(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173128
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】構造物のひび割れ現況図を作成する方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20231130BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20231130BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20231130BHJP
G06T 3/00 20060101ALI20231130BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01C15/00 104Z
G06T7/60 200Z
G06T1/00 300
G06T3/00 780
G01B11/30 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085150
(22)【出願日】2022-05-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】599157284
【氏名又は名称】クモノスコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】中庭 和秀
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 翔太
【テーマコード(参考)】
2F065
5B057
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA49
2F065BB05
2F065CC14
2F065DD03
2F065DD06
2F065FF04
2F065FF11
2F065FF67
2F065GG04
2F065HH04
2F065JJ01
2F065JJ03
2F065LL62
2F065MM06
2F065MM16
2F065MM26
2F065PP22
2F065QQ03
2F065QQ21
2F065QQ24
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065UU06
5B057CE10
5B057DA03
5B057DA16
5L096BA03
5L096CA04
5L096DA01
5L096DA02
5L096FA17
5L096FA64
5L096FA69
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ひび割れの測定時間及びデータの処理時間を短縮する方法を提供する。
【解決手段】構造物(例えば、コンクリート構造物)の壁面を複数の撮影領域に分けて撮影し、複数の撮影領域の撮影画像を取得する撮影工程と、撮影画像を解析して、複数の撮影領域に発生したひび割れを抽出するとともにひび割れの大きさを推定する推定工程と、複数の撮影領域の画像を合成して、構造物の全体画像を作成する合成工程と、複数の撮影領域の少なくとも1つの撮影領域に含まれる少なくとも1つのひび割れを特定するとともに、特定されたひび割れの大きさを測定する測定工程と、特定されたひび割れについて推定工程で推定された推定値と測定工程で測定された測定値とを用いて校正係数を求め、校正係数を用いて複数の撮影領域における推定値を校正して校正値を得る校正工程と、校正値又は校正値に対応する表示を全体画像に表示する表示工程を含む。
【選択図】
図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物のひび割れ現況図を作成する方法は、
デジタルカメラを用いて、構造物の壁面を複数の撮影領域に分けて撮影し、前記複数の撮影領域の撮影画像を取得する撮影工程と、
前記撮影画像を解析して、前記複数の撮影領域に発生したひび割れを抽出するとともに前記ひび割れの大きさを推定する推定工程と、
前記複数の撮影領域の画像を合成して、前記構造物の全体画像を作成する合成工程と、
前記複数の撮影領域の少なくとも1つの撮影領域に含まれる少なくとも1つのひび割れを特定するとともに、特定されたひび割れの大きさを測定する測定工程と、
前記特定されたひび割れについて前記推定工程で推定された推定値と前記測定工程で測定された測定値とを用いて前記推定値の校正係数を求め、前記校正係数を用いて前記複数の撮影領域における前記推定値を校正して校正値を得る校正工程と、
前記校正値又は前記校正値に対応する表示を前記全体画像に表示する表示工程を含む、方法。
【請求項2】
前記表示が色であり、
前記全体画像に、前記校正値に対応して異なる色が付される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記壁面を複数の区画に分割し、複数の区画のそれぞれに前記校正係数が求められる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記壁面が、撮影条件に応じて前記複数の区画に分割される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記撮影領域は、前記コンクリート構造物を構築する際に使用された型枠の継ぎ目を基準に決められる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の表面に発生したひび割れを表示する「ひび割れ現況図」を作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、デジタルカメラでコンクリート構造物を撮影し、撮影した画像に含まれるひび割れを抽出するとともにひび割れの大きさ(ひび割れの幅)を推定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1の技術によれば、デジタルカメラで撮影された画像に含まれるひび割れを自動的に抽出してその大きさを特定できることから、特に大型のコンクリート構造物におけるひび割れを短時間で且つ安価に把握できる。しかし、撮影地点から離れた壁面部分を撮影する場合、壁面部分を斜め下方から又は斜め横方向から撮影することになるため、撮影された画像を解析して得られたひび割れの大きさ(推定値)は、実際のひび割れの大きさを必ずしも反映していない可能性がある。また、写真の性質上、コンクリート表面の色とひび割れ部分の色とのコントラストが大きい程ひび割れは写り易い(つまり、ひび割れの幅が大きく表れる)ことから、屋外のコンクリート構造物を撮影した画像に表れるひび割れの大きさは、太陽に照らされている状態とそうでない状態で、また、太陽から受ける光の量に、応じて異なる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の実施形態は、画像解析によって得られたひび割れの推定値を実際の測定値に基づいて校正することによって、より正確に、しかも少ない労力で、ひび割れの大きさを求めて表示する方法を提供することを目的とする。
【0006】
この目的を達成するために、本発明の実施形態に係る、構造物のひび割れ現況図を作成する方法は、
デジタルカメラを用いて、構造物の壁面を複数の撮影領域に分けて撮影し、前記複数の撮影領域の撮影画像を取得する撮影工程と、
前記撮影画像を解析して、前記複数の撮影領域に発生したひび割れを抽出するとともに前記ひび割れの大きさを推定する推定工程と、
前記複数の撮影領域の画像を合成して、前記構造物の全体画像を作成する合成工程と、
前記複数の撮影領域の少なくとも1つの撮影領域に含まれる少なくとも1つのひび割れを特定するとともに、特定されたひび割れの大きさを測定する測定工程と、
前記特定されたひび割れについて前記推定工程で推定された推定値と前記測定工程で測定された測定値とを用いて前記推定値の校正係数を求め、前記校正係数を用いて前記複数の撮影領域における前記推定値を校正して校正値を得る校正工程と、
前記校正値又は前記校正値に対応する表示を前記全体画像に表示する表示工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態に係る方法によれば、デジタルカメラで撮影された構造物の画像をもとに該構造物に発生したひび割れを抽出するともにそのひび割れの大きさ(幅)を推定する。また、構造物に含まれる少なくとも1つのひび割れの大きさを実測する。そして、推定値と実測値をもとに校正係数を求め、その校正係数を使って構造物全体について推定値を校正し、その校正値を構造物の画像に表示する。したがって、画像に表示された情報(ひび割れの大きさ)は極めて正確なものである。また、一部のひび割れについてのみその大きさを測定すればよいので、ひび割れの測定時間、及び測定で得られたデータの処理時間を大幅に短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】コンクリート構造物の一例であるダムの写真。
【
図2】クラックスケールを構造物の表面に当てた写真。
【
図5】本発明の実施形態に係る撮影方法に利用される機器を示す図。
【
図7】
図5に示すトータルステーションの機能ブロック図。
【
図8】
図5に示すトータルステーションの望遠鏡内部の構成を示す図。
【
図9】
図8に示す焦点板に描かれた参照スケールをひび割れに当てた状態を示す図。
【
図11】
図5に示すトータルステーションの測距部の機能ブロック図。
【
図12】
図5のトータルステーションを用いて壁面のひび割れを計測するプロセスを説明する図。
【
図13】
図12の計測によって取得されたデータを図面化したひび割れ現況図の一部を示す図。
【
図14】5000平方メートルの面積を撮影するために必要な写真サイズと写真枚数の関係を示す表。
【
図15】デジタルカメラで撮影された写真のひび割れと画素との関係を示す図。
【
図16】トータルステーションで基準値のひび割れを探す状況を説明する図。
【
図17】デジタルカメラの倍率(画角)を決定する状況を説明する図。
【
図18】デジタルカメラで撮影された画像を示す図。
【
図19】設定された倍率のデジタルカメラで壁面を撮影する状況を示す図。
【
図20】型枠継ぎ目を有する橋脚を平行投影法で表した図。
【
図21】
図20に示す橋脚を撮影する際の撮影領域の大きさ及び撮影範囲を示す図。
【
図22】
図20に示す橋脚の一部を撮影した写真を合成(あおり補正)する方法説明する図。
【
図23】
図20に示す橋脚において実際にひび割れの大きさを測定する範囲を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る「構造物のひび割れ現況図を作成する方法」の実施形態を説明する。
【0010】
[A.計測対象]
本発明の実施形態が対象とする構造物は、
図1に示すダム等のコンクリート構造物である。ただし、本発明の適用は、コンクリート製の構造物に限るものでなく、構造物の表面にひび割れを生じ得る種々の構造物(コンクリートで作られた構造物だけでなく、表面が複数のタイルで覆われた構造物も含む。)が含まれる。
【0011】
一般に、コンクリート構造物の壁面に発生したひび割れの大きさ(幅)を記録する場合、人の手が低い箇所については、
図2に示すひび割れスケールをコンクリート表面に当てて、ひび割れの大きさを計測することが行われる。高所部分のひび割れについても、高い足場を組むことによって、ひび割れスケールを使って大きさを計測できる。しかし、足場の構築には多くの準備と設備を要し、経済的でない。
【0012】
[B.使用機器]
このような事情から、本発明の実施形態では、
図3,4に示すように、測定位置から離れた場所にあるコンクリート構造物(例えば、
図3のダム、
図4の橋脚)に発生したひび割れの大きさ(幅)を計測するために、
図5に示す高性能のトータルステーション10と高画質のデジタルカメラ70が使用される。
【0013】
[B1.トータルステーション]
トータルステーション10には、例えばクモノスコーポレーション株式会社から提供されている「ひび割れ計測システム-KUMONOS」を搭載したトータルステーションが好適に使用できる。このトータルステーションは、特許第3996946号に開示された光学装置と特開2016-50887号に開示されたひび割れ計測システムが搭載されている。
【0014】
添付図面を参照して、トータルステーション10の構造及びそれを用いたひび割れの測定について簡単に説明する。
【0015】
図6に示すように、トータルステーション10は、図示しない三脚に着脱自在に連結されて固定される基台12と、垂直軸(Z軸)を中心として回転可能に基台12に連結された本体14と、水平軸(X軸)を中心として回転可能に本体14に連結された望遠鏡16を備えている。トータルステーション10は、3つの軸-垂直軸(Z軸)、水平軸(X軸)、および望遠鏡16の光軸38に一致するY軸-が交叉する基準点(基準座標又は機械座標)P
0と、望遠鏡16によって視準された対象(例えば、ひび割れの一部)18との距離を測定する測距手段又は測距部(
図7に符号20で示されている。)を有する。実施の形態では、トータルステーション10は、測量に必要なデータを入力するための入力部22と、測量結果等を表示する表示部24、入力部22から入力されたデータや測量結果のデータを他の装置(例えば、コンピュータ28)に出力する出力部26を有する。
【0016】
図7は、トータルステーション10の構成を機能の観点から表したブロック図である。図示するように、トータルステーション10は制御部30を有する。制御部30は、測距部20、入力部22、表示部24、出力部26と電気的に接続されており、後に詳細に説明するように、これら測距部20、入力部22、表示部24、出力部26を総合的に制御する。制御部30は、物体の大きさ、例えば、構造物に形成されたひび割れの幅を演算するひび割れ幅演算部32と、測量対象の空間座標、例えば、望遠鏡16で視準された位置にあるひび割れの三次元座標を演算する座標演算部34、座標演算やひび割れ幅演算に必要なプログラムやデータを格納する記憶部35を有する。その他、図示しないが、トータルステーション10は、測量に必要な構成要素、例えば、整準器、測角部などを有する。
【0017】
図8は、望遠鏡16の概略構成を示す。図示するように、望遠鏡16は、鏡筒(
図6に符号36で示す。)内に、物体側から測量オペレータ側(図の左側から右側)に向かって、光軸38に沿って順番に、対物レンズ40、合焦レンズ42、正立プリズム44、焦点板(投影板)46、接眼レンズ48を備えており、視準された物体像(例えば、ひび割れ像)が対物レンズ40、合焦レンズ42、正立プリズム44を介して焦点板46に結像され、それにより物体像が接眼レンズ48を介してオペレータによって拡大観察されるようになっている。
【0018】
図9は、焦点板46に描かれている視準指標の十字線50と複数のマーク又は参照スケール52を、焦点板46に結像されたひび割れ100の像と共に示す。十字線50の交点は、光軸(視準軸)38に一致する。実施の形態では、複数(例えば、16個)の参照スケール52が、光軸38の周囲に一定の間隔をあけて描かれている。各参照スケール52は、それぞれが大きな横寸法(光軸38を中心とする円の接線方向の寸法)と小さな縦寸法(光軸38の放射方向の寸法)を有する四角形又はストリップ形状の複数のマーク54を光軸38から放射方向に間隔をあけて一列に配置して構成されている。実施形態において、複数のマーク54は、光軸38から離れるにしたがって、横寸法と縦寸法とが大きくしてある。
【0019】
例えば、図上段の参照スケール52(水平軸よりも上に描かれた参照スケール)では、
図9に示すように、光軸38に最も近い1番目のマーク54(傍に寸法指標「0.5」が描かれたマーク(以下、「基準マーク」という。)の縦寸法を基準として、2番目~10番目(傍に寸法指標「1」~「6」が描かれたマーク)のマーク54の縦寸法が基準マークの整数倍に決められている。
【0020】
各寸法指標の数値は対応するマーク54の実際の縦寸法に関連しており、寸法指標と実際の縦寸法の関係が、テーブル又は数式の形で記憶部35に記憶されている。したがって、
図9,10に示すように、焦点板に投影されたひび割れの像に該ひび割れの像と同じ縦寸法を有するマークを重ねて、該マークに対応する寸法指標を入力部22からトータルステーション10に入力すると、トータルステーション10は焦点板46に投影された物体像の大きさを計算できる。ひび割れの幅を計算する手法は、特許文献3に詳細に記載されている。
【0021】
図11を参照すると、測距部20は、光軸38に沿ってレーザ光を出力する、レーザダイオードなどの発光部(レーザ装置)58と、測定対象からのレーザ反射光を受光する受光部60と、レーザ光が発射されてから受光されるまでの時間をもとに、物体から基準点P0までの距離を算出する演算部62と、発光部58から出射されたレーザ光を望遠鏡16の光軸38に沿って物体に案内すると共に光軸38に沿って物体から帰ってくるレーザ光を受光部60に案内する光学系64を有する。図示するように、光学系64の一部を構成するプリズム66が望遠鏡16の内部に配置されており、これによりレーザ光56の進路が望遠鏡16の光軸38と一致させてある。なお、レーザ測距部20における距離計算は、発光から受光までの時間を利用する方法に限るものでなく、例えば、両者の位相差から距離を求めることもできる。なお、物体に照射されたレーザ光は、
図9に示すように、光軸38上にレーザスポット102となって表れる。
【0022】
このような構成を備えたトータルステーション10によれば、
図12に示すように、構造物の壁面に発生したひび割れに沿って光軸38を動かしながら、複数の場所でひび割れにマークを当てて寸法指標を読み取るとともに、各測点について、基準点から各測点(レーザ照射点)までの距離と望遠鏡の仰角及び方位核とを取得し、各測点の座標とその近傍におけるひび割れの大きさ(ひび割れの幅)を計算することによって、
図13に示すように、ひび割れの実測値(図に示された実測値は「0.077」である。)を含むひび割れ実測図が得られる。
【0023】
[B2.デジタルカメラ]
デジタルカメラ70は、コンクリート構造物の壁面に発生した小さなひび割れ(例えば、幅が0.2mmのひび割れ)を遠方から撮影できるように約3,000万画素以上の有効画素を有する撮像素子を組み込む高精細・高画質のデジタルカメラ(以下、「カメラ」という。)、例えば、キャノン株式会社から提供されているEOS5DS、5DSR(有効画素約5,600万画素)が好適に利用される。
【0024】
[撮影工程]
カメラの撮影条件、撮影の倍率及び画角について簡単に説明すると、例えば、
図14に示すように、5,000平方メートルの面積を有する壁面を撮影する場合、写真サイズ(横サイズ)を1m(撮影対象上における横方向の寸法)に設定すると約6,600枚の写真を撮影する必要があり、後処理に多くの手間を要する。一方、写真サイズ(横サイズ)を4~8メートルに拡大すると、撮影枚数は約400枚~100枚以下に減少し、後処理に要する手間が大幅に減少するが、小さなひび割れが連続した状態で撮影されず、構造物の経年劣化を正確に把握することができない。したがって、本発明の実施形態では、カメラ70の撮影倍率を、カメラ70で撮影された画像上に、
図15に示すように、基準値(例えば、幅0.2mm)のひび割れが連続した状態で表示されるか否かによって決定される。
【0025】
そのために、カメラ70による撮影の前に、まず
図16に示すようにトータルステーションで計測対象のコンクリート構造物を見ながら、基準値(0.2mm)の幅を有するひび割れを探す。このとき、基準値(0.2mm)の幅を有するマークをその幅と同じ幅を有するひび割れに一致させることによって基準値の幅を有するひび割れ100を探す。次に、
図17に示すように基準値の幅を有するひび割れ100をカメラ70で撮影する。撮影後、
図18に示すように、カメラ70のディスプレイ71に表示された画面、又はカメラ71に接続されたコンピュータの画面を確認し、そこに基準値の幅を有するひび割れ100(正確には、レーザスポット102が表示された箇所付近のひび割れ部分)が明瞭に表示されているか否か目視確認する。
【0026】
実際には、カメラ70の倍率(画角)を調整しながら何度か撮影して、基準値の幅を有するひび割れが画像上に表示されるカメラの撮影条件(すなわち、倍率、画角)及び一回の撮影で撮影する撮影面積又は撮影範囲(
図19に示す符号72で示す範囲で、例えば縦2700mm、横3600mmの四角形の範囲)を決定する。
【0027】
[撮影領域の決定]
図3に示すダムや
図3に示す橋脚などの大型の撮影対象を遠方から撮影する場合、構造物の上部と下部では同じ画角で撮影できる面積が異なる。そのため、撮影対象を複数の区画に分割し、それぞれの区画に対して撮影条件を決定することが好ましい。
【0028】
例えば、橋脚を撮影する場合、
図20(図は橋脚を平行投影法によって表したもので、実際に遠方から見える状態の図とは異なる。)に示すように、撮影場所から見える橋脚を例えば3つの撮影区画1000,2000,3000に分け、それぞれの区画について、基準値のひび割れが明瞭に撮影できる撮影条件(倍率、画角、撮影範囲)を決定する。
【0029】
撮影対象が大きく、上述のようにして決定した一つの撮影範囲に撮影区画1000,2000,3000がそれぞれ収まらない場合、撮影区画1000,2000,3000を複数の小さな撮影領域に分割する。
【0030】
撮影領域の決定にあたっては、
図21に表された、コンクリート表面に表れる縦横の型枠跡(すなわち、型枠の「継ぎ目」)を使用する。具体的に説明すると、
図21に表れる縦横の線は、橋脚を構築する際に使用された型枠の跡である。通常、コンクリート構造物を構築する場合、一定の大きさの型枠を縦方向と横方向に組み立てて型枠が組まれる。その結果、コンクリートを打設した後のコンクリート構造物の表面には、型枠の継ぎ目が縦方向と横方向の線状跡となって現れる。
【0031】
したがって、型枠継ぎ目を利用して、
図21に示すように、撮影区画1000を複数の小さな撮影領域1000(1)~1000(i)~1000(n)(図面上、梨地を付した領域)に分割し、それぞれの撮影範囲1000(1)~1000(i)~1000(n)を囲む範囲(撮影範囲:カメラの画面に表示される範囲)1000(1’) ~1000(i’)~1000(n’)をカメラで撮影し、区画1000に対して複数の画像を得る[撮影工程]。
【0032】
同様にして、区画2000,3000に対してそれぞれ撮影条件を決定し、それぞれの区画2000,3000に対する複数の画像を得る。
【0033】
[撮影画像の合成](合成工程)
以上のようにして得られた画像は合成されて一つの画像に編集される。しかし、通常のカメラで大型構造物を見上げるように撮影した場合、圧縮効果によって、撮影された画像上では、上にいくほど幅が小さく表れるため、撮影された画像をそのままの状態で合成することができない。そのため、合成された画像上で、同じ縦横寸法の型枠跡が同じ縦横寸法をもって表示されるとともに、縦方向の連続した継ぎ目が鉛直方向に連続した一つの線となって表れ、横方向の連続した継ぎ目が水平方向に連続した一つの線になって表れるように、撮影された画像を変形させて遠近感(パース)を調整(あおり補正)する。
【0034】
あおり補正は、例えば、撮影対象を撮影して得られた複数の画像を合成して一枚の平行投影画像に変換する処理である。この処理では、建物に設けた又は建物に含まれる複数の基準点を利用し、隣接する2つの画像に表れる複数の基準点が一致するように各画像が調整されて、図示するような平行投影画像が得られる。
【0035】
本実施形態では、上述のようにして撮影された画像(撮影領域)が変形され、変形された画像(撮影領域)を組み合わせて一つの合成画像が作成される。画像を変形する基準点として、型枠継ぎ目の交点が利用される。例えば、
図22に示すように、撮影領域1000(1)と1000(2)の画像を合成する場合、撮影領域1000(1)の上下左右の角部近傍に表れる型枠交点(縦方向の型枠継ぎ目と横方向の型枠継ぎ目が交叉する型枠交点(1、1)、(1,2)、(2,1)、(2、2)と隣接する撮影領域1000(2)の上下左右の角部近傍に表れる型枠交点(1,2)、(1,3)、(2、2)、(2、3)を用い、縦方向の型枠継ぎ目が鉛直方向に延び、横方向の型枠継ぎ目が水平方向に延び、縦方向の隣接する型枠継ぎ目交点の距離が目標の値になり、又横方向の隣接する型枠継ぎ目交点の距離が目標の値になるように、それぞれの画像を調整する。これにより、隣接する撮影領域1000(1)と1000(2)が、平行投影法によって表される。
【0036】
上述の画像の調整及び合成を、撮影したすべての撮影領域に適用することで、例えば
図21に示す全体合成画像が得られる。
【0037】
[ひび割れの検出と幅の計算](推定工程)
撮影画像を用いてひび割れの検出は、撮影画像からひび割れを検出するための画像特徴量を抽出することによって行われる。具体的に、ひび割れを検出する場合、画像エッジが存在すると値が変化するHOG(Histograms of Oriented Gradients)特徴量が用いられる。HOG特徴量は、輝度勾配方向を示す特徴量で、画像エッジと関連することから、ひび割れの検出に適した特徴量である。
【0038】
具体的には、HOG特徴量を検出するための必要なプログラムを記憶したコンピュータを用意し、HOG特徴量とサポートベクタマシンを用いて、注目画素がひび割れを表している可能性を表すスコアを算出する。例えば、サポートベクタマシンを用いて、識別平面からHOG特徴量の距離を求め、この距離を注目画素がひび割れである可能性を表すスコアを求める。次に、撮影画像の各画素に対してこの処理を行い、各画素のスコアを表すスコアマップを作成する。また、スコアマップから、スコアが所定の閾値を超える場合、この画素がひび割れを表すと判定する。そして、ひび割れを表すと判定された画素を使ってひび割れを表す線を特定するとともに、ひび割れの大きさ(幅)を推定し、推定されたひび割れの大きさ(推定値)に応じて、ひび割れを、例えば0.2mm未満のひび割れ(クラス1)、0.2mm以上0.5mm未満のひび割れ(クラス2)、0.5mm以上10mm未満のひび割れ(クラス3)及び1.0mm以上ひび割れ(クラス4)に分類する。以上、ひび割れの検出と大きさの推定は、特開2018-198053号公報によって知られている。
【0039】
[校正処理](測定工程、校正工程)
上述のようにして撮影画像からひび割れの大きさは推定値で、実際の大きさと必ずしも一致しない可能性がある。特に、大型のコンクリート構造物のそれぞれの部分を同じ位置から撮影した場合、ある場所(壁面部分)におけるカメラ光軸と壁面との角度と別の場所(壁面部分)におけるカメラ光軸と壁面の角度は異なる。そのため、画像解析によって得られたひび割れの大きさが実際の大きさと相違することがある。また、写真の性質上、コンクリート表面の色とひび割れ部分の色とのコントラストが大きい程ひび割れは写り易い(つまり、ひび割れの幅が大きく表れる)ことから、屋外のコンクリート構造物を撮影した画像に表れるひび割れの大きさは、太陽に照らされている状態とそうでない状態で、また、太陽から受ける光の量に、応じて異なる。
【0040】
そこで、本実施形態では、
図23に示すように、区画1000,2000,3000のそれぞれに、少なくとも1つの関心領域10000、20000、30000を設定する。関心領域の大きさは、例えば一つの型枠の領域でもよいし、横方向又は縦方向に連続する複数の型枠の領域であってもよい。
【0041】
次に、関心領域10000、20000、30000のそれぞれについて、その関心領域の中に一つのひび割れしか存在しない場合は当該ひび割れを「評価用ひび割れ」として特定し、また、複数のひび割れが含まれている場合はその中の少なくとも1つのひび割れを評価用ひび割れ10001,20001,30001として特定する。
【0042】
続いて、特定された評価用ひび割れ10001,20001,30001について、トータルステーション10を使ってひび割れの大きさを測定する(測定工程)。この測定で得られた値がひび割れの「実測値」である。
【0043】
一方、関心領域10000、20000、30000の評価用ひび割れ10001,20001,30001について、カメラで撮影された画像から得られた「推定値」を取得する。
【0044】
そして、実測値とそれに対応する推定値を用いて、各区画についてその校正係数(=実測値/推定値)を計算する。また、校正係数を用いて、それぞれの区画の推定値を校正して校正値(=推定値×校正係数)を計算する(校正工程)。
【0045】
[現況図の表示](表示工程)
最後に、全体合成画像を見ながら、校正値をもとに、全体合成画像及び各区画に表れるそれぞれのひび割れに対してクラスを更新する。クラスが更新されたひび割れは、例えば、クラス1のひび割れには「緑」、クラス2のひび割れには「青」、クラス3のひび割れには「橙」、クラス4のひび割れには「赤」の色情報が付され、合成された撮影画像の上にすべてのひび割れが色を付した状態で表示された、ひび割れ現況図(
図24参照)が作成される。このとき、例えば、コンクリート構造物の表面に表れた汚れを誤ってひび割れと評価した場合、そのような誤りは合成画像を見ながら校正する際に容易に確認し、画像上から削除できる。
【0046】
このように、本発明の実施形態によれば、区画ごとに少なくとも1つのひび割れを実測し、その実測値を用いて評価値を校正するため、コンクリート構造物に発生したすべてのひび割れを測定する必要がない。そのため、ひび割れ測定(実測)に要する手間が大幅に減少する。
【0047】
なお、上述の説明では、
図2に示すように、コンクリート構造物をその高さに応じて3つの撮影区画1000,2000,3000に分けたが、上述のように、カメラで撮影されたひび割れの大きさはコンクリートの地肌とひび割れ部分のコントラストに影響を受けるため、コンクリート構造物の壁面を太陽の光が当たっている区画と太陽の光が当たっていない区画に分けてもよいし、カメラの画面上に表れる壁面の色合いに応じて複数の区画に分けてもよい。いずれにしても、上述した幾つかの撮影条件をもとに撮影区画を決定することが好ましい。また、上述の説明のように、複数の撮影区画のそれぞれについて校正係数を求め、その校正係数を用いて推定値を校正することが好ましい。
【0048】
ひび割れの大きさを示す表示は、色に限るものでなく、校正値であってもよいし、現況図上に表示されるひび割れを示す線の太さであってもよい。
【0049】
以上、本発明に係る構造物のひび割れ現況図を作成する方法は、
(a) デジタルカメラを用いて、構造物の壁面を複数の撮影領域に分けて撮影し、前記複数の撮影領域の撮影画像を取得する撮影工程と、
前記撮影画像を解析して、前記複数の撮影領域に発生したひび割れを抽出するとともに前記ひび割れの大きさを推定する推定工程と、
前記複数の撮影領域の画像を合成して、前記コンクリート構造物の全体画像を作成する合成工程と、
前記複数の撮影領域の少なくとも1つの撮影領域に含まれる少なくとも1つのひび割れを特定するとともに、特定されたひび割れの大きさを測定する測定工程と、
前記特定されたひび割れについて前記推定工程で推定された推定値と前記測定工程で測定された測定値とを用いて前記推定値の校正係数を求め、前記校正係数を用いて前記複数の撮影領域における前記推定値を校正して校正値を得る校正工程と、
前記校正値又は前記校正値に対応する表示を前記全体画像に表示する表示工程を含む形態を含む。
【0050】
本発明はまた、前記形態(a)に、
・前記表示が色である特徴(b)、
前記全体画像に、前記校正値に対応して異なる色が付される特徴(b)、
・前記壁面を複数の区画に分割し、複数の区画のそれぞれに前記校正係数が求められる特徴(c)、
・前記壁面が、撮影条件に応じて前記複数の区画に分割される特徴(d)、又は
・前記撮影領域は、前記コンクリート構造物を構築する際に使用された型枠の継ぎ目を基準に決められる特徴(e)、
のいずれか一つを組み合わせた形態、及び特徴(b)から(e)を任意に組み合わせた形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10:トータルステーション
70:デジタルカメラ
100:ひび割れ
1000(1)~1000(i)~1000(n):撮影領域
【手続補正書】
【提出日】2022-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正書】
【提出日】2022-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のひび割れ現況図を作成する方法は、
デジタルカメラを用いて、構造物の壁面を複数の撮影領域に分けて撮影し、前記複数の撮影領域の撮影画像を取得する撮影工程と、
前記撮影画像を解析して、前記複数の撮影領域に発生したひび割れを抽出するとともに前記ひび割れの大きさを推定する推定工程と、
前記複数の撮影領域の画像を合成して、前記構造物の全体画像を作成する合成工程と、
前記複数の撮影領域の少なくとも1つの撮影領域に含まれる少なくとも1つのひび割れを特定するとともに、特定されたひび割れの大きさを測定する測定工程と、
前記特定されたひび割れについて前記推定工程で推定された推定値と前記測定工程で測定された測定値とを用いて前記推定値の校正係数を求め、前記校正係数を用いて前記複数の撮影領域における前記推定値を校正して校正値を得る校正工程と、
前記校正値又は前記校正値に対応する表示を前記全体画像に表示する表示工程を含む方法であって、
前記壁面を複数の区画に分割し、前記複数の区画のそれぞれに前記校正係数が求められる、方法。
【請求項2】
前記表示が色であり、
前記全体画像に、前記校正値に対応して異なる色が付される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記壁面が、撮影条件に応じて前記複数の区画に分割される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記撮影領域は、前記コンクリート構造物を構築する際に使用された型枠の継ぎ目を基準に決められる、請求項1に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
この目的を達成するために、本発明の実施形態に係る、コンクリート構造物のひび割れ現況図を作成する方法は、
デジタルカメラを用いて、構造物の壁面を複数の撮影領域に分けて撮影し、前記複数の撮影領域の撮影画像を取得する撮影工程と、
前記撮影画像を解析して、前記複数の撮影領域に発生したひび割れを抽出するとともに前記ひび割れの大きさを推定する推定工程と、
前記複数の撮影領域の画像を合成して、前記構造物の全体画像を作成する合成工程と、
前記複数の撮影領域の少なくとも1つの撮影領域に含まれる少なくとも1つのひび割れを特定するとともに、特定されたひび割れの大きさを測定する測定工程と、
前記特定されたひび割れについて前記推定工程で推定された推定値と前記測定工程で測定された測定値とを用いて前記推定値の校正係数を求め、前記校正係数を用いて前記複数の撮影領域における前記推定値を校正して校正値を得る校正工程と、
前記校正値又は前記校正値に対応する表示を前記全体画像に表示する表示工程を含む方法であって、
前記壁面を複数の区画に分割し、前記複数の区画のそれぞれに前記校正係数が求められる、ものである。