(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173176
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】熱処理設備
(51)【国際特許分類】
F27B 5/04 20060101AFI20231130BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20231130BHJP
F27D 9/00 20060101ALI20231130BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20231130BHJP
C21D 1/74 20060101ALI20231130BHJP
C21D 1/76 20060101ALI20231130BHJP
F27B 5/12 20060101ALI20231130BHJP
C21D 1/773 20060101ALI20231130BHJP
F27D 3/06 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F27B5/04
F27D7/06 C
F27D9/00
C21D1/00 111
C21D1/74 P
C21D1/76 G
F27B5/12
C21D1/773 D
F27D3/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085242
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 康一郎
【テーマコード(参考)】
4K034
4K055
4K061
4K063
【Fターム(参考)】
4K034AA07
4K034AA11
4K034AA17
4K034AA19
4K034BA01
4K034CA05
4K034CA06
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034DB05
4K034DB06
4K034EA02
4K034GA01
4K034GA11
4K034GA12
4K034GA18
4K055AA06
4K055EA00
4K061AA01
4K061BA02
4K061CA21
4K061DA05
4K061EA10
4K061FA14
4K061GA02
4K061GA03
4K063AA05
4K063AA15
4K063BA02
4K063CA01
4K063CA06
4K063DA05
4K063DA06
4K063DA19
4K063DA24
4K063DA33
4K063DA34
4K063EA06
(57)【要約】
【課題】ブルーイング処理を含む一連の熱処理を被処理品に施すことができ、設備停止により炉内雰囲気の組成が変動した場合でも再立ち上げを短時間で行うことができる熱処理設備を提供する。
【解決手段】熱処理設備1は、(A)レール10に沿って配置され、真空排気口32を備えたバッチ式の熱処理チャンバであって、被処理品Wを加熱する加熱チャンバ12と、(B)熱処理チャンバであって、過熱水蒸気または酸化性ガスを炉内に供給する供給口34Bを備え、被処理品の表面に酸化膜を形成するブルーイング処理チャンバ14と、(C)被処理品Wを収容し被処理品Wを保温する保温チャンバ56と、加熱チャンバ12若しくはブルーイング処理チャンバ14と保温チャンバ56との間で被処理品Wを受渡しする受渡しチャンバ54と、を備えた搬送ユニット20と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)搬送軌道に沿って配置され、真空排気口を備えたバッチ式の熱処理チャンバであって、被処理品を加熱する加熱チャンバと、
(B)前記熱処理チャンバであって、過熱水蒸気または酸化性ガスを炉内に供給する供給口を備え、前記被処理品の表面に酸化膜を形成するブルーイング処理チャンバと、
(C)前記被処理品を収容し該被処理品を保温する保温チャンバと、前記加熱チャンバ若しくはブルーイング処理チャンバと前記保温チャンバとの間で前記被処理品を受渡しする受渡しチャンバと、を備えた搬送ユニットと、
を有する熱処理設備。
【請求項2】
前記ブルーイング処理チャンバは、過熱水蒸気と酸化性ガスのいずれかに切り替えて炉内に供給する切替機構を更に備えている、請求項1に記載の熱処理設備。
【請求項3】
前記熱処理チャンバであって、前記加熱チャンバで加熱された前記被処理品を所定温度にまで徐冷する徐冷チャンバを更に備えている、請求項1,2の何れかに記載の熱処理設備。
【請求項4】
前記熱処理チャンバであって、被処理品に付着した油分を蒸発させる脱脂チャンバを更に備えている、請求項1,2の何れかに記載の熱処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は被処理品に熱処理を行う熱処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、所定形状の電磁鋼板を曲げ加工等で所定の形に成形し製造される変圧器用のトランスコアの製造では、鉄損を回復させトランス性能の向上させる歪抜焼鈍や、鋼板表面に青色または黒色の四酸化三鉄(Fe3O4)の皮膜を作り、鋼板表面を保護するブルーイング処理が行われる。これらの処理は、もっぱら連続雰囲気炉を用いて実施されるのが一般的であった(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら上記のような連続雰囲気炉を用いた場合、以下の点が課題とされていた。
(1)連続雰囲気炉停止後の再立上げに際して雰囲気が処理に適した状態になるのに時間を要してしまう。(2)その為、熱処理を行わない場合にも炉内雰囲気を維持する為に、炉内温度と雰囲気を維持しておく必要がある。(3)よって、休日も保安要員の配置が必要となり、また炉内状態を維持するために余分なエネルギーを要してしまう。(4)また連続炉であることから各処理品重量に応じたヒートパターン設定を行う事が出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、ブルーイング処理を含む一連の熱処理を被処理品に施すことができ、設備停止により炉内雰囲気の組成が変動した場合でも再立ち上げを短時間で行うことができる熱処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而して本発明の熱処理設備は次のように規定される。即ち、
(A)搬送軌道に沿って配置され、真空排気口を備えたバッチ式の熱処理チャンバであって、被処理品を加熱する加熱チャンバと、
(B)前記熱処理チャンバであって、過熱水蒸気または酸化性ガスを炉内に供給する供給口を備え、前記被処理品の表面に酸化膜を形成するブルーイング処理チャンバと、
(C)前記被処理品を収容し該被処理品を保温する保温チャンバと、前記加熱チャンバ若しくはブルーイング処理チャンバと前記保温チャンバとの間で前記被処理品を受渡しする受渡しチャンバと、を備えた搬送ユニットと、
を有する。
【0007】
本発明の熱処理設備によれば、被処理品を、搬送ユニットを用いて複数のバッチ式の熱処理チャンバ内に、決められた順に搬送することにより、ブルーイング処理を含む一連の熱処理を被処理品に施すことができる。ここでバッチ式の各熱処理チャンバは、真空排気口を備えており、真空排気を通じて炉内雰囲気を短時間で処理に適した状態に入れ替えることができるため、一旦設備停止により炉内雰囲気の組成が変動した場合でも、その後の再立ち上げを短時間で行うことができる。このため従来の連続雰囲気炉の場合のように、熱処理を行わない場合に炉内雰囲気の状態を維持しておく必要なく、炉内雰囲気の状態を維持するためだけの無駄なエネルギー使用を削減できる。
【0008】
ここで、前記ブルーイング処理チャンバは、過熱水蒸気と酸化性ガスのいずれかに切り替えて炉内に供給する切替機構を更に備えるように構成することができる。
このようにすれば、過熱水蒸気によるブルーイング処理と、酸化性ガスによるブルーイング処理を簡便に切り替えることができる。
【0009】
また本発明の熱処理設備では、前記熱処理チャンバであって、前記加熱チャンバで加熱された前記被処理品を所定温度にまで徐冷する徐冷チャンバを更に備えるように構成することができる。
このようにすることで、加熱、徐冷、ブルーイング処理の順に熱処理を行なう、歪抜焼鈍とブルーイング処理とを含む一連の熱処理を効率良く実現することができる。
【0010】
また本発明の熱処理設備では、前記熱処理チャンバであって、被処理品に付着した油分を蒸発させる脱脂チャンバを更に備えるように構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の熱処理設備の全体構成を示した図である。
【
図2】同実施形態における加熱チャンバ及び搬送ユニットの内部構造を示した断面図である。
【
図3】同加熱チャンバ及び搬送ユニットの平面図である。
【
図5】同実施形態における受渡し機構の動作説明図である。
【
図6】同実施形態におけるブルーイング処理チャンバの内部構造を示した断面図である。
【
図7】同実施形態における熱処理の各工程を被処理品に対するヒートパターン及び圧力パターンとともに示した図である。
【
図8】脱脂チャンバを更に追加した熱処理設備の全体構成を示した図である。
【
図9】冷却チャンバを別途設けた変形例を示した図である。
【
図10】
図9の冷却チャンバの内部構造を示した断面図である。
【
図11】冷却チャンバを別途設けた、
図9とは異なる変形例を示した図である。
【
図12】冷却チャンバを別途設けた、
図9、
図11とは異なる変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図7は、本実施形態における熱処理の各工程を被処理品Wに対するヒートパターン及び圧力パターンとともに示したものである。
図7の例は、所定形状に加工された電磁鋼板を被処理品Wとし、かかる被処理品Wに対し歪抜焼鈍処理およびブルーイング処理を行なうもので、具体的には、加熱工程K1で被処理品Wを800℃まで加熱し、その後徐冷工程K3で所定温度(ここでは400℃)まで所定の温度勾配で徐冷し、かかる所定温度を保持した状態でブルーイング処理を行なう(ブルーイング処理工程K5)。これら加熱、徐冷、ブルーイングの各処理は、それぞれ別個のバッチ式の熱処理チャンバで行われる。なお、
図7で示すヒートパターンおよび圧力パターンは一例であり、必要に応じて適宜変更可能である。
【0013】
図1は本実施形態の熱処理設備1の概略全体構成を示している。同図において、10は図中左右方向に直線状に延設された搬送軌道たるレールで、このレール10に沿って複数のバッチ式の熱処理チャンバ(ここでは加熱チャンバ12、徐冷チャンバ13、ブルーイング処理チャンバ14)が、後述の開口部44(
図2参照)を同方向である図中上方に向けた状態で直線状に一列に配置されている。また、
図1中の左端には装入テーブル16が設けられ、同図中の右端には抽出テーブル18が設けられている。
【0014】
20は、レール10上を走行する搬送ユニットである。搬送ユニット20は、装入テーブル16上の被処理品Wを受け取ってレール10上を走行し、加熱チャンバ12に被処理品Wを装入する。
或いは加熱チャンバ12において加熱された後の被処理品Wを加熱チャンバ12から受け取ってレール10上を走行し、徐冷チャンバ13に被処理品Wを装入する。
或いは徐冷チャンバ13において徐冷された後の被処理品Wを徐冷チャンバ13から受け取ってレール10上を走行し、ブルーイング処理チャンバ14に被処理品Wを装入する。
また搬送ユニット20は、ブルーイング処理チャンバ14にてブルーイング処理された後の被処理品Wを受け取ってレール10上を走行し、これを抽出テーブル18へと搬送する。
【0015】
図2に、加熱チャンバ12及び搬送ユニット20の内部構造が示してある。
同図に示しているように加熱チャンバ12は、有底の円筒状とされた耐圧性の炉殻22と、その内部に配置された断熱材24とを有している。断熱材24は有底の円筒状の断熱壁25を構成している。そしてその断熱壁25は内側に処理室26を形成している。
この加熱チャンバ12には真空排気口32が設けられている。真空排気口32は図示を省略する真空ポンプに繋がっており、該真空排気口からチャンバ内の空気もしくは雰囲気ガスを吸引(排気)することによりチャンバ内(処理室26内)が真空状態(減圧状態)とされる。
【0016】
加熱チャンバ12にはまた、その内部に窒素ガス、水素等の還元性ガスの片方、もしくは双方を供給するための供給口34が設けられている。供給口34から供給された窒素ガスは、一旦ヘッダー36へと導かれ、更にこのヘッダー36に続く分岐管37及び分岐管37に設けられたノズル38から加熱チャンバ12内部、詳しくは断熱壁25内側の処理室26へと導入される。尚ここでは分岐管37に1つのノズル38が設けられているが、複数のノズル38を設けておいても良い。
【0017】
断熱壁25の内壁には加熱手段としてのヒータ28が設けられるとともに、断熱壁25には、処理室26内で供給された窒素ガスを撹拌させて対流させ、被処理品Wの昇温期においてその昇温を促進する対流加熱用のファン39と、これを回転させるモータ40とが設けられている。また断熱壁25には、モータ40を熱から保護するための水冷パネル41がモータ40近傍に設けられている。
【0018】
加熱チャンバ12には、開口部44を開閉する引戸式の扉42が設けられている。扉42はシリンダ46によってフランジ48内面を摺動し、閉状態で開口部44をゴムパッキンを介して気密にシールする。この扉42には板状の断熱材55が一体移動する状態に設けられており、この断熱材55によって円筒状の断熱壁25の開口部52が閉鎖される。
加熱チャンバ12においては、扉42の内面側にも、開口部44を気密にシールするゴムパッキンを熱から保護するための水冷パネル51が設けられている。
【0019】
以上、加熱チャンバ12についての構造を説明したが、他の熱処理チャンバである徐冷チャンバ13およびブルーイング処理チャンバ14も基本的に同様の構造である。このため徐冷チャンバ13およびブルーイング処理チャンバ14において、加熱チャンバ12と同様の部分については符号のみを示して詳しい説明は省略する。但し、徐冷チャンバ13においては、その内部に雰囲気ガスの温度を熱交換により低下させる熱交換器(図示省略)を備えている。
【0020】
図6は、同実施形態におけるブルーイング処理チャンバ14の内部構造を示した断面図である。ブルーイング処理チャンバ14では、被処理品Wの表面に酸化被膜を形成するブルーイング処理が行われる。ブルーイング処理チャンバ14の供給口34Bには、過熱水蒸気をチャンバ内に供給するための第1供給ライン140と、酸化性ガスとしての大気をチャンバ内に供給するための第2供給ライン145が接続されている。
【0021】
第1供給ライン140は、過熱水蒸気源144から供給口34Bに向けて延びており、その流路上に設けられた流量調整弁142および開閉弁141を含んで構成されている。
第2供給ライン145は、エアー供給源149から供給口34Bに向けて延びており、その流路上に設けられた流量調整弁147と開閉弁146を含んで構成されている。
これら供給ライン上に設けられた開閉弁141および146は、図示を省略する制御部によってその開閉動作が制御され、供給口34Bを通じて過熱水蒸気または大気が択一的にチャンバ内に供給される。即ち、開閉弁141および146は、過熱水蒸気と大気のいずれかに切り替えてチャンバ内にブルーイング処理のためのガスを供給する切替機構を構成する。
【0022】
図2において、搬送ユニット20は、レール10上を走行する走行台車90を有しており、更に走行台車90上において、後述の保温チャンバ56を受渡しチャンバ54とともにレール10と直交方向である
図2中左右方向に進退移動し、受渡しチャンバ54及び保温チャンバ56を加熱チャンバ12及び徐冷チャンバ13に対して連結及び連結解除させる連結台車92を有している。
94は、その連結台車92を
図2中左右方向に微小ストローク進退移動させるシリンダで、保温チャンバ56及び受渡しチャンバ54は、このシリンダ94によりローラ96の転動を伴って
図2中左右方向に進退移動せしめられる。
この実施形態では、これら連結台車92,ローラ96,シリンダ94等が進退移動手段を成している。
【0023】
搬送ユニット20は、加熱チャンバ12,徐冷チャンバ13,ブルーイング処理チャンバ14側の前部に受渡しチャンバ54を、反対側の後部に保温チャンバ56を、有している。
【0024】
受渡しチャンバ54は、耐圧性の角筒状の筒壁58を有しており、その内部に被処理品Wを収容する収容室60を形成している。この収容室60には受渡し機構62が設けられている。
受渡し機構62は、加熱チャンバ12等と後部の保温チャンバ56との間で被処理品Wを受渡しするもので、
図5に示しているようにフォーク部62Aと水平スライド部材62B,62Cとを有しており、それらを水平方向にスライドさせることによりフォーク部62Aにて被処理品Wを受渡しする。
【0025】
この受渡しチャンバ54には真空排気口63が設けられており、この真空排気口63が、
図3に示す真空ポンプ64に対して排気管66Aを通じて接続され、受渡しチャンバ54の内部が真空ポンプ64により真空排気されるようになっている。
排気管66上には電磁弁から成る開閉弁68Aが設けられており、開閉弁68Aの開閉によって、真空排気口63と真空ポンプ64とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0026】
受渡しチャンバ54にはまた、
図3に示しているように供給口70が設けられており、この供給口70を通じて窒素ガスが受渡しチャンバ54内に供給されるようになっている。
受渡しチャンバ54は、その前端即ち
図2中左端が扉を有しない開口部72とされている。受渡しチャンバ54にはこの開口部72周りに偏平な枠状パッキン74が設けられている。
受渡しチャンバ54は、この枠状パッキン74を加熱チャンバ12,徐冷チャンバ13およびブルーイング処理チャンバ14の外面に気密に接触させる状態に、加熱チャンバ12,徐冷チャンバ13およびブルーイング処理チャンバ14側への前進移動により、それら加熱チャンバ12,徐冷チャンバ13およびブルーイング処理チャンバ14にドッキングされる。
【0027】
他方、後者の保温チャンバ56は有底円筒状をなす耐圧性の炉殻76の内部に断熱材78を有しており、その断熱材78が断熱壁80を構成している。断熱壁80は内側に収容室82を形成しており、そこに被処理品Wを収容するようになっている。
収容室82には架台84が設けられている。収容室82内の被処理品Wは、その架台84上に載置されて支持される。
【0028】
この保温チャンバ56には、
図4に示しているようにその内部の雰囲気ガスを真空排気するための真空排気口86が設けられており、この真空排気口86が、
図3に示すように上記の真空ポンプ64に対して排気管66Bを通じ接続されている。
この排気管66B上には電磁バルブから成る開閉弁68Bが設けられており、開閉弁68Bの開閉動作によって真空排気口86と真空ポンプ64とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0029】
保温チャンバ56は、断熱壁80の内部に、被処理品Wを保温するための加熱手段としてのヒータ120が設けられている。そして保温チャンバ56には、断熱壁80の上部の開口104及び下部の開口106を開閉する断熱材製の扉110,112が設けられており、それらがシリンダ114,116にて開閉動作せしめられる。
【0030】
保温チャンバ56にはまた、冷却ガスとして窒素ガスを内部に供給する供給口88が炉殻76に設けられている。
またその内部には、供給された窒素ガスを水冷パイプ間に通すことで、熱交換により温度低下させる熱交換器98と、これにより冷却された窒素ガスを撹拌し、保温チャンバ56内で循環させる冷却ファン100と、これを回転させるモータ102とを有しており、それらが被処理品Wに対するガス冷却装置を構成している。
【0031】
このガス冷却装置では、冷却ファン100の回転により、温度低下した窒素ガスが断熱壁80の下部の開口106を通じ上向きに流れて被処理品Wに当り、これを冷却した後断熱壁80の上部の開口104より流出し、再び熱交換器98を通過してそこで温度低下せしめられる。そしてそのような循環流れを生じつつ被処理品Wを冷却処理する。なお、118は該冷却ファン100の過熱を防止するために開口104上に設けられた冷却水配管である。
【0032】
即ちこの実施形態では、保温チャンバ56に、被処理品Wを保温する保温機能と併せて冷却機能も備えられている。
【0033】
図2に示しているように、保温チャンバ56と受渡しチャンバ54との間、詳しくは保温チャンバ56の受渡しチャンバ54側の端部には開口部122が設けられており、この開口部122が、シリンダ124によってフランジ126内面を摺動する扉128によって開閉されるようになっている。
【0034】
前記の加熱チャンバ12におけるのと同様、この保温チャンバ56の扉128にもまた、断熱壁80の開口部129を開閉する板状の断熱材130が一体移動する状態に設けられており、また開口部122を気密にシールするゴムパッキンを熱から保護するための水冷パネル132が扉128に設けられている。
【0035】
次に、本実施形態における熱処理設備1を用いた一連の熱処理動作について、具体的に説明する。
先ず搬送ユニット20は、受渡しチャンバ54において受渡し機構62により装入テーブル16(
図1参照)上の被処理品Wを受け取り、これを受渡しチャンバ54内に収容する。その後、搬送ユニット20は加熱チャンバ12の位置まで移動し、被処理品Wを搬送する。
【0036】
その後、搬送ユニット20は、シリンダ94により受渡しチャンバ54を後部の保温チャンバ56とともに加熱チャンバ12側に微小距離前進移動させて、受渡しチャンバ54の先端の枠状パッキン74を加熱チャンバ12の外面に密着させる状態に、加熱チャンバ12に対しドッキングさせる。
【0037】
そして保温チャンバ56との間の扉128を閉鎖した状態で、真空ポンプ64により真空排気口63を通じて受渡しチャンバ54内部が真空排気され、受渡しチャンバ54内部が加熱チャンバ12と同程度の真空圧まで減圧される。
【0038】
受渡しチャンバ54内の圧力が加熱チャンバ12内の圧力と同程度の真空圧となったところで、加熱チャンバ12の扉42を開いて、受渡しチャンバ54内の被処理品Wを受渡し機構62により加熱チャンバ12内の処理室26に装入し、架台30上にセットする。
【0039】
被処理品Wが加熱チャンバ12内に装入されると、被処理品Wの加熱が開始され、
図7の加熱工程K1で示すように、被処理品Wは目標加熱温度である800℃まで昇温せしめられる。
【0040】
その際に昇温を促進するため、加熱チャンバ12内に窒素ガスが供給口34から供給されるとともに、対流ファン39が回転せしめられて、その対流ファン39による対流加熱とヒータ28による輻射熱とによって、被処理品Wが速やかに目標加熱温度の800℃まで昇温せしめられる。被処理品Wが800℃まで昇温したところで、加熱チャンバ12内部の窒素ガスが真空排気口32を通じて真空排気され、加熱チャンバ12内部が設定された真空圧(例えば10Pa)に減圧される。
【0041】
被処理品Wに対する加熱処理を終えたところで、一旦加熱チャンバ12から離れていた搬送ユニット20を再び加熱チャンバ12に向けて前進移動させ、受渡しチャンバ54を加熱チャンバ12に対しドッキングさせる。そして受渡しチャンバ54の内部と保温チャンバ56の内部とを真空ポンプ64により真空排気し、それらを真空圧とし、扉128を開く。
【0042】
その後に加熱チャンバ12の扉42を開いて、加熱チャンバ12内の加熱処理後の被処理品Wを受渡しチャンバ54内に移動させ、引続いてこれを受渡しチャンバ54から保温チャンバ56へと移動させて、被処理品Wを保温チャンバ56内に収容する。保温チャンバ56はヒータ120を通電させることにより800℃に予熱され、収容された被処理品Wは800℃に保持され、その間に搬送ユニット20は徐冷チャンバ13に移動する。
【0043】
続いて搬送ユニット20は、被処理品Wを徐冷チャンバ13に装入する。なお、熱処理チャンバ13,14と搬送ユニット20との間での被処理品Wの受渡し動作は、上述の加熱チャンバ12と搬送ユニット20との間での受渡し動作と同様であるため、以降の受渡し動作については詳しい説明は省略する。
【0044】
800℃で温度保持された被処理品Wを受けた徐冷チャンバ13は、被処理品Wに対し徐冷を行う。その際に、徐冷チャンバ13内は窒素ガスが供給口34から供給されるとともに、対流ファン39が回転せしめられて、その対流ファン39による対流伝熱によって、被処理品Wが次の目標温度(400℃)に向けて徐冷される。
【0045】
徐冷が終了すると、搬送ユニット20が徐冷チャンバ13から徐冷後の被処理品Wを取り出して、保温チャンバ56内に収容し、所定温度(400℃)で保温する。次に、搬送ユニット20は
図1中右方向に移動して、被処理品Wをブルーイング処理チャンバ14の前まで搬送し、続いてこれをブルーイング処理チャンバ14へと装入する。
【0046】
被処理品Wがブルーイング処理チャンバ14内に装入されると、被処理品Wを所定温度(400℃)に保持した状態で、
図6で示す第1供給ライン140の開閉弁141が開いて、真空状態の処理室26内に供給口34Bを通じて過熱水蒸気が導入され、被処理品Wにブルーイング処理が施される。なお、この例では被処理品Wの温度を400℃としたが、ブルーイング処理は300℃~450℃の範囲内で行うのが好ましい。また過熱水蒸気に代えて大気をチャンバ内に導入してブルーイング処理を行なうことも可能である。その際には、第1供給ライン140の開閉弁141を閉じて、第2供給ライン145の開閉弁146を開くことで、大気(エアー)をチャンバ内に導入することができる。
【0047】
ブルーイング処理が終了すると、搬送ユニット20がブルーイング処理チャンバ14から被処理品Wを取り出して、保温チャンバ56内に収容し、被処理品Wを冷却する。その際、
図4で示す供給口88より窒素ガスを導入し、チャンバ内を所定圧力に加圧して、ガス冷却手段たる熱交換器98に冷却水を通水するとともにファン100を回転させ、保温チャンバ56内のガスを同図に矢印で示したように、熱交換器98と被処理品Wに強制循環させ、被処理品Wをガス冷却する。
【0048】
そして冷却された被処理品Wは、
図1中右端の抽出テーブル18へと排出される。これにより被処理品Wの一連の熱処理が完了する。抽出テーブル18上に排出された被処理品Wは、続いて下流工程へと引き取られて行く。
【0049】
以上のように構成された本実施形態の熱処理設備1によれば、被処理品Wを、搬送ユニット20を用いて複数のバッチ式の熱処理チャンバ12,13,14内に、決められた順に搬送することにより、歪抜焼鈍とブルーイング処理を含む一連の熱処理を被処理品Wに施すことができる。
ここでバッチ式の各熱処理チャンバ12,13,14は、真空排気口32を備えており、真空排気を通じて炉内雰囲気を短時間で処理に適した状態に入れ替えることができるため、一旦設備停止により炉内雰囲気の組成が変動した場合でも、その後の再立ち上げを短時間で行うことができる。このため従来の連続雰囲気炉の場合のように、熱処理を行わない場合に炉内雰囲気の状態を維持しておく必要なく、炉内雰囲気の状態を維持するためだけの無駄なエネルギー使用を削減できる。
【0050】
本実施形態の熱処理設備1では、ブルーイング処理チャンバ14が、過熱水蒸気と大気のいずれかに切り替えて炉内に供給する切替機構(開閉弁141,146)を備えており、過熱水蒸気によるブルーイング処理と、大気によるブルーイング処理を簡便に切り替えることができる。
【0051】
次に、
図8に基づいて、脱脂チャンバを更に追加した変形例について説明する。この例では、加熱チャンバ12、徐冷チャンバ13、ブルーイング処理チャンバ14に加えて、脱脂チャンバ11がレール10に沿って配置されている。脱脂チャンバ11の構造は、上述の加熱チャンバ12と基本的に同様である。
この例では、装入テーブル16上の被処理品Wは、搬送ユニット20により先ず脱脂チャンバ11に装入される。脱脂チャンバ11に装入された被処理品Wは、真空下で脱脂可能な温度(300~500℃)に加熱され、被処理品Wに付着していたオイルを蒸発させることができる。なおオイルの蒸気は脱気用の配管を通じて外部に排出され、必要に応じてコールドトラップで捕集される。このようにすることで、上流側の製造工程において被処理品Wに付着した油分を歪抜焼鈍に先立って除去しておくことができる。
【0052】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
例えば上記実施形態では、加熱処理とブルーイング処理との間に実施する徐冷の処理を、専用の徐冷チャンバを用いて実施したが、搬送ユニット20内の保温チャンバ56を用いて徐冷を実施することも可能である。また加熱チャンバ、ブルーイング処理チャンバ等の熱処理チャンバの数は適宜変更可能である。またブルーイング処理チャンバにおける加熱手段としてラジアントチューブバーナを用い、ラジアントチューブバーナの排ガス中の水蒸気をブルーイング処理チャンバに対する過熱水蒸気源として使用することも可能である。またブルーイング処理後の冷却については窒素に代えて大気を用いて冷却する事も可能である。またモータコアの熱処理に本発明の熱処理設備を用いることも可能である。
【0053】
また上記実施形態は、ブルーイング処理後の冷却に搬送ユニット20内の保温チャンバ56を用いた例であったが、多数のチャンバで同時処理を実施する場合に保温チャンバ56をブルーイング処理後の冷却に用いると、再昇温に時間やエネルギーを要することとなり非効率である。このような場合には、搬送ユニット20とは別途に冷却用のチャンバを設けることが望ましい。例えば、
図9で示すように、冷却チャンバ15および抽出テーブル18を、受渡し機構62を介してブルーイング処理チャンバ14と直列に接続し、ブルーイング処理が終了した被処理品Wを冷却チャンバ15内に収容し冷却するように構成することも可能である。
図10は、冷却チャンバ15の内部構造を示した図である。冷却チャンバ15は、その内部に、窒素ガス(雰囲気ガス)を熱交換により温度低下させる熱交換器98(
図4で示されたものと同様である)と、冷却された窒素ガスを撹拌し、チャンバ内で循環させる冷却ファン100と、これを回転させるモータ102と、を設けて、被処理品Wに対するガス冷却装置を構成している。すなわち、冷却チャンバ15は、被処理品Wの装入・抽出方向、走行機構、加熱手段が不要な点を除いて上述の搬送ユニット20と基本的に同様の構造とすることができる。
図10において搬送ユニット20と同様の部分については、符号のみ示して詳しい説明は省略する。
なお、冷却チャンバ15の構造は、被処理品Wの抽出方向を除いて上述の加熱チャンバ12や徐冷チャンバ13と基本的に同様とすることも可能である。
【0054】
また、
図11で示すように、レール10上に搬送ユニット20とは別途に、第2搬送ユニット20Bを設け、第2搬送ユニット20B内の保温チャンバ56Bをブルーイング処理後の冷却を担う冷却専用チャンバとすることも可能である。この場合、保温チャンバ56Bの構造は、上述の保温チャンバ56と同様とすることができ、さらには加熱手段を不要とするのが好ましい。
また、
図12で示すように、冷却チャンバ15をレール10に沿って配置して、ブルーイング処理が終了した被処理品Wを冷却チャンバ15内に収容し冷却するように構成することも可能である。また、
図12の変形例において、上述の第2搬送ユニット20Bを併用することも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 熱処理装置(搬送軌道)
10 レール
11 脱脂チャンバ(熱処理チャンバ)
12 加熱チャンバ(熱処理チャンバ)
13 徐冷チャンバ(熱処理チャンバ)
14 ブルーイング処理チャンバ(熱処理チャンバ)
20 搬送ユニット
32 真空排気口
34,34B 供給口
54 受渡しチャンバ
56 保温チャンバ
141,146 開閉弁(切替機構)
W 被処理品