(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017306
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】端部部品とそれを用いた遮音壁
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20230131BHJP
E01F 8/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
G10K11/16 130
E01F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121483
(22)【出願日】2021-07-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・研究集会名 卒業論文発表会 開催場所 学校法人 関西大学 千里山キャンパス 第4学舎 2号館 2308教室 開催日 令和3年2月16日 ・ウェブサイトのアドレス http://wps.itc.kansai-u.ac.jp/acoust/wp-content/uploads/sites/190/2021/02/2020_b_yoshimura.pdf 掲載日 令和3年4月1日
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】豊田 政弘
【テーマコード(参考)】
2D001
5D061
【Fターム(参考)】
2D001AA01
2D001BA01
2D001BB01
2D001CA01
2D001CB02
2D001CD02
5D061AA06
5D061AA16
5D061BB02
(57)【要約】
【課題】耐候性および加工性に優れた端部部品、およびそれを用いた遮音壁を実現する。
【解決手段】遮音壁(1)は、第1側と、第1側の反対側の第2側とで音圧差を発生させて圧力勾配をつける本体部(2)と、本体部(2)の端縁に配置される端部部品としての穿孔板(3)と、を備える。穿孔板(3)は、剛性を有する板部材からなり、第1側と同じ側に第1面(20)を有し、第2側と同じ側に第2面(21)を有し、第1面(20)から第2面(21)へ直線的に貫通している複数の孔(4)を有している。圧力勾配によって加速された空気の粒子が、第1面(20)から第2面(21)に向かって複数の孔を通過することによって、速度エネルギーが熱エネルギーとして消費され、第1側から第2側への音の透過が小さくなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1側と、前記第1側の反対側の第2側とで音圧差を発生させて圧力勾配を付ける遮音壁の本体部の端縁に配置される端部部品であって、
前記端部部品は、剛性を有する板部材からなり、前記第1側と同じ側に第1面を有し、前記第2側と同じ側に第2面を有し、前記第1面から前記第2面へ直線的に貫通している複数の孔を有しており、
前記圧力勾配によって加速された空気の粒子が、前記第1面から前記第2面に向かって前記複数の孔を通過することによって、速度エネルギーが熱エネルギーとして消費され、前記第1側から前記第2側への音の透過が小さくなる端部部品。
【請求項2】
前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、
前記第2端側の開孔率が前記第1端側の開孔率よりも大きい請求項1に記載の端部部品。
【請求項3】
前記第1端から前記第2端にかけて開孔率が次第に大きくなる請求項2に記載の端部部品。
【請求項4】
前記第1端から前記第2端にかけての開孔率は、0.1%から30%の範囲内で次第に大きくなる請求項3に記載の端部部品。
【請求項5】
前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、
前記第1端側から前記第2端側にかけて開孔率が一定である請求項1に記載の端部部品。
【請求項6】
前記開孔率は、0.7%以上、20%以下である請求項5に記載の端部部品。
【請求項7】
前記孔の直径は、0.01mm以上、10mm以下である請求項1から6の何れか1項に記載の端部部品。
【請求項8】
前記端部部品の板厚は、0.1mm以上、10mm以下である請求項1から7の何れか1項に記載の端部部品。
【請求項9】
第1側と、前記第1側の反対側の第2側とで音圧差を発生させて圧力勾配を付ける本体部と、
前記本体部の端縁に配置され、剛性を有する板部材からなり、前記第1側と同じ側に第1面を有し、前記第2側と同じ側に第2面を有し、前記第1面から前記第2面へ直線的に貫通している複数の孔を有する端部部品と、
を備え、
前記圧力勾配によって加速された空気の粒子が、前記第1面から前記第2面に向かって前記複数の孔を通過することによって、速度エネルギーが熱エネルギーとして消費され、前記第1側から前記第2側への音の透過が小さくなる遮音壁。
【請求項10】
前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、
前記第2端側の開孔率が前記第1端側の開孔率よりも大きい請求項9に記載の遮音壁。
【請求項11】
前記第1端から前記第2端にかけて開孔率が次第に大きくなる請求項10に記載の遮音壁。
【請求項12】
前記第1端から前記第2端にかけての開孔率は、0.1%から30%の範囲内で次第に大きくなる請求項11に記載の遮音壁。
【請求項13】
前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、
前記第1端側から前記第2端側にかけて開孔率が一定である請求項9に記載の遮音壁。
【請求項14】
前記開孔率は、0.7%以上、20%以下である請求項13に記載の遮音壁。
【請求項15】
前記孔の直径は、0.01mm以上、10mm以下である請求項9から14の何れか1項に記載の遮音壁。
【請求項16】
前記端部部品の板厚は、0.1mm以上、10mm以下である請求項9から15の何れか1項に記載の遮音壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音壁の本体部の端縁に配置される端部部品、およびそれを用いた遮音壁に関する。
【背景技術】
【0002】
道路騒音や鉄道騒音等を低減するために、非常に背の高い遮音壁が設置されている。しかしながら、背の高い遮音壁は、景観、日照、構造、コストの観点から望ましいものではない。そのため、高さを低く抑えたまま遮音性能を向上させることが求められている。これを実現する手法の一つとして、従来、板部材からなる遮音壁の本体部の端縁に端部部品を取り付ける手法が提案さている。このような手法を採用した遮音壁は、先端改良型遮音壁と呼ばれている。
【0003】
先端改良型遮音壁の中でも、エッジ効果に着目し、端部部品として吸音材を取り付け、エッジ効果を抑制する遮音壁(エッジ効果抑制型遮音壁)は、遮音効果が大きく、遮音壁の高さを低く抑えることができる(例えば、特許文献1)。エッジ効果とは、遮音壁の端部のごく近傍で空気の粒子速度が非常に大きくなる現象である。エッジ効果は、回折音場に非常に大きな影響を与えるため、エッジ効果を如何に抑えるかが遮音のポイントとなる。
【0004】
エッジ効果抑制型遮音壁では、本体部の端縁に配置された吸音材にて、粒子速度のエネルギーが熱エネルギーとして消費されることで吸音されると考えられている。吸音材は、無機繊維や金属繊維からなる多孔質体や布等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエッジ効果抑制型遮音壁における吸音材は耐候性が十分ではないため、パンチングメタルなどからなる吸音材を覆うカバーが必要となる。カバーは、吸音材のエッジ効果を抑制する効果を減少させるため、遮音効果が減少する。また、カバーそのものの費用が加わることで、遮音壁としてコスト高となり、メンテナンス費用等も必要となる。
【0007】
さらに、先端を細くするなどして吸音材の抵抗を変化させることで、エッジ効果を抑制する効果が向上し、遮音効果が向上することがわかっている。しかしながら、多孔質体や布等からなる吸音材は細かい繊維であるため、先端を細くカットするなどの加工が困難である。
【0008】
本発明の一態様は、エッジ効果を抑制することができ、かつ、耐候性および加工性に優れた端部部品、およびそれを用いた遮音壁を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る端部部品は、第1側と、前記第1側の反対側の第2側とで音圧差を発生させて圧力勾配を付ける遮音壁の本体部の端縁に配置される端部部品であって、前記端部部品は、剛性を有する板部材からなり、前記第1側と同じ側に第1面を有し、前記第2側と同じ側に第2面を有し、前記第1面から前記第2面へ直線的に貫通している複数の孔を有しており、前記圧力勾配によって加速された空気の粒子が、前記第1面から前記第2面に向かって前記複数の孔を通過することによって、速度エネルギーが熱エネルギーとして消費され、前記第1側から前記第2側への音の透過が小さくなる構成である。
【0010】
上記構成によれば、端部部品を遮音壁の本体部の端縁に配置することで、エッジ効果を抑制することができる。しかも、端部部品は剛性を有する板部材からなるので、従来の多孔質の吸音材からなる端部部品に比べて、耐候性および加工性に優れる。
【0011】
本発明の一態様に係る端部部品においては、前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、前記第2端側の開孔率が前記第1端側の開孔率よりも大きい構成としてもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る端部部品においては、前記第1端から前記第2端にかけて開孔率が次第に大きくなる構成としてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る端部部品においては、前記第1端から前記第2端にかけての開孔率は、0.1%から30%の範囲内で次第に大きくなる構成としてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る端部部品においては、前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、前記第1端側から前記第2端側にかけて開孔率が一定である構成としてもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る端部部品においては、前記開孔率は、0.7%以上、20%以下である構成としてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る端部部品においては、前記孔の直径は、0.01mm以上、10mm以下である構成としてもよい。
【0017】
本発明の一態様に係る端部部品においては、前記端部部品の板厚は、0.1mm以上、10mm以下である構成としてもよい。
【0018】
本発明の一態様に係る遮音壁は、第1側と前記第1側の反対側の第2側とで音圧差を発生させて圧力勾配を付ける本体部と、前記本体部の端縁に配置され、剛性を有する板部材からなり、前記第1側と同じ側に第1面を有し、前記第2側と同じ側に第2面を有し、前記第1面から前記第2面へ直線的に貫通している複数の孔を有する端部部品とを備え、前記圧力勾配によって加速された空気の粒子が、前記第1面から前記第2面に向かって前記複数の孔を通過することによって、速度エネルギーが熱エネルギーとして消費され、前記第1側から前記第2側への音の透過が小さくなる構成である。
【0019】
上記構成によれば、エッジ効果を抑制する遮音壁を得ることができる。しかも、遮音壁の端部部品は剛性を有する板部材からなるので、従来の多孔質の吸音材からなる端部部品に比べて、耐候性および加工性に優れる。
【0020】
本発明の一態様に係る遮音壁においては、前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、前記第2端側の開孔率が前記第1端側の開孔率よりも大きい構成としてもよい。
【0021】
本発明の一態様に係る遮音壁においては、前記第1端から前記第2端にかけて開孔率が次第に大きくなる構成としてもよい。
【0022】
本発明の一態様に係る遮音壁においては、前記第1端から前記第2端にかけての開孔率は、0.1%から30%の範囲内で次第に大きくなる構成としてもよい。
【0023】
本発明の一態様に係る遮音壁においては、前記端部部品は、前記本体部の前記端縁に近い第1端と、前記第1端の反対側に位置する第2端とを有し、前記第1端側から前記第2端側にかけて開孔率が一定である構成としてもよい。
【0024】
本発明の一態様に係る遮音壁においては、前記開孔率は、0.7%以上、20%以下である構成としてもよい。
【0025】
本発明の一態様に係る遮音壁においては、前記孔の直径は、0.01mm以上、10mm以下である構成としてもよい。
【0026】
本発明の一態様に係る遮音壁においては、前記端部部品の板厚は、0.1mm以上、10mm以下である構成としてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、エッジ効果を抑制することができ、かつ、耐候性および加工性に優れた端部部品、およびそれを用いた遮音壁を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態1に係る遮音壁の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した遮音壁の構成を示す側面図である。
【
図3】
図1に示した面Dで切った穿孔板の断面形状の例を示す拡大図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係る遮音壁の構成を示す斜視図である。
【
図5】周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係式を導くための過程の説明に用いる図である。
【
図6】周波数(Hz)における挿入損失(dB)の計算に用いる条件を説明する図である。
【
図7】
図1に示した遮音壁の一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。
【
図8】
図4に示した遮音壁の一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。
【
図9】
図4に示した遮音壁の一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。
【
図10】
図1に示した遮音壁の一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本願発明者は、耐候性および加工性に優れつつ、エッジ効果を抑制することができる端部部品を探求すべく鋭意検討を行った。その結果、本願発明者は、剛性を有し、複数の孔(貫通孔)が形成された板部材である穿孔板に着目した。吸音特性を示す物質として繊維などの多孔質素材が知られているが、本願のように剛性を有する板部材を用いるものはなかった。また、遮音という観点からいうと、孔があいていると音が漏れてしまうので、なるべく孔をあけない壁を用いる方がよいと考えられていた。このような固定観念のある中、本願発明者は、穿孔板を端部部品として用いたところエッジ効果を抑制し得ることを見出し、以下に記載する端部部品、遮音壁を発明するに至った。
【0030】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0031】
〔実施形態1〕
(1.遮音壁1の構成)
図1は、本実施形態に係る遮音壁1の構成を示す斜視図である。
図2は、
図1に示した遮音壁1の構成を示す側面図である。
【0032】
図1、
図2に示すように、遮音壁1は、本体部2と、本体部2の端縁に配置されたエッジ効果を抑制する端部部品としての穿孔板(端部部品)3と、を備える。本体部2は、剛性を有する板部材からなる。穿孔板3は、剛性を有する板部材からなり、複数の孔4を有している。
【0033】
なお、
図1、
図2では、本体部2は、直方体に形成されているが、立方体や、多面体や、その他の形状であってもよい。穿孔板3も直方体に形成されているが、立方体や、多面体や、その他の形状であってもよい。
図1、
図2では、穿孔板3は、本体部2の上面に配置されているが、設置面となる本体部2の下面を除く左右の側面に設置されていてもよい。また、本体部2の下面を設置面とする以外の方法で遮音壁1を設置する場合は、穿孔板3を、下面を含めて設けてもよい。
【0034】
本体部2は、端縁付近の表側(第1側)と裏側(第2側)とで音圧差を発生させて圧力勾配を付けるための剛性を有する材料で構成されている。ここで、例えば、表側とは音源に近い側である。本体部2の材料としては、木、各種の金属又は複数枚の紙を重ね合わせて一体化した複合紙など、剛性を有する材料であればよい。金属としては、鉄、ニッケル、アルミニウム、銅、マグネシウム、鉛などの他、これら2種以上の金属からなる合金であってもよい。遮音壁としての機能を得るには、本体部2の面密度は、12kg/m2以上が好ましい。本体部2で生じる圧力勾配は、本体部2の厚みを薄くすればするほど大きくなる。
【0035】
穿孔板3は、剛性を有する板部材からなり、かつ、表側(第1面20)から裏側(第2面21)へ直線的に貫通している複数の孔4を有している。ここで、穿孔板3の第1面20は、本体部2の第1側と同じ側であり、穿孔板3の第2面21は、本体部2の第2側と同じ側である。穿孔板3は、回折音場に非常に大きな影響を与えるエッジ効果を抑制するものである。本体部2にて発生した圧力勾配によって加速された空気の粒子が、穿孔板3の第1面から第2面に向かって複数の孔4を通過することによって、速度エネルギーが熱エネルギーとして消費される。その結果、第1側から第2側への音の透過が、孔が開いていない板部材と比べて小さくなる。
【0036】
穿孔板3の材料としては、各種の金属、合成樹脂など、剛性を有する材料であればよい。金属としては、鉄、ニッケル、アルミニウム、銅、マグネシウム、鉛などの他、これら2種以上の金属からなる合金であってもよい。合成樹脂としては、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどであってもよい。アクリル等の透明樹脂を用いて穿孔板3の部分を透明に構成することで、日光や視線を妨げる部分を本体部2のみとできる。
【0037】
(2.穿孔板3)
図3は、
図1に示した面Dで切った穿孔板3の断面形状の例を示す拡大図である。
図3の(a)に示す例では、穿孔板3は、厚み方向(第1面20から第2面21の方向)に貫通する複数の孔(貫通孔)4を有している。なお、
図3の(a)では、孔4として、穿孔板3の表面(裏面)の法線方向に直線的に貫通する孔を示している。しかし、孔の内周面が傾斜したテーパー型(
図3の(b),(c))や、孔の軸方向が前記法線方向に対して傾斜した斜め形状(
図3の(d)、(e),(f))であってもよい。
図3の(b),(c)はテーパー型であるが、孔が法線方向に直線的に貫通している箇所がある。また、
図3の(d),(e),(f)は、孔が法線方向に対して傾斜した方向に直線的に貫通している。すなわち、
図3の(a)~(f)すべて孔は直線的に貫通しているといえる。この構成が本発明の端部部品における特徴の一つである。また、穿孔板3として均一な厚みを有する構成を例示するが、これに限定されるものではない。但し、均一な厚みを有する構成は、均一な厚みの板部材を用いることができる。
【0038】
図1に示すように、複数の孔4は、本体部2側となる根元部10(第1端)からその反対側の先端部11(第2端)にかけて、一定の開孔率で形成されている。換言すると、穿孔板3は、根元部10から先端部11にかけて一定の開孔率を有している。開孔率とは、孔がどれだけ空いているかを示す値であり、孔形状、孔直径(以下、孔径)、孔ピッチ、孔配列等の設定条件を使って算出される。例えば、孔形状および孔径が等しく、孔ピッチまたは孔配列が一定である場合、一定の開孔率を有していると言える。
【0039】
但し、穿孔板3における全ての孔4が、同一の孔形状、同一の孔径、同一の孔ピッチ又は同一の孔配列である必要はなく、何れかが異なる孔4が少数含まれていてよい。また、微視的には一定でなくとも、根元部10から先端部11にかけて巨視的に一定であれば、一定の開孔率で形成されていると言える。
【0040】
<開孔率>
穿孔板3の開孔率は、0.7%以上とすることが好ましい。これは、0.7%未満となると、穿孔板3を設置せず、穿孔板3の高さ分本体部2を高くした場合と、遮音効果(挿入損失)があまり変わらないことを確認しているためである。
【0041】
穿孔板3の開孔率は、20%以下とすることが好ましい。これは、20%超えると、穿孔板3を設置せず、穿孔板3の高さ分本体部2を高くした場合と、低周波数における遮音効果があまり変わらなくなることを確認しているためである。
【0042】
<面密度>
穿孔板3の面密度は、0.6kg/m2以上が好ましい。穿孔板3の面密度とは、穿孔板3の重さであり、材料(材質)、厚みによって変わる値である。
【0043】
<孔径>
孔径は、0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上とすることである。これは、孔径が0.01mmより小さいと、孔4の形成が容易には行えず、かつ、穿孔板3による遮音効果はあまり変わらないことを確認しているためである。0.05mm以上とすることで、孔4の形成が容易になり、生産性が向上する。
【0044】
孔径は、10mm以下、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下とすることである。10mmを含めるのは、3500(Hz)以上の周波数域で穿孔板3による遮音効果を確認しているためである。1mm以下とすることで、250(Hz)以上の広い周波数域で穿孔板3による遮音効果を得ることができることを確認している。また、1mmと0.1mmとを比べると、0.1mmの方が遮音効果が高いことを確認している。
【0045】
<板厚>
穿孔板3の厚み(板厚)は、0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.5mm以上とすることである。これは、0.1mmよりも薄い構成とすると、その厚みにおいて剛性を有するといった条件を満足する材料の選択が難しくなるためである。0.5mm以上とすることで、材料選択が容易になり、かつ耐久性も向上する。
【0046】
穿孔板3の厚みは、10mm以下とすることが好ましい。これは、10mmを超えて厚くしても、穿孔板3による遮音効果はあまり変わらないことを確認しているためである。材料削減の観点から10mm以下とすることが好ましい。
【0047】
(3.効果)
上記構成を有する遮音壁1を、例えば音が発生している空間中に配置すると、剛性を有する本体部2により、本体部2の端縁付近の表側(第1側)と裏側(第2側)とで音圧差を発生させることができる。つまり、音源側の圧力が本体部2の表側に発生しているとすると、表側の圧力振幅に対して音源とは反対側の音の発生していない裏側の圧力振幅が小さくなる。そのため、本体部2の端縁付近の表側と裏側とで音圧差が発生し、端縁付近の表側と裏側とで圧力勾配を付けることができる。この圧力勾配によって、音を伝える空気の粒子が本体部2の端縁付近において加速され、加速された粒子が本体部2の端縁に備えられた穿孔板3を通過することによって、孔周壁との摩擦により速度エネルギーが熱エネルギーとして消費される。その結果、裏側への音の透過が小さくなる、つまり遮音される。空気の粒子が加速されることで、穿孔板3を通過して消費される熱エネルギーが大きくなるため、遮音効果が非常に大きくなる。
【0048】
このような構成では、本体部2と本体部2の端縁付近に配置された穿孔板3とで、音の透過を抑制できることから、少ない部品点数で、小型化、低背化を実現することができる。
【0049】
穿孔板3は、例えば、剛性を有する板部材にレーザ等を用いて穿孔加工を施すことで形成することができる。したがって、多孔質体や布等からなる吸音材に比べて耐候性および加工性に優れている。また、材料の選択幅が広がり、様々な素材でつくることができるので、軽くしたり、薄くしたりすることが容易に行える。また、遮音効果に影響する、孔径、板厚、開孔率、面密度等の値の細かい制御も可能となる。
【0050】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0051】
第1の実施形態に係る遮音壁1において、穿孔板3は、根元部10(第1端)から先端部11(第2端)にかけて一定の開孔率を有していた。これに対し、本実施形態に係る遮音壁1Aにおいて穿孔板(端部部品)3Aは、先端部11(第2端)の開孔率が根元部10(第1端)の開孔率よりも大きい。根元部10から先端部11にかけて開孔率が次第に大きくなる構成であってもよい。なお、面密度、孔径、板厚の好ましい数値範囲は、第1の実施形態に係る遮音壁1と同じである。
【0052】
図4は、本実施形態に係る遮音壁1Aの構成を示す斜視図である。
図4に示すように、穿孔板3Aは、根元部10よりも先端部11において孔4が多く形成されており、根元部10よりも先端部11の開孔率が大きい。
図4の構成では、根元部10から先端部11にかけて開孔率が次第に大きくなるように構成されている。以下、根元部10から先端部11にかけて開孔率が次第に大きくなるように構成されているものを、グラデーションを有すると称する。
【0053】
根元部10の開孔率とは、穿孔板3Aの根元側の端部(下端)から先端側に向かう所定の距離までの領域の平均の開孔率である。先端部11の開孔率とは、先端側の端部(上端)から根元側に向かう所定の距離までの領域の平均の開孔率である。グラデーションを有する構成では、上下方向において開孔率が変化し、左右方向(横方向)において開孔率は同じである。
【0054】
一定な開孔率を有する穿孔板3以外にも、開孔率にグラデーションを有する穿孔板3Aにおいても、エッジ効果を抑制することによる遮音効果を得ることができる。
【0055】
穿孔板3Aにおいて、根元側の開孔率は0.1%以上とすることがこのましい。これは0.1%未満となると、開孔率が小さ過ぎて穿孔板としての機能を有さなくなるためである。より好ましくは、根元側の開孔率を0.5%以上、さらに好ましくは1%以上とすることである。
【0056】
穿孔板3Aにおいて、先端側の開孔率は30%以下とすることがこのましい。これは、30%を超えると、開孔率が大き過ぎてエッジ効果を抑制することによる遮音効果が期待できないためである。より好ましくは、先端側の開孔率を20%以下、さらに好ましくは10%以下とすることである。
【0057】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0058】
ここでは、端部部品として穿孔板3を備えた遮音壁1、および端部部品として穿孔板3Aを用いた遮音壁1Aの遮音性能を調べた結果を説明する。穿孔板3,3Aの挿入損失に影響するパラメータとして、孔径、板厚、開孔率、面密度を変化させた。また、比較対象として、端部部品として多孔質の吸音材を用いた従来のエッジ効果抑制型遮音壁、および端部部品を配置せずその高さ分高くした剛板のみからなる遮音壁の挿入損失を示す。従来のエッジ効果抑制型遮音壁としては、吸音材を用いた場合と、先端を細くした吸音材を用いた場合との2種類の挿入損失を示す。
【0059】
実際に日常で発せられる音には様々な周波数が入り混じっている。高い音は周波数が高く、低い音は周波数が低い。そのため、ここでは、周波数による挿入損失の変化を調べることとし、横軸を周波数(Hz)、縦軸を挿入損失(dB)に設定したグラフ(
図7~
図10)を作成した。グラフは、周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係式を示している。
【0060】
図5は、周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係式を導くための過程の説明に用いる図である。
【0061】
Γ
1は剛板(本体部)、Γ
2は端部部品、Γ
3は領域Ω
1とΩ
2を連結する仮想境界を示す。Sは音源、Pは受音点、P
iは境界Γ
1,2,3に対するPの虚受音点、nはΓ
1,2,3の法線方向を表す。Γ
∞は領域の外側、すなわち、無限遠を表す境界である。Pが回折場である領域Ω
2内にある場合、Pでの速度ポテンシャルφ
2(P)は下記式(1)より求めることができる。
【数1】
ここで、QはΓ
2およびΓ
3上の点、iは虚数単位、kは波数、rは距離を表す。
【0062】
遮音性能を評価するための挿入損失(dB)は下記式(2)より求めることができる。
【数2】
ここで、φ
0(P)は遮音壁が無い場合、すなわち、Γ
1,2が無い場合の速度ポテンシャルである。
【0063】
図6は、周波数(Hz)における挿入損失(dB)の計算に用いる条件を説明する図である。
図6の(a)は平面図であり、
図6の(b)は、側面図である。半無限長の遮音壁が、自由空間に配置されている。計算にはフォートラン(Fortran)を利用した。また、
図6では、A点を受音点とした条件で計算した。A点は、遮音壁よりその面の法線方向に0.7m離れ、端部部品の先端から0.7mの下がった位置にある。PB部分に端部部品として穿孔板3を設置する。Rigidは端部部品を設置せず、本体部2を先端まで延長した場合を表す。
【0064】
(ケース1)
図7は、遮音壁1の一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。E1が遮音壁1の一例である例1の計算結果を示している。すなわち、例1(E1)の構成は
図1の構成である。C1が剛板のみからなる遮音壁の計算結果を示す。C2が吸音材を用いた場合の遮音壁の計算結果、C3が先端を細くした吸音材を用いた場合の遮音壁の計算結果を示す。
【0065】
例1の遮音壁1の穿孔板3の条件は、孔径が0.25mm、板厚が1mm、開孔率が0.785%、面密度が0.6kg/m2である。根元部10から先端部11までの長さ(高さ)は20cmである。
【0066】
図7に示すように、例1の遮音壁1(E1)は、250~16000(Hz)の波長域において、剛板のみからなる遮音壁(C1)よりも挿入損失が高い。特に、250~4000(Hz)の波長域において、遮音壁(C1)よりも挿入損失が大幅に上回る。また、例1の遮音壁1(E1)は、700~1400(Hz)の波長域で、吸音材を用いた場合の遮音壁(C2)を大きく上回る挿入損失を得ている。さらに、先端を細くした吸音材を用いた場合の遮音壁(C3)を大きく上回る挿入損失が得られる周波数域もある。これより、穿孔板3を端部部品として配置することで、エッジ効果を抑制し得ることが確認できる。
【0067】
(ケース2)
図8は、遮音壁1Aの一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。E2が遮音壁1Aの一例である例2の計算結果を示している。すなわち、例2(E2)の構成は
図4の構成である。C1~C3は、
図7と同じである。
【0068】
例2の遮音壁1Aの穿孔板3Aの条件は、孔径が0.06mm、板厚が0.5mm、開孔率は、根元部10から先端部11にかけて1.4%から8%でグラデーションを付け、面密度が0.6kg/m2である。根元部10から先端部11までの長さ(高さ)は20cmである。
【0069】
図8に示すように、例2の遮音壁1A(E2)は、250~16000(Hz)の波長域において、剛板のみからなる遮音壁(C1)よりも挿入損失が高い。剛板のみからなる遮音壁(C1)との挿入損失の差は、
図7に示した、例1の遮音壁1(E1)よりも大きく、600(Hz)以上の波長域において、吸音材を用いた場合の遮音壁(C2)を上回る挿入損失を得ている。先端を細くした吸音材を用いた場合の遮音壁(C3)を上回る挿入損失が得られる周波数域も、
図7に示した例1の遮音壁1(E1)よりも広い。これより、穿孔板3Aを端部部品として配置することで、エッジ効果を抑制し得ることが確認できる。
【0070】
(ケース3)
図9は、遮音壁1Aの一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。E3が遮音壁1Aの一例である例3の計算結果を示し、E4が遮音壁1Aの一例である例4の計算結果を示し、E5が遮音壁1Aの一例である例5の計算結果を示す。すなわち、例3~5(E3~5)の構成は
図4の構成である。C1~C3は、
図7と同じである。
【0071】
例3の遮音壁1Aの穿孔板3Aの条件は、孔径が0.1mm、板厚が1mm、開孔率は、根元部10から先端部11にかけて1%~10%でグラデーションを付け、面密度が7.89kg/m2である。このような面密度を有する材料(材質)としては鋼鉄がある。
【0072】
例4の遮音壁1Aの穿孔板3Aの条件は、面密度が2.7kg/m2である点のみが例3と異なる。このような面密度を有する材料(材質)としてはアルミがある。例5の遮音壁1Aの穿孔板3Aの条件は、面密度が1.15kg/m2である点のみが例3と異なる。このような面密度を有する材料(材質)としてはアクリルがある。
【0073】
図9に示すように、例3~例5の遮音壁1A(E3~E5)は、250~16000(Hz)の波長域において、剛板のみからなる遮音壁(C1)よりも挿入損失が高い。さらに、例3~例5の遮音壁1(E3~E5)は、7000(Hz)超えた波長域ではやや劣るものの、250~7000(Hz)の波長域において、先端を細くした吸音材を用いた場合の遮音壁(C3)と同等の挿入損失を得られている。これより、穿孔板3Aを端部部品として配置することで、エッジ効果を抑制し得ることが確認できる。
【0074】
(ケース4)
図10は、遮音壁1の一例における周波数(Hz)と挿入損失(dB)との関係を、比較例と共に示すグラフである。E6が遮音壁1の一例である例6の計算結果を示している。すなわち、例6(E6)の構成は
図1の構成である。C1~C3は、
図7と同じである。なお、E3は、
図9に示した例3の計算結果である。
【0075】
例6の遮音壁1の穿孔板3の条件は、孔径が0.1mm、板厚が1mm、開孔率が5%、面密度が7.89kg/m2である。このような面密度を有する材料(材質)としては鋼鉄がある。
【0076】
図10に示すように、例6の遮音壁1(E6)は、250~16000(Hz)の波長域において、剛板のみからなる遮音壁(C1)よりも挿入損失が高い。さらに、例6の遮音壁1(E6)は、例3の遮音壁1A(E3)を上回る挿入損失が得られる周波数域が複数ある。これより、穿孔板3を端部部品として配置することで、エッジ効果を抑制し得ることが確認できる。
【0077】
また、実施の形態1~3において説明した構成を有する遮音壁1,1Aによれば、遮音壁の低背化が可能となるので、住みやすい街づくりに貢献できる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。さらに、本発明の穿孔板3、3Aは、幅広い材料から選択することができる(材料依存性が小さい)。本発明によれば、従来の多孔質吸音材を用いる必要がないので、カバーが不要で、耐候性があり、薄く軽い先端改良型遮音壁(エッジ効果抑制型遮音壁)を作製できる。特に、道路騒音等は低周波数(低音)が多いので、低周波数領域を有効に遮音できる本発明は幅広い分野で活用できる。
【0078】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0079】
以上のように、エッジ効果抑制型遮音壁は、従来の多孔質による音の吸収だけでなく、加速された空気の粒子のエネルギーが熱エネルギーとして変換されることにより、高い遮音効果を得ることができる。さらに本発明は、吸音材を覆うカバーが不要であり、耐候性および加工性に優れたエッジ効果抑制型遮音壁を得ることができる。
【符号の説明】
【0080】
1、1A 遮音壁
2 本体部
3、3A 穿孔板(端部部品)
4 孔(貫通孔)
10 根元部(第1端)
11 先端部(第2端)
20 第1面
21 第2面