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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000173
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】豆乳発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20221222BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20221222BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20221222BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20221222BHJP
   C12N 1/14 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
A23L11/00 Z
A23C11/10
A23L11/65
C12N1/20 Z
C12N1/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100834
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 智史
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 亮
【テーマコード(参考)】
4B001
4B020
4B065
【Fターム(参考)】
4B001AC08
4B001AC30
4B001AC31
4B001AC99
4B001BC13
4B001BC14
4B001DC50
4B001EC01
4B020LB18
4B020LC02
4B020LG05
4B020LK17
4B020LK18
4B020LP18
4B020LQ06
4B020LQ10
4B065AA01X
4B065AA58X
4B065AA63X
4B065BD43
4B065CA42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コクがあり、爽やかで発酵乳風味に優れた豆乳発酵物の製造方法を提供する。
【解決手段】豆乳、好ましくは無調整豆乳と、麹、好ましくはプロテアーゼ活性を保持した麹との存在下に、乳酸菌による乳酸発酵を行い豆乳発酵物を製造する。麹菌としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)やアスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)等を用いることができる。乳酸菌としては、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ラクトバチラス・デルブリッキー(Lactobacillus derbrueckii)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)等の1種又は2種以上を用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳と麹の存在下に、乳酸菌による乳酸発酵を行うことを特徴とする豆乳発酵物の製造方法。
【請求項2】
麹が、プロテアーゼ活性を保持した麹であることを特徴とする請求項1記載の豆乳発酵物の製造方法。
【請求項3】
豆乳発酵物中のアスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)の合計を、ヒスチジン(His)とアルギニン(Arg)とチロシン(Tyr)とバリン(Val)とメチオニン(Met)とフェニルアラニン(Phe)とイソロイシン(Ile)とロイシン(Leu)との合計で除した値が、0.4以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の豆乳発酵物の製造方法。
【請求項4】
豆乳発酵物中のフェニルアラニン(Phe)とロイシン(Leu)との合計が、10.0mg/100g以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の豆乳発酵物の製造方法。
【請求項5】
豆乳発酵物のpHが5.0~6.0であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の豆乳発酵物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載の製造方法により得られる豆乳発酵物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳と麹の存在下、乳酸菌による乳酸発酵を行うことを特徴とする豆乳発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、豆乳の麹菌による発酵産物としては、粗豆乳にコウジカビを作用させる工程を含む豆乳の製造方法(特許文献1)や、豆乳と麹とを混合し、豆乳を第1の温度で麹菌により発酵させる一次発酵工程と、一次発酵工程後の豆乳を第1の温度とは異なる第2の温度で麹菌により発酵させる二次発酵工程と、を備える、豆乳甘酒の製造方法(特許文献2)が知られている。
【0003】
また、豆乳の乳酸菌による発酵産物としては、豆乳に蒸煮米の米こうじによる分解液を加えて、乳酸醗酵及びアルコール醗酵せしめ豆臭を除去して風味良好な乳酸飲料を製造する方法(特許文献3)や、豆乳に、酸性プロテアーゼと乳酸菌スターターを添加して、酵素処理と乳酸発酵を並行して行うことよりなる豆乳発酵方法(特許文献4)や、豆乳を乳酸発酵した発酵液と甘酒あるいは甘酒の乳酸発酵液からなる乳酸発酵飲料、及び、豆乳及び米・麹を糖化してなる甘酒の混合液を乳酸発酵してなる乳酸発酵飲料(特許文献5)や、豆乳を発酵して発酵豆乳を製造する方法において、豆乳を発酵する段階の前又は発酵中にパラチノースを豆乳に添加することを特徴とする、発酵豆乳の風味の改善方法(特許文献6)や、乳酸菌により豆乳原料を発酵させた発酵豆乳、及びペプチド結合加水分解酵素により豆乳を加水分解させた第1の酵素処理豆乳を含有し、前記発酵豆乳1質量部に対して前記第1の酵素処理豆乳が4質量部以下となるように、前記発酵豆乳及び前記第1の酵素処理豆乳を配合させる、発酵豆乳入り飲料の製造方法(特許文献7)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-242553号公報
【特許文献2】特開2020-74705号公報
【特許文献3】特開昭48-061660号公報
【特許文献4】特開昭51-012967号公報
【特許文献5】特開2004-154086号公報
【特許文献6】特許第4301545号公報
【特許文献7】特開2019-115374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
豆乳は独特の豆臭、青臭さを有しており、豆乳を乳酸発酵させたものは独特の漬物のような風味を有する。この風味は乳等を乳酸発酵することにより得られる発酵乳のような、コクがありかつ爽やかな風味とは異質なものである。例えば特許文献3や特許文献5、特許文献6においても豆臭や、豆乳の発酵臭の改善を課題としているが、これらの従来技術においてもこれらの課題は十分解決されたとは言えない状況であった。本発明の課題は、コクがあり、爽やかで発酵乳風味に優れた豆乳発酵物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、研究に着手した。まず、乳酸菌やプロテアーゼ等の酵素を用いる豆乳の風味の改善に関する従来の技術には、未だ改善の余地があることがわかった。従来から数多く報告されているように、あらかじめ豆乳を酵素処理した後に、乳酸発酵を行うという提案もなされているが、かかる酵素処理後の乳酸発酵による豆乳発酵物は風味の点で納得いくものではなかった。単一のプロテアーゼを用いて豆乳を処理すると、タンパク質分解により得られるアミノ酸の偏りにより、酸味や苦みが生じる他、分解物由来の好ましくない香りが生じることが多い。
【0007】
そこで、本発明者らは、米、麦、大豆を原料として、麹菌により発酵させた古来よりの発酵食品であり、様々の醸造品に用いられている麹に着目し、プロテアーゼ源として麹を使用してみることにした。麹は種々のエンド型やエキソ型のプロテアーゼを有し、バランス良く蛋白質分解することで、風味やコクを増強しながらも苦味や酸味を呈することが非常に少ないことがわかった。また、麹を原料に使用することで、乳酸菌の生育を促進し発酵風味を強化できると考えた。そこで、鋭意検討した結果として、麹と乳酸菌を共存させて豆乳を発酵させることにより、工程が少なく短期間で、またプロテアーゼによる酸味・苦味のカドが立たず、プロテアーゼ分解物由来の好ましくない香りの発生を防止し、かつコクがあり、爽やかで発酵乳風味に優れた発酵豆乳が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明特定事項により特定されるとおりのものである。
(1)豆乳と麹の存在下に、乳酸菌による乳酸発酵を行うことを特徴とする豆乳発酵物の製造方法。
(2)麹が、プロテアーゼ活性を保持した麹であることを特徴とする上記(1)記載の豆乳発酵物の製造方法。
(3)豆乳発酵物中のアスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)の合計を、ヒスチジン(His)とアルギニン(Arg)とチロシン(Tyr)とバリン(Val)とメチオニン(Met)とフェニルアラニン(Phe)とイソロイシン(Ile)とロイシン(Leu)との合計で除した値が、0.4以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の豆乳発酵物の製造方法。
(4)豆乳発酵物中のフェニルアラニン(Phe)とロイシン(Leu)との合計が、10.0mg/100g以下であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の豆乳発酵物の製造方法。
(5)豆乳発酵物のpHが5.0~6.0であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の豆乳発酵物の製造方法。
(6)上記(1)~(5)のいずれか記載の製造方法により得られる豆乳発酵物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の豆乳発酵物の製造方法によると、工程が少なく短期間で、またプロテアーゼによる酸味・苦味のカドが立たず、プロテアーゼ分解物由来の好ましくない香りの発生を防止し、かつコクがあり、爽やかで発酵乳風味に優れた発酵豆乳が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の豆乳発酵物の製造方法としては、豆乳と麹の存在下に、乳酸菌による乳酸発酵を行う方法であれば特に制限されず、具体的態様として例えば、豆乳に麹と乳酸菌をほぼ同時に投入して、麹により豆乳を発酵させる豆乳発酵と、乳酸菌により豆乳を発酵させる乳酸発酵とを同時に行う態様や、豆乳にまず麹を投入し、麹による豆乳発酵後に、この麹発酵物に乳酸菌を投入して乳酸発酵を行う態様を挙げることができる。そして、本発明において、「麹により豆乳を発酵させる」とは「麹の有するプロテアーゼ等の酵素作用により豆乳中のタンパク質等の成分を分解する」ことを意味し、また「乳酸菌により豆乳を発酵させる」とは、乳酸菌により豆乳中の糖分等を発酵させて乳酸を生成することをいう。
【0011】
本発明の豆乳発酵物の製造方法において用いられる豆乳としては、日本農林規格で定義された「豆乳」であれば特に制限されず、具体的には、大豆から熱水等によりタンパク質及びその他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られた、固形分8質量%以上の乳状物を例示することができ、なかでも市販の無調整豆乳を好適に例示することができる。また、本発明の効果を損なわない限り、例えば、糖類、有機酸類、油脂、甘味料、調味料、果汁、野菜汁、コーヒー、ココアなどの風味原料、乳化剤、糊料、香料などの添加物を含むものであってもよい。
【0012】
本発明の豆乳発酵物の製造方法において用いられる麹としては、米、麦、大豆などの穀物に麹菌を付着させて繁殖させたものであればよく、米麹、麦麹、豆麹等を挙げることができるが、プロテアーゼ活性を保持した麹が好ましい。また、本発明で使用する麹菌としては、清酒や焼酎、泡盛、味噌、醤油などの食品製造において用いられてきた麹菌を利用することができる。これらの麹菌は、発酵食品の製造に欠かすことができない微生物であり、人への安全性において優れたものと考える。具体的には、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・グラウカス(Aspergillus glaucus)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamari)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)等のアスペルギルス属、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・ジャバニクス(Rhizopus javanicus)等のリゾプス属などの菌株を用いることができる。これら麹は、例えば、株式会社コーセーフーズ、有限会社おたまやなどから入手可能である。
【0013】
本発明の豆乳発酵物の製造方法において用いられる乳酸菌としては、乳酸菌として一般に知られているものを使用することができ、例えば、糖から乳酸を生成するホモ発酵乳酸菌や、糖から乳酸の他にエタノール、二酸化炭素、酢酸などを生成するヘテロ発酵乳酸菌を使用することができる。ホモ発酵乳酸菌としては、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ラクトバチラス・デルブリッキー(Lactobacillus derbrueckii)を例示することができ、またヘテロ発酵乳酸菌としては、例えば、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)、ラクトバチラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)を例示することができ、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、乳酸菌としては1種又は2種以上の乳酸菌を含み、培地も含めた培養物として市販されている乳酸菌カルチャーを好適に用いることができる。これら乳酸菌カルチャーは、例えばクリスチャンハンセンホールディング(デンマーク)などから入手可能である。
【0014】
豆乳と麹と乳酸菌の配合割合は、麹や乳酸菌の力価により適宜設定することができるが、豆乳100質量部に対して、麹0.1~10質量部、好ましくは0.2~2.0質量部、より好ましくは0.4~0.6質量部、乳酸菌カルチャー0.0003~0.2質量部、好ましくは0.003~0.15質量部、より好ましくは0.09~0.11質量部を例示することができる。豆乳は発酵前に殺菌しておくことが好ましい。
【0015】
豆乳原料を発酵させる方法、条件等は特に制限されるものではなく、例えば乳酸菌の使用量、発酵温度、発酵時間、攪拌条件等は、使用する乳酸菌の種類等に応じて、適宜設定することができる。例えば、乳酸菌としてF-DVS CHD-2(クリスチャンハンセン社製;3菌種)を使用する場合には、乳酸菌を1×10~1×10cfu/mLになるように添加して、30℃で3~5時間、150rpmで撹拌発酵すればよく、またFD-DVS YC380(クリスチャンハンセン社製;2菌種)を使用する場合には、乳酸菌を1×10~1×10cfu/mLになるように添加して、40℃で3~5時間、150rpmで撹拌発酵すればよい。発酵終了後の豆乳も低温殺菌しておくことが好ましい。
【0016】
本発明の豆乳発酵物としては、本発明の製造方法により得られるものであれば特に制限されず、豆乳発酵物中のアスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)の合計[旨味アミノ酸の合計]を、ヒスチジン(His)とアルギニン(Arg)とチロシン(Tyr)とバリン(Val)とメチオニン(Met)とフェニルアラニン(Phe)とイソロイシン(Ile)とロイシン(Leu)との合計[苦味アミノ酸の合計]で除した値が、0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上である豆乳発酵物が好ましい。また、豆乳発酵物中のフェニルアラニン(Phe)とロイシン(Leu)との合計が、10.0mg/100g以下、好ましくは5.0mg/100g以下である豆乳発酵物が好ましい。
【0017】
また本発明の豆乳発酵物としては、豆乳発酵物中のジアセチル含量が、乳酸発酵を施していない対照におけるジアセチル含量の3倍以上であるか、又は豆乳発酵物中のアセトイン含量が、乳酸発酵を施していない対照におけるアセトイン含量の3倍以上であることが好ましい。上記ジアセチル(醸造業界ではダイアセチルとも呼ばれる)はジケトンの一種で、特徴的な香りを持ち、発酵飲料・食品の品質に大きな影響をもたらす。また、アセトインは、ジアセチルの前駆物質であり、構造的にもジアセチルとよく似ており、ジアセチル同様ヨーグルト、バター様の香りを有する。さらに本発明の豆乳発酵物は、そのpHが5.0~6.0、好ましくはpHが5.3~6.0である微酸性風味のものが好ましい。
【実施例0018】
(1)材料
[豆乳]
マルサンアイおいしい無調整豆乳1L市販品(マルサンアイ社製)
[乳酸菌カルチャー]
CHD;F-DVS CHD-2(クリスチャンハンセン社製)3菌種使用
Lactococcuslactis subsp. lactis
Lactococcuslactis subsp. lactis biovar diacetylactis
Leuconostoc lactis subsp.cremoris
YC;FD-DVS YC380(クリスチャンハンセン社製)2菌種使用
Streptococcus thermophilus
Lactobacillus derbrueckii subsp. bulgaricus
[麹]
AspPro;アスペルパウダーPro(コーセーフーズ社製)
aspergillusluchuensis mut. kawachii
AspG;アスペルパウダーG(コーセーフーズ社製)Aspergillus oryzae
AspET;アスペルパウダーET(コーセーフーズ社製)Aspergillus oryzae
麦麹;大麦麹粉末 (おたまや社製)Aspergillus oryzae
豆麹;豆麹粉末 (おたまや社製)Aspergillus oryzae
[酵素]
プロテアーゼOP;スミチームOP(新日本化学社製)Aspergillus oryzae由来
プロテアーゼMP;スミチームMP(新日本化学社製)Aspergillus oryzae由来
[乳酸発酵豆乳]
マルサンアイ豆乳グルト;豆乳グルト(マルサンアイ社製);豆乳を植物由来の乳酸菌で発酵させたプレーンタイプの発酵豆乳
サッポロ豆乳グルト;豆乳で作ったヨーグルト(プレーン)(ポッカサッポロフーズ&ビバレッジ株式会社製)
【0019】
(2)配合
[麹使用]豆乳99.4質量%、麹0.5質量%、乳酸菌カルチャー0.1質量%、
[酵素使用]豆乳99.8質量%、酵素10U/kg、乳酸菌カルチャー0.1質量%
【0020】
(3)発酵方法
1)前殺菌
1Lジャーファーメンタ(高杉製作所社製)に、豆乳を入れ、150rpm、70℃で30分加熱殺菌した。
2)発酵
乳酸菌と、酵素又は麹を添加し、150rpmで下記温度・時間で撹拌発酵した。
CHD:30℃で4時間
YC:40℃で4時間
3)後殺菌
150rpm、70℃で30分加熱殺菌した。
【0021】
(4)香気成分測定条件
SPMEへッドスペース法
バイアルに封入したサンプルを加熱して揮発した成分を、ヘッドスペースでファイバーに吸着させ、これをGCにインジェクト(脱着)する方法である。GC-MS/MSにより検出されたクロマトグラムの面積値から、ジアセチル、アセトインの検量線により定量した。今回用いた検量線は、システムに標準装備されたものを用いた。
ファイバー:50/30μmDVB/CAR/PDMS
吸着時間:10min
吸着温度:60℃
脱着時間:1min
脱着温度:250℃
サンプル量:20mLバイアルに1g
【0022】
<GC-MS/MS測定条件>
<GC条件>
カラム:InertCap Pure-Wax 膜厚0.25μm 長さ30M 内径0.25mm
注入口温度:250℃
注入モード:スプリットレス
ガス制御:コンスタントプレッシャー
圧力:83.5kPa
オーブン温度プログラム:
初期50℃
50℃ 5分ホールド
10℃/min 250℃ 17分ホールド
キャリアガス:He
<MS条件>
測定モード:EI MRM測定
<定量>
GC/MS異臭分析システム((株)島津製作所)に標準装備されたジアセチル、アセトインの検量線をもとに、算出
【0023】
[HPLC アミノ酸組成分析条件]
カラム:YMC-TriartC18 100×2.0mmID
流量:0.45mL/min
注入量:1μL
サンプルクーラー:4℃
カラムヒーター:40℃
検出器:蛍光検出器
温度40℃
0-19.5分 励起波長(nm):344 蛍光波長(nm):450
19.5分~ 励起波長(nm):266 蛍光波長(nm):305
前処理:誘導体化(下記試薬を用いて)
1)0.1M四ホウ酸ナトリウム(pH9.0)
2)OPA溶液:
50mg/mL(アセトン)フタルアルデヒド溶液100μL
0.1M四ホウ酸ナトリウム 400μL
3-メルカプトプロピオン酸 10μL
3)FMOC溶液:
クロロギ酸-フルオレニルメチル 25mg/アセトニトリル10mL
4)1M酢酸
溶媒:A液 100mMリン酸緩衝液(pH6.8)
B液 水
C液 アセトニトリル:メタノール:水=45:40:15
濃度勾配条件:0-1.6分 A19 B69 C12
体積% 1.6-13.9分 A15 B45 C40
13.9-19.5分 A0 B50 C50
19.5-21分 A0 B50 C50
21-24分 A0 B50 C50
24分 A0 B0 C100
24―29.9分 A0 B0 C100
30分 A19 B69 C12
36分 測定停止
【0024】
(5)実施例
実施例1;麹として「AspPro」、乳酸菌として「CHD」を用いた。
実施例2;麹として「AspET」、乳酸菌として「CHD」を用いた。
実施例3;麹として「AspG」、乳酸菌として「CHD」を用いた。
実施例4;麹として「麦麹」、乳酸菌として「CHD」を用いた。
実施例5;麹として「豆麹」、乳酸菌として「CHD」を用いた。
実施例6;麹として「AspPro」、乳酸菌として「YC」を用いた。
実施例7;麹として「AspET」、乳酸菌として「YC」を用いた。
実施例8;麹として「AspG」、乳酸菌として「YC」を用いた。
実施例9;麹として「麦麹」、乳酸菌として「YC」を用いた。
実施例10;麹として「豆麹」、乳酸菌として「YC」を用いた。
【0025】
(6)比較例
比較例1;マルサンアイおいしい無調整豆乳1L市販品(発酵前豆乳)
比較例2;マルサンアイ豆乳グルト
比較例3;サッポロ豆乳グルト
比較例4;麹不使用、乳酸菌として「CHD」を用いた。
比較例5;プロテアーゼOP、乳酸菌として「CHD」を用いた。
比較例6;プロテアーゼMP、乳酸菌として「CHD」を用いた。
比較例7;麹不使用、乳酸菌として「YC」を用いた。
【0026】
(7)官能評価の結果
酸味、苦味及び発酵乳香の官能評価結果を「表1」に示す。官能評価は、訓練された評価者2名により合議で採点し、酸味、苦味及び発酵乳香の3項目について口に含んで評価した。酸味、苦味及び発酵乳香の各評価基準を以下に示す。
【0027】
[酸味]
1 ない
2 かすかに酸味がある
3 酸味がある
4 酸味が強い
5 かなり酸味が強い
基準点;発酵前豆乳を1とし、マルサンアイ豆乳グルトを5とする。
【0028】
[苦味]
1 ない
2 かすかに苦味がある
3 苦味がある
4 苦味が強い
5 かなり苦味が強い
基準点;発酵前豆乳を1とする。
【0029】
[発酵乳香]
1 ない
2 かすかに発酵乳香がある
3 発酵乳香がある
4 良好な発酵乳香
5 良好で強い発酵乳香
基準点;発酵前豆乳を1とし、サッポロ豆乳グルトを3とする。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から、酸味については、実施例品のほとんどが、「酸味がある」又は「かすかに酸味がある」であるのに比べ、発酵前豆乳(比較例1)は酸味がなく、市販品の発酵豆乳であるマルサンアイ豆乳グルトやサッポロ豆乳グルトは「かなり酸味が強い」という結果が得られた。この結果を裏付けるように、実施例品のほとんどのpHは、pH5.32~pH6.00の範囲にあるのに対して、上記マルサンアイ豆乳グルト及びサッポロ豆乳グルトのpHは、それぞれ4.50及び4.80であり、酸味が強すぎることがわかる。
【0032】
表1から、苦味については、実施例品のすべてが、「苦味がない」であるのに比べ、プロテアーゼOPと乳酸発酵をした(比較例5)や、プロテアーゼMPと乳酸発酵をした(比較例6)は、それぞれ「苦味が強い」や「苦味がある」という結果が得られた。これらの結果は、プロテアーゼと乳酸菌を用いた従来の発酵豆乳に比べて、麹と乳酸菌を用いる本発明の発酵豆乳が苦味評価の点で特に優れていることを示している。
【0033】
表1から、発酵乳香については、実施例品のすべてが、「良好な発酵乳香」又は「良好で強い発酵乳香」があるのに比べ、発酵前豆乳(比較例1)、マルサンアイ豆乳グルト(比較例2)、及び麹不使用乳酸発酵(比較例4)では「発酵乳香がない」、プロテアーゼOPと乳酸発酵をした(比較例5)、プロテアーゼMPと乳酸発酵をした(比較例6)、及び麹不使用乳酸発酵(比較例7)では、「かすかに発酵乳香がある」という結果が得られた。これらの結果は、麹と乳酸菌を用いる本発明の発酵豆乳が発酵乳香評価の点で特に優れていることを示している。
【0034】
(8)SPME吸着量の結果
香気成分であるジアセチルとその前駆体であるアセトインを、SPMEへッドスペース法で測定した結果を[表2]に示す。また、[表2]における「ジアセチル倍率」は、実施例1~6及び比較例5、6が比較例4のジアセチル量に対する倍率、実施例6~10が比較例7のジアセチル量に対する倍率を示し、「アセトイン倍率」は、実施例1~6及び比較例5、6が比較例4のアセトイン量に対する倍率、実施例6~10が比較例7のアセトイン量に対する倍率を示す。その結果、麹を使用せず、乳酸菌のみによる発酵豆乳に比べて、麹やプロテアーゼの存在下に乳酸発酵を行った場合、香気成分であるジアセチルとアセトインの含量が増加していることがわかった。
麹やプロテアーゼが原料豆乳に作用することで生じる生成物や麹中に含まれる成分により、乳酸菌による発酵が促進され、pHがそれほど低下しない段階でも、乳酸菌発酵の生成物であるアセトインやジアセチルの含量が増加したものと考えられる。
【0035】
【表2】
【0036】
(9)アミノ酸組成の分析結果
HPLCによる豆乳発酵物中のアミノ酸組成の分析結果(mg/100g)を[表3]に示し、各アミノ酸の相対割合を[表4]に示す。一般に、アスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)は旨味を呈し、セリン(Ser)、グリシン(Gly)、スレオニン(Thr)、アラニン(Ala)及びプロリン(Pro)は甘味を呈し、ヒスチジン(His)、アルギニン(Arg)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、イソロイシン(Ile)及びロイシン(Leu)は苦味を呈するとされている。
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
本発明の実施例1~10においては、豆乳発酵物中のアスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)の合計を、ヒスチジン(His)とアルギニン(Arg)とチロシン(Tyr)とバリン(Val)とメチオニン(Met)とフェニルアラニン(Phe)とイソロイシン(Ile)とロイシン(Leu)との合計で除した値が、すべて0.4以上であった。また本発明の実施例1~10においては、豆乳発酵物中のフェニルアラニン(Phe)とロイシン(Leu)との合計が、すべて10.0mg/100g以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によると、豆乳飲料やそれを利用した食品に資するので、飲食品業界において利用可能となる。