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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172969
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】携帯型無線通信機
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20231129BHJP
   H04B 1/3827 20150101ALI20231129BHJP
【FI】
H04R1/02 108
H04B1/3827 110
H04R1/02 107
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137091
(22)【出願日】2023-08-25
(62)【分割の表示】P 2022097515の分割
【原出願日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022083935
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000234937
【氏名又は名称】八重洲無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089956
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 利和
(72)【発明者】
【氏名】飯束 嘉庸
【テーマコード(参考)】
5D017
5K011
【Fターム(参考)】
5D017BC03
5D017BC19
5K011AA06
5K011AA07
5K011GA05
5K011GA06
5K011KA06
(57)【要約】
【課題】携帯型無線通信機の複信通信でマイクとスピーカを用いるとハウリングが発生し易く、小型マイクとイヤホンからなる音響アクセサリなどの使用を余儀なくされる。
【解決手段】携帯型無線通信機の本体筐体50に対し筐体として独立したアンテナ部51の先端に吸音孔63a,63bを設ける。アンテナ部51は樹脂製外筒61に内蔵させたノーマルモード型ヘリカルアンテナ69内に音響チューブ73を挿通させており、吸音孔63a,63bからアンテナベース68側に固定したMICエレメント71へ音波を導く。アンテナ部51の先端はその外筒61の先端に有底キャップ62を冠着させて構成した内部空間に吸音孔63a,63bが通じた構造になっている。アンテナ部51の長さによりスピーカ53からMICエレメント71までの音響的距離を大きく設定できるため、ハウリング防止にきわめて有効である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複信方式での通話機能を有し、略直方体状の本体筐体の正面に内蔵スピーカの音声出力孔が形成されていると共に、合成樹脂製の外筒にノーマルモード型ヘリカルアンテナを内蔵させたアンテナ部が前記本体筐体の上面に立設固定されており、前記アンテナ部の前記本体筐体に対する立設部を構成するアンテナベースに前記ヘリカルアンテナの最下部が給電点として接続されている携帯型無線通信機において、
前記アンテナ部の先端部分が、先端を開放端とした合成樹脂製の外筒に対して周側壁に収音孔を設けた有底キャップを冠着することで前記外筒の開放端と前記有底キャップの内壁面に囲まれた空間が前記収音孔を通じて外部と連通した構成とされ、前記アンテナベースで保持させたマイクロホンエレメントと前記空間との間を前記ヘリカルアンテナのコイル内に挿通した音響チューブを介して連通させたことを特徴とする携帯型無線通信機。
【請求項2】
前記外筒の先端区間が前記有底キャップの内周面が嵌着する第1区間とそれより先端側で前記第1区間よりも小径の第2区間とからなり、前記有底キャップに設けた収音孔が、前記有底キャップの内周面が前記外筒の第1区間に嵌着した状態で、前記外筒の第2区間と前記有底キャップの内周面の間に構成される隙間に連通する位置に設けられている請求項1に記載の携帯型無線通信機。
【請求項3】
前記外筒の開放端に防水音響膜を覆設した請求項1又は2に記載の携帯型無線通信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型無線通信機による複信モードでの通信において、ハウリングを発生させることなくマイクロホンとスピーカによる通話を可能にするための、携帯型無線通信機におけるマイクロホン側の音響的配置構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特定小電力無線局や簡易無線局に係る携帯型無線通信機では、本体筐体にマイクロホンとスピーカが内蔵されていると共に、同筐体には小型タイピン状マイクロホンとイヤホンからなるオーディオ・アクセサリーやヘッドセット(マイク付きイヤホン・ヘッドホン)を接続するためのジャックも設けられており、単信モードでの通話においてはマイクロホンとスピーカを用いるが、複信モードではオーディオ・アクセサリーやヘッドセットが用いられる。
【0003】
ここで、複信モードにおいてオーディオ・アクセサリーなどを用いるのは、携帯型無線通信機ではマイクロホンとスピーカが小さな筐体内に組み込まれているため、如何にしてもハウリングの発生を回避できないからである。
すなわち、複信モードでの通信においては、無線通信機のスピーカからの音波がマイクロホンへ回り込むと共に、相手局のマイクロホン→自局のスピーカ→自局のマイクロホン→相手局のスピーカ→相手局のマイクロホン・・・という無線伝送路を介したループ経路が構成され、各無線通信機のマイクロホンアンプとスピーカアンプのゲインが加算されてループゲインが0dBを超えるとハウリングが発生するため、これをオーディオ・アクセサリーなどの使用によってスピーカからマイクロホンへの音波の回り込みを無くすることによりハウリングの発生を防止している。
【0004】
一方、前記音波の回り込みは所謂音響エコーを生じさせていることに外ならず、音響エコーキャンセラを適用してハウリングを防止する方式も一般的に採用されている。
この音響エコーキャンセラの原理は、スピーカに供給される信号を入力として音響エコー信号に模した信号(擬似エコー信号)を作り出し、音響エコー信号から擬似エコー信号を差し引くことで音響エコーを消去するものであり、下記特許文献1~4にあるように古くから様々な提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08-274689号公報
【特許文献2】特開平06-260972号公報
【特許文献3】特開平01-158860号公報
【特許文献4】特開昭62-116025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、音響エコーキャンセラの基本的構成は、図4に示されるように、適応フィルタ、エコーサプレッサ及びボイススイッチからなり、適応フィルタによりスピーカからマイクロホンに回り込む音響エコーを予測して除去する機能を有している。
また、エコーサプレッサは適応フィルタで除去できなかった音響エコーを抑制し、ボイススイッチはボイススイッチ制御部で制御されることで適切に音量を制御するようになっている。
【0007】
しかしながら、エコーサプレッサによる音響エコーの減衰量には限界があり、ハウリングを防止するためにボイススイッチでの音量制御を行わざるを得ない場合が多く、スピーカから大音量を出力させることができないという問題がある。
また、音響エコーキャンセラを用いると音声信号に歪が生じて聴き取りづらくなるという傾向がある。
【0008】
携帯型無線通信機相互のマイクロホンとスピーカを用いた複信モードでの通信におけるハウリング防止対策の基本は、スピーカからの音波が音響空間を介してマイクロホンに回り込む量を如何に抑制するかという点にある。
したがって、そのための手段としては、(1)スピーカとマイクロホンの間の距離を大きくしてマイクロホンが受ける音圧レベルを減衰させること、(2)マイクロホンの振動膜面がスピーカからの音波面の進行方向に対して垂直な関係になるようにすること、(3)スピーカの振動が筐体を介してマイクロホンに伝搬しないようにすること、(4)スピーカからの音波を直接的に受けない位置にマイクロホンを設置して回折減衰により音圧レベルを減衰させること等が考えられる。
【0009】
そこで、本発明は、前記ハウリング防止対策に鑑みて、携帯型無線通信機おけるスピーカに対するマイクロホンの音響的配置構成を工夫することにより、ハウリングを発生させることなく、マイクロホンとスピーカを用いた複信モードでの通話を可能にする携帯型無線通信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複信方式での通話機能を有し、略直方体状の本体筐体の正面に内蔵スピーカの音声出力孔が形成されていると共に、合成樹脂製の外筒にノーマルモード型ヘリカルアンテナを内蔵させたアンテナ部が前記本体筐体の上面に立設固定されており、前記アンテナ部の前記本体筐体に対する立設部を構成するアンテナベースに前記ヘリカルアンテナの最下部が給電点として接続されている携帯型無線通信機において、前記アンテナ部の先端部分が、先端を開放端とした合成樹脂製の外筒に対して周側壁に収音孔を設けた有底キャップを冠着することで前記外筒の開放端と前記有底キャップの内壁面に囲まれた空間が前記収音孔を通じて外部と連通した構成とされ、前記アンテナベースで保持させたマイクロホンエレメントと前記空間との間を前記ヘリカルアンテナのコイル内に挿通した音響チューブを介して連通させたことを特徴とする携帯型無線通信機に係る。
【0011】
本発明では、携帯型無線通信機において本体筐体のスピーカに対して最も遠い位置にあるのはアンテナ部の先端であるが、その先端部分に収音孔を設けると共に、アンテナ部が内蔵するノーマルモード型ヘリカルアンテナの内側が中空になっていることを利用して、収音孔側の空間とアンテナベース側に保持させたマイクロホンエレメントの間を、前記ヘリカルアンテナのコイルの内側に挿通させた音響チューブで連通させている。
したがって、スピーカとマイクロホンの音響的距離を可能な限り大きくしており、またアンテナ部分は携帯型無線通信機の本体筐体に対して独立した別筐体に相当するものであることから、スピーカからマイクロホンへの音波の回り込みと機械的振動の伝播を効果的に減じることができる。
【0012】
特定小電力無線局や簡易無線局に係る携帯型無線通信機では1/4波長のホイップアンテナが用いられるが、先端が閉じた合成樹脂製の外筒にノーマルモード型ヘリカルアンテナを内蔵させることで全長をより短くしており、10~15cm程度のものが多用されている。
ここで、音圧レベルの減衰はスピーカを点音源と仮定すると理論的には倍距離当たり6dBの減衰となるが、本体筐体にスピーカとマイクロホンが内蔵されている場合と、マイクロホンをアンテナ部の先端に内蔵させた場合とで比較すると、スピーカとマイクロホンの間の距離は後者の場合が前者の場合の凡そ4~6倍程度又はそれ以上になり、この第2の発明は前記音波の回り込みの防止に対してきわめて有効であるといえる。
【0013】
また、本発明においては、前記外筒の先端区間が前記有底キャップの内周面が嵌着する第1区間とそれより先端側で前記第1区間よりも小径の第2区間とからなり、前記有底キャップに設けた収音孔が、前記有底キャップの内周面が前記外筒の第1区間に嵌着した状態で、前記外筒の第2区間と前記有底キャップの内周面の間に構成される隙間に連通する位置に設けられている構成にすることが望ましい。
この場合、収音孔から入った音波は、外筒の第2区間と有底キャップの内周面の隙間を通じて、外筒の先端側から音響チューブへ侵入し、音響チューブ内を伝搬してマイクロホンエレメントへ至るという音響経路を辿る。
収音孔は外部空間と前記隙間を連通しているが、前記隙間が薄い筒状空間になっていることにより、空気の吹込みによるヘルツホルム共鳴音が発生することを回避できる。
【0014】
また、本発明においては、前記外筒の開放端に防水音響膜を覆設することで、収音孔から侵入した水が外筒の開放端から音響チューブを通じてマイクロホンへ浸入することを防止でき、合理的に防水機能を具備させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の携帯用無線通信機は、スピーカからマイクロホンエレメントへの音波の回り込みを有効に抑制できるマイクロホンエレメントの配置構成を適用し、その物理音響的条件により、複信モードでの通信においてハウリングを発生させない環境でのマイクロホンとスピーカを用いた通話を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る携帯型無線通信機の外観斜視図である。
図2】ホイップアンテナの側面図(A)、正面図(B)及び正面図(B)におけるW-W矢視断面図(C)である。
図3図2(C)におけるホイップアンテナの先端部分の拡大図である。
図4】音響エコーキャンセラの基本的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の携帯型無線通信機の実施形態について、図1から図3までを用いて詳細に説明する。
この実施形態に係る携帯型無線通信機の外観斜視図は図1に示され、複信通信での同時通話が可能な機能を備えている。
そして、この種の一般的な携帯型無線通信機と同様に、外観上は本体筐体50とアンテナ部51とツマミ52とその他各種操作ボタン類(図示せず)からなると共に、本体筐体50にはスピーカ53が内蔵されており、本体筐体50の正面側の筐体壁部にはスピーカ53の音声出力孔54が形成されている。
【0018】
この実施形態の特徴はホイップアンテナであるアンテナ部51の構成にあり、その詳細は図2に示される。
同図において、61は先端を開放端とした合成樹脂製の外筒、62は外筒61の先端部に冠着された有底キャップであり、この実施形態では有底キャップ62の周側壁に2つの収音孔63a,63bが形成されている。
【0019】
そして、図3はアンテナ部51の先端部分の拡大断面図[図2(C)と同一断面]である。
同図から明らかなように、外筒61の先端区間は、有底キャップ62の内周面が嵌着せしめられる第1区間61aと、それより先端側にあって第1区間61aよりも小径になっている第2区間61bとからなる。
なお、外筒61の第1区間61aはそれより下側にある部分よりも小径であり、その環状の段差部分61cが有底キャップ62の下端と当接するようになっている。
【0020】
一方、有底キャップ62は外筒61の第1区間61aに嵌着する内径を有した筒部と外側へ膨出した底部とからなり、その筒部の周方向に関する対称位置に前記収音孔63a,63bがそれぞれ形成されている。
そして、外筒61に有底キャップ62を冠着させた状態では、外筒61の第2区間61bと有底キャップ62の筒部の間に環状の隙間64が構成され、外筒61の先端の開放端と有底キャップ62の膨出した底部との間には半球状空間65が構成されるが、環状の隙間64の上側は半球状空間65と連通しており、前記収音孔63a,63bは隙間64の下側位置と連通する位置に形成されている。
また、図3に示されるように、外筒61の先端の開放端には防水音響膜66が接合貼着されており、外筒61の中空部67の上端が防水音響膜66で覆われている。
【0021】
ところで、外筒61の中空部67は、有底キャップ62の冠着部分の下側までは小内径になっているが、それより下側になると少し大きな中内径となり、本体筐体10への取付部付近になると外筒61の外径が徐々に大きくなるため、それに応じて内径も大きくなり、最下端側の区間には本体筐体10への取付部を兼ねているアンテナベースが内嵌固定されている。
そして、図2(C)に示すように、外筒61の中空部67には中内径区間からアンテナベース68までノーマルモード型ヘリカルアンテナ69が嵌挿されており、そのヘリカルアンテナ69はアンテナベース68の上側区間に巻回接続されており、その巻回接続部が給電点になっている。
【0022】
また、アンテナベース68は大径の上側中空部と小径の下側中空部とが形成された筒状構成になっており、その上側中空部で筒状のラバーホルダー70によって保持された態様で、MICエレメント71がその振動面を軸方向と垂直にして内嵌固定されており、MICエレメント71の出力信号線72はフレキシブルケーブルとして下側中空部を通じて本体筐体50の変調送信部(図示せず)へ導出されている。
【0023】
そして、そのような構成の下で、外筒61と有底キャップ62で構成された半球状空間65とアンテナベース68側のMICエレメント71との間が、外筒61の開放端に覆設した防水音響膜66を介して音響チューブ73で音響的に連通せしめられている。
なお、音響チューブ73はヘリカルアンテナ69のコイル内を貫通しており、上端側では外筒61の先端側の小内径区間に、下端側ではラバーホルダー70の孔内にそれぞれ挿入させた態様で固定されている。
【0024】
したがって、収音孔63a,63bから環状の隙間64へ入った音波は上側の半球状空間65へ伝搬し、防水音響膜66を介して音響チューブ73内を伝搬してMICエレメント71のダイヤフラムを振動させることになるが、本体筐体50側のスピーカ53に対してマイクロホンの収音孔63a,63bを少なくともアンテナ部51の長さに相当する距離だけ遠くしており、スピーカ53からMICエレメント71までの音響的距離についてみれば優にその2倍を超える距離となる。
【0025】
その結果、この実施形態の携帯型無線通信機によれば、スピーカ53の音波は著しく減衰したレベルでしか収音孔63a,63bに伝搬せず、且つ音響チューブ73の中でもその長さに相当する音響的距離分だけ減衰せしめられるため、スピーカからマイクロホンへの音声の回り込みに起因するハウリングの発生をきわめて有効に防止できる。
また、携帯型無線通信機のユーザにとっては、アンテナ部51の先端部に向かって話せばよく、使い勝手の点においても優れたものとなる。
また、MICエレメント71についても、本体筐体50とは別筐体に相当するアンテナ部51に内蔵されていることになるため、スピーカ53の音響的振動はもとより、機械的振動がMICエレメント71に伝搬してハウリングを誘発するような傾向も防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は複信モードでの通信が可能な携帯型無線通信機におけるハウリング防止手段として利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
50…携帯型無線通信機の本体筐体、51…アンテナ部、52…ツマミ、53…スピーカ、54…音声出力孔、61…外筒、61a…第1区間、61b…第2区間、61c…環状の段差部分、62…有底キャップ、63a,63b…収音孔、64…隙間、65…半球状空間、66…防水音響膜、67…外筒の中空部、68…アンテナベース、69…ノーマルモード型ヘリカルアンテナ、70…ラバーホルダー、71…MICエレメント、72…出力信号線、73…音響チューブ。
図1
図2
図3
図4