(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173258
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】表皮材止着具
(51)【国際特許分類】
A47C 31/02 20060101AFI20231130BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
A47C31/02 A
B68G7/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085388
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 泰成
(72)【発明者】
【氏名】足立 武文
(57)【要約】
【課題】クッション材への損傷を抑制できる表皮材止着具を提供する。
【解決手段】表皮材止着具1は、一対の溝壁面41,42を有する溝4Aが形成されたクッション材4に対して表皮材5を止着するものであって、溝4Aに挿入される挿入部20と、挿入部20に接続され、かつ、表皮材5が装着される被着片部30と、を備え、挿入部20は、溝4Aの延伸方向に沿って配置される仮想軸L周りに延伸し、かつ、仮想軸L周りの一部に切り欠き21Sが形成された切欠環状部21と、切欠環状部21の外周面210から突出し、かつ、溝壁面41に係合する爪部22と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の溝壁面(41,42)を有する溝(4A)が形成されたクッション材(4)に対して表皮材(5)を止着する表皮材止着具(1)であって、
前記溝(4A)に挿入される挿入部(20)と、
前記挿入部(20)に接続され、かつ、前記表皮材(5)が装着される被着片部(30)と、を備え、
前記挿入部(20)は、
前記溝(4A)の延伸方向に沿って配置される仮想軸(L)周りに延伸し、かつ、前記仮想軸(L)周りの一部に切り欠き(21S)が形成された切欠環状部(21)と、
前記切欠環状部(21)の外周面(210)から突出し、かつ、前記溝壁面(41)に係合する爪部(22)と、を有する、表皮材止着具。
【請求項2】
前記挿入部(20)は、前記仮想軸(L)周りに回動することで、前記爪部(22)が前記溝壁面(41)に係合する係合姿勢と、前記切欠環状部(21)の前記外周面(210)が前記溝壁面(41)に接触する非係合姿勢とを切り替え可能である、請求項1に記載の表皮材止着具。
【請求項3】
前記切欠環状部(21)は、
前記被着片部(30)が接続される基端部(211)と、
前記基端部(211)から前記仮想軸(L)周りに湾曲しながら延伸する本体部(212)と
前記本体部(212)の延伸先端であって前記基端部(211)との間に前記切り欠き(21S)を挟む先端部(213)と、を有し、
前記切欠環状部(21)の前記外周面(210)は、前記切り欠き(21S)と前記爪部(22)との間において円弧形状を成すガイド領域(214)を含む、請求項1または請求項2に記載の表皮材止着具。
【請求項4】
前記切欠環状部(21)の前記外周面(210)は、前記仮想軸(L)に対する前記ガイド領域(214)側とは反対側において円弧形状を成す補助ガイド領域(215)を含む、請求項3に記載の表皮材止着具。
【請求項5】
前記爪部(22)は、前記切欠環状部(21)の前記外周面(210)のうち、前記切欠環状部(21)の延伸方向における前記基端部(211)よりも前記先端部(213)に近い位置に設けられている、請求項3に記載の表皮材止着具。
【請求項6】
前記被着片部(30)は、
前記挿入部(20)から延伸する第1延伸部(31)と、
前記第1延伸部(31)の延伸方向とは交差する方向に延伸し、前記表皮材(5)が装着される第2延伸部(32)と、を有し、
前記爪部(22)の突出方向と、前記第2延伸部(32)の延伸方向とは、互いに反対向きである、請求項3に記載の表皮材止着具。
【請求項7】
前記被着片部(30)は、前記第1延伸部(31)と前記第2延伸部(32)との間を連結しかつR形状の角を形成する湾曲部(33)をさらに有する、請求項6に記載の表皮材止着具。
【請求項8】
前記爪部(22)は、
前記溝(4A)の開口側に面する第1爪形成面(221)と、
前記第1爪形成面(221)との間に鋭角の角部(223)を形成する第2爪形成面(222)と、を有し、
前記第1爪形成面(221)は、前記第2爪形成面(222)よりも、前記切欠環状部(21)の径方向に対する傾きが小さい、請求項6に記載の表皮材止着具。
【請求項9】
前記切欠環状部(21)の前記外周面(210)と前記第1延伸部(31)との間には、鈍角の凹部(34)が形成される、請求項6に記載の表皮材止着具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション材に表皮材を止着するための表皮材止着具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、座席や椅子などでは、座面や背当てなど人体に触れる部分にクッション材や柔軟なパッドを設置し、その表面を表皮材で被覆したものが多用されており、このような表皮材の固定手段としての表皮材止着具が知られている。例えば、特許文献1に開示の表皮材止着具(フック)は、表皮材に装着される延出部と、複数の爪を有する矢じり形状の引掛部と、を備えている。表皮材をクッション材に止着するとき、引掛部をクッション材の溝内に挿入し、引掛部の各爪を当該溝の各壁面に食い込ませることで、表皮材止着具が溝に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される表皮材止着具では、引掛部を溝に挿入する際、引掛部の各爪が溝幅を広げるように溝壁面を押圧するため、溝壁面に損傷が生じ易い。特に、表皮材の取り付けを繰り返し行う場合、溝壁面に対する損傷が大きくなる。これにより、クッション材に対する表皮材止着具の取付強度が低下する恐れがある。
【0005】
本発明は、クッション材への損傷を抑制できる表皮材止着具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る表皮材止着具は、一対の溝壁面を有する溝が形成されたクッション材に対して表皮材を止着する表皮材止着具であって、前記溝に挿入される挿入部と、前記挿入部に接続され、かつ、前記表皮材が装着される被着片部と、を備え、前記挿入部は、前記溝の延伸方向に沿って配置される仮想軸周りに延伸し、かつ、前記仮想軸周りの一部に切り欠きが形成された切欠環状部と、前記切欠環状部の外周面から突出し、かつ、前記溝壁面に係合する爪部と、を有する。
【0007】
このような構成では、挿入部をクッション材の溝内に挿入するとき、爪部ではなく、切欠環状部の外周面を溝壁面に接触させることができ、溝壁面の損傷を抑制できる。その後、挿入部を仮想軸周りに回動させることで、爪部を溝壁面に係合できる。また、切欠環状部は、切り欠きの存在により弾性変形し易いため、クッション材の溝壁面に対する押圧を抑制できる。よって、クッション材への損傷を抑制しつつ、表皮材をクッション材に止着することができる。
【0008】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記挿入部は、前記仮想軸周りに回動することで、前記爪部が前記溝壁面に係合する係合姿勢と、前記切欠環状部の前記外周面が前記溝壁面に接触する非係合姿勢とを切り替え可能であることが好ましい。
これにより、表皮材をクッション材に止着する時だけでなく、表皮材をクッション材から取り外す時において、クッション材への損傷を抑制できる。
【0009】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記切欠環状部は、前記被着片部が接続される基端部と、前記基端部から前記仮想軸周りに湾曲しながら延伸する本体部と、前記本体部の延伸先端であって前記基端部との間に前記切り欠きを挟む先端部と、を有し、前記切欠環状部の前記外周面は、前記切り欠きと前記爪部との間において円弧形状を成すガイド領域を含むことが好ましい。
このような構成では、挿入部を仮想軸周りに回動させる際、爪部を溝の底側から溝壁面に係合できる。これにより、挿入部に溝から抜け出す方向の外力が加わった場合、爪部が溝壁面に好適に干渉できる。
【0010】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記切欠環状部の前記外周面は、前記仮想軸に対する前記ガイド領域側とは反対側において円弧形状を成す補助ガイド領域を含むことが好ましい。
このような構成では、挿入部をクッション材の溝内に挿入するとき、係合部が係合する溝壁面だけでなく、当該溝壁面に対向する溝壁面の損傷を好適に抑制できる。
【0011】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記爪部は、前記切欠環状部の前記外周面のうち、前記切欠環状部の延伸方向における前記基端部よりも前記先端部に近い位置に設けられていることが好ましい。
このような構成では、表皮材に張力が加わった際、切欠環状部を介して爪部に伝達される外力を抑制でき、爪部が溝壁面を破壊するような損傷を抑制できる。
【0012】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記被着片部は、前記挿入部から延伸する第1延伸部と、前記第1延伸部の延伸方向とは交差する方向に延伸し、前記表皮材が装着される第2延伸部と、を有し、前記爪部の突出方向と、前記第2延伸部の延伸方向とは、互いに反対向きであることが好ましい。
このような構成では、表皮材に張力が加わった場合、挿入部に伝わる外力は、爪部が溝の開口側に向かうような回動方向成分を含む。これにより、爪部と溝壁面とを好適に干渉させることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記被着片部は、前記第1延伸部と前記第2延伸部との間を連結しかつR形状の角を形成する湾曲部をさらに有することが好ましい。
このような構成では、クッション材への表皮材止着具の取り付け時または取り外し時、被着片部の湾曲部がクッション材に接触した場合において、クッション材に傷をつけ難くできる。
【0014】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記爪部は、前記溝の開口側に面する第1爪形成面と、前記第1爪形成面との間に鋭角の角部を形成する第2爪形成面と、を有し、前記第1爪形成面は、前記第2爪形成面よりも、前記切欠環状部の径方向に対する傾きが小さいことが好ましい。
このような構成では、表皮材に張力が加わった際、爪部と溝壁面とをより好適に干渉させることができる。
【0015】
本発明の一態様に係る表皮材止着具において、前記切欠環状部の前記外周面と前記第1延伸部との間には、鈍角の凹部が形成されることが好ましい。
このような構成では、第1延伸部が溝の開口縁に干渉することを抑制でき、表皮材止着具を溝に安定的に取り付け可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クッション材への損傷を抑制できる表皮材止着具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る表皮材止着具を示す側面図。
【
図2】前記実施形態の表皮材止着具において挿入部が係止姿勢である様子を示す断面図。
【
図3】前記実施形態の表皮材止着具において挿入部が非係止姿勢である様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~
図3に示される本実施形態の表皮材止着具1は、座席などを構成するクッション材4に対して表皮材5を止着するものである。この表皮材止着具1は、
図2に示すように、表皮材5の一端部に装着され、かつ、クッション材4の溝4Aに挿入されることにより、表皮材5をクッション材4に止着することができる。
【0019】
以下の説明では、クッション材4の溝4Aの長さ方向をX方向とし、溝4Aの幅方向をY方向とし、溝4Aの深さ方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、それぞれ互いに直交している。
【0020】
クッション材4は、座席などの形状に成形されたフォーム材であり、クッション材4の任意の位置(例えば座面の裏側)には、表皮材止着具1を取り付けるための溝4Aが形成されている。溝4Aは、クッション材4の任意の方向(X方向)に沿って延びており、幅方向(Y方向)に対向する一対の溝壁面41,42を有する。なお、本実施形態では、溝壁面41,42のそれぞれが溝4Aの深さ方向(Z方向)に対して若干傾斜しており、溝4Aの開口が広がっている。
【0021】
クッション材4は、二種以上のフォーム材によって構成されてもよい。例えば、本実施形態のクッション材4では、発泡ビーズの表面に対して発泡ポリウレタンが一体成形されており、発泡ポリウレタンから露出した発泡ビーズ部分に対して溝4Aが形成されている。すなわち、本実施形態において、溝4Aが形成されるクッション材4の部分は、発泡ビーズとして、ある程度の強度を有する。
【0022】
表皮材5は、クッション材4の表面を覆うシートであればよく、例えば合成樹脂織物シートである。表皮材5は、表皮材止着具1に対して縫製等によって装着される。
【0023】
(表皮材止着具1の構成)
表皮材止着具1の構成について説明する。
表皮材止着具1は、弾性を有する合成樹脂製である。この表皮材止着具1は、
図1,
図2に示すように、クッション材4の溝4Aに挿入される挿入部20と、挿入部20に接続され、かつ、表皮材5の一端部が装着される被着片部30と、を備える。
【0024】
挿入部20は、任意の仮想軸L周りに延伸し、かつ、仮想軸L周りの一部に切り欠き21Sが形成された切欠環状部21と、切欠環状部21の外周面210から突出する爪部22と、を備える。
なお、挿入部20が溝4A内に配置された際、仮想軸Lは溝4Aの延伸方向(X方向)に沿って配置され、切り欠き21Sの幅W方向は、溝4Aの幅方向(Y方向)に沿って配置されるものとする。また、切欠環状部21および爪部22は、それぞれ、仮想軸Lに沿った方向に任意の長さだけ連続した形状を有する。
【0025】
切欠環状部21は、
図1に示すように、被着片部30が接続される基端部211と、基端部211から仮想軸L周りに湾曲しながら延伸する本体部212と、本体部212の延伸先端であって、基端部211との間に切り欠き21Sを挟む先端部213と、を有する。切り欠き21Sは、切欠環状部21が成す環形状の一部を仮想軸Lに沿って切り欠いている。
【0026】
なお、図示を省略するが、切欠環状部21が成す環形状の外径は、切欠環状部21が配置される位置における溝4Aの幅寸法よりも大きいことが好ましい。切欠環状部21の内径は、特に限定されないが、切欠環状部21が溝4Aの幅方向に弾性変形可能であるように設計されることが好ましい。また、切り欠き21Sの幅Wは、切欠環状部21の内径よりも小さいことが好ましい。
【0027】
切欠環状部21は、環形状の外側に面する外周面210を有する。この外周面210は、ガイド領域214、補助ガイド領域215、および、支持領域216を含んでおり、全体として仮想軸Lを中心とする円弧形状を描いている。
ここで、ガイド領域214は、切り欠き21Sと爪部22との間の外周面210の領域であり、補助ガイド領域215は、仮想軸Lに対してガイド領域214側とは反対側となる外周面210の領域である。支持領域216は、仮想軸Lに対して爪部22とは反対側となる外周面210の領域である。
なお、
図1には、ガイド領域214、補助ガイド領域215、および、支持領域216の各範囲を示すための境界線を鎖線で示している。後述するように、挿入部20が溝4A内で非係止位置に配置された際、ガイド領域214および補助ガイド領域215は、共に、溝壁面41,42に接触可能であり(
図3参照)、挿入部20が溝4A内で係止位置に配置された際、支持領域216は、溝壁面42に接触可能である(
図2参照)。
【0028】
爪部22は、切欠環状部21の外周面210のうち、切欠環状部21の延伸方向(すなわち外周面210の周方向)における基端部211よりも先端部213に近い位置に設けられている。換言すると、爪部22は、切欠環状部21の外周面210のうち、切り欠き21Sの幅W方向(溝4A内でY方向に一致可能な方向)において、切り欠き21Sよりも先端部213側となる領域に設けられている。このように配置された爪部22は、後述するように、挿入部20が溝4A内で係止位置に配置された際、溝壁面41に係合可能である(
図2参照)。
【0029】
爪部22は、切欠環状部21の延伸方向において先端部213側に面する第1爪形成面221と、第1爪形成面221との間に鋭角の角部223を形成する第2爪形成面222と、を有する。第1爪形成面221は、第2爪形成面222よりも、切欠環状部21の径方向に対する傾きが小さいことが好ましい。例えば、本実施形態の第1爪形成面221は、切欠環状部21の径方向に沿って配置される。
また、爪部22の角部223と切欠環状部21のガイド領域214とが接する仮想線Vは、被着片部30の後述の湾曲部33に接するか、または、被着片部30から離れた位置を通る(すなわち被着片部30には交わらない)ことが好ましい。
【0030】
被着片部30は、切欠環状部21の基端部211から延伸する第1延伸部31と、表皮材5が装着される第2延伸部32と、第1延伸部31と第2延伸部32との間を連結する湾曲部33と、を有する。
【0031】
第1延伸部31は、切欠環状部21の基端部211から延伸している。ここで、第1延伸部31の延伸方向は、仮想軸Lおよび切り欠き21Sの幅W方向のそれぞれに交差する方向(溝4A内でZ方向に一致可能な方向)である。また、第1延伸部31は、切欠環状部21の外周面210との間に鈍角の凹部34を形成するように延伸している。
第2延伸部32は、湾曲部33を介して第1延伸部31の延伸先端に接続される。ここで、第2延伸部32の延伸方向は、切り欠き21Sの幅W方向に沿った方向(溝4A内でY方向に一致可能な方向)であり、第1延伸部31の延伸方向と、第2延伸部32の延伸方向とは、互いに直交する。また、第2延伸部32の延伸方向と、爪部22の突出方向とは、切り欠き21Sの幅W方向における互いに反対向きである。
湾曲部33は、第1延伸部31と第2延伸部32との間でR字状の角を形成するように湾曲している。
【0032】
以上に説明した表皮材止着具1は、後述するように、挿入部20が溝4A内で仮想軸L周りに回動することで、爪部22が溝4Aの溝壁面41に係合する係合姿勢(
図2参照)と、切欠環状部21の外周面210が溝壁面41に接触する非係合姿勢(
図3参照)とを切り替え可能である。
ここで、係合姿勢とは、爪部22が溝4Aの溝壁面41に差し込まれる等して、溝4Aに対する挿入部20の挿抜方向(本実施形態でのZ方向)において、爪部22が溝4Aの溝壁面41に係合する状態である。一方、非係合姿勢とは、少なくとも、溝4Aの溝壁面41に対する爪部22の係合量が係合姿勢時よりも小さければよく、爪部22は溝壁面41に接触してもよい。
【0033】
(表皮材止着具1の取り付け方法)
クッション材4に対する表皮材止着具1の取り付け方法について説明する。
まず、作業者は、表皮材5が装着された表皮材止着具1と、溝4Aが形成されたクッション材4とを準備する。そして、作業者は、表皮材止着具1の第2延伸部32を保持する等して、挿入部20が溝4A内で非係合姿勢になるように表皮材止着具1の姿勢を調整し(
図3参照)、表皮材止着具1の姿勢を保ったまま挿入部20を溝4Aに押し込む。
挿入部20が溝4Aに挿入される間、切欠環状部21のガイド領域214が溝壁面41に対して摺動し、切欠環状部21の補助ガイド領域215が溝壁面42に対して摺動する。また、爪部22は、溝壁面41に対してZ方向に係合しない状態である。
また、挿入部20が溝4Aに挿入される間、切欠環状部21は、溝壁面41,42から押圧を受けることで、切り欠き21Sの幅Wが小さくなるように弾性変形する。
【0034】
挿入部20が溝4Aの所定深さに到達した後(例えば
図3に示すように湾曲部33が溝4Aの縁に接触した後)、作業者は、挿入部20を仮想軸L周りに所定方向に回動させることで(
図3の矢印A参照)、挿入部20を非係合姿勢から係合姿勢に切り替える。
挿入部20の回動時、爪部22は、溝4Aの底側から溝壁面41に差し込まれる。また、溝壁面42に接触する切欠環状部21の外周面210の領域は、補助ガイド領域215から支持領域216に遷移する。
【0035】
図2に示すように、挿入部20が係合姿勢に配置されると、爪部22が溝壁面41に係合する。また、支持領域216は、切欠環状部21の弾性力により、溝壁面42に押し当る。これにより、挿入部20は、溝4A内に固定された状態になる。なお、爪部22は、溝4Aの開口側に向かうように溝4Aの幅方向に対して傾斜して配置されることが好ましい。また、被着片部30の第2延伸部32は、クッション材4の溝形成面43に沿って配置されることが好ましい。
以上により、表皮材止着具1は、表皮材5をクッション材4に止着することができる。
【0036】
(表皮材止着具1の取り外し方法)
次に、クッション材4から表皮材止着具1を取り外す方法について説明する。
まず、作業者は、表皮材止着具1の第2延伸部32を保持する等して、溝4A内の挿入部20を仮想軸L周りに所定方向とは反対方向に回動させることで(
図2の矢印B参照)、挿入部20を係合姿勢から非係合姿勢に切り替える。
挿入部20の回動時、爪部22が溝4Aの底側に向かって溝壁面41から抜け出すと共に、切欠環状部21のガイド領域214が溝壁面41に接触する。また、溝壁面42に接触する切欠環状部21の外周面210の領域は、支持領域216から補助ガイド領域215に遷移する。これにより、
図3に示すように、挿入部20が非係合姿勢に配置される。
【0037】
次いで、作業者は、挿入部20を非係合姿勢に保ったまま溝4Aから抜き出す。このとき、切欠環状部21のガイド領域214が溝壁面41に対して摺動し、切欠環状部21の補助ガイド領域215が溝壁面42に対して摺動する。また、爪部22は、溝壁面41に対して非係合状態である。
その後、挿入部20が溝4Aから抜け出ることにより、表皮材止着具1がクッション材4から取り外される。これにより、表皮材5がクッション材4から取り外される。
【0038】
(本実施形態の効果)
上述したように、本実施形態では、挿入部20をクッション材4の溝4A内に挿入するとき、爪部22ではなく、切欠環状部21の外周面210を溝壁面41に接触させることができ、溝壁面41の損傷を抑制できる。その後、挿入部20を仮想軸L周りに所定方向に回動させることで、爪部22を溝壁面41に係合できる。また、切欠環状部21は、切り欠き21Sの存在により弾性変形し易いため、クッション材4の溝壁面41,42に対する押圧を抑制できる。よって、表皮材止着具1は、クッション材4への損傷を抑制しつつ、表皮材5をクッション材4に止着することができる。
また、切欠環状部21が弾性変形することにより、表皮材止着具1は、様々な幅の溝4Aに対して取り付け可能である。
さらに、挿入部20の回動時、爪部22を溝壁面41に差し込むことで、作業者は、係合が完了したことをクリック感として感じることができる。
【0039】
本実施形態において、挿入部20は、仮想軸L周りに回動することで、爪部22が溝壁面41に係合する係合姿勢と、切欠環状部21の外周面210が溝壁面41に接触する非係合姿勢とを切り替え可能である。これにより、表皮材5の取り付け時だけでなく、表皮材5の取り外し時において、クッション材4への損傷を抑制できる。
【0040】
本実施形態において、切欠環状部21は、被着片部30が接続される基端部211と、基端部211から仮想軸L周りに湾曲しながら延伸する本体部212と、本体部212の延伸先端であって基端部211との間に切り欠き21Sを挟む先端部213と、を有し、切欠環状部21の外周面210は、切り欠き21Sと爪部22との間において円弧形状を成すガイド領域214を含む。
このような構成では、挿入部20を仮想軸L周りに所定方向に回動させる際、爪部22を溝4Aの底側から溝壁面41に係合できる。これにより、挿入部20に溝4Aから抜け出す方向の外力が加わった場合、爪部22が溝壁面41に好適に干渉できる。
【0041】
本実施形態において、切欠環状部21の外周面210は、仮想軸Lに対するガイド領域214側とは反対側において円弧形状を成す補助ガイド領域215を含む。このような構成では、挿入部20をクッション材4の溝4A内に挿入するとき、溝壁面41だけでなく、溝壁面42の損傷を好適に抑制できる。
【0042】
ここで、表皮材5をクッション材4に止着した後、使用者の荷重が加わること等により、表皮材5に張力が加わる場合がある(
図2の矢印C参照)。この場合、挿入部20には、被着片部30を介して、挿入部20を溝4Aから引き抜く方向の外力が加わる。
本実施形態では、被着片部30を介して挿入部20に加わる外力は、切欠環状部21の基端部211に近い部分を弾性変形させるため、切欠環状部21の基端部211から先端部213にまで伝達され難い。爪部22は、切欠環状部21において基端部211よりも先端部213に近い位置に設けられるため、爪部22に伝達される外力は抑制される。これにより、爪部22が溝壁面41を破壊するような事態は抑制される。
【0043】
また、本実施形態では、爪部22の突出方向と被着片部30の第2延伸部32の延伸方向とが互いに反対向きであるため、挿入部20に伝わる外力は、爪部22が溝4Aの開口側に向かうように挿入部20を回動させる方向成分(
図2の矢印D参照)も含む。ここで、爪部22のうち、溝4Aの開口側に面する第1爪形成面221は、第2爪形成面222よりも、切欠環状部21の径方向に対する傾きが小さいため(
図1参照)、このような外力の方向において溝壁面41に好適に干渉できる。これにより、挿入部20を溝4A内に留めることができる。
【0044】
また、本実施形態において、表皮材止着具1の取り付け時または取り外し時、被着片部30の湾曲部33がクッション材4に接触することがあるが、この湾曲部33は、R形状の角を形成しているため、クッション材4を傷つけ難い。
【0045】
(変形例)
前記実施形態において、表皮材止着具1が取り付けられるクッション材4の溝4Aは、開口が広がった形状を有するが、溝4Aの形状は特に限定されない。
例えば、開口が狭い形状の溝4Aに対して表皮材止着具1が取り付けられてもよい。表皮材止着具1は、挿入部20と被着片部30の第1延伸部31との間に凹部34を有するため、第1延伸部31が溝4Aの開口縁に干渉することを抑制できる。これにより、表皮材止着具1を溝4Aに安定的に取り付け可能である。
また、溝4Aの溝壁面41が凹部などを有してもよい。この場合、表皮材止着具1の爪部22は、溝壁面41に差し込まれるのではなく、溝壁面41の凹部に係合してもよい。
【0046】
前記実施形態において、被着片部30の形状は変更されてもよい。例えば、被着片部30は、第1延伸部31および第2延伸部32を有することに限定されず、第1延伸部31のみを有してもよい。この場合、第1延伸部31に表皮材5が装着されてもよい。
【0047】
前記実施形態において、爪部22の形状は変更されてもよい。例えば、爪部22は、仮想軸Lに沿った方向に連続した形状を有さず、断続的な形状を有してもよい。また、切欠環状部21の外周面210における爪部22の設置位置や突出向きは、表皮材5から加わる外力の向きや挿入部20の係止姿勢などに合わせて変更されてもよい。さらに、切欠環状部21に対して爪部22だけでなく、他の爪部が設けられてもよい。この場合、他の爪部は、切欠環状部21の支持領域216に設けることができる。
【0048】
前記実施形態において、切欠環状部21の形状は変更されてもよい。例えば、切欠環状部21は、全体として仮想軸Lを中心とする円弧形状を描くことに限定されず、楕円形状や多角形状など、全体または部分的に他の形状を描いてもよい。また、切欠環状部21は、仮想軸Lに沿った方向に連続した形状を有さず、爪部22と共に断続的な形状を有してもよい。
【0049】
また、前記実施形態において、被着片部30は、切欠環状部21の基端部211に接続されるが、切欠環状部21の他の部位に接続されてもよい。例えば、被着片部30が切欠環状部21の本体部212に接続される場合、挿入部20は、切り欠き21Sが溝4Aの底側に面するように溝4A内に配置されてもよい。この場合、ガイド領域214は、切欠環状部21の外周面210のうちの爪部22と被着片部30との間の領域であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…表皮材止着具、20…挿入部、21…切欠環状部、210…外周面、211…基端部、212…本体部、213…先端部、214…ガイド領域、215…補助ガイド領域、216…支持領域、21S…切り欠き、22…爪部、221…第1爪形成面、222…第2爪形成面、223…角部、30…被着片部、31…第1延伸部、32…第2延伸部、33…湾曲部、34…凹部、4…クッション材、41…溝壁面、42…溝壁面、43…溝形成面、4A…溝、5…表皮材、L…仮想軸。