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特開2023-173198表面処理剤及びその製造方法、エラストマー物品、並びに表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173198
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】表面処理剤及びその製造方法、エラストマー物品、並びに表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20231130BHJP
   C08J 7/02 20060101ALI20231130BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20231130BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C08J7/02 CEQ
C08J7/02 CEW
C08J7/04 Z CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085282
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】青海 雄太
【テーマコード(参考)】
4F006
4F073
4H020
【Fターム(参考)】
4F006AA04
4F006AA14
4F006AA18
4F006AB13
4F006AB64
4F006AB67
4F006BA11
4F006BA12
4F006DA04
4F073AA02
4F073AA32
4F073BA04
4F073BA09
4F073BA15
4F073BA33
4F073BB01
4F073EA16
4F073EA36
4F073EA64
4F073EA65
4H020BA36
(57)【要約】
【課題】ゴム等のエラストマー表面に対し、非粘着性を有し、かつゴム等の伸縮に対する追従性が良好な表面処理層を形成することのできる表面処理剤及びその製造方法、表面処理方法、並びにそのような表面処理層を有するエラストマー物品を提供する。
【解決手段】表面処理剤は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤及び酸触媒を含有する。

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるフッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤及び酸触媒を含有することを特徴とする表面処理剤。
【化1】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【請求項2】
前記シランカップリング剤が、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記酸触媒が、有機酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記酸触媒が、酢酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記変性ポリオレフィン系樹脂が、酸変性ポリオレフィン系樹脂又は水酸基変性ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記式(1)において、yが0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項7】
前記式(1)において、Rで表されるフルオロアルキル基を含有する基が、下記式(2)で表される基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【化2】

上記式(2)中、pは0~2の整数である。
【請求項8】
前記式(1)において、Rは、メチル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項9】
前記式(1)において、xが1~10の整数であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項10】
エラストマー表面に対する表面処理に使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の表面処理剤の製造方法であって、
前記フッ素含有化合物、前記変性ポリオレフィン系樹脂及び前記シランカップリング剤を、前記酸触媒の存在下で、10分以上攪拌する工程を含むことを特徴とする表面処理剤の製造方法。
【請求項12】
エラストマー表面を有する基部と、
前記基部の前記エラストマー表面の少なくとも一部を被覆する表面処理層と
を備え、
前記表面処理層は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と変性ポリオレフィン系樹脂とを少なくとも含むことを特徴とするエラストマー物品。
【化3】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の表面処理剤を用いて被処理基材の表面処理を行う表面処理方法であって、
前記表面処理剤に前記被処理基材を浸漬させることにより、前記被処理基材の表面に表面処理層を形成する工程を含むことを特徴とする表面処理方法。
【請求項14】
前記表面処理剤に前記被処理基材を3分以上浸漬させることを特徴とする請求項13に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤及びその製造方法、エラストマー物品、並びに表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種のフッ素系化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、非粘着性、防汚性等の表面特性を付与し得ることが知られている。このようなフッ素系化合物を含む表面処理剤により形成される表面処理層は、防汚層等の機能性薄膜として、例えば、ガラス、プラスチック、繊維、建築部材等の多種多様な基材に設けられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-196432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記フッ素系化合物を用いて、ゴム等のエラストマーに表面処理を施し、当該エラストマー表面に撥水性等の表面特性を付与するとともに、当該エラストマーの表面における非粘着性を向上させることが求められている。一方で、上記フッ素系化合物を用いた表面処理層に、エラストマーの伸縮に伴ってクラックが発生することがあるという問題がある。そのため、エラストマー表面の非粘着性を向上させ得るとともに、追従性も有する表面処理層を形成可能な表面処理剤が望まれている。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ゴム等のエラストマー表面に対し、非粘着性を有し、かつゴム等の伸縮に対する追従性が良好な表面処理層を形成することのできる表面処理剤及びその製造方法、表面処理方法、並びにそのような表面処理層を有するエラストマー物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤及び酸触媒を含有することを特徴とする表面処理剤を提供する。
【0007】
【化1】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0008】
また、本発明は、エラストマー表面を有する基部と、前記基部の前記エラストマー表面の少なくとも一部を被覆する表面処理層とを備え、前記表面処理層は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と変性ポリオレフィン系樹脂とを少なくとも含むことを特徴とするエラストマー物品を提供する。
【0009】
【化2】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0010】
また、本発明は、上記表面処理剤を用いて被処理基材の表面処理を行う表面処理方法であって、前記表面処理剤に前記被処理基材を浸漬させることにより、前記被処理基材の表面に表面処理層を形成する工程を含むことを特徴とする表面処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴム等のエラストマー表面に対し、非粘着性を有し、かつゴム等の伸縮に対する追従性が良好な表面処理層を形成することのできる表面処理剤及びその製造方法、表面処理方法、並びにそのような表面処理層を有するエラストマー物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の態様1に係る表面処理剤は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤及び酸触媒を含有する。
【0013】
【化3】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0014】
本発明の態様2として、上記態様1において、前記シランカップリング剤が、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランであればよい。
【0015】
本発明の態様3として、上記態様1又は態様2において、前記酸触媒が、有機酸であればよい。
【0016】
本発明の態様4として、上記態様1~3のいずれかにおいて、前記酸触媒が、酢酸であればよい。
【0017】
本発明の態様5として、上記態様1~4のいずれかにおいて、前記変性ポリオレフィン系樹脂が、酸変性ポリオレフィン系樹脂又は水酸基変性ポリオレフィン系樹脂であればよい。
【0018】
本発明の態様6として、上記態様1~5のいずれかにおいて、前記式(1)において、yが0であればよい。
【0019】
本発明の態様7として、上記態様1~6のいずれかにおいて、前記式(1)において、Rで表されるフルオロアルキル基を含有する基が、下記式(2)で示される基であってもよい。
【0020】
【化4】

上記式(2)中、pは0~2の整数である。
【0021】
本発明の態様8として、上記態様1~7のいずれかにおいて、前記式(1)において、Rは、メチル基であればよい。
【0022】
本発明の態様9として、上記態様1~8のいずれかにおいて、前記式(1)において、xが1~10の整数であればよい。
【0023】
本発明の態様10として、上記態様1~9のいずれかにおいて、エラストマー表面に対する表面処理に使用されればよい。
【0024】
また、本発明の態様11に係る表面処理剤の製造方法は、前記表面処理剤の製造方法であって、前記フッ素含有化合物、前記変性ポリオレフィン系樹脂及び前記シランカップリング剤を、前記酸触媒の存在下で、10分以上攪拌する工程を含む。
【0025】
また、本発明の態様12に係るエラストマー物品は、エラストマー表面を有する基部と、前記基部の前記エラストマー表面の少なくとも一部を被覆する表面処理層とを備え、前記表面処理層は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と変性ポリオレフィン系樹脂とを少なくとも含む。
【0026】
【化5】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0027】
また、本発明の態様13に係る表面処理方法は、上記表面処理剤を用いて被処理基材の表面処理を行う表面処理方法であって、前記表面処理剤に前記被処理基材を浸漬させることにより、前記被処理基材の表面に表面処理層を形成する工程を含む。
【0028】
本発明の態様14として、上記態様13において、前記表面処理剤に前記被処理基材を3分以上浸漬させればよい。
【0029】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
[表面処理剤]
本実施形態に係る表面処理剤は、特にゴム等のエラストマーの表面処理に好適に使用されるものであり、機能層(例えば撥水層、非粘着層等)として機能する表面処理層を形成するために用いられるものである。
【0030】
本実施形態に係る表面処理剤は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤及び酸触媒を含有する。
【0031】
【化6】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0032】
上記式(1)において、Rで表されるフルオロアルキル基を含有する基としては、例えば、-CF、-C、-C、-C13、-C15等の-C2q+1(q=1~10)で表されるフルオロアルキル基;オキシフルオロアルキレン基等を挙げることができ、これらのうち、下記式(2)で示されるオキシフルオロアルキレン基であるのが好ましい。
【0033】
【化7】

上記式(2)中、pは0~2の整数である。
【0034】
上記式(1)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1~2のアルキル基が挙げられ、Rで表されるアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等の炭素数2~4のアルコキシアルキル基が挙げられる。これらのうち、Rで表される基としては、アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0035】
上記式(1)において、R及びRで表される有機基としては、例えば、下記式(i)~(v)で示される有機基を挙げることができる。
【0036】
【化8】
【0037】
上記式(1)において、トリアルコキシシリル基又はトリアルコキシアルコキシシリル基(-Si(OR))が結合する中間鎖(-CH-CH-)の数xは、1~100であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは1~10、特に好ましくは2~3である。また、中間鎖(-CH-CR-)の数yは、0~100であり、好ましくは0~50、より好ましくは0~10、特に好ましくは0である。
【0038】
上記フッ素系化合物として好適な化合物としては、下記式(3)~(7)で示される化合物を例示することができる。特に、上記フッ素系化合物が式(3)又は式(6)で示される化合物(式(1)においてy=0である化合物)であると、1分子中に占められるフッ素原子の割合が大きくなる。
【0039】
【化9】

上記式(3)中、x′は、2又は3である。
【0040】
【化10】

上記式(4)中、R1′は、-CF(CF)OCFCF(CF)OCで表される基である。また、xaは、1~100の整数である。
【0041】
【化11】

上記式(5)中、R1′は、-CF(CF)OCFCF(CF)OCで表される基である。また、xbは1~100の整数であり、ybは1~500の整数である。
【0042】
【化12】

上記式(6)中、xcは1~10の整数であり、ycは0~100の整数である。
【0043】
【化13】

上記式(7)中、xdは1~10の整数であり、ydは0~100の整数である。
【0044】
上記式(1)で示されるフッ素含有化合物は、下記式(Ia)で示されるフッ素含有過酸化物の存在下に、下記式(Ib)で示される単量体と、下記式(Ic)で示される単量体とを重合させることにより得られる。なお、この反応生成物(フッ素含有化合物)中には、フルオロアルキル基を含有する基(R)が片末端のみに導入されているオリゴマーが任意の割合で含まれていてもよい。
【0045】
【化14】

式(Ia)~(Ic)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rは、アルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表す。
【0046】
変性ポリオレフィン系樹脂とは、前駆体としてのポリオレフィン樹脂に、官能基を有する変性剤を用いた変性処理を施して得られるものであり、官能基を有するポリオレフィン樹脂である。変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィン系樹脂、水酸基変性ポリオレフィン系樹脂等が用いられ得る。これらの酸変性ポリオレフィン系樹脂及び水酸基変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ユニストール(登録商標)XP03F、ユニストール(登録商標)XP04A、ユニストール(登録商標)P-801(いずれも三井化学社製)等が市販されており、これらを用いることができるが、ユニストール(登録商標)XP04Aを用いることが好ましい。
【0047】
前駆体としてのポリオレフィン樹脂は、オレフィン系単量体に由来する繰り返し単位のみから構成された重合体であっても良いし、オレフィン系単量体に由来する繰り返し単位とともに、オレフィン系単量体以外の単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体であってもよい。
【0048】
上記ポリオレフィン樹脂としては、炭素数2~8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素数2~8のオレフィンと他のモノマーとの共重合体等を挙げることができる。具体的には、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン樹脂等のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ4-メチルペンテン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体等のα-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等を挙げることができる。
【0049】
酸変性ポリオレフィン系樹脂を得るために用いられる変性剤は、後述する架橋反応に寄与し得る官能基を分子内に有する化合物であればよい。架橋反応に寄与し得る官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物に由来の基、カルボン酸エステル基、水酸基、エポキシ基、アミド基、アンモニウム基、ニトリル基、アミノ基、イミド基、イソシアネート基、アセチル基、チオール基、エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ホスホン基、ニトロ基、ウレタン基、ハロゲン原子等が挙げられる。これらの官能基のうち、カルボキシル基、カルボン酸無水物に由来の基、カルボン酸エステル基、水酸基、アンモニウム基、アミノ基、イミド基、イソシアネート基が好ましい。なお、酸変性ポリオレフィン系樹脂を得るために用いられる変性剤は、上記官能基のうちの2種以上を分子内に有する化合物であってもよい。
【0050】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリオレフィン樹脂に、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、アコニット酸等の不飽和カルボン酸及び/又は無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物等の不飽和カルボン酸無水物を反応させて、カルボキシル基及び/又はカルボン酸無水物に由来の基を導入(グラフト変性)することで得られる。
【0051】
水酸基変性ポリオレフィン系樹脂を得るために用いられる変性剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリセロール、ラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル等が挙げられる。
【0052】
変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000~2000000程度であればよく、好ましくは20000~1500000、より好ましくは25000~250000、特に好ましくは30000~150000である。なお、重量平均分子量(Mw)は、例えば、テトラヒドロフランを溶媒として用いた、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であればよい。
【0053】
本実施形態に係る表面処理剤は、シランカップリング剤を含有する。シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS,Si(OC))が挙げられ、いずれか一方を含有していてもよいし、両方含有していてもよい。本実施形態に係る表面処理剤が、シランカップリング剤として3-メルカプトプロピルトリメトキシシランやテトラエトキシシランを含有することで、当該表面処理剤を用いてエラストマー表面に形成される表面処理層に、良好な非粘着性を付与するとともに、良好な追従性を付与することができ、エラストマーの伸縮によりクラックが発生するのを抑制することができる。なお、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランを含有する限りにおいて、他のシランカップリング剤(例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等)を含んでいてもよい。
【0054】
本実施形態に係る表面処理剤に含まれる溶媒としては、上記変性ポリオレフィン系樹脂を溶解可能なものであり、かつ本実施形態に係る表面処理剤による表面処理対象であるエラストマーを侵さないものであればよく、例えば、トルエン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等を用いることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る表面処理剤は、酸触媒を含有することが好ましい。酸触媒としては、上記溶媒と混和可能なものであり、例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸を用いることができ、好ましくは酢酸を用いることができる。表面処理剤における酸触媒の濃度としては、0.20~0.50mol/Lであればよく、0.32~0.36mol/Lで程度であるのが好ましい。表面処理層を形成するときにおける反応性を向上させることができるため、良好な非粘着性及び追従性を有する表面処理層を形成することができる。
【0056】
本実施形態に係る表面処理剤における上記フッ素含有化合物及び変性ポリオレフィン系樹脂の含有比(質量基準)は、例えば、1:0.1~1:2.5程度であればよく、1:0.5~1:2程度であるのが好ましい。また、上記フッ素含有化合物及びシランカップリング剤の含有比(質量基準)は、例えば、1:0.1~1:2.0程度であればよく、1:0.5~1:1.5程度であるのが好ましい。さらに、上記フッ素含有化合物及び酸触媒の含有比(質量基準)は、例えば、1:0.5~1:4.0程度であればよく、1:1.5~1:2.5程度であるのが好ましい。上記フッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤及び酸触媒の含有比(質量基準)が上記範囲内であることで、表面処理剤を用いて形成される表面処理層に良好な非粘着性を付与することができる。
【0057】
本実施形態に係る表面処理剤は、上記フッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤、上記溶媒を混和した後、酸触媒を添加して攪拌することで調製され得る。なお、攪拌時間(反応時間)は、5分以上であればよく、10~120分程度であるのが好ましく、50~90分程度であるのがより好ましい。当該攪拌時間(反応時間)が5分未満であると、被処理基材の表面に表面処理層を形成することができないおそれ、又は表面処理層を形成することができたとしても非粘着性及び追従性を十分に付与することができないおそれがある。
【0058】
上記表面処理剤によれば、ゴム等のエラストマー表面に対し、非粘着性を有し、かつゴム等の伸縮に対する追従性が良好な表面処理層を形成することができる。
【0059】
[表面処理方法]
本実施形態における表面処理方法は、本実施形態に係る表面処理剤を用いて被処理機材であるエラストマー表面の表面処理を行う表面処理方法である。表面処理方法は、被処理基材の表面に本実施形態に係る表面処理剤を塗布することで、表面処理層を形成する工程を含む。
【0060】
被処理基材としては、表面処理剤により表面処理される表面がエラストマーにより構成されているものであればよく、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、ウレタンゴム(AU,EU)、シリコーンゴム(VMQ,FVMQ)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、フッ素ゴム(FKM,FEPM)及びそれらのエラストマー(ゴム)により構成されるゴム製品(例えば、Oリング、Xリング、アンブレラ、バルブ等)であってもよいし、エラストマー(ゴム)と金属や樹脂等との複合体であってエラストマー表面を有するものであってもよい。
【0061】
本実施形態おける表面処理層は、本実施形態に係る表面処理剤に被処理基材を浸漬することで、非粘着性及び追従性を併せ持つ表面処理層を形成することができる。なお、表面処理層を形成する領域は、被処理基材のエラストマー表面の一部であってもよいし、全面であってもよい。
【0062】
表面処理剤に被処理基材を浸漬させる時間は、例えば、1分以上であればよく、3分以上であればよく、3~5分であるのが好ましい。浸漬させる時間が1分未満であると、被処理基材の表面に形成される表面処理層に非粘着性を付与することができるが、十分な追従性を付与することができないおそれがある。
【0063】
本実施形態において、表面処理剤に被処理基材を浸漬させることで被処理基材の表面に形成された塗膜を加熱してもよい。加熱方法としては、オーブンによる加熱、熱プレスによる加熱等が挙げられるが、特に制限されるものではない。加熱条件としては、例えば、100~180℃で10~60分程度、好ましくは120~160℃で10~30分程度である。このようにして被処理基材のエラストマー表面に表面処理層を形成することで、エラストマー表面を有する基部と、基部のエラストマー表面の少なくとも一部を被覆する表面処理層とを備えるエラストマー物品を製造することができる。
【0064】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0065】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例及び試験例等に何ら限定されるものではない。
【0066】
〔製造例1〕表面処理剤の製造例
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物と、変性ポリオレフィン系樹脂(ユニストール(登録商標)XP04A、三井化学社製)と、シランカップリング剤(3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)、テトラエトキシシラン(TEOS)もしくはDOWSILTM Z-6062 Silane(DOW社製))と、溶媒(トルエン)とを混合し、酸触媒(17.4M酢酸)を添加して10分間または60分間攪拌することで、表面処理剤(L1~L18)を調製した。各表面処理剤におけるフッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤、溶媒及び酸触媒の仕込み量を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
〔製造例2〕表面処理されたゴムシートの製造例
2cm角の正方形状のゴムシート(シリコーンゴムシート(Q)、アクリロニトリルブタジエンゴムシート(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴムシート(EP)、フッ素ゴムシート(FKM))を準備し、各ゴムシートを製造例1で調製した表面処理剤(L1~L18)に3分間浸漬させて表面処理層を形成した。表面処理層が形成されたゴムシート(試料1~18)を150℃で10分間焼成した。
【0069】
〔試験例1〕TAC試験
試料1~18のゴムシートをプローブタック試験装置(製品名:タッキング試験機TAC-II,レスカ社製)に取り付け、ゴムシートの表面処理層に対し100gfの荷重を印加しながら3秒間プローブ(SUS製の円柱プローブ(直径:5.1mm))を接触させた後、プローブを試験片の表面に対する垂直方向に600mm/minの速度で剥離し、剥離するために要する力(粘着力、gf)を測定した。結果を表2に示す。また、同様にして、表面処理層を形成していないシリコーンゴムシート(Q)、アクリロニトリルブタジエンゴムシート(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴムシート(EP)、フッ素ゴムシート(FKM)についても粘着力を測定したところ、シリコーンゴムシート(Q)の粘着力は194.7gf、アクリロニトリルブタジエンゴムシート(NBR)の粘着力は285.7gf、エチレンプロピレンジエンゴムシート(EPDM)の粘着力は486.5gf、フッ素ゴムシート(FKM)の粘着力は387.5gfであった。
【0070】
〔試験例2〕追従性試験
試料1~18のゴムシートについて、追従性に関する試験を行った。この試験は、ゴムシートを面積基準で25%まで及び50%まで一方向に伸長させながら当該ゴムシートの表面処理層に亀裂が生じているか否かを目視又は走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより行った。結果を表2にあわせて示す。なお、追従性は、50%伸長時までに表面処理層に亀裂が生じなかったものを「〇」、50%伸長時までに表面処理層に亀裂が生じたものを「△」、25%伸長時までに表面処理層に亀裂が生じたものを「×」として評価を行った。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示す結果から、試料1~13及び15~16のゴムシートにおいては、上記フッ素含有化合物、変性ポリオレフィン系樹脂、シランカップリング剤及び酸触媒を含有する表面処理剤でエラストマー(ゴム)表面を処理することで、優れた非粘着性を有することが確認された。しかしながら、試料14のフッ素ゴムシート(FKM)、試料17のフッ素ゴムシート(FKM)及び試料18のシリコーンゴムシート(Q)においては非粘着性を付与することができなかった。
【0073】
また、試料13及び試料16のゴムシートにおいては、ゴムシートの伸縮に対して良好な追従性を有することが確認された。この結果から、攪拌時間(反応時間)を長くすることで、良好な追従性を有する表面処理層を形成可能であることが推察される。なお、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を用いると、表面に硬く脆いコーティング層が形成されてしまうため、ゴムシートを伸縮させるとクラックが発生しやすく、十分な追従性を付与することができなかったものと推察される。