(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173104
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】止水装置
(51)【国際特許分類】
E06B 5/00 20060101AFI20231130BHJP
E06B 7/18 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
E06B5/00 Z
E06B7/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085106
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598000242
【氏名又は名称】和光合成樹脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】大中原 照吾
(72)【発明者】
【氏名】今村 浩之
【テーマコード(参考)】
2E036
2E239
【Fターム(参考)】
2E036AA01
2E036BA01
2E036DA02
2E036DA04
2E036EB02
2E036EB04
2E036EC01
2E036FA02
2E036FA08
2E036FB01
2E036GA02
2E036HA02
2E239AC04
(57)【要約】
【課題】設置が容易でありながら浸水防止の確実化を図ることのできる止水装置を提供すること。
【解決手段】左右一対の保持体3と、左右両縁部は上下方向に延びる状態で前記左右一対の保持体3に保持され、この保持状態で下部は床面Fに沿って延びる止水シート2と、前記左右一対の保持体3に保持された状態で前記止水シート2の下部を下向きに押圧して床面Fに密着させる押圧手段12とを具備し、前記左右一対の保持体3は、水平方向に間隔をあけて固定配置された一対の起立体1の前面に対し、背面側が接着される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の保持体と、
左右両縁部は上下方向に延びる状態で前記左右一対の保持体に保持され、この保持状態で下部は床面に沿って延びる止水シートと、
前記左右一対の保持体に保持された状態で前記止水シートの下部を下向きに押圧して床面に密着させる押圧手段とを具備した止水装置。
【請求項2】
前記左右一対の保持体は、水平方向に間隔をあけて固定配置された一対の起立体の前面に対し、背面側が接着される請求項1に記載の止水装置。
【請求項3】
前記押圧手段は、前記左右一対の保持体間に架設される架設体と、前記架設体又は前記保持体により昇降可能に保持され、前記止水シートの下部の上面に当接可能な昇降板と、前記架設体に保持され、前記昇降板を下向きに付勢可能な付勢手段とを含む請求項1または2に記載の止水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建物の出入口等の浸水防止を図ろうとする箇所に設置され、止水バリアを形成する止水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、建物の出入口を止水シートで適宜に覆った状態とする止水装置が従来知られている。この止水装置では、止水シートの左右両側を出入口左右の縦枠に着脱自在とし、止水シートの下辺部を地面に押さえ付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5357472号公報
【特許文献2】特開2020-16136号公報
【特許文献3】特許第6190161号公報
【特許文献4】特許第6456070号公報
【特許文献5】特許第6498011号公報
【特許文献6】特開2014-177804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の止水装置では、止水シートの下辺部を地面に押さえ付ける下枠部材の取り付けのために、下枠部材の締付け固定用のボルトが螺合するアンカーを地中に埋設する必要があり、その設置を容易に行えないという問題がある。この問題は、下枠部材ではなく止水シート自体を直接ボルトで締付け固定する場合も同様に生じる(例えば特許文献2)。
【0005】
また、上記埋設が不要となるように、止水シートの下辺部の上に重量物(押圧部材)を置いて床面に押さえ付ける方法もあるが(例えば特許文献3~6参照)、この方法では、重量物の質量が大きいとその運搬が困難化し、重量物の質量が小さいと止水装置で堰き止めた水の作用等で重量物が動き、結果として浸水が生じてしまう懸念がある上、本発明者らが行った実験では、例えば特許文献4で例示されている板状のフラットバーである重量物を止水シート上に置いても、重量物の圧力だけでは止水シートを床面に対して十分に密着させることができず、止水シートと床面の間を水が通過してしまう場合があることが確認された。
【0006】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、設置が容易でありながら浸水防止の確実化を図ることのできる止水装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る止水装置は、左右一対の保持体と、左右両縁部は上下方向に延びる状態で前記左右一対の保持体に保持され、この保持状態で下部は床面に沿って延びる止水シートと、前記左右一対の保持体に保持された状態で前記止水シートの下部を下向きに押圧して床面に密着させる押圧手段とを具備した(請求項1)。
【0008】
上記止水装置において、前記左右一対の保持体は、水平方向に間隔をあけて固定配置された一対の起立体の前面に対し、背面側が接着されてもよい(請求項2)。
【0009】
上記止水装置において、前記押圧手段は、前記左右一対の保持体間に架設される架設体と、前記架設体又は前記保持体により昇降可能に保持され、前記止水シートの下部の上面に当接可能な昇降板と、前記架設体に保持され、前記昇降板を下向きに付勢可能な付勢手段とを含んでもよい(請求項3)。
【発明の効果】
【0010】
本願発明では、設置が容易でありながら浸水防止の確実化を図ることのできる止水装置が得られる。
【0011】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の止水装置では、保持体によって保持されていることを利用して止水シートを押圧する構造を押圧手段に持たせることができ、この場合、運搬を困難化するような押圧手段の重量化は不要となり、ひいては止水装置の設置を容易とすることができる。また、押圧手段によって止水シートの下部を床面に密着させれば浸水防止の確実化を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明の止水装置では、押圧手段を保持する左右一対の保持体を接着により設置できるので、止水装置全体の設置の容易化がより確実なものとなる。
【0013】
請求項3に係る発明の止水装置では、付勢手段により下向きに付勢される昇降板により、止水シートの下部を床面に簡単に密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る止水装置の分解斜視図である。
【
図3】(A)及び(B)は、止水シートの背面図及び側面図である。
【
図4】(A)~(C)は、ベース板の側面図、背面図及び斜視図である。
【
図5】(A)及び(B)は、左右勝手違いの二種類の固定フレームの斜視図である。
【
図6】(A)~(C)及び(E)は架設体の背面図、平面図、正面図及び斜視図、(D)は(C)のA-A線断面図である。
【
図7】(A)~(D)は昇降板の平面図、正面図、縦断面図及び斜視図である。
【
図8】(A)及び(B)は付勢手段の分解斜視図及び斜視図である。
【
図9】(A)は付勢手段の一部を透明にして示す斜視図、(B)及び(C)は把手部が待機位置にあるときの付勢手段の正面図及び側面図、(D)及び(E)は把手部が付勢位置にあるときの付勢手段の正面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0016】
本例の止水装置は、建物の出入口等の浸水防止を図ろうとする箇所に設置され、止水バリアを形成するように構成したものである。また、本例の止水装置は、例えば洪水の影響を受け始める前から洪水がおさまるまでの間のような浸水対策が必要な期間に設置し、浸水対策が不要な間は撤去しておくことのできるものである。
【0017】
図1、
図2に示す止水装置は、住宅の出入口(建物の出入口の一例)に設けられる玄関扉の扉枠を構成する左右の枠部(水平方向に間隔をあけて固定配置された一対の起立体の一例)1と、各枠部1の下端に連なる床面Fとで囲まれる空間をその外側(前側)から覆うように設置され、これにより、床面F上を流れる水が、左右の枠部1を結ぶラインで規定される境界(領域)を通過しないようにする止水バリアが形成されるように構成してある。
【0018】
ここで、床面Fに係る「床面」とは、一般的な意味での床面(建物の床の表面)の他、地面(大地の表面)、路面(道路の表面)等を含み、屋内、屋外のいずれに位置するかを問わない広い概念を指す意味で用いている。
【0019】
以下、本例の止水装置の構造について詳述する。
【0020】
図2に示すように、止水装置は、止水シート2の左右両縁部を左右一対の保持体3によって保持するようにしてある。
【0021】
止水シート2は、
図3(A)及び(B)に示すように、矩形シート状の部材であり、その全面にわたって防水性(遮水性)及び可撓性を有し、止水装置が堰き止めた水から受ける圧力等で破損しない耐久性(強度)を持ったものであり、伸縮性を持たせる必要はないが、適宜の伸縮性を有していても良い。その素材には、ゴム、樹脂、防水加工を施した生地(布)等の適宜のものを選択でき、例えば複数の層を積層一体化して構成してあってもよい。
【0022】
また、止水シート2の後面(背面)側における左右両縁部及び下縁部は、上記止水バリアを形成する上で要となる部分であり、特にそのシール性を高めておくのが好ましいことから、本例では、これらの部位に適宜の幅を持つ発泡シール材等のシール材4(止水シート2の後面側の左右両縁部に設ける二つのシール材4Aと、同下縁部に設けるシール材4B)を面接着(接合)し、隣接するシール材4間に隙間が生じないように配置してある。但し、止水シート2の性状等によってはシール材4を不用とすることも考えられる。
【0023】
保持体3は、
図1に示すように、ベース板5と固定フレーム6とで止水シート2の左右両縁部をシール材4とともに挟み込んだ状態で保持することができるように構成したものである。ベース板5は、
図4(A)~(C)に示すように、長尺矩形状の板材であり、固定フレーム6は、
図6(A)及び(B)に示すように、ベース板5と略同寸法の長尺矩形板状の本体部6aを有する。
【0024】
ベース板5と固定フレーム6とは、その間に止水シート2及びシール材4を挟んだ状態で、ボルト及びナット等の適宜の締結具を用いて固定一体化すればよく、本例では、締結具として、皿頭7a及びこれに連なる雄ねじ部分7bを有する皿ボルト7(
図10参照)と、雄ねじ部分7bに螺合する雌ねじ部分(図示していない)を有するノブナット8(
図1参照)とを用いる(
図10ではノブナット8の図示を省略してある)。そのため、止水シート2及びシール材4には皿ボルト7の雄ねじ部分7bが挿通可能な貫通孔9を設け(
図1、
図3(A)及び(B)参照)、同様に固定フレーム6に貫通孔10を設ける一方(
図5(A)及び(B)参照)、ベース板5には、
図4(A)に示すように、皿ボルト7の皿頭7aを収容可能なテーパ部分11aと、このテーパ部分11aに連なり、皿ボルト7の雄ねじ部分7bは通すが皿頭7aは通さないストレート部分11bとを有する異形貫通孔11を設けてある。斯かる構成により、皿ボルト7及びノブナット8を用いてベース板5と固定フレーム6とを一体化した際に、皿ボルト7の皿頭7aの全体がベース板5の厚み内に収まり、枠部1側に突出しない。なお、ノブナット8に替えて蝶ナット等の他のナットを用いるようにしてもよい。
【0025】
ここで、本例では、
図1、
図5(A)及び(B)に示すように、固定フレーム6として、相互に左右勝手違いの構造を有する二種類の固定フレーム6R,6Lを左右に一つずつ用いるが、これに限らず、一種類の固定フレーム6を左右に一つずつ用いるようにしてもよい。
【0026】
そして、本例では、左右一対の保持体3の背面(ベース板5の背面)を、左右の枠部1の前面に対してそれぞれ接着(全面接着)する(
図1、
図2参照)。この接着は例えば防水性の両面テープを用いて行うことができ、保持体3は枠部1に対して着脱自在であるのが好ましい。
【0027】
この接着により、止水シート2の左右両縁部は上下方向に延びる状態で左右一対の保持体3に保持された状態となるが、この保持状態で止水シート2の下部(少なくともシール材4が接着された止水シート2の下縁部全体を含む部分)が床面Fに沿って延びるように(
図1参照)、枠部1に対する保持体3の接着位置を調整する。
【0028】
このようにして床面Fに沿って延びることになる止水シート2の下部は、床面Fに密着するように、左右一対の保持体3に保持された状態の押圧手段12によって下向きに押圧される(
図2参照)。
【0029】
押圧手段12は、
図1に示すように、左右一対の保持体3間に架設される架設体13と、架設体13により昇降可能に保持され、止水シート2の下部の上面に当接可能な昇降板14と、架設体13に保持され、昇降板14を下向きに付勢可能な付勢手段15とで構成してある。
【0030】
架設体13は、
図6(A)~(E)に示すように、断面コの字型をした長尺状(チャンネル状)の部材であり、ウェブ13aと、ウェブ13aの前辺側から立ち上がる前フランジ13bと、ウェブ13aの後辺側から立ち上がる後フランジ13cとを有する。
【0031】
ところで、
図5(A)及び(B)に示すように、保持体3の固定フレーム6は、本体部6aの下端から前方に向かって突出するように延びる突出部6bと、突出部6bの前端から立ち上がるリップ部6cとを有する。これに対し、
図10に示すように、架設体13のウェブ13aは固定フレーム6の突出部6bに対してその下方から当接し、架設体13の前フランジ13bは固定フレーム6のリップ部6cに対してその前方から当接し、この状態で両者6,13は固定一体化される。この固定一体化は、例えば、リップ部6cに設けた貫通孔16(
図5(A)及び(B)参照)と、前フランジ13bの長手方向の両端部付近に設けたその長手方向に長い長孔17(
図6(A)~(C)参照)とを貫くボルト・ナット等の締結具(図示していない)を用いた締結により行える。そして、この締結に長孔17を利用することにより、左右の枠部1間の距離のばらつき等に伴う左右の保持体3間の距離のばらつきにある程度対応することができる。
【0032】
架設体13の後フランジ13cは、保持体3に干渉しないように、その長手方向の両端部が切り欠かれ、その結果、後フランジ13cは前フランジ13bよりも短くなっている。なお、後フランジ13cを設けず、架設体13をウェブ13aと前フランジ13bとで構成したアングル状の部材としてもよい。
【0033】
昇降板14は、
図7(A)~(D)に示すように、断面Lの字型をした長尺状(アングル状)の部材であり、ウェブ14aと、ウェブ14aの前辺側から立ち上がるフランジ14bとを有する。そして、
図10に示すように、昇降体14のウェブ14aは架設体13のウェブ13aの下方に位置し、昇降体14のフランジ14bは架設体13の前フランジ13bに対してその前方から当接し、この配置関係を維持し、かつ、昇降体14が架設体13に対して昇降可能な状態で両者13,14は一体化される。この一体化は、例えば、前フランジ13bの適宜の箇所に設けた貫通孔18(
図6(C)参照)と、フランジ14bにおいて貫通孔18に対応する位置に設けた上下方向に長い長孔19(
図7(A)~(D)参照)とを貫くボルト・ナット等の連結具20(
図1参照)を用いた連結により行える。そして、この連結に複数の長孔19及び連結具20を利用することにより、複数の長孔19及び連結具20に、昇降体14が水平姿勢を維持したままでの昇降を案内する役割を担わせることができるのであり、昇降体14が水平姿勢を維持し易くなるようにするという観点から、図示例では長孔19及び連結具20を二つずつ設けてあるが、三つずつ以上設けるようにしてもよい。
【0034】
付勢手段15は、
図8(A)及び(B)、
図9(A)に示すように、クランプレバー21と、クランプレバー21を水平軸回りに回転可能に支持するための一対のクランプフレーム22と、クランプレバー21及び一対のクランプフレーム22を貫き、クランプレバー21の回転軸を構成するボルト(図示例では六角穴付きボルト)23と、このボルト23に螺合するナット24とを含む。なお、
図1では、付勢手段15を架設体13に対してその長手方向の一端側から他端側に向けて等間隔に五つ設けてあるが、この数や配置は適宜変更可能であり、例えば架設体13の長手方向の両端部と中央部との三か所のみに設けるようにしてもよい。
【0035】
クランプレバー21は、全体として板状の部材であり、ボルト23を通すための貫通孔25aが設けられた板カム部25と、この板カム部25に連なる把手部26とを有する。なお、把手部26の外側に適宜のクッション材等を設け、把手部26の操作性を向上させるようにしてもよい。
【0036】
クランプフレーム22は、水平方向に延びるベース部27と、このベース部27から立ち上がる立設部28とを有する。ベース部27は、なべねじ29、ばね座金30等の締結具を用いて、架設体13のウェブ13aの上面に取り付けるのであり、そのための取付穴31a、31bを架設体13のウェブ13a及びベース部27に設けてある(
図6(B)参照)。なお、
図8(A)において、32はばね座金である。
【0037】
図6(B)に示すように、架設体13のウェブ13aにはスリット33を設けてあり、クランプレバー21の板カム部25はこのスリット33を経てウェブ13aの下方に突出可能となっている。そして、把手部26が
図9(B)及び(C)に示す待機位置にあるとき、板カム部25はウェブ13aの下方に突出しないか、又はその突出量が小さく、そこから把手部26を操作してクランプレバー21を回転させ、
図9(D)及び(E)に示す付勢位置にまで移動させた状態では、板カム部25はスリット33を経てウェブ13aの下方に大きく突出している。なお、上記待機位置及び付勢位置にある把手部26が不意に回転することを防止するために、板カム部25の外縁の二か所にはそれぞれストレート部分34、35(
図8(A)参照)を設けてあり、本例では、待機位置から付勢位置に回転させると、板カム部25の下方への突出量は5mm大きくなるようにしてある。換言すれば、板カム部25の突出ストロークS(
図9(D)参照)は5mmであり、このストロークSの大きさは適宜に変更可能である。
【0038】
そして、把手部26を上記付勢位置に移動させた状態では、板カム部25によってその下方にあるウェブ14aを有する昇降板14が下向きに付勢され、ウェブ14aの下方にある止水シート2及び止水材4が昇降板14に下向きに押圧されて床面Fに密着することになる。
【0039】
ここで、
図10に示すように、シール材4において湾曲している部分が床面Fにもベース板5にも密着しない場合、例えば、ベース板5の下方に、シール材4の湾曲部分に密着する凹曲面36を前側に有するコーナー部隙間塞ぎ材36を設け、止水装置の止水バリア性能を高めるようにしてもよい。このコーナー部隙間塞ぎ材36は、例えば粘土、シリコーンゴム等で構成することが考えられる。
【0040】
以上の説明において、その素材に言及していない部材については、それぞれの部材に必要とされる機能、性状や経済性等を考慮し、金属(例えばステンレス)、樹脂等の適宜の素材を用いればよいことはいうまでもない。
【0041】
ここで、通常、止水シート2の後面側の下縁部に設けるシール材4B(
図1等参照)を密着させる床面Fは、その全体が平滑面ではなく大小の凹凸を含んでいることもあると想定される。そのため、シール材4Bに発泡シール材を用いる場合は、独立気泡と連続気泡の両方を含むか、連続気泡のみを含む発泡シール材を選択するのが好ましい。
【0042】
すなわち、独立気泡のみを含む発泡シール材は一般に水を通さないが変形性に劣るため、これをシール材4Bとして用いると、凹凸のある床面Fに沿わず、床面Fとの間に水が流れてしまう恐れがある。対して、連続気泡を含む発泡シール材は一般に変形性に優れるため(例えば厚さ8~12mmで圧縮硬さが50%歪時において0.1~0.8N/cm2 )、これをシール材4Bとして用いると、床面Fの凹凸に十分沿わせることが容易となる。なお、連続気泡を含む発泡シール材につき、その連続気泡自体は水を通すが、連続気泡を含む発泡シール材をある程度圧縮変形させれば、連続気泡が押し潰されその連続性が断たれる等して水が通り難くなる。従って、シール材4Bを押圧手段12で押圧して圧縮変形させる本例の止水装置では、連続気泡を含む発泡シール材をシール材4Bとして用いた場合、床面Fに凹凸があっても十分な止水性が得られる。
【0043】
一方、止水シート2の後面側の左右両縁部に設けるシール材4Aは、ベース板5と固定フレーム6とで止水シート2とともに挟持されて圧縮変形するので、シール材4Bと同様に、独立気泡と連続気泡の両方を含むか、連続気泡のみを含む発泡シール材を用いることができるが、シール材4Aを密着させるベース板5の前面全体は平滑であるので、独立気泡のみを含む発泡シール材をシール材4Aに用いてもよい。さらに言えば、床面F全体が平滑であるような場合には、これに密着させるシール材4Bに独立気泡のみを含む発泡シール材を用いることも考えられる。
【0044】
以上のように構成される本例の止水装置では、保持体3によって保持されていることを利用して止水シート2を押圧する構造を押圧手段12に持たせることができ、この場合、運搬を困難化するような押圧手段12の重量化は不要となり、ひいては止水装置の設置を容易とすることができる。また、押圧手段12によって止水シート2の下部を床面Fに密着させれば浸水防止の確実化を図ることができる。
【0045】
また、本例の止水装置では、押圧手段12を保持する左右一対の保持体3を接着により設置できるので、止水装置全体の設置の容易化がより確実なものとなる。
【0046】
さらに、本例の止水装置では、付勢手段15により下向きに付勢される昇降板14により、止水シート2の下部を床面Fに簡単に密着させることができる。
【0047】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0048】
上記実施の形態では、左右一対の保持体3の背面(ベース板5の背面)を、左右の枠部1の前面に対してそれぞれ接着し、保持体3を保持しているが、保持体3の保持方法はこれに限らず、例えば、枠部1の構造等によってはクランプ等の治具を用いて保持体3を保持するようにしてもよく、枠部1に既設の又は新設したフックを用いて保持体3を保持するようにしてもよい。
【0049】
ベース板5は、枠部1に対して着脱自在としてあるのが好ましいが、枠部1に接合(接着等)により取り付けた後は枠部1から容易に脱離できないように構成してあってもよく、この場合でも、止水装置を構成する各部材のうち、ベース板5以外の部材は全て取り外すことができるのであり、その取り外し後、止水装置を再び使用する場合には、既に取り付けられた状態となっているベース板5を利用して、止水装置の他の部材を速やかに取り付けることができる。なお、枠部1に残留するベース板5によって枠部1を含む建物等の意匠性の低下が懸念されるような場合には、その残留するベース板5を、例えば意匠性の高いカバー部材(図示していない)で着脱自在に覆えるようにすることも考えられるのであり、このようなカバー部材を採用する場合には、ベース板5が枠部1に対して着脱自在であっても枠部1に取り付けたままにしておくことが行い易くなる。
【0050】
上記実施の形態では、昇降板14を架設体13により昇降可能に保持してあるが、これに限らず、例えば昇降板14を保持体3により昇降可能に保持するようにしてあってもよい。
【0051】
付勢手段15は、架設体13により保持され、下向きに進退可能な押さえねじによって構成してあってもよく、あるいは架設体13により保持され、膨張・収縮可能な空気袋によって構成してあってもよい。空気袋を採用する場合、この空気袋で直接止水シート2の下部を押圧するようにしてもよい。
【0052】
図11及び
図12に示す止水装置では、下向きに進退可能な押さえねじによって付勢手段15を構成してある。以下、この止水装置について説明する。
【0053】
まず、付勢手段15を支持する架設体13は、ウェブ13aとウェブ13aの後辺から立ち上がる後フランジ13cとを有する断面Lの字型をした長尺状(アングル状)の部材で構成してあり、後フランジ13cの長手方向の両端部付近に設けたその長手方向に長い長孔17と、固定フレーム6の下部に設けた貫通孔10とを貫くボルト・ナット等の締結具(図示例では皿ボルト7及びノブナット8)を用いた締結により、固定フレーム6に固定一体化される。なお、
図5(A)及び(B)に示す固定フレーム6は、本体部6a、突出部6b及びリップ部6cを有していたが、
図11に示す固定フレーム6は上記6a~6cのうちの本体部6aに相当する部位のみを有し、また、止水シート2の左右に用いる二つの固定フレーム6を左右勝手違いとせず同一構造としてある。
【0054】
図11に示す昇降板14は、ウェブ14aと、このウェブ14aの後辺側から立ち上がるフランジ14bとを有する。そして、昇降体14のウェブ14aは架設体13のウェブ13aの下方に位置し、昇降体14のフランジ14bは架設体13の後フランジ13cに対してその後方から当接し、この配置関係を維持し、かつ、昇降体14が架設体13に対して昇降可能な状態で両者13,14は一体化される。この一体化は、例えば、後フランジ13cの適宜の箇所に設けた貫通孔18と、フランジ14bにおいて貫通孔18に対応する位置に設けた上下方向に長い長孔19とを貫くボルト・ナット等の連結具20を用いた連結により行える。そして、この連結に複数の長孔19及び連結具20を利用することにより、複数の長孔19及び連結具20に、昇降体14が水平姿勢を維持したままでの昇降を案内する役割を担わせることができるのであり、昇降体14が水平姿勢を維持し易くなるようにするという観点から、図示例では長孔19及び連結具20を二つずつ設けてあるが、三つずつ以上設けるようにしてもよい。
【0055】
なお、
図11に示すように、昇降板14のフランジ14bは、長孔17等を貫く締結具(皿ボルト7及びノブナット8)に干渉しないように、その長手方向の両端部が切り欠かれ、その結果、フランジ14bはウェブ14aよりも短くなっている。
【0056】
一方、
図11に示すように、押さえねじである付勢手段15は、架設体13のウェブ13aに設けたねじ穴37に螺合する雄ねじを有し、その軸回りに回転させることで下向きに進退可能としてある。そして、付勢手段15を下向きに進めていくと、付勢手段15はウェブ13aを貫いてその下方にある昇降体14のウェブ14aを下向きに押圧することになる。なお、
図11及び
図12の例では、付勢手段15を架設体13の長手方向に等間隔に三つ(架設体13の長手方向の両側と中央部に一つずつ)設けてあるが、この数や配置は適宜変更可能である。
【0057】
以上のように説明した
図11及び
図12に示す止水装置でも、
図1及び
図2に示す止水装置と同様の効果が得られる。
【0058】
上述した本例又は変形例に係る止水装置の使用時に、流れてきた流木等の接触による止水シート2の破損防止を図ろうとするような場合には、水を通し、ある程度の強度を有する図外の保護部材(例えば適宜の目合いを有する漁網や金網等のネット状部材)を止水シート2の前面(外)側に配するようにしてもよい(保護部材は、止水シート2の前面に沿うように延びていても、前面から前方に離れていてもよい)。この保護部材がネット状の部材(可撓性を有していても有していなくてもよい)であれば、ノブナット8のノブ部分に引っ掛ける等して容易に設置することができる。
【0059】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1 枠部
2 止水シート
3 保持体
4 シール材(4A,4B)
5 ベース板
6 固定フレーム(6R,6L)
6a 本体部
6b 突出部
6c リップ部
7 皿ボルト
7a 皿頭
7b 雄ねじ部分
8 ノブナット
9 貫通孔
10 貫通孔
11 異形貫通孔
11a テーパ部分
11b ストレート部分
12 押圧手段
13 架設体
13a ウェブ
13b 前フランジ
13c 後フランジ
14 昇降板
14a ウェブ
14b フランジ
15 付勢手段
16 貫通孔
17 長孔
18 貫通孔
19 長孔
20 連結具
21 クランプレバー
22 クランプフレーム
23 ボルト
24 ナット
25 板カム部
25a 貫通孔
26 把手部
27 ベース部
28 立設部
29 なべねじ
30 ばね座金
31a 取付穴
31b 取付穴
32 ばね座金
33 スリット
34 ストレート部分
35 ストレート部分
36 コーナー部隙間塞ぎ材
37 ねじ穴
F 床面
S ストローク