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特開2023-172993バルク弾性波デバイス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172993
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】バルク弾性波デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20231130BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H03H9/17 G
H03H9/17 F
H03H3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084910
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】安部 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 元
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB02
5J108CC02
5J108DD02
5J108EE03
5J108FF02
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM11
5J108MM14
(57)【要約】
【課題】簡易な加工プロセスで薄型化可能なバルク弾性波デバイス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】バルク弾性波デバイス100は、板状の圧電体10と、圧電体10を支持する支持基板20と、支持基板20を挟んで圧電体10と対向し、圧電体10にバルク弾性波を励起するための電圧が印加される一対の励振電極31,32と、圧電体10及び支持基板20を挟んで一対の励振電極31,32と対向する浮遊導体40と、を備える。支持基板20は、圧電体10が固定される第1の面21、及び、第1の面21の反対側に位置する第2の面22を有する。一対の励振電極31,32は、第2の面22に沿って互いに間隔を空けて配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の圧電体と、
前記圧電体が固定される第1の面、及び、前記第1の面の反対側に位置する第2の面を有し、前記圧電体を支持する支持基板と、
前記支持基板を挟んで前記圧電体と対向し、前記圧電体にバルク弾性波を励起するための電圧が印加される一対の励振電極と、
前記圧電体及び前記支持基板を挟んで前記一対の励振電極と対向する導体と、を備え、
前記一対の励振電極は、前記第2の面に沿って互いに間隔を空けて配置される、
バルク弾性波デバイス。
【請求項2】
前記支持基板が固定され、前記一対の励振電極が形成される励振基板をさらに備える、
請求項1に記載のバルク弾性波デバイス。
【請求項3】
板状の圧電体と、
前記圧電体が固定される第1の面、及び、前記第1の面の反対側に位置する第2の面を有し、前記圧電体を支持する支持基板と、
前記第1の面が向く方向に位置して前記圧電体と対向し、前記圧電体にバルク弾性波を励起するための電圧が印加される一対の励振電極と、
前記圧電体及び前記支持基板を挟んで前記一対の励振電極と対向する導体と、を備え、
前記一対の励振電極は、前記第1の面に沿って互いに間隔を空けて配置される、
バルク弾性波デバイス。
【請求項4】
前記圧電体は、水晶基板であり、
前記支持基板は、ガラス基板、又は、水晶基板である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のバルク弾性波デバイス。
【請求項5】
前記圧電体及び前記支持基板の各々は、ATカット水晶基板である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のバルク弾性波デバイス。
【請求項6】
前記圧電体の電気軸と前記支持基板の電気軸とのなす角度は、0°、90°、180°のいずれかである、
請求項5に記載のバルク弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のバルク弾性波デバイスの製造方法であって、
前記圧電体を前記支持基板に固定して複合基板を作製するステップと、
作製された前記複合基板を研磨して薄型化するステップと、
前記複合基板を研磨した後に、前記複合基板に前記導体を形成するステップと、を備える、
バルク弾性波デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク弾性波デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体に弾性波を励起する弾性波デバイスが知られている。例えば、特許文献1には、圧電体を挟んで対向する第1電極及び第2電極を励振電極として用いたバルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)デバイスが記載されている。このデバイスは、圧電体を支持する支持基板と、圧電体の支持基板とは反対側に設けられた多重勾配隆起フレーム構造物と、を備え、当該構造物により横方向エネルギーの漏洩を低減することを試みている。
【0003】
また、特許文献2には、圧電体を支持基板に貼り合わせた構造の弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)デバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-51527号公報
【特許文献2】特許第4657002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなデバイスは、例えば、周波数制御素子、センサ材料等として用いられ、近年、高周波化技術の重要性が増していることに伴い、薄型化が求められる。SAWデバイスに関しては特許文献2に記載のように、支持基板で機械的強度を保ちつつ薄型化が可能な技術が知られているが、SAWデバイスはBAWデバイスに比べて高周波化が困難である。しかしながら、特許文献1に記載のように、圧電体の両面に励振電極が形成され、さらに、多重勾配隆起フレーム構造物が形成されたBAWデバイスは、加工プロセスの複雑化を招く虞がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡易な加工プロセスで薄型化可能なバルク弾性波デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るバルク弾性波デバイスは、
板状の圧電体と、
前記圧電体が固定される第1の面、及び、前記第1の面の反対側に位置する第2の面を有し、前記圧電体を支持する支持基板と、
前記支持基板を挟んで前記圧電体と対向し、前記圧電体にバルク弾性波を励起するための電圧が印加される一対の励振電極と、
前記圧電体及び前記支持基板を挟んで前記一対の励振電極と対向する導体と、を備え、
前記一対の励振電極は、前記第2の面に沿って互いに間隔を空けて配置される。
【0008】
前記バルク弾性波デバイスは、前記支持基板が固定され、前記一対の励振電極が形成される励振基板をさらに備えていてもよい。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係るバルク弾性波デバイスは、
板状の圧電体と、
前記圧電体が固定される第1の面、及び、前記第1の面の反対側に位置する第2の面を有し、前記圧電体を支持する支持基板と、
前記第1の面が向く方向に位置して前記圧電体と対向し、前記圧電体にバルク弾性波を励起するための電圧が印加される一対の励振電極と、
前記圧電体及び前記支持基板を挟んで前記一対の励振電極と対向する導体と、を備え、
前記一対の励振電極は、前記第1の面に沿って互いに間隔を空けて配置される。
【0010】
前記圧電体は、水晶基板であり、
前記支持基板は、ガラス基板、又は、水晶基板であってもよい。
【0011】
前記圧電体及び前記支持基板の各々は、ATカット水晶基板であってもよい。
【0012】
前記圧電体の電気軸と前記支持基板の電気軸とのなす角度は、0°、90°、180°のいずれかであってもよい。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るバルク弾性波デバイスの製造方法は、
前記圧電体を前記支持基板に固定して複合基板を作製するステップと、
作製された前記複合基板を研磨して薄型化するステップと、
前記複合基板を研磨した後に、前記複合基板に前記導体を形成するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な加工プロセスで薄型化可能なバルク弾性波デバイス及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るバルク弾性波(BAW)デバイスの断面図。
図2】同上実施形態に係るBAWデバイスの平面図。
図3】支持基板にATカット水晶基板を用いた実施例に係る電気軸方向を説明するための図であり、圧電体の電気軸と支持基板の電気軸とのなす角度が(a)は0°の場合、(b)は90°の場合、(c)は180°の場合を示す図。
図4】(a)は比較例のインピーダンススペクトルを示し、(b)、(c)は各実施例のインピーダンススペクトルを示す図。
図5】(a)~(c)は、図4(b)、(c)に続く各実施例のインピーダンススペクトルを示す図。
図6図4及び図5のインピーダンススペクトルに基づく図であり、(a)はQ値を示し、(b)は共振時のインピーダンスを示す図。
図7】ATカット水晶基板である支持基板が発振することを示す図。
図8】比較例及び各実施例の周波数温度特性を示す図。
図9】理想的なATカット水晶振動子の温度特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
バルク弾性波(BAW)デバイス100は、図1図2に示すように、圧電体10と、支持基板20と、一対の励振電極31,32が形成された励振基板30と、浮遊導体40と、を備える。
【0018】
図1は、図2に示すA-A線に沿うBAWデバイスの断面図である。図1では、見易さを考慮し、励振電極31,32及び浮遊導体40以外の構成の断面を示すハッチングを省略した。また、図2の平面図では、支持基板20と励振基板30の間に位置する構成を破線で示した。
【0019】
圧電体10は、板状であり、μmオーダー(例えば、数十μm~数百μm)の厚さで形成される。圧電体10は、例えば、ATカット水晶基板から構成され、一例として、図2に示すように平面視で略円状に形成される。
【0020】
ATカット水晶基板に一対の励振電極31,32を介して交流電圧を印加すると、基板表面に対して平行な方向に振動する、厚みすべり振動モード(TSM:Thickness Shear Mode)が励起される。電場を印加した水晶基板には、逆圧電効果により歪みが生じ、また、電場を戻すことで歪みが解消される。このように電場のОNとOFFを繰り返すことで、水晶基板に厚みすべり振動を励起することができる。電場の印加から結晶の歪みが完了するまでには、所定の時間を必要とする。この時間は主に水晶基板の厚みで決定され、ATカット水晶基板の基本周波数F(MHz)と厚さt(mm)の関係式は、下記[数1]式のように表される。このときの印加電圧を振動電場として厚みすべり振動の周期と同期させることで,水晶基板を振動子として使用することができる。つまり、BAWデバイス100は、圧電体10の圧電効果により電気端子から見たインピーダンスが共振点付近で大きく変化することを利用したBAR(Bulk Acoustic Resonator)である。
【0021】
【数1】
【0022】
水晶振動子の共振周波数変化と吸着物質の質量変化の関係は、Sauerbreyの式と呼ばれる下記[数2]式より示される。式中、ΔFは水晶振動子の周波数変化量(Hz)、Fは水晶振動子の基本周波数(Hz)、Aは水晶基板に配置した薄膜電極の面積(cm)、μは水晶の弾性率(=2.947×1011gcm-1-2)、ρは水晶の密度(=2.648gcm-3)、Δmは電極に吸着した物質の質量(g)である。
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、[数2]式において、Δm/Aを単位面積あたりに吸着した物質の質量Δmとし、残りの定数項をKとおくと、次の[数3]式のように単純化できる。
【0025】
【数3】
【0026】
すなわち、水晶振動子の周波数変化を検出することで、電極上の吸着物質の質量変化の計測が可能である。[数2]式から、水晶振動子の基本周波数Fが高ければ、周波数変化量ΔFが大きくなり、より高感度な水晶振動子微量天秤(QCM:Quartz Crystal Microbalance)と呼ばれるセンサが得られる。また、[数1]式からは、水晶基板の厚さtが小さければ、基本周波数Fが高くなることがわかる。つまり、水晶振動子の高周波化、QCMの高感度化には、より薄い水晶基板が必要である。
【0027】
水晶基板だけを薄く研磨するには、その機械的強度の理由により限界がある。そこで、水晶基板を別の支持基板に張り付けて補強することで、より薄く研磨する方法が提案された。しかしながら、当該方法は、水晶基板をガラス基板に張り付けて研磨した後に、ガラス基板から研磨後の水晶基板を剥離させる必要があった。この方法では、水晶基板の取り外し、デバイスに実装する際の再固定といった工程が必要であるため、加工プロセスが複雑化する。以降で述べるように、BAWデバイス100は、研磨により薄型化した水晶基板(圧電体10)を支持基板20に固定したままで、励振させることが可能なデバイスである。
【0028】
支持基板20は、圧電体10を支持する基板であり、例えば、ATカット水晶基板、Zカット水晶基板、ガラス基板などから構成される。支持基板20は、μmオーダー(例えば、数十μm~数百μm)の厚さに形成される。支持基板20は、一例として、図2に示すように平面視で圧電体10よりも大きい矩形状に形成される。
【0029】
支持基板20は、圧電体10が固定される第1の面21(図1の上面)と、第1の面21の反対側に位置する第2の面22(図1の下面)と、を有する。
【0030】
圧電体10は、第1の面21に、接合及び貼り合わせの少なくともいずれかによって固定される。接合としては、例えば、オプティカルコンタクトを用いることができる。貼り合わせとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーンを介して圧電体10と支持基板20を貼り合わせることができる。なお、支持基板20への圧電体10の固定は、その他の公知技術を適宜用いてもよい。
【0031】
一対の励振電極31,32は、支持基板20を挟んで圧電体10と対向する。一対の励振電極31,32には、圧電体10にバルク弾性波を励起するための電圧が印加される。図1に示すように、一対の励振電極31,32は、第2の面22に沿って互いに間隔を空けて配置される。このように分割されたそれぞれの励振電極31,32が、浮遊導体40との間で逆位相に容量結合しており、二つの励振電極31,32にそれぞれ交流電圧を印加することで、圧電体10に振動を励起することが可能である。具体的に、励振電極31に繋がる配線31aと、励振電極32に繋がる配線32aとを介して、励振電極31,32に交流電圧が印加される。励振電極31,32には、周知の発振回路により交流電圧が印加される。発振回路の動作は、マイクロコントローラを含んで構成される制御部によって制御することができる。
【0032】
一例として、一対の励振電極31,32は、円形から、図2の縦方向に沿う帯形をくり抜くように分割された一方と他方のペアである。当該縦方向は、例えば、圧電体10を構成する水晶の結晶軸に沿うように設定される。
【0033】
励振電極31,32及び配線31a,32aは、例えば、励振基板30における支持基板20に向く面にパターニングされた、Au(金)、Cu(銅)等の導電体から形成される。励振基板30は、絶縁性を有し、例えばガラス基板などから構成される。励振基板30は、公知の固定方法により、支持基板20を支持する。
【0034】
なお、励振電極31,32及び配線31a,32aは、支持基板20の第2の面22にパターニングされていてもよい。
【0035】
浮遊導体40は、圧電体10及び支持基板20を挟んで一対の励振電極31,32と対向する。浮遊導体40は、例えば、圧電体10の上面(圧電体10における支持基板20に向く面の反対側に位置する面)にパターニングされた、Au(金)、Cu(銅)等の導電体から形成される。図2に示すように、浮遊導体40は、円状に形成され、一対の励振電極31,32と重なる位置に設けられる。
【0036】
浮遊導体40は、励振電極31,32から発生する電界を制御するために設けられる。浮遊導体40を設けない場合には電界が広がりすぎるが、浮遊導体40により、励振電極31,32との間に電界を集中させることができる。この電界を考慮すると、本願発明者らの研究により、BAWデバイス100について、以下(i)、(ii)を満たすことが好ましいと考えられる。なお、圧電体10及び支持基板20の合計厚さをTとする。(i)励振電極31と励振電極32の間の距離(図1図2の左右方向における間隔)は、合計厚さTの0.5倍から1.5倍程度である。(ii)浮遊導体40の外形である円の直径をDとし、一対の励振電極31,32の外縁に沿う円の直径をdとした場合、例えば、双方の円の中心は一致し、d≦D≦d+Tである。
【0037】
BAWデバイス100の構成は以上である。続いて、実施例として、圧電体10を支持基板20に固定し,支持基板20越しに励振可能であることを実証した実験を説明する。なお、上記実施形態と同様の機能を有する構成については、上記実施形態と同じ符号を用いて説明する。
【0038】
(実施例)
まず、実験に用いたBAWデバイス100をどのように構成したかについて説明する。
【0039】
(1.圧電体10及び励振基板30の作製工程)
圧電体10及び励振基板30については、フォトリソグラフィ法を基本とする半導体マイクロマシニング技術を用いて作製を行った。以下、圧電体10に浮遊導体40を形成する工程と、励振基板30に励振電極31,32及び配線31a,32aを形成する工程とは同様であるため、纏めて説明する。以下で用いる電極材料、電極パターンといった用語は、励振電極31,32だけでなく、配線31a,32a及び浮遊導体40を形成するための材料、パターンを含む。
【0040】
圧電体10には、直径12mm、厚さ100μmのATカット水晶基板(セイコー・イージーアンドジー株式会社)を用い、励振基板30には、縦22mm、横22mm、厚さ1.2mmのガラス基板を用いた。これらの基板を、アセトン(純正化学株式会社)およびエタコール(99 %変性アルコール,今津薬品工業株式会社)を使用して、超音波洗浄をそれぞれ3分間行った後、電極材料となるAu(金線99.95 %,株式会社ニラコ)を真空蒸着(VPC-260,アルバックテクノ株式会社)によって約100nm堆積させる。その際に、接着層として約30nmの厚さのCr(99.9 %,株式会社ニラコ)を堆積させる(工程1)。次に、フォトリソグラフィ法を用いて、Auを蒸着した各基板にレジストパターンを形成する。まず、フォトレジストと基板の密着性を上げるためにОAP(東京応化工業)を塗布し、感光性樹脂であるポジ型フォトレジスト(OFPR-800 LB 54 cp,東京応化工業)を塗布する。ОAPとフォトレジストの塗布にはスピンコータ(MS-A100,ミカサ株式会社)を用い、3000rpmで20秒の条件でスピンコートする。その後、高温炉によって90℃で15分程度プリベークを行う(工程2)。次に、電極パターンを転写させたフォトマスクを通して各基板にマスクアライメント装置(M-1S型,ミカサ株式会社)を使用して、紫外線露光を90秒間行い、基板上のレジストに電極パターンを転写する(工程3)。この基板を、現像液(NMD-3,東京応化工業)を用いて感光部のレジストを除去した後、高温炉によって100℃で30分ポストベークを行う(工程4)。その後、Auエッチング液、Crエッチング液を用いて、Au,Crの順に除去する(工程5)。最後に、パターン上に残ったレジストを除去するために、アセトン、エタコールの順に超音波洗浄を行い、電極形状を得る(工程6)。
【0041】
(2.圧電体10の支持基板20への固定方法)
圧電体10の支持基板20への仮固定は、メタノールを用いたオプティカルコンタクトで行った。オプティカルコンタクトとは、接着剤などを使用せずに接合する技術である。オプティカルコンタクトによる接合は、水晶およびガラス基板表面のファンデルワールス力や、水分の吸着により基板表面に形成されたシラノール基(Si-OH)の水素結合力によるものであると考えられている。圧電体10と支持基板20をアセトン及びエタコールで超音波洗浄した後、支持基板20上にメタノール(純正化学株式会社)を0.5μL滴下し、その上に圧電体10を置くことで固定した。
【0042】
圧電体10の支持基板20への固定には、オプティカルコンタクト以外に、PDMS(SILPOT 184, Dow Coming Corp)による接着固定を行った。PDMSは主剤と硬化剤を10:1(w/w)で調合したものを、ヘキサン(純正化学株式会社)でさらに希釈する。希釈したPDMSを3000rpm、15秒の条件で支持基板20上にスピンコートし、15分間脱気する。脱気完了後、PDMSが塗布された支持基板20上に水晶振動子を置き、高温炉で90℃、1時間ベークを行うことで接着固定した。なお、ヘキサンでの希釈は100,25,15,10,6倍(w/w)の倍率で行い、接着後にそれぞれ評価した。
【0043】
(3.実験で用いた支持基板20)
支持基板20には、板厚が100μmのガラス基板(旭テクノガラス)、ATカット水晶基板(セイコー・イージーアンドジー株式会社)、Zカット水晶基板(シチズンファインデバイス)を使用した。
【0044】
ここで、水晶の化学組成はSiО2であり、三方晶系に属し、六角柱の中心軸がZ軸である。Z軸に対して垂直な六面プリズムの断面(六角形)の対角線を結ぶ軸がX軸であり、これを「電気軸」と呼ぶ。また、X軸に垂直なY軸は、「機械軸」と呼ばれる。X軸に対して垂直に切り出した水晶基板はXカット、Y軸に対して垂直に切り出した水晶基板はYカット、Z軸に垂直に切り出した水晶基板はZカットと呼ばれる。特に、YカットをX軸周りに回転させてZ軸とのなす角を35°15’とした水晶基板をATカットと呼ぶ。
【0045】
図3(a)~(c)に、圧電体10及び支持基板20の各々にATカット水晶基板を用いた場合の、圧電体10の電気軸10a(X軸)と支持基板20の電気軸20a(X軸)とのなす角度の関係の例を示す。なお、図3(a)~(c)では、圧電体10の電気軸10aが向く方向を実線の矢印で、支持基板20の電気軸20aが向く方向を破線の矢印で表している。
【0046】
ATカット水晶基板は結晶軸の方向に傾きがあるため、電気軸10aと電気軸20aのなす角をθとすれば、θに応じてその特性に違いが生じることが予想される。そのため、ATカット水晶基板を支持基板20として用いる場合は、θ=0°、90°、180°の3パターンで評価した。図3(a)はθ=0°、図3(b)はθ=90°、図3(c)はθ=180°の場合を示している。
【0047】
また、比較例として支持基板20が無い状態でも測定を行った。一対の励振電極31,32と浮遊導体40の距離を、支持基板20が有る状態の条件と合わせるため、支持基板20が無い比較例においては、100μmのスペーサを用意し、圧電体10と励振基板30の間に気相を設けた。
【0048】
(4.実験系の構成)
励振電極31,32を発振回路に接続し、周波数カウンタ(Agilent53131A 225 MHz ユニバーサルカウンタ,KEYSIGHT TECHNOLOGIES)を用いて周波数を測定した。このとき、回路への電源供給には、直流安定化電源(AND AD-8735D,エー・アンド・デイ)を用いた。また、測定対象のBAWデバイス100をホットプレート(デジタルホットプレート722A-1,アズワン)上に設置した。ホットプレートは、周波数温度特性の評価時の温度制御に用いた。また、インピーダンス測定を行う際は、インピーダンスアナライザ(Network / Spectrum / Impedance Analyzer 4395A,KEYSIGHT TECHNOLOGIES)に励振電極31,32を接続して測定した。
【0049】
(5.評価方法)
(共振周波数安定性)
発振回路にBAWデバイス100、周波数カウンタで共振周波数を測定した。60秒間の共振周波数のばらつきから標準偏差σを算出し、その3倍の値である3σを安定性の指標として評価を行った。
【0050】
(インピーダンスアナライザ)
BAWデバイス100を、インピーダンステストキット(43961A,KEYSIGHT TECHNOLOGIES)およびテストフィクスチャ(16192A,KEYSIGHT TECHNOLOGIES)を介して、インピーダンスアナライザに接続した。インピーダンスアナライザによって、共振周波数付近のインピーダンススペクトルを測定し、これにより共振時のインピーダンスおよびQ値を得た。
【0051】
(周波数温度特性)
BAWデバイス100の温度を赤外線サーモグラフィカメラ(InfRec H2640,日本アビオニクス株式会社)を用いて確認しながら、ホットプレートでBAWデバイス100を20℃から100℃まで5℃刻みに加熱し、各温度における共振周波数を周波数カウンタで測定した。測定値は、室温(11℃)における共振周波数に対する変化率としてグラフ上にプロットし、支持基板20による違いを評価した。
【0052】
(6.結果と考察)
以下では、圧電体10をPDMSで支持基板20に接着固定したBAWデバイス100の実験結果を述べる。なお、圧電体10をオプティカルコンタクトで支持基板20に固定したBAWデバイス100についても同様の実験を行い、PDMSの場合と同様の結果が得られたが、測定結果のばらつきが生じたため、ここでは割愛する。当該ばらつきは,オプティカルコンタクトによる固定状態の再現性が乏しいことが原因として考えられる。
【0053】
(PDMSによる接着固定条件の検討)
接着固定には,ヘキサンにより100,25,15,10,6倍(w/w)の倍率で希釈したPDMSを用いた。ガラス基板と水晶振動子を接着固定させると、100倍から15倍希釈の条件では、ベーク後すぐに水晶振動子が外れる結果となった。一方で、10倍および6倍希釈の条件では、ベーク後、完全に水晶振動子が接着固定された。発振可能性については、10倍希釈の場合,インピーダンススペクトル上で明らかな共振点が見られ、発振していることがわかった。しかし、6倍希釈の場合、インピーダンススペクトル上に明確なピークが確認できず、発振は難しいと判断した。これは、6倍希釈の場合ではPDMS接着層が厚く,弾性体として働き、振動エネルギーが減衰していることが原因であると考えられる。一方で、10倍希釈であれば、水晶振動子が発振するのに十分な厚さに制御できることがわかった。以下は、水晶振動子(圧電体10)を10倍希釈したPDMSで支持基板20に接着固定したBAWデバイス100の実験結果である。
【0054】
(共振周波数安定性)
支持基板20の種類を変更した各実施例と、支持基板なし(Without substrate)の比較例の共振周波数安定性を[表1]に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
[表1]によれば、支持基板なしの条件に対して全体的に共振周波数安定性の低下が見られる。各実施例に用いたPDMSは、発振する上では十分な薄さではあるが、安定性の低下に鑑みると、弾性体として影響していることが考えられる。また、各実施例においては、Zカット水晶基板を支持基板20として用いた場合のみ安定性の低下が見られた。これは、Zカット水晶基板が厚み方向へ振動していることが原因だと考えられる。
【0057】
(インピーダンススペクトル測定)
図4(a)に支持基板なしの比較例、図4(b)、(c)及び図5(a)~(c)に各実施例のインピーダンススペクトルを示す。各図においては、縦軸がインピーダンスと位相、横軸が共振周波数を基準に正規化した周波数である。また、各図中の実線がインピーダンススペクトル、点線が位相を示している。各図を見ると、θ=180°の実施例(図5(b))のみ、位相が-90°から90°の範囲で変化していることがわかる。ここで、校正用に市販のQCM(Quartz Crystal Microbalance)を用いてインピーダンススペクトルを測定したところ、位相が-40°から140°の範囲で変化した。この位相の変化は、θ=180°の条件以外の測定結果と同様であった。このことから,ATカット水晶基板を支持基板20として用いたとき、水晶振動子(圧電体10)との結晶軸の方向が揃っていないθ=180°の条件では、特異的な発振をしていることが考えられる。結晶軸方向がθ=0°の条件のように揃っている場合、電場が印加されると、上下のATカット水晶基板(圧電体10及び支持基板20)が同一方向に発振すると考えられる。一方で、結晶軸方向がθ=180°の条件の揃っていない場合、上下のATカット水晶基板(圧電体10及び支持基板20)が逆位相で振動する。この逆位相の振動が同期することで特異的な発振が生み出されていると推測される。
【0058】
次に、測定されたインピーダンススペクトルを基に算出したQ値を図6(a)に、共振時のインピーダンスを図6(b)に示す。
【0059】
支持基板なしの条件(比較例)では、100μm分の空気層を挟んでいるため、誘電体であるガラスや水晶基板を支持基板20として用いている他の条件と比較し、インピーダンスが高いことが確認できる。
【0060】
また、比較例以外の各実施例でQ値の比較を行うと、支持基板20がガラス基板である場合よりも、支持基板20が水晶基板である場合の方がより高いQ値を示している。これは、支持基板20の結晶が等方性か異方性かによって差が生じていると考えられる。ガラスは等方性、つまり結晶方向にばらつきがある。そのため、励振電極31,32から発生する電界がガラス基板内を通過すると様々な方向に分極が生じ、電界が分散してしまう。一方で、水晶基板は異方性であるため、励振電極31,32から発生した電界は支持基板20内で分散せず、上部の水晶振動子(圧電体10)に到達することができる。等方性材料であるガラス基板を支持基板20として用いた場合は,電界の分散による電界強度の低下のためQ値が低くなると考えられる。
【0061】
支持基板20にATカット水晶基板を用いた各条件を比較すると、θ=0°、180°の条件で高いQ値を示していることがわかる。また、支持基板20に水晶基板を用いた各条件を比較すると、Zカット水晶基板が最も高いQ値を示した。前述の通り、支持基板のATカット水晶基板は,電場を印加した際に発振していることが考えられる。その根拠を図7に示す。図7は、上下のATカット水晶基板(圧電体10及び支持基板20)のX軸の関係を、θ=0°の条件とした際に測定されたインピーダンススペクトルである。スペクトル上にピークが2点確認できる。このことから、上下のATカット水晶基板(圧電体10及び支持基板20)が同時に発振していることがわかる。ATカット水晶基板を支持基板20に用いた場合には支持基板20も同時に発振することがから、エネルギー損失があり、Zカット水晶基板を支持基板20に用いた場合よりもQ値が低くなると考えられる。
【0062】
(周波数温度特性)
前述の比較例及び各実施例の周波数温度特性を図8に示す。ただし、支持基板20にZカット水晶基板を用いた実施例については、温度が95℃付近から急激に周波数が上昇し、不安定であったため、90C°を超えるデータを省略している。図中には、10℃から70℃における周波数温度特性の拡大図を示した。また、水晶およびガラスの熱膨張係数を[表2]に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
支持基板20にATカット水晶基板を用い、条件がθ=0°、180°の場合、熱膨張の方向が支持基板20と水晶振動子(圧電体10)で同じであるため、支持基板20なしの条件とほぼ同一の周波数温度特性が得られた。一方で、条件がθ=90°の場合では、支持基板20なしの条件よりも温度に対する周波数変化率は小さく、60℃までは周波数変化がほとんど見られなかった。ここで、理想的なATカット水晶振動子の温度特性を図9に示す。図9は、X軸周りに54°付近の角度でカットされた水晶振動子(共振周波数2690 kHz)の温度特性を示したものであり、準静的な温度変化に限るが、常温付近での温度変化率が最も小さいと考えられている。この理想的な温度特性と比較すると、10℃から70℃の範囲において、図8中の拡大図におけるθ=90°の実施例の結果と、図9中の曲線4がほぼ一致していることがわかる。このことから、上下のATカット水晶基板(圧電体10及び支持基板20)のX軸の関係を、θ=90°の条件とすることで、熱膨張の観点において、異方性から等方性的な性質に変化し、ATカット水晶の理論値に近い温度特性を得ることができると考えられる。
【0065】
次に、支持基板20として、ガラス基板、Zカット水晶基板を用いた際の周波数温度特性を評価する。ガラス基板及びZカット水晶基板は、ATカット水晶振動子と熱膨張係数が異なるため、支持基板20なしの条件と比較して、温度に対する周波数変化率は大きくなった。特に、等方性材料であるガラス基板を支持基板20に用いた場合では、より顕著にその差が表れた。常温で使用する場合、支持基板20として、ガラス基板、Zカット水晶基板を用いても問題ないが、高温環境での使用においてはATカット水晶基板を支持基板20として用いることが好ましいことが分かる。
【0066】
(まとめ)
以上を踏まえると、BAWデバイス100の使用環境に応じて、支持基板20を適宜選択すればよい。Q値から判断すると、支持基板20としては、異方性材料であるATカット水晶基板、Zカット水晶基板を用いることが好ましく、より高いQ値を求めるのであればZカット水晶基板がより好ましい。高温環境での使用においては、支持基板20として、ATカット水晶基板を用いることが好ましい。価格面で考えるのであれば、支持基板20はガラス基板であることが好ましい。総合すると、様々な環境での使用が考えられる場合には、支持基板20はATカット水晶基板であることが好ましい。
【0067】
IоT、5G(第5世代移動通信システム)からその先の技術、スマートフォンを含む通信機器などのキーデバイスが水晶発振回路であるが、以上で述べたBAWデバイス100の励振技術によれば、水晶振動子から支持基板20を剥離させることなく発振させることが可能である。これは、薄型化した水晶振動子の取り扱い性に関して、支持基板20に固定した状態で発振できる点で有利であり、様々な超薄型水晶デバイスへの応用に期待される。
【0068】
(1)以上に説明したBAWデバイス100は、圧電体10と、圧電体10を支持する支持基板20と、支持基板20を挟んで圧電体10と対向する一対の励振電極31,32と、圧電体10及び支持基板20を挟んで一対の励振電極31,32と対向する浮遊導体40と、を備える。そして、一対の励振電極31,32は、支持基板20の第2の面22に沿って互いに間隔を空けて配置される。
この構成によれば、一対の励振電極31,32を圧電体10の片方(図1の下方)にのみ設ければよく、しかも支持基板20を介して圧電体10を励振させることができる。したがって、圧電体10を支持基板20に固定したまま、ウェハーレベルで研磨し薄型化を図った上で、一対の励振電極31,32及び浮遊導体40をパターニングする手順で、BAWデバイス100の製造が可能である。つまり、BAWデバイス100によれば、簡易な加工プロセスで薄型化可能である。
【0069】
(2)BAWデバイス100は、支持基板20が固定され、一対の励振電極31,32が形成される励振基板30をさらに備えていてもよい。
この構成によれば、BAWデバイス100の目的及び用途に応じて、励振基板30を容易に変更することができる。また、励振基板30に固定された支持基板20により、圧電体10の振動姿態の電気機械結合係数を高めることができる。なお、BAWデバイス100は、上記(2)の構造に限られず、一対の励振電極31,32が支持基板20の第2の面22に直接形成された構造であってもよい。
【0070】
(3)変形例として、励振電極31,32と浮遊導体40の上下関係が、図1と逆であってもよい。つまり、BAWデバイス100において、一対の励振電極31,32は、第1の面21が向く方向(図1の上方)に位置して圧電体10と対向し、第1の面21に沿って互いに間隔を空けて配置されてもよい。この場合、浮遊導体40は、第2の面22が向く方向(図1の下方)に位置し、圧電体10及び支持基板20を挟んで一対の励振電極31,32と対向する。
上記(3)の構成では、例えば、圧電体10に一対の励振電極31,32を形成し、支持基板20の第2の面22に浮遊導体40を形成すればよい。上記(3)の構成によっても、上記(1)の構成と同様に圧電体10を支持基板20に固定したまま、ウェハーレベルで研磨し薄型化を図った上で、一対の励振電極31,32及び浮遊導体40をパターニングする手順が実現可能であるので、簡易な加工プロセスで薄型化可能である。
【0071】
(4)BAWデバイス100において、圧電体10は、水晶基板であり、支持基板20は、ガラス基板、又は、水晶基板であってもよい。
より良好なQ値を得たいのであれば、支持基板20として、異方性材料であるATカット水晶基板、Zカット水晶基板などの水晶基板を用いることができる。また、価格面を考えるのであれば、支持基板20として、ガラス基板を用いることができる。このように、BAWデバイス100の使用環境に応じて、支持基板20を適宜選択することができる。
【0072】
(5)BAWデバイス100において、圧電体10及び支持基板20の各々は、ATカット水晶基板であってもよい。
この構成は、Q値及び高温環境での使用の双方を踏まえ、様々な環境での使用が考えられる場合に好ましい。
【0073】
(6)上記(5)に記載のBAWデバイス100において、圧電体10の電気軸10aと支持基板20の電気軸20aとのなす角度θは、0°、90°、180°のいずれかであってもよい。
θ=0°、180°とすれば、より高いQ値を得ることができる。また、θ=90°とすれば、熱膨張の観点において、ATカット水晶の理論値に近い温度特性を得ることができ、スプリアスを低減することができる(実質的にスプリアスをゼロとすることができる)。
【0074】
(7)以上のBAWデバイス100は、圧電体10を支持基板20に固定したまま励振させることができるため、以下の(7a)~(7c)に記載のステップを備える製造方法により製造可能である。当該製造方法は、支持基板20を圧電体10から剥離する工程が不要である。
【0075】
(7a)圧電体10を支持基板20に固定して複合基板を作製する複合基板作製ステップ。
なお、圧電体10の支持基板20への固定は、前述のように、貼り合わせ及び接合の少なくともいずれかの手法を用いることができる。
【0076】
(7b)複合基板作製ステップで作製された前記複合基板を研磨して薄型化する研磨ステップ。
研磨としては、公知の研磨手法を用いることができるが、例えば、遊星回転運動を用いた研磨機を用い、研削、ポリシングの上、目的の厚さの複合基板を得ることができる。なお、この研磨ステップにおいて、複合基板の圧電体10側だけでなく、支持基板20側も研磨してもよい。
【0077】
(7c)研磨ステップで複合基板を研磨した後に、複合基板に浮遊導体40を形成する導体形成ステップ。
上記(1)の構成のBAWデバイス100を製造する際は、導体形成ステップにおいて、複合基板における圧電体10に浮遊導体40を形成すればよい。また、当該導体形成ステップで、複合基板における支持基板20の第2の面22に励振電極31,32を併せて形成してもよい。また、支持基板20に励振電極31,32を設けない場合は、励振電極31,32が形成された励振基板30を用意し、この励振基板30に複合基板を固定すればよい。
上記(3)の構成のBAWデバイス100を製造する際は、導体形成ステップにおいて、複合基板における支持基板20に浮遊導体40を形成すればよい。また、当該導体形成ステップで、複合基板における圧電体10(図1に示す圧電体10の上面)に励振電極31,32を併せて形成してもよい。
【0078】
(7a)~(7c)のステップの後、複合基板を所望の形状に裁断するステップを実行し、BAWデバイス100を製造することができる。
【0079】
本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。
【0080】
(変形例)
BAWデバイス100を構成する各部の形状(当該形状は厚さ及び大きさを含む)及び材料は、上記のようにBAW(バルク弾性波)を発生させることができる限りにおいては、任意に変更可能である。例えば、励振電極31,32、配線31a,32a及び浮遊導体40の形状及び材料は、上記の例に限定されるものではなく、任意に変更可能である。
【0081】
また、例えば、圧電体10に対して支持基板20の厚さを大きく設定し、支持基板20を水晶基板とした場合の圧電体10との共振を防止したり、機械的強度をより確保したりしてもよい。さらに、圧電体10及び支持基板20からなる複合基板をさらに固定する固定用基板は、圧電体10及び支持基板20よりも充分に大きな厚さを有していてもよい。当該固定用基板は、前述の励振基板30であってもよいし、励振電極31,32を支持基板20に形成する場合は、固定専用の基板であってもよい。また、支持基板20における圧電体10が固定される領域(以下、固定領域と言う。)以外は、平坦面でなくともよい。例えば、支持基板20における固定領域以外の任意の部分に凹凸を設けることで、共振を防止してもよい。また、圧電体10、支持基板20、励振基板30の各々は、平らな板状(薄膜状も含む。)に限られず、上記のようにBAWを発生させることができる限りにおいては、湾曲した板状(薄膜状も含む。)であってもよい。
【0082】
BAWデバイス100の用途は任意であり、BARフィルタ、QCMなどであればよい。また、浮遊導体40(浮遊電極)の代わりに、接地された導体(接地電極)を用いることも可能である。このような接地電極を用いることで、BAWデバイス100を例えばBARフィルタとして構成してもよい。また、圧電体10は、(i)LiTaO3(タンタル酸リチウム)、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)、KNbO3(ニオブ酸カリウム)などの水晶以外の圧電単結晶、(ii)Pb(Zr,Ti)O3(チタン酸ジルコン酸鉛)系、PbTiO3(チタン酸鉛)系などの強誘電体セラミクス、(iii)AlN(窒化アルミニウム)、ZnO(酸化亜鉛)などの圧電薄膜材料などであってもよい。さらに、BAWデバイス100に用いられる振動モードは、周波数に応じて変更可能であるため、厚みすべり振動モード(TSM)に限られない。例えば、LF(Low Frequency)帯では、板の屈曲振動、長さ方向振動あるいは棒の伸び振動、ねじれ振動が可能である。例えば、MF(Medium Frequency)帯では、円板、角板の拡がり振動が可能である。例えば、HF(High Frequency)帯以上では厚みたて振動、厚みすべり振動が可能である。また、目的を達成することができる限りにおいては、支持基板20も、これらの圧電体のうちから選択可能であると考えられる。さらに、圧電体10及び支持基板20から構成される複合基板において、励振電極31,32を介した電圧の印加によって、圧電体10だけでなく支持基板20も励振可能とするか否かは、目的に応じて任意である。例えば、支持基板20も圧電体とし、圧電体10と支持基板20の各々を逆位相の振動子として構成することも可能である。
【0083】
圧電体10及び支持基板20の少なくともいずれかに用いることが可能な水晶基板は、ATカット水晶基板に限られず、BTカット水晶基板、SCカット水晶基板などであってもよい。また、支持基板20としてガラス基板を用いる際、その構成は、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、石英ガラスなど任意であり、公知のガラス材料を含む基板であればよい。
【0084】
圧電体10を支持基板20に貼り合わせる際に用いる接着層は、PDMSに限られず任意であり、スピンオングラス、アルミナなどの任意の接着剤であってもよい。
【0085】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【0086】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0087】
100…バルク弾性波(BAW)デバイス
10…圧電体、10a…電気軸
20…支持基板、20a…電気軸、21…第1の面、22…第2の面
30…励振基板、31,32…励振電極、31a,32a…配線
40…浮遊導体(導体の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9