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  • 特開-ワイヤーハーネス 図1
  • 特開-ワイヤーハーネス 図2
  • 特開-ワイヤーハーネス 図3
  • 特開-ワイヤーハーネス 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173179
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/04 20060101AFI20231130BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20231130BHJP
   F16L 57/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H02G3/04 068
H01B7/00 301
F16L57/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085247
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 翔太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 昌久
【テーマコード(参考)】
3H024
5G309
5G357
【Fターム(参考)】
3H024AA04
3H024AB06
3H024AC03
5G309AA09
5G357DA03
5G357DB03
5G357DD01
5G357DD05
5G357DD10
5G357DE08
(57)【要約】
【課題】耐熱性を向上させつつコストを抑えられ、放熱効果に優れるワイヤーハーネスを提供すること。
【解決手段】ワイヤーハーネス1は、電線11と、該電線11が挿通された筒状の外装部材12とを含み、前記外装部材12は、相対温度指数RTI2が150℃以上である樹脂を含む内層121と、相対温度指数RTI2が130℃以上150℃未満である樹脂を含む外層122とを含み(ここで、前記相対温度指数RTI2は、樹脂の高温環境暴露試験を実施した際に、10,000時間後の機械的強度の保持率が50%となる環境温度である。)、前記電線および前記外装部材の軸方向と垂直方向における断面について、前記電線の径方向における、前記電線の外周部と前記外装部材の内周部との間の距離Dが0.4mm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と、該電線が挿通された筒状の外装部材とを含み、
前記外装部材は、相対温度指数RTI2が150℃以上である樹脂を含む内層と、相対温度指数RTI2が130℃以上150℃未満である樹脂を含む外層とを含み(ここで、前記相対温度指数RTI2は、樹脂の高温環境暴露試験を実施した際に、10,000時間後の機械的強度の保持率が50%となる環境温度である。)、
前記電線および前記外装部材の軸方向と垂直方向における断面について、前記電線の径方向における、前記電線の外周部と前記外装部材の内周部との間の距離Dが0.4mm以下である、
ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記相対温度指数RTI2が150℃以上である樹脂が、ポリフェニレンサルファイドまたはポリアミド46であり、前記相対温度指数RTI2が130℃以上150℃未満である樹脂が、ポリプロピレン、ポリアミド6またはポリアミド66である、
請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記距離Dが0.3mm以下である、
請求項1または2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記外装部材は、前記内層と前記外層との間に、さらに、オレフィン系エラストマーまたはスチレン系エラストマーを含む中間層を含む、
請求項1または2に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(A)ポリアミド樹脂、(B)メラミンシアヌレート、(C)銅化合物を含むポリアミド樹脂組成物が記載されている。ここで、(A)ポリアミド樹脂は、(A-1)ポリアミド66樹脂、(A-2)ポリアミド6樹脂、(A-3)ポリアミド66/6樹脂から選ばれる2種以上を含む混合物であって、(A)ポリアミド樹脂中のカプロラクタム由来のユニットの含有量が10~40質量%であり、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対する(B)メラミンシアヌレートの含有量が1~3質量%であり、ポリアミド樹脂組成物全量に対する(C)銅化合物の含有量が銅元素として20~100ppmである。また、JIS K7201に準拠して測定した酸素指数は25以上である。さらに、特許文献1には、上記ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-197646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電線と、電線の外側に設けられた外装部材を有するワイヤーハーネスにおいて、上述したようなポリアミド樹脂組成物を用いて外装部材を作製すると、耐熱性および耐久性に劣るという問題がある。一方、耐熱性を向上させるために、エンプラ系の材料を用いると、コストが増加するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、耐熱性を向上させつつコストを抑えられ、放熱効果に優れるワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るワイヤーハーネスは、電線と、該電線が挿通された筒状の外装部材とを含み、上記外装部材は、相対温度指数RTI2が150℃以上である樹脂を含む内層と、相対温度指数RTI2が130℃以上150℃未満である樹脂を含む外層とを含み(ここで、上記相対温度指数RTI2は、樹脂の高温環境暴露試験を実施した際に、10,000時間後の機械的強度の保持率が50%となる環境温度である。)、上記電線および上記外装部材の軸方向と垂直方向における断面について、上記電線の径方向における、上記電線の外周部と上記外装部材の内周部との間の距離Dが0.4mm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るワイヤーハーネスは、耐熱性を向上させつつコストを抑えられ、放熱効果に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るワイヤーハーネスを説明するための図である。
図2図2は、実施形態に係るワイヤーハーネスを説明するための図である。
図3図3は、他の実施形態に係るワイヤーハーネスを説明するための図である。
図4図4は、実施例1-1について、ワイヤーハーネスの軸方向と垂直方向における断面での温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係るワイヤーハーネスを図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記実施形態により本発明が限定されるものではない。すなわち、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれ、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0010】
[実施形態]
図1および図2は、実施形態に係るワイヤーハーネスを説明するための図である。具体的には、図1は、ワイヤーハーネス(電線および外装部材)の軸方向に沿った断面図(軸方向に沿って電線の中心軸線を通るように切断した断面図)を示している。また、図2は、ワイヤーハーネス(電線および外装部材)の軸方向と垂直な方向の断面図を示している。ワイヤーハーネス1は、電線11と、外装部材12とを含む。
【0011】
電線11は、導体と、導体の外周に設けられた絶縁層とを有し、例えば、導体の断面積の大きさは50sqである。外装部材12は、筒状であり、内方の空間に電線11が挿通されている。外装部材12は、例えば、自動車等の車両に配策される電線11を、車体等の周辺部品から保護するコルゲートチューブである。この場合、コルゲートチューブは、電線のコネクタ接続箇所等を除く全体に必要とされる本数が設けられていてもよい。または、周辺部品からの保護を必要とする部分に、必要とされる本数が設けられていてもよい。外装部材12は、具体的には、外周面側で凹ませた環状凹部12Aと、外周面側で突出させた環状凸部12Bとが同心上で筒軸方向に沿って交互に連なって形成されている。すなわち、複数の円環状の環状凹部12Aと複数の円環状の環状凸部12Bとが、略円筒状でかつ蛇腹状の成形体を形成している。環状凹部12Aと環状凸部12Bとのピッチは、放熱効果および柔軟性の観点から、3.5mm以下であることが好ましい。なお、図2は、環状凹部12Aでの断面図を示している。
【0012】
外装部材12は、内層121と外層122とを含む。外装部材の内層の内側は、電線に近いため、内層は高い耐熱性が必要である。一方、外装部材の外層の外側は、外気と接し放熱されるため、外層は、内層ほど高い耐熱性を有していなくてもよい。したがって、内層121は、相対温度指数RTI2が150℃以上である樹脂を含み、外層122は、相対温度指数RTI2が130℃以上150℃未満である樹脂を含む。ここで、相対温度指数RTI2は、樹脂の高温環境暴露試験を実施した際に、10,000時間後の機械的強度の保持率が50%となる環境温度である。具体的には、高温環境暴露試験は、10,000時間、大気中、一定の温度で樹脂を暴露して行う。相対温度指数RTI2は、機械的強度が初期の値の50%に低下するときの当該一定の温度で表示する。ここで、機械的強度は、JIS K 7226“プラスチック-長期熱暴露後の時間-温度限界の求め方”およびJIS K 7127“プラスチック-引張特性の試験方法-第3部:フィルム及びシートの試験条件”に準拠して求めることができる。実際には、10℃半減則により求めることができる。このように、外装部材において、高耐熱樹脂を含む内層と、汎用のエンプラ系樹脂を含む外層との2層構造を採用したため、実施形態に係るワイヤーハーネスでは、耐熱性を向上させつつコストを抑えることができる。
【0013】
内層121に含まれる樹脂、すなわち相対温度指数RTI2が150℃以上である樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド46(PA46)が挙げられる。内層121に含まれる樹脂は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、外層122に含まれる樹脂、すなわち相対温度指数RTI2が130℃以上150℃未満である樹脂としては、耐摩耗性に優れ着色も可能であることから、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド6(PA6)またはポリアミド66(PA66)が好適に用いられる。外層122に含まれる樹脂は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ここで、表1に各樹脂の耐熱性を示す。なお、RTIは、UL 746Bの相対温度指数(RTI:Relative thermal index)である。
【0015】
【表1】
【0016】
また、内層121の厚さは、外層122の厚さの1.0倍以上4.0倍以下であることが好ましい。
【0017】
また、図2に示すように、ワイヤーハーネス(電線および外装部材)の軸方向と垂直方向における断面では、電線11および外装部材12はそれぞれ略円形で表され、電線11および外装部材12は同心円状に配置されている。このワイヤーハーネス(電線および外装部材)の軸方向と垂直方向における断面について、電線11の径方向における、電線11の外周部と外装部材12の内周部との間の距離Dは0.4mm以下であり、0.3mm以下であることが好ましい。いいかえると、距離Dは0.0mm以上0.4mm以下であり、0.0mm以上0.3mm以下であることが好ましい。距離Dが上記範囲にあると、放熱効果が向上できる。なお、より具体的には、図1に示すように、距離Dは、電線11の径方向における、電線11の外周部と外装部材12の環状凹部12Aでの内周部との距離である。
【0018】
ところで、電線と外装部材とを含む従来のワイヤーハーネスでは、製造時における電線の通し作業空間を確保するため、電線と外装部材との距離が大きい。このため、従来のワイヤーハーネスは、熱伝導が悪く放熱効果が劣っており、高温下で、大電流、高電圧の配策電線を保護できない。一方、実施形態に係るワイヤーハーネスでは、電線と特定の2層構造を有する外装部材との距離を小さくして、電線と外装部材とを極力密着させている。このため、実施形態に係るワイヤーハーネスは、放熱効果が改善されており、高温下で、大電流、高電圧の配策電線も十分保護可能である。
【0019】
また、従来に比較して電線は細径化してきている。細径化した電線では、流す電流が変わらないことから、発熱温度が上昇して、外装部材が受ける発熱が高くなる。実施形態に係るワイヤーハーネスでは、電線と特定の2層構造を有する外装部材との距離を小さくしているため、細径化した電線が用いられていたとしても、放熱効果を十分発揮できる。また、細径化した電線を用いると、その周囲の外装部材も細径化されることになるため、結果としてワイヤーハーネスの軽量化、コストダウンも達成できる。
【0020】
実施形態に係るワイヤーハーネスは、一体成形により製造可能である。具体的には、クロスヘッドダイを使用して、ダイス内から電線11を通し、その上から外装部材12を成形することができる。この製造方法によれば、電線11の外周部と外装部材12の内周部との間の距離Dを、上記範囲に調整できる。
【0021】
図3は、他の実施形態に係るワイヤーハーネスを説明するための図である。具体的には、図3は、ワイヤーハーネス(電線および外装部材)の軸方向に沿った断面図(軸方向に沿って電線の中心軸線を通るように切断した断面図)を示している。他の実施形態では、外装部材12は、内層121と外層122との間に、さらに、オレフィン系エラストマーまたはスチレン系エラストマーを含む中間層123を含む点が、上述した実施形態とは異なっており、その他の点は上述した実施形態と同様である。中間層123を設けることにより、耐衝撃性を向上できる。また、中間層123の厚さは、外層122の厚さの1.0倍以上4.0倍以下であることが好ましい。
【0022】
[実施例]
[実施例1-1]
クロスヘッドダイを使用して、ダイス内から電線11(規格…JASO D 625-5 第5部:高圧銅電線、品種…表-1 耐熱クラス150℃/電気自動車用架橋高耐熱ポリエチレン絶縁高圧電線(EEHX)、サイズ…表-13 50sq 電線外径 標準 13.1mm)を通し、その上から外装部材12を成形し、ワイヤーハーネス1を作製した(図1図2)。内層121の材料としてポリフェニレンサルファイド(PPS)、外層122の材料としてポリアミド6(PA6)を用いた。
外装部材12の内径DI(環状凹部12Aでの内径)、外装部材12の外径DO(環状凸部12Bでの外径)、外装部材12のピッチ、距離Dは、表2のとおりであった。
【0023】
[実施例1-2~1-4]
外装部材12の内径DI、外装部材12の外径DO、外装部材12のピッチ、距離Dを表2の数値に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、ワイヤーハーネス1を作製した。
【0024】
[比較例1-1~1-2]
外装部材12の内径DI、外装部材12の外径DO、外装部材12のピッチ、距離Dを表2の数値に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、ワイヤーハーネスを作製した。
【0025】
[評価方法および評価結果]
<通電試験>
実施例または比較例で作製したワイヤーハーネスについて、通電電流400A、周囲温度70℃として、電線に通電した。通電後、電線、外装部材の内周部(環状凹部での内周部)、外装部材の外周部(環状凸部での外周部)について、最大温度を測定した。
その結果を表2に示す。外装部材の内周部における最大温度が150℃以下の場合は、放熱効果が優れており、外装部材の内周部における最大温度が150℃を超える場合は、放熱効果が劣ると言える。
なお、表2には、電線、外装部材の内周部(環状凹部での内周部)について、周囲温度70℃と最大温度との差異(上昇値)を併せて示した。
また、図4には、実施例1-1について、ワイヤーハーネス(電線および外装部材)の軸方向と垂直方向における断面での温度分布を示す。
また、実施例1-1において、内層121の材料としてPPSの代わりに、ポリアミド46(PA46)を用いた場合も、実施例1-1と同様の結果が得られた。また、外層122の材料としてPA6の代わりに、ポリプロピレン(PP)またはポリアミド66(PA66)を用いた場合も、実施例1-1と同様の結果が得られた。さらに、実施例1-2~1-4において、内層121の材料としてPA46を用いた場合や外層122の材料としてPPまたはPA66を用いた場合も、実施例1-2~1-4と同様の結果が得られた。
【0026】
【表2】
【0027】
[実施例2-1]
実施例1-1と同様にして、ワイヤーハーネス1を作製した(図1図2)。外層122の厚さに対して、内層121の厚さは1.0~4.0倍であった。
外装部材12の内径(環状凹部12Aでの内径)、外装部材12のピッチ、距離Dは、表2の実施例1-1と同じであった。
【0028】
[実施例2-2]
外装部材12において、さらに中間層123を設けた以外は、実施例2-1と同様にしてワイヤーハーネス100を作製した(図3)。中間層123の材料としてオレフィン系エラストマーを用いた。外層122の厚さおよび内層121の厚さは等しく、外層122の厚さに対して、中間層123の厚さは1.0~4.0倍であった。
外装部材12の内径(環状凹部12Aでの内径)、外装部材12のピッチ、距離Dは、表2の実施例1-1と同じであった。
【0029】
[評価方法および評価結果]
<衝撃試験>
実施例で得られたワイヤーハーネスについて、衝撃試験を行った。衝撃試験(静的)では、圧縮試験機/JIS B 7721で先端が90°の試験治具で試験片を押し潰した場合に、試験片が破断するときの最大荷重を記載した。また、衝撃試験(動的)では、圧縮試験機/JIS B 7721で先端が90°の試験治具に錘を取り付け、1000mmの高さから落下させ、試験片が破断するときの錘の重さを記載した。その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
実施例2-1、2-2で作製したワイヤーハーネスについて、<通電試験>も行った。実施例2-1、2-2ともに、外装部材の内周部における最大温度は150℃以下であった。また、実施例2-2において、中間層123の材料としてオレフィン系エラストマーの代わりに、スチレン系エラストマーを用いた場合も、実施例2-2と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0032】
1、100 ワイヤーハーネス
11 電線
12 外装部材
121 内層
122 外層
123 中間層
図1
図2
図3
図4