(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173233
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ワイヤリフトオフ検出装置及びワイヤリフトオフ検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/26 20200101AFI20231130BHJP
【FI】
G01R31/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085347
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】王 啓臣
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
(72)【発明者】
【氏名】丸山 宏二
【テーマコード(参考)】
2G003
【Fターム(参考)】
2G003AA01
2G003AB16
2G003AC01
(57)【要約】
【課題】ワイヤリフトオフの検出精度を向上させること。
【解決手段】第1導体パターンと第2導体パターンとの間で並列に接続された複数の半導体チップと、前記複数の半導体チップの温度を監視する温度監視回路と、を備え、前記複数の半導体チップは、それぞれ、前記第1導体パターンに接合材により接合された第1電極と、前記第2導体パターンにワイヤを介して接続された第2電極と、を有し、前記温度監視回路は、前記ワイヤのリフトオフの発生に伴う温度差が前記複数の半導体チップ間で生じると、所定の信号を出力する、ワイヤリフトオフ検出装置。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導体パターンと第2導体パターンとの間で並列に接続された複数の半導体チップと、
前記複数の半導体チップの温度を監視する温度監視回路と、を備え、
前記複数の半導体チップは、それぞれ、前記第1導体パターンに接合材により接合された第1電極と、前記第2導体パターンにワイヤを介して接続された第2電極と、を有し、
前記温度監視回路は、前記ワイヤのリフトオフの発生に伴う温度差が前記複数の半導体チップ間で生じると、所定の信号を出力する、ワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項2】
前記温度監視回路は、前記複数の半導体チップのうちの一部の半導体チップの温度と前記複数の半導体チップの温度の代表値との差が増大すると、前記所定の信号を出力する、請求項1に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項3】
前記温度監視回路は、前記一部の半導体チップの温度低下を検出すると、前記一部の半導体チップの前記第2電極と前記第2導体パターンとの間の前記ワイヤのリフトオフ発生と判定する、請求項2に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項4】
前記温度監視回路は、前記一部の半導体チップの温度上昇を検出すると、前記複数の半導体チップのうちの他の半導体チップの前記第2電極と前記第2導体パターンとの間の前記ワイヤのリフトオフ発生と判定する、請求項2に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項5】
前記温度監視回路は、前記差が判定閾値を超えると、前記所定の信号を出力する、請求項2から4のいずれか一項に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項6】
前記判定閾値は、0よりも大きく1よりも小さい所定の定数を前記代表値に乗算した値である、請求項5に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項7】
前記代表値は、平均値である、請求項2から4のいずれか一項に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項8】
前記温度監視回路は、ローパスフィルタによって、前記複数の半導体チップの温度の検出値と前記代表値の各々の高周波成分を減衰させる、請求項2から4のいずれか一項に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項9】
前記温度監視回路は、前記温度差が所定の閾値を超えると、前記所定の信号を出力する、請求項1から4のいずれか一項に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項10】
前記温度監視回路は、前記複数の半導体チップのうち第1の半導体チップの温度が上昇し第2の半導体チップの温度が低下することによって前記温度差が前記複数の半導体チップ間で生じると、前記所定の信号を出力する、請求項1から4のいずれか一項に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項11】
前記温度監視回路は、前記複数の半導体チップのそれぞれに設けられた温度センサを用いて、前記複数の半導体チップの温度を監視する、請求項1から4のいずれか一項に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項12】
前記複数の半導体チップを駆動する駆動回路を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のワイヤリフトオフ検出装置。
【請求項13】
第1導体パターンと第2導体パターンとの間で並列に接続された複数の半導体チップのワイヤリフトオフ検出方法であって、
前記複数の半導体チップは、それぞれ、前記第1導体パターンに接合材により接合された第1電極と、前記第2導体パターンにワイヤを介して接続された第2電極と、を有し、
前記複数の半導体チップの温度を監視する温度監視回路は、前記ワイヤのリフトオフの発生に伴う温度差が前記複数の半導体チップ間で生じると、所定の信号を出力する、ワイヤリフトオフ検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤリフトオフ検出装置及びワイヤリフトオフ検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子に一定のコレクタ電流が流れているときのコレクタ-エミッタ間の電圧Vceを測定し、電圧Vceの測定値と初期値との差が判定値を超えた場合、半導体素子の寿命が近いと判定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の電圧Vceの測定値は、半導体チップ下の接合材(例えば、はんだ等)の劣化によって上昇するだけでなく、半導体チップ又は導体パターンとボンディングワイヤとの接合部の劣化によっても上昇する。そのため、電圧Vceの測定値をモニタする上述の方法では、半導体チップ又は導体パターンからのボンディングワイヤのリフトオフを検出できないおそれがある。
【0005】
また、大容量化等のため、複数の半導体チップが並列に接続される場合がある。半導体チップの並列数が多い場合、一つの半導体チップにワイヤリフトオフが発生しても、その他の半導体チップの電流分担率の増加は小さいため、電圧Vceは僅かな上昇となる。そのため、電圧Vceの測定では、ワイヤリフトオフを検出できないおそれがある。
【0006】
本開示は、ワイヤリフトオフの検出精度を向上させたワイヤリフトオフ検出装置及びワイヤリフトオフ検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様では、
第1導体パターンと第2導体パターンとの間で並列に接続された複数の半導体チップと、
前記複数の半導体チップの温度を監視する温度監視回路と、を備え、
前記複数の半導体チップは、それぞれ、前記第1導体パターンに接合材により接合された第1電極と、前記第2導体パターンにワイヤを介して接続された第2電極と、を有し、
前記温度監視回路は、前記ワイヤのリフトオフの発生に伴う温度差が前記複数の半導体チップ間で生じると、所定の信号を出力する、ワイヤリフトオフ検出装置が提供される。
【0008】
本開示の他の一態様では、
第1導体パターンと第2導体パターンとの間で並列に接続された複数の半導体チップのワイヤリフトオフ検出方法であって、
前記複数の半導体チップは、それぞれ、前記第1導体パターンに接合材により接合された第1電極と、前記第2導体パターンにワイヤを介して接続された第2電極と、を有し、
前記複数の半導体チップの温度を監視する温度監視回路は、前記ワイヤのリフトオフの発生に伴う温度差が前記複数の半導体チップ間で生じると、所定の信号を出力する、ワイヤリフトオフ検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ワイヤリフトオフの検出精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ワイヤ接合部の劣化時におけるパワー半導体モジュールの一部分の断面図である。
【
図2】半導体チップ下の接合材の劣化時におけるパワー半導体モジュールの一部分の断面図である。
【
図3】半導体チップの例(IGBTチップとダイオードチップ)を示す図である。
【
図4】パワー半導体モジュールが導通状態にあるときの主端子間の電圧Vce_onと、パワー半導体モジュールの運転時間との関係を例示する図である。
【
図5】本実施形態のワイヤリフトオフ装置の一例を示す構成図である。
【
図6】チップ温度Tjの監視によるワイヤリフトオフの検出方法を説明するためのタイムチャートである。
【
図8】温度センサを使用する温度監視回路を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る実施の形態について説明する。まず、半導体装置の劣化について説明する。
【0012】
近年、電力変換装置は、高信頼化が求められる用途(電力系統、または、電車もしくは自動車等の移動体など)に拡大し、それに伴い、電力変換装置の高信頼化の要求が高まっている。この要求に対して、故障を予知して事前に対策を講ずる予知保全の実現への期待が高まっている。
【0013】
電力変換装置の主な故障要因の一つとしてパワー半導体モジュールが挙げられる。パワー半導体モジュールの主な故障は、電流導通やスイッチング動作によって繰り返し発生する熱応力ストレスがボンディングワイヤ及びはんだを劣化させることで生ずる。ボンディングワイヤ及びはんだの劣化が進むと、パワー半導体モジュールがオン状態(導通状態)にあるときの主端子間の導通抵抗は増加するので、パワー半導体モジュールが導通状態にあるときの主端子間の電圧Vonは上昇する。
【0014】
図1は、ワイヤ接合部の劣化時におけるパワー半導体モジュールの一部分の断面図である。
図2は、半導体チップ下の接合材の劣化時におけるパワー半導体モジュールの一部分の断面図である。
図1及び
図2において、パワー半導体モジュールは、半導体チップ11と、半導体チップ11を外部と接続するためのワイヤ16と、半導体チップ11を不図示の基板と接合するための接合材8とを備える半導体装置である。
【0015】
ワイヤ16は、その一端が半導体チップ11の表面12に接合される導体である。ワイヤ16は、例えば、アルミワイヤ等のボンディングワイヤである。接合材8は、半導体チップ11の裏面13に接触する導体である。接合材8は、典型的には、はんだであるが、接着剤等の他の接合材でもよい。半導体チップ11の繰り返しの導通/遮断動作によって発生する熱ストレスは、ワイヤ16の半導体チップ11との接合部、及び、はんだ等の接合材8を劣化させる。
【0016】
ワイヤ16の劣化が進むと、例えば、亀裂9がワイヤ16の表面12との接合部に発生し、当該接合部の抵抗が増加する。一方、接合材8の劣化が進むと、例えば、亀裂9が接合材8に発生し、接合材8の抵抗が増加する。したがって、ワイヤ16及び接合材8の劣化が進むと、パワー半導体モジュールの導通状態での主端子間の電圧Von(
図3参照。パワー半導体モジュールがIGBTの場合、導通状態でのコレクタ-エミッタ間の電圧Vce_on)は、上昇する(
図4参照)。
【0017】
図4は、パワー半導体モジュールが導通状態にあるときの主端子間の電圧Vce_onと、パワー半導体モジュールの運転時間との関係を例示する図である。劣化の初期段階では、電圧Vce_onは、緩やかに上昇する(
図4に示すΔVce1)。この電圧上昇ΔVce1は、数十mV程度であり、チップ下のはんだ劣化による熱抵抗の増加、ワイヤとチップの接合部の劣化による電気抵抗の増加などに起因すると考えられる。さらに、劣化が進むと、電圧Vce_onは、急峻に上昇する(
図4に示すΔVce2)。この電圧上昇ΔVce2は、数十mVから数百mV程度であり、主に、ワイヤリフトオフに起因すると考えられる。
【0018】
ワイヤリフトが発生した状態でパワー半導体モジュールが動作し続ける場合、パワー半導体モジュールを搭載するパワーエレクトロニクス機器(例えば、電力変換装置など)が故障するおそれがある。そのため、劣化を正確に検出し、CBM(Condition Based Maintenance)を実現する需要が高まっている。
【0019】
上述の電圧Von(Vce_on)の上昇をモニタすることで、パワー半導体モジュールの故障予兆を検出する方法がある。しかしながら、パワー半導体モジュールの導通状態での主端子間の電圧Von(Vce_on)の変動幅は、パワー半導体モジュールに流れる電流の変動によって大きく変化する。そのため、電圧Von(Vce_on)をモニタしても、パワー半導体モジュールの劣化を精度良く検出できない場合が考えられる。
【0020】
また、大容量化等のため、複数の半導体チップが並列に接続される場合がある。並列に接続された複数の半導体チップのうち、一部の半導体チップにワイヤリフトが発生すると、その他の半導体チップに流れる電流が増加する。しかしながら、半導体チップの並列数が多くなると、一つの半導体チップにワイヤリフトオフが発生しても、その他の半導体チップの電流分担率の増加は小さい。そのため、電圧Von(Vce_on)の上昇は数百mV程度に至らず、電圧Von(Vce_on)をモニタしても、ワイヤリフトオフを検出できないおそれがある。
【0021】
本実施形態のワイヤリフトオフ検出装置及びワイヤリフトオフ検出方法は、ワイヤリフトオフの発生を精度良く検出する。以下、本実施形態のワイヤリフトオフ検出装置及びワイヤリフトオフ検出方法について、説明する。
【0022】
図5は、本実施形態のワイヤリフトオフ検出装置の一例を示す構成図である。
図5に示すワイヤリフトオフ検出装置200は、パワー半導体モジュール100のワイヤリフトオフの発生を検出する装置である。ワイヤリフトオフ検出装置200は、パワー半導体モジュール100と温度監視回路40を有する。
【0023】
パワー半導体モジュール100は、半導体装置の一例である。
図5は、パワー半導体モジュール100を平面視で示す。パワー半導体モジュール100は、絶縁基板1、第1の半導体チップ21、第2の半導体チップ31、コレクタ端子C、エミッタ端子E、ゲート端子G、補助エミッタ端子EA、ワイヤ22~27,32~37を備える。
【0024】
絶縁基板1は、半導体チップ21,31が実装される基板であり、例えばDCB(Direct Copper Bonding)基板、AMB(Active Metal Blazing)基板等を採用することができる。絶縁基板1は、例えば、はんだ等の接合材(不図示)を介して、パワー半導体モジュール100の筐体の底面に形成されたベース基板(不図示)上に固定される。
【0025】
絶縁基板1は、その表面に形成された導体パターン2~5を含む。導体パターン2~5は、銅またはアルミニウム等の導電性金属を用いて、絶縁基板1の絶縁層の上面に設けられている。導体パターン2~5は、導体板でも導体箔でもよい。
【0026】
導体パターン2は、半導体チップ21,31の平面視で、半導体チップ21,31の裏面側の領域に配置された矩形状の平面導体である。導体パターン3は、半導体チップ21,31の平面視で、半導体チップ21,31に対して第1方向の領域に配置された矩形状の平面導体であり、導体パターン2から第1方向に離れて位置する。導体パターン4及び導体パターン5は、半導体チップ21,31の平面視で、半導体チップ21,31に対して第2方向(第1方向とは反対方向)の領域に配置された矩形状の平面導体であり、導体パターン2から第2方向に離れて位置する。なお、導体パターン2~5の、大きさ、形状及び配置位置は、図示の形態に限られない。
【0027】
半導体チップ21,31は、パワー半導体モジュール100に組み込まれる半導体素子であり、例えば、表面及び裏面のそれぞれに電極を有する半導体スイッチング素子である。半導体チップ21,31は、Si半導体素子またはSiC半導体素子等の半導体素子である。半導体チップ21,31は、同一の電気的特性を有するように形成されている。
図5は、半導体チップ21,31が絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)チップの場合を例示する。
【0028】
半導体チップ21は、エミッタ電極21e及びゲート電極21gが配置された表面12(
図1及び
図2参照)と、コレクタ電極21cが配置された裏面13(
図1及び
図2参照)とを有する。
図5において、コレクタ電極21cは、半導体チップ21が有する第1電極の一例であり、この例では、裏面13に形成された第1主電極である。エミッタ電極21eは、半導体チップ21が有する第2電極の一例であり、表面12に形成された第2主電極である。ゲート電極21gは、半導体チップ21が有する第3電極の一例であり、表面12に形成された制御電極である。半導体チップ21は、コレクタ電極21cをはんだ等の接合材8により導体パターン2と接合することで、裏面13にて絶縁基板1上に固定される。
【0029】
半導体チップ31は、エミッタ電極31e及びゲート電極31gが配置された表面12(
図1及び
図2参照)と、コレクタ電極31cが配置された裏面13(
図1及び
図2参照)とを有する。
図5において、コレクタ電極31cは、半導体チップ31が有する第1電極の一例であり、この例では、裏面13に形成された第1主電極である。エミッタ電極31eは、半導体チップ31が有する第2電極の一例であり、表面12に形成された第2主電極である。ゲート電極31gは、半導体チップ31が有する第3電極の一例であり、表面12に形成された制御電極である。半導体チップ31は、コレクタ電極31cをはんだ等の接合材8により導体パターン2と接合することで、裏面13にて絶縁基板1上に固定される。
【0030】
図5において、コレクタ端子C、エミッタ端子E、ゲート端子G及び補助エミッタ端子EAは、パワー半導体モジュール100の外部と接続するための外部端子である。これらの各外部端子は、例えば、銅、アルミニウム等の導電性金属を用いて円柱状又は平板状に成形されている。
【0031】
コレクタ端子Cは、導体パターン2に電気的に接続された主端子である。この例では、コレクタ端子Cは、導体パターン2及び接合材8を介して、半導体チップ21,31のコレクタ電極21c,31cに電気的に共通接続されている。
【0032】
エミッタ端子Eは、導体パターン3に電気的に接続された主端子である。この例では、エミッタ端子Eは、導体パターン3及びワイヤ22~25を介して半導体チップ21のエミッタ電極21eに電気的に接続され、且つ、導体パターン3及びワイヤ32~35を介して半導体チップ31のエミッタ電極31eに電気的に接続されている。
【0033】
補助エミッタ端子EAは、導体パターン5に電気的に接続された補助端子である。この例では、補助エミッタ端子EAは、導体パターン5及びワイヤ26を介して半導体チップ21のエミッタ電極21eに電気的に接続され、且つ、導体パターン5及びワイヤ36を介して半導体チップ31のエミッタ電極31eに電気的に接続されている。
【0034】
ゲート端子Gは、導体パターン4に電気的に接続された制御端子である。この例では、ゲート端子Gは、導体パターン4及びワイヤ27を介して半導体チップ21のゲート電極21gに電気的に接続され、且つ、導体パターン4及びワイヤ37を介して半導体チップ31のゲート電極31gに電気的に接続されている。
【0035】
ワイヤ22~27,32~37は、例えば、銅もしくはアルミニウム等の導電性金属、または鉄アルミ合金等の導電性合金を用いて、直径300~500μmで形成された線状部材である。
【0036】
ワイヤ22~25は、半導体チップ21の表面電極であるエミッタ電極21eを導体パターン3に接続する複数(この例では、4本)のボンディングワイヤである。ワイヤ22~25は、各々の一端がエミッタ電極21eに接合され、各々の他端が導体パターン3に接合されている。
【0037】
ワイヤ26は、半導体チップ21の表面電極であるエミッタ電極21eを導体パターン5に接続する一又は複数(この例では、1本)のボンディングワイヤである。ワイヤ26は、一端がエミッタ電極21eに接合され、他端が導体パターン5に接合されている。
【0038】
ワイヤ27は、半導体チップ21の表面電極であるゲート電極21gを導体パターン4に接続する一又は複数(この例では、1本)のボンディングワイヤである。ワイヤ27は、一端がゲート電極21gに接合され、他端が導体パターン4に接合されている。
【0039】
ワイヤ32~35は、半導体チップ31の表面電極であるエミッタ電極31eを導体パターン3に接続する複数(この例では、4本)のボンディングワイヤである。ワイヤ32~35は、各々の一端がエミッタ電極31eに接合され、各々の他端が導体パターン3に接合されている。エミッタ電極31eを導体パターン3に接続するワイヤの本数は、エミッタ電極21eを導体パターン3に接続するワイヤの本数と同数が好ましい。
【0040】
ワイヤ36は、半導体チップ31の表面電極であるエミッタ電極31eを導体パターン5に接続する一又は複数(この例では、1本)のボンディングワイヤである。ワイヤ36は、一端がエミッタ電極31eに接合され、他端が導体パターン5に接合されている。ワイヤ36の本数は、ワイヤ26の本数と同数が好ましい。
【0041】
ワイヤ37は、半導体チップ31の表面電極であるゲート電極31gを導体パターン4に接続する一又は複数(この例では、1本)のボンディングワイヤである。ワイヤ37は、一端がゲート電極31gに接合され、他端が導体パターン4に接合されている。ワイヤ37の本数は、ワイヤ36の本数と同数が好ましい。
【0042】
このように、パワー半導体モジュール100は、導体パターン2と導体パターン3との間で並列に接続された二つの半導体チップ21,31を備える。導体パターン2は、第1導体パターンの一例である。導体パターン3は、第2導体パターンの一例である。
【0043】
温度監視回路40は、第1導体パターンと第2導体パターンとの間で並列に接続された複数の半導体チップの各々の温度を監視する。
図5の場合、温度監視回路40は、導体パターン2と導体パターン3との間で並列に接続された二つの半導体チップ21,31の各々の温度を監視する。温度監視回路40は、並列に接続された複数の半導体チップの各々の温度(チップ温度Tj)をリアルタイムに検出し、チップ温度Tjの変動により、パワー半導体モジュール100のワイヤリフトオフを検出する。
【0044】
図6は、チップ温度Tjの監視によるワイヤリフトオフの検出方法を説明するためのタイムチャートである。
図6は、並列に接続された二つの半導体チップ21,31の場合を例示する。Tj_1は、半導体チップ21のチップ温度、Tj_2は、半導体チップ31のチップ温度を表す。パワー半導体モジュール100の二つの半導体チップ21,31は、電流指令値に対応する電流が流れるように動作する。
【0045】
パワー半導体モジュール100は、並列に接続される各半導体チップ(各並列チップ)の電流分担率が等しくなるように設計される。そのため、正常時(劣化進行前の初期時)では、各並列チップに流れる電流は、ほぼ等しく、各並列チップの温度も、ほぼ同じになる(すなわち、Tj_1≒Tj_2となる)。
【0046】
熱応力などによる劣化が進むと、ワイヤリフトオフが発生する。ワイヤリフトオフは、すべての半導体チップに同時に発生するのではなく、モジュールの構造上などの原因で、劣化のばらつきが生じ、劣化の進み具合が大きい半導体チップに発生する。例えば半導体チップ31にワイヤリフトオフが発生した場合、ワイヤリフトオフが発生した半導体チップ31に流れる電流は急激に減少し、チップ温度Tj_2は低下する。一方、ワイヤリフトオフが発生していない半導体チップ21に流れる電流は急激に増加し、チップ温度Tj_1は上昇する。温度監視回路40は、ワイヤリフトオフの発生に伴うこのような温度変化に着目し、各並列チップのチップ温度Tjを監視することでワイヤリフトオフを検出し、パワー半導体モジュール100の故障を検知する。
【0047】
図6に示す2チップ並列構成の半導体モジュールの動作例の場合、時刻t1までの期間では、電流指令値の変化に伴い、チップ温度Tjも変化するが、並列チップのチップ温度がほぼ同じである(Tj_1≒Tj_2)。例えば、時刻t1で半導体チップ31側のワイヤ35のリフトオフが発生した場合、半導体チップ31側では、通流できるワイヤ数が減少し、流れる電流が減少する一方、半導体チップ21に流れる電流は、増加する。そのため、半導体チップ31のチップ温度Tj_2が低下し、半導体チップ21のチップ温度Tj_1が上昇する。
【0048】
温度監視回路40は、半導体チップ31の温度が上昇し且つ半導体チップ21の温度が低下することによって温度差Δ(=ΔTj_1+ΔTj_2)が複数の半導体チップ21,31間で生じると、ワイヤリフトオフが発生したことを表す所定の信号を出力する。所定の信号の出力とは、信号が外部に出力されることでもよいし、回路の内部値が変化することでもよい。
【0049】
このように、温度監視回路40は、ワイヤリフトオフの発生に伴う温度差Δが複数の半導体チップ間で生じると、所定の信号を出力する。これにより、上述の電圧Von(Vce_on)の測定のみによってワイヤリフトオフを検出する方法に比べて、ワイヤリフトオフの検出精度が向上する。温度差Δの監視によりワイヤリフトオフの発生を検出する方法は、電流指令値が同じ条件に限られず任意の条件で実施可能であるので、ワイヤリフトオフの検出をリアルタイムで実行できる。
【0050】
温度監視回路40は、温度差Δを監視し、温度差Δが所定の閾値Thを超えると、ワイヤリフトオフが発生したことを表す所定の信号を出力してもよい。これにより、ワイヤリフトオフの検出精度が向上する。
【0051】
温度監視回路40は、各並列チップの温度の散らばり度合いを監視することで、温度差Δを監視してもよい。各並列チップの温度の散らばり度合いとは、偏差(平均からの隔たりを表す値)、分散、標準偏差などがある。温度監視回路40は、各並列チップの温度の分散が増大すると(例えば、分散が所定の閾値Thを超えると)、ワイヤリフトオフが発生したことを表す所定の信号を出力してもよい。
【0052】
温度監視回路40は、並列に接続される複数の半導体チップのうちの一部の半導体チップの温度と当該複数の半導体チップの温度の代表値との差ΔTjが増大すると、ワイヤリフトオフが発生したことを表す所定の信号を出力してもよい。これにより、ワイヤリフトオフの検出精度が向上する。並列に接続される複数の半導体チップの温度の代表値とは、それらの温度の中心的傾向を示す値をいう。代表値の具体例として、平均値、最頻値、中央値などが挙げられる。
【0053】
温度上昇量ΔTj_1(=Tj_av-Tj_2)または温度低下量ΔTj_2(=Tj_1-Tj_av)は、差ΔTjの一例である。Tj_av(=(Tj_1+Tj_2)/2)は、並列に接続された複数の半導体チップの平均温度を表す。
【0054】
温度監視回路40は、並列に接続される複数の半導体チップのうちの一部の半導体チップの温度低下を検出すると、当該一部の半導体チップのエミッタ電極と第2導体パターンとの間のワイヤのリフトオフ発生と判定してもよい。例えば、温度監視回路40は、半導体チップ31の温度低下量ΔTj_2が所定の判定閾値のΔTj_thを超えたことを検出すると、半導体チップ31にワイヤリフトオフが発生したと判定する。
【0055】
温度監視回路40は、並列に接続される複数の半導体チップのうちの一部の半導体チップの温度上昇を検出すると、当該複数の半導体チップのうちの他の半導体チップのエミッタ電極と第2導体パターンとの間のワイヤのリフトオフ発生と判定してもよい。例えば、温度監視回路40は、半導体チップ21の温度上昇量ΔTj_1が所定の判定閾値のΔTj_thを超えたことを検出すると、半導体チップ31にワイヤリフトオフが発生したと判定する。
【0056】
図7は、温度監視回路の第1例を示す図である。温度監視回路40Aは、温度監視回路40の一例である。温度監視回路40Aは、並列に接続されたn個の半導体チップのチップ温度(Tj_1, Tj_2, …, Tj_n)を監視するとともに、それらのn個のチップ温度(Tj_1, Tj_2, …, Tj_n)の平均値Tj_avを算出する。温度監視回路40Aは、n個の判定部41
1,41
2,・・・,41
nと、論理和ゲート42と、ラッチ回路43と、を有する。
【0057】
温度監視回路40は、チップ温度の平均値Tj_avとチップ温度(Tj_1, Tj_2, …, Tj_n)との差である温度変化量ΔTj(ΔTj_1,ΔTj_2,…,ΔTj_n)を算出する。判定部41は、温度変化量ΔTj(ΔTj_1,ΔTj_2,…,ΔTj_n)を判定閾値ΔTj_th(一例として、チップ温度平均値Tj_av×10%)と比較する。判定閾値ΔTj_thは、0よりも大きく1よりも小さい所定の定数を代表値に乗算した値の一例であるが、一定値でもよい(例えば、ΔTj_th=10℃)。温度監視回路40は、ΔTj_1,ΔTj_2,…,ΔTj_nのいずれかが判定閾値ΔTj_thより高いことが検出された場合、ワイヤリフトオフの発生を表す所定の信号をラッチ回路43から出力する。
【0058】
図8は、温度センサを使用する温度監視回路を例示する図である。温度監視回路40は、並列に接続された複数の半導体チップのそれぞれに設けられた温度センサを用いて、それらの複数の半導体チップの温度を監視してもよい。
図8は、温度センサとして、アノード端子A1とカソード端子K1との間に接続されたダイオードD1と、アノード端子A2とカソード端子K2との間に接続されたダイオードD2を例示する。温度監視回路40は、複数の温度演算回路44
1,44
2を有する。温度演算回路44
1は、半導体チップ21の温度を検出するダイオードD1からの信号に基づいて半導体チップ21の温度を演算する。温度演算回路44
2は、半導体チップ31の温度を検出するダイオードD2からの信号に基づいて半導体チップ31の温度を演算する。
【0059】
ワイヤリフトオフ検出装置は、複数の半導体チップを駆動する駆動回路50を備えてもよい。駆動回路50は、例えば、リフトオフしたワイヤの本数が所定値を超えることが検出された場合、半導体チップ21,31の動作を停止させてもよい。
【0060】
図9は、温度監視回路の第2例を示す図である。温度監視回路40Bは、温度監視回路40の一例である。温度監視回路40Bは、ローパスフィルタ45
1,45
2,・・・,45
nによって、複数の半導体チップの温度の各検出値の高周波成分を減衰させ、ローパスフィルタ46によって、複数の半導体チップの温度の代表値(この例では、平均値)の高周波成分を減衰させる。これにより、高周波成分のノイズが減衰し、ワイヤリフトオフの検出精度が向上する。
【0061】
以上、実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が可能である。
【0062】
例えば、並列に接続される半導体チップは、IGBT等のパワートランジスタに限られず、ダイオード、サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ、トライアックなどでもよい。
【0063】
半導体チップは、縦型のパワー金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(パワーMOSFET)でもよい。上述の実施形態において、半導体チップがMOSFETチップの場合、コレクタはドレインに、エミッタはソースに、置換される。
【0064】
また、温度監視回路は、ヒートシンクの温度から半導体チップの温度を間接的に推定してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 絶縁基板
2~5 導体パターン
8 接合材
9 亀裂
11 半導体チップ
12 表面
13 裏面
21,31 半導体チップ
21c,31c コレクタ電極
21e,31e エミッタ電極
21g,31g ゲート電極
22~27,32~37 ワイヤ
40,40A,40B 温度監視回路
50 駆動回路
100 パワー半導体モジュール
200 ワイヤリフトオフ検出装置
C コレクタ端子
E エミッタ端子
EA 補助エミッタ端子
G ゲート端子