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特開2023-173163メッキ線の製造方法及び電気メッキ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173163
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】メッキ線の製造方法及び電気メッキ装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/12 20060101AFI20231130BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20231130BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20231130BHJP
   C25D 17/12 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C25D21/12 G
C25D7/06 R
C25D17/00 B
C25D17/12 K
C25D17/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085225
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見上 富三
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕規
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024BA02
4K024BC06
4K024CB06
4K024CB07
4K024CB08
4K024CB10
4K024CB12
4K024CB15
4K024EA11
(57)【要約】
【課題】均質なメッキ層を有するメッキ線の、低コストでの製造に適した、電気メッキ装置2の提供。
【解決手段】電気メッキ装置2は、タンク18、外パイプ20及びパイプ電極22を有している。パイプ電極22は、複数のインレット52及び複数のアウトレット54を有している。メッキ液が、供給管26を通過して、第二スペースS2へと供給される。このメッキ液は、インレット52を通過して、第一スペースS1へと流入する。メッキ液は、アウトレット54を通過して、第三スペースS3へと流出する。メッキ液はさらに、排出管28を通過して、槽へと返される。パイプ電極22の中を、金属線16が走行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部を金属線が走行しうるパイプ電極を有しており、
上記パイプ電極が、このパイプ電極の中へメッキ液を流入させるための1又は2以上のインレットと、このパイプ電極の中から上記メッキ液を流出させるための1又は2以上のアウトレットとを有する、メッキ線のための電気メッキ装置。
【請求項2】
それぞれのインレットが上記パイプ電極の側壁を貫通する、請求項1に記載の電気メッキ装置。
【請求項3】
1つのインレットと、上記パイプ電極の軸方向においてこのインレットから離れて位置する他のインレットとを有する、請求項2に記載の電気メッキ装置。
【請求項4】
上記パイプ電極における上記インレットの数が、4以上20以下である、請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項5】
それぞれのアウトレットが上記パイプ電極の側壁を貫通する、請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項6】
上記パイプ電極が2以上のアウトレットを有しており、それぞれのインレットが上記パイプ電極の軸方向において2つのアウトレットの間に位置する、請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項7】
上記パイプ電極が上記メッキ液に対して非溶解性である請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項8】
上記パイプ電極を収容する外パイプをさらに備えており、
上記パイプ電極の外周面と上記外パイプの内周面とに挟まれたスペースと、上記パイプ電極の内側のスペースとを、上記インレットが連結する、請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項9】
上記パイプ電極を収容するタンクと、ブロー器とを有しており、
上記タンクが、上記金属線のための退出ゲートを有しており、
上記ブロー器が、上記金属線に気体を吹き付けてこの金属線に付着した上記メッキ液を上記退出ゲートを通じて上記タンクの中に送りうる、請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項10】
上記ブロー器が、
上記金属線が通過しうる貫通孔、
上記貫通孔と交差しており、この貫通孔の中の上記金属線に向けて上記気体を導く第一チャンネル、
上記貫通孔に至っており、この貫通孔の中の上記金属線に向けて上記気体を導く第二チャンネル、
及び
上記第一チャンネルの下流と上記第二チャンネルの上流とを繋ぐ中間チャンネル
を有する、請求項9に記載の電気メッキ装置。
【請求項11】
給電器をさらに備えており、
上記給電器が、上記金属線を挟んでこの金属線をカソードとするための第一ローラ及び第二ローラを有する、請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項12】
上記給電器が、上記第一ローラを相対的に上記第二ローラに向けて付勢するバネをさらに有する、請求項11に記載の電気メッキ装置。
【請求項13】
上記メッキ液を蓄えうる槽と、この槽と上記パイプ電極との間で上記メッキ液を循環させうるポンプとをさらに備えた、請求項1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【請求項14】
(1)インレット及びアウトレットを有するパイプ電極に、上記インレットから上記アウトレットに向けてメッキ液を流動させる工程、
並びに
(2)上記パイプ電極の内部にてカソードである金属線を走行させ、上記メッキ液に含まれる金属イオンを還元して金属を析出させ、この金属を上記金属線に付着させる工程
を含む、メッキ線の製造方法。
【請求項15】
上記工程(2)において、上記パイプ電極の内径Diとの比(Di/Dw)が5以上15以下である線径Dwを有する上記金属線を走行させる、請求項14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、メッキ線の製造方法と、この製造方法に用いられる電気メッキ装置とを開示する。
【背景技術】
【0002】
溶解性電極がアノードである電気メッキでは、メッキの進行に伴ってこの電極が消費される。消費の進行した電極は装置から取り外され、新たな電極が装置に装着される。この電気メッキ装置は、連続操業には適していない。
【0003】
非溶解性電極がアノードである電気メッキは、連続性に優れている。この電気メッキは、金属線のメッキに適している。金属線には特に、パイプ状の電極が適している。パイプ電極の一例が、特開平4-94832号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-94832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パイプ電極が用いられた電気メッキでは、槽にメッキ液が蓄えられ、このメッキ液にパイプ電極が浸される。この電気メッキでは、多量のメッキ液が必要である。均質なメッキ層の形成の目的で、このメッキ液は流動させられる。従って、大がかりな流動装置が必要である。この電気メッキは、高コストである。しかも、円滑な流動は容易ではなく、従って均質なメッキ層が得られにくい。
【0006】
本出願人の意図するところは、均質なメッキ層を有するメッキ線の、低コストでの製造に適した、電気メッキ装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する電気メッキ装置は、その内部を金属線が走行しうるパイプ電極を有する。このパイプ電極は、このパイプ電極の中へメッキ液を流入させるための1又は2以上のインレットと、このパイプ電極の中からメッキ液を流出させるための1又は2以上のアウトレットとを有する。この電気メッキ装置により、メッキ線が製造されうる。
【発明の効果】
【0008】
この電気メッキ装置では、インレットからアウトレットに向かって、メッキ液が流動する。この装置により、金属線の表面に、均質なメッキ層が容易に形成されうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る電気メッキ装置が金属線と共に示された模式的断面図である。
図2図2は、図1の電気メッキ装置の主要部が金属線と共に示された拡大断面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った拡大断面図である。
図4図4は、図2の主要部のパイプ電極が金属線と共に示された拡大断面図である。
図5図5は、図4のV-V線に沿った、拡大された分解断面図である。
図6図6は、図1の電気メッキ装置の第一供給器が示された一部切り欠き拡大図である。
図7図7は、図1の電気メッキ装置のブロー器が金属線と共に示された拡大断面図である。
図8図8は、図1の電気メッキ装置によって製造されたメッキ線が示された拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0011】
図1に示された電気メッキ装置2は、主要部4、第一給電器6、第二給電器8、ブロー器10、槽12及びポンプ14を有している。図1には、金属線16も示されている。この金属線16は、矢印A1で示された方向(図1における左側から右側に向かう方向)に、走行する。金属線16の材質として、炭素鋼及び合金鋼が例示される。典型的な合金鋼は、ステンレス鋼である。
【0012】
図2及び3に、主要部4が示されている。この主要部4は、タンク18、外パイプ20、パイプ電極22、2つのオリフィス24、2つの供給管26、排出管28及び2つの端子30を有している。タンク18は、ボディ32、導入ゲート34及び退出ゲート36を有している。金属線16は、導入ゲート34を通過して、タンク18に侵入する。金属線16は、退出ゲート36を通じて、タンク18から出る。
【0013】
タンク18は、外パイプ20を収容している。外パイプ20は、パイプ電極22を収容している。従ってパイプ電極22は、外パイプ20を介してタンク18に収容されている。外パイプ20は、2つのインレット38及び2つのアウトレット40を有している。それぞれの供給管26は、タンク18に連結されている。この供給管26は、外パイプ20のインレット38と通じている。排出管28も、タンク18に連結されている。
【0014】
図3に示されるように、外パイプ20の内周面とパイプ電極22の外周面との間には、部分的に、充填材42が充填されている。この充填材42の材質は、合成樹脂組成物である。それぞれの端子30は、外パイプ20を貫通している。この端子30は、パイプ電極22に固定されている。この端子30にはケーブル44が連結されている。
【0015】
図4及び5に、パイプ電極22が示されている。パイプ電極22は、側壁46、前開口48及び後開口50を有している。パイプ電極22は、複数のインレット52を有している。本実施形態では、パイプ電極22は、7つのインレット52を有している。それぞれのインレット52は、側壁46を貫通している。このインレット52は、側壁46のうち、図4における最も下の位置を、貫通している。これらのインレット52は、軸方向(図4における左右方向)に並んでいる。換言すれば、それぞれのインレット52は、隣接するインレット52とは、軸方向において離間している。このインレット52の内径は、1.0mmから5.0mm程度である。
【0016】
このパイプ電極22は、2つの下側アウトレット54a及び2つの上側アウトレット54bを有している。それぞれの下側アウトレット54aは、側壁46を貫通している。この下側アウトレット54aは、側壁46のうち、図4における最も下の位置を、貫通している。それぞれの上側アウトレット54bは、側壁46を貫通している。この上側アウトレット54bは、側壁46のうち、図4における最も上の位置を、貫通している。このパイプ電極22では、軸方向において、それぞれのインレット52が2つの下側アウトレット54aの間に位置している。
【0017】
図4には、金属線16も示されている。この金属線16は、矢印A1で示された方向(図4における左側から右側に向かう方向)に、走行する。換言すれば、金属線16は、パイプ電極22の内部を走行する。
【0018】
図5に示されるように、パイプ電極22は、上ハーフ56と下ハーフ58とを有している。上ハーフ56の断面形状は、半円である。下ハーフ58の断面形状も、半円である。上ハーフ56は、外層60及び内層62を有している。下ハーフ58も、外層60及び内層62を有している。
【0019】
図2及び3に示されるように、パイプ電極22の内部には、第一スペースS1が存在する。パイプ電極22の外周面と外パイプ20の内周面との間には、第二スペースS2が存在する。外パイプ20の外周面とタンク18との間には、第三スペースS3が存在する。パイプ電極22のインレット52は、第一スペースS1と第二スペースS2とを連結している。一方、パイプ電極22の下側アウトレット54aは、外パイプ20のアウトレット40と連結されている。下側アウトレット54a及びアウトレット40は、第一スペースS1と第三スペースS3とを連結している。
【0020】
図6は、第一給電器6が示された一部切り欠き図である。この第一給電器6は、フレーム64、上ローラ66a(第一ローラ)、下ローラ66b(第二ローラ)、上ボルト68a、下ボルト68b、上圧縮バネ70a、下圧縮バネ70b、上ブスバー72a、下ブスバー72b、上ソケット74a、下ソケット74b及び引張バネ76を有している。図6には、金属線16も示されている。この金属線16は、上ローラ66aと下ローラ66bとの間を通過する。
【0021】
上ローラ66aは、軸78aを有している。この軸78aによって上ローラ66aは、フレーム64に取り付けられている。上ローラ66aは、フレーム64に対して回転可能である。上ローラ66aはさらに、フレーム64に対して上下に移動可能である。上ボルト68aは、上圧縮バネ70a、上ブスバー72a及び上ソケット74aを貫通している。上ボルト68aは上ソケット74aに固定されており、この上ソケット74aはフレーム64に固定されている。換言すれば、上ボルト68aは上ソケット74aを介してフレーム64に固定されている。上ボルト68aは、フレーム64に対して移動できない。上ブスバー72aは、上ボルト68aに固定されていない。上ブスバー72aは、上ボルト68aに対して相対的に移動できる。上ブスバー72aの移動方向は、図6における上下方向である。上ブスバー72aは、端子80aを有している。この端子80aに、ケーブル82aが接続されている。
【0022】
上圧縮バネ70aは、上ブスバー72aを下方へと押す。従って上ブスバー72aは、上ローラ66aに押し付けられる。換言すれば、上圧縮バネ70aは、上ブスバー72aを上ローラ66aに向けて付勢する。
【0023】
下ローラ66bは、軸78bを有している。この軸78bによって下ローラ66bは、フレーム64に取り付けられている。下ローラ66bは、フレーム64に対して回転可能である。下ローラ66bが、フレーム64に対して上下に移動可能であってもよい。下ボルト68bは、下圧縮バネ70b、下ソケット74b及び下ブスバー72bを貫通している。下ボルト68bは下ソケット74bに固定されていない。下ボルト68bは、フレーム64に対して移動できる。下ボルト68bの移動方向は、図6における上下方向である。下ブスバー72bは、下ボルト68bに固定されている。下ブスバー72bは、下ボルト68bの移動に追従して移動する。下ブスバー72bの移動方向は、図6における上下方向である。下ブスバー72bは、端子80bを有している。この端子80bに、ケーブル82bが接続されている。
【0024】
下圧縮バネ70bは、下ボルト68bを介して、下ブスバー72bを上方へと引く。従って下ブスバー72bは、下ローラ66bに押し付けられる。換言すれば、下圧縮バネ70bは、下ブスバー72bを下ローラ66bに向けて付勢する。
【0025】
引張バネ76は、コイル84、上フック86a及び下フック86bを有している。上フック86aは、上ローラ66aの軸78aに掛けられている。下フック86bは、下ローラ66bの軸78bに掛けられている。この引張バネ76は、軸78aと軸78bとの間に、架けられている。この引張バネ76は、上ローラ66aを相対的に下ローラ66bに向けて付勢する。
【0026】
上圧縮バネ70aの作用により、上ブスバー72aは、上ローラ66aに確実に当接する。下圧縮バネ70bの作用により、下ブスバー72bは、下ローラ66bに確実に当接する。上圧縮バネ70a、下圧縮バネ70b及び引張バネ76の作用により、金属線16は、上ローラ66a及び下ローラ66bに、確実に接触する。
【0027】
上ローラ66a及び上ブスバー72aは、導電性である。従って、ケーブル82aから上ローラ66aまでは、通電しうる。下ローラ66b及び下ブスバー72bは、導電性である。従って、ケーブル82bから下ローラ66bまでは、通電しうる。
【0028】
図1から明らかな通り、第一給電器6は、主要部4の左側(すなわち上流側)に位置している。前述の通り、この電気メッキ装置2は、第二給電器8も有している。この第二給電器8は、主要部4の右側(すなわち下流側)に位置している。詳細な説明は省略されるが、この第二給電器8の構造は、第一給電器6の構造と概ね同等である。
【0029】
図7に、ブロー器10が示されている。このブロー器10は、ブロック88とチューブ90とを有している。ブロック88は、貫通孔92を有している。貫通孔92は、ゲートG1及びゲートG2を有している。この貫通孔92を、金属線16(又は後に詳説されるメッキ線)が通過する。ブロック88はさらに、第一チャンネル94及び第二チャンネル96を有している。第一チャンネル94は、ゲートG3及びゲートG4を有している。第一チャンネル94は、貫通孔92と交差している。第二チャンネル96は、ゲートG5を有している。第二チャンネル96は、ゲートG5から貫通孔92にまで至っている。チューブ90は、第一チャンネル94と第二チャンネル96とを繋いでいる。具体的には、チューブ90は、第一チャンネル94のゲートG4と第二チャンネル96のゲートG5とを繋いでいる。このチューブ90は、中間チャンネルとも称される。
【0030】
このブロー器10では、図示されない送風機により、第一チャンネル94にゲートG3から気体(典型的にはエアー)が送られる。エアーは、矢印A2で示された方向に進み、金属線16に衝突する。このエアーは、金属線16に付着したメッキ液(後に詳説)を、金属線16から分離する。エアーは、矢印A3で示されるように、ゲートG4から第一チャンネル94を出て、中間チャンネル90へと流れ込む。エアーは、矢印A4で示されるように中間チャンネル90を進む。エアーは、矢印A5で示されるように、ゲートG5から第二チャンネル96に流れ込み、この第二チャンネル96でも金属線16に衝突する。このエアーは、金属線16に付着したメッキ液(後に詳説)を、金属線16から分離する。エアーは、矢印A6で示されるように、貫通孔92を進む。エアーは、ゲートG1を通過し、さらにタンク18の退出ゲート36(図2参照)を通過して、タンク18の内部へ流入する。エアーの流入に伴って、金属線16から分離されたメッキ液も、タンク18の内部へ運ばれ、第三スペースS3に流入する。この電気メッキ装置2では、1つのブロー器10において、エアーが金属線16に2回衝突する。複数回の衝突は、メッキ液からの金属線16からの分離を、促す。このブロー器10は、効率に優れる。衝突回数が3以上であってもよい。
【0031】
槽12(図1参照)には、メッキ液が蓄えられている。メッキ液は、金属の陽イオンを含んでいる。メッキ層の意図された材質が得られるよう、メッキ液の成分が調整される。例えば、メッキ層の材質が銅である場合の好ましいメッキ液は、ピロリン酸銅水溶液又は硫酸銅水溶液である。メッキ層の材質が亜鉛である場合の好ましいメッキ液は、硫酸亜鉛水溶液である。槽12には、ポンプ14が連結されている。このポンプ14により、槽12の中のメッキ液が供給管26へと送られうる。ポンプ14は、メッキ液を循環させる。電気メッキ装置2が、ポンプ14以外の循環手段を有してもよい。
【0032】
以下、この電気メッキ装置2が用いられたメッキ線製造方法が、説明される。この製造方法では、槽12(図1参照)の中のメッキ液が、ポンプ14によって供給管26へと送られうる。図2及び3において矢印A7で示されるように、メッキ液は、外パイプ20のインレット38を通過して第二スペースS2へと流入する。この第二スペースS2よりもさらに上方へのメッキ液の移動は、充填材42(図3参照)によって阻止される。
【0033】
第二スペースS2がメッキ液で満たされると、図3及び4において矢印A8で示されるように、メッキ液は、パイプ電極22のインレット52を通過して第一スペースS1へと流入する。メッキ液はさらに、図4において矢印A9で示されるように、パイプ電極22の軸方向に沿って流れる。換言すれば、メッキ液は、インレット52からアウトレット54に向かって流動する。メッキ液の流入の継続により、第一スペースS1がメッキ液で満たされる。
【0034】
第一スペースS1へのメッキ液の流入が継続されると、余剰のメッキ液は、図2において矢印A10で示されるように、パイプ電極22のアウトレット54a及び外パイプ20のアウトレット40を通過し、第三スペースS3へと流出する。このメッキ液はさらに、図2において矢印A11で示されるように、排出管28へと流れる。この排出管28を通過して、メッキ液は槽12(図1参照)に戻る。
【0035】
前述の通り、第三スペースS3には、ブロー器10を通過したメッキ液も流入する。このメッキ液も、矢印A11で示されるように、排出管28へと流れる。パイプ電極22の中のメッキ液の一部は、オリフィス24からも流れ出て、第三スペースS3に流入する。このメッキ液も、矢印A11で示されるように、排出管28へと流れる。この電気メッキ装置2では、タンク18からのメッキ液の漏出が、生じない。この電気メッキ装置2によるメッキでは、環境への悪影響が少ない。
【0036】
メッキ液が循環されている状態で、図3に示されたケーブル44及び端子30を介して、パイプ電極22に負の給電がなされる。一方、図6に示されたケーブル82、端子80、ブスバー72及びローラ66を介して、金属線16に正の給電がなされる。パイプ電極22はアノードであり、金属線16はカソードである。メッキ液の中の金属イオンは、金属線16に向かって移動し、この金属線16の表面で還元される。この還元によって析出した金属は、金属線16の表面に付着する。付着は、パイプ電極22の中で継続される。これにより、メッキ層を有するメッキ線が得られる。金属線16はパイプ電極22の中を連続して進行するので、メッキ線が連続的に製造されうる。
【0037】
図8に、メッキ線98が示されている。このメッキ線98は、金属線16とメッキ層100とを有している。メッキ層100は、金属線16に付着している。メッキ層100は、金属線16を覆っている。図8において矢印Dwは、金属線16の線径を表す。
【0038】
前述の通り、パイプ電極22は内層62を有している。この内層62の材質は、メッキ液に対して非溶解性である。従って、メッキ線98の連続生産が行われても、パイプ電極22は消耗しない。内層62の材質として、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、白金及び白金イリジウムが例示される。その材質がチタン合金、白金等である外層60へのコーティングによって、内層62が形成されうる。コスト及び耐久性の観点から、外層60の材質がチタン合金であり、内層62の材質が酸化イリジウムであるパイプ電極22が好ましい。酸化イリジウムは、メッキ液が硫酸亜鉛である電気メッキに、特に適している。
【0039】
非溶解性であるパイプ電極22からは、メッキ液に対する金属イオンの補給はなされ得ない。本実施形態では、金属イオンの補給は、槽12の中のメッキ液に対してなされうる。成分が調整されたメッキ液がパイプ電極22に連続的に供給されるので、均質なメッキ層100が形成されうる。メッキ液は、インレット52からパイプ電極22に侵入し、このパイプ電極22の内部で激しく流動する。この流動は、金属線16の近傍における、メッキ液中の金属イオンの濃度を、均一化する。この流動も、メッキ層100の均質に寄与しうる。
【0040】
パイプ電極22の容積は、小さい。この電気メッキ装置2では、流動させられるメッキ液は、少量で足りる。この電気メッキ装置2は、コンパクトであり、かつ消費されるエネルギーも少量で足りる。さらにこの電気メッキ装置2は、アノードとカソードとの距離が小さいので、電流効率にも優れる。
【0041】
前述の通り、第一給電器6及び第二給電器8では、バネがローラ66を付勢している。従って、金属線16の表面に多少の凹凸がある場合でも、ローラ66が金属線16に確実に接触する。この電気メッキ装置2では、スパークが抑制されうる。スパークの抑制は、メッキ層100の均質に寄与しうる。
【0042】
均質なメッキ層100の観点から、パイプ電極22におけるインレット52の数は4以上が好ましく、6以上が特に好ましい。この数は、20以下が好ましい。
【0043】
前述の通り、パイプ電極22には、2つの端子30が固定されている。パイプ電極22に複数の端子30が固定された電気メッキ装置2では、均質なメッキ層100が形成されうる。端子30の数が3以上であってもよい。
【0044】
図4において矢印Diは、パイプ電極22の内径を表す。この内径Diの、金属線16の線径Dw(図8参照)に対する比(Di/Dw)は、5以上15以下が好ましい。比(Di/Dw)が5以上である電気メッキ装置2では、金属線16のパイプ電極22との接触に起因するスパークが抑制されうる。この観点から、この比(Di/Dw)は8以上が特に好ましい。比(Di/Dw)が15以下である電気メッキ装置2は、電流効率に優れる。この観点から、この比(Di/Dw)は12以下が特に好ましい。
【0045】
図7において矢印A2及びA5で示されるように、エアーの進行方向は、金属線16に対して傾斜している。エアーの進行方向は、金属線16の進行方向とは逆の方向の成分を含んでいる。このエアーにより、メッキ液が十分に吹き飛ばされる。
【0046】
図1に示された実施形態では、ブロー器10は、主要部4の右側に位置している。電気メッキ装置2が、このブロー器10に加え、主要部4の左側に位置する他のブロー器を有してもよい。2つのブロー器を有する電気メッキ装置2では、金属線16が、左側から右側へと走行し、かつ右側から左側へと走行しうる。
【0047】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0048】
[項目1]
その内部を金属線が走行しうるパイプ電極を有しており、
上記パイプ電極が、このパイプ電極の中へメッキ液を流入させるための1又は2以上のインレットと、このパイプ電極の中から上記メッキ液を流出させるための1又は2以上のアウトレットとを有する、メッキ線のための電気メッキ装置。
【0049】
[項目2]
それぞれのインレットが上記パイプ電極の側壁を貫通する、項目1に記載の電気メッキ装置。
【0050】
[項目3]
1つのインレットと、上記パイプ電極の軸方向においてこのインレットから離れて位置する他のインレットとを有する、項目2に記載の電気メッキ装置。
【0051】
[項目4]
上記パイプ電極における上記インレットの数が、4以上20以下である、項目1から3のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0052】
[項目5]
それぞれのアウトレットが上記パイプ電極の側壁を貫通する、項目1から4のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0053】
[項目6]
上記パイプ電極が2以上のアウトレットを有しており、それぞれのインレットが上記パイプ電極の軸方向において2つのアウトレットの間に位置する、項目1から5のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0054】
[項目7]
上記パイプ電極が上記メッキ液に対して非溶解性である項目1から6のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0055】
[項目8]
上記パイプ電極を収容する外パイプをさらに備えており、
上記パイプ電極の外周面と上記外パイプの内周面とに挟まれたスペースと、上記パイプ電極の内側のスペースとを、上記インレットが連結する、項目1から7のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0056】
[項目9]
上記パイプ電極を収容するタンクと、ブロー器とを有しており、
上記タンクが、上記金属線のための退出ゲートを有しており、
上記ブロー器が、上記金属線に気体を吹き付けてこの金属線に付着した上記メッキ液を上記退出ゲートを通じて上記タンクの中に送りうる、項目1から8のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0057】
[項目10]
上記ブロー器が、
上記金属線が通過しうる貫通孔、
上記貫通孔と交差しており、この貫通孔の中の上記金属線に向けて上記気体を導く第一チャンネル、
上記貫通孔に至っており、この貫通孔の中の上記金属線に向けて上記気体を導く第二チャンネル、
及び
上記第一チャンネルの下流と上記第二チャンネルの上流とを繋ぐ中間チャンネル
を有する、項目9に記載の電気メッキ装置。
【0058】
[項目11]
給電器をさらに備えており、
上記給電器が、上記金属線を挟んでこの金属線をカソードとするための第一ローラ及び第二ローラを有する、項目1から10のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0059】
[項目12]
上記給電器が、上記第一ローラを相対的に上記第二ローラに向けて付勢するバネをさらに有する、項目11に記載の電気メッキ装置。
【0060】
[項目13]
上記メッキ液を蓄えうる槽と、この槽と上記パイプ電極との間で上記メッキ液を循環させうるポンプとをさらに備えた、項目1から12のいずれかに記載の電気メッキ装置。
【0061】
[項目14]
(1)インレット及びアウトレットを有するパイプ電極に、上記インレットから上記アウトレットに向けてメッキ液を流動させる工程、
並びに
(2)上記パイプ電極の内部にてカソードである金属線を走行させ、上記メッキ液に含まれる金属イオンを還元して金属を析出させ、この金属を上記金属線に付着させる工程
を含む、メッキ線の製造方法。
【0062】
[項目15]
上記工程(2)において、上記パイプ電極の内径Diとの比(Di/Dw)が5以上15以下である線径Dwを有する上記金属線を走行させる、項目14に記載の製造方法。
【0063】
[項目16]
上記金属線が通過しうる貫通孔、
上記貫通孔と交差しており、この貫通孔の中の上記金属線に向けて上記気体を導く第一チャンネル、
上記貫通孔に至っており、この貫通孔の中の上記金属線に向けて上記気体を導く第二チャンネル、
及び
上記第一チャンネルの下流と上記第二チャンネルの上流とを繋ぐ中間チャンネル
を備えた、電気メッキ装置のブロー器。
【0064】
[項目17]
金属線を挟んでこの金属線をカソードとするための第一ローラ及び第二ローラ、
並びに
上記第一ローラを相対的に上記第二ローラに向けて付勢するバネ
を備えた、電気メッキ装置の給電器。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明された電気メッキ装置は、種々の材質のメッキ線の製造に適している。この電気メッキ装置はさらに、種々のサイズのメッキ線の製造に適している。
【符号の説明】
【0066】
2・・・電気メッキ装置
4・・・主要部
6・・・第一給電器
8・・・第二給電器
10・・・ブロー器
12・・・槽
14・・・ポンプ
16・・・金属線
18・・・タンク
20・・・外パイプ
22・・・パイプ電極
26・・・供給管
28・・・排出管
38・・・インレット
40・・・アウトレット
46・・・側壁
52・・・インレット
54a・・・下側アウトレット
54b・・・上側アウトレット
60・・・ 外層
62・・・内層
66・・・ローラ
70・・・圧縮バネ
72・・・ブスバー
76・・・引張バネ
90・・・チューブ(中間チャンネル)
94・・・第一チャンネル
96・・・第二チャンネル
98・・・メッキ線
100・・・メッキ層
S1・・・第一スペース
S2・・・第二スペース
S3・・・第三スペース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8