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特開2023-172997触媒の製造方法、触媒、及び燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172997
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】触媒の製造方法、触媒、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20231130BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20231130BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20231130BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231130BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J37/34
B01J37/12
B01J37/16
H01M4/86 B
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084917
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 啓
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航太
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA36A
4G169BC29A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC66B
4G169BC69A
4G169BC75B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EC04Y
4G169EC27
4G169FB06
4G169FB13
4G169FB40
4G169FB44
4G169FB58
4G169FB79
4G169FC04
4G169FC09
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB05
5H018BB12
5H018BB17
5H018EE03
5H018EE05
5H018HH06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高性能な触媒を工業的に量産する。
【解決手段】触媒の製造方法である。酸性溶液に、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体を分散させ、前記酸性溶液に、貴金属部材を浸漬した状態とし、前記酸性溶液に、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性溶液に、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体を分散させ、
前記酸性溶液に、貴金属部材を浸漬した状態とし、
前記酸性溶液に、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込む、触媒の製造方法。
【請求項2】
前記酸性溶液を攪拌する、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記酸化性ガスは、O、NO(xは1以上2以下の整数)、NO、CO、及び空気からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は請求項2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記還元性ガスは、水素、アンモニア、炭化水素、及びCOからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は請求項2に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
前記原料微粒子の少なくとも1つを溶解させて微少化するとともに、溶解により生じた金属イオンから新生微粒子を前記カーボン担体上に生成させる、請求項1又は請求項2に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記貴金属部材の開回路電位の変動による、電位サイクルを可能とし、
前記第1ガスにおける前記酸化性ガスの濃度、前記第1ガスの供給速度、及び前記電位サイクルの1サイクル当たりの前記第1ガスの供給量からなる群より選択される少なくとも1種以上を調整することで、前記開回路電位を制御する、請求項3に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
前記貴金属部材の開回路電位の変動による、電位サイクルを可能とし、
前記第2ガスにおける前記還元性ガスの濃度、前記第2ガスの供給速度、及び前記電位サイクルの1サイクル当たりの前記第2ガスの供給量からなる群より選択される少なくとも1種以上を調整することで、前記開回路電位を制御する、請求項4に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記貴金属部材の開回路電位の変動を、標準水素電極基準で0V以上1.0V以下の電位の間で繰り返すことで生じる、電位サイクルを伴った、請求項1又は請求項2に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
酸性溶液に、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体を分散させ、
前記酸性溶液に、貴金属部材を浸漬した状態とし、
前記酸性溶液に、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込んで製造された触媒。
【請求項10】
請求項9に記載の触媒を備える、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触媒の製造方法、触媒、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性溶液中に、触媒を浸漬するとともに、電位を変動させる化学種を存在させることで、触媒を活性化する先行技術が開示されている(例えば、特許文献1-4参照)。その代表として特許文献4のPt-パラジウム合金の高活性化処理法がある。これは、コア金属としてパラジウムを用いた白金コアシェル触媒の調製手法である。いずれの文献でも白金以外に、電位供与する化学物質が不可欠であり、かつコアシェル形態の最適化が主目的とされている。
また、酸性溶液中に不活性ガス、酸化性ガス、還元性ガスを流通させることで、溶液中に分散させたPt合金粒子表面の電位を制御し、活性化させる手法も提案されている(特許文献5参照)。この文献は合金形態の最適化を目的としたものである。
また、簡素化された手法で高活性の貴金属微粒子担持触媒を製造する手法も開示されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-000398号公報
【特許文献2】特開2016-131964号公報
【特許文献3】特開2017-029967号公報
【特許文献4】特開2020-145154号公報
【特許文献5】国際公開第2015/09818号公報
【特許文献6】特開2021-94529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、先行技術では、一度に処理可能な触媒量は少量であるため工業生産に向いておらず、新しい手法の開発が切望されている。
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般的な金属ナノ粒子の合成法では、均一分布かつ1nm以下のナノ粒子触媒を調製することは、化学的、物理的にも非常に難しい。また、一般的な金属ナノ粒子の合成法は、工業生産に不利である。
触媒を例えば、電極触媒(例えば燃料電池の電極触媒)として利用する場合、その粒子径を小さくするほど比表面積は大きくなり、触媒能力、言い換えれば触媒活性は向上すると予測される。しかし、粒子径を小さくすると、触媒を例えば燃料電池に用いた場合、発電反応中に高分散担持された触媒である金属ナノ粒子が担体上で劣化してしまう。金属ナノ粒子は、オストワルド成長による凝集・粗大化が起こり、劣化してしまうのである。粒子径が小さい程、比表面積が大きくなり、表面エネルギーも大きくなるため、劣化の度合いが強くなる。すなわち、金属ナノ粒子の活性と、耐久性とは、トレードオフの関係にある。
本開示は、高活性及び耐久性が両立した高性能な触媒を、工業的に量産することを目的とする。
本開示の手段を以下に示す。
[1]酸性溶液に、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体を分散させ、
前記酸性溶液に、貴金属部材を浸漬した状態とし、
前記酸性溶液に、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込む、触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の製造方法は、高性能な触媒を工業的に量産できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】Pt粒子のオストワルド成長を示す概念図である。
図2】サブナノサイズPt粒子の形成メカニズムを示す概念図である。
図3】固体高分子形燃料電池の一例の模式図である。
図4】触媒の製造装置の一例の開回路電位処理用セルの模式図である。
図5】Hガス及びOガスバブリング中の時間と電位変動の関係を示すグラフである。
図6】Hガス及びOガスバブリング中の時間と電位変動の関係を示すグラフである。
図7】Hガス及びOガスバブリング中の時間と電位変動の関係を示すグラフである。
図8】Hガス及びOガスバブリング中の時間と電位変動の関係を示すグラフである。
図9】Hガス及びOガスバブリング中の時間と電位変動の関係を示すグラフである。
図10】Hガス及びOガスバブリング中の時間と電位変動の関係を示すグラフである。
図11】電位サイクル処理前後のPt/PMF(Pt/N-Fe-C)のTEM像である。
図12】サイクル数とORR初期活性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の他の例を示す。
[2]
前記酸性溶液を攪拌する、[1]に記載の触媒の製造方法。
[3]
前記酸化性ガスは、O、NO(xは1以上2以下の整数)、NO、CO、及び空気からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の触媒の製造方法。
[4]
前記還元性ガスは、水素、アンモニア、炭化水素、及びCOからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の触媒の製造方法。
[5]
前記原料微粒子の少なくとも1つを溶解させて微少化するとともに、溶解により生じた金属イオンから新生微粒子を前記カーボン担体上に生成させる、[1]又は[2]に記載の触媒の製造方法。
[6]
前記貴金属部材の開回路電位の変動による、電位サイクルを可能とし、
前記第1ガスにおける前記酸化性ガスの濃度、前記第1ガスの供給速度、及び前記電位サイクルの1サイクル当たりの前記第1ガスの供給量からなる群より選択される少なくとも1種以上を調整することで、前記開回路電位を制御する、[3]に記載の触媒の製造方法。
[7]
前記貴金属部材の開回路電位の変動による、電位サイクルを可能とし、
前記第2ガスにおける前記還元性ガスの濃度、前記第2ガスの供給速度、及び前記電位サイクルの1サイクル当たりの前記第2ガスの供給量からなる群より選択される少なくとも1種以上を調整することで、前記開回路電位を制御する、[4]に記載の触媒の製造方法。
[8]
前記貴金属部材の開回路電位の変動を、標準水素電極基準で0V以上1.0V以下の電位の間で繰り返すことで生じる、電位サイクルを伴った、[1]又は[2]に記載の触媒の製造方法。
[9]
酸性溶液に、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体を分散させ、
前記酸性溶液に、貴金属部材を浸漬した状態とし、
前記酸性溶液に、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込んで製造された触媒。
[10]
[9]に記載の触媒を備える、燃料電池。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.触媒の製造方法
本開示の触媒の製造方法は、酸性溶液に、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体を分散させる。本開示の触媒の製造方法では、酸性溶液に、貴金属部材を浸漬した状態とし、酸性溶液に、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込む(バブリングする)。
【0011】
(1)酸性溶液
酸性溶液は、特に限定されない。酸性溶液は、過塩素酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液、及び塩酸水溶液からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。ここで、少なくとも1種以上とは、ここに挙げられた酸性溶液を2種以上混合して用いてもよいことを意味している。
酸性溶液が過塩素酸水溶液の場合には、原料微粒子の微細化促進の観点から、濃度は、0.01M以上1M以下が好ましく、0.05M以上0.5M以下がより好ましく、0.1M以上0.2M以下が更に好ましい。
酸性溶液が硫酸水溶液の場合には、原料微粒子の微細化促進の観点から、濃度は、0.01M以上1M以下が好ましく、0.05M以上0.5M以下がより好ましく、0.1M以上0.2M以下が更に好ましい。
酸性溶液が硝酸水溶液の場合には、原料微粒子の微細化促進の観点から、濃度は、0.01M以上1M以下が好ましく、0.05M以上0.5M以下がより好ましく、0.1M以上0.2M以下が更に好ましい。
酸性溶液が塩酸水溶液の場合には、原料微粒子の微細化促進の観点から、濃度は、0.01M以上1M以下が好ましく、0.05M以上0.5M以下がより好ましく、0.1M以上0.2M以下が更に好ましい。
【0012】
(2)複合体
複合体は、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子が担持されたものである。尚、原料微粒子は、後述する電位サイクルによる処理前の貴金属を含む微粒子を意味する。
【0013】
(2.1)カーボン担体
カーボン担体は、「貴金属フリーカーボン触媒」、「カーボンアロイ」等の名称で呼ばれている場合がある。カーボン担体における、窒素原子と第一遷移金属原子の存在が、後述する超微粒子を形成する起点となる。他方、窒素原子と第一遷移金属原子がない場合、超微粒子が形成されない。
第一遷移金属原子は、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、Cr(クロム)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)からなる群より選択される少なくとも1種である。
窒素原子のドーピング量は、特に限定されない。窒素原子のドーピング量は、電位サイクルを有する電圧の印加による原料微粒子の微細化促進の観点から、カーボン担体全体を100質量%とした場合に、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5%質量以上15質量%以下であることがより好ましく、1%質量以上10%質量以下であることが更に好ましい。
第一遷移金属原子のドーピング量は、特に限定されない。第一遷移金属原子のドーピング量は、電位サイクルを有する電圧の印加による原料微粒子の微細化促進の観点から、カーボン担体全体を100質量%とした場合に、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5%質量以上15質量%以下であることがより好ましく、1%質量以上10%質量以下であることが更に好ましい。
カーボン担体の窒素吸着比表面積は特に限定されない。カーボン担体の窒素吸着比表面積は、原料微粒子の担持量を向上する観点から、50m-1以上2000m-1以下が好ましく、150m-1以上800m-1以下がより好ましい。
【0014】
(2.2)貴金属を含む複数の原料微粒子
貴金属は、特に制限されない。貴金属は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、触媒性能という観点から、Pt、Rh、Pd、Ir、及びRuからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましく、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
【0015】
原料微粒子における貴金属の含有量は、特に限定されないが、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。貴金属の含有量は、100質量%であってもよい。
【0016】
カーボン担体に担持される原料微粒子の数は、2以上(複数)であれば特に限定されない。
【0017】
原料微粒子の平均粒径は、特に限定されない。原料微粒子の平均粒径は、高活性を担保する観点から、0.8nm以上1.5nm以下であることが好ましく、1.1nm以上1.4nm以下であることがより好ましく、1.2nm以上1.3nm以下であることが更に好ましい。
平均粒径は、次の方法(平均粒径の求め方)で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により複合体を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、原料微粒子(黒い円形の像)を球形とみなして、原料微粒子の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を平均粒子径とする。
また、原料微粒子は、平均粒子径値に対する標準偏差値が0%以上10%以下であることが好ましい。尚、標準偏差値は、300個の粒子径から分布図を作成して、計算する。
【0018】
(2.3)複合体の製造方法
複合体の製造方法は、特に限定されない。複合体の製造方法の一例を説明する。
複合体の製造方法の好適な一例は、貴金属塩と、炭素数1-5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、混合物を150℃以上800℃以下で加熱して触媒を生成する加熱工程と、を備える。
【0019】
(2.3.1)貴金属塩
貴金属塩に含まれる貴金属としては、特に制限されないが、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、触媒性能という観点から、Pt、Rh、Pd、Ir、及びRuからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
【0020】
貴金属塩としては、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)、テトラアンミンジクロロ白金(Pt(NHCl・xHO)、臭化白金(IV)(PtBr)、及びビス(アセチルアセトナト)白金(II)([Pt(C])からなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。
【0021】
(2.3.2)炭素数1-5のアルコール
炭素数1-5のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び3-ペンタノールからなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールが好ましい。
【0022】
アルコールと貴金属塩の量比は特に限定されない。貴金属塩がアルコールに溶解したアルコール溶液における貴金属塩の濃度は、特に限定されない。貴金属塩の濃度は、平均粒径が0.8nm以上1.5nm以下で、かつサイズが揃った高活性な貴金属の原料微粒子とする観点から、0.1molL-1以上50molL-1以下であることが好ましく、5molL-1以上40molL-1以下であることがより好ましく、10molL-1以上30molL-1以下であることが更に好ましい。
【0023】
(2.3.3)担体
担体には、上述のカーボン担体が用いられる。
【0024】
(2.3.4)担体とアルコールとの混合比
担体とアルコールとの混合比は特に限定されない。担体とアルコールを十分に馴染ませて、平均粒径が0.8nm以上1.5nm以下で、かつサイズが揃った高活性な貴金属の原料微粒子とする観点から、担体は、アルコール1mLに対して、2mg以上200mg以下の割合で混合されることが好ましく、10mg以上100mg以下の割合で混合されることがより好ましく、30mg以上80mg以下の割合で混合されることが更に好ましい。
【0025】
(2.3.5)混合
混合の方法は特に限定されない。乳鉢と乳棒を用いて粉砕混合してもよく、例えばボールミル、振動ミル、ハンマーミル、ロールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機を用いて粉砕混合してもよく、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー等の混合機を用いて混合してもよい。
【0026】
混合時間は特に限定されない。混合は、アルコールが揮発して、混合物が乾くまで行うことが好ましい。
【0027】
(2.3.6)加熱
加熱温度は、粒径が0.8nm以上1.5nm以下で、かつサイズが揃った高活性な貴金属微粒子とする観点から、150℃以上800℃以下であり、150℃以上400℃以下が好ましく、150℃以上250℃以下がより好ましい。
加熱は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガス、窒素ガスを好適に用いることができる。加熱は、空気中で行ってもよい。
【0028】
(2.4)複合体における貴金属の担持量
複合体における貴金属の担持量は、特に制限されず、目的とする設計等に応じて、適宜、必要量担持させればよい。貴金属の担持量としては、触媒性能とコストの観点から、金属換算で、カーボン担体100質量部に対して5質量部以上70質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。
【0029】
(3)酸性溶液と複合体との量比
酸性溶液と複合体の量比は特に限定されない。酸性溶液中に複合体を良好に分散して原料微粒子の微細化を促進する観点から、酸性溶液1mLに対して、複合体は、0.05mg以上5mg以下の割合で混合されることが好ましく、0.1mg以上2mg以下の割合で混合されることがより好ましく、0.5mg以上1mg以下の割合で混合されることが更に好ましい。
【0030】
(4)貴金属部材
貴金属部材に用いられる貴金属は、特に制限されない。貴金属は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、原料微粒子の微細化を促進する観点から、Pt、Rh、Pd、Ir、及びRuからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましく、Ptが更に好ましい。
貴金属部材の形状及びサイズは特に限定されない。貴金属部材の形状は、表面積を大きくすることで原料微粒子との接触面積を増やす観点から、メッシュ状、パンチングメタル状、格子状、エキスパンドメタル状、繊維状、及び海綿状からなる群より選ばれる形状が好ましい。貴金属部材の開孔率は、特に限定されるものではない。開孔率は、攪拌した酸性溶液の流れを妨げることを抑制する観点から、1%以上99%以下が好ましく、10%以上80%以下がより好ましく、30%以上50%以下が更に好ましい。
貴金属部材は、全体が酸性溶液に浸漬した状態であることが好ましい。貴金属部材は、一部が酸性溶液から露出した状態であってもよい。
【0031】
(5)酸化性ガスを含む第1ガス
酸化性ガスは、特に限定されない。酸化性ガスは、貴金属部材の表面電位(開回路電位)を制御して原料微粒子の微細化を促進しやすいという観点から、O、NO(xは1以上2以下の整数)、NO、CO、及び空気からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
第1ガスにおける酸化性ガスの濃度は、特に限定されない。酸化性ガスの濃度は、貴金属部材の表面電位(開回路電位)を制御して原料微粒子の微細化を促進するという観点から、1体積%以上100体積%以下が好ましく、30体積%以上100体積%以下がより好ましく、50体積%以上100体積%以下が更に好ましい。
【0032】
第1ガスにおける酸化性ガスの濃度、第1ガスの供給速度、及び電位サイクルの1サイクル当たりの第1ガスの供給量からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を調整することで、貴金属部材の開回路電位を制御することができる。具体的には、これらを調整することで、貴金属部材の開回路電位における到達電位、到達電位に達するまでの速度を制御できる。
第1ガスにおける酸化性ガスの濃度、第1ガスの供給速度(吹き込み速度)、及び電位サイクルの1サイクル当たりの第1ガスの供給量は、貴金属部材の表面電位(開回路電位)が標準水素電極基準(vs.RHE)にて、好ましくは0.8V以上1.2V以下となるように、より好ましくは0.9V以上1.1V以下となるように調整することが望ましい。
尚、第1ガスは、酸化性ガス以外のガスを含んでいてもよい。酸化性ガス以外のガスは、特に限定されないが、例えばアルゴン、窒素が例示される。
【0033】
(6)還元性ガスを含む第2ガス
還元性ガスは、特に限定されない。還元性ガスは、貴金属部材の開回路電位を制御して原料微粒子の微細化を促進する観点から、水素、アンモニア、炭化水素、及びCOからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
第2ガスにおける還元性ガスの濃度は、特に限定されない。還元性ガスの濃度は、貴金属部材の表面電位(開回路電位)を制御して原料微粒子の微細化を促進する観点から、0.01体積%以上100体積%以下が好ましく、0.05体積%以上4体積%以下がより好ましく、0.1体積%以上1体積%以下が更に好ましい。
【0034】
第2ガスにおける還元性ガスの濃度、第2ガスの供給速度、及び電位サイクルの1サイクル当たりの第2ガスの供給量からなる群より選ばれた少なくとも1種以上を調整することで、貴金属部材の開回路電位を制御することができる。具体的には、これらを調整することで、貴金属部材の開回路電位における到達電位、到達電位に達するまでの速度を制御できる。
第2ガスにおける還元性ガスの濃度、第2ガスの供給速度(吹き込み速度)、及び電位サイクルの1サイクル当たりの第2ガスの供給量は、貴金属部材の表面電位(開回路電位)が標準水素電極基準(vs.RHE)にて、好ましくは0.0V以上0.7V以下となるように、より好ましくは0.5V以上0.7V以下となるように調整することが望ましい。
尚、第2ガスは、還元性ガス以外のガスを含んでいてもよい。還元性ガス以外のガスは、特に限定されないが、例えばアルゴン、窒素が例示される。
【0035】
(7)電位サイクル
貴金属部材の開回路電位は、原料微粒子の微細化を促進する観点から、標準水素電極基準で0V以上1.0V以下の電位の間で繰り返す電位サイクルを有することが好ましい。電位サイクルは、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込むことで生じる。すなわち、貴金属部材の表面電位は、酸化性ガスを含む第1ガスを吹き込むことで貴な電位側にシフトし、還元性ガスを含む第2ガスを吹き込むことで卑な電位側にシフトするから、これらのガスを交互に吹き込むことで電位サイクルが生じる。
電位サイクルは、低電位と高電位の繰り返しを含む。
低電位は、標準水素電極基準にて、0.0V以上0.7V以下が好ましく、0.5V以上0.7V以下がより好ましい。
高電位は、標準水素電極基準にて、0.8V以上1.2V以下が好ましく、0.9V以上1.1V以下がより好ましい。
例えば、標準水素電極基準で0.0V-1.0Vの間での電位サイクルが好ましく、0.6-1.0Vの間での電位サイクルがより好ましい。
低電位及び高電位をこれらの好ましい範囲とすると、原料微粒子を溶解させてサブナノサイズの超微粒子が形成されるとともに、新生微粒子もサブナノサイズの超微粒子となる。
【0036】
電位サイクルの波形は、特に限定されない。波形は、例えば、パルス波、周期的な波形、矩形波、三角波、サイン波等であってもよい。
【0037】
電位サイクルの回数は、特に限定されない。電位サイクルの回数は、サブナノサイズの超微粒子を形成して触媒性能を向上させる観点から、1回以上100回以下が好ましく、3回以上50回以下がより好ましく、5回以上20回以下が更に好ましい。
【0038】
(8)酸性溶液の攪拌
本開示の触媒の製造方法では、貴金属部材(白金網等)と原料微粒子の接触を促すことで高性能な触媒を得る観点から、酸性溶液を攪拌することが好ましい。攪拌方法は特に限定されず、公知の攪拌方法を採用できる。
酸性溶液が攪拌されると、複合体に担持された原料微粒子(貴金属を含む微粒子)が貴金属部材(白金網等)に接触し易くなる。原料微粒子が貴金属部材に接触すると、原料微粒子表面(触媒表面)の電位は貴金属部材の開回路電位と同電位となる。よって、酸化性ガスと還元性ガスの導入を一定時間で繰り返すことで、原料微粒子に対して電位サイクルを用いた処理が行われる。この処理は、触媒を電極化して外部制御装置によって行う電位サイクルを用いた処理と同等である。
【0039】
(9)サブナノ領域(1nm以下)の微粒子が形成される推定メカニズム
本開示の製造方法では、原料微粒子の少なくとも1つを溶解させて微少化するとともに、溶解により生じた金属イオンから新生微粒子をカーボン担体上に生成させることが好ましい。
ここで、この好ましい製造方法によって、サブナノ領域(1nm以下)の微粒子が形成される推定メカニズムについて、図1,2を参照して説明する。貴金属を含む微粒子としてPt粒子を例示する。
図1は、窒素原子及び第一遷移金属原子のいずれもドープされていないカーボン担体を用いた場合を示している。図1の左図には、Pt粒子(原料微粒子(例えば、平均粒径0.8nm以上1.5nm以下の微粒子))が担持された複合体が示されている。この複合体に対して、電位サイクルを用いた処理をすると、例えば、1.4nm-2nmのPt粒子が溶解してPtn+となり、右図のようにPtn+が隣接したPt粒子上に再析出し粗大化する。つまり、窒素原子及び第一遷移金属原子のいずれもドープされていないカーボン担体を用いると、通常オストワルド成長によりPt粒子は粗大化する。
【0040】
図2は、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体を用いた場合を示している。図2の左図には、Pt粒子(原料微粒子)が担持された複合体が示されている。この複合体に対して、電位サイクルを用いた処理をすると、Pt粒子が溶解してPtn+となる。溶解したPtn+は、隣接するPt粒子に達する前に担体上の窒素原子(N原子)又はFe原子(第一遷移金属原子の一例)にトラップされ、新たなPt粒子を形成する。同時に残留したPt粒子も小さくなり、両者ともサブナノサイズ(超微粒子)となり、高比表面積・高活性を発現する触媒になると推測される。
【0041】
(10)触媒の製造方法の作用効果
本開示の製造方法は、高性能な触媒を工業的に量産できる。
本開示の触媒の製造方法では、酸性溶液中に貴金属部材を浸漬させ、吹き込むガスのみで、貴金属部材の電位を制御し、同時に酸性溶液中の触媒が攪拌等により貴金属部材に接触することで電位供与が行われると推測される。この作用機構によって、溶液中のガス濃度や触媒の不均一性による電位供与の偏りが無くなり、高性能な触媒を工業的に量産できると考えられる。
本発明者らが開発した従来の製造方法では、調製した触媒を電極化し、それを酸性溶液に浸漬させ、電位制御装置に接続し、強制的に触媒にかかる電位を制御していた。この製造方法では、一度に処理できる量に制限があった。しかも、この製造方法では、処理後に触媒粉末としての採取が難しく、工業生産への適用が困難であった。本開示の製造方法では、容器内に入れた酸性溶液中に貴金属部材を設置し、触媒(複合体)を投入し、好ましくは攪拌し、ガスを導入するのみという非常に簡易な手法で開回路電位を制御することができるため、電位制御を模擬し、かつ量産に適している。製造量のスケールは溶液を入れる容器のサイズのみに依存する。従って、工業的スケールへの展開が容易である。
本開示の触媒の製造方法では、元々担持してあった金属微粒子(原料微粒子)のサイズを更に小さくでき、高性能な触媒を量産できる。すなわち、本開示の触媒の製造方法では、電位サイクル処理によって、原料微粒子の溶解が起こり、元のサイズより小さいサブナノサイズの触媒粒子が形成され、高比表面積・高活性を発現する触媒を一度に少ない工程で大量に生産できる。
【0042】
2.触媒
触媒は、酸性溶液に、窒素原子及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体を分散させ、酸性溶液に、貴金属部材を浸漬した状態とし、酸性溶液に、酸化性ガスを含む第1ガスと、還元性ガスを含む第2ガスと、を交互に吹き込んで製造される。この触媒は、サブナノ粒子(粒径が0.0nmより大きく0.8nm未満の粒子)を含み高性能である。
【0043】
この欄における触媒の説明において、「酸性溶液」、「カーボン担体」、「複合体」、「貴金属部材」、「酸化性ガスを含む第1ガス」、「還元性ガスを含む第2ガス」等については、「1.触媒の製造方法」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。すなわち、「1.触媒の製造方法」の項目での説明をそのまま適用する。
【0044】
触媒は、窒素及び第一遷移金属原子をドープしたカーボン担体に貴金属を含む複数の微粒子を担持させた触媒である。この微粒子には、サブナノ粒子が含まれている。
【0045】
貴金属は、特に制限されない。貴金属は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、触媒性能という観点から、Pt、Rh、Pd、Ir、及びRuからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましく、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
【0046】
微粒子における貴金属の含有量は、特に限定されないが、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。貴金属の含有量は、100質量%であってもよい。
【0047】
カーボン担体に担持される微粒子の数は、2以上(複数)であれば特に限定されない。
【0048】
上述のように微粒子は、サブナノ粒子を含む。サブナノ粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)により触媒を観察することで存在を確認できる。
具体的には、透過型電子顕微鏡(TEM)により触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、貴金属の微粒子(黒い円形の像)を球形とみなして、微粒子の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。合計300粒子の中に0.0nmより大きく0.8nm未満の粒子が存在すれば、微粒子が0.0nmより大きく0.8nm未満の粒子を含むと判断する。0.0nmより大きく0.8nm未満の粒子は、0.2nm以上0.8nm未満の粒子が好ましく、0.3nm以上0.7nm以下の粒子がより好ましい。
【0049】
微粒子の平均粒径は、特に限定されない。微粒子の平均粒径は、高活性を担保する観点から、0.2nm以上1.5nm以下であることが好ましい。
平均粒径は、次の方法(平均粒径の求め方)で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により合成した触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、微粒子(黒い円形の像)を球形とみなして、微粒子の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を平均粒子径とする。
また、微粒子は、粒子径の分布図において0.0nmより大きく0.8nm未満に少なくとも1つのピークを有することが好ましい。分布図は、300個の粒子の粒子径から作成する。
【0050】
貴金属の担持量は、特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜、必要量担持させればよい。貴金属の担持量としては、触媒性能とコストの観点から、金属換算で、カーボン担体100質量部に対して5質量部以上70質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。
【0051】
上述の触媒は燃料電池へ好適に適用することができる。「1.触媒の製造方法」に記述した電位サイクルは、燃料電池における作動電位範囲に相当する。特に燃料電池自動車(FCV)への利用を考えると、FCVの負荷変動時の電位変動範囲に一致する。すわなち、本開示の触媒を燃料電池に搭載することで、運転に伴い、高活性なサブナノ粒子を自己形成し、活性がいつまでも続く、すなわち高耐久性が発揮される。結果的に燃料電池の課題であった活性向上と耐久性維持の両立を実現する画期的な触媒となる。
尚、本開示の触媒は、電池、センサー、電解等にも適用可能である。
【0052】
この触媒では、初期状態でも高活性なサブナノ粒子を含む触媒であり、触媒を燃料電池に搭載することで、運転に伴い、高活性なサブナノ粒子が自己形成し、活性がいつまでも続くことになる。
【0053】
3.燃料電池
燃料電池は、触媒を備える。燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)を挙げることができる。本開示の燃料電池は、触媒にサブナノ粒子を含むから、高性能である。
燃料電池の構成例について説明する。この燃料電池10は、好適例たる固体高分子形燃料電池である。図3に示すように、燃料電池10は、電解質膜たる固体高分子電解質膜12を備えている。固体高分子電解質膜12は例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂から構成されている。固体高分子電解質膜12の両側には、これを挟むようにアノード電極14、カソード電極16が設けられている。固体高分子電解質膜12と、これを挟む一対のアノード電極14、カソード電極16とにより、膜電極接合体18が構成される。
【0054】
アノード電極14の外側には、ガス拡散層20が設けられている。ガス拡散層20は、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属多孔体等の多孔質材から構成され、セパレータ22側から供給されたガスをアノード電極14に均一に拡散させる機能を有する。同様に、カソード電極16の外側には、ガス拡散層24が設けられている。ガス拡散層24は、セパレータ26側から供給されたガスをカソード電極16に均一に拡散させる機能を有する。本図においては、上記のように構成された膜電極接合体18、ガス拡散層20,24、セパレータ22,26を1組のみ示したが、実際の燃料電池10は、膜電極接合体18、ガス拡散層20,24がセパレータ22,26を介して複数積層されたスタック構造を有している場合もある。
【実施例0055】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。いかの説明においてガスについての「%」は、体積%を意味する。
1.実験装置
図4は、本開示の製造方法(開回路電位制御法)に用いたセル(実験装置)の概要図である。ビーカー31の中に、酸性溶液である過塩素酸水溶液33(0.1M HClO水溶液)を入れた。ビーカー31内には、攪拌用の回転子35(スターラー)がセットされている。白金網37は、全体として略長方形をなしている。白金網37は、下側の3/4程度が液中に浸され、上側の1/4程度が気相に露出した状態となるように設置した。回転子35の動きに干渉しないように、白金網37(Pt網)の下端は、ビーカー31の底面から少し浮かせた。白金網37の幅はビーカー31の内径よりもやや小さくした。白金網37はリード線を介して、蓋39に固定した。過塩素酸水溶液33へのガスの吹き込みには、ガス供給管40を用いた。ガスの吹き込みは、ガス供給管40の先端部を過塩素酸水溶液33に浸した状態で行った。蓋39には排気口43も設けた。触媒投入後は、回転子35で過塩素酸水溶液33を攪拌しながら、過塩素酸水溶液33にガスを流通させた(バブリングした)。
【0056】
2.カーボン担体に貴金属を含む複数の原料微粒子を担持させた複合体の合成
カーボン担体として、メソポーラスカーボンの炭素骨格中に窒素原子(N)と鉄原子(Fe)をドープしたカーボンアロイ(N-Fe-C、Precious metal free carbon (PMF))を用いた。比表面積は560m-1である。
複合体は次のようにして合成した。すなわち、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO:関東化学,98.5%)を60mgビーカーに採取し、エタノール(COH)を1mL加え、溶解させた。カーボン担体45mgを乳鉢に採取後、先のPt塩を溶解させたエタノール溶液を加え、エタノールが揮発し、乾くまで攪拌・混合した。得られた粉末をセラミックボートに移し、管状炉によって、アルゴン(Ar)雰囲気、200℃で2時間熱処理を行った。室温まで降温したら、管状炉から取り出し、これを触媒とした。
【0057】
3.実験1(100%Hガス及び100%Oガスバブリング中の電位変動と時間の関係)
図5は、図4で示したセルに参照極(V vs RHE)を加えて、100%水素ガス又は100%酸素ガスを導入し、Pt網の開回路電位を測定した結果である。
酸素存在下で0.9V付近の電位が、水素ガス導入直後から低下し、0Vに到達した。その到達速度はガスの供給速度に依存していた。流量20sccmの場合、2分もかからないうちに0Vに達した。流量10sccmの場合、流量20sccmの場合よりも遅く0Vに達した。よって0Vに達する到達速度はガスの供給速度に依存していた。
他方、水素飽和下で0Vにある電位は、酸素ガス導入後から電位上昇し、再度0.8V-0.9V付近に到達した。酸素ガス導入についても、流量20sccmの方が、流量10sccmよりも0.8V-0.9Vに達する時間が短かった。よって0.8V-0.9Vに達する到達速度はガスの供給速度に依存していた。
尚、水素飽和(0V)から不活性ガスのArを導入しても、電位の上昇は僅かであり、変化に乏しいことが分かった。
【0058】
4.実験2(3%H(Arバランス)及び100%Oバブリング中の電位変動と時間の関係)
図6は、実験1と同様にセルをセットし、3%水素ガス(Arバランス)を80sccmで3分間導入し、その後、100%酸素ガスに切り替えて、20sccmで導入し電位が1.0Vまで戻るまでの時間を検討した結果である。3%水素ガス(Arバランス)を80sccmで3分間導入したところ、電位シフトは1.00V→0.63Vとなった。その後、100%酸素ガスに切り替えて20sccmで導入したところ、電位が1.0Vまで戻るまで、すなわち、電位シフトが0.63V→1.00Vになるまでの時間は3分間であった。
図7は、実験1と同様にセルをセットし、3%水素ガス(Arバランス)を80sccmで5分間導入し、その後、100%酸素ガスに切り替えて、20sccmで導入し電位が1.0Vまで戻るまでの時間を検討した結果である。3%水素ガス(Arバランス)を80sccmで5分間導入したところ、電位シフトは1.00V→0.44Vとなった。その後、100%酸素ガスに切り替えて20sccmで導入したところ、電位が1.0Vまで戻るまで、すなわち、電位シフトが0.44V→1.00Vになるまでの時間は4.5分間であった。
実験2では、3%Hの導入時間が長いほど電位は卑側にシフトすることが分かった。
また、この実験では、酸素に切り替えた時に1.0Vまで戻る時間は、図7の場合の方が図6の場合よりも長くなった。これは、3%水素ガスによる卑側へのシフトが、図6は0.63Vで、図7は0.44Vであり、図7の方がより卑側にシフトしたことに起因すること分かった。
【0059】
5.実験3(ガス供給量と電位変動と時間の関係)
図8-10は、ガス供給量を変化させた場合の電位変動の様子を示している。
図8は、実験2と同様にセルをセットし、3%水素ガス(Arバランス)を80sccmで5分間導入し、その後、100%酸素ガスに切り替えて、20sccmで導入し電位が1.0Vまで戻るまでの時間を検討した結果である。3%水素ガス(Arバランス)を80sccmで5分間導入したところ、電位シフトは1.00V→0.44Vとなった。その後、100%酸素ガスに切り替えて20sccmで導入したところ、電位が1.0Vまで戻るまで、すなわち、電位シフトが0.44V→1.00Vになるまでの時間は4.5分間であった。
図9は、実験2と同様にセルをセットし、3%水素ガス(Arバランス)を50sccmで5分間導入し、その後、100%酸素ガスに切り替えて、30sccmで導入し電位が1.0Vまで戻るまでの時間を検討した結果である。3%水素ガス(Arバランス)を50sccmで5分間導入したところ、電位シフトは1.00V→0.60Vとなった。その後、100%酸素ガスに切り替えて30sccmで導入したところ、電位が1.0Vまで戻るまで、すなわち、電位シフトが0.60V→1.00Vになるまでの時間は4.5分間であった。
図10は、実験2と同様にセルをセットし、3%水素ガス(Arバランス)を40sccmで5分間導入し、その後、100%酸素ガスに切り替えて、40sccmで導入し電位が1.0Vまで戻るまでの時間を検討した結果である。3%水素ガス(Arバランス)を40sccmで5分間導入したところ、電位シフトは1.00V→0.68Vとなった。その後、100%酸素ガスに切り替えて40sccmで導入したところ、電位が1.0Vまで戻るまで、すなわち、電位シフトが0.68V→1.00Vになるまでの時間は3.3分間であった。
図8-10の結果から、3%水素ガスの供給量を下げるほど、到達電位は高電位となることが分かった。また、酸素ガスの供給量は多いほど1.0Vへの到達速度が早くなることが分かった。
【0060】
6.実験1-3の考察
実験1-3の結果から、Pt網の開回路電位は、分圧(ガス濃度)、ガス供給速度、ガスの供給量で制御可能であることが確認された。
【0061】
7.実験4(触媒の電子顕微鏡による観察)
開回路電位制御を行う前の触媒と、開回路電位制御を行った後の触媒を比較検討した。
具体的には次のように実験した。
実験1と同様にして、3%水素ガス(Arバランス)を80sccmで3分間導入し、その後、100%酸素ガスを20sccmで3分間導入した。この交互の吹き込みを10回繰り返した。すなわち、水素ガス(3分間)と、酸素ガス(3分間)とを交互に吹き込むことで、図6に示される開回路電位の制御を行い、図6に示される波形を1サイクルとして、このサイクルを10回繰り返した。この処理は、本明細書では「電位サイクル処理」と表記する場合がある。図6に示す波形は、標準水素電極基準にて、低電位は0.6Vであり、高電位は1.0Vである。
図11は、電位サイクル処理を行う前の触媒と、セル内に触媒を投入して電位サイクル処理を行った後の触媒の状態を電子顕微鏡(TEM)で観察した結果である。電位サイクル処理前(図11の上側の2枚の写真)では、1nm程度のPtの粒子が高分散担持されていることが分かった。10サイクル後(図11の下側の2枚の写真)は一見粗大化し、凝集した粒子の存在が目立つが、1nm以下のサブナノ粒子の存在が多数確認できた。観察されたサブナノ粒子の一部を矢印(←)で示している。
【0062】
8.実験5(触媒活性の評価)
上述のように、実験4で調製した触媒は、粗大化した粒子と微小化したサブナノ粒子が混在していた。このように粗大化した粒子と微小化したサブナノ粒子が混在していても優れた触媒能を発揮するかを確認するために、電位サイクル処理前(0サイクル)と実験4で観察した10サイクル処理後の触媒の触媒活性を評価した。また、2サイクル処理した触媒、5サイクル処理した触媒も評価した。これらの触媒の酸素還元反応(ORR)活性を回転ディスク電極(RDE)法によって評価した。図12に0.85VにおけるORR質量活性を比較して示している。2サイクル処理した触媒は処理無し(0サイクル)の触媒よりも低い活性値であったが、5,10サイクルと処理数が上がるにつれて、触媒の活性も処理無し(0サイクル)よりも高くなり、2倍以上になった。この結果から、粗大化した粒子が混在していても、サブナノ粒子の活性寄与率が非常に高いことが分かる。また、2サイクルでは活性が低下したことから、処理回数や時間によって、粗大化粒子とサブナノ粒子の形成割合が制御可能であるこが分かった。
【0063】
9.実施例の効果
実施例によれば、高性能な触媒を工業的に量産できる。本実施例は燃料電池自体の普及、それを用いる燃料電池自動車の普及、及び定置コジェネレーションの普及の加速に大いに貢献することが期待される。
【0064】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本開示を限定するものと解釈されるものではない。本開示を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本開示の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本開示の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本開示の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本開示をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0065】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10…固体高分子形燃料電池
12…固体高分子電解質膜
14…アノード電極
16…カソード電極
18…膜電極接合体
20…ガス拡散層
22…セパレータ
24…ガス拡散層
26…セパレータ
31…ビーカー
33…過塩素酸水溶液
35…回転子
37…白金網
39…蓋
40…ガス供給管
43…排気口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12