(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173090
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】耐熱性IrPt合金
(51)【国際特許分類】
C22C 5/04 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
C22C5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085087
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】寺井 健太
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】安原 颯人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 暉大
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 亮平
(72)【発明者】
【氏名】梶 勇司
(57)【要約】
【課題】良好な加工性を維持しながらビッカース硬さを更に向上させた耐熱性Ir合金を提供する。
【解決手段】Ptを5~30mass%、Taを0.5~5mass%、Sc、Hf、Wの少なくとも一種を0.003~0.15mass%含有し、残部がIrであることを特徴とする耐熱性Ir合金。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ptを5~30mass%、Taを0.5~5mass%、Sc、Hf、Wの少なくとも一種を0.003~0.15mass%含有し、残部がIrであることを特徴とする耐熱性Ir合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用るつぼ、耐熱器具、ガスタービン、スパークプラグ、高温用センサ、ジェットエンジンなどに用いる耐熱性Ir合金に関する。
【背景技術】
【0002】
高温用るつぼ、耐熱器具、ガスタービン、スパークプラグ、高温用センサ、ジェットエンジンなどに用いる耐熱材料として種々の合金が開発されている。主な耐熱材料として耐熱鋼、ニッケル基超合金、白金合金、タングステンなどが挙げられる。耐熱鋼、ニッケル基超合金、白金合金などは固相点が2000℃未満でそれ以上の温度では使用できない。一方、タングステンやモリブデンなどの高融点金属は高温の大気中では酸化消耗が激しい。そこで高融点であって、かつ、耐酸化消耗性の高い耐熱材料としてIr合金が開発されている。
【0003】
特許文献1には、所定量の白金と、所定量のアルカリ土類金属元素とをイリジウム合金に含有させることで、当該Ir合金を高温環境下で長時間に亘り安定的に使用できるようになる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐熱材料として用いられるIr合金は長期間安定して使用できることが望まれている。例えば、ガスタービンに使用する場合はタービンの遠心力に耐えられる機械的強度が求められる。そのため硬さを更に改善したいという課題がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、良好な加工性を維持しながらビッカース硬さを更に向上させた耐熱性Ir合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、IrPt合金においてTa及び微量のSc、Hf、W添加による高硬度化を見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は、Ptを5~30mass%、Taを0.5~5mass%、Sc、Hf、Wの少なくとも一種を0.003~0.15mass%含有し、残部がIrであることを特徴とする耐熱性Ir合金である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な加工性を維持しながらビッカース硬さを更に向上させる耐熱性Ir合金を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、Ptを5~30mass%、Taを0.5~5mass%、Sc、Hf、Wの少なくとも一種を0.003~0.15mass%含有することを特徴とする耐熱性Ir合金である。Sc、Hf、Wの二種以上を含有する場合は、その含有量は合計で0.003~0.15mass%とする。なお、Ir合金とは、主たる元素をIrとする合金である。また本発明に係るIr合金は、前述の元素の他に不可避不純物を含有してもよい。
【0011】
Ptを5~30mass%含有するIr合金は、高温の大気又は酸化雰囲気において結晶粒界からのIrの酸化揮発が抑制され、耐酸化消耗性が著しく改善される。Ptの含有量が5mass%を下回る場合には、Ir合金の耐酸化消耗性が不十分である。一方、Ptの含有量が30mass%を超えると、Ir合金の耐酸化消耗性は良いが、再結晶温度が低下するので強度を維持できる温度範囲の上限が低下してしまう。
【0012】
Taを0.5~5mass%含有するIrPt合金は、Taによる固溶硬化により硬さが向上する。Taの含有量は0.7mass%以上がより好ましい。Taの含有量が0.5mass%を下回ると固溶硬化が不十分である。一方、Ta量が5mass%を超えると塑性変形能が低下して加工が困難になる。
【0013】
Sc、Hf、Wの少なくとも一種を0.003~0.15mass%含有するIrPtTa合金は、固溶硬化及び/または結晶粒微細化により硬さが向上する。IrPtTa合金よりも融点の低いSc、Hfは最終凝固部である粒界に優先的に固溶し、Ir合金の脆弱な結晶粒界を好適に強化する。IrPtTa合金よりも融点の高いWは凝固時の核生成サイトとなることでIrPtTa合金の凝固組織を微細化する。
【0014】
Sc、Hf、Wの少なくとも一種(二種以上の場合は合計)の含有量は0.005mass%以上が好ましい。Sc、Hf、Wの少なくとも一種(二種以上の場合は合計)の含有量は0.01mass%以上がより好ましい。Sc、Hf、Wの少なくとも一種(二種以上の場合は合計)の含有量が0.15mass%を超えると硬さは向上するが加工性が低下する。
【0015】
本発明の耐熱性Ir合金は、ビッカース硬さ600HV以上である。
【0016】
上記の合金は、各々が第2相を持たない単相の固溶体であるため展延性が良好で、公知の温間加工又は熱間加工により、いろいろな形状・寸法に塑性加工することができ、機械加工及び溶接も容易である。
【実施例0017】
本発明の実施例について説明する。まず、各原料粉末(Ir粉末、Pt粉末、Ta粉末、Sc粉末、Hf粉末、W粉末)を所定の割合で混合し、混合粉末を作製した。次いで、得られた混合粉末を一軸加圧成形機を用いて成形し圧粉体を得た。得られた圧粉体をアーク溶解法により溶解し、インゴットを作製した。
【0018】
次いで、作製したインゴットを熱間鍛造し、幅15mmの角棒とした。この角棒を熱間溝圧延、ダイス伸線加工してφ0.5mmの線材を得た。
【0019】
硬さは、所定の長さに切断した線材の縦断面をマイクロビッカース硬さ試験機にて、荷重200gf保持時間10秒の条件で測定した。
【0020】
加工性はインゴットから伸線までの上記加工工程にて、評価した。φ0.5mmの線材を得られたものを〇、φ0.5mmの線材が得られなかったものを×とした。
【0021】
実施例及び比較例の合金の組成、および試験結果を表1に示す。
【0022】
【0023】
実施例1~15は、IrPtにTa及びSc、Hf、Wの少なくともいずれか一種類を添加したものである。いずれもSc、Hf、Wを添加していない比較例1、2と比較して硬さが増加している。一方で、ScやHfを0.20mass%添加した比較例3、4については、加工性が著しく悪化した。
【0024】
実施例の合金は、硬さが600HV以上かつ加工性が〇であり、高硬度と良好な加工性を両立し、耐熱性Ir合金として優れた特性を有することが確認できた。