IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの特許一覧

特開2023-172946高粘度ベースフルードとしてのアクリレート-オレフィンコポリマー
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172946
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】高粘度ベースフルードとしてのアクリレート-オレフィンコポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/28 20060101AFI20231129BHJP
   C10M 145/14 20060101ALI20231129BHJP
   C10M 145/16 20060101ALI20231129BHJP
   C10M 149/06 20060101ALI20231129BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20231129BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20231129BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20231129BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20231129BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20231129BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231129BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C08F220/28
C10M145/14
C10M145/16
C10M149/06
C10N20:04
C10N50:10
C10N40:25
C10N40:04
C10N40:08
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N30:00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084521
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】22174980
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エミリー クレア シュヴァイシンガー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン カール マイアー
(72)【発明者】
【氏名】カーチャ ノートドゥアフト
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンヌ グロス-オヌブリンク
(72)【発明者】
【氏名】ディーター ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー プレッチュ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヒルフ
(72)【発明者】
【氏名】デニース クラインシュミット
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン バビク
【テーマコード(参考)】
4H104
4J100
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104CB08C
4H104CB09C
4H104CE03C
4H104DA02A
4H104EA03C
4H104LA01
4H104LA11
4H104LA20
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA05
4H104PA41
4H104QA18
4J100AA16Q
4J100AA16R
4J100AA16S
4J100AL03P
4J100AL04P
4J100AL04Q
4J100AL05Q
4J100AL05R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA06
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA09
(57)【要約】
【課題】潤滑油組成物中で、油溶解度および成分溶解度、ならびに低温性能にプラス影響を有する、高せん断安定な合成ベースフルードまたは潤滑油添加剤を提供する。
【解決手段】短いオレフィンを特定のアクリレートモノマーと組み合わせるモノマー組成物から得られるアクリレート-オレフィンコポリマーが、より低いポリマー処理率で市販の潤滑剤配合物の厳しい低温要件を、他の性能パラメーターを妥協することなく、満たすことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コポリマーであって、
a)前記コポリマーの全重量を基準として、70~95重量%の、式(I)
【化1】
[式中、Rは、炭素原子4~18個を有する線状または分岐状のアルキル基を意味し、かつC線状アルキル基、C~C10線状アルキル基、C~C18分岐状アルキル基、C11~C18線状アルキル基またはそれらの混合物からなる群から選択される]のアクリレートに由来するモノマー単位と、
ここで、前記の式(I)のアクリレートに由来するモノマー単位が、前記コポリマーの全重量を基準として、0~45重量%の、RがC線状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~95重量%の、RがC~C10線状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~95重量%の、RがC~C18分岐状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~45重量%の、RがC11~C18線状アルキル基である式(I)のアクリレート、またはそれらの混合物から選択され、
b)前記コポリマーの全重量を基準として、5~30重量%の、式(II)
【化2】
[式中、Rは、炭素原子2~4個を有する線状アルキル基を意味する]の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位と
を含み、
かつ前記コポリマーが、DIN 55672-1に従って5000~35000g/molの重量平均分子量を有する、前記コポリマー。
【請求項2】
前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、75~95重量%、好ましくは80~95重量%の、式(I)のアクリレートモノマーに由来するモノマー単位a)を含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、5~25重量%、好ましくは5~20重量%の、式(II)の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位b)を含む、請求項1または2に記載のコポリマー。
【請求項4】
前記コポリマーが、ASTM D 445に従って100℃で100~1000mm/s、好ましくはASTM D 445に従って100℃で100~700mm/s、より好ましくはASTM D 445に従って100℃で100~500mm/sの動粘度を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項5】
前記の式(II)の非官能化α-オレフィンb)が、ブテン、ヘキセンまたはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項6】
前記のRがC線状アルキル基である式(I)のアクリレートの量が、前記コポリマーの全重量を基準として、0~40重量%、好ましくは0~30重量%である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項7】
前記の式(I)のアクリレートa)が、ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-プロピルヘプチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から6までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項8】
前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、0~20重量%、好ましくは0~10重量%の、メタクリルアミド、フマレート、マレエートおよびアクリレートa)以外の(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物からなるリストから選択される、モノマーc)に由来するモノマー単位を含む、請求項1から7までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項9】
前記コポリマー中のモノマーa)およびb)に由来するモノマー単位の全量は、前記コポリマーの全重量を基準として、合計80重量%以上、好ましくは合計90重量%以上になる、請求項1から8までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項10】
前記コポリマー中のモノマーa)、b)およびc)に由来するモノマー単位の全量が、前記コポリマーの全重量を基準として、合計90重量%以上、好ましくは合計95重量%以上、より好ましくは合計100重量%になる、請求項8または9に記載のコポリマー。
【請求項11】
前記コポリマーが、DIN 55672-1に従って、7000~25000g/mol、好ましくは10000~25000g/molの重量平均分子量を有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項12】
前記コポリマーが、1.0~3.5、好ましくは1.5~3.0の多分散指数を有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載のコポリマー。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に定義されるコポリマーの製造方法であって、前記方法が、以下の工程:
i)モノマー組成物を用意する工程、
ii)前記モノマー組成物中でラジカル重合を開始させて前記コポリマーを得る工程
を含む、前記方法。
【請求項14】
1種以上の基油と、請求項1から12までのいずれか1項に記載の少なくとも1種のコポリマーとを含む、潤滑剤組成物。
【請求項15】
潤滑油組成物における、好ましくはギヤ油組成物、変速機油組成物、作動油組成物、エンジン油組成物、船舶用油組成物、工業用潤滑油組成物またはグリースにおける、潤滑剤添加剤または合成ベースフルードとしての、請求項1から12までのいずれか1項に定義されるコポリマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリレート-オレフィンコポリマーおよびこれらのコポリマーの製造方法に関する。本発明は、上記のコポリマーを含む潤滑剤組成物、ならびに潤滑油組成物における、好ましくはギヤ油組成物、変速機油組成物、作動油組成物、エンジン油組成物、船舶用油組成物、工業用潤滑油組成物またはグリースにおける、潤滑剤添加剤または合成ベースフルードとしての前記コポリマーの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、潤滑の分野に関する。潤滑剤は、表面間の摩擦を減少させる組成物である。2つの表面間の運動の自由を与え、かつ前記表面の機械的摩耗を減少させることに加えて、潤滑剤は、前記表面の腐食も抑制し、および/または熱または酸化による前記表面の損傷を抑制しうる。潤滑剤組成物の例は、エンジン油、変速機油、ギヤ油、工業用潤滑油、グリースおよび金属加工油を含むが、これらに限定されない。
【0003】
潤滑剤は典型的には、ベースフルードと、可変量の添加剤とを含有する。従来のベースフルードは、炭化水素、例えば鉱油である。専門用語の基油またはベースフルードは、普通、同義に使用される。ここでは、ベースフルードは一般用語として使用される。
【0004】
前記潤滑剤の意図される使用に応じて、多種多様な添加剤を前記ベースフルードと組み合わせることができる。潤滑剤添加剤の例は、粘度指数向上剤、増粘剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、分散剤、極圧添加剤、消泡剤および金属不活性化剤を含むが、これらに限定されない。
【0005】
典型的な非ポリマーベースフルードは、低粘度であり、かつより高い操作温度では粘度がさらに減少するために、潤滑剤としてあまり有効ではない。したがって、基油を増粘し、かつ温度の変化に伴う粘度の変化を低下させるために、ポリマー添加剤が使用される。粘度指数(VI)という用語は、温度に伴う粘度のこの変化を記載するために使用される。そのVIが低ければ低いほど、温度に伴う粘度の変化はますます大きくなり、その逆も同様である。したがって、高VIは潤滑剤配合物にとって望ましい。VIを改善するために、ポリマー添加剤または粘度指数向上剤(VII)が潤滑剤配合物に添加されうる。
【0006】
アルキルアクリレートがVI向上剤用途において推奨されず、かつ市販のVI向上剤がメタクリレートをベースとしていることは、当該技術分野において周知である。文献(Rashad et al. J. of Petr. Sci. and Engineering 2012, 173-177;Evin et al. J. of Sol. Chem 1994, 325-338)および特許(国際公開第96/17517号(WO96/17517))が存在する一方で、VI向上剤としてのポリアクリレートの性能が、ポリメタクリレートの性能よりも劣ることは一般に公知である。殊に国際公開第96/17517号には、ポリ(アルキルアクリレート)エステルが典型的には、作動液において使用される場合に粘度への温度の影響を十分に低下させることができないことが、予期せずに見出されたことが記載されている。
【0007】
ポリマー添加剤を潤滑剤配合物に添加する欠点は、前記ポリマー添加剤がせん断応力を受け、かつ経時的に機械的に劣化することである。より高分子量のポリマーは、より良好な増粘剤であるが、しかし、せん断応力をより受けやすく、このことはポリマー劣化をまねく。ポリマー劣化量を減少させるために、ポリマーの分子量を低下させることができ、それによって、よりせん断安定なポリマーが得られる。これらのせん断安定な低分子量ポリマーは、もはや極めて有効な増粘剤ではなく、所望の粘度に達するために、潤滑剤中でより高い濃度で使用しなければならない。これらの低分子量ポリマーは典型的に、20000g/mol未満の分子量を有し、かつ合成高粘度ベースフルードとも呼ばれる。高粘度ベースフルードは、VIを上昇させるため、かつ厳しいせん断安定性の要件を有する潤滑剤配合物を増粘するために、使用される。典型的な用途は、高い機械的応力および操作中の幅広い温度範囲のために極めて厳しい要件を有するギヤ油である。
【0008】
この市場における典型的な製品は、高粘度ポリアルファオレフィン(PAO)およびメタロセンポリアルファオレフィン(mPAO)であり、典型的には100℃で40~300cStの粘度範囲内で販売されており(Choudary et al. Lubr. Sci. 2012, 23-44)、それらの鍵となる特徴は、粘度に関して良好な取扱い特性である。なぜなら、これらのベースフルードは、実際にはポリマーであり、かつ改善された粘度指数を備えているからである。しかしながら、前記PAO基油、DIパッケージおよび老化した製品の無極性の性質は欠点である。なぜなら、この低い極性の特性は、その後に問題を引き起こすことがある、油への低い溶解度をまねくことがあるからである。
【0009】
より高い極性は、α-オレフィンとマレエートとのコポリマー(西独国特許出願公開第3223694号明細書(DE3223694))、α-オレフィンおよびアクリレートのコポリマー(西独国特許出願公開第2243064号明細書(DE2243064))、α-オレフィンおよびメタクリレートのコポリマー(欧州特許出願公開第0471266号明細書(EP0471266))または上記のモノマーをベースとするターポリマー(国際公開第2020/078770号(WO2020/078770))により提供されることがすでに記載されている。あるいは、油適合性ポリエステル(国際公開第01/46350号(WO01/46350))、ポリアルキル(メタ)アクリレート(独国特許出願公開第102010028195号明細書(DE102010028195))またはポリビニルエーテル(米国特許出願公開第2013/0165360号明細書(US2013/0165360))を適用することができる。極性の高粘度ベースフルードが使用される場合の大きな利点は、極性の低粘稠フルード、例えばエステルが、前記の極性の潤滑剤添加剤用の相溶化剤として使用される必要がないことである。極性の低粘稠フルードは、コーティングおよびシールとの問題を生じさせることが公知であるが、これは高粘度フルードについてはそれほど争点にならない。
【0010】
種々の(メタ)アクリレートとオレフィンとのコポリマーは、工業用ギヤ油における用途に適したベースフルードとして報告されている。例えば、国際公開第2020/088770号(WO2020/088770)には、工業用ギヤ油配合物において使用される(メタ)アクリレート、オレフィンおよびマレエートから製造されたターポリマーが記載されているが、しかし全ての例がドデセンをベースとしている。さらに、国際公開第2020/200866号(WO2020/200866)および国際公開第2019/175300号(WO2019/175300)には、アルキル(メタ)アクリレートとエチレンとのコポリマー、および潤滑剤におけるそれらの使用が記載されている。しかしながら、前記コポリマーが、配合物中で優秀な基油と混合される場合でさえも、報告された低温特性(流動点が全て-40℃を上回る)は、潤滑剤配合物の市場要件を満たすためにさらなる改善を必要とする。
【0011】
米国特許第6066603号明細書(US6066603)には、エチレンおよびC3~C20α-オレフィン、例えばプロピレンおよび1-ブテンを含む、1種以上のオレフィンと、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、メチルエタクリレート、エチルメタクリレート、エチルエタクリレート、メチルビニルケトンおよびアクリルアミドからなる群から選択される、少なくとも1種の極性モノマーとに由来する、高分岐状コポリマーが開示されている。極めて少量の極性モノマーが前記ポリマー中に組み込まれる(ポリマーの各1000Mnセグメントにつき最大1つの極性部分)。前記極性モノマーは、分岐の末端基となり、かつさらなる官能化の可能性を与える。前記ポリマーを燃料または潤滑剤添加剤として使用できることは記載されているが、しかし潤滑剤組成物の具体例は、前記特許において提供されていない。
【0012】
ワックス改質用のオレフィン-アクリレートコポリマーは、米国特許出願公開第2015/0307697号明細書(US2015/0307697)にも記載されている。前記オレフィン-(メタ)アクリレート組成物は、前記(メタ)アクリレートのヒドロカルボニル基または前記α-オレフィンのいずれかまたは双方が、炭素原子16個超かつ50個までを含むように設計される。この中で、長いワックス様の側鎖が含まれるが、結晶化作用のために高粘度ベースストックにおいて望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第96/17517号
【特許文献2】西独国特許出願公開第3223694号明細書
【特許文献3】西独国特許出願公開第2243064号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0471266号明細書
【特許文献5】国際公開第2020/078770号
【特許文献6】国際公開第01/46350号
【特許文献7】独国特許出願公開第102010028195号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2013/0165360号明細書
【特許文献9】国際公開第2020/088770号
【特許文献10】国際公開第2020/200866号
【特許文献11】国際公開第2019/175300号
【特許文献12】米国特許第6066603号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2015/0307697号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Rashad et al. J. of Petr. Sci. and Engineering 2012, 173-177
【非特許文献2】Evin et al. J. of Sol. Chem 1994, 325-338
【非特許文献3】Choudary et al. Lubr. Sci. 2012, 23-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の課題は、潤滑油組成物中で、油溶解度および成分溶解度、ならびに低温性能にプラスの影響を有する、高せん断安定な合成ベースフルードまたは潤滑油添加剤を提供することであった。さらに、前記の新規なポリマーは、油を所望の粘度に増粘できるべきである。これらの高せん断安定なコポリマーは、温度と共に粘度が変化する作用を低下させるために高い粘度指数も有するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の発明者は、請求項1に定義されるとおり、短いオレフィンを特定のアクリレートモノマーと組み合わせるモノマー組成物から得られるアクリレート-オレフィンコポリマーが、他の性能パラメーターを妥協することなく、より低いポリマー処理率で市販の潤滑剤配合物の厳しい低温要件を満たすことができることを驚くべきことに見出した。この処理率の利点は、前記解決策を商業的により魅力的にする。本発明の実験の部において実証されたとおり、請求項1に定義されるとおりのアクリレートモノマーと、短鎖C~Cα-オレフィンとの特定の重量比の組合せが、高いVIと良好な低温特性との組合せを達成するのに決定的であることが見出されたが、このことは予期されていなかった。
【0017】
それに応じて、本発明の第1の態様は、請求項1およびその従属請求項に定義されるとおりのアクリレート-オレフィンコポリマーである。
【0018】
本発明の第2の態様は、本発明によるアクリレート-オレフィンコポリマーを製造する方法である。
【0019】
本発明の第3の態様は、少なくとも1種の基油と、本発明による少なくとも1種のアクリレート-オレフィンコポリマーとを含む、潤滑剤組成物である。
【0020】
本発明の第4の態様は、潤滑油組成物における、好ましくはギヤ油組成物、変速機油組成物、作動油組成物、エンジン油組成物、船舶用油組成物、工業用潤滑油組成物またはグリースにおける、潤滑剤添加剤または合成ベースフルードとしてのこれらのアクリレート-オレフィンコポリマーの使用である。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明によるコポリマー
本発明は、コポリマーに関するものであって、前記コポリマーは、
a)前記コポリマーの全重量を基準として、70~95重量%の、式(I)
【化1】
[式中、Rは、炭素原子4~18個を有する線状または分岐状のアルキル基を意味し、かつC線状アルキル基、C~C10線状アルキル基、C~C18分岐状アルキル基、C11~C18線状アルキル基またはそれらの混合物からなる群から選択される]のアクリレートに由来するモノマー単位と、
ここで、式(I)のアクリレートに由来するモノマー単位が、前記コポリマーの全重量を基準として、
0~45重量%の、RがC線状アルキル基である式(I)のアクリレート、
0~95重量%の、RがC~C10線状アルキル基である式(I)のアクリレート、
0~95重量%の、RがC~C18分岐状アルキル基である式(I)のアクリレート、
0~45重量%の、RがC11~C18線状アルキル基である式(I)のアクリレート、または
それらの混合物
から選択され、
b)前記コポリマーの全重量を基準として、5~30重量%の、式(II)
【化2】
[式中、Rは、炭素原子2~4個を有する線状アルキル基を意味する]の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位と
を含み、かつ前記コポリマーは、DIN 55672-1に従って5000~35000g/molの重量平均分子量を有する。
【0022】
用語「ポリマー」および「コポリマー」は、本発明によるコポリマーを定義するのに同義に使用される。
【0023】
本発明によれば、本発明のコポリマーは、前記コポリマーの全重量を基準として、70~95重量%の、式(I)のアクリレートモノマーに由来するモノマー単位a)を含む。本発明の一態様によれば、前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、75~95重量%、より好ましくは80~95重量%の、式(I)のアクリレートモノマーに由来するモノマー単位a)を含むことが好ましい。
【0024】
式(I)のアクリレートa)は、アクリル酸と、炭素原子4~18個を有する直鎖状または分岐状のアルコールとのエステルをいう。この用語は、特定の長さのアルコールとの個々のアクリル酸エステル、および同様に異なる長さのアルコールとのアクリル酸エステルの混合物を含む。式(I)のアクリレートa)は、C線状アルキル基、C~C10線状アルキル基、C~C18分岐状アルキル基、C11~C18線状アルキル基を有するアクリレートまたはそれらの混合物からなる群から選択される。式(I)のアクリレートに由来するモノマー単位は、前記コポリマーの全重量を基準として、0~45重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは0~30重量%の、RがC線状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~95重量%の、RがC~C10線状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~95重量%の、RがC~C18分岐状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~45重量%の、RがC11~C18線状アルキル基である式(I)のアクリレート、またはそれらの混合物から選択される。
【0025】
がC線状アルキル基である式(I)のアクリレートa)は、ブチルアクリレートに相当する。
【0026】
がC~C10線状アルキル基である式(I)の最も好ましいアクリレートa)は、n-オクチルアクリレートである。
【0027】
がC~C18分岐状アルキル基である式(I)の最も好ましいアクリレートa)は、2-エチルヘキシルアクリレート、2-プロピルヘプチルアクリレート、イソノニルアクリレート、またはそれらの混合物である。
【0028】
がC11~C18線状アルキル基である式(I)の最も好ましいアクリレートa)は、ラウリルアクリレートである。
【0029】
式(I)の特に好ましいアクリレートa)は、ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-プロピルヘプチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0030】
本発明によれば、本発明のコポリマーは、前記コポリマーの全重量を基準として、5~30重量%の、式(II)の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位を含み、ここで、Rは、炭素原子2~4個を有する線状アルキル基を意味する。本発明の一態様によれば、前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、5~25重量%、より好ましくは5~20重量%の、式(II)の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位b)を含むことが好ましい。
【0031】
式(II)の最も好ましい非官能化α-オレフィンb)は、ブテン、ヘキセンまたはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
本発明の別の態様によれば、前記コポリマーが、ASTM D 445に従って100℃で100~1000mm/s、より好ましくはASTM D 445に従って100℃で100~700mm/s、よりいっそう好ましくはASTM D 445に従って100℃で100~500mm/sの動粘度を有することが好ましい。
【0033】
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明のコポリマー中のモノマーa)およびb)に由来するモノマー単位の全含有率は、前記コポリマーの全重量を基準として、合計80重量%以上、より好ましくは合計90重量%以上、よりいっそう好ましくは合計95重量%以上、最も好ましくは合計98重量%以上、最も好ましくは合計100重量%になる。
【0034】
本発明によれば、前記コポリマーは、DIN 55672-1に従って、5000~35000g/mol、好ましくは7000~25000g/mol、より好ましくは8000~25000g/mol、よりいっそう好ましくは10000~25000g/molの重量平均分子量を有する。
【0035】
本発明において、前記コポリマーの重量平均分子量(M)または数平均分子量(M)を、DIN 55672-1に従ってPMMA校正標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により以下の測定条件を用いて決定した:
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
操作温度:35℃
カラム:このカラムセットは、4本のカラム:SDV 106Åカラム2本、SDV 104Åカラム1本およびSDV 103Åカラム1本(PSS Standards Service GmbH、マインツ、ドイツ)からなり、全てが、300×8mmのサイズおよび10μmの平均粒度を有する
流量:1mL/min
注入体積:100μL
機器:オートサンプラー、ポンプおよびカラムオーブンからなるAgilent 1100シリーズ
検出装置:Agilent 1100シリーズからの屈折率検出器。
【0036】
好ましくは、本発明のコポリマーは、極めて低い架橋度および狭い分子量分布を有し、これはさらにせん断抵抗に寄与する。前記の低い架橋度および前記の狭い分子量は、前記コポリマーの多分散指数に反映される。好ましくは、本発明によるコポリマーの多分散指数(PDI)は、1.0~3.5の範囲内、より好ましくは1.5~3.0の前記範囲内である。1.0~3.5の範囲内の多分散指数は、前記コポリマーのせん断抵抗に関してたいていの工業的用途に最適であるとみなされる。前記多分散指数は、重量平均分子量の、数平均分子量に対する比(M/M)として定義される。
【0037】
本発明のコポリマーは任意に、メタクリルアミド、フマレート、マレエート、アクリレートa)以外の(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物からなるリストから選択される、モノマーc)に由来するモノマー単位を含む。好ましくは、生じた本発明のコポリマー中のモノマーc)に由来するモノマー単位の量は、前記コポリマーの全重量を基準として、0~20重量%、より好ましくは0~10重量%、よりいっそう好ましくは0.1~5重量%、最も好ましくは0.5~3重量%である。特に好ましいモノマーc)は、ジ-2-エチルヘキシルマレエート、N-3-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジ-2-エチルヘキシルフマレートまたはそれらの混合物である。
【0038】
用語「(メタ)アクリレート」は、アクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステルまたはアクリル酸およびメタクリル酸のエステルの混合物をいう。
【0039】
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明のコポリマー中のモノマーa)、b)およびc)に由来するモノマー単位の全含有率は、前記コポリマーの全重量を基準として、合計90重量%以上、より好ましくは合計95重量%以上、よりいっそう好ましくは合計98重量%以上、最も好ましくは合計100重量%になる。
【0040】
本発明によれば、前記コポリマーは、統計コポリマーであり、ここで、前記モノマー単位a)、b)および任意にc)は、前記コポリマー中でランダムに、時には偏って分布している。
【0041】
驚くべきことに、前記コポリマーにおける式(I)のモノマー単位a)と、式(II)の短鎖α-オレフィンモノマー単位b)との前記の組合せが、潤滑油配合物における添加剤またはベースフルードとして使用される場合に優れた特性を有するコポリマーを製造できることが観察された。本発明の実験の部に示されるように、短いオレフィンを特定のアクリレートモノマーと組み合わせるモノマー組成物から得られた本発明のアクリレート-オレフィンコポリマーは、低いポリマー処理率ですら、他の性能パラメーターに関して妥協することなく、市販の潤滑剤配合物の厳しい低温要件を満たす。思いがけないことに、請求項1に定義されるとおりのアクリレートモノマーと、短鎖C~Cα-オレフィンとの特定の重量比の組合せが、高いVIと良好な低温特性との組合せを達成するのに決定的であることも見出された。
【0042】
本発明の好ましいコポリマー
本発明の好ましい態様によれば、前記コポリマーは、
a)前記コポリマーの全重量を基準として、70~95重量%の、式(I)
【化3】
[式中、Rは、炭素原子4~18個を有する線状または分岐状のアルキル基を意味する]のアクリレートに由来するモノマー単位と、
ここで、式(I)のアクリレートに由来するモノマー単位が、前記コポリマーの全重量を基準として、
0~30重量%のブチルアクリレート、
0~95重量%のn-オクチルアクリレート、
0~95重量%の、2-エチルヘキシルアクリレート、2-プロピルヘプチルアクリレート、イソノニルアクリレートまたはそれらの混合物、および
0~45重量%のラウリルアクリレート
またはそれらの混合物
から選択され、
b)前記コポリマーの全重量を基準として、5~30重量%の、式(II)
【化4】
[式中、Rは、炭素原子2~4個を有する線状アルキル基を意味する]の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位と、
c)前記コポリマーの全重量を基準として、0~10重量%の、メタクリルアミド、フマレート、マレエート、アクリレートa)以外の(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物からなるリストから選択される、モノマー単位と
を含み、
かつ前記コポリマーは、DIN 55672-1に従って、5000~35000g/mol、好ましくは7000~25000g/mol、よりいっそう好ましくは8000~25000g/mol、最も好ましくは10000~25000g/molの重量平均分子量を有する。
【0043】
好ましい実施態様によれば、モノマーa)、b)およびc)のモノマー単位の全含有率は、前記コポリマーの全重量を基準として、合計95重量%以上、より好ましくは合計98重量%以上、よりいっそう好ましくは合計100重量%になる。
【0044】
本発明によるコポリマーを製造する方法
本発明によれば、上記のポリマーは、以下の工程を含む方法に従って製造される:
i)上記のモノマー組成物を用意する工程、および
ii)前記モノマー組成物中でラジカル重合を開始させる工程。
【0045】
標準のフリーラジカル重合は、とりわけ、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版に詳述されている。一般に、重合開始剤および任意に連鎖移動剤がこのために使用される。
【0046】
前記重合工程(ii)は、標準圧力、減圧または高めた圧力下で実施することができる。好ましくは、前記重合は、標準圧力から50barまで、好ましくは標準圧力から40barまでの圧力範囲で実施される。本発明に関連して、用語「標準圧力」は、加えた圧力ではなく、周囲圧力または大気圧を意味する。
【0047】
オレフィンとアクリレートとのラジカル共重合のためには、その重合温度は決定的である。一般に、その共重合温度は、110~160℃、好ましくは120~140℃の範囲内である。
【0048】
前記重合工程ii)は、油または任意の溶剤中に希釈してまたは希釈せずに実施することができる。好ましくは、前記重合工程(ii)は、油または任意の溶剤中に希釈せずに行われる。
【0049】
好ましくは、工程(ii)は、ラジカル開始剤の添加を含む。好ましくは、前記ラジカル開始剤は、ジ-tert-アミルペルオキシド、2,2-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ジ-tert-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンまたはジ-tert-ブチルペルオキシドから選択される。好ましくは、前記モノマー混合物の全重量に対するラジカル開始剤の全量は、0.01~5重量%、より好ましくは0.1~1重量%である。好ましくは、ラジカル開始剤の全量が、前記共重合反応(ii)中に連続的に添加される。
【0050】
好ましくは、前記共重合工程(ii)は、前記アクリレートモノマーa)、および任意に前記モノマーc)または他の任意のコモノマーを、前記開始剤と一緒に前記非官能化α-オレフィンモノマーb)に供給することにより行われる。好ましくは、前記ラジカル重合の全反応時間は、2~5時間、より好ましくは2~4時間、最も好ましくは3時間である。
【0051】
本発明の別の好ましい態様において、前記未反応α-オレフィンモノマーb)を除去するための蒸留工程に相当する、第3工程iii)が任意に実施される。好ましくは、残存する未反応α-オレフィンモノマーb)は、130℃および最低15mbarの圧力でロータリーエバポレーターを用いる蒸留により除去される。
【0052】
潤滑油組成物
上記に示されたように、本発明は、少なくとも1種の基油と、本発明において定義されるとおりの少なくとも1種のコポリマーとを含む、潤滑油組成物にも関する。
【0053】
前記基油は、それらの使用に適合された/意図される使用に応じて選択された潤滑剤基油、鉱油、合成油または天然油、動物油または植物油に相当する。
【0054】
本発明による潤滑油組成物の配合において使用される基油は、例えば、グループI、グループII、グループIII、グループIVおよびグループVとして公知のAPI(American Petroleum Institute)ベースストックカテゴリーから選択される従来のベースストックを含む。前記のグループIおよびIIベースストックは、120未満の粘度指数(またはVI)を有する鉱油材料(例えばパラフィン系およびナフテン系油)である。グループIはさらに、グループIIとは、後者が90%以上の飽和材料を含有し、かつ前者が90%未満の飽和材料を含有する(すなわち10%以上の不飽和材料である)点で区別される。グループIIIは、120以上のVIおよび90%以上の飽和分レベルを有する最高レベルの鉱物基油とみなされる。グループIV基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループV基油は、エステルと、グループI~IV基油に含まれない他の全ての基油とである。これらの基油は、個々にまたは混合物として使用することができる。
【0055】
好ましくは、本発明の潤滑油組成物中に含まれる基油は、APIグループII基油、APIグループIII基油またはそれらの混合物からなる群から選択される。最も好ましくは、前記潤滑剤組成物は、APIグループIII基油またはそれらの混合物を含む。
【0056】
本発明の好ましい実施態様において、前記潤滑油組成物は、前記潤滑組成物の全重量を基準として、0.1~99.9重量%、好ましくは1~95重量%の、少なくとも1種の基油と、0.1~99.9重量%、好ましくは5重量%~99重量%の、本発明による少なくとも1種のコポリマーとを含む。
【0057】
本発明による潤滑油組成物は、前記配合物における使用に適した他の任意の追加の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、追加の粘度指数向上剤、流動点降下剤、分散剤、抗乳化剤、消泡剤、潤滑性添加剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、清浄剤、色素、腐食抑制剤および/または付臭剤を含む。
【0058】
本発明のコポリマーの用途
本発明は、潤滑油組成物における、好ましくはギヤ油組成物、変速機油組成物、作動油組成物、エンジン油組成物、船舶用油組成物、工業用潤滑油組成物またはグリースにおける、潤滑剤添加剤または合成ベースフルードとしての本発明によるコポリマーの使用にも関する。
【0059】
実験の部
本発明は、以下に、例および比較例を参照して詳細にさらに説明されるが、本発明の範囲を限定することを何ら意図するものではない。以下の表に示されたモノマーまたはベースフルードに関連する全てのパーセンテージは、重量パーセンテージ(wt%)である。
【0060】
省略形
Anglamol 6043 添加剤パッケージ
BA ブチルアクリレート
But 1-ブテン
BF-40 ASTM D2983に従って-40℃で測定されるブルックフィールド粘度
BV 体積粘度
BV100 ASTM D445に従う100℃での体積粘度
Acr Cアルキルアクリレート
Acr C線状アルキルアクリレート
~C10 Acr C~C10線状アルキルアクリレート
~C18 b-Acr C~C18分岐状アルキルアクリレート
11~C18 Acr C11~C18線状アルキルアクリレート
cSt SI単位におけるmm/sに相当するセンチストークス
cP SI単位におけるmPa・sに相当するセンチポアズ
DAPO ジ-tert-アミルペルオキシド
DBPO ジ-tert-ブチルペルオキシド
Dec 1-デセン
EA エチルアクリレート
EHA 2-エチルヘキシルアクリレート
Hex 1-ヘキセン
INA イソノニルアクリレート
Ini 開始剤
KRL CEC L-45-A-99に従う円すいころ軸受せん断安定性試験
KV ASTM D445に従って測定される動粘度
KV40 ASTM D445に従って40℃で測定される動粘度
KV100 ASTM D445に従って100℃で測定される動粘度
LA ラウリルアクリレートまたはドデシルアクリレート
数平均分子量
重量平均分子量
n.m. 測定せず
nOA n-オクチルアクリレート
PDI 多分散指数
PPD 流動点降下剤
SL KRL(60℃で20時間のラン)後に100℃で決定されるせん断損失
VI 粘度指数
VPL 1-300 Evonik VISCOPLEX(登録商標) 1-300、ポリアルキルメタクリレート流動点降下剤
Yubase 4 4mm/sのKV100を有するSK LubricantsからのグループIII基油
Yubase 6 6mm/sのKV100を有するSK LubricantsからのグループIII基油
Yubase 8 8mm/sのKV100を有するSK LubricantsからのグループIII基油
試験方法
KV ASTM D445
VI ASTM D2270
KRL CEC L-45-A-99
BF ASTM D2983。
【0061】
本発明において、ポリマー(重合反応から得られた生成物)の体積粘度(BV)は、ASTM D445に従って測定される、生じた重合生成物の動粘度(KV)に相当する。そのため、前記ポリマーの体積粘度(BV100)は、以下の第2表に示されるように、ASTM D445に従って100℃での動粘度として測定された。
油への各ポリマーの溶解度を、ポリマー20重量%をYubase 4基油80重量%中に混合することにより試験した。ポリマーは、濁った混合物または2相混合物が得られる場合に不溶であるとみなされる。各ポリマーについての油への溶解度試験の結果も、以下の第2表に示される。
【実施例0062】
合成1:アクリレート-ヘキセンコポリマー(例1)
EHA 707.8gと混合したDAPO 6.99g(フィード中の前記アクリレートに対して1.0重量%)を、ヘプタン170.4g中の1-ヘキセン486.2g(溶剤対オレフィンモノマー25:75)に窒素下で130℃で3時間、ゆっくりと供給した。もう1時間撹拌した後に、生じた無色澄明なポリマーを冷却し、加圧下にろ過助剤を用いてろ過した。引き続き、残留ヘキセンを、130℃でかつ15mbar未満の圧力でのロータリーエバポレーターを用いる蒸留により除去した。前記ポリマー中に組み込まれたモノマーの量は、NMR分析により決定される。
【0063】
発明例3および4、ならびに比較例2~5を、発明例1と同じ方法で製造したが、ただし、出発物質の量および/または他の反応条件を、第1表および第2表に列挙されるように変更した。発明例4および比較例5については、前記のフィード工程および撹拌工程後の反応混合物を、冷却前に140℃で30分間加熱した。さらに、比較例4を、開始剤として2,2-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ブタンを用いて、かつ比較例3を、開始剤として1,1-ジ-tert-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを用いて、製造した。
【0064】
合成2:アクリレート-ブテンコポリマー(例2)
EHA 766gと混合したDAPO 2.3g(フィード中の前記アクリレートに対して0.3重量%)を、1-ブテン457gに窒素下で130℃で3時間、ゆっくりと供給した。もう1時間撹拌した後に、生じた無色澄明なポリマーを冷却し、加圧下にろ過助剤を用いてろ過した。引き続き、残存モノマーを、130℃でかつ15mbar未満の圧力でのロータリーエバポレーターを用いる蒸留により除去した。前記ポリマー中に組み込まれたモノマーの量は、NMR分析により決定される。
【0065】
合成3:アクリレート混合物を用いるアクリレート-ヘキセンコポリマー(例5)
EHA 335.7gおよびLA 323.7gと混合したDAPO 4.63g(フィード中の前記アクリレートに対して0.7重量%)を、ヘプタン184.9g中の1-ヘキセン511.4g(溶剤対オレフィンモノマー25:75)に窒素下で130℃で3時間、ゆっくりと供給した。もう1時間撹拌した後に、生じた無色澄明なポリマーを冷却し、加圧下にろ過助剤を用いてろ過した。引き続き、残留ヘキセンを、130℃でかつ15mbar未満の圧力でのロータリーエバポレーターを用いる蒸留により除去した。前記ポリマー中に組み込まれたモノマーの量は、NMR分析により決定される。
【0066】
発明例5~11、ならびに比較例6~9を、発明例5と同じ方法で製造したが、ただし、出発物質の量および/または他の反応条件を、第1表および第2表に列挙されるように変更した。発明例9~11については、前記のフィード工程および撹拌工程後の反応混合物を、冷却前に140℃で30分間加熱した。さらに、発明例9を、開始剤として2,2-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ブタンを用いて製造した。
【0067】
合成4:開始剤の2段添加を伴うアクリレート-ヘキセンコポリマー合成(例12)
DAPO 5.94g(フィード中のアクリレートに対して0.7重量%)を全部で使用した。開始剤の1/4を1-ヘキセン536.3gと混合し、反応器に装入した。INA 842.0gと混合した開始剤の残りの3/4を、ついで前記反応器に窒素下で130℃で3時間、ゆっくりと供給した。もう1時間撹拌した後に、前記反応混合物を、140℃で30分間加熱した。ついで、生じた無色澄明なポリマーを冷却し、加圧下にろ過助剤を用いてろ過した。引き続き、残留ヘキセンを、130℃でかつ15mbar未満の圧力でのロータリーエバポレーターを用いる蒸留により除去した。前記ポリマー中に組み込まれたモノマーの量は、NMR分析により決定される。
【0068】
発明例13を、発明例12と同じ方法で製造したが、ただし、出発物質の量および他の反応条件を、第1表および第2表に列挙されるように変更した。
【0069】
合成5:アクリレート-長鎖オレフィンコポリマー(例1
EHA 6000g中に溶解したDBPO 18g(フィード中の前記アクリレートに対して0.3重量%)を、1-デセン1500gに窒素下で160℃で3時間以内にゆっくりと供給した。供給が終了し、かつ160℃で2時間撹拌した後に、生じた無色澄明なポリマーを冷却した。引き続き、残留オレフィンを、160℃でかつ最低10mbarの圧力でのロータリーエバポレーターを用いる蒸留により除去した。前記ポリマー中に組み込まれたデセンの量は、残留アクリレートモノマーが存在しないと仮定して、重量測定により決定される。
【0070】
前記の個々の例の合成手順に関するさらなる詳細は、前記ポリマーの基本的特性と一緒に、第1表および第2表に提供されている。本発明に関連して、用語「溶剤対オレフィンモノマー」は、前記溶剤と、全ての非官能化α-オレフィンモノマーb)とのおおよその体積比を記載する。用語「オレフィン当量」は、オレフィンの、アクリレートに対するモル当量として定義される。前記α-オレフィンモノマーは、常に最初に反応器に装入される。前記アクリレートモノマーおよび前記開始剤は、ついで設定期間にわたって供給される。アクリレート混合物を用いるアクリレート-オレフィンコポリマーについては、全てのアクリレートを、前記オレフィンに供給する前に前記開始剤と混合した。第1表に示された温度は、前記アクリレート/開始剤供給中の反応温度に相当する。
【0071】
第2表の発明ポリマーおよび比較ポリマーを含む配合物を、ついで第3表および第4表に示される成分の量で製造した。前記の異なる配合物の特性、例えば粘度指数、動粘度、ブルックフィールド粘度およびせん断損失も、第3表および第4表に示される。この目標は、SAE 75W-90規格を満たす配合物を得るためであった(SAEは、団体Society of Automotive Engineersである)。第5表は、第2表の一部の比較ポリマーを用いて製造された一部の配合物の前記特性を示しているが、これらは75W-90配合物の要件を満たさない。
【0072】
第1表:アクリレート-オレフィンコポリマーの製造のための重合条件
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
上記の第2表に示されるように、本発明による発明ポリマーは、全て油に可溶である。対照的に、一部の比較ポリマー、例えば多量のC線状アルキルアクリレートを用いるか、またはより短いアルキルアクリレート、例えばエチルアクリレートを用いる比較例2~4は、油に不溶である。そのため、これらの比較例は、油への溶解度の要件を満たさないので、配合物において試験しなかった。
【0078】
上記の第3表および第4表に示されたように、本発明による発明アクリレート-オレフィンコポリマーを含む75W-90配合物は、最適化された粘度-温度特性を与える。前記配合物において使用される本発明による発明コポリマーは、粘度(KV40およびKV100)、粘度指数(VI)、低温特性(BF)およびせん断安定性(SL)の有利な組合せを有する。一部の発明配合物については、低下された処理率が、他の配合物特性、殊に前記75W-90仕様の最も重要なパラメーターである低温粘度(BF-40)およびせん断安定性(SL 100℃)へのマイナス効果なしに達成される。前記75W-90配合物要件を満たすために、より長鎖のα-オレフィンであるデセン含有コポリマーを含む配合物(F-1)と比較して、短鎖オレフィンであるヘキセンまたはブテン含有ポリマーを増粘剤として用いる配合物(F-1およびF-2)において、より少ないポリマーが必要とされることが観察される。
【0079】
興味深いことに、C線状アルキル基、C~C18分岐状アルキル基、C11~C18線状アルキル基からの異なる3つのアルキルアクリレートの組合せ、例えば発明例8および発明例9のポリマー、C~C10線状アルキル基を有する1種のみのアルキルアクリレートを用いるコポリマー、例えば発明ポリマー例3および例4、ならびにC~C18分岐状アルキル基を有する1種のみのアルキルアクリレートを用いるコポリマー、例えば発明ポリマー例12は、75W-90配合物において極めて低い処理率を示す(それぞれ、F-9およびF-10、F-3およびF-4、ならびにF-5)。
【0080】
良好な高粘度ベースフルードは、幾つかの特性を組み合わせることを必要とする。高性能ギヤ油の重要な基準は、その低温性能である。そのVIにも反映される温度への粘度の低い依存とは別に、前記ポリマーが、不良な低温性能をまねく、強い分子間相互作用を示さないことが重要である。
【0081】
前記コポリマーの組成に関して、短鎖および長鎖ならびに分岐状のアクリレートを組み合わせるアクリレート混合物を用いるアクリレート-オレフィンコポリマーは、前記基油への溶解度および前記低温特性を調整することを可能にする(例、第2表)。それにより、前記75W-90仕様の要件を満たすことができる(第4表)。上記のように、短鎖オレフィンと多量の短鎖アクリレートとの組合せ(例2~4)は、前記基油(Yubase 4)への不溶性をまねく傾向がある。そのため、本発明によるCおよびC11~C18アルキルアクリレートについて定義された範囲は、前記75W-90仕様の達成を保証するように満たされる必要がある。例えば、EA/EHAおよびヘキセンを用いるコポリマー(例6)は、油溶性であるが、しかし、第5表に示されたように75W-90配合物の低温要件を満たすことができなかった(F-3、BF-40=700000mPa・s)。さらに、比較例7は、45重量%よりも高い、より具体的には46.9重量%の、前記コポリマー中のC線状アルキル基を有するアクリレートの量が、油溶性であるが、しかし低温で良好に機能しないコポリマーをまねく(F-4、BF-40=178000mPa・s)ことを実証する。
【0082】
多量の長鎖線状アクリレート(C11~C18線状アルキルアクリレート)、例えばラウリルアクリレートを含む、比較アクリレート-オレフィンコポリマーは、不良な低温特性を示す。なぜなら、これらのコポリマーは、結晶化しやすいからである(比較例5およびF-2)。短鎖または分岐状のアルキルアクリレートとの組合せでさえ、そのコポリマー中の45重量%を上回るラウリルアクリレートの組み込みは、対応する75W-90配合物における極端に不良な低温特性をまねく。第5表中の比較配合物F-5およびF-6において示されたように、前記アクリレートモノマー単位中の8個を上回る炭素原子を有する長い線状側鎖の高い含有率は、高いVI(>185)にもかかわらず、極端に不良な低温性能(BF-40℃で固体)の結果となる。そのため、高いVIおよび良好な低温性能の良好な組合せは達成されない。驚くべきことに、本発明によるラウリルアクリレート含有率を有するコポリマーは、75W-90配合物の要件を満たし(例えば発明ポリマー例5~例7および対応する配合物例F-6~F-8参照)、このことは、請求項1に定義されるとおりのアクリレートの範囲が、良好な特性を有するポリマーを得るのに本質的であることを示す。
【0083】
本発明の実施態様は以下のとおりである:
1. コポリマーであって、
a)前記コポリマーの全重量を基準として、70~95重量%の、式(I)
【化5】
[式中、Rは、炭素原子4~18個を有する線状または分岐状のアルキル基を意味し、かつC線状アルキル基、C~C10線状アルキル基、C~C18分岐状アルキル基、C11~C18線状アルキル基またはそれらの混合物からなる群から選択される]のアクリレートに由来するモノマー単位と、
ここで、前記の式(I)のアクリレートに由来するモノマー単位が、前記コポリマーの全重量を基準として、0~45重量%の、RがC線状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~95重量%の、RがC~C10線状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~95重量%の、RがC~C18分岐状アルキル基である式(I)のアクリレート、0~45重量%の、RがC11~C18線状アルキル基である式(I)のアクリレート、またはそれらの混合物から選択され、
b)前記コポリマーの全重量を基準として、5~30重量%の、式(II)
【化6】
[式中、Rは、炭素原子2~4個を有する線状アルキル基を意味する]の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位と
を含み、
かつ前記コポリマーが、DIN 55672-1に従って5000~35000g/molの重量平均分子量を有する、前記コポリマー。
【0084】
2. 前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、75~95重量%、好ましくは80~95重量%の、式(I)のアクリレートモノマーに由来するモノマー単位a)を含む、実施態様1に記載のコポリマー。
【0085】
3. 前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、5~25重量%、好ましくは5~20重量%の、式(II)の少なくとも1種の非官能化α-オレフィンに由来するモノマー単位b)を含む、実施態様1または2に記載のコポリマー。
【0086】
4. 前記コポリマーが、ASTM D 445に従って100℃で100~1000mm/s、好ましくはASTM D 445に従って100℃で100~700mm/s、より好ましくはASTM D 445に従って100℃で100~500mm/sの動粘度を有する、前記実施態様のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0087】
5. 前記の式(II)の非官能化α-オレフィンb)が、ブテン、ヘキセンまたはそれらの混合物からなる群から選択される、前記実施態様のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0088】
6. 前記のRがC線状アルキル基である式(I)のアクリレートの量が、前記コポリマーの全重量を基準として、0~40重量%、好ましくは0~30重量%である、前記実施態様のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0089】
7. 前記の式(I)のアクリレートa)が、ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-プロピルヘプチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、またはそれらの混合物からなる群から選択される、前記実施態様のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0090】
8. 前記コポリマーが、前記コポリマーの全重量を基準として、0~20重量%、好ましくは0~10重量%の、メタクリルアミド、フマレート、マレエートおよびアクリレートa)以外の(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物からなるリストから選択される、モノマーc)に由来するモノマー単位を含む、前記実施態様のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0091】
9. 前記コポリマー中のモノマーa)およびb)に由来するモノマー単位の全量は、前記コポリマーの全重量を基準として、合計80重量%以上、好ましくは合計90重量%以上になる、前記実施態様のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0092】
10. 前記コポリマー中のモノマーa)、b)およびc)に由来するモノマー単位の全量が、前記コポリマーの全重量を基準として、合計90重量%以上、好ましくは合計95重量%以上、より好ましくは合計100重量%になる、実施態様8または9に記載のコポリマー。
【0093】
11. 前記コポリマーが、DIN 55672-1に従って、7000~25000g/mol、好ましくは10000~25000g/molの重量平均分子量を有する、前記実施態様のいずれか1つに記載のコポリマー。
【0094】
12. 前記コポリマーが、1.0~3.5、好ましくは1.5~3.0の多分散指数を有する、実施態様1から11までのいずれか1つに記載のコポリマー。
【0095】
13. 実施態様1から12までのいずれか1つに定義されるコポリマーの製造方法であって、前記方法が、以下の工程:
i)モノマー組成物を用意する工程、
ii)前記モノマー組成物中でラジカル重合を開始させて前記コポリマーを得る工程
を含む、前記方法。
【0096】
14. 1種以上の基油と、実施態様1から12までのいずれか1つに記載の少なくとも1種のコポリマーとを含む、潤滑剤組成物。
【0097】
15. 潤滑油組成物における、好ましくはギヤ油組成物、変速機油組成物、作動油組成物、エンジン油組成物、船舶用油組成物、工業用潤滑油組成物またはグリースにおける、潤滑剤添加剤または合成ベースフルードとしての、実施態様1から12までのいずれか1つに定義されるコポリマーの使用。