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特開2023-172959水性組成物、水性組成物の抗菌性を高める方法、及び水性組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172959
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】水性組成物、水性組成物の抗菌性を高める方法、及び水性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/55 20060101AFI20231129BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231129BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231129BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231129BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231129BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P27/02
A61P37/08
A61K9/08
A61K47/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085282
(22)【出願日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2022084707
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594105224
【氏名又は名称】東亜薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】平田 尚之
(72)【発明者】
【氏名】篠原 巧
(72)【発明者】
【氏名】鳥崎 真吾
(72)【発明者】
【氏名】内藤 卓人
(72)【発明者】
【氏名】中川 和彰
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076DD22
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD49R
4C076FF39
4C076GG43
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB11
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA03
4C086ZA33
4C086ZB13
(57)【要約】
【課題】細胞傷害作用を抑えながら、水性組成物の抗菌性を向上させる。
【解決手段】本発明によれば、エピナスチン又はその塩と、ビグアナイド系化合物と、を含む水性組成物であって、組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下である水性組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピナスチン又はその塩と、ビグアナイド系化合物と、を含む水性組成物であって、
組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が、0.05mg/mL以下である、水性組成物。
【請求項2】
前記ビグアナイド系化合物が、ポリヘキサメチレンビグアナイド、クロルヘキシジン及びこれらの塩から選択される一種以上である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
第四級アンモニウム化合物を含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項4】
前記第四級アンモニウム化合物が、ベンザルコニウム塩及びベンゼトニウム塩から選択される一種以上である、請求項3に記載の水性組成物。
【請求項5】
組成物中の前記第四級アンモニウム化合物の濃度が、0.00005~0.05mg/mLである、請求項3または4に記載の水性組成物。
【請求項6】
Brevundimonas diminutaに対する抗菌性を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項7】
組成物中のエピナスチン又はその塩の濃度が0.75mg/mL以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項8】
pHが6以上8以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項9】
日本薬局方(第18改正)に従う保存効力試験に適合する、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項10】
点眼液である、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項11】
エピナスチン又はその塩を含む水性組成物の抗菌性を高める方法であって、組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下となるように、前記水性組成物にビグアナイド系化合物を含有させることを含む、方法。
【請求項12】
エピナスチン又はその塩を含む水性組成物の製造方法であって、
組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下となるように、前記水性組成物にビグアナイド系化合物を含有させることを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性組成物、水性組成物の抗菌性を高める方法、及び水性組成物の製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
エピナスチン又はその塩は、アレルギー性結膜炎の治療などの用途で、水性組成物(点眼液)として用いられている。点眼液には一般に防腐性が求められ、エピナスチン又はその塩を含有する点眼液についても防腐効力を付与する方法が検討されていた。例えば特許文献1は、0.1w/v%のエピナスチン又はその塩を含有し、防腐剤を含有しない点眼液が、日本薬局方に規定されている、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensisを用いた保存効力試験に適合することを開示している。また、特許文献2には、エピナスチン又はその塩と、エピナスチン又はその塩の含有量1重量部に対して0.1重量部以下の第四級アンモニウム化合物とを含有する水性組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/203424号
【特許文献2】特開2021-169431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水性組成物の変質を防止するためには、水性組成物がより高い抗菌性を有することが望ましい。一方で、防腐剤は細胞傷害作用を有することが多いため、例えば眼に対する傷害を防ぐためには、防腐剤の使用量を抑えることが望ましい。
【0005】
本発明は、細胞傷害作用を抑えながら、水性組成物の抗菌性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水性組成物を所定の組成にすることにより、防腐剤による細胞傷害作用を抑えながら、水性組成物の抗菌性を向上させることができることを見出した。さらに、本発明者らは、本発明の水性組成物においては、エピナスチン又はその塩の熱安定性が向上し、類縁物質の生成が抑制されることを見出した。すなわち本発明は以下に関する。
[1]エピナスチン又はその塩と、ビグアナイド系化合物と、を含む水性組成物であって、
組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が、0.05mg/mL以下である、水性組成物。
[2]前記ビグアナイド系化合物が、ポリヘキサメチレンビグアナイド、クロルヘキシジン及びこれらの塩から選択される一種以上である、[1]に記載の水性組成物。
[3]第四級アンモニウム化合物を含む、[1]又は[2]に記載の水性組成物。
[4]前記第四級アンモニウム化合物が、ベンザルコニウム塩及びベンゼトニウム塩から選択される一種以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の水性組成物。
[5]組成物中の前記第四級アンモニウム化合物の濃度が、0.00005~0.05mg/mLである、[3]又は[4]のいずれか1項に記載の水性組成物。
[6]Brevundimonas diminutaに対する抗菌性を有する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の水性組成物。
[7]組成物中のエピナスチン又はその塩の濃度が0.75mg/mL以上である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の水性組成物。
[8]pHが6以上8以下である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の水性組成物。
[9]日本薬局方(第18改正)に従う保存効力試験に適合する、[1]~[8]のいずれか1項に記載の水性組成物。
[10]点眼液である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の水性組成物。
[11]エピナスチン又はその塩を含む水性組成物の抗菌性を高める方法であって、組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下となるように、前記水性組成物にビグアナイド系化合物を含有させることを含む、方法。
[12]エピナスチン又はその塩を含む水性組成物の製造方法であって、
組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下となるように、前記水性組成物にビグアナイド系化合物を含有させることを含む、製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、細胞傷害作用を抑えながら、水性組成物の抗菌性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例4-1A~4-1C及び比較例4-1の各水性組成物に接種したStreptococcus pneumoniaeの生菌数の経時的な変化を示す。
図2図2は、実施例4-1A~4-1Cの各水性組成物によるStreptococcus pneumoniaeの接種後5分([図2-1])又は10分([図2-2])における、接種時からの生菌数の対数変換値の変化量(減少値)を示すグラフである。
図3図3は、実施例4-2A~4-2C及び比較例4-2の各水性組成物に接種したStreptococcus pneumoniaeの生菌数の経時的な変化を示す。
図4図4は、60℃での保存下における実施例5-1~5-3の各水性組成物中のエピナスチンの分解物A(RRT 0.52)の含量の経時的な変化を示す。RRT:エピナスチン塩酸塩の保持時間を基準とした場合の相対保持時間。PHMB+BAC(塩酸ポリヘキサニド+塩化ベンザルコニウム):実施例5-1。PHMB(塩酸ポリヘキサニド):実施例5-2BAC(塩化ベンザルコニウム):実施例5-3(参考例)。
図5図5は、60℃での保存下における実施例5-1~5-3の各水性組成物中のエピナスチン塩酸塩の分解物B(RRT 1.16)の含量の経時的な変化を示す。
図6図6は、60℃での保存下における実施例5-1~5-3の各水性組成物中のエピナスチン塩酸塩の分解物C(RRT 0.50)の含量の経時的な変化を示す。
図7図7は、60℃での保存下における実施例5-1~5-3の各水性組成物中のエピナスチン塩酸塩の分解物D(RRT 1.80)の含量の経時的な変化を示す。
図8図8は、60℃での保存下における実施例5-1~5-3の各水性組成物中のエピナスチン塩酸塩の分解物E(RRT 0.63)の含量の経時的な変化を示す。
図9図9は、60℃での保存下における実施例5-1~5-3の各水性組成物中のエピナスチン塩酸塩の総類縁物質(エピナスチンの分解物の合計)の含量の経時的な変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0010】
(水性組成物)
本発明の一実施形態に係る水性組成物は、エピナスチン又はその塩と、ビグアナイド系化合物と、を含み、組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下である水性組成物である。この水性組成物は、防腐剤を含まない場合と比較して抗菌性が向上しており、一方で防腐剤を含まない場合と比較して、細胞傷害作用が実質的に増加していない。本発明において、水性組成物とは、少なくとも水を含有する組成物をいい、その性状は特に限定されない。水性組成物は、例えば、水を基剤とする、水溶液、水性懸濁液、エマルション等であってよい。このような水性組成物は点眼のために用いることができ、以下では水性組成物のことを点眼液と呼ぶことがある。
【0011】
エピナスチン(Epinastine)は、9,13b-ジヒドロ-1H-ジベンゾ[c,f]イミダゾ[1,5-a]アゼピン-3-アミンである。水性組成物が含んでいてもよいエピナスチンの塩の種類は特に限定されないが、例えばエピナスチン塩酸塩であってもよい。
【0012】
水性組成物が含有するエピナスチン又はその塩の濃度は特に限定されない。例えば、エピナスチン又はその塩の濃度は、0.1mg/mL(0.01w/v%)以上であってもよく、0.5mg/mL(0.05w/v%)以上であってもよく、0.75mg/mL(0.075w/v%)以上であってもよく、1mg/mL(0.1w/v%)以上であってもよい。また、エピナスチン又はその塩の濃度は、2mg/mL(0.2w/v%)以下であってもよい。
【0013】
ビグアナイド系化合物は、ビグアナイド骨格(N-C(=N)-N-C(=N)-N)を有する化合物である。ビグアナイド系化合物は、例えば、ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアナイド)、クロルヘキシジン又はこれらの塩等であってよい。これらの1種又は2種以上を配合できる。
【0014】
水性組成物中のビグアナイド系化合物の濃度は、例えば0.1mg/mL(0.01w/v%)未満であってよく、好ましくは0.05mg/mL(0.005w/v%)以下であり、より好ましくは0.03mg/mL(0.003w/v%)以下であり、さらに好ましくは0.01mg/mL(0.001w/v%)以下であり、0.005mg/mL(0.0005w/v%)であってもよい。これらの濃度においては、細胞傷害作用及び類縁物質の増加が抑えられる。
【0015】
また、水性組成物中のビグアナイド系化合物の濃度は、例えば0.0001mg/mL以上であってよく、好ましくは0.001mg/mL(0.0001w/v%)以上であり、より好ましくは0.0015mg/mL(0.00015w/v%)以上であり、さらに好ましくは0.002mg/mL(0.0002w/v%)である。水性組成物がこれらの濃度のビグアナイド系化合物を含有する場合、その抗菌性が向上され得る。
なお、前記した水性組成物中のビグアナイド系化合物の濃度の下限のいずれかと、前段落に記載した水性組成物中のビグアナイド系化合物の濃度の上限のいずれかとを組み合わせて、水性組成物中のビグアナイド系化合物の濃度範囲として表してもよい。
【0016】
水性組成物は、第四級アンモニウム化合物をさらに含有していてもよい。第四級アンモニウム化合物としては、ベンザルコニウム塩及びベンゼトニウム塩等が挙げられる。なお、これらの第四級アンモニウム化合物に結合する陰イオンの種類は特に限定されず、例えば第四級アンモニウム化合物として塩化ベンザルコニウム又は塩化ベンゼトニウム等を用いることができる。これらの1種又は2種以上を配合できる。
【0017】
水性組成物中の第四級アンモニウム化合物の濃度は、例えば0.1mg/mL(0.01w/v%)未満であってよく、好ましくは0.05mg/mL(0.005w/v%)以下であり、より好ましくは0.03mg/mL(0.003w/v%)以下であり、さらに好ましくは0.01mg/mL(0.001w/v%)以下であり、特に好ましくは0.002mg/mL(0.0002w/v%)以下である。これらの濃度においては、細胞傷害作用及び類縁物質の増加が抑えられる。
【0018】
また、水性組成物中の第四級アンモニウム化合物の濃度は、例えば0.00005mg/mL(0.000005w/v%)以上であってよく、好ましくは0.0001mg/mL(0.00001w/v%)以上であり、より好ましくは0.0025mg/mL(0.00025w/v%)以上であり、さらに好ましくは0.005mg/mL(0.0005w/v%)以上である。水性組成物がこれらの濃度の第四級アンモニウム化合物を含有する場合、その抗菌性が向上され得る。
なお、前記した水性組成物中の第四級アンモニウム化合物の濃度の下限のいずれかと、前段落に記載した水性組成物中の第四級アンモニウム化合物の濃度の上限のいずれかとを組み合わせて、水性組成物中の第四級アンモニウム化合物の濃度範囲として表してもよい。
【0019】
一実施形態に係る水性組成物は、防腐剤を含まない場合と比較して、細胞傷害作用が実質的に増加していない。防腐剤とは、例えば、ビグアナイド系化合物や第四級アンモニウム化合物の他、クロロブタノール又はパラオキシ安息香酸エステル(例えばパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル又はパラオキシ安息香酸ブチル)のような、水酸基を有するアルコール系の防腐剤、亜塩素酸塩(例えば亜塩素酸ナトリウム)のような塩素系の防腐剤、ポリドロニウムのような陽イオンポリマー系の防腐剤等であり得る。例えば、水性組成物が、エピナスチン又はその塩と、防腐剤と、その他の成分と、のみからなる場合に、この水性組成物は、エピナスチン又はその塩と、その他の成分と、のみからなる水性組成物と比較して、細胞傷害作用が実質的に増加していない。本明細書において、「防腐剤」とは、水性組成物の抗菌性を高めることを目的に配合させる成分のことを指す。以下では、「防腐剤を含まない場合」とは、防腐剤を含まないことを除き同一組成を有することをいう。
【0020】
好ましくは、一実施形態に係る水性組成物は、防腐剤を含まない場合と比較して、角膜細胞傷害作用が実質的に増加していない。このような細胞傷害作用又は角膜細胞傷害作用は、角膜上皮細胞を水性組成物に所定の時間接触させた後に細胞生存率を測定するin vitro試験に基づいて評価することができる。角膜上皮細胞としては、例えば、SIRC(ウサギ角膜上皮細胞)を用いることができる。所定の時間は、特に限定されないが、例えば10分間とすることができる。細胞生存率の測定は、当業者に公知の方法により実施することができ、その例としては、市販されている発色試薬を用いて、水性組成物との接触後の生細胞からの発色を吸光光度法により測定する方法が挙げられる。吸光光度法において、吸光度は、使用する発色試薬により適宜決めることができる。本明細書において、「細胞傷害作用が実質的に増加しない」とは、このような評価系において防腐剤を含まない水性組成物を用いて測定された細胞生存率の値に対する、各実施形態に係る水性組成物を用いて測定された細胞生存率の値の比率(各実施形態に係る水性組成物を用いて測定された細胞生存率(%)/防腐剤を含まない水性組成物を用いて測定された細胞生存率(%)×100(%))が、75%以上であることを意味する。好ましくは、防腐剤を含まない水性組成物を用いて測定された細胞生存率の値に対する、一実施形態に係る水性組成物を用いて測定された細胞生存率の値の比率は、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上である。
【0021】
本発明の水性組成物は、日本薬局方(第18改正)に規定されている保存効力試験に適合する。「保存効力試験に適合する」とは、日本薬局方(第18改正)に規定されている保存効力試験に従い、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensisを水性組成物に接種、混合し、経時的な試験菌の消長を追跡した場合において、同試験に規定されるカテゴリーIAの判定基準を満たすことをいう。カテゴリーIAの判定基準は、細菌については接種7日後に接種菌数に比べて1.0log以上の減少があり、接種14日後に接種菌数に比べて3.0log以上の減少があり、接種28日後には14日後の菌数から増加していないこと、真菌については接種7日後、14日後及び28日後に接種菌数が増加していないこと、である。
【0022】
一実施形態に係る水性組成物は、防腐剤を含まない場合と比較して、水性組成物の抗菌性が向上している。一実施形態に係る水性組成物は、防腐剤を含まない場合と比較して、日本薬局方(第18改正)に規定されている保存効力試験で用いられる、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensis以外の菌種のうちの少なくとも1つに対して、抗菌性を有する。このような菌種としては、水性組成物のろ過滅菌に使用されるフィルターを用いたろ過滅菌能力試験(チャレンジ試験)で用いられる代表的な指標菌であるBrevundimonas diminuta、細菌性角膜炎・結膜炎の主要起炎菌である肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)等が挙げられる。本明細書において、「水性組成物が抗菌性を有する」、又は「抗菌性を示す」等という場合、対象の菌種を水性組成物に接種し、所定の時間が経過した時点において、生菌数が菌接種時よりも、例えば1.0log以上減少することをいう。所定の時間は、菌種に応じて適宜決めることができるが、Brevundimonas diminutaを用いる場合には、例えば、5分、30分、1時間、3時間、6時間、24時間又は36時間、Streptococcus pneumoniaeを用いる場合には、例えば、5分、10分、20分、30分又は1時間とすることができる。一実施形態において、水性組成物は、防腐剤を含まない場合には、このような菌種に対する抗菌性は示さないが、抗菌性を示すようになる。また、本明細書において、「水性組成物の抗菌性が向上する」とは、防腐剤を含まない場合と比較して、保存効力試験で用いられる、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensis以外の菌種のうちの少なくとも1つに対して抗菌性を有することのほか、防腐剤を含まない場合と比較して、菌数の減少速度が速くなることを意味する。
【0023】
本発明の水性組成物においては、エピナスチン又はその塩の熱安定性が向上し、類縁物質の生成が抑制され得る。エピナスチン又はその塩は長期の保存や高温、多湿での保存により類縁物質が生じることが知られる。エピナスチン又はその塩の類縁物質は、当業者に公知の方法により測定することができ、例えば、所定の温度や湿度の条件下で、所定の期間保存した後に、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により、水性組成物中の類縁物質を分析することにより評価することができる。所定の温度は、例えば、25℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃等であってよく、限定されない。所定の湿度は、例えば、50%RH、55%RH、60%RH、65%RH、70%RH、75%RH、80%RH等の相対湿度の範囲であってよく、限定されない。所定の期間は、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間又は1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月等であってよく、限定されない。エピナスチン又はその塩の類縁物質としては、例えば、3-Amino-1,13b-dihydro-9H-dibenz [c,f] imidazo [1,5-a] azepin-9-one hydrochloride(本明細書では分解物Aという場合もある。)、3-Amino-9H-dibenz [c,f] imidazo [1,5-a] azepine hydrochloride(本明細書では分解物Bという場合もある。)、6-Aminomethyl-6,11-dihydro-5H-dibenz [b,e] azepine fumarate、3-Amino-7-chloro-9,13b-dihydro-1H-dibenz [c,f] imidazo [1,5-a] azepine hydrochloride、3-Amino-7-bromo-9,13b-dihydro-1H-dibenz [c,f] imidazo [1,5-a] azepine hydrobromide等が知られる。本明細書において、「熱安定性が向上する(した)」、あるいは「類縁物質の生成が抑制される」という場合、これらの類縁物質のうちの1以上の生成、又はこれらの類縁物質を含む類縁物質量の合計が対照と比較して少なくなることをいう。
【0024】
水性組成物は第四級アンモニウム化合物及びビグアナイド系化合物以外の1種以上の防腐剤を含んでいてもよいが、水性組成物中のそれらの濃度は、細胞傷害作用が実質的に増加しない範囲である。すなわち、水性組成物は、細胞傷害作用が実質的に増加する濃度の、第四級アンモニウム化合物及びビグアナイド系化合物以外の防腐剤を含有しない。本明細書において、「細胞傷障害作用が実質的に増加する」とは、細胞生存率を一定以上低下させることであり、本明細書の段落[0020]に記載したin vitro試験において、防腐剤を含まない水性組成物を用いて測定された細胞生存率の値に対する、防腐剤を含む水性組成物を用いて測定された細胞生存率の値の比率(防腐剤を含む水性組成物を用いて測定された細胞生存率(%)/防腐剤を含まない水性組成物を用いて測定された細胞生存率(%)×100(%))が、例えば、75%未満、50%未満、40%未満、30%未満、又は20%未満となることをいう。水性組成物が含有する防腐剤の種類は、第四級アンモニウム化合物及びビグアナイド系化合物以外には、例えば、パラオキシ安息香酸エステル及びクロロブタノールのようなアルコール系化合物、並びに亜塩素酸塩のような塩素酸化物系化合物等であり得る。
【0025】
水性組成物は、好ましくは、ビグアナイド系化合物及び第四級アンモニウム化合物以外の防腐剤を含有しない。
【0026】
上記の各実施形態に係る水性組成物が含む水は、特に限定されないが、好ましくは精製水、滅菌精製水、注射用水等である。
水性組成物のpHは、点眼可能であれば特に制限されないが、眼への刺激を低減する観点から、例えば6以上又は6.5以上であってもよく、8以下又は7.5以下であってもよい。
【0027】
水性組成物は、その他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、粘稠化剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
安定化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、及びポピドン等が挙げられる。
【0029】
等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、及びスクロース等が挙げられる。
【0030】
緩衝剤の例としては、リン酸又はその塩、クエン酸又はその塩、酢酸又はその塩、炭酸又はその塩、酒石酸又はその塩、ホウ酸又はその塩、及びトロメタモール等が挙げられる。
【0031】
pH調節剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
粘稠化剤の例としては、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、及びグリセリン等が挙げられる。
【0033】
界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール、ポリソルベート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及びショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0034】
一実施形態に係る水性組成物の浸透圧比は、特に限定されないが、眼への刺激を低減する観点から、0.60以上、又は0.80以上であってもよく、0.90以上であることが好ましい。一方で、1.40以下、又は1.20以下であってもよく、1.10以下であることが好ましい。浸透圧比とは、生理食塩水に対する浸透圧比である。
【0035】
(容器等)
一実施形態に係る水性組成物は、患者への点眼用に用いることができる。また、一実施形態に係る水性組成物は、保存安定性及び携帯性等の観点から、容器に収容することができる。容器は、水性組成物を直接的に収容する包装体のことである。容器は、第十八改正日本薬局方通則に定義される「密閉容器」、「気密容器」、及び「密封容器」のいずれかである。
【0036】
また、水性組成物は、エチレンオキサイドガスや過酸化水素等のガスで滅菌処理された容器に収容されてもよい。ガス滅菌処理で使用されるガスの種類については、特に制限されないが、例えば、エチレンオキサイドガス、過酸化水素ガス、これらと二酸化炭素等との混合ガス等が挙げられる。水性組成物は、ガンマ線照射及び電子線照射等の放射線で滅菌処理された容器に収容されていてもよい。
【0037】
容器の形態は、水性組成物を収容可能である容器であれば良く、剤形等に応じて適宜選択されても良い。容器の形態は、例えば、注射剤用容器、吸入剤用容器、スプレー剤用容器、ボトル状容器、チューブ状容器、点眼剤用容器、点鼻剤用容器、点耳剤用容器、及びバッグ容器等を含む。また、水性組成物を収容した容器は、箱及び袋等によって更に包装されていても良い。
【0038】
容器の材質は、容器の形態に応じて適宜選択され得る材料であって良い。容器の材質は、例えば、ガラス、プラスチック、セルロース、パルプ、ゴム、及び金属等を含む。容器の材質は、加工性、スクイズ性及び耐久性の観点から、プラスチックであって良い。
【0039】
プラスチック製容器に用いる樹脂は、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びスチレン系樹脂を含む。
【0040】
ポリオレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等を含む樹脂である。
【0041】
ポリエステル系樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレナフタレート)等を含む樹脂である。
【0042】
なお、プラスチック製容器に用いる樹脂は、上記の2以上の樹脂を組み合わせた混合体(ポリマーアロイ)であっても良い。
【0043】
一実施形態において、水性組成物は、変色抑制作用の観点から、ポリオレフィン系樹脂製容器に収容される。本明細書において「ポリオレフィン系樹脂製容器」とは、容器のうち少なくとも水性組成物と接する部分が「ポリオレフィン系樹脂製」である容器を意味する。したがって、例えば、水性組成物と接する内層にポリオレフィン層を設け、その外側に他の材質の樹脂等を積層等させてなる容器も、「ポリオレフィン系樹脂製容器」に該当する。ポリオレフィン系樹脂は特に限定されず、単一種のモノマーの重合体(ホモポリマー)であっても、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、コポリマーである場合においては、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよい、さらにその立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
【0044】
ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンであって良い。ポリオレフィン系樹脂製容器は、紫外線吸収剤及び紫外線散乱剤等の紫外線の透過を妨げる物質を有していても良い。
【0045】
一実施形態において、紫外線吸収剤は、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール(例えば、Tinuvin P:BASF社)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(例えば、Tinuvin 234:BASF社)である。
【0046】
一実施形態において、紫外線散乱剤は、例えば、酸化チタン及び酸化亜鉛等である。
【0047】
一実施形態において、水性組成物はマルチドーズ型容器に収容される。マルチドーズ型容器は、複数回分の使用量の水性組成物を保持し、繰返し使用可能な容器のことをいう。例えば、マルチドーズ型容器は、マルチドーズ型保存剤フリー容器と通常のマルチドーズ型容器とを含む。
【0048】
マルチドーズ型保存剤フリー容器は、マルチドーズ型容器の外側に浸出した水性組成物がマルチドーズ型容器内へ逆流することを防止する機構、及び、異物がマルチドーズ型容器内へ混入することを防止する機構を有する。マルチドーズ型保存剤フリー容器は、逆流防止弁、マイクロフィルター、及び特殊な二重構造容器等の構造を有する。
【0049】
通常のマルチドーズ型容器は、上記の機構を有していないマルチドーズ型容器のことである。なお、通常のマルチドーズ型容器において水性組成物が収容される場合、水性組成物の製造時のろ過滅菌工程にて、水性組成物をフィルターに通過させる必要がある。
【0050】
なお、本実施形態における水性組成物は、ユニットドーズ型容器に収容されても良い。ユニットドーズ型容器は、単回分の使用量の水性組成物を保持し、1回の点眼で使用済みとなる容器のことをいう。
【0051】
本発明の水性組成物は、フィルターを通過させる工程を経て患部へ提供される。ここで、「フィルター」とは、水性組成物を通過させるが、細菌及び真菌を通過させない多孔性膜を指す。フィルターの細孔径としては、通常5μm以下であればよいが、好ましくは0.1~2.5μm、更に好ましくは0.2~1μmが挙げられる。本発明の水性組成物は、フィルター付き容器に収容され、使用時に容器のフィルターを通過させて容器外に注出されてもよい。また、本発明の水性組成物は、水性組成物の製造時のろ過滅菌工程でフィルターを通過させた水性組成物であってもよい。フィルターの素材については、特に制限されないが、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース混合エステル、ナイロン、ポリアミド等が挙げられる。
【0052】
(水性組成物の製造方法及び抗菌性を高める方法)
水性組成物の製造方法は特に限定されない。エピナスチン又はその塩と、ビグアナイド系化合物と、必要に応じてその他の添加剤とを、水に溶解することにより、水性組成物を製造することができる。
【0053】
本発明の一実施形態は、エピナスチン又はその塩を含む水性組成物の抗菌性を高める方法に関する。この方法は、水性組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下となるように、前記水性組成物にビグアナイド系化合物を含有させることを含む。
【0054】
また、本発明の一実施形態は、エピナスチン又はその塩を含む水性組成物の製造方法に関する。この方法は、水性組成物中のビグアナイド系化合物の濃度が0.05mg/mL以下となるように、前記水性組成物にビグアナイド系化合物を含有させることを含む。
【0055】
また、本発明のエピナスチン又はその塩を含む水性組成物の抗菌性を高める方法及び製造方法の一実施形態は、第四級アンモニウム化合物を含有させる工程をさらに含んでいてもよい。
【0056】
これらの実施形態におけるエピナスチン又はその塩の量、ビグアナイド系化合物の種類及びその量、並びにその他の成分の種類及び量等は、既に説明したように選択することができる。
【実施例0057】
(実施例1)
ビグアナイド系化合物、第四級アンモニウム化合物の細胞傷害作用を評価した。評価には、均一な密度でSIRC(ウサギ角膜上皮細胞)が播種された96ウェルプレートを用いた。まず、試験溶液を各ウェルに添加し、10分間静置した後、試験溶液を除去して各ウェルをPBSで洗浄した。試験溶液としては、それぞれ0、0.001、0.002、0.01、0.03、0.05、0.1、及び0.2mg/mLの、塩酸ポリヘキサニド又は塩化ベンザルコニウムのMEM溶液を用いた。また、対照群として、試験溶液を添加せずに同様の評価を実施した。
【0058】
その後、各ウェルに発色試薬を添加し、2時間培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで492nmにおける吸光度を測定した。また、SIRCを播種していないウェルにも発色試薬を添加し、同様に吸光度を測定することにより、バックグラウンドの吸光度を得た。試験溶液群について測定された吸光度から、バックグラウンドの吸光度を差し引いた値(補正値)を、データ解析に使用した。
【0059】
上記の測定を各試験溶液について5回ずつ行ったところ、以下の解析結果が得られた。下表において、細胞生存率(%)=各試験溶液についての平均吸光度(補正値)/対照群の平均吸光度(補正値)×100である。また、下表において、「BAC」は塩化ベンザルコニウムを含む試験溶液を用いた場合の生存率を、「PHMB」は塩酸ポリヘキサニドを含む試験溶液を用いた場合の生存率を、それぞれ示す。
【0060】
【表1】
【0061】
上記の結果より、ビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物の濃度が0.05mg/mL以下である場合に、細胞生存率は防腐剤の濃度が0mg/mLである場合に対して75%以上を維持しており、ビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物の添加により細胞傷害作用が実質的に増加しないことが確認された。特に、ビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物の濃度が0.03mg/mL以下である場合には、細胞生存率は防腐剤を含まない場合に対して90%以上を維持していた。さらに、ビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物の濃度が0.01mg/mL以下である場合には、細胞生存率は防腐剤を含まない場合に対して98%以上を維持していた。
【0062】
(実施例2)
精製水、塩化ベンザルコニウム水溶液(0.015mg/mL)、及び塩酸ポリヘキサニド水溶液(0.001mg/mL及び0.002mg/mL)のそれぞれについて、保存効力試験を行った。保存効力試験は、日本薬局方(第18改正)に従って行った。具体的には、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensisの各菌種を用いて、点眼液に求められるカテゴリーIAの判定基準を満たすかどうかを確認した。具体的な判定基準は、細菌については接種7日後に接種菌数に比べて1.0log以上の減少があり、接種14日後に接種菌数に比べて3.0log以上の減少があり、接種28日後には14日後の菌数から増加していないこと、真菌については接種7日後、14日後及び28日後に接種菌数が増加していないこと、である。
【0063】
その結果、塩化ベンザルコニウム水溶液(0.015mg/mL)及び塩酸ポリヘキサニド水溶液(0.002mg/mL)は保存効力試験に適合していることが確認された。一方で、精製水(保存剤濃度0mg/mL)及び塩酸ポリヘキサニド水溶液(0.001mg/mL)は保存効力試験に適合しないことが確認された。
【0064】
上記の結果は、点眼液に求められる抗菌性を得るために十分な最低濃度は、塩化ベンザルコニウムについては0.015mg/mL以下である一方で、塩酸ポリヘキサニドについてはその7.5分の1である0.002mg/mL程度であることがわかった。実施例1の結果から、保存効力試験に適合させることに加えて、細胞障害性を実質的に増加させることなく追加的な効果を点眼液に付与するために、0.015mg/mL~0.05mg/mL程度の塩化ベンザルコニウム、又は0.002mg/mL~0.05mg/mL程度の塩酸ポリヘキサニドを含有させてよいことがわかった。このような用途で用いる場合、濃度範囲は塩酸ポリヘキサニドの方が塩化ベンザルコニウムの方が広いと考えられる。
【0065】
(実施例3-1(参考例))
点眼液に防腐剤を添加することにより、細胞傷害性を実質的に増加させることなく、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensis以外の菌種に対する抗菌性を向上させるかについて検討した。
【0066】
エピナスチン塩酸塩(0.1g)、リン酸二水素ナトリウム水和物(0.252g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.22g)、塩化ベンザルコニウム(2.5mg)、及び塩化ナトリウム(0.51g)を、精製水に溶解させ、必要に応じて塩酸(又は水酸化ナトリウム)を添加してpHを7.0に調整し、精製水を加えて全量を100mLとし、フィルターでろ過することにより点眼液を調製した。
【0067】
次に、得られた点眼液の抗菌性を評価した。具体的には、点眼液にBrevundimonas diminutaを添加し、5分、30分、1時間、3時間、6時間、24時間、又は36時間保存した。その後、フィルターを用いて試験菌を回収し、培養後のコロニーの形成を観察得ることにより、生菌数を評価した。その結果、すべての測定時点において生菌数が1log以上減少したことが確認された。
【0068】
(実施例3-2)
塩化ベンザルコニウムの代わりに塩酸ポリヘキサニド(0.2mg)を用いたことを除き、実施例3-1と同様に点眼液を調製し、抗菌性を評価した。その結果、生菌数が1log以上減少したことが確認された。
【0069】
(比較例3-1)
塩化ベンザルコニウムを添加しなかったことを除き、実施例3-1と同様に点眼液を調製し、抗菌性を評価した。その結果、生菌数の減少は見られず、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)(比較例3-2)に菌を添加した場合と同様の結果が得られた。
【0070】
なお、実施例3-1及び3-2、並びに比較例3-1のそれぞれの点眼液が、第18改正日本薬局方に規定されている、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensisを用いる保存効力試験法に適合していることも確認した。
【0071】
防腐剤を配合しなくても保存効力試験に適合することが知られている比較例3-1のエピナスチン塩酸塩点眼液は、特定の菌種に対しては抗菌性を示さなかった。一方で、実施例3-1及び3-2の結果から、ビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物を添加することにより抗菌性が向上することが確認された。特に、保存効力試験に適合する点眼液に対して、ビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物を含有させなかった比較例3-1の点眼液ではBrevundimonas diminutaの生菌数の減少は認められなかったのに対し、細胞傷害性を実質的に増加させない量のビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物を含有させた実施例3-1及び3-2ではBrevundimonas diminutaの生菌数の減少が認められた。
【0072】
(実施例4-1)
点眼液については、使用中に微生物による二次汚染の可能性があり、汚染微生物に起因する感染症を引き起こす危険性があることから防腐剤を添加する必要がある。そこで、様々な防腐剤の組成を有する水性組成物の抗菌性を、細菌性角膜炎・結膜炎の主要起炎菌である肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae(以下、S. pneumoniaeという場合もある。))を指標菌として評価した。具体的には、実施例4-1A、4-1B、4-1C及び比較例4-1の水性組成物に、Streptococcus pneumoniaeを接種菌数が1×105~1×106CFU/mLとなるように接種し、接種後5分、10分、20分、30分、及び60分の5時点で生菌数を測定した。実施例4-1A、4-1B、4-1C及び比較例4-1の水性組成物の調製方法は以下の通りである。
【0073】
(実施例4-1A)
エピナスチン塩酸塩(0.1 g)、リン酸二水素ナトリウム水和物(0.252 g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.22 g)、塩酸ポリヘキサニド(0.2 mg)、塩化ベンザルコニウム(0.005 mg)、及び塩化ナトリウム(0.51 g)を、精製水に溶解させ、必要に応じて塩酸(又は水酸化ナトリウム)を添加してpHを7.0に調整し、精製水を加えて全量を100 mLとし、フィルターでろ過することで水性組成物を調製した。
【0074】
(実施例4-1B)
エピナスチン塩酸塩(0.1 g)、リン酸二水素ナトリウム水和物(0.252 g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.22 g)、塩酸ポリヘキサニド(0.2 mg)、及び塩化ナトリウム(0.51 g)を、精製水に溶解させ、必要に応じて塩酸(又は水酸化ナトリウム)を添加してpHを7.0に調整し、精製水を加えて全量を100 mLとし、フィルターでろ過することで水性組成物を調製した。
【0075】
(実施例4-1C(参考例))
エピナスチン塩酸塩(0.1 g)、リン酸二水素ナトリウム水和物(0.252 g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.22 g)、塩化ベンザルコニウム(0.005 mg)、及び塩化ナトリウム(0.51 g)を、精製水に溶解させ、必要に応じて塩酸(又は水酸化ナトリウム)を添加してpHを7.0に調整し、精製水を加えて全量を100 mLとし、フィルターでろ過することで水性組成物を調製した。
【0076】
(比較例4-1)
エピナスチン塩酸塩(0.1 g)、リン酸二水素ナトリウム水和物(0.252 g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.22 g)、及び塩化ナトリウム(0.51 g)を、精製水に溶解させ、必要に応じて塩酸(又は水酸化ナトリウム)を添加してpHを7.0に調整し、精製水を加えて全量を100 mLとし、フィルターでろ過することで水性組成物を調製した。
【0077】
実施例4-1A、4-1B、4-1C及び比較例4-1の水性組成物の組成の一覧を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
生菌数の測定結果を表3及び図1に示す。実施例4-1Aについては、生菌数は接種後5分で接種菌数から3.32 log減少、接種後10分で接種菌数から4.83 log減少、接種後20分以降で接種菌数から5.83 log減少となる推移を示した。なお、実施例4-1Aは、ビグアナイド系化合物又は第四級アンモニウム化合物を単独で含有する水性組成物(実施例4-1B、4-1C)と比較して菌数減少が速くなる効果が確認された。
【0080】
【表3】
【0081】
したがって、エピナスチン又はその塩を含有する水性組成物について、ビグアナイド系化合物(塩酸ポリヘキサニド:0.002 mg/mL)と第四級アンモニウム化合物(塩化ベンザルコニウム:0.00005 mg/mL以上)を組み合わせることで、単独で含有する場合と比較して抗菌性が向上することが確認された。
【0082】
接種後10分以内の結果に着目すると、ビグアナイド系化合物を単独で含有する実施例4-1Bでは、接種後5分及び10分において、第四級アンモニウム化合物を単独で含有する実施例4-1Cと比較して、生菌数がより減少した(図2-1、2-2)。さらに、接種後10分以内においては生菌数の減少が認められなかった実施例4-1C(第四級アンモニウム化合物を単独で含有)に対し、ビグアナイド系化合物及び第四級アンモニウム化合物を組み合わせた実施例4-1Aでは、接種後5分及び10分において、顕著な生菌数の減少が認められ、この効果はビグアナイド系化合物を単独で含有する実施例4-1Bと比較しても顕著であった(図2-1、2-2)。
【0083】
(実施例4-2)
塩化ベンザルコニウムの濃度を変化させて実施例4-1と同様の試験を行った。塩酸ポリヘキサニド及び塩化ベンザルコニウムの組成を変えたこと以外は実施例4-1と同様の方法にて、実施例4-2A~C及び比較例4-2の水性組成物を調製した。実施例4-2A~C及び比較例4-2の水性組成物に含まれる塩酸ポリヘキサニド及び塩化ベンザルコニウムの組成は表4に示す通りである。実施例4-2A、4-2B、4-2C及び比較例4-2の水性組成物に、Streptococcus pneumoniaeを接種菌数が1×105~1×106CFU/mLとなるように接種し、接種後5分、10分、20分、30分、及び60分の5時点で生菌数を測定した。結果を表4及び図3に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
その結果、実施例4-1と同様に、ビグアナイド系化合物と第四級アンモニウム化合物を組み合わせた実施例4-2A及び4-2Bでは、顕著な生菌数の減少が確認され、抗菌性の向上が認められた。さらに、この効果は第四級アンモニウム化合物の濃度に依存することが分かった。
【0086】
(実施例5)
エピナスチン又はその塩は長期の保存や高温での保存により類縁物質が生じてしまうことが知られている。細胞傷害性が低い濃度の第四級アンモニウム化合物、ビグアナイド系化合物を点眼液に含有させた場合に、エピナスチン又はその塩の熱安定性が変わり、類縁物質の生成が変化するかを検討した。
【0087】
表5に示す組成となるように、実施例4-1と同様の方法により、水性組成物を調製し、ポリエチレン製の5mL点眼容器に5mL充填することで実施例5-1~5-3及び比較例5-1の点眼液を各3サンプルずつ調製した。
【0088】
【表5】
【0089】
エピナスチン塩酸塩の分解物は高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により分析した。
(エピナスチン塩酸塩の分解物測定のHPLC条件)
検出器:紫外吸光光度計
カラム:内径4.6 mm、長さ25 cmのステンレス管に5 μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
【0090】
50℃にて60日保存後における類縁物質の測定結果を表6に示す。
【0091】
【表6】
【0092】
塩化ベンザルコニウムを単独で配合した実施例5-3(参考例)と比較して、塩酸ポリヘキサニドを単独で配合した実施例5-2においては、分解物A~Dの生成及び総類縁物質量が少なくなる傾向が示唆された。さらに、塩化ベンザルコニウムと塩酸ポリヘキサニドを組み合わせた実施例5-1においては、実施例5-2よりも、分解物A~Dの生成及び総類縁物質量が抑えられることが確認された。さらに、実施例5-1は、塩化ベンザルコニウムと塩酸ポリヘキサニドを含まない比較例5-1と比較して、分解物A~Dの生成及び総類縁物質量が顕著に抑えられていることが確認された。
【0093】
実施例5-1~5-3について、60℃にて2週間保存後、3週間保存後、6週間保存後における類縁物質を測定した結果を表7、並びに図4(分解物A)、図5(分解物B)、図6(分解物C)、図7(分解物D)、図8(分解物E)及び図9(総類縁物質量)に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
塩化ベンザルコニウムを単独で配合した実施例5-3(参考例)と比較して、塩酸ポリヘキサニドを単独で配合した実施例5-2においては、分解物A~Eの生成及び総類縁物質量が少なかった。さらに、塩酸ポリヘキサニドと塩化ベンザルコニウムを組み合わせた実施例5-1においては、実施例5-2よりも、分解物A~Dの生成及び総類縁物質量が抑えられることが確認された。
【0096】
以上より、細胞傷害性が低い濃度の第四級アンモニウム化合物、ビグアナイド系化合物及びエピナスチン又はその塩を含む点眼液は、エピナスチン又はその塩の熱安定性が向上し、類縁物質の生成が抑えられることが確認された。
【0097】
(製剤例1)
エピナスチン塩酸塩(0.1g)、リン酸二水素ナトリウム水和物(0.252g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.22g)、塩酸ポリヘキサニド(0.1mg)、塩化ナトリウム(0.51g)を、精製水に溶解させ、必要に応じて塩酸(又は水酸化ナトリウム)を添加してpHを7.0に調整し、精製水を加えて全量を100mLとし、フィルターでろ過することで水性組成物を調製する。
【0098】
(製剤例2~11)
さらに、塩化ベンザルコニウムを、それぞれ0.0015mg、0.005mg、0.01mg、0.025mg、0.05mg、0.1mg、0.25mg、0.5mg、1.0mg及び4.9mgとしたことを除き、製剤例1と同様に水性組成物を調製する。
【0099】
(製剤例12~21)
塩酸ポリヘキサニドの量を0.2mgに変更したことを除き、製剤例1~10と同様に水性組成物を調製する。
【0100】
(製剤例22)
塩化ベンザルコニウムの量を4.8mgに変更したことを除き、製剤例12と同様に水性組成物を調製する。
【0101】
これらの製剤例によっても、細胞障害作用を実質的に増加させずに、水性組成物の抗菌性を向上や、類縁物質の生成を抑制させることができる。
【0102】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9