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特開2023-173208カーボンナノチューブ分散液およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173208
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20231130BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20231130BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C01B32/174 ZNM
H01B1/24 Z
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085297
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】土方 啓暢
(72)【発明者】
【氏名】大島 久純
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄高
【テーマコード(参考)】
4G146
5G301
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AD22
4G146BA12
4G146BA48
4G146BC09
4G146BC25
4G146BC33B
4G146CB10
4G146DA03
5G301DA18
5G301DD10
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】CNTの電気的特性が優れたCNT分散液およびその製造方法を提供する。
【解決手段】バブラ13の内部の液体の分散媒に対して、CNT合成炉11から流出するガスを流通させる。用いる分散媒は、ガスの流通によって発泡しない性質を有する。CNT合成炉11から流出するガスには、分散状態のCNTが含まれる。これによれば、CNTの塊をほぐすために、出力150W以上の超音波破砕機を用いて超音波をCNTに付与することが不要であるので、欠陥が導入されるほどのダメージをCNTが受けることを抑制できる。ガスを分散媒に流通させたときに、分散媒が泡となって容器の外部へ排出されて容器の内部の分散媒が枯渇することを抑制できる。よって、CNTの電気的特性が優れたCNT分散液を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ分散液であって、
ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する液体の分散媒と、
前記分散媒に分散したカーボンナノチューブと、を備え、
前記カーボンナノチューブの性能指数をαρとしたとき、前記性能指数は、前記カーボンナノチューブ分散液を用いて形成される透明導電膜についての波長550nmにおける光透過率とシート抵抗値のそれぞれの測定値と、下記の式(1)とを用いて算出され、
αρ=-ln(光透過率)×シート抵抗値・・・式(1)
前記性能指数は、前記カーボンナノチューブが未ドープの状態で、60未満である、カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記分散媒は、界面活性剤を含まないことで、前記発泡しない性質、または、前記気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
カーボンナノチューブ分散液の製造方法であって、
ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する液状の分散媒に対して、分散状態のカーボンナノチューブが含まれるガスを流通させること(S11)を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
前記流通させることにおいては、前記分散媒として、界面活性剤を含まないことで、前記発泡しない性質、または、前記気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有するものが用いられる、請求項3に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
前記流通させることにおいては、前記分散状態のカーボンナノチューブが含まれるガスとして、合成炉で合成されたカーボンナノチューブが含まれた状態で、前記合成炉から流出するガスが用いられ、
前記合成炉から流出するガスが、前記合成炉から前記分散媒まで連続して流れる、請求項3または4に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項6】
前記流通させることにおいては、前記分散媒は冷却される、請求項3または4に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ分散液の製造方法は、
前記流通させることによって得られた液体に対して、前記カーボンナノチューブの凝集体の生成が抑制されるように、前記液体に含まれる前記カーボンナノチューブの濃度を調整すること(S13)を含む、請求項3または4に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項8】
前記流通させることにおいて用いられる前記分散媒は第1分散媒であり、前記流通させることによって前記第1分散媒に前記カーボンナノチューブが分散した第1分散液が製造され、
前記カーボンナノチューブの製造方法は、
前記第1分散媒から流出したガスに含まれる前記カーボンナノチューブを捕集すること(S12)と、
前記捕集することによって得られた前記カーボンナノチューブが液体の第2分散媒に入れられた状態で、前記第2分散媒中の前記カーボンナノチューブに対して振動が加えられることで、前記第2分散媒に前記カーボンナノチューブが分散した第2分散液を製造すること(S14)と、を含む、請求項3または4に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の分散媒にカーボンナノチューブ(すなわち、CNT)が分散されたCNT分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CNT、特に単層や数層のCNTは、CNT自身の凝集性から固まってしまう。そのため、例えば、透明導電膜やコンポジットへの応用の際には、CNTの塊がほぐされてCNTが分散されており、CNTが再凝集しない状態を維持したCNT分散液を用いる必要がある。そこで、従来では、界面活性剤を含む分散媒にCNTの塊が入れられる。CNTの塊に対して、出力150W以上の超音波粉砕機から超音波が与えられることで、CNT分散液が製造される。超音波によってCNTの塊が解繊され、分散媒中でCNTが分散する。分散媒に界面活性剤が含まれることで、CNTが再凝集しない状態が維持される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-89738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、CNTの塊をほぐすために、CNTに対して超音波破砕機から力学的エネルギが与えられ、CNTがダメージを受ける。これにより、CNTに欠陥が導入され、かつ、短尺化が進行する。この結果、CNTの電気的特性が劣化する。
【0005】
これを回避するために、本発明者は、分散状態のCNTが含まれるガスを液体の分散媒に流通させることを検討した。分散状態のCNTが含まれるガスとして、例えば、CNT合成炉から流出されるガスを用いることができる。CNT合成炉から流出されるガスには、CNT合成炉で合成されたCNTが含まれる。CNTの合成条件によってCNTを分散状態にすることが可能である。分散状態のCNTが含まれるガスとして、他の方法でCNTが分散状態とされたガスが用いられてもよい。
【0006】
しかし、液体の分散媒として界面活性剤が含まれる分散媒を用いた場合、CNTが含まれるガスを分散媒に流通させたときに、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に泡沫が形成される。気泡は、液体中の泡のことである。泡沫は、液体表面上の泡、すなわち、気体が液膜で覆われたものである。界面活性剤の存在により、泡沫が成長し、泡沫が層状に二段以上積み重なる状態になる。多段に積み重ねられた泡沫が分散媒表面を覆う状態になる。分散媒に導入されたガスは、分散媒を流通した後、分散媒が収容された容器の外部へ排出される。このとき、分散媒表面上に形成された泡沫は、ガスによって容器のガス流れ下流側へ押し出される。すなわち、分散媒が容器の外部へ排出される。分散媒にガスを流通させている間、泡沫の成長が続くため、分散媒の排出が続く。これが、容器の内部の分散媒が枯渇する要因の一つとなり、CNT分散液が得られないという課題が本発明者によって見出された。
【0007】
本発明は、上記点に鑑みて、CNTの電気的特性が優れたCNT分散液およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
カーボンナノチューブ分散液は、
ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する液体の分散媒と、
分散媒に分散したカーボンナノチューブと、を備え、
カーボンナノチューブの性能指数をαρとしたとき、性能指数は、カーボンナノチューブ分散液を用いて形成される透明導電膜についての波長550nmにおける光透過率とシート抵抗値のそれぞれの測定値と、下記の式(1)とを用いて算出され、
αρ=-ln(光透過率)×シート抵抗値・・・式(1)
性能指数は、カーボンナノチューブが未ドープの状態で、60未満である。
【0009】
このCNT分散液は、液体の分散媒に、分散状態のCNTが含まれるガスを流通させることで製造される。これによれば、CNTの塊をほぐすために、出力150W以上の超音波破砕機を用いて超音波をCNTに付与することが不要である。このため、CNTに欠陥が導入され、かつ、CNTの短尺化が進行するほどのダメージをCNTが受けることを抑制することができる。
【0010】
さらに、分散媒として、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する分散媒が用いられる。分散媒表面に形成される泡沫が成長しないとは、泡沫が層状に二段以上積み重なる状態にならないことである。これにより、CNTが含まれるガスを分散媒に流通させたときに、分散媒が泡沫となって容器の外部へ排出されて容器の内部の分散媒が枯渇することを抑制することができる。このため、CNT分散液を得ることができる。
【0011】
よって、従来のCNT分散液と比較して、CNTの性能指数が低い、すなわち、CNTの電気的特性が優れたCNT分散液を提供することができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明によれば、カーボンナノチューブ分散液の製造方法は、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する液状の分散媒に対して、分散状態のカーボンナノチューブが含まれるガスを流通させること(S11)を含む。
【0013】
これによれば、CNTの塊をほぐすために、出力150W以上の超音波破砕機を用いて超音波をCNTに付与することが不要である。このため、CNTに欠陥が導入され、かつ、CNTの短尺化が進行するほどのダメージをCNTが受けることを抑制することができる。
【0014】
さらに、分散媒として、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する分散媒が用いられる。分散媒表面に形成される泡沫が成長しないとは、泡沫が層状に二段以上積み重なる状態にならないことである。これにより、CNTが含まれるガスを分散媒に流通させたときに、分散媒が泡となって容器の外部へ排出されて容器の内部の分散媒が枯渇することを抑制することができる。このため、CNT分散液を得ることができる。
【0015】
よって、従来のCNT分散液と比較して、CNTの電気的特性が優れたCNT分散液の製造方法を提供することができる。
【0016】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態におけるCNT分散液の製造装置の構成を示す概略図である。
図2】第1実施形態におけるCNT分散液の製造方法が有する製造工程を示すフローチャートである。
図3A】第2実施形態におけるCNT分散液の製造方法が有する製造工程を示すフローチャートである。
図3B】第3実施形態におけるCNT分散液の製造方法が有する製造工程を示すフローチャートである。
図4図4の左側は実施例1で製造されたCNT分散液を示す写真であり、図4の右側は比較例としてのNMPを示す写真である。
図5】実施例1で得られたCNT分散液を用いて形成された透明導電膜を示す写真である。
図6】実施例1で得られたCNT分散液を用いて形成された透明導電膜のSEM像を示す写真である。
図7図7の左側は実施例4で得られたCNT分散液を示す写真であり、図7の右側は比較例としてのNMPを示す写真である。
図8図8の左側は実施例4で得られたCNT分散液を一昼夜放置した後の液体を示す写真であり、図8の右側は比較例としてのNMPを示す写真である。
図9図9の左側は図8の左側に示される液体を30分間超音波バスにて攪拌した後の液体を示す写真であり、図9の右側は比較例としてのNMPを示す写真である。
図10図10の左側から1番目は、実施例4で得られたCNT分散液を一昼夜放置した後の基準液体を示す写真であり、図10の左側から2番目は、基準液体をNMPで2倍希釈した液体を示す写真であり、図10の左側から3番目は、基準液体をNMPで4倍希釈した液体を示す写真であり、図10の左側から4番目は、基準液体をNMPで8倍希釈した液体を示す写真である。
図11】実施例7で用いたフィルタおよびそのフィルタに捕集されたCNTを示す写真である。
図12】実施例7で得られたCNT分散液を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1に示すCNT分散液の製造装置10を用いたCNT分散液の製造方法によって、CNT分散液が製造される。CNT分散液は、液体の分散媒と、分散媒に分散したCNTとを含むコロイド溶液である。
【0020】
[CNT分散液の製造装置]
図1に示すように、CNT分散液の製造装置10は、CNT合成炉11と、原料供給部12と、バブラ13と、チラー14と、フィルタ15と、を備える。
【0021】
CNT合成炉11は、流動床式CVD(すなわち、化学気相成長)法によって内部でCNTを合成する電気炉である。流動床式では、炭素源と触媒とが同時に電気炉の内部へ供給される。合成されるCNTは、単層CNT、二層CNT、多層CNTまたはこれらの混合物のいずれでもよい。
【0022】
原料供給部12は、CNT合成の原料としての炭素源を触媒とともにCNT合成炉11へ供給する。原料供給部12は、第1ガスボンベ21と、第1供給流路22と、第1MFC(すなわち、マスフローコントローラ)23と、第2ガスボンベ24と、第2供給流路25と、第2MFC26と、第3ガスボンベ27と、第3供給流路28と、第3MFC29と、第4供給流路30と、第4MFC31と、第5供給流路32と、第5MFC33と、第1容器34と、第2容器35と、を有する。
【0023】
第1ガスボンベ21には、メタンガスが収容されている。第1供給流路22は、第1ガスボンベ21からCNT合成炉11へメタンガスを供給するためのガス流路である。第1供給流路22の一端は、第1ガスボンベ21の出口側に接続されている。第1供給流路22の他端は、CNT合成炉11の入口側に接続されている。第1MFC23は、第1供給流路22に設けられている。第1MFC23は、第1供給流路22を流れるメタンガスの流量を調整する流量調整部である。
【0024】
第2ガスボンベ24には、水素ガスが収容されている。第2供給流路25は、第2ガスボンベ24からCNT合成炉11へ水素ガスを供給するためのガス流路である。第2供給流路25の一端は、第2ガスボンベ24の出口側に接続されている。第2供給流路25の他端は、第1供給流路22の途中に接続されている。第2MFC26は、第2供給流路25に設けられている。第2MFC26は、第2供給流路25を流れる水素ガスの流量を調整する流量調整部である。
【0025】
第3ガスボンベ27には、窒素ガスが収容されている。第3供給流路28は、第3ガスボンベ27からCNT合成炉11へ窒素ガスを供給するためのガス流路である。第3供給流路28の一端は、第3ガスボンベ27の出口側に接続されている。第3供給流路28の他端は、第1供給流路22の途中に接続されている。第3MFC29は、第3供給流路28に設けられている。第3MFC29は、第3供給流路28を流れる窒素ガスの流量を調整する流量調整部である。
【0026】
第4供給流路30は、フェロセンを供給するためのガス流路である。第4供給流路30の一端は、第3ガスボンベ27の出口側に接続されている。第4供給流路30の他端は、第1供給流路22の途中に接続されている。第4MFC31は、第4供給流路30に設けられている。第4MFC31は、第4供給流路30を流れる窒素ガスの流量を調整する流量調整部である。第1容器34は、第4供給流路30に設けられている。第1容器34には、フェロセンが収容されている。フェロセンは、第4供給流路30を流れる窒素ガスによって、CNT合成炉11へ運ばれる。
【0027】
第5供給流路32は、硫黄を供給するためのガス流路である。第5供給流路32の一端は、第3ガスボンベ27の出口側に接続されている。第5供給流路32の他端は、第1供給流路22の途中に接続されている。第5MFC33は、第5供給流路32に設けられている。第5MFC33は、第5供給流路32を流れる窒素ガスの流量を調整する流量調整部である。第2容器35は、第5供給流路32に設けられている。第2容器35には、硫黄が収容されている。硫黄は、第5供給流路32を流れる窒素ガスによって、CNT合成炉11へ運ばれる。
【0028】
バブラ13は、分散状態のCNTが含まれるCNT含有ガスを、液体の分散媒に流通させるための器具である。CNT含有ガスとして、CNT合成炉11から流出したガスが用いられる。
【0029】
分散媒として、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有するとともに、CNTを分散させる性質を有するものが用いられる。「発泡しない」とは、分散媒表面に泡沫が形成されないことを意味する。「ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない」とは、分散媒表面に泡沫が形成されても、泡沫が層状に二段以上積み重ならないことを意味する。すなわち、気体の上側が液体の膜で覆われるとともに、気体の下側が液体に面した状態の泡沫が、分散媒表面に形成されても、その泡沫の上に別の泡沫が層状になって分散媒表面を覆う状態にならないことが、「ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない」ことである。
【0030】
「ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質」を有することは、分散媒が界面活性剤を含まないこと、分散媒に含まれる界面活性剤が少ないこと、または、界面活性剤を含む分散媒が消泡剤を含むことで実現される。界面活性剤は、分子内に水になじみやすい部分と、油になじみやすい部分を持つ物質の総称である。消泡剤は、液膜の表面張力を低下させて破泡させる作用、または、液膜の形成を阻害して泡沫の形成を抑制する作用を有する物質である。
【0031】
分散媒がこのような性質を有していれば、有機溶媒と、無機分散剤を含む水溶液とのどちらでも、分散媒として用いることが可能である。有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(すなわち、NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(すなわち、DMF)、ジメチルアセトアミド(すなわちDMAc)が挙げられる。無機分散剤としては、例えば、アルミ亜鉛酸化物が挙げられる。また、分散媒に消泡剤が含まれる場合、シリコーン系消泡剤または有機系消泡剤が用いられる。シリコーン系消泡剤は、有機溶媒と、無機分散剤を含む水溶液とのどちらの分散媒に対しても用いられる。有機系消泡剤は、無機分散剤を含む水溶液である分散媒に対して用いられる。
【0032】
バブラ13は、分散媒を内部に収容する容器41と、CNT含有ガスを分散媒中に導入する導入流路42と、を有する。導入流路42は、管によって構成される。導入流路42のガス入口42aは、CNT合成炉11の出口側に接続されている。導入流路42のガス出口42bは、容器41の内部の分散媒中に位置する。導入流路42のガス出口42bから流出したガスは、分散媒を流通して、分散媒から流出する。
【0033】
本実施形態では、導入流路42のガス出口42bから流出したガスは、気泡となって分散媒中を下から上に向かって、直線状に進む。このとき、分散媒中に障害物が配置される等によって、気泡が蛇行しながら進んだり、1つの気泡が複数の気泡に分かれて進んだりすることが好ましい。これにより、ガス出口42bから流出したガスと分散媒との接触確率が増え、CNTがより分散される。このように、CNT含有ガスが分散媒を流通することには、CNT含有ガスの種々の進み方が含まれる。例えば、CNT含有ガスが分散媒中を直線状に進むことに限らず、CNT含有ガスが分散媒中を蛇行して進む場合も含まれる。
【0034】
チラー14は、循環する冷却液によって、バブラ13の内部の分散媒を冷却する冷却部である。チラー14は、冷却液を内部に収容する容器51と、冷却液の温度を調整する調整部52と、容器51と調整部52との間を冷却液が流れる冷却液流路53、54とを有する。容器51の内部の冷却液に、バブラ13の容器41の一部または全部が浸漬される。調整部52によって冷却液が冷却されて、冷却液の温度が一定の温度に管理される。調整部52によって冷却された冷却液が、冷却液流路53を通って、容器51に送られる。容器51の内部の冷却液が、冷却液流路54を通って、調整部52に送られる。容器51の内部の冷却液によって、バブラ13の内部の分散媒が冷却される。なお、冷却部として、チラー14以外のものが用いられてもよい。
【0035】
フィルタ15は、バブラ13から排出されたガスに含まれるCNTを捕集する捕集部である。バブラ13の容器41の上部には、分散媒を流通した後のガスをバブラ13の外部へ排出する排出流路43が接続されている。フィルタ15は、排出流路43の途中に設けられている。フィルタ15は、網状の部材である。
【0036】
[CNT分散液の製造方法]
図2に示すように、CNT分散液の製造方法は、流通工程S11と、捕集工程S12とを含む。
【0037】
流通工程S11では、CNT含有ガスを液体の分散媒に流通させることが行われる。具体的には、CNT合成炉11の内部がCNTの合成可能温度とされた状態で、CNT合成炉11に炭素源と触媒とが供給される。例えば、炭素源としてのメタンと、触媒としてのフェロセンとが供給される。さらに、補助触媒としての硫黄、キャリアガス及び還元ガスとしての窒素および水素が供給される。これにより、CNT合成炉11の内部でCNTが合成される。CNT合成炉11で合成されたCNTは、窒素を主成分としたキャリアガスとともにCNT合成炉11から流出する。CNT合成炉11から流出したガスが、CNT含有ガスである。CNTの合成条件によって、CNT合成炉11から流出したガス中でCNTが分散した状態にすることが可能である。
【0038】
CNT合成炉11から流出したガスは、バブラ13の導入流路42をガス入口42aからガス出口42bに向かって流れる。ガス出口42bから流出したガスは、チラー14によって冷却された状態の分散媒を流通して、分散媒から流出する。このように、CNT合成炉11から流出するガスは、CNT合成炉11から分散媒まで連続して流れる。ガス出口42bから流出したガスが、気泡となって分散媒を通過することで、分散媒中にCNTが分散する。バブラ13から流出したガスは、排出流路43を流れ、外部へ排出される。
【0039】
捕集工程S12では、この排出流路43を流れるガスに含まれるCNTをフィルタ15で捕集することが行われる。
【0040】
流通工程S11が一定時間行われた後、バブラ13からCNT分散液が回収される。このようにして、分散媒中にCNTが分散した状態のCNT分散液が製造される。
【0041】
バブラ13から流出したガスには、CNT合成炉11で合成されたCNTの一部が含まれる。図示しないが、CNT回収率を高めるために、バブラ13が多段に設置されてもよい。すなわち、複数のバブラ13が直列接続されて設置されてもよい。
【0042】
[CNTの電気的特性の評価]
上記の製造方法によって製造されたCNT分散液に含まれるCNTの電気的特性の評価は、下記の通り、透明導電膜の性能指数を用いて行われる。透明導電膜の性能指数は、CNTの性能指数でもある。
【0043】
まず、製造されたCNT分散液は、図示しないフィルタでろ過される。これにより、フィルタ上にCNT膜が形成される。形成されたCNT膜は、石英基板等の基板に転写される。このようにして、透明導電膜が形成される。その後、透明導電膜の光透過率とシート抵抗値とが測定される。
【0044】
ここで、透明導電膜の光透過率とシート抵抗値は、トレードオフの関係がある。このため、光透過率とシート抵抗値の一方のみの測定値を比較して、透明導電膜の電気的特性を評価することは難しい。そこで、透明導電膜の電気的特性を容易に評価するための指標として、性能指数αρが用いられる。αρは、下記の式(1)で示される。αρの値が小さいほど、電気的特性が良い。
【0045】
αρ=-ln(光透過率)×シート抵抗値・・・式(1)
式(1)中のlnは、自然対数を示す。式(1)中の光透過率は、透明導電膜の波長550nmにおける光透過率の測定値である。光透過率の単位は%である。式(1)中のシート抵抗値は、透明導電膜のシート抵抗値の測定値である。シート抵抗値の単位は、Ω/□である。シート抵抗値は、表面抵抗値とも呼ばれる。
【0046】
このように、性能指数αρは、CNT分散液を用いて形成される透明導電膜についての光透過率とシート抵抗値のそれぞれの測定値と、式(1)とを用いて算出される。
【0047】
従来技術の一例としての特開2016-126847号公報には、CNT分散液を用いて形成された透明導電膜の光透過率とシート抵抗値とが記載されている。この従来技術では、CNTが未ドープの状態で、光透過率の測定値は87%であり、シート抵抗値の測定値は430Ω/□であることから、αρは60である。
【0048】
これに対して、本実施形態のCNT分散液の製造方法によれば、CNTが未ドープの状態で、CNTの性能指数αρが60未満であるCNT分散液が得られる。すなわち、CNTの電気的特性が従来よりも優れたCNT分散液が得られる。なお、未ドープの状態とは、CNTに対してドーパントが加えられていない状態のことである。ドーパントは、CNTの電気伝導性を向上させるための物質である。
【0049】
以上の説明の通り、本実施形態のCNT分散液の製造方法は、分散状態のCNTが含まれるガスを液体の分散媒に流通させることを含む。CNTが含まれるガスを分散媒に流通させることで、分散媒にCNTが分散したCNT分散液が製造される。これによれば、CNTの塊をほぐすために、出力150W以上の超音波破砕機を用いて超音波をCNTに付与することが不要である。このため、CNTに欠陥が導入され、かつ、CNTの短尺化が進行するほどのダメージをCNTが受けることを抑制することができる。
【0050】
さらに、分散媒として、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有するものが用いられる。これにより、CNTが含まれるガスが分散媒を流通したときに、分散媒が泡沫となって容器41の外部へ排出されて容器41の内部の分散媒が枯渇することを、抑制することができる。このため、CNT分散液を得ることができる。
【0051】
よって、本実施形態のCNT分散液の製造方法によれば、CNTの電気的特性が優れたCNT分散液を製造することができる。
【0052】
本実施形態のCNT分散液の製造方法によれば、以下の効果をさらに奏する。
【0053】
(1)流通工程S11においては、分散剤として、界面活性剤を含まないことで、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有するものが用いられる。これによれば、製造されたCNT分散液を用いて、透明導電膜等の構造体を製造したときに、界面活性剤が残留することによるCNTの電気的特性の劣化を回避することができる。
【0054】
(2)流通工程S11においては、分散状態のCNTが含まれるガスとして、CNT合成炉11で合成されたCNTが含まれた状態で、そのCNT合成炉11から流出するガスが用いられる。CNT合成炉11から流出するガスが、CNT合成炉11からバブラ13の内部の分散媒まで連続して流れる。これによれば、CNTの合成とCNTの分散とが、一つの連続する工程で行われる。このため、CNTの合成とCNTの分散とが、連続しない別々の工程で行われる場合と比較して、CNT分散液の製造工程を簡略化することができる。
【0055】
(3)流通工程S11においては、CNTが含まれるガスが分散媒を流通するときに、分散媒が冷却される。これによれば、分散媒の温度が常温のときと比較して、分散媒の飽和蒸気圧を下げて、分散媒の蒸発を抑制することができる。これによっても、分散媒が蒸発して容器41の内部の分散媒が枯渇することを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態のCNT分散液は、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する液体の分散媒と、この分散媒に分散したCNTと、を含む。そして、CNT分散液に含まれるCNTの性能指数αρの値は、CNTが未ドープの状態で、60未満である。
【0057】
このCNT分散液は、上記のCNT分散液の製造方法の説明の通り、液体の分散媒に、分散状態のCNTを含むガスが流通することで製造される。これによれば、上記の通り、CNTに欠陥が導入され、かつ、CNTの短尺化が進行するほどのダメージをCNTが受けることを抑制することができる。
【0058】
さらに、このCNT分散液に含まれる分散媒は、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する。これにより、CNTが含まれるガスが分散媒を流通したときに、分散媒が泡沫となって容器41の外部へ排出されて容器41の内部の分散媒が枯渇することを、抑制することができる。このため、CNT分散液を得ることができる。
【0059】
よって、従来のCNT分散液と比較して、CNTの性能指数αρが低い、すなわち、CNTの電気的特性が優れたCNT分散液を提供することができる。
【0060】
さらに、このCNT分散液に含まれる分散媒は、界面活性剤を含まないことで、ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する。これによれば、このCNT分散液を用いて、透明導電膜等の構造体を製造したときに、界面活性剤が残留することによるCNTの電気的特性の劣化を回避することができる。
【0061】
なお、これまでに、本発明者以外の者が、本開示のCNT分散液の製造方法およびCNT分散液を見出すことができなかった理由の一つは、分散剤として界面活性剤を用いることが出願時の技術常識だからである。このため、界面活性剤が含まれる分散媒を用いて、CNTが含まれるガスを分散媒に流通させることを試みたとしても、上述の問題が発生するため、それ以上の検討がされなかったと考えられる。また、CNTの合成メーカと分散剤メーカは分業されている。CNTの合成から分散までを通した検討が可能な環境が存在しないことも、その理由の一つである。
【0062】
(第2実施形態)
図3Aに示すように、本実施形態のCNT分散液の製造方法は、流通工程S11と、捕集工程S12と、濃度調整工程S13とを含む。流通工程S11と捕集工程S12は、第1実施形態と同じである。
【0063】
濃度調整工程S13では、流通工程S11によって得られた液体に対して、CNTの凝集体の生成が抑制されるように、その液体に含まれるCNTの濃度を調整することが行われる。濃度の調整は、流通工程S11によって得られた液体に対して、分散媒を追加することで行われる。
【0064】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の構成から第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、本実施形態のCNT分散液の製造方法によれば、以下の効果が得られる。
【0065】
(1)濃度調整工程S13によって、CNT分散液を長時間放置したときのCNTの凝集体の生成を抑制することができる。なお、CNTの濃度の調整前と比較して、凝集体の生成が抑制されていれば、CNTの濃度の調整後において、CNTの凝集体がわずかに生成してもよい。
【0066】
(第3実施形態)
図3Bに示すように、本実施形態のCNT分散液の製造方法は、流通工程S11と、捕集工程S12と、分散工程S14とを含む。流通工程S11と捕集工程S12は、第1実施形態と同じである。流通工程S11において用いられる分散媒が第1分散媒である。流通工程S11によって製造されるCNT分散液が、第1分散媒にCNTが分散した第1分散液である。
【0067】
分散工程S14では、捕集工程S12によって得られたCNTが液体の第2分散媒に入れられた状態で、第2分散媒中のCNTに対して振動が加えられることで、第2分散媒にCNTが分散した第2分散液を製造することが行われる。第2分散媒は、第1分散媒と同じ種類の分散媒である。第2分散媒は、CNTを分散させる性質を有していれば、第1分散媒と異なる種類の分散媒であってもよい。第2分散媒は、バブラ13の容器41とは別の容器に収容される。CNTに対して加えられる振動は、超音波出力が30-55W程度の超音波である。
【0068】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の構成から第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、本実施形態のCNT分散液の製造方法によれば、以下の効果が得られる。
【0069】
(1)従来では、CNTの塊が入れられた分散媒に対して、超音波出力を150W以上として超音波を加えなければ、CNT分散液が得られない。これに対して、本実施形態によれば、分散工程S14において、従来よりも小さな超音波出力で超音波を加えることで、第2分散液が得られる。すなわち、第2分散媒中のCNTに対して従来よりも小さな力学的エネルギを加えることで、第2分散液を製造することができる。捕集工程S12で捕集されたCNTは、流通工程S11で第1分散媒を通過したものである。このことが、従来よりも小さな超音波出力の超音波を加えることで、CNT分散液が得られた要因であると考えられる。
【0070】
このため、CNTに欠陥が導入され、かつ、CNTの短尺化が進行するほどのダメージをCNTが受けることを抑制することができる。これによっても、従来よりもCNTの電気的特性が優れたCNT分散液を製造することができる。
【0071】
このようにして、第1分散液と第2分散液とを製造することができる。本実施形態によれば、CNT合成炉11で合成したCNTの大部分をCNT分散液とすることができる。なお、CNT分散液の応用の際では、第2分散液は、第1分散液と混合されて使用されてもよい。また、分散工程S14で用いる第2分散媒として、流通工程S11で回収された第1分散液が用いられてもよい。
【0072】
(他の実施形態)
(1)上記した実施形態では、CNTの電気的特性の評価のために、透明導電膜が形成されるが、CNT分散液の用途は、透明導電膜に限られない。
【0073】
(2)上記した実施形態では、CNTの合成方法は、流動床式CVD法である。しかしながら、CNTの合成方法は、合成されたCNTをガスを用いて回収することができれば、他の方法であってもよい。
【0074】
(3)上記した実施形態では、CNT合成炉11から流出したガスが、直接、分散媒に吹き込まれる。しかしながら、CNT合成炉11から流出したガスが、容器に蓄えられた後、容器から分散媒に吹き込まれてもよい。この場合、CNT合成炉11から流出するガスが容器に蓄えられることで、ガス流れが停止する。このため、CNT合成炉11から流出するガスは、CNT合成炉11から分散媒まで連続して流れない。
【0075】
(4)上記した実施形態では、分散状態のCNTが含まれるガスとして、CNT合成炉11から流出したガスが用いられる。しかしながら、これに限らず、分散状態のCNTが含まれるガスとして、何らかの手法によって分散されたCNTが含まれるガスが用いられてもよい。
【0076】
(5)上記した実施形態では、分散媒の蒸発を抑制するために、流通工程S11で分散媒が冷却される。しかしながら、分散媒の蒸発が生じても、CNT分散液の回収が可能であれば、流通工程S11で分散媒が冷却されなくてもよい。
【0077】
(6)上記した実施形態で製造されたCNT分散液の利用の際では、CNTに対してドーパントを加えるドーピングが行われてもよい。また、透明導電膜等の構造体を形成した後、構造体に対して大気中での熱処理が行われてもよい。
【0078】
(7)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。上記実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
【実施例0079】
(実施例1)
本発明者は、図1のCNT分散液の製造装置10を用いた第1実施形態のCNT分散液の製造方法によって、CNT分散液を製造した。
【0080】
具体的には、CNTの合成方法は、流動床式CVD法である。CNTの合成条件は次の通りである。炭素源としてメタン、触媒としてフェロセン、助触媒として硫黄を用いた。CNT合成炉11の内部温度950℃、メタン濃度1.4vol%、水素濃度1.4vol%、総流量1100sccm、フェロセン加熱温度30℃、フェロセン流量120sccm、硫黄加熱温度60℃、硫黄流量50sccnとした。CNT含有ガスの流通条件は、次の通りである。バブラ13の内部の分散媒は、NMP50mLである。容器51に供給される冷却液の温度は10℃である。CNT合成炉11から流出したガスのバブラ13への供給時間は4時間である。
【0081】
図4の左側の容器内の液体は、実施例1で得られたCNT分散液である。図4の右側の容器内の液体は、CNT含有ガスが流通される前の状態のNMPである。図4の右側の容器内の液体は、実施例1で得られたCNT分散液との色比較のために、図4に示されている。図4に示すように、NMPは無色であったのに対して、実施例1で得られたCNT分散液は着色していた。このように、得られたCNT分散液では、CNTが分散しており、CNTの凝集体は生成していなかった。また、実験後のNMPの減少量は、5%以下であった。そのほとんどがバブラ13への付着残留したことによる減少であった。
【0082】
本発明者は、東京ダイレック社製のカーボンエアロゾル分析装置を用いて、得られたCNT分散液のCNT濃度を測定した。その結果、CNT濃度は、0.6μg/mLであった。
【0083】
次に、本発明者は、得られたCNT分散液をNMPで1/2に希釈した後、その液3mLを、直径47mmのPTTE製メンブレンフィルタを用いて、吸引ろ過した。ろ過面積を直径10mmの円の面積とするためにフィルタ下流側に、直径10mmの円形状の穴を開けたSUS製ステンシルマスクを設置した。その後、フィルタ上のCNT膜を石英基板に転写した。これにより、図5に示すように、石英基板61の上に透明導電膜62を形成した。
【0084】
そして、本発明者は、オプトシリウス社製の分光光度計、品名:FLAMEを用いて、透明導電膜62の波長550nmにおける光透過率を測定した。また、ハイソル社製の4探針プローバ、品名:SR-H1000Cを用いて、透明導電膜62のシート抵抗値を測定した。その結果、光透過率は83%、シート抵抗値は172Ω/□、αρは33であった。
【0085】
図6より、透明導電膜62では、CNTの細いバンドルがCNTネットワークを形成していることが分かった。
【0086】
また、本発明者は、分散剤自体のドープ効果を調べるために、透明導電膜62の赤外吸収スペクトルを測定した。その結果、分散に用いたCNTと同じ吸収スペクトルが得られ、分散剤によるドーピングはないことを確認した。
【0087】
以上の結果から、実施例1で製造されたCNT分散液を用いることで、従来にない優れた性能を有する透明導電膜を作製できることが分かった。
【0088】
(比較例1)
本発明者は、図1に示すCNT分散液の製造装置10において、分散媒として、界面活性剤であるドデシルベンゼン硫酸ナトリウム1%が添加された水50mLを用いた。さらに、チラー14を用いずに、分散媒を常温とした。その他の条件を実施例1と同じとして、実施例1と同じ手法で、CNT分散液の製造を試みた。その結果、バブラ13の内部に泡沫が成長し続け、分散媒が泡沫の状態でバブラ13の下流側に流出した。このため、CNT分散液を回収することができなかった。
【0089】
(実施例2)
本発明者は、バブラ13の内部の分散媒としてDMFを用いた。それ以外は実施例1と同じように、CNT分散液を製造し、透明導電膜を形成した。そして、実施例1と同様に、透明導電膜の光透過率とシート抵抗値とを測定した。その結果、光透過率は86.9%、シート抵抗値は310Ω/□、αρは43であった。
【0090】
(実施例3)
本発明者は、バブラ13の内部の分散媒としてDMAcを用いた。それ以外は実施例1と同じように、CNT分散液を製造し、透明導電膜を形成した。そして、実施例1と同様に、透明導電膜の光透過率とシート抵抗値とを測定した。その結果、光透過率は85.2%、シート抵抗値は290Ω/□、αρは46であった。
【0091】
(実施例4)
本発明者は、CNT合成炉11から流出したガスのバブラ13への供給時間を8時間としたこと以外は、実施例1と同じように、CNT分散液を製造した。本実施例では、実施例1と比較して、供給時間が長いため、CNT分散液に含まれるCNTが多い。
【0092】
図7の左側の容器内の液体は、バブラ13から回収した直後のCNT分散液である。図7の右側の容器内の液体は、CNT含有ガスが流通される前の状態のNMPである。図7に示すように、バブラ13から回収した直後のCNT分散液は着色しており、CNTが分散している。
【0093】
図8の左側の容器内の液体は、バブラ13から回収したCNT分散液を一昼夜放置した後の液体である。図8の右側の容器内の液体は、CNT含有ガスが流通される前の状態のNMPである。図8より、バブラ13から回収したCNT分散液を一昼夜放置した後では、CNTの凝集体が生じていることが分かった。
【0094】
本発明者は、超音波出力55Wの超音波バスにより超音波を与えて、一昼夜放置後の液体を30分間攪拌した。その結果、図9に示すように、CNTの凝集体がなくなり、再度、CNTが分散することが分かった。図9の左側の容器内の液体は、一昼夜放置した後の液体を攪拌した後の液体である。図9右側の容器内の液体は、CNT含有ガスが流通される前の状態のNMPである。また、図示しないが、本発明者は、超音波バスによる攪拌に替えて、凝集体が生じている液体を瓶に入れた状態でシェイクするだけでも、CNTの凝集体がなくなることを確認した。
【0095】
従来のCNT分散液で凝集体が発生した場合、超音波出力55W程度の超音波バスでの攪拌や瓶に入れた状態でのシェイク等によって、CNTを再分散させることができなかった。これに対して、本実施例のCNT分散液によれば、CNTの凝集体が発生しても、従来のCNT分散液では再分散されない程度の弱い振動を与えることで、CNTを再分散させることができた。
【0096】
流通工程S11で得られたCNT分散液に含まれる分散媒は、CNTを分散させる性質を有する。このため、CNT分散液にCNTの凝集体が生じても、凝集力は弱いと考えられる。これにより、弱い振動でもCNTの再分散が可能であると考えられる。
【0097】
(実施例5)
本発明者は、第2実施形態の濃度調整工程S13を行って、CNT分散液を得た。具体的には、実施例4で得られたCNT分散液であって、凝集体が生じた液体を用意した。用意した液体をNMPで2倍、4倍、8倍に希釈して、CNT濃度が異なる複数の液体を作製した。そして、超音波出力55Wの超音波バスで超音波を20分与えることにより、複数の液体のそれぞれを攪拌した。
【0098】
図10中の「×1」と表示された容器内の液体が希釈前の液体、すなわち、基準液体である。図10中の「×2」、「×4」、「×8」と表示された容器内の液体のそれぞれが、基準液体がNMPで2倍、4倍、8倍に希釈された液体である。図10に示すように、4倍、8倍に希釈された液体では、凝集体は消失していた。4倍、8倍に希釈された液体では、その後、1カ月以上放置しても、凝集体は発生しなかった。このことから、CNT分散液全体に対するCNTの割合が小さいほど、凝集体の発生を抑制できることが分かった。
【0099】
従来のCNT分散液で凝集体が発生した場合、CNT分散液を希釈するだけでは、CNTを分散させることができなかった。具体的には、界面活性剤を含む水を分散媒として用いた従来のCNT分散液が水で希釈されると、界面活性剤の濃度が下がる。このため、CNTの凝集体が発生する。
【0100】
これに対して、実施例4で得られたCNT分散液によれば、CNTの凝集体が発生しても、CNT分散液を分散媒で希釈することで、CNTを再分散させることができる。そして、このように、CNT分散液のCNTの濃度を低くすることで、CNT分散液を長時間放置したときの凝集体の生成を抑制することができる。
【0101】
(実施例6)
本発明者は、実施例1と同様の方法で、CNT分散液を製造した後、透明導電膜を形成した。そして、実施例1と同様に、透明導電膜の光透過率とシート抵抗値とを測定した。その結果、光透過率は97.0%、シート抵抗値は264Ω/□、αρは36であった。さらに、本発明者は、この透明導電膜に対して、大気中で250℃、30分熱処理した。熱処理後の透明導電膜の光透過率とシート抵抗値とを測定した結果、αρは25に向上した。
【0102】
(実施例7)
本発明者は、図1のCNT分散液の製造装置10を用いて、第3実施形態の分散工程S14を行ってCNT分散液を製造した。CNTの合成条件およびCNT含有ガスの流通条件は、実施例1と同じである。
【0103】
具体的には、本発明者は、図11に示されるフィルタ15に捕集されたCNTを、NMP80mLの中に入れた。その液体に対して超音波出力55Wの超音波バスにより超音波を与えて、その液体を60分間攪拌した。その結果、図12に示されるCNT分散液を得ることができた。実施例1と同様に、得られたCNT分散液のCNT濃度を測定した。その結果、CNT濃度は、2.0μg/mLであった。このCNT分散液を1週間静止放置したところ、凝集体が生じなかった。
【0104】
また、実施例1と同様に、得られたCNT分散液を用いて透明導電膜を形成した。そして、透明導電膜の光透過率とシート抵抗値とを測定した。その結果、光透過率は95%、シート抵抗値は970Ω/□、αρは48であった。
【0105】
分散媒の下流側でフィルタ15に捕集されたCNTの表面には、分散媒が付着している。この分散媒は、CNTを分散させる性質を有する。このため、フィルタ15で捕集されたCNTが凝集しても、凝集力は弱いと考えられる。よって、従来よりも弱い振動を与えることで、CNTを分散させることができたと考えられる。
【0106】
(本発明の特徴)
[請求項1]
カーボンナノチューブ分散液であって、
ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する液体の分散媒と、
前記分散媒に分散したカーボンナノチューブと、を備え、
前記カーボンナノチューブの性能指数をαρとしたとき、前記性能指数は、前記カーボンナノチューブ分散液を用いて形成される透明導電膜についての波長550nmにおける光透過率とシート抵抗値のそれぞれの測定値と、下記の式(1)とを用いて算出され、
αρ=-ln(光透過率)×シート抵抗値・・・式(1)
前記性能指数は、前記カーボンナノチューブが未ドープの状態で、60未満である、カーボンナノチューブ分散液。
【0107】
[請求項2]
前記分散媒は、界面活性剤を含まないことで、前記発泡しない性質、または、前記気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【0108】
[請求項3]
カーボンナノチューブ分散液の製造方法であって、
ガスの流通によって発泡しない性質、または、ガスの流通によって発生した気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有する液状の分散媒に対して、分散状態のカーボンナノチューブが含まれるガスを流通させること(S11)を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0109】
[請求項4]
前記流通させることにおいては、前記分散媒として、界面活性剤を含まないことで、前記発泡しない性質、または、前記気泡により分散媒表面に形成される泡沫が成長しない性質を有するものが用いられる、請求項3に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0110】
[請求項5]
前記流通させることにおいては、前記分散状態のカーボンナノチューブが含まれるガスとして、合成炉で合成されたカーボンナノチューブが含まれた状態で、前記合成炉から流出するガスが用いられ、
前記合成炉から流出するガスが、前記合成炉から前記分散媒まで連続して流れる、請求項3または4に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0111】
[請求項6]
前記流通させることにおいては、前記分散媒は冷却される、請求項3ないし5のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0112】
[請求項7]
前記カーボンナノチューブ分散液の製造方法は、
前記流通させることによって得られた液体に対して、前記カーボンナノチューブの凝集体の生成が抑制されるように、前記液体に含まれる前記カーボンナノチューブの濃度を調整すること(S13)を含む、請求項3ないし6のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0113】
[請求項8]
前記流通させることにおいて用いられる前記分散媒は第1分散媒であり、前記流通させることによって前記第1分散媒に前記カーボンナノチューブが分散した第1分散液が製造され、
前記カーボンナノチューブの製造方法は、
前記第1分散媒から流出したガスに含まれる前記カーボンナノチューブを捕集すること(S12)と、
前記捕集することによって得られた前記カーボンナノチューブが液体の第2分散媒に入れられた状態で、前記第2分散媒中の前記カーボンナノチューブに対して振動が加えられることで、前記第2分散媒に前記カーボンナノチューブが分散した第2分散液を製造すること(S14)と、を含む、請求項3ないし7のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【符号の説明】
【0114】
10 CNT分散液の製造装置
11 CNT合成炉
12 原料供給部
13 バブラ
14 チラー
15 フィルタ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12