流体と総称した。この流体を加熱して圧縮工程開始時の緩衝ガスの状態に復元すれば、上述のように空気貯蔵部に蓄えられた空気を置換して排除でき、空気貯蔵部空間を有効利用できる。しかし、作動ガスとしての空気と緩衝ガスの混合が起こると、膨張工程で系内から空気とともに緩衝ガスも同時に排出する問題が発生する。そこで本発明では、空気貯蔵部内に緩衝ガスと空気を仕切るフィルム面を配置することによって部分的な空間を形成するとともに双方間の混合を防ぎ、空気を系外へ選択的に排出させることにした。このようにして空気貯蔵部空間の容積利用効率が向上し、正味の貯蔵空気量を増加させることができる。したがって、経済的なCAES法を提供することができる。
【0053】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法の空気貯蔵部において利用する緩衝ガスは、二酸化炭素単一、または二酸化炭素を主成分とする混合物を用いることが望ましい。
【0054】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法の空気貯蔵部において利用する緩衝ガスは、二酸化炭素単一、または二酸化炭素を主成分とする混合物を用いている。二酸化炭素は圧縮および膨張それぞれの工程で空気より密度変化が大きいので、空気貯蔵部内で高い緩衝効果が得られる。そのため、空気貯蔵部空間の容積利用効率の著しい向上が可能となる。したがって、経済的なCAES法を提供することができる。
【0055】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法における緩衝ガスの圧力範囲について、膨張工程における最低圧力は緩衝ガスの臨界圧力以下の範囲で使用され、圧縮工程における最高圧力は緩衝ガスの臨界圧力の90%以上で使用されることが好ましい。
【0056】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法で用いる緩衝ガスの圧力範囲について、膨張工程における最低圧力は緩衝ガスの臨界圧力以下の範囲で使用され、圧縮工程における最高圧力は緩衝ガスの臨界圧力の90%以上で使用される。一般に、いずれの物質でも臨界点近傍あるいはそれ以上の圧力条件下では、圧力の僅かな変化によって密度が急激に変化する。一般的に臨界圧力の90%を超える圧力条件下では密度の急変が見られる。緩衝ガスとして二酸化炭素を用いる場合、この物質の臨界点近傍で圧力変化に対してこのガスの密度の変化は次のようになる。圧力が5(MPa)、温度が40(℃)の時の二酸化炭素の密度はおよそ120(kg/m3)となる。同一温度のまま、二酸化炭素の圧力を臨界圧力の7.4(MPa)を超えて9(MPa)にすると、その密度は約4倍の480(kg/m3)となる。このように二酸化炭素は、臨界圧力以下から臨界圧力近傍またはそれを超える圧力に変化させることで急激な密度変化を起こす。そのため、このような条件では高い緩衝効果が得られる。したがって、経済的なCAES法を提供することができる。
【0057】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法は、圧縮工程で空気の圧縮によって発生する圧縮熱を貯蔵し、膨張工程では貯蔵された圧縮熱を空気の加熱、及び緩衝ガスの加熱の少なくとも何れか一方に利用することが好ましい。
【0058】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法は、圧縮工程で発生する圧縮熱を貯蔵し、膨張工程では貯蔵された圧縮熱を空気の加熱、及び緩衝ガスの加熱の少なくとも何れか一方に利用する。圧縮工程で発生する圧縮熱を回収・貯蔵し、この圧縮熱を膨張工程における圧縮空気の加熱に利用するとともに、緩衝ガスを冷却して体積が縮減した流体の加熱源としても利用している。そのため、エネルギー利用効率を向上させることが可能であるとともに、緩衝ガスの加熱に必要な熱エネルギーを外部に求めることが不要、又は低減することができる。したがって、経済的なCAES法を提供することができる。
【0059】
上記は圧力に対する密度変化の例であるが、圧力の変化に加えて本発明では緩衝ガスの冷却および加熱に伴う温度変化による密度変化を併せて利用している。従って、本発明では圧力と温度の双方が密度変化に寄与し、一層の緩衝効果の向上が可能となる。
【0060】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法は、圧縮熱を貯蔵する熱貯蔵工程を有し、熱貯蔵工程は少なくとも水により圧縮熱を吸熱させ、吸熱させた水をタンクで貯蔵する工程を含んでいることが好ましい。
【0061】
本発明の圧縮空気エネルギー貯蔵法は、圧縮熱を貯蔵する熱貯蔵工程を有し、熱貯蔵工程は少なくとも水により圧縮熱を吸熱させ、吸熱させた水をタンクで貯蔵する工程を含んでいる。そのため、圧縮熱を無駄に排出することなく、加熱に利用することができる。したがって、経済的なCAES法を提供することができる。
【0062】
本発明によれば、CAES設備において鋼管製若しくは鋼製の容器より成る空気貯蔵部に作動ガスとしての空気に加えて緩衝ガスを介在させることによって、空気の圧縮工程では貯蔵空気量を増加させ、空気の膨張工程では空気貯蔵部での残存空気量を減少させることができる。この結果、空気貯蔵部での空気貯蔵量が増加し、貯蔵空間の容積が有効に利用できるようになる。鋼管を含む鋼製の容器より成る空気貯蔵部の設備コストは高額となるが、この部分の容積利用効率の向上によって上記の空気貯蔵容器を備えたCAES方式の設備コストが低減可能となる。
【0063】
鋼管などの鋼製の容器より成る空気貯蔵部は地上設置用として好都合であり、この部分のコスト低減は経済的な地上置きCAES法の実現に寄与できる。CAES設備を地上に設置できれば、従来のように地層などの立地条件の制約を受けることなく設備の設置場所を選ぶことが可能となる。
【0064】
以上の実施例によって得られる特長の1つは、緩衝ガスを用いることによって圧縮空気の貯蔵部空間の容積を最大限に有効利用できる点にある。鋼管を含む鋼製の容器に圧縮空気を貯蔵する方法では、空気貯蔵部の設備コストが高額となることが問題であったが、緩衝ガスを用いる本発明によって解決され、地上に設置するCAES設備のコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0065】
10, 11 空気
20 ,21 燃料
30, 31, 32, 33 冷却水
110 モーター
120 低圧圧縮機
121, 221 シャフト
130 高圧圧縮機
140, 150 アフタークーラー
151, 331, 341 3方弁
160 蓄熱槽
210 発電機
220 低圧膨張機
230 高圧膨脹機
240, 250 燃焼器
260 再生熱交換器
300 空気貯蔵部
301 (圧縮空気貯蔵用)容器
310 緩衝ガス貯蔵部
311 (緩衝ガス貯蔵用)容器
320 熱交換器
330 高温水タンク
340 低温水タンク