IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝テック株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173168
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 303
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085234
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】小熊 実
(72)【発明者】
【氏名】外山 晃正
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF01
2C057AF21
2C057AF78
2C057AF93
2C057AG29
2C057AG30
2C057AG31
2C057AG32
2C057AG45
2C057AG68
2C057AG84
2C057AG91
2C057AK07
2C057AN05
2C057AP22
2C057AP25
2C057AP47
2C057AQ03
(57)【要約】
【課題】安定的な吐出特性を確保することができる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る液体吐出ヘッドは、アクチュエータ部と、絞り部と、を備える。アクチュエータ部は、複数の圧力室を有する。絞り部は、前記圧力室に連通する共通室と前記圧力室との連通口に設けられ、少なくとも前記圧力室の内側の表面に傾斜又は湾曲する案内面を有する絞り壁を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力室を有する、アクチュエータ部と、
前記圧力室に連通する共通室と前記圧力室との連通口に設けられ、少なくとも前記圧力室の内側の表面に傾斜又は湾曲する案内面を有する絞り壁を備える、絞り部と、
を備える、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記絞り壁は、前記圧力室を構成する壁部に設けられる突起部であり、
前記案内面は、前記絞り壁の、側面、前記壁部側の隅部、及び頂部側の角部、の少なくともいずれかを含む部位の面または当該部位の面の接線が、前記壁部の表面に対して90度未満で傾斜し、
前記絞り部は、前記連通口における流体抵抗を前記圧力室内よりも増加させる、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧力室の並び方向に交差する延出方向における両側がそれぞれ共通室に連通するサイドシュータ型であり、
前記圧力室の延出方向における両側の前記連通口に、前記絞り壁がそれぞれ形成される、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧力室の、並び方向に交差する延出方向における一方側が前記共通室に連通する、エンドシュータ型であり、
前記圧力室の前記一方側の前記連通口に、前記絞り壁が形成される、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記絞り壁は、感光性樹脂で構成され、前記連通口において、複数の前記圧力室の並び方向における一方側と他方側にそれぞれ配され前記圧力室を構成する一対の壁部に、それぞれ設けられる、請求項1乃至4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットヘッドにおいて、高生産性が求められ、高速化や液滴量増加が課題となっている。例えば、シェアモードシェアードウォール式のインクジェットヘッドは、ハイパワーとなり、高粘度インクの吐出や大きな液滴の吐出に向いている。シェアモードシェアウォール式のインクジェットヘッドにおいては、同じ駆動柱を2つの圧力室で共有し、複数配列される室のうちの1/3を圧力室として同時に駆動する所謂3サイクル駆動が一般的である。また、駆動する圧力室の両側をダミー圧力室として、1つの圧力室を独立した2つの駆動柱で駆動する独立駆動ヘッドも開発されている。例えば、圧電体に多数の溝を形成し、1本おきに出入口を塞ぎ、出入口が塞がれない溝を圧力室とし、塞がれた溝を空気室として、独立駆動とする構造が開発されている。
【0003】
このようなインクジェットヘッドにおいては、インク滴が吐出した後、共通液室から圧力室にインクが補給される。このとき、ノズルでオーバーシュートしてメニスカスが盛り上る現象が発生する。共通液室からノズルに至る流路の流体抵抗が小さいほどオーバーシュートは大きくなり、このオーバーシュートが収まらないとメニスカスが安定した状態で吐出をすることができない。したがって、インクジェットヘッドにおいて高速化するには、メニスカスの盛り上りを早く収束させ、安定的な吐出特性を確保することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-94036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、安定的な吐出特性を確保することができる液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る液体吐出ヘッドは、アクチュエータ部と、絞り部と、を備える。アクチュエータ部は、複数の圧力室を有する。絞り部は、前記圧力室に連通する共通室と前記圧力室との連通口に設けられ、少なくとも前記圧力室の内側の表面に傾斜又は湾曲する案内面を有する絞り壁を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図。
図2】実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成を示す分解斜視図。
図3】同インクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す斜視図。
図4】同インクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す断面図。
図5】同インクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す断面図。
図6】同インクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図7】試験例1及び試験例2に係るインクジェットヘッドの説明図。
図8】試験例1に係るインクジェットヘッドの吐出速度を示すグラフ。
図9】試験例2に係るインクジェットヘッドの吐出速度を示すグラフ。
図10】試験例1及び試験例2に係るインクジェットヘッドのメニスカス復帰特性を示すグラフ。
図11】試験例1及び試験例3に係るエンドシュータのインクジェットヘッドの説明図。
図12】試験例1及び試験例3に係るインクジェットヘッドの駆動波形を示すグラフ。
図13】試験例1及び試験例3に係るインクジェットヘッドのノズル流速振動を示すグラフ。
図14】試験例1及び試験例3に係るインクジェットヘッドの吐出体積を示すグラフ。
図15】試験例1及び試験例3に係るインクジェットヘッドのメニスカス復帰特性を示すグラフ。
図16】実施形態に係るインクジェットプリンタを示す模式図。
図17】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図18】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図19】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図20】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図21】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図22】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図23】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図24】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
図25】他の実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成及び流体の流れを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、第1実施形態に係る液体吐出ヘッドであるインクジェットヘッド10の構成について、図1乃至図5を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図であり、図2はインクジェットヘッドの一部の分解斜視図である。図3はインクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す斜視図であり、図4及び図5はインクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す断面図である。図6はインクジェットヘッドの一部の構成と流体の流れを示す説明図である。図中X、Y、Zは互いに直交する第1方向、第2方向、及び3方向をそれぞれ示す。なお、本実施形態において、インクジェットヘッド10のノズル28や圧力室31の並列方向がX軸に、圧力室31の延出方向がY軸に、液体の吐出方向がZ軸に、それぞれ沿う姿勢を基準として方向の説明を記載するが、これに限られるものではない。
【0009】
図1乃至図6に示すように、インクジェットヘッド10はシェアモードシェアウォール方式インクジェットヘッドである。インクジェットヘッド10は、インクを吐出するための装置であり、例えばインクジェットプリンタの内部に搭載される。例えばインクジェットヘッド10は圧力室31と空気室32が交互に配される独立駆動式のインクジェットヘッドである。空気室32は、インクが供給されない空気室であり、ノズル28を備えない。本実施形態においてインクジェットヘッド10は、いわゆるサイドシュータ型のインクジェットヘッドである。
【0010】
インクジェットヘッド10は、アクチュエータベース11と、ノズルプレート12と、フレーム13と、を備えている。アクチュエータベース11は、基材の一例である。インクジェットヘッド10の内部に、液体の一例としてのインクが供給されるインク室27が形成される。
【0011】
さらに、インクジェットヘッド10は、インクジェットヘッド10を制御する回路基板17や、インクジェットヘッド10とインクタンクとの間の経路の一部を形成するマニホールド18などの部品を備える。
【0012】
図2乃至図5に示すように、アクチュエータベース11は、基板21と、一対のアクチュエータ部22と、絞り部240と、を備える。
【0013】
基板21は、例えばアルミナなどのセラミックスによって矩形の板状に形成される。基板21は平坦な実装面を有する。基板の実装面に一対のアクチュエータ部22が接合されている。基板21には複数の供給孔25と排出孔26とが形成されている。
【0014】
図2及び図3に示すように、アクチュエータベース11の基板21には、パターン配線211が形成される。パターン配線211は、例えばニッケル薄膜によって形成される。パターン配線211は、共通パターンや個別パターンを有し、アクチュエータ部22に形成された電極層34に接続される所定のパターン形状に構成される。
【0015】
供給孔25は、基板21の中央部であって一対のアクチュエータ部22の間において、アクチュエータ部22の長手方向に並んで設けられている。供給孔25は、マニホールド18のインク供給部に連通する。供給孔25は、インク供給部を介してインクタンクに接続される。供給孔25はインクタンクのインクをインク室27に供給する。
【0016】
排出孔26は、供給孔25及び一対のアクチュエータ部22を挟んで、二列に並んで設けられている。排出孔26は、マニホールド18のインク排出部に連通する。排出孔26は、インク排出部を介してインクタンクに接続される。排出孔26はインク室27のインクをインクタンクに排出する。
【0017】
一対のアクチュエータ部22は、基板21の実装面に接着される。一対のアクチュエータ部22は供給孔25を挟んで二列に並んで基板21に設けられている。各アクチュエータ部22は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成された板状の二つの圧電体によってそれぞれ形成される。前記二つの圧電体は、分極方向がその厚さ方向に互いに逆向きになるように貼り合わされる。アクチュエータ部22は、例えば熱硬化性を有するエポキシ系接着剤によって基板21の実装面に接着される。図2に示すように、アクチュエータ部22は、二列に並ぶノズル28に対応して、インク室27内において平行に並んで配置される。アクチュエータ部22は、インク室27を、供給孔25が開口する第1共通室271と、排出孔26が開口する二つの第2共通室272とに区切る。
【0018】
アクチュエータ部22は、短手方向の幅が頂部222側から基板側に向かって漸次大きくなる。アクチュエータ部22の長手方向に直交する方向(短手方向)に沿う断面形状は台形状に形成される。アクチュエータ部22の側面部221は、第2方向及び第3方向に対して傾斜する傾斜面を有する。アクチュエータ部22の頂部222は、ノズルプレート12に接着される。アクチュエータ部22は、複数の圧力室31と、複数の空気室32と、を備える。アクチュエータ部22は、複数の素子壁33(壁部)を有し、素子壁33の間に、圧力室31及び空気室32を構成する溝を有する。言い換えると、素子壁33は、圧力室31及び空気室32を形成する溝の間に駆動素子として形成される。
【0019】
図1乃至図5に示すように、溝の底面部と基板21の主面とは傾斜する側面部221によって繋がる。複数の圧力室31と複数の空気室32とは、交互に配置される。圧力室31および空気室32は、アクチュエータ部22の長手方向と交差する方向にそれぞれ延び、アクチュエータ部22の長手方向(X方向)において複数並列配置される。すなわち、複数の圧力室31及び空気室32の並び方向はX方向に沿う。本実施形態において例えば溝14は、X方向の幅寸法が、Z方向に沿う深さ方向において一定に構成され、延出方向であるY方向に直交する断面が矩形状に構成される。
【0020】
なお、圧力室31の形状と空気室32の形状とが異なっていても良い。素子壁33は、圧力室31と空気室32の間に形成され、駆動信号に応じて変形することで、圧力室31の容積を変化させる。
【0021】
アクチュエータベース11の圧力室31及び空気室32の内壁面にはそれぞれ電極層34が設けられている。電極層34は、例えばニッケル薄膜等の導電膜によって形成される。電極層34は溝の内面部から基板21上に至り、パターン配線211に接続される。例えば電極層34は、少なくとも素子壁33の側面部、すなわち圧力室31を構成する溝の側壁面に、形成されている。電極層34は例えば圧力室31の側面部及び底面部に形成されていてもよい。
【0022】
複数の圧力室31は、素子壁33の頂部222に接合されるノズルプレート12の複数のノズル28に連通する。圧力室31の第2方向の両端はインク室27に連通する。すなわち、一方の端部はインク室27の第1共通室271に開口し、他方の端部は、インク室27の第2共通室272に開口する。このため、圧力室31の一方の端部からインクが流入し、他方の端部からインクが流出する。圧力室31におけるインク室27との連通口には、圧力室31内部よりも流体抵抗が大きく構成された絞り口242を有する絞り部240が形成される。一例として本実施形態においては圧力室31の延出方向の両端の連通口に、それぞれ絞り部240が形成される。
【0023】
図4乃至図6に示すように、絞り部240は、圧力室31のインク室27に連通する開口部をX方向に狭める形状に構成される。一例として、絞り部240は、圧力室31の第2方向の端部において、素子壁33から溝内に突出する突起部241を有する。突起部241は、感光性樹脂で構成される。
【0024】
本実施形態において、X方向において圧力室31の両側部を構成する一対の素子壁33、すなわちX方向両側の素子壁33に、それぞれ感光性樹脂により構成される突起部241が形成される。
【0025】
例えば突起部241は圧力室31の溝の深さ方向である第3方向において全長に渡って形成されていてもよいし、第3方向における一部に形成されていてもよい。また、突起部241は、例えば溝の側面に加え溝の底面に感光性樹脂が形成されていてもよい。すなわち、両側の突起部241が溝の底部において連続する構成であってもよい。
【0026】
突起部241の、少なくともY方向における圧力室31の内側の面が、面取り形状またはR形状を有する案内面2411を構成する。案内面2411の面方向または案内面2411の接線方向は、素子壁33の表面に対して、90度未満で傾斜する。具体的には案内面2411は、流体の流れ方向となる圧力室31の延出方向に対して90度未満で傾斜する平面状の傾斜面、または延出方向に対して90度未満で傾斜する接線を有する曲面を構成する。案内面2411は、突起部241の表面のうち、Y方向における端面(側面)か、素子壁33から立ち上がる隅部か、突起部241の頂部2412側の角部か、これらのいずれかを含む部分である。
【0027】
本実施形態においては、複数の突起部241は、それぞれ、第2方向における両端、すなわち圧力室31の内側の端部と外部側の両側の側面に、案内面2411が形成される。案内面2411は、素子壁33の表面からそれぞれ突起の先端(頂部2412)に向かって、素子壁33の表面との傾斜角度が90度未満で、立ち上がる傾斜面である。具体的には、突起部241がX方向において素子壁33から立ち上がる端部から頂部2412側の端部に至る側面が、傾斜面を構成する。
【0028】
なお、傾斜面の傾斜角度は、例えばインク循環構造、あるいはインク非循環構造などの用途や各種設計条件に応じて設定される。例えば、圧力室31の各連通口の両側部にそれぞれ設けられる突起部241は、それぞれ第3方向に直交する断面が台形状に構成され、第3方向において一様の断面形状を有する。
【0029】
圧力室31を構成する溝は突起部241によって完全には覆われず、両側の一対の突起部241の間に、圧力室31と第1共通室271及び第2共通室272とを連通する絞り口242が形成される。絞り口242は圧力室の深さ方向となる第3方向に延びるスリット形状であり、その第1方向の開口幅が、圧力室31内部の第1方向の幅よりも小さく構成されていることにより、圧力室31の流路断面積より小さく構成されている。すなわち、突起部241によって第2方向両端の連通口が一部塞がれて流路抵抗が増加する絞り部240が形成される。例えば絞り部240は、圧力室31及び空気室32の内壁に感光性樹脂膜を形成した後、例えば素子壁33の頂部222側に露光マスクを配し、頂部222側から露光マスクを介して露光を行うことで、所望の位置の感光性樹脂を硬化させ、現像液で不要な未露光樹脂を洗い流すことで圧力室溝の出入口に絞り部240を形成する。
【0030】
なお、絞り部240の流体抵抗は、大きくしすぎると、インク滴吐出後の圧力室31へのインクの補給が遅くなり、高速化を阻害することになる。また、メニスカスの盛り上りは、インク粘度、吐出体積、駆動周波数などにより異なる。したがって、突起部241の形状、絞り部240の絞り口242の寸法や位置は、インク補給条件やメニスカスの盛り上がりの特性に応じた流路抵抗となるようそれぞれ設定される。なお、両側の絞り部240は異なる構成であってもよい。
【0031】
空気室32は第3方向における一方側が頂部222に接合されるノズルプレート12によって塞がれる。また複数の空気室32は例えば第2方向の両端がカバー部23により塞がれる。すなわち、インク室27の第1共通室271と空気室32の第2方向における一端側との間、及び第2共通室272と空気室32の第2方向における他端側との間にそれぞれカバー部23が配され、空気室32の両端はインク室27と隔てられている。このため、空気室32はインクが流入しない空気室を構成する。
【0032】
例えばカバー部23は空気室32の両端部に感光性樹脂を塗布した後、対象部位を硬化させて形成される。
【0033】
ノズルプレート12は、例えばポリイミド製の矩形のフィルムによって形成される。ノズルプレート12は、アクチュエータベース11の実装面に対向する。ノズルプレート12には、ノズルプレート12を厚さ方向に貫通する、複数のノズル28が形成される。
【0034】
複数のノズル28は、圧力室31と同数設けられ、圧力室31にそれぞれ対向して配置される。ノズル28は、第1方向に沿って複数並び、一対のアクチュエータ部22に対応して2列に配列される。各ノズル28はそれぞれ軸が第3方向に延びる筒状に構成される。例えばノズル28は径が一定であっても、中央部または先端部にかけて縮径する形状であってもよい。ノズル28は、一対のアクチュエータ部22に形成される圧力室31の延出方向の中途部に対向配置され、圧力室31にそれぞれ連通する。ノズル28は、各圧力室31の、両端部の間に対応する位置であって、例えば長手方向中央部に、1つずつ、配置される。
【0035】
フレーム13は、例えばニッケル合金によって矩形の枠状に形成される。フレーム13は、アクチュエータベース11の実装面とノズルプレート12との間に介在する。フレーム13は、アクチュエータベース11の実装面とノズルプレート12とにそれぞれ接着される。すなわち、ノズルプレート12は、フレーム13を介してアクチュエータベース11に取り付けられている。
【0036】
マニホールド18は、アクチュエータベース11のノズルプレート12とは反対側に接合される。マニホールド18の内部に、供給孔25に連通する流路であるインク供給部や排出孔26に連通する流路であるインク排出部が形成される。
【0037】
回路基板17は、フィルムキャリアパッケージ(FCP)である。回路基板17は、複数の配線が形成されるとともに、柔軟性を有する樹脂製のフィルム51と、フィルム51の複数の配線に接続されたIC52と、を有する。IC52はフィルム51の配線やパターン配線211を介して電極層34に電気的に接続される。
【0038】
以上のように構成されたインクジェットヘッド10の内部において、アクチュエータベース11と、ノズルプレート12と、フレーム13とに囲まれるインク室27が形成される。すなわち、インク室27は、アクチュエータベース11とノズルプレート12との間に形成される。例えばインク室27は、2つのアクチュエータ部22によって第2方向において3つの区間に仕切られ、排出孔26が開口する共通室としての二つの第2共通室272と、供給孔25が開口する共通室としての第1共通室271と、を有する。第1共通室271及び第2共通室272は、複数の圧力室31に連通している。
【0039】
以上のように構成されたインクジェットヘッド10において、供給孔、圧力室、及び排出孔を通って、インクはインクタンクとインク室27との間で循環する。例えばインクジェットプリンタの制御部から入力された信号によって駆動IC52がフィルム51の配線を介して圧力室31の電極層34に駆動電圧を印加することにより、圧力室31の電極層34と、空気室32の電極層34との間に電位差を生じさせることで、素子壁33を選択的にシェアモード変形させる。圧力室31と空気室32の間に形成された素子壁33を駆動信号に応じて変形することで、圧力室31の容積を変化させる。
【0040】
素子壁33がシェアモード変形することにより、当該電極層34が設けられた圧力室31の容積が増加し、圧力が減少する。これにより、当該圧力室31にインク室27のインクが流入する。
【0041】
圧力室31の容積が増加した状態で、IC52が圧力室31の電極層34に逆電位の駆動電圧を印加する。これにより、素子壁33がシェアモード変形して当該電極層34が設けられた圧力室31の容積が減少し、圧力が増加する。これにより、圧力室31の中のインクが加圧され、ノズル28から吐出される。
【0042】
インクジェットヘッド10の製造方法として、まず、板状の基板21に複数の溝を形成する圧電部材を接着剤等で貼り付け、ダイシングソーやスライサー等を使用した機械加工を施して所定形状の外形を有するアクチュエータベース11を成形する。なお、例えば予め複数枚分の厚さのブロック状のベース部材を形成してから分割し、所定形状のアクチュエータベース11を複数枚製造してもよい。
【0043】
続いて、圧力室31や空気室32を構成する溝の内面や基板21の表面に電極層34やパターン配線211を形成する。以上により、アクチュエータベース11の表面に、電極層34、及びパターン配線211が所定箇所にそれぞれ形成される。
【0044】
続いて、圧力室31の端部に圧力室31の内部よりも流路抵抗の大きい連通口である絞り部240を形成する。例えば絞り部240の形成方法は、圧力室31を構成する溝内に感光性樹脂の膜を成膜する成膜処理と、露光及び現像により膜を成形する成形処理と、を有する。
【0045】
具体的には、成膜処理として、圧力室31の内壁に、感光性樹脂を塗布して樹脂膜を成膜する。このとき、同時に、感光性樹脂によりカバー部23を所定箇所に形成することによって空気室32の両端を塞ぐ。以上により、圧力室31の両端部及び空気室32の両端部において、溝を構成する両側の素子壁33の表面と溝の底面に、樹脂膜が形成される。続いて、成形処理として、露光及び現像処理により圧力室31の両端部の樹脂膜を成形する。成形処理において、樹脂膜を形成したい領域が硬化される露光パターンを有するフォトマスクを重ね、例えば素子壁33が開口する素子壁33の頂面側から、圧力室31の深さ方向(第3方向)に、露光し、現像液で未硬化部の樹脂膜を除去する。このときの露光方向や露光の強さなどの条件は適宜設定される。一例として、圧力室31の深さ方向に露光方向を設定することで、両側の突起部241を同時に露光して成形できる。
【0046】
以上により、圧力室31の出入口に、樹脂膜による突起部241が形成され、両側の突起部241の間に絞り部240が形成される。
【0047】
なおカバー部23は、絞り部240を形成する前あるいは絞り部240が形成された後に形成してもよい。
【0048】
そして、アクチュエータベース11をマニホールド18に組み付け、アクチュエータベース11の基板21の一方の面に、熱可塑性樹脂の接着シートにより、フレーム13を貼付ける。
【0049】
そして、組立てられたフレーム13、アクチュエータ部22の素子壁33の頂部222、及び突起部241のノズルプレート12側の面が同一面となるよう研磨する。そして、素子壁33の頂部222、フレーム13、突起部241の研磨面にノズルプレート12を接着して取り付ける。このとき、圧力室31にノズル28が対向するように位置決めを行う。さらに、図1に示すように基板21の主面に形成されたパターン配線211に、フレキシブルプリント基板を介して駆動ICチップ52や回路基板17を接続することで、インクジェットヘッド10が完成する。
【0050】
以下に、インクジェットヘッド10を備えるインクジェットプリンタ100の一例について、図16を参照して説明する。インクジェットプリンタ100は、筐体111と、媒体供給部112と、画像形成部113と、媒体排出部114と、搬送装置115と、制御部116と、を備える。
【0051】
インクジェットプリンタ100は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る所定の搬送路Aに沿って、吐出対象物である記録媒体として例えば用紙Pを搬送しながらインク等の液体を吐出することで、用紙Pに画像形成処理を行う液体吐出装置である。
【0052】
筐体111は、インクジェットプリンタ100の外郭を構成する。筐体111の所定箇所に、用紙Pを外部に排出する排出口を備える。
【0053】
媒体供給部112は複数の給紙カセットを備え、各種サイズの用紙Pを複数枚積層して保持可能に構成される。
【0054】
媒体排出部114は、排出口から排出される用紙Pを保持可能に構成された排紙トレイを備える。
【0055】
画像形成部113は、用紙Pを支持する支持部117と、支持部117の上方に対向配置された複数のヘッドユニット130と、を備える。
【0056】
支持部117は、画像形成を行う所定領域にループ状に備えられる搬送ベルト118と、搬送ベルト118を裏側から支持する支持プレート119と、搬送ベルト118の裏側に備えられた複数のベルトローラ120と、を備える。
【0057】
支持部117は、画像形成の際に、搬送ベルト118の上面である保持面に用紙Pを支持するとともに、ベルトローラ120の回転によって所定のタイミングで搬送ベルト118を送ることにより、用紙Pを下流側へ搬送する。
【0058】
ヘッドユニット130は、複数(4色)のインクジェットヘッド10と、各インクジェットヘッド10上にそれぞれ搭載された液体タンクとしてのインクタンク132と、インクジェットヘッド10とインクタンク132とを接続する接続流路133と、循環部である循環ポンプ134と、を備える。ヘッドユニット130は、インクタンク132と、インクジェットヘッド10の内部に作りこまれた圧力室31、空気室32、及びインク室27において液体を常時循環させる循環型のヘッドユニットである。
【0059】
本実施形態において、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色のインクジェットヘッド10と、これらの各色のインクをそれぞれ収容するインクタンク132を備える。インクタンク132は接続流路133によってインクジェットヘッド10に接続される。接続流路133は、インクジェットヘッド10の供給口に接続される供給流路と、インクジェットヘッド10の排出口に接続される回収流路と、を備える。
【0060】
また、インクタンク132には、図示しないポンプなどの負圧制御装置が連結される。そして、インクジェットヘッド10とインクタンク132との水頭値に対応して、負圧制御装置はインクタンク132内を負圧制御することで、インクジェットヘッド10の各ノズル28に供給されたインクを所定形状のメニスカスを形成する。
【0061】
循環ポンプ134は、例えば圧電ポンプで構成される送液ポンプである。循環ポンプ134は、供給流路に設けられている。循環ポンプ134は、配線により制御部116の駆動回路に接続され、CPU(Central Processing Unit)による制御によって制御可能に構成される。循環ポンプ134は、インクジェットヘッド10とインクタンク132を含む循環流路で液体を循環させる。
【0062】
搬送装置115は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る搬送路Aに沿って、用紙Pを搬送する。搬送装置115は、搬送路Aに沿って配置される複数のガイドプレート対121と、複数の搬送用ローラ122と、を備えている。
【0063】
複数のガイドプレート対121は、それぞれ、搬送される用紙Pを挟んで対向配置される一対のプレート部材を備え、用紙Pを搬送路Aに沿って案内する。
【0064】
搬送用ローラ122は、制御部116の制御によって駆動されて回転することで、用紙Pを搬送路Aに沿って下流側に送る。なお、搬送路Aには用紙の搬送状況を検出するセンサが各所に配置される。
【0065】
制御部116は、コントローラであるCPU等の制御回路と、各種のプログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)と、各種の可変データや画像データなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、外部からのデータの入力及び外部へのデータの出力をするインターフェイス部と、を備える。
【0066】
以上のように構成されたインクジェットプリンタ100において、制御部116は、例えばインターフィースにおいてユーザが操作入力部の操作による印刷指示を検出すると、搬送装置115を駆動して用紙Pを搬送するとともに、所定のタイミングでヘッドユニット130に対して印字信号を出力することで、インクジェットヘッド10を駆動する。インクジェットヘッド10は吐出動作として、画像データに応じた画像信号により、ICに駆動信号を送り、配線を介して圧力室31の電極層34に駆動電圧を印加してアクチュエータ部22の素子壁33を選択的に駆動してノズル28からインクを吐出し、搬送ベルト118上に保持された用紙Pに画像を形成する。また、液体吐出動作として、制御部116は、循環ポンプ134を駆動することで、インクタンク132とインクジェットヘッド10とを通る循環流路で液体を循環させる。循環動作により、インクタンク132内のインクは、循環ポンプ134が駆動されることにより、インクタンク132のインクが、マニホールド18のインク供給部を通って、供給孔25からインク室27の第1共通室271に供給される。このインクは、一対のアクチュエータ部22の複数の圧力室31と、複数の空気室32とに供給される。インクは、圧力室31と空気室32とを通ってインク室27の第2共通室272に流入する。このインクは、排出孔26から、マニホールド18のインク排出部を通ってインクタンク132に排出される。
【0067】
上述した実施形態によれば圧力室31の出入口に絞りが形成されていることで、吐出安定性を向上できる。また、インクジェットヘッド10において、圧力室31の連通口に設けられた突起部241が、圧力室31内部側に傾斜又は湾曲する案内面を有するため、気泡Bの排出を促し、印字品質を向上できる。すなわち、流体抵抗を大きくする手段として圧力室の出入口に感光性樹脂を用いて直方体形状の絞り部を設けると、素子壁33と突起部241の角部に気泡Bが滞留し、高速駆動により気泡成長(キャビテーション)や圧力振動不具合による不吐出によって印字品質を低下させる可能性がある。しかしながら、上記突起部241のY方向の端面(側面)、角部、または隅部を、傾斜又は湾曲する案内面を有する構成とすることで、気泡Bの滞留を防止でき、印字品質を確保できる。
【0068】
なお、絞り部240は、圧力室31の共通室である第1共通室271や第2共通室272に開口する開口部が、圧力室31の流路断面積より小さい。このため、インクジェットヘッド10において液体吐出を行った際のメニスカスの盛り上がりが小さくなる。したがって、メニスカスの復帰が早くなり次弾への影響が軽減でき、吐出安定性が向上できる。
【0069】
図7は、絞り(絞り部240)を備えるインクジェットヘッド110の試験例1と、絞りを備えていないインクジェットヘッド1010の試験例2である。図8は、試験例1に係る絞りを有するインクジェットヘッド110の周波数特性を示し、図9は、比較例2としての絞りを備えないインクジェットヘッド1010の、周波数特性を示す。図8及び図9においてそれぞれノズルの吐出速度と、周波数との関係を、1drop、3dropの場合について、それぞれ示している。
【0070】
ここで、試験例1にかかるインクジェットヘッド110は、圧力室31の延出方向である第2方向の両側が共通室に連通するとともに、圧力室31の延出方向の中途部にノズル28が開口するサイドシュータ型である。また、試験例1は絞り部240の効果を示す例であり、試験例1の突起部241は案内面2411を有さない構成である。
【0071】
図9に示されるように試験例2に係るインクジェットヘッド1010においては、低周波領域では吐出速度はフラットであるが、周波数が高くなるにつれて吐出速度が減少傾向にあり、低周波領域と高周波領域で吐出速度に差異がある。試験例2に係るインクジェットヘッド1010の1dropにおいては、25kHzまでは、吐出速度はフラットであるが、25kHz以上で周波数が高くなるにつれて吐出速度が減少傾向である。また、試験例2に係るインクジェットヘッド1010の3dropにおいては、15kHzまでは、吐出速度はフラットであるが、15kHz以上で周波数が高くなるにつれて吐出速度が減少傾向である。したがって、印刷のパターンによって着弾位置にズレが生じる。このように吐出速度に差異が大きいと、メニスカスの盛り上りが収まるのに時間がかかり、印字品質低下を引き起こすため、高速駆動することができない。
【0072】
一方、図8に示すように、絞り部を有するインクジェットヘッド110では、1drop及び3drop共に吐出速度がフラットな傾向にある。これは、共通室からノズル間の流体抵抗が大きくなり、メニスカスの盛り上がりが小さくなるためである。
【0073】
また図10は圧力室に絞りを設けた試験例1と絞りを設けない試験例2のメニスカス復帰のシミュレーション結果を示している。図10によれば、ノズルのメニスカス状態は低周波の場合、インク滴を吐出してから次弾が吐出されるまでに十分な時間があり、絞り有無に関わらずメニスカスの復帰を待ってから安定状態で吐出が可能である。一方、高周波の場合、ドット(インク滴)を吐出してから次弾が吐出されるまでの時間が短いために、メニスカスの復帰前に次弾の吐出が始まる。このため、絞りを設けないインクジェットヘッド1010の場合には、吐出した後、メニスカスの盛り上がりが大きくなり、次弾の吐出までにメニスカス復帰できず、吐出速度が低下する。それに対して、絞りを設けた場合はメニスカスの盛り上がりが小さくなるため、メニスカスの復帰が早くなり次弾への影響が軽減できる。よってこれらのシミュレーション結果から、圧力室31と共通室との間に絞りを設けることでインクジェットヘッド110吐出安定性向上に繋がると言える。
【0074】
図11は試験例1としてのサイドシュータ型のインクジェットヘッド110と、インク出入口が一端でノズルが他端に形成された試験例3としてのシェアモードシェアードウォール式エンドシュータ型のインクジェットヘッド2010の、説明図である。
【0075】
図12乃至図15は試験例3としてのエンドシュータ型のインクジェットヘッド2010と、サイドシュータ型の試験例1のインクジェットヘッド110においてそれぞれ絞りを設けた場合の、シミュレーション特性比較した図である。図12は駆動波形、図13はノズル流速振動、図14は吐出体積、図15はメニスカスの復帰特性を、それぞれ示す。
【0076】
また、試験例3にかかるインクジェットヘッド2010は、圧力室31の延出方向である第2方向の一端側が共通室に連通し、他端部が閉じ、流路の端部にノズルが開口するエンドシュータ型とした。すなわち、インクジェットヘッド2010は第2方向の一方からノズル28に向けて流れる流路を構成する。
【0077】
試験例3としての片側から供給するエンドシュータ型のインクジェットヘッド2010と、両側供給のサイドシュータ型の試験例1としてのインクジェットヘッド110は、吐出体積、ノズル流速振動、メニスカス復帰特性を揃えた時の駆動電圧は両側供給のサイドシュータ型の構成が最も低いため、両側供給は片側供給に対して、駆動効率の観点から優位性が高いと言える。すなわち、圧力室の中央にノズルがあり、インクの出入口が両端にある、所謂サイドシュータ型のインクジェットヘッド110の方が、エンドシュータ型のインクジェットヘッド2010よりも吐出効率が優れている。
【0078】
また、上記実施形態によれば、アクチュエータ部22の溝に感光性樹脂膜を成膜し、露光処理によってパターニングすることで、絞り部240を形成することができ、工程が少なく、安価かつ容易に絞り部240を形成できる。さらに、露光及び現像により突起部241の厚みや形状を比較的自由に選択できるので、絞りの流体抵抗を自由に設計することも容易である。また、上記実施形態において、アクチュエータ部22の側面部221が傾斜面を構成することにより、露光方向の制約が少なく、露光及び現像処理が容易となる。
【0079】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0080】
上記実施形態において、流路抵抗を増加する絞り部240は、圧力室31の両側の素子壁33の壁面に形成された一対の突起部241を有する構成としたが、絞り部240の形状はこれに限られるものではない。例えば圧力室31の底部側の一部、あるいはノズルプレート12側の一部に形成される突起であってもよいし、圧力室31の底部側の領域を感光性樹脂によって一部埋める形状であってもよい。例えば絞り口242は圧力室の深さ方向となる第3方向に延びるスリット形状としたが、他の方向に延びていてもよく、あるいは円形や長円形を含む他の形状であってもよい。また、両側の絞り部240はそれぞれ異なる構成であってもよい。例えば、両側が共通室271、272に連通する圧力室31の少なくとも一方の連通口に、突起部241により絞り部240が形成されていることにより、吐出性能を改善し、安価かつ容易に絞り部240を形成できるという効果が得られる。
【0081】
また、カバー部23及び突起部241は圧力室31や空気室32を形成する溝の内側に形成され溝の一部を埋める形状としたが、これに限られるものではない。例えばアクチュエータの側面において、圧力室31や空気室32を形成する溝の外側に、空気室32を塞ぐカバー部23や圧力室31の連通口を一部塞ぐ例えば突起部241などの絞り部240を、形成してもよい。
【0082】
上記実施形態においては、基板21の主面部分に複数の溝を備えるアクチュエータ部22を配した例を示したが、これに限られるものではない。たとえば基板21の端面に、アクチュエータを備える構成であってもよい。また、ノズル列の数も上記実施形態に限られるものではなく、1列、あるいは3列以上備える構成としてもよい。
【0083】
また、上記実施形態においては、基板21に圧電部材からなる積層圧電体を備えたアクチュエータベース11を例示したが、これに限るものではない。例えば基板を用いずに圧電部材のみでアクチュエータベース11を形成しても良い。また、2枚の圧電部材を用いずに、1枚の圧電部材としてもよい。また空気室32は共通室である第1共通室271や第2共通室272に連通していてもよい。また供給側と排出側が逆であってもよく、あるいは切り替え可能に構成されていてもよい。
【0084】
また、上記実施形態においては、一例として、圧力室31の一方側が供給側であり、他方側が排出側であり、第1共通室流体が圧力室の一方側から流入して他方側から流出する循環型のインクジェットヘッドを例示したがこれに限られるものではない。例えば非循環型としてもよい。また、例えば圧力室31の両側の共通室が供給側であって、両側から流入する構成であってもよい。すなわち、圧力室31の両側から流体が流入し、圧力室31の中央に配置されるノズル28から流出する構成であってもよい。この場合にあっても、圧力室31の両側の入口となる連通口に絞り部240を設けることによって、流体抵抗が増加し、吐出効率が改善できる。また、両端にそれぞれ形成される絞り部240の構成が異なっていてもよい。
【0085】
また、上記実施形態において絞り部240を圧力室31の延出方向の両端にそれぞれ形成される例を示したが、これに限られるものではなく、圧力室31が両端の共通室271、272と連通する両側の出入口のうち、一方側のみに絞り部240が形成されていてもよい。例えば一方側の端部には圧力室31内部よりも流体抵抗が増加する絞り部240が形成され、他方側の端部は圧力室31内部と同じ流体抵抗、例えば圧力室31の内部の断面積と同じ連通口の断面積を有する構成であってもよい。
上記実施形態においては、圧力室31の両側がインク室に連通するサイドシュータ型を例示したが、これに限られるものではない。例えば、圧力室31の一方側のみがインク室27に連通するエンドシュータ型であってもよい。
【0086】
また上記実施形態においては、両側部にそれぞれ突起部241が形成される例を示したが、これに限られるものではない。例えば突起部241が一方側の素子壁33にのみ形成されていてもよい。
【0087】
図17は、第2実施形態にかかるインクジェットヘッド1001の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態において突起部241は、延出方向の両側ではなく、圧力室の内部側にのみ、案内面2411が形成される。その他の形状は上記実施形態と同様である。このような構造においても、突起部241の表面に湾曲または傾斜する案内面2411を有することにより、流体を案内することができ、気泡Bの滞留を抑制し、気泡Bの排出を促すことができる。
【0088】
図18は、第3実施形態にかかるインクジェットヘッド1002の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態は、圧力室31の両側から流体が供給される、いわゆる両側供給の構造である。その他の構成は上記第1実施形態と同様である。このような構造においても、突起部241の表面に湾曲または傾斜する案内面2411を有することにより、流体を案内することができ、気泡Bの滞留を抑制し、気泡Bの排出を促すことができる。
【0089】
図19は、第4実施形態にかかるインクジェットヘッド1003の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態は、圧力室31の両側から流体が供給される、いわゆる両側供給の構造であり、圧力室31の内側のみに、案内面2411が形成されている。その他の構成は上記第1実施形態乃至第3実施形態と同様である。このような構造においても、突起部241の表面に湾曲または傾斜する案内面2411を有することにより、流体を案内することができ、気泡Bの滞留を抑制し、気泡Bの排出を促すことができる。
【0090】
図20は、第5実施形態にかかるインクジェットヘッド1004の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態は、圧力室31の両側から流体が供給される、いわゆる両側供給の構造であり、圧力室31を形成する一対の素子壁33のうち、一方側にのみ、突起部241が形成され、他方側には突起部241が形成されない構成である。その他の構成は上記第3実施形態と同様である。このような構造においても、突起部241の表面に湾曲または傾斜する案内面2411を有することにより、流体を案内することができ、気泡Bの滞留を抑制し、気泡Bの排出を促すことができる。
【0091】
図21は、第6実施形態にかかるインクジェットヘッド1005の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態は、圧力室31の両側から流体が供給される、いわゆる両側供給の構造である。そして、各連通口において、圧力室31を形成する一対の素子壁33のうち、一方側にのみ、突起部241が形成される構成である。具体的には、延出方向一方側の連通口においては、並列方向一方側の素子壁33に突起部241が形成され、延出方向他方側の連通口においては、並列方向他方側の素子壁33に、突起部241が形成される。すなわち、両端において、対向する一対の素子壁33の反対側に、それぞれ突起部241が設けられる。その他の構成は上記第3実施形態と同様である。このような構造においても、突起部241の表面に湾曲または傾斜する案内面2411を有することにより、流体を案内することができ、気泡Bの滞留を抑制し、気泡Bの排出を促すことができる。
【0092】
図22は、第7実施形態にかかるインクジェットヘッド1006の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態は、圧力室の延出方向における一方側が共通室271に連通するとともに、他方側は閉塞される、あるいはノズルプレート12で覆われる、いわゆるエンドシュータ型のインクジェットヘッドである。本実施形態においては液体の吐出方向は延出方向(Y方向)となる。例えば本実施形態において、圧力室31の延出方向の他方の端部にはノズル28を有するノズルプレート12が設けられる。本実施形態において、流体が供給される連通口において、圧力室31を形成する一対の素子壁33にそれぞれ突起部241が形成される。その他の構成は上記第1実施形態と同様である。このような構造においても、突起部241の表面に湾曲または傾斜する案内面2411を有することにより、流体を案内することができ、気泡Bの滞留を抑制し、気泡Bの排出を促すことができる。また、エンドシュータ型のインクジェットヘッドの他の例として、例えば図11の比較例3のように圧力室31のY方向の他方側が閉塞され、ノズルプレート12が圧力室31のZ方向に対向配置されるインクジェットヘッドにおいて、突起部241の表面に、素子壁33に対して傾斜または湾曲する案内面2411を備える構成としてもよい。
【0093】
図23は、第8実施形態にかかるインクジェットヘッド1007の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態は、圧力室の延出方向における一方側が共通室271に連通する、いわゆるエンドシュータ型のインクジェットヘッドである。本実施形態においては液体の吐出方向は延出方向(Y方向)となる。例えば本実施形態において、圧力室31の延出方向の他方の端部にはノズル28を有するノズルプレート12が配置される。本実施形態において、流体が供給される連通口において、圧力室31を形成する一対の素子壁33のうち片側にのみ、突起部241が形成される。その他の構成は上記第7実施形態と同様である。このような構造においても、突起部241の表面に湾曲または傾斜する案内面2411を有することにより、流体を案内することができ、気泡Bの滞留を抑制し、気泡Bの排出を促すことができる。
【0094】
また、突起部241の形状は上記に限られるものではなく、適宜変更可能である。上記実施形態において案内面2411が傾斜している例を示したが、これに限られるものではなく、例えば図24及び図25に示すインクジェットヘッド1008、1009のように、突起部241の表面に湾曲面を有する構成であってもよい。また上記第1実施形態等では突起部241の頂部2412側の角に案内面2411が形成される例を示したが、これに代えて、あるいはこれに加えて、素子壁33側のコーナー部である隅部に、案内面2411が形成されていてもよい。また、角部や隅部のみでなく、各突起部241の表面全体が曲面状に構成されていてもよい。
【0095】
図24は、第9実施形態にかかるインクジェットヘッド1008の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態において、突起部241は、突起部241の頂部2412側の角に、案内面2411として湾曲面を有する。突起部241の頂部2412側の角における、案内面2411の接線方向が、延出方向に対して90度未満で傾斜する。
【0096】
図25は第10実施形態にかかるインクジェットヘッド1009の一部の構成及び流体の流れを示す説明図である。本実施形態において、突起部241は、素子壁33側のコーナー部である隅部に、案内面2411として湾曲面を有する。素子壁33側のコーナー部である隅部における、案内面2411の接線方向が、延出方向に対して、90度未満で傾斜する。1つの突起部241において、流体の流れ方向における一方の案内面2411が湾曲面を有し、他方の案内面2411が延出方向に対して、90度未満で傾斜して構成されていてもよい。
【0097】
上記実施形態において、圧力室31と空気室32が交互に並ぶシェアモードシェアードウォール式のインクジェットヘッド10を例示したが、これに限られるものではない。例えば空気室がない構成であってもよい。またシェアモードシェアウォール式に限らず、ピストン式などの他の方式にも、適用可能である。例えばこれらの態様にあっても、共通室と圧力室との連通口に、少なくとも圧力室の内側の表面に傾斜又は湾曲する案内面を有する絞り壁を備えることにより、上記実施形態と同様の効果が得られる。
また、例えば、吐出する液体は印字用のインクに限られるものではなく、例えばプリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出する装置等であってもよい。
【0098】
また、上記実施形態において、インクジェットヘッドは、インクジェットプリンタ等の液体吐出装置に用いられる例を示したが、これに限られるものではなく、例えば3Dプリンタ、産業用の製造機械、医療用途にも用いることが可能であり、小型軽量化及び低コスト化が可能である。
【0099】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、安定的な吐出特性を確保することができる液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供できる。
【0100】
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
10,1001~1009,1010…インクジェットヘッド、11…アクチュエータベース、12…ノズルプレート、13…フレーム、17…回路基板、18…マニホールド、21…基板、22…アクチュエータ部、23……カバー部、25…供給孔、26…排出孔、27…インク室、31…圧力室、32…空気室、33…素子壁(壁部)、34…電極層、51…フィルム、52…駆動ICチップ、100…インクジェットプリンタ、111…筐体、112…媒体供給部、113…画像形成部、114…媒体排出部、115…搬送装置、116…制御部、117…支持部、118…搬送ベルト、119…支持プレート、120…ベルトローラ、121…ガイドプレート対、122…搬送用ローラ、130…ヘッドユニット、132…インクタンク、133…接続流路、134…循環ポンプ、211…パターン配線、221…側面部、222…頂部、240…絞り部、241…突起部、2411…案内面、2412…頂部、242…絞り口、271…第1共通室、27…インク室、272…第2共通室。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25