(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173029
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】高速炉の炉心
(51)【国際特許分類】
G21C 5/00 20060101AFI20231130BHJP
G21C 5/20 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G21C5/00 A
G21C5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084988
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渕田 翔
(72)【発明者】
【氏名】藤村 幸治
(57)【要約】
【課題】ガス膨張モジュールを備える高速炉の炉心において、ULOFの発生を想定した場合であっても正の反応度を抑制する効果を増大しえる、高速炉の炉心を提供する。
【解決手段】一端が閉鎖され、他端が開口されている中空な管状構造物である、ガス膨張モジュールが設置された高速炉の炉心であって、炉心の径方向においてガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に、中性子を吸収する中性子吸収体、または、中性子の速度を減少させる中性子減速材が、設置されている、高速炉の炉心を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が閉鎖され、他端が開口されている中空な管状構造物である、ガス膨張モジュールが設置された高速炉の炉心であって、
前記炉心の径方向において前記ガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に、中性子を吸収する中性子吸収体、または、中性子の速度を減少させる中性子減速材が、設置されている
高速炉の炉心。
【請求項2】
請求項1に記載の高速炉の炉心であって、前記ガス膨張モジュールは、炉心燃料領域の径方向の外側に1周連なって設置されている高速炉の炉心。
【請求項3】
請求項1に記載の高速炉の炉心であって、前記炉心の径方向において前記ガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に、前記中性子減速材が配され、前記ガス膨張モジュール及び前記中性子減速材に隣接する位置に、前記中性子吸収体が配されている高速炉の炉心。
【請求項4】
請求項1に記載の高速炉の炉心であって、炉心燃料領域と遮へい体領域の間に径方向ブランケット領域を有し、前記炉心燃料領域と前記径方向ブランケット領域の間に前記ガス膨張モジュールを有し、前記中性子吸収体は前記ガス膨張モジュールの径方向外側に隣接する高速炉の炉心。
【請求項5】
請求項1に記載の高速炉の炉心であって、炉心燃料領域の上部にナトリウムプレナムが設置されている高速炉の炉心。
【請求項6】
請求項5に記載の高速炉の炉心であって、炉心燃料領域が内側炉心燃料領域と外側炉心燃料領域を有し、外側炉心燃料領域の上端の位置が内側炉心燃料領域の上端の位置よりも高い高速炉の炉心。
【請求項7】
請求項1に記載の高速炉の炉心であって、前記中性子吸収体の上端部は、主循環ポンプ起動時の前記ガス膨張モジュール内の液位よりも高い位置にあり、前記中性子吸収体の下端部は、主循環ポンプ停止時の前記ガス膨張モジュール内の液位よりも低い位置にある高速炉の炉心。
【請求項8】
請求項7に記載の高速炉の炉心であって、前記中性子吸収体の上端部は、前記ガス膨張モジュール内のガス空間の上端よりも高い位置にある高速炉の炉心。
【請求項9】
請求項1に記載の高速炉の炉心であって、前記ガス膨張モジュールのガス空間の上に、中性子を吸収する中性子吸収体が設置されている高速炉の炉心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉の液体金属による冷却材の流量喪失事象に対する安全性向上のために、ガス膨張モジュールを備えた、高速炉の炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
高速の中性子で核分裂反応を維持する高速炉は、一般的に原子炉容器内に設置された炉心と、原子炉容器内に充填された冷却材(液体金属による冷却材)によって構成されている。高速炉の炉心には、複数の燃料集合体が装荷される。燃料集合体は、束ねられた複数の燃料棒と、それを収めるラッパ管を有する。燃料棒は、核燃料物質とそれを封入する被覆管によって構成される。
【0003】
燃料集合体の燃料棒に封入される核燃料物質の形態として、酸化物燃料、金属燃料、窒化物燃料がある。核燃料物質としては、一般的に、プルトニウム(Pu)を富化した劣化ウラン(U-238)、核分裂性ウラン(U-235)を天然の同位体比よりも高めた濃縮ウラン燃料がある。
【0004】
高速炉の炉心は、燃料集合体を有する炉心燃料領域、炉心燃料領域を取り囲むブランケット燃料領域、及びブランケット燃料領域を取り囲む遮へい体領域を有する。ブランケット燃料領域は省略することもありうる。遮へい体領域には、炉心の中性子経済を高めるためにステンレス鋼製の反射体を有する。
【0005】
高速炉の起動、停止及び原子炉出力の調整のため、制御棒が用いられる。制御棒は、炭化ホウ素(B4C)ペレットをステンレス鋼製の被覆管に封入した、複数の中性子吸収棒を有し、これらの中性子吸収棒を、円環形状の制御棒案内管内に収納して構成される。
【0006】
原子炉容器内の冷却材を循環させるための主循環ポンプ故障等による1次系冷却材の流量喪失時に、制御棒による原子炉停止失敗が重畳した事象(ULOF: Unprotected Loss of Flow)を想定すると、炉心燃料集合体の出力・流量(P/F)比に不整合が生じ、炉心近傍の冷却材温度は上昇する。冷却材に液体金属を用いた高速炉では、一般的に、冷却材温度上昇時や冷却材沸騰時に正の反応度が挿入されるため、出力が上昇する。
【0007】
上述したような、万が一に生ずるULOF時の炉心出力増大を回避するために、特許文献1に記載される技術が提案されている。
特許文献1では、炉心燃料領域の最外周燃料集合体の外側に隣接するように、ガス膨張モジュールが配置されている。
そして、定格運転時には、ガス膨張モジュール内のナトリウム液位が炉心燃料領域の上端より上側にあり、ナトリウムの散乱効果によって炉心燃料で発生した中性子の半径方向の漏れが抑制される。
一方、主循環ポンプの故障等によって、ガス膨張モジュール下端のナトリウム入口部の冷却材圧力が低下すると、ガス膨張モジュール内のナトリウム液位は、炉心燃料領域の下端よりも下側に低下して、中性子の半径方向の漏れが増大する。これによって、ULOF時の正の反応度が抑制され、炉心の出力が上昇することが抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている構成は、炉心中心から水平方向に外部に向かう方向で、ガス膨張モジュールの背後に反射体を配する構成である。
このため、主循環ポンプの故障等によってガス膨張モジュール内のナトリウム液位が低下した場合に、炉心の半径方向に漏えいした中性子は、該反射体によって散乱され、一部が炉心燃料領域に再度侵入する。これにより、炉心の出力が下がりにくくなり、ガス膨張モジュールの中性子漏洩効果を抑制してしまう。
【0010】
本発明は、かかる技術的な課題を解決するためになされたもので、ガス膨張モジュールを備える高速炉の炉心において、ULOFの発生を想定した場合であっても、正の反応度を抑制する効果を増大しえる、高速炉の炉心を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の上記の目的及びその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高速炉の炉心は、一端が閉鎖され、他端が開口されている中空な管状構造物であるガス膨張モジュールが設置された高速炉の炉心である。
そして、本発明の高速炉の炉心は、炉心の径方向においてガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に、中性子を吸収する中性子吸収体、または、中性子の速度を減少させる中性子減速材が、設置されている構成である。
【発明の効果】
【0013】
上述の本発明の高速炉の炉心によれば、ガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に配置された、中性子吸収体または中性子減速材によって、ガス膨張モジュール作動時に漏えいした中性子の炉心燃料領域への散乱を、抑制することができる。これにより、ガス膨張モジュールによるULOF時の正の反応度抑制効果を増大しえる、高速炉の炉心を提供することができる。
【0014】
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図1に示す高速炉の炉心の、ガス膨張モジュールと中性子吸収体とを含む縦断面図である。
【
図3】炉心の実施例を適用する高速炉原子力発電システムの一例の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態及び実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
本発明の高速炉の炉心は、一端が閉鎖され、他端が開口されている中空な管状構造物であるガス膨張モジュールが設置された高速炉の炉心である。
そして、本発明の高速炉の炉心は、炉心の径方向においてガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に、中性子を吸収する中性子吸収体、または、中性子の速度を減少させる中性子減速材が、設置されている構成である。
【0018】
本発明の高速炉の炉心の構成によれば、ガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に配置された、中性子吸収体または中性子減速材によって、ガス膨張モジュール作動時に漏えいした中性子の炉心燃料領域への散乱を、抑制することができる。これにより、ガス膨張モジュールによるULOF時の正の反応度抑制効果を増大しえる、高速炉の炉心を提供することができる。
【0019】
また、本発明の高速炉の炉心は、要求されるガス膨張モジュールの反応度が同じ場合で、中性子吸収体または中性子減速材を設けていない従来の炉心と比較すると、ガス膨張モジュールの体数を削減することができる。
【0020】
上記の高速炉の炉心の構成において、中性子を吸収する中性子吸収体には、例えば、炭化ホウ素(B4C)等を使用することができる。そして、例えば、炭化ホウ素ペレットを被覆管に封入した中性子吸収棒を、ラッパ管内に収納して、中性子吸収体を構成することができる。
【0021】
上記の高速炉の炉心の構成において、中性子の速度を減少させる中性子減速材の材料としては、例えば、水素化ジルコニウム、水素化イットリウム、水素化ハフニウム、水素化カルシウム、ある種の水素化物、炭化ケイ素、ベリリウム、等を使用することができる。
【0022】
上記の高速炉の炉心において、ガス膨張モジュールが、炉心燃料領域の径方向の外側に1周連なって設置されている構成とすることができる。
この構成の場合、ガス膨張モジュールが炉心燃料領域の径方向の外側に1周連なって設置されている炉心においても、中性子吸収体または中性子減速材によって、ガス膨張モジュール作動時に漏えいした中性子の炉心燃料領域への散乱を、抑制することができる。
【0023】
上記の高速炉の炉心において、炉心の径方向においてガス膨張モジュールの外側に隣接する位置に、中性子減速材が配され、ガス膨張モジュール及び中性子減速材に隣接する位置に、中性子吸収体が配されている構成とすることができる。
この構成の場合、ガス膨張モジュールに隣接して、中性子吸収体と中性子減速材が配されているので、ガス膨張モジュール作動時に漏えいした中性子の炉心燃料領域への散乱を抑制する効果を、さらに高めることができる。
【0024】
上記の高速炉の炉心において、炉心燃料領域と遮へい体領域の間に径方向ブランケット領域を有し、炉心燃料領域と径方向ブランケット領域の間にガス膨張モジュールを有し、中性子吸収体はガス膨張モジュールの径方向外側に隣接する構成とすることができる。
この構成の場合、炉心燃料領域と遮へい体領域の間に径方向ブランケット領域を有する炉心においても、中性子吸収体によって、ガス膨張モジュール作動時に漏えいした中性子の炉心燃料領域への散乱を、抑制することができる。
【0025】
上記の高速炉の炉心において、炉心燃料領域の上部にナトリウムプレナムが設置されている構成とすることができる。
この構成の場合、炉心燃料領域の上部にナトリウムプレナムが設置されている炉心においても、中性子吸収体または中性子減速材によって、ガス膨張モジュール作動時に漏えいした中性子の炉心燃料領域への散乱を、抑制することができる。
【0026】
この構成において、さらに、炉心燃料領域が内側炉心燃料領域と外側炉心燃料領域を有し、外側炉心燃料領域の上端の位置が内側炉心燃料領域の上端の位置よりも高い構成とすることができる。
外側炉心燃料領域の上端の位置が内側炉心燃料領域の上端の位置よりも高いことにより、外側炉心燃料領域全体の高さが高くなり、外側炉心燃料領域の出力を高めることができる。このため、外側炉心燃料領域の出力と内側炉心燃料領域の出力との差を小さくすることや、外側炉心燃料領域の出力を内側炉心燃料領域の出力と同等とすることが、可能になる。
【0027】
上記の高速炉の炉心において、中性子吸収体の上端部が、主循環ポンプ起動時のガス膨張モジュール内の液位よりも高い位置にあり、中性子吸収体の下端部が、主循環ポンプ停止時のガス膨張モジュール内の液位よりも低い位置にある構成とすることができる。
この構成の場合、主循環ポンプ起動時及び主循環ポンプ停止時のいずれの状態でも、中性子吸収体をガス膨張モジュールのガス空間に対向させることができ、ガス空間を通過した中性子を中性子吸収体によって吸収することができる。
【0028】
この構成において、さらに、中性子吸収体の上端部が、ガス膨張モジュール内のガス空間の上端よりも高い位置にある構成とすることができる。ガス膨張モジュール内のガス空間の上端よりも高い位置にあることにより、中性子吸収体がガス空間全体をカバーして、ガス空間を通過した中性子を確実に吸収することができる。
【0029】
上記の高速炉の炉心において、ガス膨張モジュールのガス空間の上に、中性子を吸収する中性子吸収体が設置されている構成とすることができる。
この構成の場合、ガス膨張モジュールのガス空間の上にも、中性子吸収体が設置されているので、ガス膨張モジュール作動時に漏えいした中性子の炉心燃料領域への散乱を抑制する効果を、さらに高めることができる。
【実施例0030】
続いて、高速炉の炉心の具体的な実施例を説明する。
【0031】
(高速炉型原子力発電システムの構成)
まず、炉心の実施例の説明に先立ち、炉心の実施例を適用する、高速炉原子力発電システムの一例を説明する。
炉心の実施例を適用する、高速炉原子力発電システムの一例の全体構成図を、
図3に示す。
【0032】
図3に示す高速炉原子力発電システム1は、原子炉容器2、炉心3、中間熱交換器5、一次主循環ポンプ7a、二次主循環ポンプ7b、及び、蒸気発生器8を有する。
また、高速炉原子力発電システム1は、主蒸気系配管9a、高圧タービン11a、低圧タービン11b、発電機12、復水器13、給復水系配管9b、給水ポンプ14、及び、給水加熱器15を有する。
【0033】
炉心3は、核分裂性物質を含み、原子炉容器2内に収納されている。
中間熱交換器5及び一次主循環ポンプ7aは、原子炉容器2から一次冷却系配管4aを介して順に接続されている。
二次主循環ポンプ7b及び蒸気発生器8は、中間熱交換器5より二次冷却系配管4bを介して順に接続されている。
【0034】
主蒸気系配管9aは、蒸気発生器8にて発生した蒸気を、高圧タービン11a及び低圧タービン11bに送る。
高圧タービン11a及び低圧タービン11bは、送られてきた蒸気によって、タービンを回転させる。
発電機12は、低圧タービン11bの軸に連結されている。また、発電機12は、図示しないが、高圧タービン11aの軸にも連結されている。
復水器13は、高圧タービン11a及び低圧タービン11bを経由した後の蒸気を凝縮して水に戻す。
給復水系配管9bは、復水器13にて凝縮した水を、蒸気発生器8に戻す。
給水ポンプ14及び給水加熱器15は、復水器13の下流側で給復水系配管9bに連結されている。
【0035】
そして、高速炉原子力発電システム1は、炉心3にて加熱された一次系冷却材(例えば、液体ナトリウム)を中間熱交換器5に通して、二次系冷却材(例えば、液体ナトリウム)を加熱する。
さらに、高速炉原子力発電システム1は、二次系冷却材を蒸気発生器8に通して、主蒸気系配管9aに蒸気を発生させ、この蒸気を高圧タービン11a及び低圧タービン11bに導いて、発電機12により発電を行う。
発電に使用された蒸気は、沸騰水型(BWR)または加圧水型(PWR)軽水炉原子力発電システムと同様に、復水器13で凝縮されて水となり、その後、給水ポンプ14及び給水加熱器15を通ってそれぞれ加熱及び昇圧され、蒸気発生器8に給水される。
【0036】
炉心3には、後述する複数の炉心燃料集合体、制御棒及びガス膨張モジュール(GEM)が装荷されている。
炉心3を収納する原子炉容器2内は一次冷却材で満たされている。一次冷却材は、炉心3の下部より炉心3内に入り、炉心燃料集合体に沿って上昇し、一次主循環ポンプ7aにより、一次冷却系配管4aを介して原子炉容器2の外部に設けられた中間熱交換器5へと流入する。これにより、ループ型の高速炉を構成している。
【0037】
なお、本明細書では、ループ型の高速炉を例に説明するが、これに限られず、原子炉容器2、一次主循環ポンプ7a及び中間熱交換器5を1つのタンクに収容するタンク型の高速炉にも適用できる。
【0038】
(実施例)
続いて、高速炉の炉心の実施例を説明する。
【0039】
(実施例1)
図1は、実施例1の高速炉の炉心の横断面図である。
【0040】
図1に示すように、本実施例の高速炉の炉心10は、
図3に示した高速炉の原子炉容器2内に配置されるものであり、半径方向に炉心燃料領域21と、炉心燃料領域21を取り囲むように、反射体領域22が配置されている。
また、炉心燃料領域21と反射体領域22に隣接する位置に、ガス膨張モジュール(GEM)23が設置されている。ガス膨張モジュール23は、具体的には、六角形状の炉心10の6箇所の角部付近に1個ずつ、合計6個配置されている。
【0041】
炉心燃料領域21には、原子炉の起動時、停止時、及び出力の調整時に用いる、制御棒25が配置されている。制御棒25は、炭化ホウ素(B
4C)ペレットをステンレス製の被覆管に封入した、複数の中性子吸収棒を有し、これらの中性子吸収棒を円環形状の保護管内に収納して、構成される。制御棒25は、主炉停止系及び後備炉停止系の独立した2系統の構成となっているが、
図1ではこれらを区別せずに記載している。
【0042】
なお、
図1の高速炉の炉心10の横断面図は、炉心10の炉心燃料領域21に装荷される複数の燃料集合体と複数のガス膨張モジュール23との配置関係を示すものであり、説明の便宜上、炉心10の炉心燃料領域21に装荷される燃料集合体の体数及びガス膨張モジュール23の体数については、特に問わず簡略化して示している。
【0043】
ガス膨張モジュール(GEM)23は、一端が閉鎖され、他端が開口されている中空な管状構造物であり、外見は炉心燃料領域21に装荷される燃料集合体のラッパ管と同様である。
【0044】
さらに、本実施例の高速炉の炉心10は、炉心の中心から径方向外側に向かってガス膨張モジュール23の径方向外側に隣接する位置に、中性子を吸収する機能を持つ中性子吸収体24を有する。
中性子吸収体24は、炭化ホウ素(B4C)ペレットをステンレス製の被覆管に封入した複数の中性子吸収棒を有し、これらの中性子吸収棒を、炉心燃料領域21に装荷される燃料集合体と同様のラッパ管内に収納して構成される。
【0045】
図2は、
図1に示す高速炉の炉心10の、ガス膨張モジュール23と中性子吸収体24とを含む縦断面図である。
図2の左側の領域101は、
図3に示した一次主循環ポンプ7aの流量が定格運転時の状態を示す。
また、
図2の右側の領域102は、電源喪失等による一次主循環ポンプ7aの停止に伴う冷却材の流量喪失とスクラム失敗を重畳した事故(前述したULOF)とが発生した時の状態を示す。
【0046】
図2に示すように、ガス膨張モジュール23は、一端が閉鎖され、他端が開口されている中空な管状構造物を縦に配置して、上端が閉鎖され、下端が開口されている構成としている。そして、管状構造物の中空の空間に、冷却材ナトリウム(Na)26と、不活性ガスアルゴン(Ar)27とが、収容されている。
冷却材ナトリウム(Na)26は、液体であって、ガス膨張モジュール23の管状構造物の開口されている下端において、管状構造物に対する出入りが可能となっている。
不活性ガスアルゴン(Ar)27は、冷却材ナトリウム(Na)26の液面の上と、ガス膨張モジュール23の管状構造物の閉鎖されている上端との間に、収容されている。
【0047】
また、
図2に示すように、ガス膨張モジュール23の最上部、すなわち、ガス膨張モジュール23の管状構造物の上端の上には、ステンレス鋼製の中性子遮へい体28が配置されている。
中性子遮へい体28は、中性子を遮蔽して、外部への漏洩を低減する特性を有する。
【0048】
そして、
図2の左側の領域101に示すように、一次主循環ポンプ7aの流量が定格運転時には、ガス膨張モジュール23の入口部(下端)の冷却材ナトリウム(Na)26の圧力が増加する。そのため、ガス膨張モジュール23内の冷却材ナトリウム26の液位は、炉心燃料領域21に装荷される炉心燃料集合体の炉心燃料の上端部よりも高い位置にある。この時、ガス膨張モジュール23内の冷却材ナトリウム26は、中性子の散乱効果によって反射体の役割を果たすため、炉心10からの中性子の漏洩量は小さく抑えられる。
【0049】
一方、ULOF時には、燃料集合体の出力/流量(P/F)比が不整合となり、冷却材ナトリウム26の温度の上昇と冷却材ナトリウム26の密度の低下をもたらし、ガス膨張モジュール23の入口部の冷却材ナトリウム26の圧力が低下する。このため、
図2の右側の領域102に示すように、ガス膨張モジュール23内の冷却材ナトリウム26の液位は、炉心燃料領域21に装荷される炉心燃料集合体の炉心燃料の下端部よりも低い位置となる。この時、ガス膨張モジュール23内は、不活性ガスアルゴン(Ar)27が膨張することで満たされるが、不活性ガスアルゴン27の密度が小さいため、中性子の散乱効果は小さくなる。従って、炉心10からの中性子の漏洩量は大きくなる。
【0050】
以上から、ULOF時には、ガス膨張モジュール23によって、炉心10に負の印可反応度がもたらされる。
従って、ULOF時に、炉心燃料領域21の炉心燃料集合体における冷却材ナトリウム26の流量減少により、炉心10に正の印加反応度がもたらされても、ガス膨張モジュール23による負の印加反応度によって、炉心10の出力の増加が抑制される。すなわち、ULOF時の炉心10の安全性が向上する。
【0051】
さらに、本実施例の炉心10では、ガス膨張モジュール23の径方向外側に、中性子を吸収する中性子吸収体24を配することによって、ULOF時に、ガス膨張モジュール23によって炉心燃料領域21から漏洩した中性子の捕獲量を増大している。従って、ガス膨張モジュール23を有し、その径方向外側に中性子吸収体を設けない従来の炉心と比較して、ガス膨張モジュール23の冷却材ナトリウム26の液位が低下した際の、炉心燃料領域21への中性子の散乱が抑えられ、正味の中性子漏洩量が増大する。
【0052】
また、
図2に示すように、中性子吸収体24の上端部が、主循環ポンプ起動時101のガス膨張モジュール23内の液位よりも高い位置にあり、中性子吸収体24の下端部が、主循環ポンプ停止時102のガス膨張モジュール23内の液位よりも低い位置にある。
これにより、主循環ポンプ起動時101及び主循環ポンプ停止時102のいずれの状態でも、中性子吸収体24を不活性ガスアルゴン27のガス空間に対向させることができ、ガス空間を通過した中性子を中性子吸収体24によって吸収することができる。
【0053】
さらに、
図2に示すように、中性子吸収体24の上端部が、ガス膨張モジュール23内の不活性ガスアルゴン27のガス空間の上端よりも高い位置にある。
これにより、中性子吸収体24がガス空間全体をカバーして、ガス空間を通過した中性子を確実に吸収することができる。
【0054】
以上の通り、本実施例によれば、ガス膨張モジュール23の径方向外側に隣接する位置に中性子吸収体24を配することで、ULOF時を想定しても、ガス膨張モジュール23による負の印加反応度の絶対値を増大し得る高速炉を実現できる。
【0055】
なお、
図1では、ガス膨張モジュール23の径方向外側に1体の中性子吸収体24が配されているが、ガス膨張モジュール23に隣接する2体の中性子反射体22を中性子吸収体24に代えることも可能である。この場合は、ガス膨張モジュール23による負の印加反応度の絶対値がさらに向上する。また、炉心部の冷却材沸騰時や冷却材密度低下時において、正味の中性子漏洩量が増大する。
【0056】
また、中性子吸収体24に代えて、中性子の速度を減少させる中性子減速材を配した場合も、ガス膨張モジュール23による負の印加反応度の絶対値がさらに向上する。
この中性子減速材の材料としては、前述した、水素化ジルコニウム、水素化イットリウム、水素化ハフニウム、水素化カルシウム、ある種の水素化物、炭化ケイ素、ベリリウム、等を使用することができる。
【0057】
(実施例2)
次に、実施例2の高速炉の炉心を説明する。
図4は、実施例2の高速炉の炉心20の横断面図を示す。
【0058】
実施例1の高速炉の炉心10は、ガス膨張モジュール23を、炉心燃料領域21の外側に離散的に装荷し、ガス膨張モジュール23の径方向外側に中性子吸収体24を配した。
これに対し、本実施例の炉心20は、ガス膨張モジュール23を、炉心燃料領域21を取り囲むように周方向に装荷し、そのガス膨張モジュール23を取り囲むように周方向に中性子吸収体24を配する構成とした点で、実施例1の炉心10と異なる。
図4において、実施例1の炉心10と同様の構成要素には、同一の符号を付している。
【0059】
本実施例の炉心20は、
図3に示した高速炉の原子炉容器2内に配置されるものである。そして、本実施例の炉心20は、
図4に示すように、半径方向に炉心燃料領域21と、炉心燃料領域21を取り囲むガス膨張モジュール(GEM)23と、ガス膨張モジュール(GEM)23を取り囲む中性子吸収体24を有している。
【0060】
本実施例の炉心20は、ガス膨張モジュール23を、炉心燃料領域21を取り囲むように、最大限に配する。これにより、ULOF時にガス膨張モジュール23から漏洩する中性子を最大化し、隙間なく配置された中性子吸収体24で、漏洩した中性子を吸収することができるため、実施例1と同様の効果をさらに高めることが可能になる。また、炉心部の冷却材沸騰時や冷却材密度低下時において、正味の中性子漏洩量が増大する。
【0061】
なお、中性子遮へいの観点から、図示しないが中性子吸収体24の径方向外側に、さらに、ステンレス鋼または炭化ホウ素(B4C)よって構成される、中性子遮へい体を配しても良い。
【0062】
また、
図4の中性子吸収体24に代えて、中性子減速材を配しても良い。この場合には、ガス膨張モジュール23による負の印加反応度の絶対値がさらに向上する。
【0063】
(実施例3)
次に、実施例3の高速炉の炉心を説明する。
図5は、実施例3の高速炉の炉心30の(ガス膨張モジュールと中性子吸収体とを含む)縦断面図を示す。
【0064】
実施例1の炉心10は、ガス膨張モジュール23のガス空間の上の最上部に、ステンレス鋼製の中性子遮へい体28を有していた。
これに対し、本実施例の炉心30は、ガス膨張モジュール23のガス空間の上の最上部に、中性子を吸収する中性子吸収体29を有している点で、実施例1の炉心10と異なる。
図5において、実施例1の炉心10と同様の構成要素には、同一の符号を付している。
【0065】
図5に示す中性子吸収体29には、ガス膨張モジュール23の径方向外側に配した中性子吸収体24と同様の材料や、その他の中性子を吸収する特性を有する材料を、使用することができる。
【0066】
本実施例によれば、ガス膨張モジュール23のガス空間の上に、中性子吸収体29を有している。これにより、散乱した中性子を中性子吸収体29が吸収することで、炉心燃料領域21に散乱する中性子を低減できるため、実施例1の炉心10と同様の効果をさらに高めることが可能になる。
【0067】
なお、
図5の中性子吸収体29に替えて、中性子減速材を配しても良く、その場合には、ガス膨張モジュールによる負の印加反応度の絶対値がさらに向上する。
【0068】
(実施例4)
次に、実施例4の高速炉の炉心を説明する。
図6は、実施例4の高速炉の炉心40の横断面図を示す。
【0069】
実施例1の炉心10は、炉心燃料領域21の外側に接して、反射体領域22を配した。
これに対し、本実施例の炉心40は、炉心燃料領域21と反射体領域22との間に、ブランケット領域31を配し、中性子吸収体24の外側に接して反射体領域22を配し、中性子吸収体24の横にブランケット領域31を配する。
図6において、実施例1の炉心10と同様の構成要素には、同一の符号を付している。
【0070】
図6に示すように、本実施例の炉心40は、炉心燃料領域21と反射体領域22との間に、ブランケット領域31を配する。
ブランケット領域31としては、例えば、前述した特許文献1の[0005]に記載されているように、劣化ウランで作られた複数の二酸化ウランペレットを充填した複数の燃料棒を有するブランケット燃料集合体が装荷された構成を採用することができる。
【0071】
本実施例の炉心40は、炉心燃料領域21と反射体領域22との間に、ブランケット領域31を配する。これにより、ブランケット領域31において、劣化ウラン等を燃料として使用することができる。
本実施例の炉心40の構成から、炉心燃料領域21の外側にブランケット領域31を設けた炉心40においても、ガス膨張モジュール23の径方向外側に中性子吸収体24を配して、実施例1の炉心10と同様の効果が得られる。
【0072】
また、
図6の中性子吸収体24に代えて、中性子減速材を配しても良い。この場合には、ガス膨張モジュール23による負の印加反応度の絶対値がさらに向上する。
【0073】
(実施例5)
次に、実施例5の高速炉の炉心を説明する。
図7は、実施例5の高速炉の炉心50の横断面図を示す。
【0074】
実施例1の炉心10は、ガス膨張モジュール23の径方向外側に、1個の中性子吸収体24を配した。
これに対し、本実施例の炉心50は、ガス膨張モジュール23の外側に、2個の中性子吸収体24と、1個の中性子減速材32を配する。
図7において、実施例1の炉心10と同様の構成要素には、同一の符号を付している。
【0075】
図7に示すように、本実施例の炉心50は、ガス膨張モジュール23の径方向外側に、1個の中性子減速材32を配し、ガス膨張モジュール23の外側であってガス膨張モジュール23及び中性子減速材32に接して、中性子吸収体24を配する。すなわち、本実施例の炉心50は、中性子吸収体24と中性子減速材32を併用している。
【0076】
中性子減速材32の材料としては、水素化ジルコニウム、水素化イットリウム、水素化ハフニウム、水素化カルシウム、ある種の水素化物、炭化ケイ素、ベリリウム、等の材料を使用することができる。
【0077】
本実施例の炉心50は、炉心燃料領域21の外側に、中性子吸収体24と中性子減速材32を配し、中性子吸収体24と中性子減速材32を併用している。これにより、中性子吸収体24単独よりも、ガス膨張モジュール23による負の印加反応度の絶対値を、さらに向上することができる。
【0078】
(実施例6)
次に、実施例6の高速炉の炉心を説明する。
図8は、実施例6の高速炉の炉心60の(ガス膨張モジュールと中性子吸収体とを含む)縦断面図を示す。
【0079】
実施例1の炉心10は、一定の高さの炉心燃料領域21を有していた。
これに対し、本実施例の炉心60は、炉心燃料領域21を高さの異なる内側炉心燃料領域21Aと外側炉心燃料領域21Bに分け、さらに、炉心燃料領域21の上にナトリウムプレナム33を配する。
図8において、実施例1の炉心10と同様の構成要素には、同一の符号を付している。
【0080】
図8に示すように、本実施例の炉心60は、炉心燃料領域21を、内側炉心燃料領域21Aと外側炉心燃料領域21Bに分けており、さらに、外側炉心燃料領域21Bは、内側炉心燃料領域21Aよりも、上端の位置が高くなっている。
【0081】
実施例1の炉心10では、
図2に示したように、炉心燃料領域21が一定の高さであるため、炉心燃料領域21の内側よりも外側では出力が小さくなる。
これに対し、本実施例の炉心60では、外側炉心燃料領域21Bが内側炉心燃料領域21Aよりも上端の位置が高く、下端は同じ高さであるため、外側炉心燃料領域21Bの全体の高さが高くなり、外側炉心燃料領域21Bの出力を高めることができる。これにより、外側炉心燃料領域21Bの出力と内側炉心燃料領域21Aの出力との差を小さくすることや、外側炉心燃料領域21Bの出力を内側炉心燃料領域21Aの出力と同等とすることが、可能になる。
【0082】
ナトリウムプレナム33としては、例えば、前述した特許文献1に記載されているように、燃料棒束が無い燃料集合体内の上部において、ラッパ管にて区画化され、冷却材ナトリウムを収容し得る、構成を採用することができる。
【0083】
本実施例の炉心60は、実施例1の炉心10と同様に、ガス膨張モジュール23の径方向外側に中性子吸収体24を配しているので、実施例1の炉心10と同様の効果が得られる。
また、本実施例の炉心60は、内側炉心燃料領域21aよりも外側炉心燃料領域21bが、上端の位置が高くなっていることにより、外側炉心燃料領域21Bの全体の高さが高くなり、外側炉心燃料領域21Bの出力を高めることができる。
また、本実施例の炉心60は、炉心燃料領域21(21A,21B)の上にナトリウムプレナム33を設けたことにより、ナトリウムのボイド反応度を低減することができる。
【0084】
なお、本発明は、上述した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態及び実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
1…高速炉原子力発電システム、2…原子炉容器、3,10,20,30,40,50,60…炉心、4a…一次冷却系配管、4b…二次冷却系配管、5…中間熱交換器、7a…1次主循環ポンプ、7b…2次主循環ポンプ、8…蒸気発生器、9a…主蒸気系配管、9b…給復水系配管、11a…高圧タービン、11b…低圧タービン、12…発電機、13…復水器、14…給水ポンプ、15…給水加熱器、21…炉心燃料領域、21A…内側炉心燃料領域、21B…外側炉心燃料領域、22…反射体領域、23…ガス膨張モジュール、24,29…中性子吸収体、25…制御棒、26…冷却材ナトリウム、27…不活性ガスアルゴン、28…中性子遮へい体、31…ブランケット領域、32…中性子減速材、33…ナトリウムプレナム